最終更新:ID:eYA0whBsyA 2020年11月06日(金) 03:59:39履歴
前回のあらすじ
聖杯戦争に巻き込まれアーチャーキスキル&リラを召喚した少年、姫咲薫。
キャスターとの戦闘で窮地に立たされるも、和服のアサシンの助太刀で九死に一生を得る。
そのままアサシンの提案で、キャスターの本丸を追撃する一行。
キスキルが新たに習得した宝具、『崇高なる人の力は、雷をも手に入れた 』で外側から工房を攻め。
"放出"を封じるアサシン、ツクヨミの宝具、『夜之食国 』によって魔術の類を封じる。
相手がたとえいくら優秀なキャスターと魔術師だとしても、これで完封できるはず、だったのだが。
キャスター、バルベロの宝具は。マスターをサーヴァントの域にまで"成れ果て"させる、特殊な宝具だった。
魔術を完封した程度で、この『私のための神話 』が斃れるとは思うなと。
小さなキャスターは妖しく笑った。
Fate/Split Sisters
**
お互いに動かない。
力関係は不明瞭だ。どうする。マスターらしく、指示を出すべきなのか。いや、自分なんかが。しかしやるしかない。サーヴァントにいつまでも頼りっぱなしでは。
「…アサシン。あのマスターの相手をお願いしてもいいかな。」
作戦はできた。とりあえず、今の戦力でできる範囲。キスキルとリラにはすでに伝えた。
アサシンからの返答は、ただ一言。
「来るぞ。」
あちらから仕掛けてきた。
バルベロとしては当然の行動。考える暇などこちらにはいらない。選択肢は、一人ずつ潰すだけ。
極彩色の光剣を手にし、愛しのアイオーンが突撃する。狙いも不要。向こうから立ち向かってくるに決まっている。
光が動きを止める。相対するのはアサシンか。問題ない。こいつの宝具ほど厄介なものはない。
「ええ。そして当然、こちらに来ますよね。」
二人のアーチャーがこちらへ向かってくる。バルベロ本体は脆弱無比。アーチャー1人すら相手にはできない。
"でも、そんなの最初から分かっている。"
「恨みはまあそれなりにあるし!」「何よりこの場を切り抜けなきゃだし。」
「砕けろ!」「捻じれろ。」
二つの呪詛が飛ぶ。
その言霊が届いてしまえば、あっけなくバルベロは弾ける。だけど。
分かっているのに対処しないなんて、ありえない。
「言葉の扱いで私に勝とうなんて、甘いですよ。」その言葉を最後に、バルベロは八つ裂きになった。
…否。八つ裂きにするよう命じた。この場で最速かつ最強の力を持つ存在、アイオーンに。
アサシンですら容易には躱せない斬撃。それを地面に向けて振るい、大地の刃を飛ばした。
「こちらから目を離すとは、舐められたものだなーーーー!」
アサシンもその隙は許さない。バルベロの加護ごと、アイオーンの皮膚を斬る。十字に跡をつける。しかし。
塞がっていく。アイオーンとなったマスターはサーヴァントの特性を得ているに等しい。もはやその程度の傷では動じない。
そして、バルベロ。言霊が届くより先にバラバラになってしまえば、砕けることも捻じれることもかなわない。
八つ裂きにされたバルベロの肉片が蠢き出す。その姿は聖母からは程遠い醜い存在になってしまったが。心は未だ、聖母足りえる。
すなわちそれは永遠不滅。完全に消えさらない限り、バルベロはその身体を再編できる。
肉が集まる。まるで、救世主の復活のように。集い再び形を成す。まるで、原初の人が生まれたように。
おぞましい光景の末。ーーーーーーーバルベロは、何事もなかったかのようにそこに浮いていた。
「ええ。これだけであなた方の作戦擬きは御破算。」にこにこと。身を裂かれたばかりなのに。
**
間違っていなかったはずだ。アーチャーのマスター、姫咲薫はそう必死に再確認する。
