ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

 わたしは、運命を呪う。



 黒い影が蠢いている。何かが寄り集まって形を為すようなそれは、けれど群れでは無くひとつの生き物なのだ。
 影はずるずると、ひたひたと、わたしの近くに寄ってくる。
 レム・・、と影はわたしの名前を呼ぶ。
 わたしは―――




 ガタガタ、と不快な揺れに目を覚ます。
 身じろぎしようとして、やけに狭い場所で眠っていた事に気付く。
(車の、中……?)
 どうやらわたしは車の後部座席に横たえられていたようで、けれどどうしてこんな状況にいるのかはまるで思い出せなかった。
「なんだぁ?目が覚めちまったのか?」
 前の座席、運転席から軽薄そうな男の声が響く。
「ま、いいけどな。防音はちゃあんとしてあるし、周りにゃ誰も居ない。今更騒がれたとこで困りゃしねぇや」
 喋り続ける声を聞き流しながら、まだぼんやりとしたままの頭で、記憶を辿る。
「どうして自分が攫われたか、分かるか?」
 耳に飛び込んできた、笑い混じりの男の声で思い出す。
 そうだ、わたしは突然誰かに後ろから襲われて、それで無理矢理車に乗せられたのだった。
「……ぞーきばいばい?」
 男の問に応えたのは、ただの気まぐれだ。
 だけど、男にはそれが意外だったようで、バックミラー越しに怪訝そうにこちらを伺ってきた。
 黙ったままでいると、少し間が空いてから、男はまた余裕を取り戻したように笑い混じりに喋り出した。
「なんだよそりゃ?ガキの癖に、旧人類史の本でも読んだことあんのか?」
 本は、好きだ。小さい頃(今も小さいのだろうけれど、今よりもっと小さい頃だ)、よく一人で本を読んで過ごした。
「残念ながら不正解だよ。今は誰も彼も健康長生きだからな。そんなもんは流行らないのさ」
 それなら何が流行るのか、と少し勿体つけてから男は続けた。
「刺激、だよ。安全で平穏な時間がずうっと続くと、人は刺激に飢えるのさ」
 男の声に混じる笑いが、一層濃くなった。
「その点お前さんはうってつけさ。身なりは汚ねぇし痩せてるが、なかなかの上玉と見たぜ。金持ちの変態爺共にとっちゃ、最高の刺激・・になる」
 つまりは、それが最初の問いの答えと言うことだろう。
 どうでもいいな、と思った。




「悪い子はアバシリ・プリズンに入れられちゃうよ」
 母はよく、冗談めかしてそんな事を言った。幼い私は悪い子で、よく母を困らせた。
「レムは良い子だよ」
 そう言って、父はわたしを撫でてくれた。
 優しかった両親は、もう居ない。
 何処かに消えてしまった訳じゃない。死んでしまった訳でもない。この世界で、人は死なないのだから。
 けれど、永遠に眠り続けるのなら、それはもう、死んでいるのと変わらない。
 誰かのせいじゃない。わたし自身が、わたしの運命が、彼らを殺してしまった。
 なんの前触れもなく現れた、黒い影。蠢く巨大な怪物。聖杯によって導かれた、わたしの運命。
 それが母と、父を襲い、そしてその時から、二人は永遠に目を覚ますことは無かった。



