最終更新:ID:OGUctPy90Q 2022年05月04日(水) 13:26:12履歴
「御神体が盗まれた?」
「そうなんだよ……ですよ!綺麗……じゃなかった、大事な石だったのに」
「別に騒ぐほどの事じゃない。第一祭壇に置きっぱなしにしている程度の石なんだから、ボクとしては別にそこまで」
『出雲』の松江近く、少し閑散とした位置にある探偵事務所に、2人の依頼人が飛び込んで来ていた。
1人は巫女。赤い髪がトレードマークで、彼女は偶然にもこの事務所の所長……標木凪澪とは顔見知り。
もう1人は『出雲』の最重要施設、八百万神祇大社の一角に祭壇を構えていた神にして、先の巫女の契約サーヴァント。
そしてその2人……厳密には巫女の方だけだが……は、事務所の奥に通されるなり緊迫した様子で話し始めたのだった。
「盗まれたんだから大事も大事だよ!それにウチだけの問題じゃないんだしさ、わたしも話したでしょ?」
「それは夜警(ナイトウォッチ)だかなんだか言う人たちが当たってくれるんだろう?わざわざボク達が探偵に頼ってまで騒ぎ立てる事か?」
「ウチだけの問題じゃない、と。それでは、窃盗は複数件起こっているのかね?」
凪澪の姉、紺音の契約したサーヴァント……キャスターを名乗る(実態はフェイカーだが)ジレット……ウィリアム・ジレットが口を挟む。だが、どうやらやはりそこが本題であるようで。
「そうなんです。実のところウチの社……祭壇はトータルだと3件目の被害になります。1件目はサナちゃんとこのお社で、2件目がミユキちゃんとこの……」
「サナちゃんに、ミユキちゃん」
「ああえっと、同僚の巫女たちです。それぞれお手伝いしてる社があるんですが、わたしのところ含めて現在3件、1件目は勾玉を、2件目は刀を」
彼女の言うところによれば、どうやら連続盗難事件であるらしかった。夜警や『出雲』のカレンには既に通達はされたものの、犯人の足取りは全く掴めていないのだと。
「……公的機関が出てくるなら、僕らが出て行く場面ではないのでは」
「そうも思ったんだけどねー、如何せん人手が足りてないみたいでさ。なにせほら、神様頼りなところがあるじゃない?だから割とこう……腑抜けてる?っていうか。ダメかな?」
「……分かりました。僕が出ましょう。織姫も付いてきてくれるかな」
「構いませんけど。報酬は何処から出るんです?」
「受けてくれるんだね?やったやった。報酬は……上手くいけばお上から出るんじゃないかな!」
「だいぶ厚かましいな、ボクのマスターも」
「しかもリターンの程も分からないと来ました。ま……受けたからには、ですね」
「……行きますか」
かくして、依頼者とそのサーヴァント、凪澪、織姫の4名は探偵事務所を出発、出雲の中心部に聳え立つ八百万神祇大社へ向かい始めた。
その間紺音とジレットは事務所で待機と言うことになり、紺音は凪澪が自分を置いて仕事へ行くのが心配で仕方がないようだった。
向かう道中、その事件の現時点での情報を聞かされる。依頼人の巫女であり、凪澪が偶に訪れる魔道具店の店主でもある女性……アーリンが言うには、一件目の社はある日本の神を祀っているもので、盗まれた物品は勾玉。翡翠製だったとの事。そこを担当していたのはアーリンの同僚の青襲沙奈(あおそい さな)という巫女であるらしい。
二件目も同様、日本神話に伝わる存在を祀っていた社で、刀を盗られたという。主に担当していたのは巫女の紅鯉美雪(あかこい みゆき)だそうだ。
そして三件目が彼女、アーリン・ライビンの担当していた社……もとい祭壇の一つ。ここだけ呼び名を訂正せねばならないのは、そこの主である神が遠く中米の地、アステカの神であるからだと。
「……すみません。盗まれた石は、もしやピカピカのピカにお磨きに?」
「ん?そうだね……黒曜石製さ。まあボクにはホントは関係ないんだが、煙る鏡ってあるだろう?」
「テスカトリポカ、ですか。でもこの場合の鏡っていうのは……」
この場の全員が同じことを、口に出さずに思い浮かべていた。
単純に物珍しいアイテムを狙った盗難、という線も無くはない。神に纏わる品物であれば、それぞれ単体でもそれなりには役に立つだろう。
だが、勾玉、刀、鏡……この3つが揃ったとなれば、その目的は凡そ限られてくる。
「それじゃ、犯行はここで打ち切りと言うことでは?」
「その線は正直否定できないとボクは考えてる。だから彼女もキミたちを頼る事にしたんだろうけどね」
「これ以上手がかりが出ないとなると、夜警さん達も犯人まで辿り着けないかもなって。てへ?」
「……まあ、現場を見ない事には、ですね」
かくして事件の発生した現場……八百万神祇大社の一角へ到着した一行。当然といえば当然だが、そこは黄色いテープで封鎖され、余人は立ち入れないようになっていた。
その前には大人の男性が1人立っており、珍しいもの見たさに立ち寄る人々を追い返しているようで、何となく疲れた風の顔をしていた。
「お疲れ様です花巻さん」
「おお、ライビンさんか。いやはや、参拝客が増えてくれるのは嬉しい事だが、そのきっかけがこういう事件というのは如何なものなのか……そちらは?」
「……標木探偵事務所より参りました、標木凪澪と」
「そのサーヴァントです。名前に困るなら……単にアーチャーとでも」
「ボクもアーチャーなんだけど?ま、いいか」
「なるほど探偵さんか。ワタシはまたてっきり物見に来た若者かと……」
「わたしが依頼したんですよ。まあでも?わたしとこの子達と並んで歩いてたらイカした学生の集団みたいに見えちゃうかな?」
「いや、ライビンさんは巫女として年季が入っとる。年齢はともかくとしても今更見間違えはせんさ」
「え」
「……現場を見せてもらっても?」
規制線の前に居た宮司の花巻……花巻聡志(はなまき さとし)と共に、一件目の現場であるエリアへと足を進める。中はややだだっ広く、神社の拝殿が室内に作られてると言った、少しばかり不思議な雰囲気だった。
「これは……現場は発見時のままですか?」
「恐らくはそうです。誰かがこっそり弄ったりしていなければ変化はないはずですが、概ね綺麗にされてましたな」
「犯人は最初から盗むモノに目星を付けてたって事になりますね。第一発見者は?」
「あの、それは……私、です」
背後から声が上がる。振り向いた先には1人、巫女服を着た女性がややおどおどした様子で立っていた。
「青襲……青襲沙奈です。ここで手伝いをしています。えーと……」
「……発見時の事を詳しく聞いてもいいですか」
「は、はい。あの日は、いつも通りに仕事に出てきて、裏で着替えてから朝の掃除をしようとしたんです。それで床や壁なんかを磨いていたんですが、いざ神棚を見てみると、勾玉が……大事な勾玉が、無くなってて……」
「朝来たら、ですか。その前日は?」
「その日は、えっと……少し夜遅くまで神様とお話ししてて、8時に家に帰ったんです。その時には確か、ちゃんとあったはずなのに……」
「失礼ですが、退勤の時に鍵はちゃんと掛けたんですよね?」
「それはちゃんと掛けたはずなんです。私、いっつも鍵かけたか不安になっちゃって、その日も2回は確かめた気がするんです。でも、こんな事が起こっちゃうともう、全然……本当に自分が掛けたか自信が無くなって……」
「……掛けた後の鍵はどこに保管を?」
「それは裏の職員専用エリアですな。当然関係者以外立ち入り禁止ですから、ピッキングでもできるのであれば分かりませんが、外部から侵入するのは簡単じゃあない。扉ごと壊されたような形跡もありませんでしたからな」
続いて2件目。紅鯉美雪(あかこい みゆき)と名乗る、眼鏡を着用した巫女による証言。2件目の現場自体は1件目と似たようなもので、本当に目的のもののみを盗まれたと言った体だった。
「アレは確か、今から帰ろうと部屋の電気を消した時……だったかしら。突然廊下からガタッと物音がしてね?恐る恐る覗いてみたら、真っ黒な服を着た人が外に立ってて……扉の隙間に腕を突っ込んで無理やり入ってきたのよ。私もう怖くって……震えてる内にツカツカと部屋の中に入っていって、刀だけ取って戻ってきたの。それでそのまま、廊下に出るなり猛ダッシュで逃げちゃって……」
「……追いかけたりは?」
「刀を持った男の人よ?私みたいな生身の女1人じゃとても……」
「それはそうかもしれませんが、せめてほら、顔とか……」
「暗くてとても見えなかったわ。ああでも、去り際にこんな事を言ってたわ」
「……なにを?」
「『エスに気をつけろ』……ですって」
「『エス』ですか」
3件目と話を聞いた凪澪と織姫。しかし話を聞き終わった頃には夜になっていて、その日は出雲都市圏にあるホテルに部屋を取る事になった。
部屋は2人で一つ、ツインベッドの部屋。依頼にかかった費用という事で後々請求は出来るものの、現状どこに請求が行くのか分からないのもあって別々で取るという案は却下となった。
「代金が向こう持ちならいっそ2つ部屋を取ってもよかったのでは?」
「……いや、この方が都合がいい。基本的には相手はサーヴァントだ、どこで話を聞かれてるか分からないじゃないか」
「そりゃそうですけど。マスターの『眼』ならそれがどこに居るのかも見えるのでは?」