あれが復活するのは知らなかったけど。それこそ、キスキルとリラの言霊が刺さる相手じゃないか。
原初の言葉は相手が脆弱であるほど効果を発揮する。当たれば復活なんてできなかったはずだ。
それに、アサシンとあのマスターを戦わせるのだって、それ以外の選択肢はない。
アーチャーではどう考えても劣勢になる。現に今だって、アサシンは互角に渡り合い続けている。
それなのに。徐々に押されているのが、わかる。戦場は堂々巡りを繰り返していた。
ただ違うのは、アサシンが徐々に後退していること。…僕の方向に。
僕が死ねば、3対1の構図は崩壊する。一番のお荷物だ。
アサシンはマスターでもない僕を護ってくれている。
アーチャーは従順に僕の作戦を繰り返す。マスターを護りたいはずなのに。
この状況を作ったのが僕なら、僕が変えるしかない。でもどうやって。
その時、キスキルとリラの声が頭に響いた。
「薫、よく聞いて!」「大事だから長々と伝える。」
「私たちはマスターだから従ってるわけじゃない!」「私たち、別にマスター要らないし。」
「単純な理由。目の前の人を助けたい!」「簡単な理由。薫のことが気にいってるから。」
「だから気負わないで!」「私たちを頼って。」
「あたしたちには可能性がある!」「そう、きっかけがあれば目覚める力がある。」
そう言いながら、徐々にこちらに近づいてくる。そうだった。二人のアーチャーは進化するアーチャー。
それなら今ある手札だけじゃない。可能性を新しい手札に!
バルベロからアーチャーが離れていった。それも。いつか想定していた。
3対1なら勝てるというのは幻想に過ぎないのに。連携ができるようには見えない。
私とアイオーンのように、真に繋がってもいないのに。
アーチャーとアサシンの挟み撃ち。それなら、バルベロに取れる答えは一つ。
アイオーンがはるか高くへまっすぐに跳躍する。それだけで挟み撃ちは崩れた。
(でも、アサシンがいる限り、第二宝具の真名解放は行えない。それができればまとめて屠れたのに。)
バルベロは少し歯噛みする。しかしすぐにアイオーンへと命令を告げた。
一体ずつやるしかない。決定打がないのはどちらも同じ。まずはやはり、アサシンとアイオーンの勝敗で決まる。
そのはずだった。
極彩色の光剣は、確かにアサシンに向かっていた。そこに割り込み立ち向かうは、二色の悪魔。
「残念!私たちが相手だよ!」「愉悦。予想外な行動を取れた。」
アーチャーが足止めしてきた。しかもその力は、明らかに増幅していた。
「…何故?」バルベロが狼狽する。サーヴァントが力を隠す理由も、理由なく力を増すこともないはず。
「それはもちろん!」「それは当然。」
「「貴方たちに負けるわけにはいかないから!」」
そう、それだけでよかった。なにか劇的な経験があれば。人の進化を見守るため。神の凋落を嘲笑うため。
キスキルとリラは変わりうる。成長する。それはまさに、二枚組のジョーカー。
バルベロには理解できない。そんな単純なお題目で、刹那的な目的で。
ここは願いのために戦う場なのに。定められた存在から進めない哀れなサーヴァントが、願いを叶えるための場なのに。
成長するサーヴァントなど。許されない。それが赦されるなら、私だって。
怒りをそのままアイオーンに命ずる。同時なら互角というのなら。片方ずつ叩き潰す。
剣と二人の手刀によるつばぜり合い。無感情にアイオーンは足を振るう。リラが吹っ飛ばされる。
そこから無慈悲に剣を振るう。それで終わるはずだったのに。こいつらに行動を止める力はない。時間稼ぎだけだ。
そう、前に立ち入るアサシンを振り払い、今度こそこの悪魔を殺さなければ。
「ーーーーーーー今だ。『夜之食国 』、解除。」
アイオーンの前に立ち入ったアサシンの言葉は、予想外のものだった。
