最終更新:ID:78Q113v0aw 2021年02月06日(土) 22:08:24履歴
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────────エルサレム陥落より数ヵ月後、1100年某月
ザックライアスは、船に揺られていた。
エルサレムにてキリスト教徒への挑戦を誓ったのちに、数ヵ月間ポスポロスを名乗る男の下で魔術の基礎を修練。
その後5月に妹の待つ、現在で言うフランスに帰還。帰還すると同時に、ザックライアスの安否が分からずに不安だった妹と再会。
ザックライアスの妹ヘレナは、帰還したザックライアスを見るなり泣きつき、大粒の涙をぼろぼろと溢れさせる程に彼を心配していた。
ザックライアスは自分の判断で妹ヘレナを1人置き去りにした事、そして寂しい思いをさせたことを心から謝罪し頭を下げ、今後は旅立つ時は常に一緒にいることを誓う。
更に続け、このままフランスにいても迫害が続くという旨と、後援が出来た故に共にブリテン島に渡るという旨を提案。最初こそヘレナは困惑したものの、頷き承諾。
ザックライアスはエルサレムにて魔術を教わった師であるポスポロスと共に、兄妹揃ってブリテン島へと渡る形になった。
これからどのような運命が待ち受けるのかも分からない中ぼんやりと海を眺めていると、背後から声が聞こえた。
「キリスト教徒へ復讐を誓った割に、家族への情は捨てきれぬときたか」
「なんでたった1人の家族と糞みてーなキリスト教徒を同列に見なくちゃならねぇんだアホかオメェ。
っつーか気配もなく後ろに立たないでくれるか? 必要だから魔術を教わったとは言え、俺はお前をまだ信用しちゃいねぇんだからな」
「──────。」
突如として出現したポスポロスに、まるで慣れたかのような憎まれ口を叩くザックライアス。
そんなザックライアスの無礼な発言を気にも留めず、そのままポスポロスは間を置かずに次の話題へと移る。
「魔術回路の賦活は順調か」
「ん? ああ。一応。最初はなんか痛みが走りはしたが、今は順調に出来てるよ」
「瞑想と鍛錬は続けているようだな。強化、暗示、変化……基礎的な魔術の習得までに至ったから、それも当然か」
「ペース早すぎるんだよお前。まぁそのおかげで、"目標"にも届けるんじゃ…とは思えるようにはなってきたがね」
「ああ」
「"始まりの大敵"が何なのか。お前が受けた啓示────、聖十字架に残された言葉。
その全てを神秘という方向から解体するために、魔術を習得するのは必須。怠る事のないように」
始まりの大敵────。それはザックライアスが聖十字架に触れた際に、謎の老人から託された言葉にあった意図不明の言葉。
ザックライアスは聖十字架を発見した一件を通してキリスト教と完全に袂を分かつ決意をし、その後ポスポロスの提言を受け入れて自分の受けた言葉を全て話した。
その際にあった"始まりの大敵"という単語にポスポロスは興味を抱き、それらの啓示をキリスト教的な一側面ではなく、多方面の視点から解析するべきと提案。
故にこその、魔術。キリスト教とはまた違うアプローチを以てして成される神秘によって、ザックライアスが受けた啓示を知るべきとポスポロスは言った。
そのためには各国の神秘を幅広く学ぶことが出来る"魔術協会"に行くことこそが最適であるとして、現在彼らはブリテン島へ向かっているのであった。
「そういや何でブリテン島なんだ? ま、連中から遠ざかることが出来るのは嬉しいけど」
「島国というものは神秘の衰退が遅い。最も、真エーテルは500年前後を境にしてブリテンからも消滅したが、それでも最後まで神秘が残った場所には違いない。
だからこそ彼らが、プリテンのあの竜の死骸の上を自らの本拠としたのも、必然であっただろう。最後の神秘があった場所、故に今も尚色濃き神秘が残り続ける。
───────分かりづらいか。要は、ブリテン島にはブリテン島にしか無いものがある。魔術師にとって、それが重要という話だ」
「あー……あー。なる、ほど?」
突如として濁流のように知らない単語を浴びせかけられ、ザックライアスが疑問符の乱舞を浮かべる。
それに気付いたのか気付かぬか、分かりやすく言い直すポスポロス。それを以てしてようやくザックライアスは理解し、