「その場に居れば確かにそうだが、無茶苦茶な距離まで聞き耳を立てられるサーヴァントなんかが居たら、物理的に遮蔽物を挟む以外には対処しようがない。情報も整理したいし……」
「ま、その通りですが、まずはさっぱりしません?一番風呂は譲りますよ」
「……お湯は張らないけど」
「そのくらいは分かりますよ。ほら先行ってきてください」
彼女に強引に勧められるままシャワーを浴びに向かう。こういった泊まりの経験がそう無いため余り慣れない感覚だったが、確かに確かに複雑な建物を歩き回った疲れが溜まっている事を流れ落ちる湯によって脱力した身体が自覚する。
段々と頭が回らなくなる。とっとと上がって横になりたいという考えが勝り始め、汗を流した身体を雑に備え付けのタオルで拭いていく。
服を着てさて出ようとした、その時。
「お、丁度終わってますね」
「え……」
「何驚いてるんですか。私も入るんだから当たり前じゃないですか」
「あ、うん……」
織姫がこちらが出るのを待たずに入ってくる。
タイミングがタイミングだっただけに若干焦りを覚え、いそいそと出ようとする凪澪だが。
「何出ようとしてるんです。ここで作戦会議しますよ。私は流しながらですけど……どうしたんですか青鯖を口に突っ込まれた様な顔して」
それも当然の事だった。目の前の女は風呂に入りながら話し合いをしようという提案をしてきたのだ。
この様なことも経験のある凪澪ではない。幼い頃には姉に身体を洗われていたこともあるが、そんなのはとうに昔の話だった。
覗くなとだけ釘を刺し、バスタブへ入ってカーテンを閉める彼女。隙間から次々に衣服が投擲され、それをキャッチしては簡便に畳んでいく。
「やっぱり後からでも……」
「シャワー音ほど最適なノイズがどこにあるんです?今こそ一番外から覗き聞きされにくいチャンスなんですよ」
カーテン越しの声。うっすらと彼女の影が映る。
今までも同じ屋根の下で過ごしていた筈の相手だが、この様な状態に陥った事は無い。さっきまで眠気に襲われていたはずが、今は違う何かの襲撃を受けているようで一気に醒めたようだった。
急回転。
「ま、とにかく始めましょう。今回の件、盗まれたものはどれも貴重品ですよね」
「勾玉、刀、黒曜石……の鏡。ぱっと見れば『三種の神器』かな」
「そう考えると犯行はもう終わりです。こちらから出向かなければ、奴さんを捕まえることは不可能でしょう」
「次に冷蔵庫や洗濯機が盗まれる可能性は無いでも無いけどね。ただ前3つに比べると格段に盗難しにくいだろう。どのみち次の犯行が起こるか否かすら、現時点では断定できない」
「余りにも情報が少な過ぎますし、残るは盗んだ方法でしょうね。6日前に起こった1件目と2日前に起こった3件目はどちらも当該区画が営業時間を終えて施錠されてから、です」
「鍵は関係者以外立ち入り禁止の区画に保管、盗み出された形跡はなし……扉が破壊された様な跡もなく、盗まれた現場も目的のブツ以外に荒らされた形跡も見当たらない。だが一方で、4日前の2件目では巫女である紅鯉美雪の目の前で、大胆にも刀が盗み取られたと言っていた」
「犯人の顔に見覚えは無く、傍にはサーヴァントもいた、と。しかもマスターを抱えた状態で高速で撤退できる、ネズミの様なヤツが」
「サーヴァントの能力は主に運動能力か……怪盗か何かならピッキング出来てもおかしくはないかな。侵入だけなら霊体化でできなくもないけど、実体のある宝物の持ち出しは鍵をどうにかしない事には不可能なはずだ」
「1件目と3件目ではわざわざ人のいないタイミングを狙ったのにも関わらず、2件目では正面突破を図ったのも気になりますね。それがどう繋がるのかはイマイチ分かりませんが」
「その際の痕跡が3件全てで残ってなかったのは痛いところだけど。普段ならそこから追ってしまえばそう時間のかからない依頼なんだけど……情報抹消スキルでも持っていたのか」
「情報抹消が可能なら、それこそ2件目も他と同じ様に完全犯罪を成立させてしまえば良かったんです。わざわざマスター共々姿を見られるというリスクを犯してまで、刀を盗みたい理由があった……?」
「刀……広義の剣。勾玉、鏡と揃えて三種の神器と呼ばれるものではあるけれど、よく考えると3件目の黒曜石の鏡を鏡としてしまうのもややこじつけ感があると思うんだ」
「仮に私が勾玉と鏡を盗むなら、確かにセットで刀も盗むとは思いますけどね。その方が収まりが良いですし」
「収まりが良い、か……一種の見立て犯行、という事なのかな?」
「その可能性もあるって程度ですね。しかし日付の刻みも結構ワザとらしいところはある様に思えます。それがアタリなら、本命は……」
「……しかし、もう一個気になるね」
「そうですね。でもそれが何なのか、現状では全くです」
「……『エス』か……」
「すみません顔伏せてもらえますか」
「あ、ごめん」
そんなこんなで会議は終わりを迎え、風呂を出た後の2人は特に事件についての話はせず、そのまま眠って夜を越した。
そして次の朝、ホテルで朝食を取ってから出て、また現場である大社へ向かう。
建物の正面入り口では、昨日大社を案内してくれていた宮司の一人の花巻聡志が2人を出迎えた。
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたでしょうか」
「え、まぁ、そうですね。あまりホテル泊まりの経験もありませんでしたが……」
「世界がこうなって以降は旅行などもし難いですからな。東の方には観光と歓楽で派手に稼いでいるモザイク市もあるとは聞きますが、ワタシのような働き人にはあまり縁のない話だ。それじゃ、本日はどこを案内しましょうか」
「そうですね……可能ならこの大社の地図と、可能なら何かこう……目立って盗まれやすそうな品物とか、そういうリストがあるなら」
「前者はお安い御用ですが、後者は中々に難しいですな。神にもプライバシーが求められる時代なもんですから、そういうのは中々門外不出となっておるのです」
「ケッチくせー……と言いたいところですが、私も祀られる側に回ったら多分公開しませんね。悔しいが仕方ないか」
一件一件回って確認する、という方法が頭を過るが、花巻宮司から手渡されたマップに目を通し、現実的でないとかぶりを振る。何らかの方法で痕跡が消されているため、犯人がどういうルートで侵入し盗難したのか、いつもの様には把握できていない。
「天井の梁……アレはどこかに繋がってるんですか?」
「ああいえ、そういうデザインに過ぎません。あそこを伝って別の部屋へ行く、というのは現実的じゃないでしょう。穴を開ければ不可能でもないでしょうが、そんな事をすれば隙間風の音が目立ちますからね」
実際、天井の梁周りに移動用の穴などが開けられた形跡も見当たらなかった。
つまり、鍵のかかった社の個室はやはり密室だという事だ。こんな場所から痕跡を残さずにモノを盗み出せるなど、サーヴァントでもかなり限られるだろう。
「……昨日の2人からまた話を伺いたいんですが」
「昨日の2人、というと青襲さんと紅鯉さんですか。青襲さんは今日は休みで、紅鯉さんしかおりません。今の時間は丁度見回りを……いたいた。おーい、紅鯉さん」
「花巻さん……と、昨日の探偵さん方じゃない。どうなさったの?自分は知ってる事、昨日全部話したと思いますけど」
2件目の現場に居合わせた巫女、紅鯉美雪。彼女が営業終了後、帰ろうとしていたタイミングで侵入し、彼女の制止を振り切って逃走した、という話だった。
「電気を消していたタイミングだったから人がいるとは思わずかち合ってしまった、という事なんでしょうか」
「現時点ではなんとも。もしそうなら随分と間抜けだなーとは思いますけど?」
「とっ捕まえて直接聞いてみるしかありませんなぁ。とはいえ下手人は何処におるやら……」
「……すみません、犯行が起こってから現場で……何か、しましたか。モノをずらしたり、とか……掃除したり、とか」
「まさか、する訳ないわ。自慢じゃないですけど私、よくミステリー番組を見るんです。最初にやる事は現場保存……ですもんね?」
そこで一旦紅鯉美雪とは別れ、今度はアーリン・ライビンの元へ向かう3人。とはいえ彼女に会って聞き出した話は多くなかったが、紅鯉美雪にしたものと同じ質問をした際には「ないない。ああいうのは触らないのが一番ってよく言われてるし……ああでも、サナちゃんがやらなきゃって言ってたから、もう2度と盗人が近寄らない様にってお祓いはしたよ。それ以外には全然、現場のものには触ってないかな」と答えていた。
「青襲沙奈の提案でお祓いをした、ですか」
「心配性な節がある彼女か。その事に関しても話を聞けたらよかったんだけど、今日は休みだもんなー……」
「どうしましょうか、これから」
「1件目と2件目の社の神様はモノが盗まれたってだけでカンカンで出てきてもくれないらしい。そんな態度を取るんだから、犯行に関与してない……って見方が正しいのかな」
「3件目……あの神サマの祭壇は、そもそも犯行当時空けていたみたいですね。鍵は閉めてたし、ホントに誰も見てないと。手がかりは2件目の証言だけだが、それも暗闇でイマイチよく見えなかった……あーもう、全然手がかりが足りないじゃないですか!」
「いや、そうでもない。なんとなくのカンだけど、今日何かがありそうな気がする。そういう流れだ、これは」