そんなことをして、得するのはこちらだろうに。すぐさまアイオーンに、『この世すべての救済 』の解放をーーーーーーー
「キスキル!リラ!宝具、いけるよね?」
アーチャーのマスターが叫んだ。大した火力でもないだろうに。それを開帳するために、結界を開けさせたのか。
思考に邪魔が入りがちだ。あいつらは目障りだ。そう思った時には遅かった。雷霆が、アイオーンを確かに貫いた。
アサシンの宝具は、すべての許可なき"放出"を制限する。それは味方も例外ではなかった。だから二人が攻めに転じた時点で、攻めに邪魔な要素を取っ払った。
相手の宝具があるだろうことは、それを喰らうことになるとしたら、間近にいる自分だろうことは、重々承知していた。それでも。
この場を切り抜ける可能性を、ジョーカーに賭けた。そして視界の端にキスキルを捉え、間違いでないと理解し退避した。キスキルの宝具の性質の一片は、もう知っていたから。
「神速貫通。『崇高なる人の力は、雷をも手に入れた 』!」
雷霆が、アイオーンを貫いた。
**
何故だ。あの一撃以降、アイオーンが沈黙している。それほどの火力とは思えなかった。地面まで貫いたのは、肉体自体が貫かれたわけではない。
「あれは雷の権能。それの限定的な再現。まあ簡単に言うなら、麻痺。」
アーチャーの片割れが、ゆっくりこちらに近づいてくる。仕方ない。仕方ない。仕方ない。
愛しのアイオーンは殺されるわけない。逃げるしかない。結界は解かれたのだから。詰めが甘かったと思え。
「詰めるのは、私。絶対に逃れられないよ。」
馬鹿な。原初の言葉など、結界のない今なら逃げ放題だ。そう思った時、その手に炎が宿っていた。
炎は広がり、剣を形作った。まさか、宝具か。そんなものがあるなら初戦で使っていたはず。
「また、あなた方は。サーヴァントの軛を無視するんですね。」
「そうかもね。"目覚め"なんて、サーヴァントにはありえないかもね。例外は、存在するんだろうけど。」
「殲滅神話。ここより逃れられるものはいない。焼き尽くすまで、焼こうか。
『愚鈍なる神どもは、炎の中に焼かれた 』。」
その炎剣は大きく燃え広がり、投擲された。避けられない。全ては避けられない。
それでもバルベロは必死に逃げた。揺らめく炎を避けた。火の粉の一つに、当たった。
たった、一つ。それでよかった。徐々に火の粉は燃え広がる。
アーチャーの新たに習得した宝具。『愚鈍なる神どもは、炎の中に焼かれた 』。
その力は単純明快。すべての生物を焼き尽くすまで止まらない。全生命への特攻宝具。その模倣。
私の身体は徐々に確実に燃えていく。なるほど。これなら私は復活できない。
最後に一言、喉が燃えてしまう前に。何か恨み言でも言ってやろう。
「…私の、マスターを。悪いひとでは…ないんです。命…だけでも、お願いします。」
それが私の、最期の言葉だった。アーチャーには、聞こえただろうか。
【リラが『神の凋落を嘲笑うもの』によって『愚鈍なる神どもは、炎の中に焼かれた 』 を習得しました。】
**
闘いは、終わった。僕ができたのは、みんなを信じるだけだった。
全てこちらは生き残った。キスキルとリラはもちろん、ただ僕らを護るために戦ってくれたアサシンには感謝しきれない。
キャスターのマスターも、気を失っているけれど。起きたとして、全てが崩壊しサーヴァントもいないのだから、安全といえば、安全だろう。
だから。アサシンの言葉には、少しながら怯んだ。
「さて。このマスターをとっとと始末しよう。それでとりあえずいったん解散としよう。なに、またマスターと掛け合って、同盟できないかは聞くとする。」
後半はあまり頭に入らなかった。そこで対抗意見が現れたから。
「私は反対。このマスターは殺させない。もう脅威とは思えない。」
リラが、強い意志でそう言った。
