ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

 ――向かい風が、唸っていた。

「嫌な風ですね」
「まぁ、こんな状況だもの、無理も無いわね」

 赤い鉄骨に支えられている鉄橋の上。
 それを歩く二人の少女――いや、女性の肌を、風が撫でている。
 一人は、パーカーにジーンズ。現代人と呼ぶに相応しい服装だ。
 だが、もう一人は、

「しかし、向こうさんからお呼び出しが掛かるだなんて……」
「……それに乗る私も、どうしたものか、ってやつかもね」
「まぁまぁ、マスターは湖の騎士にかけて、私がバシっと守りますからご安心を!」

 がちゃり。物々しい音がその『装備』から響く。
 もう一人は小柄な体を、厚い鎧で覆っている。
 そして右手には、持ち手の背丈よりも長大な、馬上槍――。

 “騎士”

 彼女を見た人々はそう思わざるを得ない。
 こじんまりとした見た目と、可愛らしい顔立ちを持ってしても有無を言わんさない程の説得力である。

「毎度思うんだけど……その槍さ、おっぴろげて歩いてても良いの?」
「常在戦場ってやつですよ! お兄様はいつも――」
「あぁ、うん、分かった、分かった」

 パーカーと、鎧。
 あまりに不釣り合いで、あまりに冗談じみている組み合わせだ。
 だが、それを見る好機の目も、人も、月明かりだけが照らす暗闇の橋の上には無かった。
 ならば紛れもなく、それは現実の光景として君臨するのだ。

 事の始まりは今朝。
 パーカーの女性の“拠点”に舞い込んだ一通の手紙である。
 同じく、“この戦い”に参加していると自称する人間からの誘い。
 停戦、同盟を組みたいという内容の、である。
 その為の話し合いをする為、緋月は自身の“相棒”である騎士を伴い、この町外れの廃橋に訪れたのだ。

 しばらく、この不釣り合いな二人組は廃橋の上を歩いていたが。

「……いたよ、ランサー」

 ふと、足を止めた――。
 足を止めた、その二人の前。
 鉄橋の表皮であるコンクリートの上に、槍が突き刺さっていた。
 ガレスの持つ、巨大な馬上槍よりも巨大な、黒い槍。
 見ようによっては柱にも見えるほどの巨槍だが、その先端にある菱型の刃が、その役割を証明している。

 だが、注意すべきは、さらにその奥、

            ・・・・・・
「お待ちしておりました。もう一本の槍よ」

 紺色の修道服に身を包む、一人のシスターが、佇んでいる事だ――。

「……貴女が、私達を呼び出したランサーのマスターさんってわけ?」
「えぇ、来ていただき光栄ですわ、“ヒツキ”様」

 ――名前が知られている。

 そのシスターの金色の髪は、暗闇の中にあって光り輝いているように見えた。
 閉じたようにしか見えない瞼の奥の眼球に、何もかもを見透かされているな感覚さえ覚える。

 緋月――ランサー・ガレスのマスターは表情を歪ませる。

 彼女は、隣を歩く自身のサーヴァント、ガレスに目線を送った。

(周囲を警戒して)

 ガレスは無言、無動作でそれに従う。
 敵は眼の前にいるのだ。名前以上の物は、気取られたくない。 

 無論、ここまで対策を講じてこなかった訳ではない。
 橋の入り口には、既に同盟を組んだ仲間の陣営がスタンバイをしている。
 敵を確認するために偵察用の使い魔も何体か飛ばした。
 だが、使い魔は橋に途中で何者かによって迎撃され、全容は確認できなかった。

 この女には、何か、得体の知れぬ何かがある――。

「で、同盟を組むってのに、どうしてこんな場所まで来なくちゃいけなかったわけ?」
「試させて、頂くためですわ――」

 “何を?”
 そう問いかけるより早く、

 ゆらり――金髪が夜風に揺らめいた。

「マスター!!」

 緋月の腰に、ガレスの手が廻る。
 そのまま体が後ろに飛び、次の瞬間、緋月のいた地点が爆散した!