「思えばあのイカれ女に関わったのが不幸の始まりだった!」
 叫ぶような男の声に、我に返る。
「人を見下しやがってあのクソが!クソクソッ!」
 男はいつの間にか随分とヒートアップしているようで、声に先程の笑いはもう混じっていない。
「その上あのクソ情報屋だ!あの野郎のせいで、俺はサーヴァントまで失くしちまった!」
 男が頭を掻き毟る。明らかに正気ではない。
「……だが、いいさ。奴には感謝もしてるんだ。野郎のおかげで、ここを離れた後の目処は立った。賭けには勝てなかったが、サービスだとかなんとか抜かしてやがったな。ったくイカれ野郎の考える事は分からんぜまったく」
 ひとしきり叫んで落ち着きを取り戻したようで、男の声に先の軽薄さが少しだけ戻っていた。
「お前を売り払えば、当面の金は手に入る。その先の事はゆっくりと考えるさ。先ずは……」
 一際大きな揺れと共に、車が停止したのはその時だった。
「ぁあっ……?なん、なにが、あ……?」
 バン、と硬い物を叩く音が響く。
 男の視線が横を向く。窓の外、そこに誰かがいるのだろうか。
「あ、ぁ……うず、渦廻……」
 男に釣られて窓の外を見ると、目の前には黒いスーツを着た男が立っていた。うずめぐり・・・・・は恐らく運転席のすぐ横に立っているのだろうから、また別人だろう。
 黒服の男は、ちらりと切れ長の鋭い視線をこちらに向けてから、少し身体を移動させて、隣に立っているであろううずめぐりの方に向いて何事か口にしているようだった。
 ガシャン、と大きな音が鳴る。窓の割れる音だ。車の窓というのはそんなに簡単に割れるものじゃ無いのではないか、となんだが呑気に考えてしまう。
「いよう、クソッタレ。いーい度胸だなぁオイ」
 響いた声は、意外にも女性の物だった。
「取り敢えず降りろや。お話しよーぜ」
 けれどその声は、今まで生きてきて聞いたどの声よりも、冷たく、恐ろしく聞こえたのだった。



 一人きりになったわたしの前に、影は時折姿を表した。そして必ず、誰かを傷つけて、眠らせた。その度に、一人きりのわたしは、もっと一人きりになった。
 まだほんの子供に過ぎないわたしが、一人きりで選べる生き方なんてほとんど存在しない。わたしはいつも泥まみれで、いつもズタボロで、いつも一人ぼっちだった。
 だから、逃がし屋の存在を知った時は、天啓だと思ったのだ。
 わたしは、懸命に、必死に、逃がし屋が居ると言う天王寺に辿り着いた。ここでなら、わたしは新しい運命と出逢える。そう思った。
 けれど。やっぱり。どうしようもなく。わたしは、運命に呪われていて、運命を呪い続けるしか無いのだと思い知らされた。
(ツクシお姉ちゃんは、優しい人だったけれど)
 だから、傷つけてはいけないのだ。
 わたしは、一人ぼっちで居なくてはいけない。
 きっと、ずっと、永遠に。



