『青の亡霊、旭の居鶴』
最終更新：ID:Xu2xplwGIQ 2018年02月25日(日) 00:55:52履歴
―――――あの海の事を思い出す。
硝煙と磯の香りが入り交じる海原で、飛び交う銃弾と戦火の嵐。
幾つもの命が落された。幾つもの志が堕とされた。あの星条旗を掲げたモノに。
無論、それが戦争の宿命であると理解はしているし、過去を悔いる事はない。
少なくとも、この私――――“ライダー”として在る瑞鶴に、彼らへの恨みや憎しみは“必要ない”からだ。
だというのに、未だにこうしてあの海の夢を見るのは、瑞鶴という霊格に刻まれた一縷の恩讐故なのか。
例えるなら、それは「錆」。拭っても削っても現れる、私に宿命づけられた“起源”に近いモノ。
『どうしたそんなものか！ソロモンの、サンタクルーズ諸島の頃の気迫はどうした！』
……エンタープライズ。
貴女に対する感情だけが、未だ私の霊格にこびり着いている。
爆撃に軋む船体、燃え盛る甲板、響き渡る万歳三唱。その狭間で聞こえた声が反芻される。
そうだ。私はあの時、万全とは言い難かった。言い訳―――といえば、そうなのだろうと答えることしか出来ないけれど。
当時戦い、散っていった彼らが無能だったと言うわけではない。ただ、彼らは太平洋の空に出るには“早すぎた”。
ましてや……我ら海軍の英雄たちと凌ぎあった太平洋艦隊の連中だ。皮肉にも、我々は彼らを育ててしまっていたのだ。
『七面鳥撃ち』。その言葉を思い出すたび、脳裏が焼き付くような怒りを覚える。
あの海、エンガノ岬沖の一部始終。
もう一度あの戦いをやり直せたのなら、と。もう一度、万全な状態でエンタープライズと戦えたのなら、と。
英霊となって尚…………いや。この思いがあったからこそ、私は“英霊”としてここに在るのかもしれない。
私達が勝っていたら、などと大それた願いではなく、純粋に、ただ私を葬った彼女への再戦を――――――――
―――――――……っ？
そこまで思考を巡らせて、初めて脳裏が足を止めた。
エンタープライズ……彼女は確かに、私を葬った者のはず。
幾度と無く鎬を削り合い、その果てに私が敗れた、唯一の………………
……違う。
ノイズをかけられたかのように、或いは「思い出すな」と告げるかのように思考が霞む。
それでも、私は初めて疑問を抱いた。今まで当然だと思い込んでいた“私の結末”に。
ああ、目覚めが近い。
いつも見慣れた“あの海”が、雷鳴という覚醒に飲まれて行く。
曇天の中、沈みゆく私は目を凝らし、彼女―――エンタープライズに目を凝らす。
そう。その、仇敵の隣りにいるモノが。
蒼い靄に包まれた、朧げな輪郭で佇むモノが。
鉛の空に紛れるように、不敵に嗤って呟いた。
――――――――――――――――――
瑞鶴 絆クエスト 『青の亡霊、旭の居鶴』
――――――――――――――――――
「はー…やっぱりマスターの部屋が一番落ち着くわねー……
米軍艦艇用の部屋も用意してもらってるけど……ネバダのおじさんとミズーリがいると作戦司令部っぽくて気が抜けないのよ
と、私のマイルームに平然と現れ、アイス片手に腰を掛けている長身の女性。
色の髪を揺らし、すらりと伸びた綺麗な足をぱたぱたとさせ、落ち着いた笑顔を浮かべてアイスを頬張る。
そんな彼女の名は「エンタープライズ」。彼女は確かに英霊ではあるが、“人”としての英霊ではない。
軍艦―――そう呼称される艦艇のうち、「航空母艦」に分類される存在。すなわち、兵器の英霊である。
初めてカルデアに表れた時は驚いたものだが……いつしか艦艇の英霊も増え、そう珍しいものではなくなった。
それも今では、国籍別にそれぞれ部屋が割り当てられるほどに増えているのだ。
まあ、このカルデアにおいて私、藤丸立花のマイルームに誰かが駆け込んでくるのは日常茶飯事であるが……
しかしこう、私のプライベートというものも尊重してはくれないだろうか。
「それはまあ、このアイスに免じて！ね？」
…………確かに美味しいけど。
私一人の時間も欲しい！という愚痴すら封殺してしまうこのアイスの美味さ、流石は合衆国と言ったところか。
この宝具、エジソンにバレたら色々と興味を示すんだろうなあ……などと思考を巡らせつつ、貰ったストロベリーのアイスを一口。
にしても……アメリカ軍の英霊はいっぱいいるけど、空母はエンタープライズだけなんだね？
「ええ、そうね。自分で言うのものなんだけど、アメリカじゃ「軍艦といえばエンタープライズ！」みたいなところはあるし……
あ、でも
「そうね、例えばドジっ子だけど私と同じく太平洋戦争開戦時に参加してて、最後まで生き延びたサラとか？」
ネバダや長門がたまに言ってた空母だね？
ドジっ子……というのはちょっと気になるけど、やっぱりエンタープライズ以外にもいるんだ。
「そりゃそうよ！ステイツの生産能力は世界一、月刊空母の逸話は伊達じゃないわ！
……まあ、流石にエセックス級の小娘達は霊格が足りなすぎると思うけれどね？」
「それに、サラよりも有名な空母といえば……あの子の姉かしら？
私と同じ太平洋戦争勃発時から参加した最古参で、米空母の中じゃレンジャー姉さんに次ぐ――――――」
と、エンタープライズが自慢げに語りかけたその瞬間。
「―――――マスター！！」
唐突にマイルームの扉が開き、切迫した声が鳴り響く。
思わず身が竦んでしまい、危うくアイスを零すところだったが……安堵のため息を漏らして振り返る。
どことなくマシュにも似た声。けれどマシュより少し大人な、そんな声の持ち主は
長身で、スレンダーで、迷彩柄の羽織を被った……呆気にとられた様子のエンタープライズに見つめられている……
「……行きたい場所が出来たんです
もしお時間に余裕があれば…………共にレイシフトを、お願いできませんか」
空母瑞鶴。エンタープライズとはライバル……？関係にある、日本帝国海軍の幸運艦だった。
しかし今日の彼女は様子が違う。いつもはもっとお淑やかで落ち着いた雰囲気なのに、今は真逆だ。
肩で息をするほど息は上がり、頬を伝う汗を拭いながら羽織を整える。その様子は傍目にも異常に写ったようで
エンタープライズも思わず彼女の元へ駆け寄り、様子を伺うように話し掛けた。
「……どうしたの、瑞鶴？貴女がそんなに焦ってるなんて珍しいわね」
「エンタープライズ……ちょうど良かった。 いや、良くはないんだけど……
貴女も一緒に来てください。連帯責任、というやつです。拒否権はありません」
「なんでよ！？ネバダのおじさんかエルドリッジが何かやらかしたの！？それで私が連帯責任になるのは理不尽よー！」
……エンタープライズの声を聞いて、瑞鶴の表情が少し柔らかくなったのは気のせいだろうか。
ともかく、突然現れレイシフトを願い出た瑞鶴は、ちょうど（不運にも）居合わせたエンタープライズをも巻き込んで向かうつもりのようだ。
ほら、だから言ったのに。私の部屋は隠れ家じゃなくてトラブルの待合所だ、って。
「もっと早く忠告してよ！…………はぁ、まあいいわ。貴女がそこまで緊迫するなんて自体、ただ事じゃないだろうし
この私が！USS CV-6エンタープライズが！手を貸してあげる！」
「「…………で、どこに向かうの？」」
思わずエンタープライズとハモってしまった。
彼女の言うように、瑞鶴がこれほど取り乱して自らレイシフトを志願するなどただ事ではない。
二人の同時の問いかけに対し、息を整えた瑞鶴は一言、神妙な面持ちで行き先を告げる。
「―――――――1944年、10月25日。場所はエンガノ岬沖です」
（レイシフトのおと）
『到着だ。10月25日、1944年のエンガノ岬沖。
……まあ、流石に海に放り出すわけにも行かないから、位置は少し調整させてもらったけどね』
ダ・ヴィンチちゃんの無線すら耳から通り抜けてしまうほど、門前に広がる光景に目を奪われていた。
ルソン島、エンガノ岬。太平洋に突き出た岬は、遥か左手に台湾を望む――――――嘗ての大戦の激戦地。
正直、私は戦史に疎いし、艦艇の英霊たちからちょくちょく教えてもらう程度の知識しかないけれど
この場所は知っている……以前大和ちゃんが語っていた、あの―――――。
『レイテ沖海戦……か。尤も、主戦場だったレイテ沖やシブヤン海はもっと南だけどね
このエンガノ岬という場所は……空母瑞鶴、そして空母エンタープライズ。二人にとっての因縁の地だ』
……つまり、この場所は二人にとってのライヘンバッハの滝？
『なるほど、それは適切な表現かもね
何度も出会い、戦い、鎬を削り合ったライバル同士の決着の地……少々条件は違うけれど』
『……本来なら、サーヴァント一人の願いでレイシフトなんて大事は許可されないんだけどね
どんな偶然なのか……今君達がいるエンガノ岬は、我々の知るその時代のエンガノ岬とは異なっている』
ダ・ヴィンチちゃんの言葉の意味を、私は確かに感じ取っていた。
この空気は、何か“違う”……ただレイシフトしただけでは、ここまでの違和感は覚えない。
例えるのなら、この感覚は―――――――
『特異点……尤も、今まで解決してきたものとは比べ物にならない、ほんの些細な“錆”のようなものだ
何故このような異常が観測されているのかは不明。その調査も兼ねて、空母瑞鶴のレイシフトを許可したのさ』
『まさしく一石二鳥！瑞鶴くんは願いが叶って、我々も調査の大義名分を得られた
これで無事特異点を解決出来れば一石三鳥……というわけさ』
それはいいんだけど……それよりまず、やらなきゃいけないことが。
瑞鶴！エンタープライズ！いい加減睨み合うのはやめて調査に行くよ！
それに、瑞鶴はここでやることがあるんでしょ？
「ああ、ごめんなさいねマスター……
瑞鶴、何故私まで