「くっ――!」

 パラパラと鉄骨の表皮が飛び散り、土煙が舞い上がる。
 大質量の物体が、緋月が先程まで立っていた場所をピンポイントで『突き上げた』のだ。

「マスター、大丈夫ですか?!」
「不意打ちの予測はしていたけど、下からとはねっ……!」

 爆弾でも橋の裏に仕込んでいたのか――?
 緋月は体制を立て直しながら、思考を加速させる。
 だが、今はその故を考えていても仕方あるまい。

 既に戦闘は始まっているのだ――。

 次に敵が行う行動に対して、何らかの手を打たねばならない。
 本来なら、こういう前線には立たないのが緋月の役割だった。
 そうして、ここまでこの泥だらけの聖杯戦争を生き残ってきたのだ。
 だが、今はこうして相手を燻り出すために、わざわざ怪しすぎる“誘い”に乗ったのだ。
 いや、乗ってしまった――という方が、正しかったのかもしれない。
 それでも、

(考えろ)

 サーヴァントの能力。橋の向こうで待機する仲間の陣営。令呪――。
 駒はたっぷりある。
 キングの眼前まで敵駒が来ても、取られなければ負けではないのだ。
 ガレスは馬上槍を構え、襲撃してきた『物体』に対し警戒をする。

 ぱち、ぱち、ぱち――。

「お見事、お見事。流石ですわ、ヒツキ様」

 その警戒を嘲笑うかのように、拍手が返って来た。
 緋月だけでなく、ガレスまでもが怪訝な顔をする。

 だが――、

「では、ここからは知と武の勝負を」

 相手もまだ、駒を残している!

「 GRRRRRRRRRRRW!!!!!! 」

(来た!)

 土煙の中から、敵の駒が巨大な影となり、確かな実体を持って突進する!

「ランサー!!」
「ッ――了解!」

 ならば、それに対する手は――。
 ランサーのサーヴァント、ガレスが得物を振るう。
 緋月は後退しつつパーカーのフードを落とし、最初の一手に備える! 

「まぁ」

 相手のシスターが、とぼけたような声を上げる。
 ガレスの槍は正確に、飛び出して来た“敵”の武器を迎撃していた。
 それと同時に発生したのは、激しい閃光!
 彼女の持つ魔力が、爆風を伴う光となって炸裂したのだ。

「!!!」

 といっても、この光自体の攻撃力は低い。
 攻撃力を上乗せする為のスキルを応用したフラッシュバン。目眩ましだ。
 逃走用、ないし敵の全容を把握する為の手段。
 そして、今回はその後者として、十分に効果を発揮した。

「RRRRR――!」

 およそ知性の感じられぬ咆哮を発しながら、こちらに向かってきていた敵が後退する。
 同時に土煙が吹き飛ばされ、視界が通った。
 緋月はパーカーを上げ、敵の姿をその目で確認する。

「人間……いえ、サーヴァント……!」

 新緑色の軍服。
 どこか年代を感じさせるボロボロの軍服に、剛体とでも言える肉体が包まれていた。
 身長は2mを下るまい。体重も軽く見積もって3桁以上は約束されている。
 黒く短い髪と、どこか朧気な鋭い目が、猟犬のようにこちらを見据えていた。
 右手には先程まで橋に突き刺さっていた、黒い槍――。

「ランサー、なんでしょうか……?」
「えぇ、そうです」

 ガレスが槍を構えたまま言う言葉に、その巨大な軍人風の男の後ろからシスターが答える。
 至って緊張感のない。むしろ親しみすら感じる声色だ。
 だが、注意すべきはそこではなく、

「でも……ありえないわ」

 緋月が抗議する点にあるのだ。

 一度の聖杯戦争に、同クラスのサーヴァントが二体以上召喚される、という事案は聞いたことがない。
 そもそも、聖杯戦争は儀式なのだ。
 正式な手順と、方法を持ってしてのが儀式。
 頓痴気な言い方をすれば、伝統と歴史を守らなければ、儀式足り得ない。

 しかして、

「そう、在り得ぬ事が起きるのがこの戦争、破綻して久しかる儀が我らの戦争ですわ」

 ――それも一理ある。あってしまうのだ。緋月は下唇を噛む。

 確かに、既に『聖杯戦争』としては破綻した事態が起きている。
 いや、聖杯戦争ではなくとも、起きてはいけない事自体が起きていると言えば良いのか……。

「故に、こうして試させて貰っているのです」
「……何を?」
「私達と手を組むに足り得る御方かどうかを……ですよ」

 シスターは男の左腕を慈しむように撫でながら言う。
 その表情には相変わらず微笑みが張り付き、緋月へぞわぞわした警戒心を植え付ける。

 ――寸間の静寂。

「では、軽い問答と行きましょう」
「は?」
「私達の正体、それを当ててくださいな」

 修道女がパン、と両手を打ち鳴らす。
 それを号令として――、

「なっ」

 緋月とガレスの背後にある橋が、爆発と共に“折れ”た。
 比喩や例えではない。
 真の意味での“爆散”だ。

(爆薬?! そんな、いつ――!?)

