はじまりのいし
最終更新：
nevadakagemiya 2017年08月26日(土) 01:11:02履歴
前置き
このSSの時間軸・世界設定は
英吉利聖杯対戦で西海さんとオルフィーが出会い、無事終結した後
そして第四次聖杯戦争でDTMちゃんがジョン・ハンターを呼びアルターエゴルートに突入
その後無事解決したあとのお話となります
────────────────おおよそ千と数年前、ある日ある場所にて
「なぁ、お前はいったいどんなファミリーネームにする？」
「何の話だ」
ある場所にて、複数人の男たちが石を削りながら雑談を始めた。
「だぁから、姓だよ姓。俺たち石工だから、姓がないだろ？
団長ギルド長命令で全員が姓つけろって、朝言ってたろ！聞いてなかったのか？」
「悪い、うんこ行ってたからな。」
「んなこったろぉーと思ってた……。」
「だが、名前がもう一つ増えるというのか、そいつはめでたい事だ」
「ただの名前じゃねぇ。親から子へ、脈々と受け継がれて行く名だ。
しっかり考えてつけねぇと子孫に恥かかせる事になるぜ？」
カカカ、と男が楽しそうに空を仰ぎながら笑う。
「俺の子孫が恥をかくのは別に良いが？俺のセンスが疑われるのは気にくわねぇ。
まぁ俺はまだ若造だから、子を成すなんざ到底後の事だろうがな」
「それもそうだな」
そういうと男たちは無駄話をやめて、また石の加工に精を出し始めた。
「石……………………。……石か………」
自分が削って形にした石を手に取り眺めながら、男はつぶやく。
「もう出来たのか？早ぇなぁザックライアスはぁ！！」
「こりゃあ次期ギルド長はオメェかもしれねぇなぁ」
「オイオイ勘弁してくれよ！！俺たちこんなガキに頭下げなきゃイケネェのかい！？」
「んー…、よし。決めた」
ガタリ、と男は急に立ち上がる。
「決めたってぇ…何を？」
「姓だよ姓！ファミリーネーム！！いずれ石工は世界に広がる職となるはずだ！
俺はその一番になる！最後には、この石を道しるべに世界中から集う石工集団の頂点になる！」
「なるほど、立派な心がけだ。で、ファミリーネームは？」
「全ての石工の頂点にして道しるべ！起源にして一つの石、オリジンストーンと名乗るとしよう。」
「ふっ、石工らしい良い姓じゃねぇか」
「まぁ、名前負けしねぇように頑張ってくれや」
◆
────────────────西暦２０■■年、時計塔
「はじめまして…という事になるな。オリジンストーンの分家の魔術師よ」
「…………………。」
机を挟み対面する形で、一人の男と一人の少女が座る。
男の方は非常に厳格な表情をしており、眉間には深い皺が刻まれている。
名をウェイバー・ベルベット、またの名をロード・エルメロイ�鏡い箸いΑ�
対する少女はというと、ガチガチに緊張し表情の方は笑っているのだか恐れているのだかよくわからない顔のまま固まっている。
彼女の名はオルフィリア・プライムストーン。歴史も魔力もない三流魔術師だが、魔力の保有量は高い魔術師。
実は彼女はある高名な魔術の家の親戚というが………？
「かのイギリスの聖杯大戦に巻き込まれてすぐにこんな呼び出しで申し訳ない。
だがこちらも急いでいる。どうか知っている事を話して欲し─────────────どうした？」
「ひ、ひえ……そ、その、ロードと対面ひゅるだなんて、そ、その、
わたひなんかじゃ恐れ多いというか…その、なんと言うか」
ガッチンガチンに緊張した仕草でしどろもどろに話すオルフィリア。
「そう緊張するな。ロードと言っても私はそこまで権力も腕も無い。
まったく…私の教室の生徒たちも、少しはこれほどの緊張感を持って接してくれれば困らんのだがなぁ…」
ハァ、と深いため息をつくエルメロイ２世。
「え、エーット、そ…それでは、まずはじめに聞きたいんですが…よ、よろしいでしょうか？」
「かまわん。答えられる範囲でよければ答えよう。」