「言われるまでもありません！……わざわざマスターにまで着いてきて頂いた理由は一つ
…………私の記憶を確かめるため、です」
記憶を？
思いがけない答えに思わず、素っ頓狂な言葉を返してしまう。
英霊は皆生前の記憶を受け継いで現れるものだが……その記憶に間違いでも？
「間違い、と思いたくはありませんが……
先日見た記憶の中で、妙な違和感があったもので」
「その違和感を晴らすため、自分の記憶を確かめるため、このエンガノ岬を訪れた……というわけです
正しくは―――――「エンガノ岬沖海戦での私の結末」を知るため、ですね」
……それって、もしかして。
瑞鶴の結末、という言葉を聞いた途端、私は思わず目線を彼女の隣へと向けてしまった。
そう……私が知っている記憶が正しければ、彼女の結末に関わった一人者は
「…………へぇ？この私に負けたことがまだ信じられない、って事？」
ああ、殺気立っていらっしゃる！
辛うじて笑顔を浮かべているが、目が笑ってない！据わっている！怖いですよエンタープライズさん！
しかし彼女の怒りも最もといえば最もだ。瑞鶴は「自分の結末を確かめる」為にこの地点へのレイシフトを望んだ。
それはつまり、自分の死に際を今一度確かめるというわけで……エンタープライズが瑞鶴を倒した、という史実に疑問をいだいている、ということにもなりかねない。
「……いえ。大っっっ変遺憾ですし、正直今でも悔いはありますが、そこに恨みや憎しみ……疑問はありません
この私、瑞鶴を撃沈にまで導いたのは…………エンタープライズ、貴女ただ一人であると認識しています」
「しかし、この“戦い”を何度も思い返す中で、一抹の違和感を覚えてしまったんです
あの時、あの瞬間、貴女の隣に立っていた誰かが……どうにも気にかかってしまって」
「私の隣……？確かにあの時、私以外にも空母は参加していたけど……
…………貴女の撃沈に貢献した子なんて、そう多くはいないと思うわ。それこそエセックス級の子達とか……」
『英霊が見る夢は、基本的に過去の出来事の
新たな発見なんて滅多に起こることではないし……』
『もしかすると、この特異点と瑞鶴くんの夢が何らかのカタチで繋がってしまったのかもしれない
となれば……その“誰か”とやらが、この特異点解決の手がかりになる可能性があるかもだ』
二人（画面越しのダ・ヴィンチちゃんを含めると三人）一緒に眉を顰め、思考に耽るように顎を指へと乗せる。
だが言わずもがな、私はその“誰か”を知る宛も無く、傍らで二人の議論が終わるのを待つだけとなっていた。
……にしても、静かだ。言葉を交わす三人の声以外、この岬に響くのは潮騒だけ。戦果真っ只中だというのに銃撃の音一つ聞こえない。
位置が離れている？にしても静か過ぎると思う。それにあの青空――――硝煙一つ、浮いていない。
「……ひとまず、ここじゃ埒が明かないわね
実際に沖に出てみるとしましょう。私達の加護があればマスターも海面を航行できる……と、思うわ」
「艦載機に乗せていくのは――――いえ、聞かなかったことにしてください
ここで空を飛ぶのは自殺行為ですね。私の子でも貴女の子でも、飛んでたら問答無用で撃ち落とされますし」
『慎重に進んでくれよ？こっちのバックアップもあるとは言え、そこは海戦の真っ只中だ
第五特異点での二の舞い、なんて事にはならないようにね？』
こうも静まり返っていると、大戦屈指の激戦地にいるとは思えないんだけど……。
とは言え油断は禁物。アメリカの時みたいに……砲弾の直撃を受けて吹き飛ぶ、なんてゴメンだし。
ま、私には幸運の護衛艦が二人も着いているんだから、そんな心配するだけ野暮かもしれないけれど。
「そういう事。大丈夫よ、攻撃機の一つや二つ簡単に撃ち落としてあげるわ！」
「爆撃であればお任せを。私の我儘で着いてきて貰ったんです、マスターに手間はかけさせませんよ」
自慢げに微笑む二人の顔を見ていると、僅かに浮かんだ不安もどこへやら。
……成る程、これが多数の軍艦に護衛される商船の気持ちなのか。心強いし、何より……とても安心する。
海へと進む二人の後を足早に追いかけ、私はエンガノ岬を後にする。
向かうはあの海、エンガノ岬沖。傍らの二人が嘗て凌ぎあった、因縁の地へ。
―――――――――――――――――
『偵察機からの反応が返ってきた
けど、うん…………君達にはもう必要ない情報かもしれないね』
……しばらく海を進んだところで、私はようやく静けさの意味を知った。
戦場に近づけば近づくほど、次第に爆撃や砲撃の音が聞こえ始めた。そして次第に、その様子も見えてくる。
その様子が……思い描いていた光景とは一線を画す、その様子が。
「―――――――これは」
全員―――――擬人化している！！
海原を駆け、硝煙を纏い、爆撃を伴って進む彼/彼女らは、余すこと無く「人」の姿を取っていた。
呆気にとられていたのは私だけではない。瑞鶴も、エンタープライズも、ダ・ヴィンチちゃんも……いや、彼女は「呆れている」と言った方が適切か。
当然、繰り広げられる海戦のスケールも、史実のものよりも何回りも小さいのだろう。であれば遠巻きからは何も聞こえないのも当然だ。
それでも、こうして近づいてみれば、爆撃の度に肌へと打ち付けるような衝撃が走る。
……まあ、艦艇が擬人化して現れる、というのは慣れているし、カルデアに戻れば何人もの証人がいる。
故に彼らに対しての驚きは少ないが……解せないのは「何故この場の彼らまで擬人化しているのか」ということ。
だって、艦艇の英霊が擬人化しているのは「英霊となったから」であって、まさか初めから人の姿だったわけではないだろうに―――。
『恐らく……これは一種の“修正力”なんだろう
この特異点が“誰か”によって仕組まれたものならば、その“誰か”も当然擬人化した艦艇の英霊になるわけだ』
『であれば、造り出される彼らもまた、擬人化して現れる。“誰か”一人が浮かないように、ね
ここでは「艦艇は擬人化して現れる」というのが一種の概念として存在しているんだろう』
『あと、これは推測に過ぎないが……人型の方が、消費する魔力が少ない
単純に魔力量の都合もあって、より低コストで召喚できる擬人化状態のほうが都合が良かったのかもしれない』
理屈と理由は理解できた。とはいえ、やはり知識としてある「海戦」の光景とはあまりにもかけ離れている……。
いやまあ、本当に戦艦同士がぶつかり合ってたりしても困るんだけど。そういう意味では見慣れてる「人間同士」の方が精神上よろしいのか。
「驚いたわね……見事に全員擬人化してるわ
というか、まだ沖合に付いてないのに随分多いじゃない？日本の機動部隊よね、アレ」
「……ええ、確かにあの艦隊は私が所属していた小沢艦隊です
千代田さんに千歳さん、瑞鳳、それに私を主軸とした――――――っ！？」
遠巻きに、懐かしむような瞳を向けていた瑞鶴が言葉を止めた。
先程の光景を初めて見た時よりも遥かに大きな、露骨な驚愕を浮かべる彼女。
それはまるで、存在しないはずのモノを視てしまったかのような。
「…………うそ。どうして、貴女が」
視線の先に立つその“船”は……紅白の羽織を纏った、黒髪姿の大和撫子。
側で艦載機を放つ少女を傍目に、こちらの様子に気がついたのか、私達三人へと瞳を向けると
にこり、と。慎ましやかな――――しかし、底知れぬ――――笑みで会釈を返す。
あの人が誰か知っているの？と、未だ驚きを隠せない瑞鶴に問いかける。
……いや、瑞鶴だけでなくエンタープライズまでもが、「予測していなかった」と言いたげに目を見開いていて
「赤城さん……何故貴女がここにいるんですか」
「赤城……！？ミッドウェーを超えてきたとでも言うの？
貴女は確かに、この私と！ホーネットが！あの海で加賀と、蒼龍飛龍共々――――」
―――そんな二人の問いかけを遮るように、“赤城”と呼ばれた者は向き直る。
その貼り付けたような笑みを携えたまま、その白魚のように細い指を両者へ向けて。
「……双龍」
瞬間、“赤城”の言葉を聞いてピクリと、傍らで佇んでいた少女が動く。
濃灰の総髪は翻り、被った頭巾が潮風に揺れ、爆煙の中に在って映える瞳。
……あの姿を、私は知っている。
或る特異点で出会った一人の少女。魔都新宿の災害にして、瑞鶴や鳳翔に並ぶ日本帝国海軍空母……
双龍！と、見知った姿に思わず声を投げかけてしまった。
見知らぬ者ばかりの中で、カルデアでも馴染み深い彼女の姿に安心してしまったのだろうか。
臙脂色の袴の少女は、前衛に立つ両者の間に立つ私に気が付くと、その腕を大きく掲げ
「――――――攻撃隊、目標変更！九時方向三隻に迎撃の要あり！」
「……！マスター、下がって！
攻撃隊、発艦！…………っ、双龍航空隊を凌いで！」
乗り出した身体をエンタープライズに押さえられ、割って入るように瑞鶴が飛び出ると、虚空より彼女の随伴機が出撃して行く。
……私に気が付いていない？確かに双龍は私を見据えて、私の声も届いていたはずなのに。
こちらを見据える彼女の瞳は……冷たく、そして熱い。鉄の冷たさを孕んだ“復讐”の火に燃えている。
初めてであった時よりも、深く暗い復讐の火…………そうか。そうだったね、双龍は“アヴェンジャー”なんだもんね。
『赤城に双龍。本来は
双龍は我々のカルデアに召喚されているし、サーヴァントとしての存在もあの新宿で確認済みだったが……』
『驚くべきことに、赤城からもサーヴァント反応が確認されている。
クラスはアーチャー。この時代との齟齬を鑑みるに、彼女達はこの特異点を生み出した“誰か”に召喚された、と考えるべきだろう』
カルデアのサーヴァントと特異点のサーヴァントは同一人物ではない、ということは理解しているが……