 出来の悪いアクション映画でしか見ないような、派手で大胆な爆発。
 その光と熱、そして轟音に緋月の脳髄は揺さぶられ、焦る。
 だが、目の前の相手はその動揺を突いてくるのだ!

「 G――LLLLLW!!!! 」

 軍人風の男が、黒い槍を蛮人さながら振りかざして突進を開始する!

「来ますよマスター! やっちゃいますか?!」
「ッ――、まだよランサー! 足止めに留めて!」

 ガレスが飛びかかってきた男を馬上槍で迎撃する。
 叩き潰さんと振り下ろされる黒槍と、それを迎え撃つ馬上槍。

 ――双槍が激突する。

 その衝撃は、まるで巨大な鐘が鳴らされたかのような反響音を孕んで鳴り響き、橋の老骨に悲鳴を上げさせる!

 緋月の視界の向こうで、シスターは未だ不気味な微笑みを浮かべて緋月達を見つめるのみ。

 ――気に食わない。

 何がおかしくてそんなに笑っていられるのだ。
 こっちは、出て来たくもないのに来てやったというのに!
 一種、子ども染みた逆恨みの如き怒り。
 緋月は焦りと動揺を、その怒りで押さえ込むと、思考を巡らせる。

「良いわ、お望みってなら、ギャフンと言わせてあげようじゃない」

 ガレスと男は槍でしのぎを削り合いながら、拮抗した力比べをしている。
 男は自身と得物の重質量を存分に活かすタイプらしい。
 だがガレスもまた、三騎士の一人なのだ。
 力任せの相手にただやられるほど、ヤワではない。
 ならば。

「相手の真名を暴くわよランサー! とりあえず身ぐるみ剥いじゃいなさい!」
「了解!」
「LLL!?」

 ガレスの槍が翻り、技巧を持って男の剛槍を弾く!

「いざ、太陽の騎士の如く――輝け! 我が槍!」

 出来たのは一瞬の隙。

 ――だがその“一瞬”を捉えてこそ、円卓の騎士が一人!

 トライカラード・ラッキークローバー レッド
「 愛し従う三つの色――赤!!」

 円卓の騎士の持つ必殺の槍が赤熱し、空間を焦がす!
 それは彼女の従える三人の騎士が一人の力。
 死して尚、白き手の騎士を支えうる、忠臣の力だ!

「!!!!!」

 男は弾かれた黒槍を構え、左腕を盾として“赤”の一撃を迎え撃つ!

 ――激突!

 崩落する背後の橋。その瓦礫を吹き飛ばしながら、赤い火花の波が吹く!

「!」

 黒槍を破壊突破したガレスの切っ先は、そのまま男の左腕を貫くかに思えた。

 ――確かに、その目論み自体は正しかったのかもしれない。

 事実、ガレスの槍は男の得物を突き崩し、男の掌を捉えているのだ。
 とはいえ緋月の『真名を暴く』という目的の為、威力は最小限に留めた。
 それでも、これまでにない程のクリーンヒットなら、ただでは済まない筈――。

 では、目の前の相手は再起不能になったか?

 ――答えは、否――。

 赤槍の切っ先は、ガレスが吹き飛ばした軍服の下に現れた銀――いや、鋼色の腕に受け止められていたのだ。

「なぁっ――?!」

 円卓の騎士は目を見開く。

「戻ってランサー!」

 赤熱した鉄塊が再び動き出す直前に、緋月は叫ぶ。
 ガレスが身を翻して下がった地点を鉄腕が抉り取るように空振りし、そのまま鉄橋の上へ叩きつけられる。
 生易しくない破壊音と共に、コンクリートの表皮が剥げ、鉄骨がひしゃげた。

「 G RRR RRRR……!! 」

 およそ人間とは思えない唸り声が、男の口から漏れる。
 男はそのまま歯を食いしばりながら、鋼の左腕、その掌を緋月とガレスに向ける。

「なりませんよ」

 そこへ、影のようにシスターが現れ、行動を制止する。
 再びにらみ合いの再開だ。
 いや、今はシンキングタイムとでも言うべきか。

「銀の腕……まさか、サー・ベディヴィエール……?」
「いやいやいやいや! 違いますよ?! ベディヴィエール卿はあんなにブサ……!」
「 GRRRRRRRRRR!! 」
「うーわーランサーが余計なこと言うから怒った!」
「え゛ぇ゛ー?! 私のせいですか!?」