「──────────オリジンストーンとは…なんなのでしょうか」
ピクリ、とエルメロイ２世の眉が動く。
「この大戦で……自分があの魔術貴族の一員だというのは分かりました…。
しかし、その実態が分からず怖いのです。自分の家系が分からないのが私……すごく怖いんです……。
どうか……どうかオリジンストーンが何を行おうとしているのかを、教えてもらえませんか？」
「…………………良いだろう。話せる事だけ話すとしよう。」
そういいながらエルメロイ２世は自信の背後にある本棚へと向かう。
「ッ！あ、ありがとうございます！！」
「ただこれから話す事柄は………今まで魔術の浅瀬にいた君にはいささか刺激が強すぎるかもしれない。
それでも聞くというのなら止めはしないが、一応────────────────」
本をいくつか取り、振返ったロードエルメロイ２世は見た。
そこに座っていたのは、先ほどまでのおどおどした少女ではなかった。
その目には、一本の鋭い芯が通った鋭い目つきとなっていた。
「………怖いのは、分かっています。でも、ここで退きたくないんです。
このイギリスでの惨状を見て…私も何か変わらなきゃって思いました。その為に、まずは知りたいんです。
自分の魔術の、家系の、血のルーツを。………それが────────────────」
少し震えながらも少女は、そのまっすぐな視線でエルメロイ２世を見ながら言う。
「それが、あいつとの約束です」
「………そうか、聖杯戦争…いや大戦だったか…を生き抜いた者には無用の質問だったな。
分かった。ではオリジンストーンとは何たるかを語り始めるとしよう」
エルメロイ２世はソファに再び腰を据え、書物をめくりながら語り始める。
「オリジンストーン家とは、人理の大敵を呼び出そうとした魔術の家系だ」
◆
────────────────西暦１０９６年、聖地へと向かう道
「ッチ！！まさか平民まで遠征にかり出されるとは思わなかったぜ」
「全くだ。まぁこんな愚痴ってるの見つかったら、あとでどやされる。静かにするのが懸命だ。」
「ま、それもそうだな」
軽装備の男たちが大地を往く。彼らに個々の名はあれど、その群体に名前は無い。
彼らは全て、十字教を世界に広めるという大義名分の元に貴族、平民、司祭、修道士問わず集められし者たちであった。
彼らが向かう先は、十字教の聖地。後にその彼らの信仰する教えの名から彼らは、十字軍と呼ばれるようになる。
「しっかし、俺の家族も元はイェルサレーム出身だってのになんでこんな装備来て戻らにゃならんのd」
『良し！！今日の移動はここまでェ！！ここを宿泊地とする！！各自ッ、装備の状態を確認後報告っ！！』
先頭からそのような声が響いた。見ると辺り一面が闇にのまれ始めている。
「お、今日はこれまでか」
「随分と歩いたような気がするぜ。水、まだ残っているか？」
「ああ、一応な」
そう談話しながら男たちはそれぞれ地面に座り、装備していた者を脱ぎ散らかして各々休息に入った。
───────────────────────────その夜、
「……………………い、…………おい、貴様起きろ。……おい！」
「んんん〜？何だこんな夜に一体ぃ…………」
男が目をこすりながらあけると、自信の周囲を怪しい格好の男たちが複数人で囲んでいるのを見た。
「う、うわぁぁぁぁぁ！？な、なんだお前たちは！？」
「そう慌てなさんな。私たちはお前たちの霊的指導を承った司祭たちだ」
自信を囲む男たちの中で、ひときわ豪奢な服装の男が肩をふるわせながら笑う。
「ふむ、確かになかなかの魔術刻印を保有している。魔力量も十分だ」
その男の隣にいる司祭の1人がその男にぼそぼそと何かを耳打ちする。
「お前、先ほど言っていた事は本当か？イェルサレーム出身だと」
「え？あ、ああ…。正確には俺の親の親の親の代くらいまでいたらしい。
なんか事件？事故？が起きるからそれに備えてなんたらを目指せって言われたらしいけど、