そして反芻するかのように何度か頷いた。
「まぁ良いや。だが魔術って色んな種類あるんだな。
俺はまぁてっきり、悪魔やらなにやらを召喚させられるのかと思ったぜ」
「それはソロモン王の指輪の逸話に関する典型的な西欧圏における"魔術"のイメージだな。
これから向かう魔術協会における魔術は、そういった一側面に囚われることのない様々な魔術体系、魔術基盤を取り扱う。
我らラビに由来する数秘術、北欧の神がもたらしたルーン魔術、古き魔女の技とされた黒魔術、そして錬金術に至るまで、幅広い知識が集まっている。
それらの様々な手段や視点を以てして受けた啓示を解析し────、"始まりの大敵"が何なのかを知る。それがお前の受けた命題だ」
「なんでそんなもん大量にブリテンの連中は集めているんだ? お前に聞いた話じゃ、神秘っつーの? そう言うのは知られれば知られるほどヤバいんじゃねぇの?」
「知るものが増えれば一人一人が使える魔術の力は衰える。だが、魔術の知識が失われれば魔術そのものが途絶する。
故にこそ、かつてあった神秘を魔術という形で伝え、管理する者として彼らは立ち上がった。
本来は神代────神が隣にいた時代の神秘。西暦の訪れと共に喪われるはずであった神秘は形を変え、今もこうしてあり続けている」
「でもそんな魔術師って多く無くね? 俺今まで見たことなかったしな」
「魔術師が表社会に出ない理由は、大きく分けて2つ存在する」
ブリテン島へと向かう船の中の退屈からか、ポスポロスに対して様々な問いをザックライアスは投げかける。
先ほど信用していないとは言ったが、それはそれとして知識は重要なので、取り入れることが出来る者は全て取り入れる所存で彼はいた。
そんな彼の思惑を知ってか知らずか、ポスポロスもまた流暢に魔術社会についての様々な豊富な知識をザックライアスに対して授け続けていた。
もっとも、これよりザックライアスは神秘の世界で生きる徒となる事を考えれば、これほどの量の知識でも、まだ前提としては到底足りえないと言えただろうが。
「まず第一に、魔術の秘奥は人に知られれば知られるほどにその力を落とす。
使う者が多くなるほどに、または解き明かされるほどにその神秘は陳腐なものとなる。
これが神秘と謳われる所以だ。故に私たちは、お前たち魔術を知らぬ人間に極力魔術を知られることを避ける」
「ふむふむ」
「そして更に、敵の存在が大きい。西暦100年頃より死徒と呼ばれる存在が出現し魔術師を敵と見做し、多くの血が流れた。
加えて聖堂教会────お前たちが良く知る、あの教会らの存在が、魔術協会にとっては大きな痛手となっている」
「教会が? なんで?」
「聖堂教会らにとって、魔術という概念は邪魔なんだよ。彼らは主の奇跡以外を認めようとしない。
言うなれば、彼らは神秘を独占しようとしている。大陸に作られた幾つもの魔術都市は、彼らの手で次々に閉鎖に追いやられたからな」
「………………んだよ、それ。変わってねぇなあいつら。あくどい所が今となーんにも変わってねぇでやんの」
「これから向かう場所は安心しろ。そういった被害の報告はない。加えて最近は、天才児バルトメロイを始めとしたカリスマ性の高い魔術師が集い始めている。
数にして9から10ほどか。おそらくこれから先は、彼らが体系ごとに魔術を分化させ、より洗礼された神秘の研究を可能にする学術機関へと発展していくだろう」
「えー…………、あー………………。つまり…、うん。簡単に言ってくれ」
「要は、聖堂教会が神秘を独占しようとするのに対し、これからお前が向かう場所は、神秘を管理しようとしている。
教えるべきものに教え、そして研究し、より良き神秘を、より深き理解を。やがては窮極の叡智へと。そういった渇望抱きし者たちの巣が、これからお前の生きる場所だ」
「………………。まぁ要はつまり、俺らが今までいた場所の教会連中とは違うっつーこったな」
何度か頷いてポスポロスから得た知識を咀嚼するザックライアス。
そしてこれから向かう場所がどういった場所か想像をめぐらし、そして期待に目を光らせ口端を上げ笑った
「教会と違うってだけで俺は嬉しいぜ……。っつーか、色んな方向から啓示を調べるってんだろ?