「……随分便利な眼ですね、それも。それで?何をどうするんです?」
「そうだね……今夜はここを張ろう。花巻さんにこっそり許可を得て、夜中ここの巡回を……」
「来なかったら?」
「それはそれでヨシだよ。犯人の狙いは、今夜の動きでなんとなく掴める気がするんだ」
そして、その夜。
2人は花巻宮司に許可を取り、織姫が建物内を、凪澪が建物の外を見回る事になった。当の花巻もまたそれに加わる形になり、建物内を2人が、外を1人が張っている状態。
時刻は夜9時。殆どの社が既に戸を閉めており、もうすっかり建物全体が暗くなっていた。
「……さて、鬼が出るか蛇が出るか、ですね」
───事件のあった区画を除けば、大社は今も参拝客を普通に受け入れている。もし『次』があるとすれば、それら参拝客に紛れて下見できる位置にある社だろう。犯人そのものの痕跡は今は見分けが付かないから僕は内側は見ない。もしターゲットが来たら、その場で捕縛を狙ってくれていい。ただ、犠牲は出さないでね────
「私だって面倒事が起こしたいんじゃないし、犠牲なんか出さないってんですよ……あれ?」
織姫が持つ懐中電灯の照らす先、暗い通路に人影が過ぎる。人影の方も織姫の存在に気づいた様で、此方へと近づいてきた。
「探偵さんところのサーヴァントさんじゃないですか」
「アーチャーで結構ですよ、紅鯉さん……でしたっけ」
「ふふ、合ってますよー。こんな時間に何を?」
「ああ、ちょっと……見廻りをね。丁度今夜は雲もかかってて暗い。泥棒日和でしょう?」
「まるで泥棒さんみたいな事を言うんですね。しかし言う通りかも……その見廻り、私も同行しても?」
「断ると逆に怪しいし私は構いませんけど、これから仕事上がりだったのでは?」
「あ、ええ、それはそうですが……もし大捕物があるなら、見といた方がお得じゃありません?それに本当にアーチャーさんが泥棒だったらいけない」
「貴女ねぇ……随分お気楽な」
と、そう言いかけた時。
「────○□△×⭐☀!!!!!誰かぁぁあーッ!!!!!!」
ひとけの無い建物内に声が響く。それは間違いなく、『何かが起こった』事を意味していた。
「はぁ───……ビンゴか……!」
「あら、ホントに来たんですね。やっぱり探偵さんは凄い」
「言ってる場合ですか……走りますよ!」
声の方向へ駆ける。複雑な構造の建物ではあったが、肝心のポイントはそう遠くなく直ぐに着いた。
殆どの扉が施錠された中で、唯一開け放たれた部屋。その入り口で女性が1人倒れ込んでいた。
「何があったんです?」
「分かりませんけど、誰かが入り込んでて……あっちへ逃げたんです!あの人、ここの宝玉を……!」
「ぐわっ!?お前、どこへ────…………ダメだ、速いな……」
女性を介抱する紅鯉、犯人とぶつかり、追おうとしたがその速さもあって直ぐに見失ってしまった花巻。
建物内にいる全員が、1箇所に集まってしまった様だった。
─────と言う事なんですけど、どうです、そっちは?
─────了解。ちょうどその辺りの前に待機してるよ。
「……おや、先回りされていた?凄いね……君が『探偵』か」
建物の正面でない他の入り口……職員が主に退勤時に使用する……の前で張っていた凪澪の視界に、人影が姿を現す。
暗色で固めた服を着た彼からの問いかけに、凪澪は口を開かない。
無言で一歩、男の方へとにじり寄る。
「おっと、それ以上近づかない方がいい。オレのサーヴァントが首をスッパリ行っちゃうかもしれないぞ、と」
その一言に、凪澪はピタリと足を止める。が、それがブラフである事はおよそ察知できていた。力の流れからして、彼のサーヴァントはここには居ない。視界の中に居ない以上、凪澪は背後を警戒した。
居ない。
「随分疑り深いんだな、探偵さん?何も取って食おうってんじゃねぇさ。けどそうだな、一つだけ」
そう言って、男は息を吸う。
「……お前たちは、オレを捕まえられない。心強い協力者が居るからな」
「協力者」
「お、やっと喋った。そう、協力者だ……オレは『S』と呼んでるがな」
「……呑気だね」
「言ったろ?アンタらはオレを捕まえられ───」
「マスター!?どうですかー!?」
「うおっ!?もう来やがった!?見かけによらずすばしっこいなお前さんのサーヴァント……最後に自己紹介でもしておこうか、オレは坂越、坂越真一だ。じゃあな、あばよちびっ子探偵!」
その言葉と共に、男が何かを放り投げる。投擲された物体から放たれた閃光に一瞬目を塞ぐ内、男は居なくなっていた。
残された奴の動きの「流れ」は見えていたものの、今の一瞬の内に消えたのを見せられて、素直に追おうと言う気にはならなかった。
「……あれ、犯人は?」
「……逃げられた」
「はぁ!?せっかく挟み撃ちにしたのにですか!?何やってるんですか!」
「おーい!どうなったぁー!」
建物からぞろぞろと人が出てくる。
巡回していた3名と、悲鳴を上げた女性……彼女の話も聞かねばならない。
騒ぎを聞いて駆けつけた『出雲』の夜警も加わって、その日の夜は会議になった。
犯人の男、坂越と協力者『エス』の存在。それは関係者全員の知るところとなったと同時に……今回の第一発見者、大社の巫女の一人である白石結衣(しらいし ゆい)からの証言も聞く事になった。
彼女はとっくに退勤済みの時間であったが、忘れ物を思い出して戻ってきたところ、自身の担当する社に侵入していた坂越と遭遇、突き飛ばされて倒れていたところを織姫に見つかった、という流れのようだ。
会議の中で、『エス』はSurvantのSだろうという方向で意見は一致していた。そして坂越の本命はこの4件目で、残りの3件は神器盗難事件に見せかけるためのフェイク……今まで1日おきに犯行を起こしていたのに今回は2日開けたのも、この日に油断させるためだというのは、凪澪もなんとなく予想していた事だった。
結局は逃してしまった訳だが、その予想が当たったおかげで坂越の顔を拝む事はできた。
そして会議の終わり、凪澪にせっつかれて織姫が声を上げる。
「恐らく犯行はこれが最後です。となれば、奴は逃亡を図るでしょう。とはいえこの出雲から出る方法は、海路か陸路しかありません。隣接する『神戸』か、あるいは海を越えるなら港か。どちらに行くにせよ、ここからは一度東へ向かう必要があります。となれば、犯人は確実に─────
「『駅へ向かいます』……なーんて貴方のアーチャーは言っていたけれど、本当に当たるのかしら……探偵さん?」
未明、始発の電車が出る前に駅へと向かう。メンバーは凪澪、織姫、花巻宮司、紅鯉、白石の合計5名。
その足取りはやや逸っていて、犯人の確保に焦っているようでもあった。
「……紅鯉さん」
「美雪でいいわよぉ。それで?みんなして朝イチの電車を狙いに駅へ行く、って。捕まえられるの?」
「……とかく捜査は数ですから。なんなら駅にもう一人待ち伏せしてもらえば良い話ですし、そのために姉に連絡も入れました。なんとでもなるはずです。それに……」
「それに?」
「わざわざ名前をバラしてくれたんだ。早々にここを立ち去るつもりなのは間違いないと踏んでます。僕が犯人だったら、そんな事はどんな状況でもしませんが……よほど自信があるんでしょうね。あるいは『エス』への信頼からか……」
「ふふ。すごいわ。よく見てるのね」
「……それができなきゃ、探偵なんか出来やしません……そう言ってる間にほら、駅です」
明け方の駅へと踏み込む一行。東へ向かう電車のためのホームには、人影が一つだけ。電車の姿はそこにはない。
「……あれ?上りの電車が居ないわね」
「まさか間違えたんじゃ……」
「あ、おーい!凪澪ー!」
「姉ちゃん。どう、上りの電車は」
「もうバッチリ。乗っていく人の顔しっかり見たけど、送られてきた画像の人はいなかったよ」
「そっか。ナイスだった姉ちゃん。朝早くからありがとう」
「いいんだって。で、これどういう状況?」
事情を知る凪澪と織姫はともかく、花巻、紅鯉、白石の3人はまだ事態が理解できていないようだった。だが一足先に何かに思い至ったのか、段々と血の気が引く花巻宮司。
「まさか……まさか坂越を逃してしまったんじゃ……」
「え……」
「そんな……せっかくのチャンス、だったのよね……?」
他の2人もその発言で蒼白し、それぞれが口々に、適当な推測でここへ連れてきた凪澪達への非難を始めた。
「……すみません。最初に断っておかなければならない事があります。確かにこれはチャンスではあったんです。でもそれは、坂越を捕まえるチャンスではなく……『エス』を捕まえる、そのチャンスです」
「『エス』は……この中に居ます」
────────────
「エスがバレた……!?マズい、助けに……」
『出雲』都市圏、住宅街の一角のやや高層の建物が並ぶ地区に、半地下となっている部屋が存在した。
ここが『坂越真一』の隠れ家であり、探偵ら一向が駅へ向かっている間、彼はずっとここで息を潜めていた。
名前まで明かせば、彼らは確実に犯人が逃亡すると考える。この『出雲』で最も簡便な移動手段は電車……それを朝イチで使うだろうと。
だから、この日は動かない。一切動かずに推理を外した探偵の発言は、もはや力を持たなくなる───そういう事か。なるほど、よく考えられている」
「は、あ、え……誰だ、お前……?」