それでも、見知った双龍にあれほどの敵意を向けられるのは心苦しい。
……あの目はもう、見たくなかったな。
『まあ……キミの言うように、彼女の本分は“
それに彼女は復讐の灯火を増幅させられているのだろう。味方であったはずの瑞鶴くんすら、単なる“外敵”として認識してしまう程にね』
『……そして、その場所に本来いるべき“瑞鶴”は不在
つまりあの二人は、史実における空母瑞鶴の役割を果たすため、或いは穴埋めの為に喚び出されたんだろう』
『となれば……“誰か”とやらは、この特異点に瑞鶴くんが訪れることを予期していたのか……？』
瑞鶴の艦載機と双龍の機龍が激しく鎬を削り合い、上空で火花を散らす。
だが予想に反して、双龍の隣で佇む赤城は一向に艦載機を放たない。そもそも戦いの意志すら見せていない。
……底の見えぬ笑みを浮かべ、双龍と瑞鶴の様子をただ眺めるのみ。
「よし、瑞鶴が機龍を食い留めているうちに本体を叩くわよ！
指揮をお願い、マスター！恐らく旗艦の赤城か双龍を叩けば、奴らの艦隊は統率を失うわ！」
戦闘準備を整えたエンタープライズと共に、二人の空母へと向き直る。
すると漸く、双龍は敵が「エンタープライズ」であることに気が付いたのか、より瞳に闘志を燃やせば
「エンター……プライズ……！！！
ここで、私が沈めてやる！沈め、沈め、沈め……！！！ミッドウェーの海に……！！！」
「……来なさい。こんなカタチで戦うことになるなんて、少し心苦しいけれど
目を覚まさせてあげるわ、双龍！そこまでミッドウェーが恋しいのなら、今私が還してあげる！」
『エンガノ岬沖に向かうにはその海域の突破が不可欠だ
頼んだよ、3人とも。ひとまずはその“小沢艦隊”を退けるんだ！』
ダ・ヴィンチちゃんの言葉とともに、エンタープライズは艦載機を一斉に放っていく。
伴って双龍も、爆撃の為の機龍を放ち――――同時に、周囲の随伴艦たちもまた、私達に向かって襲い来る。
その姿を眺めながら、赤城も日の丸の艦載機を懐から取り出して、囁くように――しかしその場の全域に通る声で――呟く。
「…………また会えたね、“瑞鶴”」
――――――――――――――――――――――――――
◆戦闘開始
WAVE1 機龍A、機龍B、機龍C
WAVE2 千代田、千歳、瑞鳳（全員シャドウサーヴァント）
WAVE3 赤城、双龍
――――――――――――――――――――――――――
…………爆撃の雨が止む。
煤けた頬を拭い、立ち込める煙の向こうに目を凝らし、海に伏す双龍へ歩み寄る。
手足が塵のように崩れ始め、蹲る彼女の瞳を、最後にもう一度だけ。
「……私、また、こんなことを
ごめんね……瑞鶴…………仲間に、爆撃するなんて……私は……」
「双龍姉さんの責任ではありません……きっと、“この海”がそうさせたんです
―――――だから、そんな顔をしないで、お姉ちゃん」
散らばる機龍の残骸を悔いるように眺めると、双龍は掠れる声で懺悔を零す。
その小さな言葉に対し、瑞鶴は微笑んで言葉を返す。優しげで、慰めるような、“素”の声で。
……そんな瑞鶴の言葉を聞けば、少し安心したように微笑みを残し、瑞鶴へ向けていた瞳を私へと。
「きみの事は、わからない、けど……記憶の何処かで、大切な人だ……って……覚えてる……
…………ありがとう、マスター……こんな、私を…………もう一度、救ってくれて…………」
私と面識がないにも関わらず、彼女は霊格に刻まれた記録を頼りに、この私を信じてくれた。
消えいく身体でありながら、その身を押して私たちに手がかりを託すと―――それだけでも、救われた気分になれる。
おやすみ。そう言って頭巾を撫でれば、双龍はにこやかな―――カルデアと変わらぬ屈託の無い―――笑みを残して消滅する。
「……赤城、貴女は何か知っているの？
貴方達を召喚した“誰か”の事を……この海の謎を……」
と、傍らで佇む赤城に問いかけたのは、死線をくぐり抜けたばかりのエンタープライズ。
が……妙だ。赤城は確かに激闘を繰り広げ、敗北したはずなのに、消滅仕掛けていても顔色一つ変えずに“笑みを浮かべている”。
その姿に、思わず背筋に寒気が走る。何だろう、この違和感？人間味の無い、言うなれば精巧な「人形」を見ているような。
「――――――残念、時間だ
それじゃあね、エンタープライズ。僕が答えなくても、きみたちは……“亡霊”だって、知るんだよ」
「亡霊……どういう事？そもそも貴女は一体―――――――っ」
要領を得ぬ赤城の回答に、エンタープライズは思わず問い詰め直す。
だが一歩遅い。赤城は靄に紛れるように、魔力の塵となって四散して行く。彼女もまた消滅を果たしたのだろう。
意味深な赤城の言葉が……張り付いたあの笑みが、脳裏から離れない。
エンタープライズや瑞鶴も同じ感覚を抱いたようで、共に眉間にしわを寄せながら、囁くように彼女の言葉を反芻している。
……ともあれ、ひとまずの脅威は去った。雲に陰る青空のもと、私たちは再び沖合へ向かって進み始める。
『（しかし……新宿という土地での特殊な英霊である双龍くんはともかく、“赤城”まで英霊になっているとは信じがたいな
私も戦史には詳しくないが……彼女が英霊として召されるに足る逸話を持っているとは思い難い）』
『（それに違和感もある。彼女は双龍くんとは違い、明確に「正気」だった。それにクラスもアーチャー、狂化の影響もない
なのに何故…………瑞鶴くんと戦うことに、一切躊躇いを見せなかったんだ……？）』
『（あの口ぶりも気がかりではあるが……今は特異点の解決が先決だね。彼女に関しては後で別途に調査しておこうか）』
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沖合へ進むに連れ、空に暗雲が立ち込め始める。
まるで先行きの見えない灰の海……その様子は、私達の心境を移す鏡のようでもあった。
……と、前方に現れた影を見れば、先頭を進んでいたエンタープライズの足が止まる。
先程のような艦隊の影。暗がりの波間を駆け抜けて、此方と相対するように進む“彼女”達。
小沢艦隊とは比べ物にならない―――――文字通りの軍勢を引き連れたその艦隊は
「懐かしい顔ぶれじゃない……ハルゼー主力艦隊」
不敵な笑みを浮かべるエンタープライズにも、“彼女”達は動じない。
しかし、戦史には詳しくない個人的な感想だが……先程の小沢艦隊よりも、それぞれのディティールが細かい？
言い換えるなら……史実に忠実、というか。日本海軍の艦艇よりも詳細に用意されていた印象を受ける。
「ご丁寧にエセックス級の小娘達まで用意してるのね、それにラングレー姉さんに―――――っ」
が、その中である「違和感」に気が付いたのか
エンタープライズは艦隊のある一点へと視線を注ぎ、不敵な笑みを驚きの表情へと変えた。
「……サラ？どうして貴女がここに居るのよ
貴女はまだ別任務中……このエンガノ岬に居るはずがないわ」
その視線の先に佇む、“サラ”と呼ばれた長身の女性。
緩くウェーブの掛かったブロンドを揺らし、エンタープライズと同じ制服を着こなしながら、嫋やかな笑みを浮かべていた。
サラ……サラトガ。この特異点を訪れる前、彼女が語っていた「英霊として認められるほどの航空母艦」、だっけ。
しかしエンタープライズの様子を見るに、どうにもサラトガはイレギュラーであるらしいが……。
「恐らく、先程の赤城さんや双龍姉さんと同じなのでしょう
本来居るはずであったエンタープライズの代わりとして、ここを生み出した“誰か”に喚び出された……と」
「釈然としないわね……呼び出すんならヨーキィ姉さんを呼べばよかったのに
こんなに再現に拘った艦隊なんだもの、レキシントン級の二番艦より私と同じヨークタウン級で揃えたほうが――――」
語る二人をよそに、サラトガは依然と笑みを浮かべたまま佇んでいる。
…………待て。彼女が浮かべるあの笑顔……妙に見覚えがある。あの、冷たくて無機質な笑顔を、私は……ついさっき。
「―――――――行こうか、ネバダ」
そんな逡巡の思考を断ち切るように、彼女の背後から水飛沫が上がる。
呼びかけに応じるように現れた、その大柄な体躯の男性は―――――――。
「……貴様の下らぬ三文芝居に付き合うのは今回だけだぞ、“サラトガ”」
アヴェンジャー、戦艦ネバダ。
その姿を忘れるはずもない。カルデアで喚び出された艦艇英霊のうち、唯一の「男性」である彼。
“日本”に深い恨みを持つ彼であれば……確かに、敵として現れることもあるのだろうが……。
「サラ……それにネバダ？クロスロード組……ってわけでもなさそうだけど
…………まあいいわ。こうして現れたということは……戦うしかないんでしょ？」
「話が早くて助かるな、エンタープライズ。普段の貴様もそれほど合理主義であれば言うことはないのだが」
戸惑いを捨てきれない私に対し、エンタープライズは割り切ったように言葉をかける。
対するネバダもまた同様……双龍とは異なり、ある程度理性を保った状態で現れている、ということか。
「だがまあ、今は貴様よりも倒すべき相手がいる
―――――瑞鶴。貴様と“敵同士”として相まみえる日を待ちわびていたぞ」
「……いいでしょう、ネバダ。貴方が恩讐を以て敵に加担するというのなら、私はそれを阻むまでです」
……彼がやる気である以上、私に止められる権利はない。
復讐を尊重する―――という言い方は少々変だが、今度は彼の在り方を信じるとしよう。
サラトガもまた、傍らに飛行甲板を呼び出し戦意を示す。
鉛色の曇天の下にて始まる戦い。まさかもう一度、見知った者と戦うことになってしまうとは。
艦載機飛び交い硝煙が息吹く中……立ち込める煙の狭間に見えたサラトガが
「―――――“僕”でも合ってるのさ、エンタープライズ」