「テメェには随分と金を貸してたよなぁ?恩も売ってたはずだ。それをこうも見事に裏切られるとはねぇ」
 冷たい声で、うずめぐりが言う。
「ま、待ってくれ!誤解だ!逃げようとした訳じゃない!」
 男が必死に弁明する。けれど、わたしが聞いても白々しくて、全く説得力が無い。
「こっちは既にネタが上がってんだよ。親切な情報屋さんからのタレコミでなぁ」
「あ、あのクソッタ、あいつに、騙されてるんだ、ですよ、渦廻さん!お、俺は本当に、そんなつもりじゃなくて」
 必死に喚きながら男がわたしの方を向いた。
「ほら、あのガキ、あいつですよ!あれを売っ払って、金の目処が立ちそうだったもんで、それから借りた金は返すつもりだったんですよ!」
「ざぁんねん。それが逆効果だったんだよばぁか」
「……はぇ?」
 うずめぐりの言葉に、男は間の抜けた声を上げた。
「わっかんねぇかなぁ?この私が、テメェみたいなクソ小物の為にわざわざ自分で出向くなんてこと、普通は有り得ねぇだろうが。そこのお嬢ちゃんはな。元々私が目ぇつけてたんだよ。それをバカみてぇな理由で横から攫いやがって」
「なな、何を……あのガキが……?」
 男は、まるで意味がわからないと言う風に声を震わせる。
 それはそうだろう。わたしにだって意味がわからないのだから。
「まぁいいや。これ以上くっちゃべってても埒が開かねぇ。テメェはこれから一生かけて、死ぬよりも酷い目に合ってもらうから安心しろ」
「ひっ、ああぁ……!!」
 いい加減限界だったのだろう。男は悲鳴のような叫びを上げて、踵を返し逃げ出した。
「馬鹿が。逃がすわきゃ……」
 否、違う。男は逃げようとしたした訳では無かった。
 駆けた先は、此方。わたしに向かって、男は駆けていた。
 そしてわたしの首根っこを捕まえると、抱え上げてうずめぐりに向き直る。
「ひ、ひひひッ……!このガキが目的、だってぇ?そいつはいい!口を滑らしたな渦廻さんよ?こいつの顔面グチャグチャにされたくなかったら、俺の事は見逃してくれや、なぁ?」
 わたしの首を締め上げながら、男は必死に言う。
「そこまで馬鹿とは思わなかったぜ、オイ」
 対するうずめぐりは、あくまで冷静だった。
「ほ、本当にガキがどうなってもいいのか?俺を舐めてんのか、オイ!俺は!俺だってなぁ!俺だってやれんだよ!!」
 もはや支離滅裂になりながら、男はわたしの首を締め続ける。
 だめだ。いたい。くるしい。
「おお、俺はなぁ!俺はぁ!!」
 くるしい。くるしい。くるしい。だめだ。だめだ。だめだ。
 ああ、これ以上は。
「ぁが、……ぁ」
 必死に声を出そうとする。逃れようともがく。
「俺はぁぁぁ!!」
 叫ぶ男に、わたしの声は届かない。
 ああ、もう駄目だ。
 その名を呼ぶ。
「キャ、ス……ター……!」
 影が、来る。





 私は、運命を呪う。
 この儚く、優しく、気高い少女を苦しめる、非情な運命を。
 私が初めて彼女を見たその時から、彼女は一人だった。
 暗闇の中、世界には彼女意外の人間は存在していなかったのだ。
 狂っているのが世界では無く、私自身の認識である事は容易に理解できた。座から与えられた知識と照らしても、状況は明らかに異常であったからだ。
 しかし、それでも少女が一人であることは変わらない。
「アンタみたいなクソガキはね、アバシリ・プリズンにでもぶち込んじまうよ」
 豚が、金切り声で叫ぶ。
「良い子だねぇ、レム」
 蛇が、ドス黒い舌で彼女の身体を舐め回す。
 誰も、彼女を救わなかった。誰一人として、この世界に彼女意外の人間は存在しなかった。
 私自身はと言えば、狂っているのは認識だけには留まらなかった。己の肉体が、生前のものとは似ても似つかない、巨大な影が如き怪物と化している事には直ぐに気が付いた。或いは、実際の形は生前と変わらず、己の肉体に対する認識もまた、他のそれと同じように狂っているのかも知れなかったが、それはどちらでも然程重要では無かった。
 重要なのは、身体の自由が効かないと言う事だった。どうやら私とマスターである彼女の結び付きは他の者達よりも強く、根深く、彼女が望まない限りは姿を表す事にすら多大な労力を必要としたのだ。
 時折身体を蝕む痛みにも困った。引き裂くように貫くように、身体中に走り回る痛みが、私の精神を苦しめた。
 その痛みの原因が何であるのか、理解するのにそう時間は要らなかった。
 少女が、レムの心が痛む時、私の肉体もまた、痛みに襲われるのだ。
「ごめんなさい、お父さん、お母さん。悪い子で、ごめんなさい」
 レムはいつも謝っていた。
 違う。君は、悪い子なんかじゃない。君に、なんの罪がある?これ程の責め苦を負うほどの何を犯した?
「何を謝るんだい、レム?お前は悪い子なんかじゃないよ」
 私がかけなければならない言葉を、蛇が口にする。醜い欲望と、黒い舌をちらつかせながら。
 蛇はその身をくねらせ、レムの身体を締め上げる。
「良い子だねぇ」
「良い子だねぇ」
「良い子だねぇ」「良い子だねぇ」 「良い子だねぇ」 「良い子だねぇ」 「良い子だねぇ」
 黙れ。黙れ。黙れ。黙れ!
「■■■■■■■■■!!」
 これ程の激情を抱いたことは、かつて生きた頃にも一度も無かった。
 気が付いた時、私の肉体は膨れ上がり、唸り、そうして目の前には、蛇と豚が寝息を立てていた。
「お父、さん……お母、さん……」
 身体を、痛みが奔る。
 ああ、レム。君は。君の心は、今この時にも痛むのか。
 ならば、私は眠ろう。
 君が私の存在を望まぬ限り、君の傍らで眠り続けよう。
 けれど、どうか知って欲しい。君の心が痛む時、私の身体もまた、痛むのだと。私だけは、君の痛みを知っているのだと。
 レム、我が愛し子よ―――