誰も……坂越本人と『エス』以外知らぬはずの秘密の部屋。そこへ突如現れた1人の男に、狼狽する坂越。
「君は君自身の魔術の腕と『エス』とやらの協力もあって、全く人目に付かぬよう逃亡することを徹底していたようだが、人目を気にしすぎるあまり……鳥目には気づかなかったようだね?」
「鳥……?なんだ?なんの事で……」
「何、『ミネルバの梟は黄昏を飛ぶ』というだろう。今回はフクロウではなくキジだった訳だが、君の動きを捉えるのには十分というわけだ」
「……っ、誰なんだ、お前は……!」
男へ向かって襲い掛かる坂越。宝石を握りしめ、魔力を込めた右手を振りかぶる。
「そう難しい事ではないさ。こうして犯人の元へ現れ、トリックをズバリと当ててみせる……そんな事をする人種は、多くはないだろう?」
坂越の右手をするりと受け流し、その腕を取って投げ飛ばす男。
「本職では無いのだが、敢えて名乗るなら……探偵さ」
────────
「『エス』が……」
「この中に……?」
「待ってくださいよ、エスは坂越のサーヴァントだって……」
「そうなの凪澪?」
「……アレは皆さんが勝手に行き着いた結論です」
「そんな!探偵さんあんた何も言わなかったじゃないか!」
狼狽する一向。彼らは口々に現状への困惑を吐く。
それも当たり前だろう。何せ自分へ疑いが向けられているのだから。
「まず、『エス』がサーヴァントであるか否かについてですが、それは別にどうでもいい話です。ただ、サーヴァント自体の能力……霊体化を用いるにしても、部屋から物を盗み去る際には実体化している必要がある。壁や床に傷を付けずに外へ出るなら、鍵の入手は必須です。だから今回の事件に於いて、密室を前にした時人間とサーヴァントはほぼイーブンな条件になる。そして昨夜の坂越はサーヴァントを連れていなかった。少なくとも近くには居なかったように見えました」
「サーヴァントは居なかった、だと?それでエスが我々だって?」
「僕が一度坂越と遭遇し逃した時……彼は僕に向けて閃光弾のようなものを投げました。が、実際それは閃光弾のような役割を果たせる……魔力を圧縮して破裂すると同時に光を炸裂させる宝石だったんです。そこから推測するに、坂越真一は恐らく宝石魔術の使い手……彼の目的は、『玉石』だったんだと思います」
「すみません花巻さん……今回の事件、何が盗まれたんでしたっけ」
「白石さんは今回が初関与でしたからね……一件目が勾玉、二件目が刀、三件目が黒曜石の鏡で……この3つは『擬似神器盗難事件』に見せかけ、我々の警戒を緩めるためのフェイクだった、と先程は仰っていたのに」
「犯人は実際は、勾玉も鏡も欲しかったんです。それらを盗難する中で、刀も盗む事が出来れば『神器っぽいもの』が揃った時点で捜査が暗礁に乗り上げる……ここで本命を4件目に持って来れば、先の3件全てが布石だった事にできる、なんて考えだったのかもしれません。
でも、実際にフェイクだったのは2件目の刀のみ。そして刀が盗まれたという事、そして何より犯人が存在するという事を強調して印象付けるため、犯人と会ったという証言をする必要があった。
そうじゃないですか、『エス』こと……紅鯉美雪さん」
「……なんの事かしら」
「さっきも言いましたが、今回の犯行……窃盗した犯人であるにせよ、或いはその協力者であるにせよ、建物に対する一切の破壊をする事なく侵入するならば……サーヴァントであるにせよないにせよ、1人以上は大社の関係者が関わらなければいけないんです。逆に協力者が大社のスタッフならば、鍵周りの問題は一気に解決されます。単に犯人が帰るのを待って、再施錠して鍵を返せば完全犯罪が成立する」
「それだけで私と言うことにはならないでしょう?それとも……2件目、私だけが犯人を見たから?」
「それはまあ、はい。結構大きなポイントです。2件目も同じように人目を避けて動けばいいのに、わざわざ貴女と遭遇した」
「それを言うなら、白石ちゃんの4件目だって……」
「わ、私は違いますよ!?第一あの時本当に忘れ物を……」
「白石さんが坂越と遭遇してしまったのは、所謂事故だと思います。本来ならば紅鯉さんがあそこを監視して、安全を確認してから侵入する予定だった……けれど彼女、アーチャーが現れて連絡が行えなくなった。だからアーチャーと貴女は比較的現場の近くを巡回して居たのでは?」
「そんなのこじつけよ。大体、近くに居たのは花巻さんだって……」
「む、ワタシか……確かにワタシもあの場に居たが、しかし」
「花巻さんが協力者なら、それこそ2件目で紅鯉さんと遭遇させるなんてヘマはしないと思います。顔を見られるリスクがあるんですからね。そしてそれは今この場にいない青襲さん、アーリンさんも同様……
犯人との遭遇も、ブラフである上、明らかに手口が雑になっているように思える2件目を同一犯だと印象付けるのも、それによって『擬似神器盗難』だと思わせるのも……2件目の当事者である、貴女が1番適任だと思うんです」
「……確かに、他の皆んなにはやる理由がないことは分かったわ。でもどうして?私がやる理由は何があると言うの?」
「……そうですね……紅鯉さん、いや、紅鯉美雪という名前……本名では無いですよね」
「え」
「今……なんと?」
「ふふ、ふふふ……ふふふふふふふ……何を言い出すかと思えば、そんな事?そんな事で、私が犯人だって?あは、あっはははははは……おっかしいの。はいそうです、なんていう訳ないじゃない。私は美雪、ずっと美雪よ?それはずっと……」
「……あれ、花巻さん。夜警の方、どこに行きました?」
「ん?あれ……居ないな。ここに来る時から居なかった気もするが……」
「嘘、じゃあどこに」
「はーいはーい、『出雲』の夜警はここでーす」
駅のホーム、5人より離れたところから声が上がる。
そこには『出雲』の夜警、ジレット、そして2人に縛り上げられて連れてこられた坂越真一が立っていた。
「……嘘」
「もういいよ、美雪。終わりだ、オレたちは」
「犯人は彼で合ってたかな、所長殿?」
「ええ、もうバッチリですジレットさん」
「いつの間にか居なくなったと思ったら!何してたのジレットさん!」
「はは、すまないね。君の弟君に『事件の犯人が居る』とだけ連絡を叩きつけられたものだから……いやはや、いいように使われた」
「お陰で逃さずに済みました。これで……」
「……いうこと」
「どういう事!?どうして……どうして!」
「簡単ですよ。協力者が僕らの近くに居たなら、朝から駅へ行くことは筒抜け。なら犯人はきっと、逆を張って『全く動かない』だろうと思ったんです」
「なので私の鳴女ちゃんで、夜中の内にパパッと追跡しておいたんです。今回は痕跡が残っていたから、視界共有をかければ捜索は容易……脚を運ぶ必要もありませんでした」
「今までの現場には証拠が残らなかったのに、今回は残った……その点からも、協力者が大社の中に居るだろうなという予想はできました。青襲さんとアーリンさんは、現場で『お祓い』をしたと言っていた。それが……所謂証拠消しになっていたんです。お陰で僕が追い掛けるのも、そう簡単にはいかなかった」
「ああ、そう……探偵さん、貴方には何か『見えてる』のね。でも、お祓いでそれをうまく誤魔化せてた……」
「お祓いに関してはホントに偶然でしょう。けれどそれが、ターゲットを絞るきっかけになってしまったんです。お2人がなんでこんな事をしたのか、その動機は全く分かりませんでしたが……あるいはそれも、『エス』というワードでサーヴァントに矛先を向けようとした事だとか、お2人がサーヴァントを連れていないことと関係が?」
「別に。今更探偵サンに喋るほどのもんは持ち合わせてねえよ。ただ、オレたちは宝石が欲しかった。ホントは人間が上手く使うべき道具を、神サマ神サマって有り難がって飾り物にするのが気に食わなかった……そんだけだ」
「……そうですか」
「あのー……そろそろいい?ずっと縛っておくのも難しいし、とっとと連れていきたいなーって」
「最後に、一ついいかしら」
「最後だよー?ホントに最後だからね」
「分かってるわ……いつから、私だって?」
「『エス』ですよ」
「……?『S』なら、他のみんなの方が縁があるじゃない?」
「まさか。紅鯉……『AKAKOI』のうち母音だけで発音するところに『S』を入れてあげると『SAKAKOSI』……坂越になるんです。だから『エス』。違いました?」
「ふ……あーあ、バレてたんだ、それ。じゃあ仕方ないわね。夜警さん、私も連れて行ってちょうだい」
「美雪はオレを手伝ってただけで、罪になるようなことは……」
「はいはい、言い訳は署で聞きまーす。お、きたきた」
駅にぞろぞろと人が入ってくるのが見える。どうやら夜警が呼んだようで、公的機関の人間らしい。
かくして、『偽三種の神器盗難事件』は迷宮入りを回避して幕を下ろした。
朝焼けの光が、徹夜明けの眼にはやけに眩しく感じた。
「……いやはや凪澪くん、今回は大立ち回りだったそうじゃないか」
「確かに凄かったですよ。3年分くらい喋ったんじゃないですか?」
「えー!?そんなに!?私も見たかったな凪澪が頑張るところ!」
「姉ちゃんは一番頑張った推理シーン見てたでしょ。それに……ふぁ……僕だって……ホントは……」
会話の最中、耐えられずに大きな欠伸を吐く。