 とはいえ、分からない事が多過ぎる。
 緋月は親指の爪を噛む仕草をしながら考える。
 軍服。黒い槍。鋼の腕。
 それら全てを持つサーヴァント、もしくはサーヴァントに成りうる英霊など、さっぱり聞いたことがないのだ。
 そもそも、軍服で槍を振り回している時点でおかしい。
 歪だ。
 何もかもが噛み合わない。

「……何か違和感あるんですよね、彼」
「違和感ね……」

 その違和感は、ガレスにもあったらしい。
 緋月を守るように正面に立つ小さな騎士が、訝しげな声と共に首を傾げる。

「何ていうか、おもったより強くないっていうか、ランサーって感じがしないっていうか……。
 あの黒い槍も、変に脆かったですし」

 率直な意見。直感とも言うべきか。
 最前線で戦う者だけが感じ取れる闘士の勘働きに、緋月は一つの光明を見出した。

「――ランサー、耳貸しなさい」
「えっ、敵の前ですよ?」
「良いから、どうせ仕掛けてこないわよ……これないとでも言うべきかしら」
「ど、どういう……?」
「良いから!」



「じゃあ、行くわよ」

 先鋒は緋月が仕掛ける!
 彼女の戦場での本懐は“司令塔”――故に、彼女は多数の使い魔を揃えている。
 斥候として遣わせたものは迎撃されてしまったにせよ、その数が尽きたわけではない。

「――GO!」

 緋月が指を鳴らすと同時に、空中から数体の鴉が急降下し、相手へと飛びかかる!

「GRWW……!」

 男がシスターを庇うように前に出、鴉達に立ち塞がる。
 だが鴉はそれを嘲笑うかのように避け、散会!

「?!」

 そして撒き散らされる、無数の黒い羽!
 月光を反射する艶やかな漆黒は、黒のカーテンとなって男の視界を覆う。

 分かり易すぎる目眩ましね――緋月は自分で自分を笑った。

 だが、それで良いのだ。
 あくまで男の注意を逸らす事が出来ればいい!

 真の狙いは――。

「G――!?」

 男の鋼の腕を足場に、ガレスが宙に躍り出る――。
 その身は軽やかな羽のように宙を舞い――。

「もらった!」

 後退したシスターの眼前へと、舞い降りた!
 ガレスが再び槍に炎を宿し、一点の迷いなくシスターへと突貫する!
 闇夜すら退ける程に輝きを増した炎槍の一撃――。
 それに対し、金髪のシスターは薄っすらとその目を開き――。

「我が槍をここに――」

 一言と共に現れた、光り輝く『槍』で、騎士の炎槍を迎え撃った――!
 炎と光が衝撃を持って吹き荒れ、眩さと共に、二つの槍が激突する!

「やっぱり――貴女がサーヴァント、もう一人のランサーですね!」

 力と力の衝突の中で、ガレスが叫んだ。

「ご明察、お見事です……!」

 群青色の修道服から、一瞬でその身を白い礼装に変えたシスター――いや、ランサーのサーヴァントは、大きくガレスの槍をいなす。
 ガレスが身を翻して着地するのと同時に、男を襲っていた鴉の群れも襲撃を止め、宙空へと戻っていく。

「やっぱり。何もしないんじゃなくて、出来なかったってワケね。
 槍――いや、宝具なんか使っちゃ、どっちがどっちだかバレるんだもの」

 正体を表した白いランサーへ、緋月は大きく胸を張って宣言した。

                        ・・・・・・
「さ、“正体”とやらは暴いたわよ、これで満足? もう一本の槍さん?」

 ――この勝負は、私達の勝ちだ。

 白いランサーは光の槍を持ったまま、額の汗を拭って、再び微笑んだ。

「えぇ、その力量、見させて頂きました。これで……」
『マズいぞ、姉さん――“奴ら”だ! 何体かは倒したが、そっちに行ったのもいる!』

 刹那。白いランサーの言葉を遮ったのは、鴉の一匹が発した『声』だ。

「星司――」

 緋月の使い魔を介して声を届けたのは、他ならぬ緋月の弟――星司だ。
 緋月が有事の際に備えたバックアップとして配置した陣営、それが星司とそのサーヴァント・セイバーの陣営に他ならない。
 その声を聞き――というよりも、その“内容”を聞いて、緋月は戦慄する。

 “奴ら”

 そう、“奴ら”だ。
 この聖杯戦争における最大のイレギュラー。
 魔術協会側も想定していなかった、謎の“軍勢”。

『■■■■■』

 ――大量の黒い“泥”で構成された、無限の怪物達だ――

 彼らの正体は不明となっている。
 なっているが、対峙してしまった場合、その詮索は無意味だ。
 奴らは敵味方の区別などなく、或いは、目的すら無く。

『■■■■■■■■■■!!!!』

 ――平等に襲い掛かってくるのだから!