嫌になってこっちまで逃れてきたって言ってたぜ。それからはずっと石工で食ってきた。」
「ふむ、確定だな。」
ニィ、と男が君の悪い笑みを浮かべる。その後やせ細った手を差し伸べ、こう言った。
「お前、魔術師に興味は無いか？」
◆
────────────────西暦２０■■年、日本
「………そうか、ロンドンも大変な事になってたようだね西海」
「大変な事で済まさねぇで欲しいぜぇ、こっちは死にそうになったんだ。蛇神サマまで出てきやがってよォ」
「ハッハッハ、西海の話はいつ聞いても飽きないな。」
ここは古き物を尋ねる質屋。二人の男がタバコを吸いながら談話する。
「笑い事じゃねぇぜ。あの嬢ちゃんの発破が無けりゃあ、正直俺も心折れてたぜ」
「ほう、お前にそこまで言わせるとはなかなかの女の子だ。名前はなんと言う？」
「確か……オルフィリアとか言ってたか。名字は……忘れた。なんたらストーンと言ってたのは覚えている。」
「ストーン………、ひょっとして、オリジンストーンの分家か？」
「だったかもなぁ、確かそんな事を言ってたような気もするぜ」
「くっくっく…、随分とまぁ世界ってのは狭いもんだ……」
片方の男が笑いながらタバコの吸い殻を灰皿に落とす。
そして空いた手で顔を押さえながら、笑いを堪えるような仕草を取る。
「ああ…そういやあんたのお得意さんもオリジンストーンだったか、何を頼まれてるんでい？」
「ん？ああそうだなぁ、フフッ。今日の俺はその話を聞いて機嫌がいいから答えてやろう
良いか？誰にも話すんじゃあないぜ西海」
ニィ、と口端をつり上げながら男は笑い、そして言う。
「連中が求めてるのはなぁ、神様のお使いだ」
◆
────────────────西暦１０９９年、某所
「さて、これで我々の見つけるべきものは見つけた。」
「そうだな。今回の遠征、これだけでも意味はあったと言う物だ」
黒衣の男たちが数人、そう言って静かに笑いあい、暗い神殿の廊下を歩む。
「……お前たち、俺をどうするつもりだ？」
そんな黒衣の怪しい男の集団のうちに一人だけ、普通の服装の男が聞く。
通常ならば目にも留められない服装だが、この異様な集団の中では彼の服装は逆に目立つ。
「ああそうだったな。実はな、我らは探しているんだ。ある神殿を築きし者たちの末裔を」
「神殿？確かにうちは石工の家系だったが神殿を作ったなんざ聞いたことね────」
「何、簡単なことだ。それの確認のためにここに連れてきた。このかの主を奉りし、ソロモン神殿にね」
「………………聞いちゃいねぇ」
ぼそりと青年はつぶやく。だが黒衣の男たちは気にも留めず歩みを続ける。
「かのソロモンの築きし神殿にして”生きた”宝具。『戴冠の時来たれり、其は全てを始めるもの（アルス・パウリナ）』。
その製造法は長年秘匿されてきた。そしてその製造法がわからぬままに、破壊されて第二神殿がゼルバベルによりつくられた。
そう、まるで第一神殿たるオリジナルを上書きし、隠すかのようにね」
くるり、と先頭をきって歩いていたフードを深くかぶった男が踵をかえし振り向く。
「んなことどうでもいいんだよ！！っていうかこんなところに三年も縛りやがって！！
俺もう２６だぞ！？きっちょーな俺の３年間棒に振りやがってどうしてくれんのお前！？」
「しかし我々は、その製造に関わった者たちはソロモンより魔術を受け継いだオリジナルだと突き止めた。
その一人が…いや、正確にはその一人の末裔が君だよザックライアス君。」
「またシカトですかい…。いやもう良い。それで？俺に何をしようって言うんだテメェら。」
はぁ、と短く青年は嘆息してすべてを諦め切った顔で黒ずくめの男たちに聞く。
「簡単な話だ。我々は根源のその先にたどり着きたいだけだ」
「こん……………げん……………？」
「そう、根源だ。すべての魔術師たちが本能的に求める者。しかしてすべての魔術師たちが辿り着けない物。