それと同時に閉じた眼は、睡魔に勝てず開けなくなったのだった。
「そうなんだよ……ですよ!綺麗……じゃなかった、大事な石だったのに」
「別に騒ぐほどの事じゃない。第一祭壇に置きっぱなしにしている程度の石なんだから、ボクとしては別にそこまで」
『出雲』の松江近く、少し閑散とした位置にある探偵事務所に、2人の依頼人が飛び込んで来ていた。
1人は巫女。赤い髪がトレードマークで、彼女は偶然にもこの事務所の所長……標木凪澪とは顔見知り。
もう1人は『出雲』の最重要施設、八百万神祇大社の一角に祭壇を構えていた神にして、先の巫女の契約サーヴァント。
そしてその2人……厳密には巫女の方だけだが……は、事務所の奥に通されるなり緊迫した様子で話し始めたのだった。
「盗まれたんだから大事も大事だよ!それにウチだけの問題じゃないんだしさ、わたしも話したでしょ?」
「それは夜警(ナイトウォッチ)だかなんだか言う人たちが当たってくれるんだろう?わざわざボク達が探偵に頼ってまで騒ぎ立てる事か?」
「ウチだけの問題じゃない、と。それでは、窃盗は複数件起こっているのかね?」
凪澪の姉、紺音の契約したサーヴァント……キャスターを名乗る(実態はフェイカーだが)ジレット……ウィリアム・ジレットが口を挟む。だが、どうやらやはりそこが本題であるようで。
「そうなんです。実のところウチの社……祭壇はトータルだと3件目の被害になります。1件目はサナちゃんとこのお社で、2件目がミユキちゃんとこの……」
「サナちゃんに、ミユキちゃん」
「ああえっと、同僚の巫女たちです。それぞれお手伝いしてる社があるんですが、わたしのところ含めて現在3件、1件目は勾玉を、2件目は刀を」
彼女の言うところによれば、どうやら連続盗難事件であるらしかった。夜警や『出雲』のカレンには既に通達はされたものの、犯人の足取りは全く掴めていないのだと。
「……公的機関が出てくるなら、僕らが出て行く場面ではないのでは」
「そうも思ったんだけどねー、如何せん人手が足りてないみたいでさ。なにせほら、神様頼りなところがあるじゃない?だから割とこう……腑抜けてる?っていうか。ダメかな?」
「……分かりました。僕が出ましょう。織姫も付いてきてくれるかな」
「構いませんけど。報酬は何処から出るんです?」
「受けてくれるんだね?やったやった。報酬は……上手くいけばお上から出るんじゃないかな!」
「だいぶ厚かましいな、ボクのマスターも」
「しかもリターンの程も分からないと来ました。ま……受けたからには、ですね」
「……行きますか」
かくして、依頼者とそのサーヴァント、凪澪、織姫の4名は探偵事務所を出発、出雲の中心部に聳え立つ八百万神祇大社へ向かい始めた。
その間紺音とジレットは事務所で待機と言うことになり、紺音は凪澪が自分を置いて仕事へ行くのが心配で仕方がないようだった。
向かう道中、その事件の現時点での情報を聞かされる。依頼人の巫女であり、凪澪が偶に訪れる魔道具店の店主でもある女性……アーリンが言うには、一件目の社はある日本の神を祀っているもので、盗まれた物品は勾玉。翡翠製だったとの事。そこを担当していたのはアーリンの同僚の青襲沙奈(あおそい さな)という巫女であるらしい。
二件目も同様、日本神話に伝わる存在を祀っていた社で、刀を盗られたという。主に担当していたのは巫女の紅鯉美雪(あかこい みゆき)だそうだ。
そして三件目が彼女、アーリン・ライビンの担当していた社……もとい祭壇の一つ。ここだけ呼び名を訂正せねばならないのは、そこの主である神が遠く中米の地、アステカの神であるからだと。
「……すみません。盗まれた石は、もしやピカピカのピカにお磨きに?」
「ん?そうだね……黒曜石製さ。まあボクにはホントは関係ないんだが、煙る鏡ってあるだろう?」
「テスカトリポカ、ですか。でもこの場合の鏡っていうのは……」
この場の全員が同じことを、口に出さずに思い浮かべていた。
単純に物珍しいアイテムを狙った盗難、という線も無くはない。神に纏わる品物であれば、それぞれ単体でもそれなりには役に立つだろう。
だが、勾玉、刀、鏡……この3つが揃ったとなれば、その目的は凡そ限られてくる。
「それじゃ、犯行はここで打ち切りと言うことでは?」
「その線は正直否定できないとボクは考えてる。だから彼女もキミたちを頼る事にしたんだろうけどね」
「これ以上手がかりが出ないとなると、夜警さん達も犯人まで辿り着けないかもなって。てへ?」
「……まあ、現場を見ない事には、ですね」
かくして事件の発生した現場……八百万神祇大社の一角へ到着した一行。当然といえば当然だが、そこは黄色いテープで封鎖され、余人は立ち入れないようになっていた。
その前には大人の男性が1人立っており、珍しいもの見たさに立ち寄る人々を追い返しているようで、何となく疲れた風の顔をしていた。
「お疲れ様です花巻さん」
「おお、ライビンさんか。いやはや、参拝客が増えてくれるのは嬉しい事だが、そのきっかけがこういう事件というのは如何なものなのか……そちらは?」
「……標木探偵事務所より参りました、標木凪澪と」
「そのサーヴァントです。名前に困るなら……単にアーチャーとでも」
「ボクもアーチャーなんだけど?ま、いいか」
「なるほど探偵さんか。ワタシはまたてっきり物見に来た若者かと……」
「わたしが依頼したんですよ。まあでも?わたしとこの子達と並んで歩いてたらイカした学生の集団みたいに見えちゃうかな?」
「いや、ライビンさんは巫女として年季が入っとる。年齢はともかくとしても今更見間違えはせんさ」
「え」
「……現場を見せてもらっても?」
規制線の前に居た宮司の花巻……花巻聡志(はなまき さとし)と共に、一件目の現場であるエリアへと足を進める。中はややだだっ広く、神社の拝殿が室内に作られてると言った、少しばかり不思議な雰囲気だった。
「これは……現場は発見時のままですか?」
「恐らくはそうです。誰かがこっそり弄ったりしていなければ変化はないはずですが、概ね綺麗にされてましたな」
「犯人は最初から盗むモノに目星を付けてたって事になりますね。第一発見者は?」
「あの、それは……私、です」
背後から声が上がる。振り向いた先には1人、巫女服を着た女性がややおどおどした様子で立っていた。
「青襲……青襲沙奈です。ここで手伝いをしています。えーと……」
「……発見時の事を詳しく聞いてもいいですか」
「は、はい。あの日は、いつも通りに仕事に出てきて、裏で着替えてから朝の掃除をしようとしたんです。それで床や壁なんかを磨いていたんですが、いざ神棚を見てみると、勾玉が……大事な勾玉が、無くなってて……」
「朝来たら、ですか。その前日は?」
「その日は、えっと……少し夜遅くまで神様とお話ししてて、8時に家に帰ったんです。その時には確か、ちゃんとあったはずなのに……」
「失礼ですが、退勤の時に鍵はちゃんと掛けたんですよね?」
「それはちゃんと掛けたはずなんです。私、いっつも鍵かけたか不安になっちゃって、その日も2回は確かめた気がするんです。でも、こんな事が起こっちゃうともう、全然……本当に自分が掛けたか自信が無くなって……」
「……掛けた後の鍵はどこに保管を?」
「それは裏の職員専用エリアですな。当然関係者以外立ち入り禁止ですから、ピッキングでもできるのであれば分かりませんが、外部から侵入するのは簡単じゃあない。扉ごと壊されたような形跡もありませんでしたからな」
続いて2件目。紅鯉美雪(あかこい みゆき)と名乗る、眼鏡を着用した巫女による証言。2件目の現場自体は1件目と似たようなもので、本当に目的のもののみを盗まれたと言った体だった。
「アレは確か、今から帰ろうと部屋の電気を消した時……だったかしら。突然廊下からガタッと物音がしてね?恐る恐る覗いてみたら、真っ黒な服を着た人が外に立ってて……扉の隙間に腕を突っ込んで無理やり入ってきたのよ。私もう怖くって……震えてる内にツカツカと部屋の中に入っていって、刀だけ取って戻ってきたの。それでそのまま、廊下に出るなり猛ダッシュで逃げちゃって……」
「……追いかけたりは?」
「刀を持った男の人よ?私みたいな生身の女1人じゃとても……」
「それはそうかもしれませんが、せめてほら、顔とか……」
「暗くてとても見えなかったわ。ああでも、去り際にこんな事を言ってたわ」
「……なにを?」
「『エスに気をつけろ』……ですって」
「『エス』ですか」
3件目と話を聞いた凪澪と織姫。しかし話を聞き終わった頃には夜になっていて、その日は出雲都市圏にあるホテルに部屋を取る事になった。
部屋は2人で一つ、ツインベッドの部屋。依頼にかかった費用という事で後々請求は出来るものの、現状どこに請求が行くのか分からないのもあって別々で取るという案は却下となった。
「代金が向こう持ちならいっそ2つ部屋を取ってもよかったのでは?」
「……いや、この方が都合がいい。基本的には相手はサーヴァントだ、どこで話を聞かれてるか分からないじゃないか」
「そりゃそうですけど。マスターの『眼』ならそれがどこに居るのかも見えるのでは?」
「その場に居れば確かにそうだが、無茶苦茶な距離まで聞き耳を立てられるサーヴァントなんかが居たら、物理的に遮蔽物を挟む以外には対処しようがない。情報も整理したいし……」