響く轟音に紛れて呟きを残した。
―――――――――――――――――――――――――
◆戦闘開始
WAVE1 エセックス ホーネット ワスプ
WAVE2 インディペンデンス イントレピッド ラングレー
WAVE3 サラトガ ネバダ
―――――――――――――――――――――――――
砲撃の嵐も止み、爆撃により生じた煙が晴れていく。
二人の爆撃を受けて尚、彼は依然として浮かび続けているが――――
「潮時だ、“サラトガ”。これ以上は此方の弾薬が保たん」
「……それに、俺は良いとしても貴様の甲板も保たんだろう」
そんな言葉を一つ残すと、私達へ向けていた主砲を静かに下ろす。
……集中防御。カルデアに居る彼から聞いたことはあったが、まさかこれほどまでに堅牢な装甲とは。
瑞鶴もエンタープライズも、彼が主砲を下ろすと同時に艦載機を戻し、門前の二人へと向き直る。
「……まあ、核爆弾が直撃しても沈まない貴方を仕留めようなんて無謀よね」
「ネバダは小破、サラトガは大破……といった所でしょうか。此方の被害も少なくはありませんが……」
サラトガと呼ばれたサーヴァントもまた、艦載機を戻して拳を収める。
ネバダとは異なり、所々から魔力の塵が漏れる彼女。クロスロードを経験した彼女でも、あの爆撃の雨は耐えられなかったのか。
「…………この僕が、爆撃の嵐程度で沈む理由……
……きみならわかるだろう…………ねぇ、瑞鶴？」
掠れる身体も厭わずに、サラトガは口角を釣り上げながら瑞鶴へと問う。
含蓄のある口ぶり……本来であれば爆撃では沈まない、とでも言うのか？であれば何故今、沈みかけている…？
問われた瑞鶴は、何処か思い当たるフシがあるような表情を見せる。
が、その疑念は確信に至るほどのものではないようで、眉を顰めて問いを返した。
「確かに、貴女との航空戦には……何処か既視感を覚えました
私は貴女の艦載機を知っている。貴女が操る戦闘機の動きを、辿る航路の癖も知っている
ですがサラトガ、私は貴女と戦った事はありません。このエンガノ岬沖でも、珊瑚海でも……」
「サラトガ、貴女は一体―――――――」
――――その瑞鶴の問いを受け、サラトガは口を噤むように人差し指を添えると
「…………言ったでしょ？“
刹那、彼女の言葉を聞いた瑞鶴が目を見開く。
驚愕とも異なるようなその表情。どことなく青ざめた……「恐怖」に近い感情か。
しかし瑞鶴が何かを察するよりも先に、サラトガは曇天の海へと四散して行く。
……赤城の言っていた言葉、そしてサラトガの今の言葉。
私の中で渦巻いていた疑念もまた、確信に近いものへと変わっていくが…………。
「全く……ヤツの物好きにも困ったものだ
エンタープライズ……そして瑞鶴。貴様らも既に感づいているだろう」
「んー……まあ、何となくは、ね。
さっきは気が付かなかったけど……この艦隊にはもう一隻、私以外に“居るはず”の空母が居なかったわけだし」
しかし、それがこの特異点を形成する『誰か』なのかはわからない。
そう結論付けると、二人は以前眉をしかめたまま海域を後にし、より仄暗い沖合へ―――エンガノ岬沖へと向かう。
「……ネバダはどうするの？帰る？それとも私達の仕事を手伝ってくれる？」
「この俺が付いていったところで、盾程度にしか役立てん
それに、俺には俺の“すべきこと”がある……ここで失礼させて貰おう」
双龍とは異なり霊基に傷を負わずに居たネバダは、私達とは逆方向へと去っていく。
戦力に不安は無い。それにこの特異点の謎に……『誰か』の正体にも近づけて行っている。
だが心配なのは―――――瑞鶴。先程のサラトガの言葉を聞いてから、どうにも落ち着かない様子で冷や汗を浮かべていて
僅かな恐慌と不安が見られる表情に、思わず彼女に向き直り言葉を投げかけた。
「マスター……ありがとうございます。少し動揺してしまいまして……ええ、ですが大丈夫です」
……本当に？ その臙脂色の瞳を見据え、私は瑞鶴に問い直す。
「っ…………私の願いで付いて来て貰ったんです、私が弱音を吐く訳にはいきません
行きましょう、マスター。沖合に行けばきっと……全てが分かるはずです」
不安が入り混じりつつも覚悟の決まった眼差しを見て、ひとまずは安堵を覚えた。
それじゃあ、行こう。雲が陰り、雷鳴が轟き始めるあの沖合へ――――――。
『（確かに空母サラトガという英霊は存在する……まだカルデアに喚ばれては居ないが、存在は確認済みだ）』
『（だが……霊基に違和感がある。こちら側で確認した霊基とは少々性質が異なっているし……
何より、先程遭遇した「赤城」とも一部類似した箇所が見受けられる）』
『（…………ネバダや双龍とは違う術式で召喚されたのか？
バーサク化のような……特殊な手法を用いて、赤城やサラトガは召喚された？）』
『（或いは――――――）』
『（何者かが、赤城やサラトガを“偽っている”…………？）』
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エンガノ岬沖。
空はいつしか深い雲に覆われて、遠雷が瞬く度に轟きが走る。
不吉……と形容せざるを得ない。一寸先すら見通せない、どす暗い水面の世界。
『……到着だ。エンガノ岬沖、嘗ての戦いの中心点
そして……この特異点の中心点。ここに、この海の支配者がいるはずだ』
…………いこう。
「ええ……この趣味の悪い世界を作ったのが誰なのか、この目で確かめないとね」
「…………はい。行きましょう。この特異点を解決するために……私の記憶を、確かめるために」
一歩踏み出す度に、足元の水面が静かに跳ねる。
二人の決意は硬い……この先に何が待っていても、目を逸らさずに見据えてくれる。
ならば私も進まなければ。この特異点の顛末を見届ける為に……！
「……趣味が悪い？それは残念だ
せっかく精巧に作ったのに……お気に召してはくれなかったみたいだね」
刹那。
脳裏に響くようなその声に、私は思わず身構えてしまう。
何処から……と思考を巡らせる間も無く、その声の主は我々の目前に表れた。
「サラトガ――――――」
「僕だけじゃない。ワスプも、ホーネットも、イントレピッドだってよく出来てただろう？
ふふ。何せ、みんな姉妹だからね。みんなのことは誰よりも知っている……勿論、君だってね。エンタープライズ。」
ウェーブがかった髪を揺らし、貼り付けた笑みで言葉を綴る長身の女性。
だが―――彼女が“サラトガ”でないことは知っている。
エンタープライズや瑞鶴の反応、彼女のあの異質な口ぶり、そして何より……その性格。
ネバダや長門から聞いていた“サラトガ”は……こんなに“冷たい”人ではなかった！
「ああ。ネバダもノリが悪いよね。役目が終わったらすぐ帰っちゃうなんてさ。
でも、いいんだ。この舞台にもう余計な演者は必要ない。ここが正真正銘、最後のステージ」
……遠雷を背に語る彼女は、何処か異様で、何処か幻想的な雰囲気を孕んでいる。
逆光の中に在って映えるその瞳を―――――私は、よどみ無くまっすぐに見据えてみせる。
「瑞鶴。この扮装も大したものでしょ？
きみのために、日本の空母の設計を一から学んだんだ。“今度は”、単なる偽装じゃないよ」
だが、一つ瞬きを挟んだだけで。
その姿はいつのまにやら……“サラトガ”から、“赤城”へと移り変わっていた。
紅白の袴が海風に揺れる。その美しい濡烏色の髪も、手にした甲板のような弓も―――――。
「っ……赤城さんはっ……！
そんな目をしません。そんな声じゃありません、そんな言葉で……私に、語りかけません！」
「…………そう。
じゃあ、僕はきみにどんな目で、どんな声で、どんな言葉で語りかければいいのかな」
“赤城”が言葉を綴る度に、その輪郭は朧げに、不確かなものへと変わっていく。
赤城……いや、赤城やサラトガを騙る“それ”は、私達3人を見据えたまま、ただひとつの答えを待つように佇み続ける。
「―――――ねぇ。思い出したでしょ、僕のこと」
気がつけば、傍らで身構える瑞鶴が微かに震えていた。
……“それ”が不鮮明に成っていくほど、彼女は怯えるように、恐怖するように、顔を青ざめさせて
息も荒く、例えるならば…………蛇に睨まれた蛙、のような。
そんな瑞鶴を庇うように、エンタープライズは一歩前へと歩み出る。
震える瑞鶴に対し、彼女が抱くのは……“怒り”。或いは、この所業に対する“不満”。
「……マスター。さっき、貴女の部屋で喋った事を覚えているかしら」
―――――え、と。
エンタープライズ以外にも空母は居て、サラトガもその一人……だってこと？
「そう、その後のこと。
瑞鶴が入ってきて、結局語ることはできなかったけど……
もう一人いるのよ。
ステイツには、私やサラトガに並ぶ“航空母艦”が」
その言葉を耳にした途端、目前の“それ”が歪に笑う。
漂う靄は青色を帯び、徐々に人の形を成してゆき、エンタープライズの“言葉”を楽しむように蠢いている。
もしや――――――その、もう一人の“航空母艦”というのが……！
『……合点が行った。
なるほど、そうであれば辻褄は合う……赤城の事も、サラトガの事も、そして瑞鶴くんの事も』
「流石ね、ダ・ヴィンチ。
そう……アレは我々ステイツの航空母艦。
レンジャー姉さんに次ぐ歴戦の艦、巡洋戦艦として生まれながら、航空母艦へ姿を変えた大型空母」
「“赤城”と時を同じくして生まれ、後に“サラトガ”という空母を妹に持った。
当時、世界最高水準として生み出された航空母艦―――――――――！」
「空母、レキシントン。
CV-2……“
―――――――その名前を聞き届けた瞬間。
“それ”は淡い光を帯びながら、周囲の靄を収束させて一つの“霊格”を形成して行く。