我々は”それ”が、なぜ求められるようになったのかを知りたいのだ。その秘密が、君たち最初の魔術師にあると我々は踏んでいる。」
「……………お前たち魔術師ってぇのは、相変わらず突飛な考えをすんな。」
「突飛ではない。論理に基づいた考え方だ。」
「うるせぇ！！お前たちは大体なぁ────────」
青年が男たちに食って掛かろうとした、その時であった。
彼らが歩く神殿の………、いや、神殿跡地の廊下はとてつもなく広い部屋にでた。
いや、天井はすでに朽ち果てて夜空の星が煌いている。辛うじて何らかの彫刻は形をとどめているが、
すでにその場所は”部屋”と呼ぶには難しいほどにボロボロになっていた。
『おお…！！これが！』
『ここだ！ここでかの魔術王が指揮を執っていたのだ！！』
この部屋に入るなり、黒ずくめの男たちが数人声を荒げて興奮を始めた。
「なんだ？ここはそんなに重要な場所なのか？」
「君の一族は、そんなことも忘れてしまったのかね？
ここは王の指揮した場所、大聖堂とでも呼ぶとしようか。」
クククッ、とフードを深くかぶった男はのどを鳴らし笑う。
「さて、この場にこの神殿を作りしものが来れば何かしらの変化があるとでも考えたが、あてが外れたかな？」
「はっ！俺を利用しようとでも考えてたのか？お生憎様だなぁ！俺にそんな価値は無───────」
青年の言葉は、途中で途絶えた。周囲の黒ずくめの男たちに至っては、動きすら止めていた。
それもそのはず、先ほどまで満点の夜空であった天井のあるべきその頭上から、眩き光が差し込んでいるのだから。
「こ………っ！！これはぁ………！！」
その眩い光に乗って──────いや、実際には違うのかもしれないが、こう表現するのが最も適切だった。
まるでその光そのものがしゃべっているかのような、神々しく眩い”声”が、その場にいる全ての者たちに聞こえた。
『────────────聞け、魔術王より術を継ぎし者の末裔よ。
────────────我が名は、■．■．■．■．────────────。』
◆
────────────────西暦２０■■年、時計塔
「大………敵！？ど、どういうことですかそれは！？」
時計塔の一室、一人の少女がロードの言い放った言葉に対し動揺する。
「落ち着き給え、順を追って説明しよう。………君は、アークエネミーという英霊のクラスを知っているか？」
「い、いえ………実は…英霊という存在を知ったのもつい最近で……。」
「そうか、ならば図説も交えて説明するとしよう。」
ロード・エルメロイ２世がメモ帳の１ページを千切り、そこに円を大きく書き込む。
「これが英霊の座、我々魔術師がサーヴァントを呼び出す際、
そして世界が、何らかの事態に対して呼び出す時に使われる場所だ。」
「は、はい。それが…あの大戦のようなケースだと、あの時に聞きました。」
「そしてそれとは別に………、いや、正確には違うな。
その英霊の座と言う物は中身が細分化されていて、人間に呼び出せない英霊もいる。」
そういうとロードは、今度は円の中に細かい円を複数書き始めた。
さらにそのうちの１つを黒く塗りつぶす。
「呼び出せない、英霊ですか？」
「そうだ。例えば世界の最悪の危機…人類悪などと呼ばれる存在に立ち向かう、
グランドと呼ばれる存在などだ。まぁ、これは霊基をオミットすれば呼べなくもないが。
そもそもが規格外すぎるせいで呼べない存在もいる。その一つが、アークエネミーだ。」
ロードは円の隣に筆記体でアークエネミーと記す。
「これは元々、世界が滅んだ要因を世界が概要的に登録しているだけだ。
万が一同じアポトーシスが発生した際に、人々が対抗できるようにな。
だがしかし、オリジンストーンはあろうことかこれを召喚し、制御しようとした。それだけだ」
「そ……そんな……そんなこと、可能なのですか？」
「結論から言おう。無理だ。まぁだからこそ、今こうして世界は平和なわけだが……。」
「そうですよねぇー………」