「っ……! しまった! あんた達、もしかしてこれが狙い――」

 崩落した橋の下から、無尽蔵に湧いてくるその“泥の軍勢”。
 緋月は白いランサー陣営への嫌疑を掛け――、

「フせて、ミみふさげ」
「でっ……!?」
「マスター!」

 る暇もなく、緋月の視界は、ガレスに引っ張られて地面に転がされる。
 反射的にフードを被り、耳を塞ぐ緋月。
 その頭上で――、


 ―――!!!!


 もはや痛みすら伴う程の爆音が叫び。耳を覆う緋月の両手すら振動させた。
 その体の上を“威力”が一瞬で通り抜ける。

「な、何なの……?!」

 緋月が恐る恐る顔を上げる。
 隣には同じように地面に伏せたガレスが、目を点にして正面を見据えている。
 緋月が、さらに恐る恐ると正面に目をやると、

「……ウ、うぅ、ヤっぱりこれ、ダめだ。アたまが、イたい」

 頭を抑えながらブツブツと愚痴る軍人風の男。
 その左掌に、ぽっかりと穴が開いていた。その穴からは煙が湧き上がる。
 まるで、銃口のようなそれの向けられた先――緋月達の背後。
 そこに迫っていたはずの泥達は、一切の痕跡もなく、消し飛んでいたのだ。

 何かを発射したのか――?
 魔術的なもの抜きであの威力を持つ、何かを――?
 というか、普通に喋れたのか――。

 やはりあの男は何かが変だ。
 緋月は漠然とした感想を抱く。
 そこへ差し伸べられる白い手。

「同盟を組みましょう、ヒツキ様」

 白いランサーだ。
 緋月はその手を取るか一瞬迷ってから、取った。

「この事態は、もはや聖杯戦争の粋を越えています。“泥”が意志を持ち、夜に鳴く……」

 白いランサーは、緋月を起き上がらせると、光槍を橋の崩落した部分へと向ける。

「今は何とか平穏を保てていますが……無辜の民が危機に晒されつつあるのを、貴女も感じている筈です」

 そこから、再び泥の軍勢が湧き上がってくる。
 白いランサーは、それを憂いた目で見つめた。

「……何が狙い?」
「この聖杯戦争を終結させます。今の私だけでは、力が足りません……」

 光の槍が力を失ったのか、割れるようにして消えた。

「あー……マスターのあんたはそれで良いわけ?」
「……イい」
「はぁ……何が何だか……!」

 それを見て、頭を掻きながら軍人風の男――白いランサーのマスターが頷く。
 緋月は少しだけ考える。ガレスの方に目をやると、彼女は一度頷いた。

 なるほど、最後の選択権は私に任されてるってことね――。

 緋月は一度大きくため息をつく。
 正直、こんな意味不明な事態になるとは思っていなかった。
 好奇心は猫をも殺すというが、どうやら本当らしい。
 だが、しかし、だからこそ、この事態の裏側――真実を見てみたい――。
 緋月は深まる謎への探究心が、抑えられない程に溢れている自分にまず呆れたが、

「良いわ――やりましょう、やってやろうじゃない」

 結局、周囲の三人と同じ方向を向くことに決めたのだ。
 対するは泥の軍勢。
 そして、その背後にうごめく“影”――。

「じゃあ、さっさと今夜の泥遊びは終わりにしましょうか!」
「了解、マスター! じゃあこれから二人は友達ってことですね!」
「……トもだち、ワるくない」
「感謝を、ヒツキ様。ではこのランサー・ロンギヌス、この槍を持って貴女型の力となりましょう!」

     -Shadow chaser-
 ならば、影を追うのも悪くない。
 緋月は口端を上げて、目の前の泥に対峙する。

 ――追い風が、背中を推している。











●あとがき
fateっぽい戦闘シーンが書きたくて結局書けなかった感じの泥SSです。続きはない。
書いててわかった。文章力が低い。少し泣く。
何か泥鯖がいっぱい登場して活躍できるような世界観を目指した結果、聖杯がめちゃくちゃな事になっててサーヴァントが無限召喚出来るようになってる感じを目指しました。
魔術協会やルーラーは何してるんだって? わ、分からん……。
泥(ドッペルゲンガー)が無限湧きの雑魚敵(hollowのアレっぽい何か)と化しました。ある意味で一番美味しい役回りだからセーフだな!

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