細身な四肢。白く、透き通るような肌。仄かに青を帯びたツインテール。暗闇に映える、鮮烈なピンクの瞳。
そして…………貼り付けたような、無機質な笑み。
航空母艦レキシントン。
彼女がこの特異点を生み出した正体にして……“赤城”や“サラトガ”を偽っていた英霊。
「ふふ……ありがとう。君たちのおかげでやっと……やっと、“僕”が完成した」
「けどエンタープライズ……その答えだけじゃ50点だ、まだ足りない
……ねぇ。きみなら答えを知っているだろう――――――――瑞鶴」
佇む彼女に名前を告げられ、瑞鶴はびくりと体を揺らす。
……瑞鶴がここまで何かに怯えているなんて、信じられないけれど。
『……空母レキシントンは太平洋戦争開戦当時から就役していた、数少ない古参の米空母だ。
けれど……彼女は、珊瑚海海戦で…………“瑞鶴くん”に、沈められている』
「珊瑚海海戦は、世界で初めて行われた「空母同士」の海戦だったわ
レキシントンや瑞鶴だけじゃない……ヨーキィ姉さんや翔鶴だって参加していた
そこで彼女は……翔鶴に痛手を負わせながらも、瑞鶴に沈められた」
『その沈み様は美しく、転覆もせずに消えていったことから、乗組員は「レックスは最後まで
……つまり、瑞鶴くんにとっては「誉れ」であれど、怯えるいわれはないはずなんだ』
肩を抱き、蹲るようにして膝を付く瑞鶴。
二人の話を聞いている限り、本来であればレキシントンの方が怯えるべき状況なのに……
…………瑞鶴。怯える彼女に囁くように、私は小さく呼びかけてみる。
「だ……、だい、丈夫……です……っ
レキシン、トン……わ…わたし、に……復讐でも、するつもり……ですか……！」
その呼びかけに、瑞鶴は気丈に―――虚勢を張って―――返して見せた。
彼女、レキシントンへと向ける瞳には、僅かにだが涙すら浮かんでいるようにも見える。
そうだ……沈められた復讐のため、英霊となって瑞鶴を喚び出した、という事であれば納得は行く。
けれど、その瞳を呑み込むように、レキシントンは不敵に嗤って。
「……ふふ。悲しいな、瑞鶴。折角思い出してくれたと思ったのに。
僕は復讐なんて望んでないよ。だって、僕はもう既に――――――――――
――――――きみを、沈めているから」
「―――――――ッ！！！」
投げかけられた言葉が、瑞鶴の霊核に突き刺さる。
瑞鶴を、沈めている……？
ありえない。だって、瑞鶴は確かこのエンガノ岬沖で……エンタープライズが。
「…………そういうこと。
瑞鶴が見たっていう夢の違和感……ようやく理解できたわ」
「レキシントン……貴女は「レキシントン�供廚箸靴討竜�憶も受け継いでいるわけね。
瑞鶴が怯えるのも無理はないわ……あの子は確かに、瑞鶴を“沈めている”のよ」
『レキシントンの沈没後、米海軍は制空権確保のために多くの航空母艦を建造した。
それがエセックス級航空母艦……俗に言う「月刊空母」の始まりだ。その中に、彼女は居た』
『レキシントン�供�初代の沈没から僅か1年後、彼女はエセックス級として“蘇った”わけだ
無論、その船体は別物だけれど……乗組員の殆どは、初代レキシントンに搭乗していたメンバーだったという』
「……まさに復讐劇。レキシントンは、自らを沈めた張本人である瑞鶴を、自らの手で沈めたってわけ
海軍史でも類を見ない転生物語――――それが貴女、レキシントンである、と。そういうことでしょう？」
『
それがあの英霊、レキシントンという存在か』
2つの空母が、一つに……？
それは泥濘の新宿で巻き起こったような「幻霊合体」とは異なる、転生に近いものか。
だから……「亡霊」！2つのレキシントンという亡霊が合わさって、一つの英霊として存在している……！
「大正解。100点をあげよう、エンタープライズ。姿の見えぬ聡い君。
僕は“レキシントン”……一度この世に造り出され、二度この世に蘇り、そして三度、蘇った亡霊さ」
にこり、と屈託の無い笑みを浮かべては、ぱちぱちと芝居めいて拍手を残す。
……掴み所が無い。彼女、レキシントンという存在は、何処か捉えがたい性格の持ち主だ。
その空虚な瞳を見据える度に寒気立つ。無機物の英霊であるということを踏まえても……あまりにも、人間味に欠けすぎている。
故に、“亡霊”自他共に呼称するその表現が、何よりも的確な気がした。
「でも、釈然としないわね……どうしてこんな大掛かりなことをしてまで瑞鶴を……私達を呼び寄せたわけ？
英霊なら、瑞鶴と巡り合うチャンスは他にもあったでしょうに―――――」
「……いいや。僕は英霊じゃない。正確には、英霊ではなかった……か。
僕は確かに、サラや君のように武勲を残した航空母艦だった。けれど、“僕一人”では亡霊としてしか刻まれなかった」
「簡単な話さ……僕には、英霊足りうるための“存在理由”が足りなかった。
僕が僕でなくてはいけない理由。僕が英霊として存在している理由。僕が、座に登録されるに足る存在に至る理由」
―――――――――まさか。その、理由というのは。
「ふふ。君も中々聡いね、橙毛のマスター。
……僕の存在理由を作るため。その手段として、この特異点を“利用”した」
「“瑞鶴”――――――君の霊格に“レキシントン”という存在を刻みつけるためにね。
そうすればほら、「瑞鶴の因縁の相手」として僕は英霊たりうる器を得られる、というわけだ」
「………………っ」
瑞鶴の顔が青ざめていく。
つまり、あのレキシントンという存在は、瑞鶴を利用することで英霊としての格を得たのか。
瑞鶴の……忘れかけていたトラウマを掘り返してまで、自分が英霊として在るために……！！
「そうだ。そうして瑞鶴は夢の中で僕を思い出し、見事僕の名前を口にしてくれた！
赤城とサラを騙っていたのもその一環さ。彼女たちのような「英霊」を真似れば、より濃く霊格が刻まれるからね
……ありがとう。瑞鶴、エンタープライズ、それに橙毛のマスター。“僕”を思い出してくれて」
「ふふ、あははははははは！！
ああ、これで僕も英霊の仲間入りだ……ねぇ、瑞鶴。これでまた、あの時みたいに、戦えるんだ
僕を殺してよ、あの時みたいに！僕に殺されてよ、あの時みたいに！もっと、もっと――――！」
――――――そんな事のために、おまえは……！！
瑞鶴を！エンタープライズを！双龍を！ネバダを―――――利用したのか！！
「……レックス。貴女、どこで歪んでしまったの？
貴女は確かに……昔からちょっと病んでいるところはあったけれど、それでも仲間を踏み台にするなんてことはしなかった」
「いつからかな。いつからだろうね。
あの日、あの珊瑚海の戦いで、あの子に殺されたときから……僕は、瑞鶴の事だけが頭にあった
だからこそ生まれ変われた。嘗ての仲間と、嘗ての戦友と、嘗ての乗組員と共に！再び、レキシントンとして！」
「そして復讐を果たし……瑞鶴。君をこの手で沈めたけれど。
まだ足りない。まだ足りないんだ。僕はまだ、君を……！瑞鶴、君を求めている！
亡霊となって尚。英霊となって尚。君という存在を繰り返し“沈めたい”から――――――」
―――――ッッ！
その言葉が耳朶に響いた瞬間、考えるよりも先に体が動いていた。
許せない、許してはならない、許しちゃダメだ。こいつは、あまりにも歪んだ瞳で瑞鶴を見ている。
だから――――と、飛びかかろうとした身体は即座に制止され、元の場所へと戻されてしまう。
エンタープライズ……私は、私は……あいつだけは、許せない……！！
「抑えて、マスター……言いたいことがあるのはよく分かるわ。だからこそ、ここは私に任せて」
「…………レックス！！それに瑞鶴も！！よーーーく聞きなさい！！！
いい？大日本帝国海軍所属、翔鶴型航空母艦二番艦「瑞鶴」を沈めたのは……他でもないこの私！！エンタープライズただ一人よ！！」
「レックス、貴女と瑞鶴の間にどんな因縁があろうとね！！
瑞鶴を沈めたのはこの私！！そして、何より……！！これまでも、これからも！！瑞鶴を沈めていいのはこの私一人だけなのよ！！！」
……海に響くその声は、レキシントンへ向けた抗議の言葉なのか。
いや、これは……そうか。嘗ての天敵を前にして震えている瑞鶴への、励ましと叱責でもある、ということか。
確かに、あの子に効くのは何よりもその言葉……未来永劫、普遍の好敵手からのその宣言。
ぎり、と歯噛みを残しつつ、瑞鶴はふらりと立ち上がる。
未だ息は荒いけれど……レキシントンへと向き直る瞳に、先程までの“怯え”は無い。
「ふ……ふ。そう、ですね。
けれど、エンタープライズ……もう貴女に沈められるつもりはありません。
ですので、こう改めて下さい…………！瑞鶴に沈められてもいいのは私だけだ、と……！」
「あはっ！言うじゃない、瑞鶴！
……らしくなってきたわね。いいわ、それでこそ日本海軍！嘗て私達を苦しめたあの空母よ！」
二人のこの掛け合いが、何よりも頼もしく、心強く聞こえた。
それは、ある意味で掛け替えのない「信頼」だ。二人は、一言では言い表せぬ「信頼」を交わしている。
お互いに――――「この程度ではないはずだ」、と。幾度となく凌ぎ合い、戦い合い、競り合った者として……！
「……羨ましいな、エンタープライズ。僕も瑞鶴に見て欲しいのに……
ああ、いいや。それなら君を振り向かせればいいだけだもんね……生の君を。もう、こんな人形で慰める必要もない」
「――――――――おいで、“瑞鶴”。最初で最後の戦闘命令だ」
……そんなレキシントンの呼び声を聞き、表れたのは一つの人影。
それは、淡い白の靄を帯びた……っ。
「―――――――――――――………」
「ふふ。僕の“瑞鶴”も中々だろ。まあ、遊んでいたらすっかり反応も悪くなっちゃったけど。
もうすぐ本物が手に入る……だから最期まで、僕を愉しませてよ？“瑞鶴”！」