オルフィリアはほっと胸をなでおろす。
「……………だが、」
「？」
「オリジンストーンが何かを企んでいるのは確かだ。
当時のテンプル騎士団の書記によると、その彼の熱意はすさまじいものだったという。
いま彼らはまるで枝葉のごとくその血を拡げている。……言い方は悪いが、何かを企んでいるようにしか思えない。」
「そう…………ですか」
少しうつむいた後に、オルフィリアはハッと顔を上げて質問する。
「あ、そうだ。そういえばなぜ我々ストーン家は家系を拡げられるのですか？
本来魔術は一子相伝と聞きましたが………」
「ああ、それは以前時計塔に同じ疑問を持った者がいて、調査結果を残している。
そのレポート曰く、どうやら何らかの方法で魔術刻印をきれいに真っ二つに割っているそうだ」
「真っ…………二つ……………！？」
オルフィリアが目を丸くして驚く。
「そうだ。そして分かたれた刻印に新たに受け継いだ者たちが継ぎ足し、
そして子を複数残し、その子等全員に魔術回路を文字通り”分け”与える…。
その手法を、気の遠くなるほどの長きに渡りオリジンストーンは行ってきたとある。
おそらく君の魔術刻印が少ない量なのは、これが原因ではないかと考えられる。」
「そう……………ですか………………。」
しょぼーんと下を見て落ち込むオルフィリア。
「だが、回路や刻印がないからと言って諦めるのは早い。
要は感性の問題だ。見たところ君には生き延びる才能がある。
その方面を伸ばせば、自ずと道は見えてくるはずだ」
「！！ あ、ありがとうございます！！」
先ほどまでの表情とは打って変わり、オルフィリアはパァと明るい表情に変わる。
「（だが……刻印の分割だけを考えても彼らの多様なる魔術の腕は説明がつかない。
なんだ？一体何の力が働いている……。嫌な予感がする……）」
◆
────────────────西暦１１０３年、某所
「ダメだぁ！！」
ガシャァァン！！と部屋に音が響く。
「これではだめだ！！人類の大敵を御する手段には程遠い！」
「ざ……ザックライアス殿、もう３日も寝ておられません。
少しお休みになられては…………」
「うるさい！！！」
ガン！！と一人の少年が男に押され倒れる。
「我ら人類の力だけで…災害を…大敵を御するなど！できるわけがない！！
何故だ……！？なぜ神はこの俺にこんな試練を授けた！！糞！！糞ぉ！！」
ガンガンと男は薄暗い部屋の壁に拳を何度も何度も叩きつける。
その拳には、ほのかに血がにじんでいた。
「あの日からもう４年………。もう４年も…経ってしまったのか…。
俺に与えられた命題……。そのヒントすら得ないままに………。
逃げるか……？いやだめだ……。連中はどこまでも追ってくる。
たとえ地の果てに逃げ去っても、奴らは俺を探し出す………。」
地面に膝をつき、男は爪をガジガジと齧りながらぶつぶつとつぶやく。
うつろな目で机の上で怪しい光を放つ黒水晶を眺めていた、その時だった。
ｷﾞｨｨｨｨｨｯ、と木製のドアが虚ろに開く音がした。
ッ！！と部屋にいた二人が背筋を凍らせる。
「出来ましたか？」
入ってきた”それ”は、いけしゃあしゃあと男に問うた。
自分たちは何もせず、ただ神の信託を一人の男に任せた”それ”は、どこか嬉しそうに見えた。
フードのついた漆黒の黒衣を深々と羽織り、そして何の紋様もないただ白い面を被った人間が、
一人の魔術師────────ザックライアス・オリジンストーンの顔を覗き込む。
「おや？おやおや？気分が悪いようですね。立てますか？研究を続けられますか？」
「ふ………………っざけんなっ！！！！」
ガンッ！！と男は漆黒の”それ”の顔面…にあたる白い面に思いっきり拳を当てる。
しかしその攻撃をくらった”それ”に、ダメージは一切見受けられない。
「そもそも無理な話だったんだ！！人類に仇なす大敵を御しろなんて！！
抑止の守護者たるあの英霊たちが！七人集って戦うような存在なんだぞ！！