聖杯戦争は、殺し合いの場。それは自分も理解していた。だって僕の両親も、それで亡くなったから。
最後の戦いは、殺しの是非。僕も、答えを出さなきゃいけない。
聖杯戦争に巻き込まれアーチャーキスキル&リラを召喚した少年、姫咲薫。
キャスターとの戦闘で窮地に立たされるも、和服のアサシンの助太刀で九死に一生を得る。
そのままアサシンの提案で、キャスターの本丸を追撃する一行。
キスキルが新たに習得した宝具、『
"放出"を封じるアサシン、ツクヨミの宝具、『
相手がたとえいくら優秀なキャスターと魔術師だとしても、これで完封できるはず、だったのだが。
キャスター、バルベロの宝具は。マスターをサーヴァントの域にまで"成れ果て"させる、特殊な宝具だった。
魔術を完封した程度で、この『
小さなキャスターは妖しく笑った。
Fate/Split Sisters
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お互いに動かない。
力関係は不明瞭だ。どうする。マスターらしく、指示を出すべきなのか。いや、自分なんかが。しかしやるしかない。サーヴァントにいつまでも頼りっぱなしでは。
「…アサシン。あのマスターの相手をお願いしてもいいかな。」
作戦はできた。とりあえず、今の戦力でできる範囲。キスキルとリラにはすでに伝えた。
アサシンからの返答は、ただ一言。
「来るぞ。」
あちらから仕掛けてきた。
バルベロとしては当然の行動。考える暇などこちらにはいらない。選択肢は、一人ずつ潰すだけ。
極彩色の光剣を手にし、愛しのアイオーンが突撃する。狙いも不要。向こうから立ち向かってくるに決まっている。
光が動きを止める。相対するのはアサシンか。問題ない。こいつの宝具ほど厄介なものはない。
「ええ。そして当然、こちらに来ますよね。」
二人のアーチャーがこちらへ向かってくる。バルベロ本体は脆弱無比。アーチャー1人すら相手にはできない。
"でも、そんなの最初から分かっている。"
「恨みはまあそれなりにあるし!」「何よりこの場を切り抜けなきゃだし。」
「砕けろ!」「捻じれろ。」
二つの呪詛が飛ぶ。
その言霊が届いてしまえば、あっけなくバルベロは弾ける。だけど。
分かっているのに対処しないなんて、ありえない。
「言葉の扱いで私に勝とうなんて、甘いですよ。」その言葉を最後に、バルベロは八つ裂きになった。
…否。八つ裂きにするよう命じた。この場で最速かつ最強の力を持つ存在、アイオーンに。
アサシンですら容易には躱せない斬撃。それを地面に向けて振るい、大地の刃を飛ばした。
「こちらから目を離すとは、舐められたものだなーーーー!」
アサシンもその隙は許さない。バルベロの加護ごと、アイオーンの皮膚を斬る。十字に跡をつける。しかし。
塞がっていく。アイオーンとなったマスターはサーヴァントの特性を得ているに等しい。もはやその程度の傷では動じない。
そして、バルベロ。言霊が届くより先にバラバラになってしまえば、砕けることも捻じれることもかなわない。
八つ裂きにされたバルベロの肉片が蠢き出す。その姿は聖母からは程遠い醜い存在になってしまったが。心は未だ、聖母足りえる。
すなわちそれは永遠不滅。完全に消えさらない限り、バルベロはその身体を再編できる。
肉が集まる。まるで、救世主の復活のように。集い再び形を成す。まるで、原初の人が生まれたように。
おぞましい光景の末。ーーーーーーーバルベロは、何事もなかったかのようにそこに浮いていた。
「ええ。これだけであなた方の作戦擬きは御破算。」にこにこと。身を裂かれたばかりなのに。
**
間違っていなかったはずだ。アーチャーのマスター、姫咲薫はそう必死に再確認する。