瑞鶴…………？
いや、確かに見た目は瓜二つだけれど、その雰囲気はまるで違う。
装束は千切れ、覗く四肢には痛々しい傷跡もあり、顔には包帯が乱雑に巻き付けられている。
その瞳にも光はない。つまり、あの“瑞鶴”は……レキシントンの、操り人形……！
「そんな生易しいものなら、まだ救いはあるでしょうけどね。
……形容するなら「
「…………私の反転した霊基、ということなのでしょうか。
アヴェンジャーである私……アーチャーである私……そんな“近しい可能性”のサーヴァントが、あの――――」
考察を巡らせている時間はないようだ。
レキシントンは淡い光を実体化させ、幾多もの随伴機を侍らせ始めている。
“瑞鶴”と呼ばれたサーヴァント……瑞鶴〔オルタ〕もまた、それに伴って爆撃機を喚び出していて。
……二人に倣うように、私もまた、目前の敵へと瞳を見据える。
空母レキシントン。その歪んだ欲望のために、みんなを巻き込み利用した――――その罰を、今！ここで！
「行くわよ、マスター！指示は任せたわ！」
「自分には負けられません……！マスター、指示を！ここで決着を付けます！
レキシントン……！そこまで言うのなら！もう一度、私が沈めてあげましょう！」
――――――――戦闘用意、発艦初め！！
「さて…………僕達を沈められるかな？」
―――――――――――――――
◆戦闘開始
WAVE1 FINAL BATTLE
フェイカー・レキシントン
HP75000ほどだが、0にしても瑞鶴〔オルタ〕が生き残っている間は復活する。
アーチャー・瑞鶴〔オルタ〕
HPは50000ほどだが、0にしてもレキシントンが生き残っている間は復活する。
―――――――――――――――
烟る硝煙の中、投下された爆弾は確かにレキシントンを捉えていた。
直撃すれば、例え英霊であろうと即死は免れぬ威力―――――――やったか！？
「爆炎が……！エンタープライズ、そちらからは確認できますか！？」
「見えたわ！……撃沈を確認、レキシントンを撃沈――――――ッ！？」
立ち上る煙から垣間見えた姿。
確かに、レキシントンは爆撃を受け“消失”した……はずなのに。
四散した魔力の霧が、再び元の場所へと収束していく。
一つの「核」を中心として、それは徐々に元の姿を取り戻して…………
気がつけば、そこには元の姿のレキシントンが佇んでいた。
「……無駄なんだよ。君の足掻きも、抗いも、全部。
僕は亡霊……幻、空白。0に何を掛け与えようと、答えは0だ」
「いや、或いは
……既に、何度も倒しているはずなのに。
その度にレキシントンは蘇る。修復でも、復活でもない――――それは、文字通りの「転生」。
「キリがないわ……！倒す度に蘇るなんて、どんなイカサマよ！」
「手応えがありません……まるで靄を攻撃しているようです……！」
長引く戦闘の中で、二人は次第に疲労感を募らせていく。
無理もない、二人はレキシントンと瑞鶴〔オルタ〕からの攻撃をいなしながら、艦上攻撃も行わねばならないのだから。
しかし両者とも、倒せども倒せども沈む様子を見せない……暖簾に腕押しをしているようだ。
……わからない。何故あのレキシントンという存在は“沈まない”んだ？
こちらの攻撃は確かに命中しているはずなのに……ちゃんと着弾も、一度は撃沈だって確認して……っ
「―――――まさか。
エンタープライズ！ついさっき、私が撃沈を確認出来なかった時……レキシントンは、既に蘇っていましたか！？」
「いえ、あいつが蘇ったのは私が確認してからよ。
それまではまだ、あの煙の中では蘇っていなかったはず……！」
そういえば、つい先程の攻撃では転生のタイミングが少し遅れていたような気もする。
それまでは爆撃を成功させると同時に、撃沈を確認すると同時に蘇っていたが――――――
先程の攻撃では、硝煙のせいで確認が遅れてしまって…………！
―――――――と。そこまで思考を巡らせて、自らの言葉を思い返す。
「確認すると同時に」「蘇っていた」。思い返せば、レキシントンが何度も蘇っていたのは……
私達が、彼女を「倒した」と認識した瞬間―――――！！
「……つまり、レキシントンは
私達が…………“撃沈したと確信した”と同時に、蘇っている……！」
『相手の認識に作用して効果を発揮するオートリバイブ……
「倒した」と相手が強く認識することで、その認識を触媒として再び蘇っているのか……！』
……そんなものが存在するなんて。
スキルに寄るものなのか、宝具に寄るものなのかはわからないけど……
認識した時点で蘇ってしまうなら……どうやってレキシントンを倒せば……！
「随分と厄介なものを引っさげてきたわね、レキシントン。
私の宝具が
「貴女の“それ”は、例え倒されても
「…………ご明察。こうも早く見抜かれるとは思っていなかったけれど。
そうだ、それが僕の宿命……レキシントンという艦魂が背負った転生法則」
「偽り、沈み、それでもなお蘇り、対象を沈めるまで転生する……それが僕の、『
傍らに佇む瑞鶴〔オルタ〕もまた、その効果の影響を受けているのだろう。
或いは、彼女は本来の瑞鶴が持ちうる「幸運」により生き延びているのかもしれないが……。
「いや？この“瑞鶴”に幸運なんてありはしないさ。
どちらかと言えば、エンタープライズに近い不屈の……おっと。これ以上は不味い」
その「不屈」という言葉を、「エンタープライズ」という言葉を耳にすると
瑞鶴〔オルタ〕は僅かに反応を見せるが……やはり、そこに人間味を宿すことはなく、人形めいて攻撃機を射出し始める。
しかし……このままでは埒が明かない。
だがこのまま攻撃を続けていても、結局はまた蘇らせてしまうだけ。
闇雲に戦っていても意味はないが、どう対抗すれば……っ。
―――――――！
瑞鶴、エンタープライズ！
ふたりとも……“対軍”の攻撃は出来るよね！？
「マスター！？……ええ、私達の本分は元より対軍。
絨毯爆撃も出来るでしょうが……相手は二人、燃費は悪いです！」
「……いえ、やってみましょう瑞鶴。
確かにこのまま「対艦」として一隻を狙い続けるよりは……勝機はあるかもしれないわ」
「…………わかりました。
全機、爆撃の用意を！アウトレンジとは行きませんが……この瑞鶴、爆撃で負ける訳にはいきません！」
ありがとう、ふたりとも！
……レキシントンが、倒したという認識で蘇るというのなら！
単一の目標を叩くのではなく、この「面」全体を一気に叩いて……！！
『……「いつ倒したのか」「どのタイミングで倒したのか」を、自分たちですら認識できないようにする、か！
大雑把で至極単純だが、いい打開策だ。それであればレキシントンも……「倒した」という認識を利用できなくなる！』
『けれど、二人に対して爆撃を行うと君達も巻き込んでしまいかねない。
それに、“認識”を極力少なくするためにも……爆撃機の発艦と同時に、君達を「転移」させる！』
お願いね、ダ・ヴィンチちゃん！
これで妥当の準備は整った。
成功するかどうかはわからないけれど……あの効果にも、「範囲」による制限はあるはず。
一度ここを離れてから攻撃を加えてしまえば、「倒した」という認識を抱くものはいなくなる！
「…………。不味いな、それは不味い。
君達にここを離れられると困る……特に、瑞鶴！君には――――！」
そう言葉を残すと、こちらの攻撃を阻むかのように戦闘機を放ち始める。
当の瑞鶴は換装中、今攻撃されてしまうのは……！！
――――そんな時。
飛びかかってきた数機のF6Fを、対するF6Fが退けていく。
同型機同士のドッグファイト―――かの機体は「キャット」だが―――を、呆然と見上げていると。
「悪いわね、レックス。
これ以上貴女の好きにはさせないわ……生憎、私達の猫は気性が荒くてね！」
「……エンタープライズ。いや、E。
君と真っ向から戦うことになるのは心苦しいけれど……ふふ。それ以上に、心が踊るよ」
「「――――
「手加減は無しだ。先輩としても、最新鋭の後輩としても……負けるわけにはいかないからね」
「あははっ！私も同じ言葉を返すわ、レックス！
エセックス級の小娘になんて負けるものですか！無論、先輩であろうと負ける気はしない！」
「そこの“瑞鶴”も―――――……いえ、貴女は瑞鶴ではないのかしらね。
その気配……その雰囲気……まあいいわ。いずれわかることは後回し、今はすべきことをやり遂げるだけ！」
「かかってきなさい、二人とも！！
―――――私はCV-6、エンタープライズ！“発見”の名を縦にした、アメリカ海軍希望の星よ！！」
―――――――――――――――
◆戦闘開始
WAVE1 FINAL BATTLE
フェイカー・レキシントン
120,000→200,000→27,000
バトル開始直後、、専用スキル『ストリーミング』を使用。
フェイカークラスの特製として「毎ターンごと」にクラスが変化していく。
ローテーションは「アーチャー」→「ライダー」→「アサシン」→「アヴェンジャー」の順。
第一ゲージ破壊時、専用スキル『リバーシブル』を使用。
全てのクラス相性を「反転」させる。バーサーカーやシールダー等は適用外。
第二ゲージ破壊時、専用スキル『ゴースト』を使用。
自身に『Buster、Arts、Quick、宝具無効』状態を付与。
エクストラアタック及び持続ダメージのみが通じる状態となる。
宝具と同じ効果だが、こちらは永続。
不活性化：EX
自身に付与された全ての状態異常（バフ含む）を確率で解除し、自身に「行動不能」状態を付与する。
持続は1ターンの為、発動したターンのみ一切攻撃をしなくなる。
真名偽装：B
自身の弱体化耐性と防御力をアップ。自身のチャージを1段階減少。
千里眼(偽)：D