それを！！俺たち魔術師だけの力で倒すなんて！！無理に決まってんだ！！」
「七人集って？違いますね。それは人類悪の話です。
我々が対処せよと仰せつかったのは、その練習台にすぎません」
「同じことだ！！俺たち人類だけじゃ束になっても出来っこねぇ！！
何が主だ！何が神のいいつけだ！！もうやってられるか！！俺はテンプル騎士団をやめさせてもらう！！」
「……………神を、冒涜すると言うのですね？我らが主たる、唯一神の命に、背くと、言うのですね？」
「ああそうだ！！無理難題ばっか人類に吹っ掛ける神なんざこっちから願い下げだ！！
俺は逃げる！！テメェらテンプル騎士団の追跡から絶対に逃げ切────────」
ガシィッ！！と男は首を捕まれ持ち上げられる。男を持ち上げる”それ”は、
クックックとのどを鳴らし仮面の内からくぐもった笑い声を漏らす。
「素晴らしい……！素晴らしいですよザックライアス君………！！
思った通りだ………！！君の性格、君の出自、そしてあの神の言葉……。
それらから推測し、君ならば……！君ならば！神を否定してくれると思っていましたよ…！！」
「て……めぇ………っ！！何…………を────────！？」
グワバッ！！と”それ”の仮面が開いた。そしてその中からは、
見るも悍ましく恐ろしい何本もの腕が出現し、男を狙う。
「うわぁぁぁぁあああああああああああああああああああああ！！！！」
「もう君は頑張らなくて良いのです。君の役割、そして立場、能力、魔術……。
全てを私がもらい受けましょう……。同じ”神を否定した”存在として……っ！」
「離せっ！！放せ！！やめ────────やめろぉぉぉぉぉぉ！！」
「我が人類総管理世界完成の為に排斥すべき要素の１つ…アークエネミー。
その担当としての”私”になってもらいます。不可能は、可能にするべきなのですから」
ドグンッ！！と音が響いた。
◆
────────────────西暦２０■■年、日本
「神様の、お使いだぁ？」
「そう、連中が追い求めているのはアークエネミーの召喚方法の確立。
だがそれは、時計塔が辿り着ける限界の場所でしかない。真実はその奥にあるのさ。」
「ほぉー、そいつは興味深い」
男は煙草に火をつけながら話半分にレジに座る男の話を聞く。
「それは元々、神様に言いつけられた神託だったそうだ。『アークエネミーを人類だけの手で御せ』ってね
しかし長い年月の中で、それは歪んでしまい、人類の手でアークエネミーを召喚しろ…と歪んでしまったんだ。
それを今も連中は、律義に守っているってわけさ」
「律義にってぇ……あの嬢ちゃんはそんな風には見えなかったぜ？
如何にもな魔術の素人だった。ほかにも商売でストーン家には出会ったが、みんなバラバラだったぜぇ？」
ひらひらと男は両手を動かしながら、今まで出会ってきた魔術師の記憶をたどる。
「そりゃあそうさ、ストーン家の分家は技術や回路は関係ない。
ただ、祖の血を引く魔術師たちの”数”だけが重要なんだからね」
「……………どういうことだ？」
「さぁ、詳しいことはわからないね。曰く、その血族全員が人柱だの、
全員をアークエネミーまで仕立て上げるだの、まとめ上げて根源に至るだの言われてるぜ」
「詳しくないと言う割にゃあ、随分と詳しいじゃねぇか織本。どうした？」
「まぁ、その方面にパイプがあってね。」
男が二人、口端を釣り上げた笑みを浮かべ目と目で会話する。
「ふん、まぁ良いか。それじゃあ俺はそろそろ飛行機が出るんで」
「おう、また日本に来たら寄ってくれよ西海」
「気が向いたらなぁー！」
そういって男はカバンを抱え、手を振りながら店を出て行った。
「……………まぁ、長い年月の中で歪められたってのは、嘘なんだがね」
◆
────────────────西暦１１０３年、某所
「…………………ふわぁっ！？ね、寝ちゃいました！！
あ、そうだ…！だ、大丈夫でしたかお兄ちゃ……ざ、ザックライアス殿！」