「ま、その通りですが、まずはさっぱりしません?一番風呂は譲りますよ」
「……お湯は張らないけど」
「そのくらいは分かりますよ。ほら先行ってきてください」
彼女に強引に勧められるままシャワーを浴びに向かう。こういった泊まりの経験がそう無いため余り慣れない感覚だったが、確かに確かに複雑な建物を歩き回った疲れが溜まっている事を流れ落ちる湯によって脱力した身体が自覚する。
段々と頭が回らなくなる。とっとと上がって横になりたいという考えが勝り始め、汗を流した身体を雑に備え付けのタオルで拭いていく。
服を着てさて出ようとした、その時。
「お、丁度終わってますね」
「え……」
「何驚いてるんですか。私も入るんだから当たり前じゃないですか」
「あ、うん……」
織姫がこちらが出るのを待たずに入ってくる。
タイミングがタイミングだっただけに若干焦りを覚え、いそいそと出ようとする凪澪だが。
「何出ようとしてるんです。ここで作戦会議しますよ。私は流しながらですけど……どうしたんですか青鯖を口に突っ込まれた様な顔して」
それも当然の事だった。目の前の女は風呂に入りながら話し合いをしようという提案をしてきたのだ。
この様なことも経験のある凪澪ではない。幼い頃には姉に身体を洗われていたこともあるが、そんなのはとうに昔の話だった。
覗くなとだけ釘を刺し、バスタブへ入ってカーテンを閉める彼女。隙間から次々に衣服が投擲され、それをキャッチしては簡便に畳んでいく。
「やっぱり後からでも……」
「シャワー音ほど最適なノイズがどこにあるんです?今こそ一番外から覗き聞きされにくいチャンスなんですよ」
カーテン越しの声。うっすらと彼女の影が映る。
今までも同じ屋根の下で過ごしていた筈の相手だが、この様な状態に陥った事は無い。さっきまで眠気に襲われていたはずが、今は違う何かの襲撃を受けているようで一気に醒めたようだった。
急回転。
「ま、とにかく始めましょう。今回の件、盗まれたものはどれも貴重品ですよね」
「勾玉、刀、黒曜石……の鏡。ぱっと見れば『三種の神器』かな」
「そう考えると犯行はもう終わりです。こちらから出向かなければ、奴さんを捕まえることは不可能でしょう」
「次に冷蔵庫や洗濯機が盗まれる可能性は無いでも無いけどね。ただ前3つに比べると格段に盗難しにくいだろう。どのみち次の犯行が起こるか否かすら、現時点では断定できない」
「余りにも情報が少な過ぎますし、残るは盗んだ方法でしょうね。6日前に起こった1件目と2日前に起こった3件目はどちらも当該区画が営業時間を終えて施錠されてから、です」
「鍵は関係者以外立ち入り禁止の区画に保管、盗み出された形跡はなし……扉が破壊された様な跡もなく、盗まれた現場も目的のブツ以外に荒らされた形跡も見当たらない。だが一方で、4日前の2件目では巫女である紅鯉美雪の目の前で、大胆にも刀が盗み取られたと言っていた」
「犯人の顔に見覚えは無く、傍にはサーヴァントもいた、と。しかもマスターを抱えた状態で高速で撤退できる、ネズミの様なヤツが」
「サーヴァントの能力は主に運動能力か……怪盗か何かならピッキング出来てもおかしくはないかな。侵入だけなら霊体化でできなくもないけど、実体のある宝物の持ち出しは鍵をどうにかしない事には不可能なはずだ」
「1件目と3件目ではわざわざ人のいないタイミングを狙ったのにも関わらず、2件目では正面突破を図ったのも気になりますね。それがどう繋がるのかはイマイチ分かりませんが」
「その際の痕跡が3件全てで残ってなかったのは痛いところだけど。普段ならそこから追ってしまえばそう時間のかからない依頼なんだけど……情報抹消スキルでも持っていたのか」
「情報抹消が可能なら、それこそ2件目も他と同じ様に完全犯罪を成立させてしまえば良かったんです。わざわざマスター共々姿を見られるというリスクを犯してまで、刀を盗みたい理由があった……?」
「刀……広義の剣。勾玉、鏡と揃えて三種の神器と呼ばれるものではあるけれど、よく考えると3件目の黒曜石の鏡を鏡としてしまうのもややこじつけ感があると思うんだ」
「仮に私が勾玉と鏡を盗むなら、確かにセットで刀も盗むとは思いますけどね。その方が収まりが良いですし」
「収まりが良い、か……一種の見立て犯行、という事なのかな?」
「その可能性もあるって程度ですね。しかし日付の刻みも結構ワザとらしいところはある様に思えます。それがアタリなら、本命は……」
「……しかし、もう一個気になるね」
「そうですね。でもそれが何なのか、現状では全くです」
「……『エス』か……」
「すみません顔伏せてもらえますか」
「あ、ごめん」
そんなこんなで会議は終わりを迎え、風呂を出た後の2人は特に事件についての話はせず、そのまま眠って夜を越した。
そして次の朝、ホテルで朝食を取ってから出て、また現場である大社へ向かう。
建物の正面入り口では、昨日大社を案内してくれていた宮司の一人の花巻聡志が2人を出迎えた。
「おはようございます。昨晩はよく眠れましたでしょうか」
「え、まぁ、そうですね。あまりホテル泊まりの経験もありませんでしたが……」
「世界がこうなって以降は旅行などもし難いですからな。東の方には観光と歓楽で派手に稼いでいるモザイク市もあるとは聞きますが、ワタシのような働き人にはあまり縁のない話だ。それじゃ、本日はどこを案内しましょうか」
「そうですね……可能ならこの大社の地図と、可能なら何かこう……目立って盗まれやすそうな品物とか、そういうリストがあるなら」
「前者はお安い御用ですが、後者は中々に難しいですな。神にもプライバシーが求められる時代なもんですから、そういうのは中々門外不出となっておるのです」
「ケッチくせー……と言いたいところですが、私も祀られる側に回ったら多分公開しませんね。悔しいが仕方ないか」
一件一件回って確認する、という方法が頭を過るが、花巻宮司から手渡されたマップに目を通し、現実的でないとかぶりを振る。何らかの方法で痕跡が消されているため、犯人がどういうルートで侵入し盗難したのか、いつもの様には把握できていない。
「天井の梁……アレはどこかに繋がってるんですか?」
「ああいえ、そういうデザインに過ぎません。あそこを伝って別の部屋へ行く、というのは現実的じゃないでしょう。穴を開ければ不可能でもないでしょうが、そんな事をすれば隙間風の音が目立ちますからね」
実際、天井の梁周りに移動用の穴などが開けられた形跡も見当たらなかった。
つまり、鍵のかかった社の個室はやはり密室だという事だ。こんな場所から痕跡を残さずにモノを盗み出せるなど、サーヴァントでもかなり限られるだろう。
「……昨日の2人からまた話を伺いたいんですが」
「昨日の2人、というと青襲さんと紅鯉さんですか。青襲さんは今日は休みで、紅鯉さんしかおりません。今の時間は丁度見回りを……いたいた。おーい、紅鯉さん」
「花巻さん……と、昨日の探偵さん方じゃない。どうなさったの?自分は知ってる事、昨日全部話したと思いますけど」
2件目の現場に居合わせた巫女、紅鯉美雪。彼女が営業終了後、帰ろうとしていたタイミングで侵入し、彼女の制止を振り切って逃走した、という話だった。
「電気を消していたタイミングだったから人がいるとは思わずかち合ってしまった、という事なんでしょうか」
「現時点ではなんとも。もしそうなら随分と間抜けだなーとは思いますけど?」
「とっ捕まえて直接聞いてみるしかありませんなぁ。とはいえ下手人は何処におるやら……」
「……すみません、犯行が起こってから現場で……何か、しましたか。モノをずらしたり、とか……掃除したり、とか」
「まさか、する訳ないわ。自慢じゃないですけど私、よくミステリー番組を見るんです。最初にやる事は現場保存……ですもんね?」
そこで一旦紅鯉美雪とは別れ、今度はアーリン・ライビンの元へ向かう3人。とはいえ彼女に会って聞き出した話は多くなかったが、紅鯉美雪にしたものと同じ質問をした際には「ないない。ああいうのは触らないのが一番ってよく言われてるし……ああでも、サナちゃんがやらなきゃって言ってたから、もう2度と盗人が近寄らない様にってお祓いはしたよ。それ以外には全然、現場のものには触ってないかな」と答えていた。
「青襲沙奈の提案でお祓いをした、ですか」
「心配性な節がある彼女か。その事に関しても話を聞けたらよかったんだけど、今日は休みだもんなー……」
「どうしましょうか、これから」
「1件目と2件目の社の神様はモノが盗まれたってだけでカンカンで出てきてもくれないらしい。そんな態度を取るんだから、犯行に関与してない……って見方が正しいのかな」
「3件目……あの神サマの祭壇は、そもそも犯行当時空けていたみたいですね。鍵は閉めてたし、ホントに誰も見てないと。手がかりは2件目の証言だけだが、それも暗闇でイマイチよく見えなかった……あーもう、全然手がかりが足りないじゃないですか!」
「いや、そうでもない。なんとなくのカンだけど、今日何かがありそうな気がする。そういう流れだ、これは」
「……随分便利な眼ですね、それも。それで?何をどうするんです?」
「そうだね……今夜はここを張ろう。花巻さんにこっそり許可を得て、夜中ここの巡回を……」