「はっ、はははは!!こいつは良い!噂以上じゃねぇか!」
 うずめぐりが笑う。
 男は横たわり、眠りについたように目を覚まさない。
「■■■■■■■!!」
 影が、キャスターが咆哮する。
「あああ、なん、で。もう、嫌だ。嫌なのに……」
 言葉は虚しく溶ける。こうなったキャスターは、もうわたしの意思でも止められない。目の前の敵を全て眠らせるまで、暴走を続けるだけだ。
「■■■■■……!」
 次の獲物に、うずめぐりに向かってキャスターが駆け出す。
「逃げ、て……」
 声は届いただろうか。うずめぐりは、平然と立ったまま動こうとはしない。
 キャスターが、彼女に迫る。
『少し大人しくしてろよ』
 そう言ったうずめぐりの声には、先程までとは違う、不思議な響きがあった。
「■■■!?」
 キャスターの動きが、止まる。
 その巨躯が、確かに一時動きを止めたのだ。
 そう、あくまで一時に過ぎない。
 キャスターは直ぐに動き出し、再びうずめぐりへと襲いかかろうとする。
「3秒ってとこか」
 あくまで平然と、うずめぐりは呟いた。
「ま、十分だがな」
 キャスターの身体が、崩れ落ちる。
 気づかぬ間に、キャスターからうずめぐりを守る様に先の黒服の男が立ち塞がっていた。
 その手には、抜き身の刀が握られている。
「殺すなよーしんべー君」
「そんつもりなら、とっくに首を斬っちょる」
「いやいや、こいつの首ってどこよ?」
 うずめぐりとしんべー君・・・・・は、何でもない軽口のように言葉を交わす。
 呆然とするわたしに向かって、うずめぐりは歩いてくる。
「こんにちは、お嬢ちゃん。随分と挨拶が遅れちゃったねぇ」
「……」
 一体今、何が起きているのだろう。結局目の前のうずめぐり・・・・・と言う女は、何者なのだろう。
 疑問は後を尽きないが、けれど、わたしは予感していた。
 わたしの運命が、変わり始めている事を。
「君の名前は?……おっとと、人に名を尋ねる時にはまず自分が名乗らないとねぇ。私の名前は渦廻うねり。ささ、君は?」
「……わたしは、レム」
「レム。レムちゃんか。いい名前だ」
 渦廻は噛み締めるようにわたしの名前を何度か呟くと、改めてわたしに向き直った。
「回りくどいのは好きじゃない。単刀直入に言おうか、レムちゃん。私は君が欲しい。君と、君の持つ力が欲しい。見返りなら求めてもいいぜ?私の力の及ぶ範囲で、十分なものを用意しよう」
 その言葉には、余りにも飾り気がなくて、思いやりは見せかけで、けれどだからこそ居心地が良かった。
 渦廻の後ろに、音もなく黒服の男、しんべー君が立つ。
 気が付くと、キャスターの姿は消えていた。
 わたしは―――

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