あれが復活するのは知らなかったけど。それこそ、キスキルとリラの言霊が刺さる相手じゃないか。
原初の言葉は相手が脆弱であるほど効果を発揮する。当たれば復活なんてできなかったはずだ。
それに、アサシンとあのマスターを戦わせるのだって、それ以外の選択肢はない。
アーチャーではどう考えても劣勢になる。現に今だって、アサシンは互角に渡り合い続けている。
それなのに。徐々に押されているのが、わかる。戦場は堂々巡りを繰り返していた。
ただ違うのは、アサシンが徐々に後退していること。…僕の方向に。
僕が死ねば、3対1の構図は崩壊する。一番のお荷物だ。
アサシンはマスターでもない僕を護ってくれている。
アーチャーは従順に僕の作戦を繰り返す。マスターを護りたいはずなのに。
この状況を作ったのが僕なら、僕が変えるしかない。でもどうやって。
その時、キスキルとリラの声が頭に響いた。
「薫、よく聞いて!」「大事だから長々と伝える。」
「私たちはマスターだから従ってるわけじゃない!」「私たち、別にマスター要らないし。」
「単純な理由。目の前の人を助けたい!」「簡単な理由。薫のことが気にいってるから。」
「だから気負わないで!」「私たちを頼って。」
「あたしたちには可能性がある!」「そう、きっかけがあれば目覚める力がある。」
そう言いながら、徐々にこちらに近づいてくる。そうだった。二人のアーチャーは進化するアーチャー。
それなら今ある手札だけじゃない。可能性を新しい手札に!
バルベロからアーチャーが離れていった。それも。いつか想定していた。
3対1なら勝てるというのは幻想に過ぎないのに。連携ができるようには見えない。
私とアイオーンのように、真に繋がってもいないのに。
アーチャーとアサシンの挟み撃ち。それなら、バルベロに取れる答えは一つ。
アイオーンがはるか高くへまっすぐに跳躍する。それだけで挟み撃ちは崩れた。
(でも、アサシンがいる限り、第二宝具の真名解放は行えない。それができればまとめて屠れたのに。)
バルベロは少し歯噛みする。しかしすぐにアイオーンへと命令を告げた。
一体ずつやるしかない。決定打がないのはどちらも同じ。まずはやはり、アサシンとアイオーンの勝敗で決まる。
そのはずだった。
極彩色の光剣は、確かにアサシンに向かっていた。そこに割り込み立ち向かうは、二色の悪魔。
「残念!私たちが相手だよ!」「愉悦。予想外な行動を取れた。」
アーチャーが足止めしてきた。しかもその力は、明らかに増幅していた。
「…何故?」バルベロが狼狽する。サーヴァントが力を隠す理由も、理由なく力を増すこともないはず。
「それはもちろん!」「それは当然。」
「「貴方たちに負けるわけにはいかないから!」」
そう、それだけでよかった。なにか劇的な経験があれば。人の進化を見守るため。神の凋落を嘲笑うため。
キスキルとリラは変わりうる。成長する。それはまさに、二枚組のジョーカー。
バルベロには理解できない。そんな単純なお題目で、刹那的な目的で。
ここは願いのために戦う場なのに。定められた存在から進めない哀れなサーヴァントが、願いを叶えるための場なのに。
成長するサーヴァントなど。許されない。それが赦されるなら、私だって。
怒りをそのままアイオーンに命ずる。同時なら互角というのなら。片方ずつ叩き潰す。
剣と二人の手刀によるつばぜり合い。無感情にアイオーンは足を振るう。リラが吹っ飛ばされる。
そこから無慈悲に剣を振るう。それで終わるはずだったのに。こいつらに行動を止める力はない。時間稼ぎだけだ。
そう、前に立ち入るアサシンを振り払い、今度こそこの悪魔を殺さなければ。
「ーーーーーーー今だ。『
アイオーンの前に立ち入ったアサシンの言葉は、予想外のものだった。
そんなことをして、得するのはこちらだろうに。すぐさまアイオーンに、『