「来なかったら?」
「それはそれでヨシだよ。犯人の狙いは、今夜の動きでなんとなく掴める気がするんだ」
そして、その夜。
2人は花巻宮司に許可を取り、織姫が建物内を、凪澪が建物の外を見回る事になった。当の花巻もまたそれに加わる形になり、建物内を2人が、外を1人が張っている状態。
時刻は夜9時。殆どの社が既に戸を閉めており、もうすっかり建物全体が暗くなっていた。
「……さて、鬼が出るか蛇が出るか、ですね」
───事件のあった区画を除けば、大社は今も参拝客を普通に受け入れている。もし『次』があるとすれば、それら参拝客に紛れて下見できる位置にある社だろう。犯人そのものの痕跡は今は見分けが付かないから僕は内側は見ない。もしターゲットが来たら、その場で捕縛を狙ってくれていい。ただ、犠牲は出さないでね────
「私だって面倒事が起こしたいんじゃないし、犠牲なんか出さないってんですよ……あれ?」
織姫が持つ懐中電灯の照らす先、暗い通路に人影が過ぎる。人影の方も織姫の存在に気づいた様で、此方へと近づいてきた。
「探偵さんところのサーヴァントさんじゃないですか」
「アーチャーで結構ですよ、紅鯉さん……でしたっけ」
「ふふ、合ってますよー。こんな時間に何を?」
「ああ、ちょっと……見廻りをね。丁度今夜は雲もかかってて暗い。泥棒日和でしょう?」
「まるで泥棒さんみたいな事を言うんですね。しかし言う通りかも……その見廻り、私も同行しても?」
「断ると逆に怪しいし私は構いませんけど、これから仕事上がりだったのでは?」
「あ、ええ、それはそうですが……もし大捕物があるなら、見といた方がお得じゃありません?それに本当にアーチャーさんが泥棒だったらいけない」
「貴女ねぇ……随分お気楽な」
と、そう言いかけた時。
「────○□△×⭐☀!!!!!誰かぁぁあーッ!!!!!!」
ひとけの無い建物内に声が響く。それは間違いなく、『何かが起こった』事を意味していた。
「はぁ───……ビンゴか……!」
「あら、ホントに来たんですね。やっぱり探偵さんは凄い」
「言ってる場合ですか……走りますよ!」
声の方向へ駆ける。複雑な構造の建物ではあったが、肝心のポイントはそう遠くなく直ぐに着いた。
殆どの扉が施錠された中で、唯一開け放たれた部屋。その入り口で女性が1人倒れ込んでいた。
「何があったんです?」
「分かりませんけど、誰かが入り込んでて……あっちへ逃げたんです!あの人、ここの宝玉を……!」
「ぐわっ!?お前、どこへ────…………ダメだ、速いな……」
女性を介抱する紅鯉、犯人とぶつかり、追おうとしたがその速さもあって直ぐに見失ってしまった花巻。
建物内にいる全員が、1箇所に集まってしまった様だった。
─────と言う事なんですけど、どうです、そっちは?
─────了解。ちょうどその辺りの前に待機してるよ。
「……おや、先回りされていた?凄いね……君が『探偵』か」
建物の正面でない他の入り口……職員が主に退勤時に使用する……の前で張っていた凪澪の視界に、人影が姿を現す。
暗色で固めた服を着た彼からの問いかけに、凪澪は口を開かない。
無言で一歩、男の方へとにじり寄る。
「おっと、それ以上近づかない方がいい。オレのサーヴァントが首をスッパリ行っちゃうかもしれないぞ、と」
その一言に、凪澪はピタリと足を止める。が、それがブラフである事はおよそ察知できていた。力の流れからして、彼のサーヴァントはここには居ない。視界の中に居ない以上、凪澪は背後を警戒した。
居ない。
「随分疑り深いんだな、探偵さん?何も取って食おうってんじゃねぇさ。けどそうだな、一つだけ」
そう言って、男は息を吸う。
「……お前たちは、オレを捕まえられない。心強い協力者が居るからな」
「協力者」
「お、やっと喋った。そう、協力者だ……オレは『S』と呼んでるがな」
「……呑気だね」
「言ったろ?アンタらはオレを捕まえられ───」
「マスター!?どうですかー!?」
「うおっ!?もう来やがった!?見かけによらずすばしっこいなお前さんのサーヴァント……最後に自己紹介でもしておこうか、オレは坂越、坂越真一だ。じゃあな、あばよちびっ子探偵!」
その言葉と共に、男が何かを放り投げる。投擲された物体から放たれた閃光に一瞬目を塞ぐ内、男は居なくなっていた。
残された奴の動きの「流れ」は見えていたものの、今の一瞬の内に消えたのを見せられて、素直に追おうと言う気にはならなかった。
「……あれ、犯人は?」
「……逃げられた」
「はぁ!?せっかく挟み撃ちにしたのにですか!?何やってるんですか!」
「おーい!どうなったぁー!」
建物からぞろぞろと人が出てくる。
巡回していた3名と、悲鳴を上げた女性……彼女の話も聞かねばならない。
騒ぎを聞いて駆けつけた『出雲』の夜警も加わって、その日の夜は会議になった。
犯人の男、坂越と協力者『エス』の存在。それは関係者全員の知るところとなったと同時に……今回の第一発見者、大社の巫女の一人である白石結衣(しらいし ゆい)からの証言も聞く事になった。
彼女はとっくに退勤済みの時間であったが、忘れ物を思い出して戻ってきたところ、自身の担当する社に侵入していた坂越と遭遇、突き飛ばされて倒れていたところを織姫に見つかった、という流れのようだ。
会議の中で、『エス』はSurvantのSだろうという方向で意見は一致していた。そして坂越の本命はこの4件目で、残りの3件は神器盗難事件に見せかけるためのフェイク……今まで1日おきに犯行を起こしていたのに今回は2日開けたのも、この日に油断させるためだというのは、凪澪もなんとなく予想していた事だった。
結局は逃してしまった訳だが、その予想が当たったおかげで坂越の顔を拝む事はできた。
そして会議の終わり、凪澪にせっつかれて織姫が声を上げる。
「恐らく犯行はこれが最後です。となれば、奴は逃亡を図るでしょう。とはいえこの出雲から出る方法は、海路か陸路しかありません。隣接する『神戸』か、あるいは海を越えるなら港か。どちらに行くにせよ、ここからは一度東へ向かう必要があります。となれば、犯人は確実に─────
「『駅へ向かいます』……なーんて貴方のアーチャーは言っていたけれど、本当に当たるのかしら……探偵さん?」
未明、始発の電車が出る前に駅へと向かう。メンバーは凪澪、織姫、花巻宮司、紅鯉、白石の合計5名。
その足取りはやや逸っていて、犯人の確保に焦っているようでもあった。
「……紅鯉さん」
「美雪でいいわよぉ。それで?みんなして朝イチの電車を狙いに駅へ行く、って。捕まえられるの?」
「……とかく捜査は数ですから。なんなら駅にもう一人待ち伏せしてもらえば良い話ですし、そのために姉に連絡も入れました。なんとでもなるはずです。それに……」
「それに?」
「わざわざ名前をバラしてくれたんだ。早々にここを立ち去るつもりなのは間違いないと踏んでます。僕が犯人だったら、そんな事はどんな状況でもしませんが……よほど自信があるんでしょうね。あるいは『エス』への信頼からか……」
「ふふ。すごいわ。よく見てるのね」
「……それができなきゃ、探偵なんか出来やしません……そう言ってる間にほら、駅です」
明け方の駅へと踏み込む一行。東へ向かう電車のためのホームには、人影が一つだけ。電車の姿はそこにはない。
「……あれ?上りの電車が居ないわね」
「まさか間違えたんじゃ……」
「あ、おーい!凪澪ー!」
「姉ちゃん。どう、上りの電車は」
「もうバッチリ。乗っていく人の顔しっかり見たけど、送られてきた画像の人はいなかったよ」
「そっか。ナイスだった姉ちゃん。朝早くからありがとう」
「いいんだって。で、これどういう状況?」
事情を知る凪澪と織姫はともかく、花巻、紅鯉、白石の3人はまだ事態が理解できていないようだった。だが一足先に何かに思い至ったのか、段々と血の気が引く花巻宮司。
「まさか……まさか坂越を逃してしまったんじゃ……」
「え……」
「そんな……せっかくのチャンス、だったのよね……?」
他の2人もその発言で蒼白し、それぞれが口々に、適当な推測でここへ連れてきた凪澪達への非難を始めた。
「……すみません。最初に断っておかなければならない事があります。確かにこれはチャンスではあったんです。でもそれは、坂越を捕まえるチャンスではなく……『エス』を捕まえる、そのチャンスです」
「『エス』は……この中に居ます」
────────────
「エスがバレた……!?マズい、助けに……」
『出雲』都市圏、住宅街の一角のやや高層の建物が並ぶ地区に、半地下となっている部屋が存在した。
ここが『坂越真一』の隠れ家であり、探偵ら一向が駅へ向かっている間、彼はずっとここで息を潜めていた。
名前まで明かせば、彼らは確実に犯人が逃亡すると考える。この『出雲』で最も簡便な移動手段は電車……それを朝イチで使うだろうと。
だから、この日は動かない。一切動かずに推理を外した探偵の発言は、もはや力を持たなくなる───そういう事か。なるほど、よく考えられている」
「は、あ、え……誰だ、お前……?」
誰も……坂越本人と『エス』以外知らぬはずの秘密の部屋。そこへ突如現れた1人の男に、狼狽する坂越。