自身のArts性能とクリティカル威力アップ。
『
3ターンの間、自身に『Buster、Arts、Quick、宝具無効』状態を付与。
アーチャー・瑞鶴[オルタ]
90,000→50,000→12,792
バトル開始時とゲージ破壊時、専用スキル『焔ヲ佩ビテ』を使用。
自身及び味方のいずれか一人に「永続やけど」効果を付与（500ダメージ）。また、ゲージを破壊したターンには行動しない。
戦闘不能時、専用スキル『集イテ■ケルハ■ノ彗星』を使用。
「やけど」状態の相手に確率で10,000ダメージを与える。
嵐の航海者：B+
味方全体の攻撃力と宝具威力をアップ。
不慮の運命：B
自身を含めた敵味方どれか一体にランダムでデバフ状態を付与。
魔力放出（炎）：EX
自身のBuster性能をアップ。
『
自身にガッツ状態付与。自身にターゲット集中効果付与。自身に[幸運]特攻状態を付与。敵単体に超強力なダメージ。自身にやけど付与。
また、両者とも片方が場に存在している間は復活してしまうため
同じターンで両方を倒さない限り、延々とターンが続いてしまう。
―――――――――――――――
「―――――――全機、発艦準備！
ありがとうございます、エンタープライズ……おかげで万全の準備が整いました！」
「Good Job、瑞鶴！
……見せてやりなさい。
エンタープライズは見事相手の攻勢を凌ぎきり、爆撃準備の時間を稼いでくれた。
これで反撃の準備は完了……あとは、艦載機が発艦すると同時にここから転移してしまえば！
『君達から7時の方向に転移のためのゲートを開いた！
急造だからそう長くは開かない、急いでその海域を離脱してくれ！』
「行きましょう、マスター！瑞鶴！
私もありったけの爆撃機を飛ばしていくわ、さっさとここを―――――――」
「…………いえ。
私はここに残ります」
…………え？
ゲートに向かって走り出す私とエンタープライズに対し、瑞鶴は一歩も引く様子を見せず、ただ爆撃の照準を定めていた。
どうして――――。誰か一人でも残っていると、レキシントンは倒せない筈なのに！
「問題ありません……レキシントンに着弾すると同時に、私も沈みます。
私が「倒した」と認識するよりも早く、全員が消失してしまえば……効果の対象にはならないはず」
「それに……艦載機を操るためには、どうしても私が残らないといけないんです。
司令塔たる私が残っていなくては、彼らの統制が失われてしまう……！」
「なっ……！！ふざけたこと言わないで、瑞鶴！！
レックスもろとも海の藻屑になるつもり！？そんなのは無駄よ、非合理的だわ！！」
「わかっています！！……ですがこれは、元を正せば私が巻き起こした事。
であれば、その始末は私が付けなければ……！この命を賭してでも、私は―――――――！！」
それは―――――っ。
違う、と、瑞鶴へ一歩歩み出た途端。
エンタープライズがそれを静止し、先にゲートへと向かうように目を伏せた。
…………わかった。
マスターである私の身が最も大事であることは、誰よりも理解している。
だから、瑞鶴を連れ戻すことは……エンタープライズに任せることにする。
お願い、エンタープライズ。
必ず瑞鶴と一緒に戻ってきて……！引き摺ってでも、戻ってきて！！
「……ええ。
頑固モノの扱いには慣れているわ、心配しないで……気をつけてね」
――――――――――――――――――――――………
硝煙交じる海風が、僅かな静寂に包まれた海に吹き付ける。
気がつけば、空を覆っていた夜の帳は朝焼けに溶け……水平線より、僅かな暁がにじみ始めた。
「―――――――瑞鶴」
エンタープライズの語りかけにも、瑞鶴はただ背を向けるのみ。
瑞鶴の目線の先には、レキシントンただ一人……精密な爆撃計算の最中、ということか。
一歩、エンタープライズは歩み寄る。
「……聞きなさい。
私は、自らの命を賭して何かを成し遂げる事を……無駄だとは思っていないわ」
「トミヤス――――――。
彼を。彼らを、七面鳥と揶揄する者もいたけれど。馬鹿な爆弾だと見下すものもいたけれど」
「それが貴方達、旭を背負った
「その不屈の精神を、人間の底力を！私は知っている！！
けれど――――――“私達”は違うでしょう、瑞鶴！！」
もう一歩、エンタープライズは歩み寄る。
「私たちは軍艦。航空母艦。こうして人の体を得ていても、その存在は人ではない。
貴女のその精神性が、嘗て貴女を“動かして”いた者達に依るものであったとしても…………」
「……私たちは、人じゃない」
「――――――――だからこそ、人には出来ないことがあるでしょう」
その言葉に、瑞鶴は僅かな反応を見せた。
そしてもう一歩……エンタープライズは彼女に歩み寄る。
「戦うための兵器でも。結局は、人に動かされる道具であったとしても。
私たちには……私たち、軍艦には……」
「“人間のために出来ることがある”」
「私はそれを知ったの。だから、私は此処に居る。
此処に、こうして――――――！軍艦でありながら、人の身を得て！“英霊”として此処に居る！！」
そして、もう一歩。
手を伸ばせば届く距離――――その距離で、エンタープライズは。
「人を信じなさい！貴女が載せた、自分の艦載機を信じなさい！！
私達を散々苦しめた、歴戦の搭乗員なのでしょう！？貴女が消えたとしても……爆撃くらい、難なくやってのけるはずよ！」
「……それに！！貴女はまた、“自分が沈む姿”を彼らに見せるつもり！？
今度は貴女を
「そして、何よりも……自分の艦載機で、自分を沈めさせるなんて！！！
単なる自決であれば、特攻であればまだしも……！！そんな事は、私の目の黒いうちは許さないわ！！」
気がつけば、エンタープライズの瞳が滲み始める。
それでも尚、絞り出すような言葉は止めない。意固地で、最期まで凌ぎあった仇敵に告ぐ“檄”を。
「……それに！まだ、“この姿”では決着がついていないでしょう！？
こんな結末で勝敗が決まってしまうのは絶対に嫌……！！レックスに取られる事も、もっと嫌！！」
「だって、まだ―――――貴女を倒していないからよ、瑞鶴！！」
「今度こそ、お互いに万全の状態で……！
互いに、互いの本気を出し合って戦うと……！それが、私達の願いだったはずでしょう！！」
「貴女の覚悟はそんなものだったの！？ソロモンの……サンタクルーズ諸島の気迫はどうしたのよ！！」
「レックスじゃないけれどね……それが成し遂げられるまで！！
私は何度だって戦い続けられる！！だから、だから！！―――――――――――だから！！」
その手を伸ばす。
迫る時の中、瑞鶴の背中へ向けて、激しく溢した言葉とともに。
朝焼けが海を覆う。暁の水平線に、佇むのは何時かの仇敵。
彼女との戦いを望む。それは、聖杯にすら躊躇い無く願えるほどの願望。
それが叶うまで……その手を握ってでも、連れ戻すのだと。
その言葉を耳にして、瑞鶴は。
振り返ったその瞳にも、負けず劣らずの涙が滲む。
これがどの感情から来る涙なのか。お互い、理解はしていないのだろう。
友情とも。愛情とも。憎しみとも。怒りとも違う。二人の間で結ばれた、形容し難い感情の糸―――――。
その結び付きがある限り、その輪廻が潰えることはない。
一人で完結するのではない――――
ならば、瑞鶴の答えも。
溢れる涙を旭が照らす。
現れた陽は暁を超え、嘗ての海に照る光――――明けぬ事の無かった夜海に、終わりを告げる朝日が昇る。
言葉はなくとも、その笑顔が告げていた。
そして、その差し伸べられた手に手を返す。
決して結ばれることは無かった手。そしてこれからも、結ばれることはないであろう手。
けれど、この一時だけ。
この一瞬だけは―――――――――――。
「………酷い顔ね、瑞鶴」
「そういう貴女もですよ……エンタープライズ」
飛び交う“彗星”に思いを託し、二人は消えかけたゲートへと飛び込んでいく。
朝焼けの空に翔ける彗星―――――その編隊の一番艦が。単なる武装に過ぎない、意思を持たないはずのその一機が。
『幸運を、瑞鶴。』
…………それは、確かにあった「瑞鶴」という存在を司る側面。
即ち、その言葉は瑞鶴に命を預けた者達の声。
―――――――――そう。嘗て、
「……逃がさない。逃がすものか。
“瑞鶴”！奴らを追うんだ、君の足ならまだ追い付ける……！」
「――――――――。」
爆撃機が迫る中、レキシントンは迎撃機を飛ばしつつ傍らの瑞鶴〔オルタ〕へと命令を告げる。
……去りゆく瑞鶴の背中を眺め、瑞鶴〔オルタ〕は言い知れぬ表情を浮かべていた。それは、さながら身近な家族を見守るような。
けれど、主である者の命令を効くと、その表情を一瞬歪ませ
心を殺すように振り切れば、転移した彼らの行き先―――「エンガノ岬」へと向かい始める。
爆撃の雨が降るよりも早く抜け出せたなら、一矢報いて再び蘇る事も出来るハズ。そう、レキシントンは確信していた。
――――――――だが。
「――――――っ！？！」
耳を劈く、一際大きな爆発音が響き渡る。
その轟音には覚えがあった。身を揺るがすほどの衝撃、離れていても伝わる震え。
……それは、瑞鶴〔オルタ〕を的確に射抜く“砲撃”であった。
爆撃ではなく砲撃。この場に存在するはずもない、空母ではなく戦艦からの強烈な攻撃。
艦載機からの爆撃など比にならない威力……それを受けた瑞鶴〔オルタ〕は、ぐらりと力なく倒れ始めて
「……ふん。エンタープライズめ、最後まで世話が焼ける。
あの女史も中々に聡明だったが……“この瑞鶴”の復活のメカニズムだけは、見抜けていなかったな」
「君、は…………！」
レキシントンの後方。堂々と佇み、硝煙を纏いながら現れたその人影は。
「ネバダ……ッ
何処に行ったのかと思っていたら……僕に逆らう算段を立てていた、とはね」