一人の少女が地面に寝ていたと思ったら飛び起き、椅子に座っている男に声をかける。
「ん？大丈夫とは、何のことだ？」
「え…？で、でもザックライアス殿…昨日の夜パイヤンさんに──────────」
「何を言っているんだ！こんな場所に団長様が来るわけないだろう！！なぁ！？」
バン！！と力強く男は少女の肩をたたく。
「え？えーっと、その……」
「それより良い考えを思いついたんだ！！人理の大敵を御する方法だ！
我々は倒す方法での御し方しか考えてなかったがなんてことはない！我々が手駒とすればいいんだ！
そのためには数がいる！！枝葉のように血を拡げ、そして血脈による召喚陣を考え付いた！！
完成はおよそ千年後になるだろうが…これが完成すれば人理の大敵など我ら人類の手の中だ！
数億単位の人死にが出るが？そんなことは些細な問題だっ！クククッ！！キヒヒヒヒヒヒャハハハハハハハ！！！」
男は狂ったかのように大声を上げて笑った。その目は狂気に満ちており、もはやその思考は
正も狂もない、沙汰の外にあるのだと少女は直感で理解した。
「あとは授けられし大敵の触媒だ！！どこにあったか…！探してくるぞ！
貴様はここで待っていろ！忙しくなるぞ！」
そういうと男はズカズカと歩き部屋を出て行った。
「……一体、どうしちゃったのおにいちゃん………？」
そう呟きふと机の下の方に視線をやると、何か紙を丸められたものが見えた。
通常なら目に留めないものであるが、その紙の隙間から光が漏れ出ているのが見えた。
「…………………？」
疑問に思いその紙を拡げると、中にあったのは先ほど男が言っていた黒水晶であった。
そしてそれを包み隠していた紙には、確かに男の──彼女の兄の───筆跡でこう書かれていた。
に げ ろ 俺 が 俺で なく なる
それだけで、少女は男の、兄の身に何が起きたのかを把握するのは十分だった。
昨夜、気を失う前に虚ろに見えたあの光景、あれは夢ではなく、確かなる現実であったのだ。
気づいたときには少女は走っていた。兄の形見ともいえる黒水晶を片手に。
少女は兄より姓をつけてもらっていた。兄妹同じでは面白くない、と。
その少女は姓を、トラベルストーンと名乗っていたという。
◆
──────────この長きに渡る準備も、とうとう最期を迎えた。
一つ、ただ一つ誤算があるとすれば、オリジンストーン最後の当主があれであったことか。
あれがなければ、この我らフリーメイソンの名の下にアークエネミーたちを御することができたというのに。
だが、本来の予定である”無力化”は出来た………。良い、とても良き兆候だ。
最後の仕事にとりかかろう。人類悪と冠位の英霊たちよ。
これより行うは最後の試練。人類と英霊とを切り離す最終段階。
踊れ、唄え、狂え人類よ、そして英霊よ、其はすべて、我が手の上の出来事なり。
貴様らにたどり着く先は、例外なき──────────
ｶﾞｧｧｧｧｧｧｧｧｧｧｧｧｧﾝ！！！！
……………。
「黒幕を気取っているところ悪いが、抑止力の時間だぜぇ」
「フゥーッハハハハハハハ！！ここが悪の組織の秘密基地とでもいうべきかな！？」
……………タイタス・クロウに、ジョン・ハンターか。
我が手塩をかけ２０００年に渡り伸ばした準備を、２つも台無しにした英霊よ。
如何にして、ここまでたどり着いた？そして如何にして、我と対峙する？
「俺が抑止力だから、と答えておこう。」
「貴様を倒す理由なんぞ無い。ただ、俺のマスターを泣かしたその代償は払ってもらおう。
我がマスターの治療の…………最終段階だ。」
………………………………………面白い。いいだろう。相手になってやろう。
この身、２０００年本気を出していない身だ。肩慣らしにはちょうどいい。
「ハッ！後悔することになるぜぇジャックドモレー！！
いや？こう呼んだ方が良いかな？」
「光を追い求める者、シャインチェイサーさんよぉ」
コメントをかく