「君は君自身の魔術の腕と『エス』とやらの協力もあって、全く人目に付かぬよう逃亡することを徹底していたようだが、人目を気にしすぎるあまり……鳥目には気づかなかったようだね?」
「鳥……?なんだ?なんの事で……」
「何、『ミネルバの梟は黄昏を飛ぶ』というだろう。今回はフクロウではなくキジだった訳だが、君の動きを捉えるのには十分というわけだ」
「……っ、誰なんだ、お前は……!」
男へ向かって襲い掛かる坂越。宝石を握りしめ、魔力を込めた右手を振りかぶる。
「そう難しい事ではないさ。こうして犯人の元へ現れ、トリックをズバリと当ててみせる……そんな事をする人種は、多くはないだろう?」
坂越の右手をするりと受け流し、その腕を取って投げ飛ばす男。
「本職では無いのだが、敢えて名乗るなら……探偵さ」
────────
「『エス』が……」
「この中に……?」
「待ってくださいよ、エスは坂越のサーヴァントだって……」
「そうなの凪澪?」
「……アレは皆さんが勝手に行き着いた結論です」
「そんな!探偵さんあんた何も言わなかったじゃないか!」
狼狽する一向。彼らは口々に現状への困惑を吐く。
それも当たり前だろう。何せ自分へ疑いが向けられているのだから。
「まず、『エス』がサーヴァントであるか否かについてですが、それは別にどうでもいい話です。ただ、サーヴァント自体の能力……霊体化を用いるにしても、部屋から物を盗み去る際には実体化している必要がある。壁や床に傷を付けずに外へ出るなら、鍵の入手は必須です。だから今回の事件に於いて、密室を前にした時人間とサーヴァントはほぼイーブンな条件になる。そして昨夜の坂越はサーヴァントを連れていなかった。少なくとも近くには居なかったように見えました」
「サーヴァントは居なかった、だと?それでエスが我々だって?」
「僕が一度坂越と遭遇し逃した時……彼は僕に向けて閃光弾のようなものを投げました。が、実際それは閃光弾のような役割を果たせる……魔力を圧縮して破裂すると同時に光を炸裂させる宝石だったんです。そこから推測するに、坂越真一は恐らく宝石魔術の使い手……彼の目的は、『玉石』だったんだと思います」
「すみません花巻さん……今回の事件、何が盗まれたんでしたっけ」
「白石さんは今回が初関与でしたからね……一件目が勾玉、二件目が刀、三件目が黒曜石の鏡で……この3つは『擬似神器盗難事件』に見せかけ、我々の警戒を緩めるためのフェイクだった、と先程は仰っていたのに」
「犯人は実際は、勾玉も鏡も欲しかったんです。それらを盗難する中で、刀も盗む事が出来れば『神器っぽいもの』が揃った時点で捜査が暗礁に乗り上げる……ここで本命を4件目に持って来れば、先の3件全てが布石だった事にできる、なんて考えだったのかもしれません。
でも、実際にフェイクだったのは2件目の刀のみ。そして刀が盗まれたという事、そして何より犯人が存在するという事を強調して印象付けるため、犯人と会ったという証言をする必要があった。
そうじゃないですか、『エス』こと……紅鯉美雪さん」
「……なんの事かしら」
「さっきも言いましたが、今回の犯行……窃盗した犯人であるにせよ、或いはその協力者であるにせよ、建物に対する一切の破壊をする事なく侵入するならば……サーヴァントであるにせよないにせよ、1人以上は大社の関係者が関わらなければいけないんです。逆に協力者が大社のスタッフならば、鍵周りの問題は一気に解決されます。単に犯人が帰るのを待って、再施錠して鍵を返せば完全犯罪が成立する」
「それだけで私と言うことにはならないでしょう?それとも……2件目、私だけが犯人を見たから?」
「それはまあ、はい。結構大きなポイントです。2件目も同じように人目を避けて動けばいいのに、わざわざ貴女と遭遇した」
「それを言うなら、白石ちゃんの4件目だって……」
「わ、私は違いますよ!?第一あの時本当に忘れ物を……」
「白石さんが坂越と遭遇してしまったのは、所謂事故だと思います。本来ならば紅鯉さんがあそこを監視して、安全を確認してから侵入する予定だった……けれど彼女、アーチャーが現れて連絡が行えなくなった。だからアーチャーと貴女は比較的現場の近くを巡回して居たのでは?」
「そんなのこじつけよ。大体、近くに居たのは花巻さんだって……」
「む、ワタシか……確かにワタシもあの場に居たが、しかし」
「花巻さんが協力者なら、それこそ2件目で紅鯉さんと遭遇させるなんてヘマはしないと思います。顔を見られるリスクがあるんですからね。そしてそれは今この場にいない青襲さん、アーリンさんも同様……
犯人との遭遇も、ブラフである上、明らかに手口が雑になっているように思える2件目を同一犯だと印象付けるのも、それによって『擬似神器盗難』だと思わせるのも……2件目の当事者である、貴女が1番適任だと思うんです」
「……確かに、他の皆んなにはやる理由がないことは分かったわ。でもどうして?私がやる理由は何があると言うの?」
「……そうですね……紅鯉さん、いや、紅鯉美雪という名前……本名では無いですよね」
「え」
「今……なんと?」
「ふふ、ふふふ……ふふふふふふふ……何を言い出すかと思えば、そんな事?そんな事で、私が犯人だって?あは、あっはははははは……おっかしいの。はいそうです、なんていう訳ないじゃない。私は美雪、ずっと美雪よ?それはずっと……」
「……あれ、花巻さん。夜警の方、どこに行きました?」
「ん?あれ……居ないな。ここに来る時から居なかった気もするが……」
「嘘、じゃあどこに」
「はーいはーい、『出雲』の夜警はここでーす」
駅のホーム、5人より離れたところから声が上がる。
そこには『出雲』の夜警、ジレット、そして2人に縛り上げられて連れてこられた坂越真一が立っていた。
「……嘘」
「もういいよ、美雪。終わりだ、オレたちは」
「犯人は彼で合ってたかな、所長殿?」
「ええ、もうバッチリですジレットさん」
「いつの間にか居なくなったと思ったら!何してたのジレットさん!」
「はは、すまないね。君の弟君に『事件の犯人が居る』とだけ連絡を叩きつけられたものだから……いやはや、いいように使われた」
「お陰で逃さずに済みました。これで……」
「……いうこと」
「どういう事!?どうして……どうして!」
「簡単ですよ。協力者が僕らの近くに居たなら、朝から駅へ行くことは筒抜け。なら犯人はきっと、逆を張って『全く動かない』だろうと思ったんです」
「なので私の鳴女ちゃんで、夜中の内にパパッと追跡しておいたんです。今回は痕跡が残っていたから、視界共有をかければ捜索は容易……脚を運ぶ必要もありませんでした」
「今までの現場には証拠が残らなかったのに、今回は残った……その点からも、協力者が大社の中に居るだろうなという予想はできました。青襲さんとアーリンさんは、現場で『お祓い』をしたと言っていた。それが……所謂証拠消しになっていたんです。お陰で僕が追い掛けるのも、そう簡単にはいかなかった」
「ああ、そう……探偵さん、貴方には何か『見えてる』のね。でも、お祓いでそれをうまく誤魔化せてた……」
「お祓いに関してはホントに偶然でしょう。けれどそれが、ターゲットを絞るきっかけになってしまったんです。お2人がなんでこんな事をしたのか、その動機は全く分かりませんでしたが……あるいはそれも、『エス』というワードでサーヴァントに矛先を向けようとした事だとか、お2人がサーヴァントを連れていないことと関係が?」
「別に。今更探偵サンに喋るほどのもんは持ち合わせてねえよ。ただ、オレたちは宝石が欲しかった。ホントは人間が上手く使うべき道具を、神サマ神サマって有り難がって飾り物にするのが気に食わなかった……そんだけだ」
「……そうですか」
「あのー……そろそろいい?ずっと縛っておくのも難しいし、とっとと連れていきたいなーって」
「最後に、一ついいかしら」
「最後だよー?ホントに最後だからね」
「分かってるわ……いつから、私だって?」
「『エス』ですよ」
「……?『S』なら、他のみんなの方が縁があるじゃない?」
「まさか。紅鯉……『AKAKOI』のうち母音だけで発音するところに『S』を入れてあげると『SAKAKOSI』……坂越になるんです。だから『エス』。違いました?」
「ふ……あーあ、バレてたんだ、それ。じゃあ仕方ないわね。夜警さん、私も連れて行ってちょうだい」
「美雪はオレを手伝ってただけで、罪になるようなことは……」
「はいはい、言い訳は署で聞きまーす。お、きたきた」
駅にぞろぞろと人が入ってくるのが見える。どうやら夜警が呼んだようで、公的機関の人間らしい。
かくして、『偽三種の神器盗難事件』は迷宮入りを回避して幕を下ろした。
朝焼けの光が、徹夜明けの眼にはやけに眩しく感じた。
「……いやはや凪澪くん、今回は大立ち回りだったそうじゃないか」
「確かに凄かったですよ。3年分くらい喋ったんじゃないですか?」
「えー!?そんなに!?私も見たかったな凪澪が頑張るところ!」
「姉ちゃんは一番頑張った推理シーン見てたでしょ。それに……ふぁ……僕だって……ホントは……」
会話の最中、耐えられずに大きな欠伸を吐く。
それと同時に閉じた眼は、睡魔に勝てず開けなくなったのだった。
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