「勘違いするな……俺は貴様に逆らっているのではない。
不愉快だが、今は貴様のサーヴァント……貴様に喚び出された以上、抗うことは出来ぬからな」
戦艦ネバダ。ハルゼー艦隊の中に紛れていた“イレギュラー”なる艦の一隻。
途中で行方をくらましていた彼は……エンタープライズ達が立ち去ったのを見計らい、再び現れたのだ。
この新手はレキシントンも意識していなかったのだろう。
常に不敵な笑みを保ち続けていた彼女から……初めて、“余裕”が失われた。
笑顔が潰え、不愉快とでも言いたげに口をへの字に結べば、背後に佇んでいる……余裕に溢れたネバダへと向き直る。
「俺はただ、貴様から下された命令に従っていただけだ。
…………覚えているか。貴様が俺に、真っ先に下した命令を」
「“『瑞鶴』を足止めしろ”、と。
大方、俺の復讐心を利用するための命令だったのだろうが……クハハ。俺を見くびっていたな、レックス」
「何故俺があの時、エンタープライズと共に居た瑞鶴を追わなかったか……わかるか？
あの時倒さずとも……ここで、もう一度“瑞鶴”を仕留めるチャンスが訪れると踏んでいたからだ」
「そうだ。俺は確かに、瑞鶴を足止めしているに過ぎん。
“どの瑞鶴か”までは指定されていなかったのでな…………“あの瑞鶴”を足止めしようと、命令違反にはなるまい！ということだ！！」
「……〔オルタ〕などと騙り、瑞鶴などと偽って“彼女”を喚び出した。貴様のその遊び心と油断が、こうして破滅を招いたのだ！」
――――――その言葉を聞き届けると
ギリ、と歯噛みする音が聞こえた。それは、拳を握り締めてネバダを睨むレキシントンが発したもの。
……自らの詰めの甘さが招いた顛末。恥ずかしさからか、悔しさからか、漸く彼女は―――――怒りという“感情”が垣間見える表情を見せて
「……ようやく人らしい顔を見せたな。
元々艦艇であった我々がこう言うのもおかしな話だが…………」
「こうして人の身を得て、新たなる“艦生”が始まるのだ。
貴様にとっては何度目の転生かは知らんが……時にその妄執を捨てて、愉しんでみるのも悪くはないと思うが？」
「…………っ。」
俯くレキシントンから、反論の言葉が発される事はない。
気がつけば陽は昇り、いつの間にやら朝が始まっていた。もはやこの特異点は消失を待つのみとなる。
「さて……この海もやがて消える。
“あの瑞鶴”も……同時に消失するだろう」
「貴様という元凶を倒さずとも……この海は「役目」を終えてしまったからな。
元より、この海は貴様が生み出したものではないのだろうが……まあ、今は何も言うまい」
「では俺は、ひと足先に戻るとしよう。
“瑞鶴”―――――否、「翔鶴」。貴様が瑞鶴ともども、再び敵として現れる事を願っているぞ」
「……そして、レックス。
貴様は「遊び」が過ぎる……戦闘には、常に緊張感を持て。以上、状況終了だ。」
……立ち去るネバダに消失する瑞鶴〔オルタ〕。
太陽が昇った海に佇み、静寂だけが支配するその世界で……レキシントンは、静かに呟く。
「あぁ、駄目だったか」
伸ばす手は天より差す陽へと。
…………最期に、彼女はにやりと笑う。それが自分の証明であると、レキシントンという存在の役目であると言うかのように。
そして、旭に翳した手を――――太陽を潰すかのように――――握り締めて。
「……何度でも、何度でも逢いに行くよ」
空に罅が入る。
海が割れ、音も無く、特異点の崩壊が始まっていく。
佇む“彼女”も欠けていき、最早自我すらも消えかけた世界の中で――――――――
最期に溢した、その一言は。
「それが、僕の――――――――――」
（レイシフトのおと）
「はー、やっぱりマスターの部屋が一番落ち着くわねー……」
と、腑抜けきった安堵の表情を浮かべつつコタツに潜っているのは、ライダーのサーヴァントにしてアメリカ海軍空母・エンタープライズ。
デジャブ……僅かな既視感を感じながらも、私たちはあの海を無事切り抜けられた事を喜び、こうしてマイルームで休息を取っていた。
思い返せば、戻ってきてからも一騒動あったものだ。
……双龍にあの海の記憶はなかったようで、戻ってくるなり瑞鶴を心配していの一番に駆け寄ってきた。
しかし……転移された瑞鶴が、宿敵であるエンタープライズとしっかり手を繋いで帰ってきたのを目撃して勘違い。
『米帝と肉体的接触しながら戻ってくるなんて！お姉ちゃん、そんな不良に育てたつもりはないよ！』なんて言いながら激怒。
鳳翔や鳳翔や長門や長門に宥められてなんとか機嫌を取り戻したものの……まだぐずっていて、ふて寝の最中ということらしい。
対するネバダは、どうやら一連の流れを記憶しているようだった。
戻ってきた私達に労いの言葉をかけて、エンタープライズに「褒美だ」と言いながら大量のハンバーガーとコーラを差し入れてきた。
ちゃんと瑞鶴の分も用意されている辺り……今日は機嫌が良かったのだろうか。それとも、あの海で何かあったのかな。
あの後、別れて行なっていたという「やるべきこと」について聞いてみても、はぐらかされるばかりで何も答えてくれなかったけど。
……何はともあれ、一件落着。
色々と疲れたけど……瑞鶴も吹っ切れたようでよかった。
「本当にご迷惑をおかけしました……。
ですが、今一度私の最期を見返す良い機会になれました」
「……そう。私を沈めたのはエンタープライズでも、レックスでもなく
私の最後はあの海で……ほわんほわんほわんずいずい〜〜」
「あー！流行りに乗ったわね！」
コタツで繰り広げられるいつもの諍いを聞き届けながら、私は殻になったかごにミカンを補充しようと席を立つ。
ええと、みかん箱には……無いや。しょうがない、ネルソンの所に行って分けてもらおうかな。
そうして、マイルームからカルデアの廊下へ出た瞬間。
……ふと、何処かで感じたような寒気を覚えた。人間味に欠けた、冷たい気配を。
しかし周りを見渡しても誰もいない……気のせいなのかな？それとも、一周遅れの風邪でも引いた……？
ともあれ、ミカンの補充を急がなければ。
……その間に、二人の言い争いがヒートアップしていないといいけれど……。
――――――同時刻、ダ・ヴィンチの工房にて。
近頃増えた新規のサーヴァントの名簿を確認し、記憶している様子のダ・ヴィンチ。
……その中でふと、彼――彼女は、覚えのある名前を見つけたようで。
苦笑い。そしてため息。
喚び出した記憶はないけれど、いつの間にか現れていた……。
或いは、「着いてきた」ということなのだろうか。何れにせよ、今更取り消すことも出来まい。
故に、ダ・ヴィンチ何気ない動作でその名簿に印をつけて
「……全く、カルデアの霊基に収まるように“自分を偽る”なんて、どれほどの執着心なんだか」
クエストクリア報酬
スキルランクアップ 
空襲：C++ → 旭の羽撃き：A
＜ランクアップ前＞
味方全体に必中状態を付与(3T)＆自身のBuster性能アップ(1T)
↓
＜ランクアップ後＞
味方全体に無敵貫通状態を付与(3T)＆味方全体のBuster性能アップ(1T)＆味方全体の[旭]属性のサーヴァントにNP付与(20)
味方全体に必中状態を付与(3T)＆自身のBuster性能アップ(1T)
↓
＜ランクアップ後＞
味方全体に無敵貫通状態を付与(3T)＆味方全体のBuster性能アップ(1T)＆味方全体の[旭]属性のサーヴァントにNP付与(20)
霊衣開放
「覚悟ノ嚆矢」
☆0サーヴァント アサシン レキシントン
【あとがき】
構想から書き上げるまで、だいたい10ヶ月近くかかってしまった……
元々は「レキシントン」という、エンタープライズと瑞鶴の関係に入り込んでいくようなサーヴァントを作ろうとしていて
「こんなキャラいきなりポンとお出しされても反応しにくくない……？」となり、じゃあ導入SSをちょっと書けばいいってことじゃんッ！と思いつき
レキシントンを巡る史実やら、エンプラちゃんと瑞鶴の関係を掘り下げたい思いやらがどんどん混じってきてこんな冗長な作品になってしまった……。
エンプラちゃんをガッツリ動かしすぎたというか、かなり感情とか思想の部分にも言及してしまって本当に申し訳ない……。
もし「エンプラはこんなこと言わない！」という部分があれば修正いたします！あと使用許可を頂けて本当にありがとうございました！
このSSとレキシントンは、DECO*27氏の楽曲「ゴーストルール」にかなりインスピレーションを受けているので
そちらも合わせて聴いてみると、もうちょっとわかりやすくなるかもしれません……。
元々は「レキシントン」という、エンタープライズと瑞鶴の関係に入り込んでいくようなサーヴァントを作ろうとしていて
「こんなキャラいきなりポンとお出しされても反応しにくくない……？」となり、じゃあ導入SSをちょっと書けばいいってことじゃんッ！と思いつき
レキシントンを巡る史実やら、エンプラちゃんと瑞鶴の関係を掘り下げたい思いやらがどんどん混じってきてこんな冗長な作品になってしまった……。
エンプラちゃんをガッツリ動かしすぎたというか、かなり感情とか思想の部分にも言及してしまって本当に申し訳ない……。
もし「エンプラはこんなこと言わない！」という部分があれば修正いたします！あと使用許可を頂けて本当にありがとうございました！
このSSとレキシントンは、DECO*27氏の楽曲「ゴーストルール」にかなりインスピレーションを受けているので
そちらも合わせて聴いてみると、もうちょっとわかりやすくなるかもしれません……。
nevadakagemiya
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