「キスキル!リラ!宝具、いけるよね?」
アーチャーのマスターが叫んだ。大した火力でもないだろうに。それを開帳するために、結界を開けさせたのか。
思考に邪魔が入りがちだ。あいつらは目障りだ。そう思った時には遅かった。雷霆が、アイオーンを確かに貫いた。
アサシンの宝具は、すべての許可なき"放出"を制限する。それは味方も例外ではなかった。だから二人が攻めに転じた時点で、攻めに邪魔な要素を取っ払った。
相手の宝具があるだろうことは、それを喰らうことになるとしたら、間近にいる自分だろうことは、重々承知していた。それでも。
この場を切り抜ける可能性を、ジョーカーに賭けた。そして視界の端にキスキルを捉え、間違いでないと理解し退避した。キスキルの宝具の性質の一片は、もう知っていたから。
「神速貫通。『
雷霆が、アイオーンを貫いた。
**
何故だ。あの一撃以降、アイオーンが沈黙している。それほどの火力とは思えなかった。地面まで貫いたのは、肉体自体が貫かれたわけではない。
「あれは雷の権能。それの限定的な再現。まあ簡単に言うなら、麻痺。」
アーチャーの片割れが、ゆっくりこちらに近づいてくる。仕方ない。仕方ない。仕方ない。
愛しのアイオーンは殺されるわけない。逃げるしかない。結界は解かれたのだから。詰めが甘かったと思え。
「詰めるのは、私。絶対に逃れられないよ。」
馬鹿な。原初の言葉など、結界のない今なら逃げ放題だ。そう思った時、その手に炎が宿っていた。
炎は広がり、剣を形作った。まさか、宝具か。そんなものがあるなら初戦で使っていたはず。
「また、あなた方は。サーヴァントの軛を無視するんですね。」
「そうかもね。"目覚め"なんて、サーヴァントにはありえないかもね。例外は、存在するんだろうけど。」
「殲滅神話。ここより逃れられるものはいない。焼き尽くすまで、焼こうか。
『
その炎剣は大きく燃え広がり、投擲された。避けられない。全ては避けられない。
それでもバルベロは必死に逃げた。揺らめく炎を避けた。火の粉の一つに、当たった。
たった、一つ。それでよかった。徐々に火の粉は燃え広がる。
アーチャーの新たに習得した宝具。『
その力は単純明快。すべての生物を焼き尽くすまで止まらない。全生命への特攻宝具。その模倣。
私の身体は徐々に確実に燃えていく。なるほど。これなら私は復活できない。
最後に一言、喉が燃えてしまう前に。何か恨み言でも言ってやろう。
「…私の、マスターを。悪いひとでは…ないんです。命…だけでも、お願いします。」
それが私の、最期の言葉だった。アーチャーには、聞こえただろうか。
【リラが『神の凋落を嘲笑うもの』によって『
**
闘いは、終わった。僕ができたのは、みんなを信じるだけだった。
全てこちらは生き残った。キスキルとリラはもちろん、ただ僕らを護るために戦ってくれたアサシンには感謝しきれない。
キャスターのマスターも、気を失っているけれど。起きたとして、全てが崩壊しサーヴァントもいないのだから、安全といえば、安全だろう。
だから。アサシンの言葉には、少しながら怯んだ。
「さて。このマスターをとっとと始末しよう。それでとりあえずいったん解散としよう。なに、またマスターと掛け合って、同盟できないかは聞くとする。」
後半はあまり頭に入らなかった。そこで対抗意見が現れたから。
「私は反対。このマスターは殺させない。もう脅威とは思えない。」
リラが、強い意志でそう言った。
聖杯戦争は、殺し合いの場。それは自分も理解していた。だって僕の両親も、それで亡くなったから。
最後の戦いは、殺しの是非。僕も、答えを出さなきゃいけない。
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