何でもかんでも自分の手で、って考えてる教会のアホ共と真逆じゃん。俺にぴったりじゃん。すぐに解き明かしてやるよ、俺が得た啓示」
「期待しているぞ」
「……お兄ちゃん……」
そんな笑うザックライアスに対し、心配そうに妹のヘレナは声をかけた。
力無くザックライアスの服の袖をつかみ、そして潤んだ眼差しでしっかりと兄であるザックライアスを見つめ、そして真っ直ぐに声をかける。
「無理……、しないでね……」
「? だ、大丈夫だよ。無理なんかしねぇさ」
「でも……お兄ちゃん……、私に楽させたいからって……、エルサレムまで行っちゃったから……。
ふとした瞬間に、すぐ無理しそうで…………。私、怖くて……」
「……悪い。その時は、ホント……どうかしてた。でも、もうしねぇから。
生活だって、ポスポロスの野郎が当分面倒見てくれるっつったし、住む場所も飯も用意してくれるって言ってくれた。
だから、お前も安心して暮らせる。だったら俺は無理しねぇよ」
「ほんと?」
「ホントだって。お前が無事に生きられるなら俺はそれでいい。
お前はたった1人の俺の家族なんだ。絶対にいなくなってほしくない、痛みに苦しまないで欲しい、家族なんだ。
逆に言えば、お前が危なくなったら何してでもお前だけは逃がすけどな」
「もう……そういうところが心配なんだよ……」
ザックライアスは妹の心配性な部分を笑っていた。無邪気に、無遠慮に。
もう自分たちが迫害されることはない。食事や住む場所に困ることもない。そんな安心から来る、根拠のない自身がザックライアスにあった。
妹も自分も、もう安心して暮らし続けることが出来るのだという考えが、今は確かに彼の中にはあったのだ。
必然的に他の事を思考する余裕が生まれる。
そんな彼の中に思い浮かんだのは、とある事柄についてであった。
「あ、そうだ……。前聞いた話だけどよ、魔術師って家系が長く続くんだよな」
「ああ。魔術師とは本来、根源を目指す者だ。当然一代や二代では辿り着けない、途方もない長き道のりになる。
故に魔術師はその歩む道程の次を、後世へと託すのだ。故に力を持つ魔術師は、必然的に長い家系を持つ事にもつながる」
「ふーん。まぁ俺だったら子供まで魔術師にはしたくねぇな。万が一出来ないんだったら、そんな苦労を子供にまでさせるのとか嫌だし。妹を巻き込むのも論外だぜ?
ただ、家系ってのは良い響きだよな。1つの家の名前の下でさ、みんなで一緒に……っての、俺は体感した事無かったからさ……」
そう呟くザックライアスの視線は、どこか遠くを向いているようであった。
ザックライアスの脳裏には、まだ幼い時分の彼の記憶が泡沫のように浮かび上がっていた。
幼い頃に旧約聖書の教えを読み聞かせた祖父に、子育てに不慣れながらも愛を注いでくれた父と母。
すぐに迫害が始まった為に期間は短かったものの、それでも家族の団欒があの日を彼は今尚も胸に抱いて覚え続けているのだ。
だからこそだろう。彼は"家族"というものに憧れた。
魔術師として子孫に命題を残すのは以ての外だが、家族として集うための家名は欲しい。そう彼は魔術師の家系の話を聞いて思い浮かんだのだ。
ポスポロスはそんな希望に満ちたザックライアスに対し、どこか嘆息するかのような沈黙を続けた後に、ザックライアスへと問う。
「つまり、貴様は家名が欲しいのか」
「まぁそうだな。あ、別に決めなくても良いぜ。俺が決める。候補は考えているからな。
ただ、そう言うのを勝手に名乗るのってアリなのか? って事だけ聞きたかったんだ」
「好きにしろ。どちらにせよ、これから向かう先は新天地。貴様の過去を知る人間なんぞいないからな」
「よっしゃ!」
「決めてるって……何て家名にするの?」
ザックライアスの妹であるヘレナが、興味深げに疑問を投げた。
それに対してザックライアスは、空を見上げながら自分たちがこれから名乗る家の名前────すなわち、姓を口にした。
「オリジンストーン。オリジンストーンだ。
ほら、俺って石工だったろ? 辛かったけど、辛かった過去があるから今がある。
初心を忘れないためにも……ってな。最初の石。どれだけ俺の先祖が続くか、あとどれぐらい増えるかとか分かんねぇけど。
もしみんながばらばらになるような事があっても、最後はこの始まりの石の下で、みんなで集まれたら……って、思ってさ」
「ふふ……なんか、お兄ちゃんらしいや」
「おー? それどういうことだよー!」
ザックライアスは、来たる未来への期待を込め、喪われた自らの姓を新たにした。
オリジンストーン。始まりの石。例えどれだけ離れ離れになっても、最後にはこの石の下に全てが集まるように、という誓いの言葉。
それは彼の母親が、父親が、祖父が迫害を通して死んでいった過去に由来する。彼の中では、家族というものは儚く散り散りになることが多い存在だという前提があった。
故にこその、"いつかまた集う"という誓い。例えどれほどの事があろうとも、いずれまた再開するという思いがその姓には込められていた。
最も、ザックライアスは自分たちにそのような運命が今後は訪れるとは思っていなかった。
もう迫害もない土地へと向かう。それ故に妹や、いずれ生まれるであろう自分の子供たちが離れ離れになるような事はないだろうと考えたかった。
冷静になれば考えるべきなのかもしれないが、これから幕を開く新しい魔術師としての生活を前に、彼は不安を覆い隠すように、楽観視を以てして未来を思い描いていたのだ。
だが、ザックライアスがこの後に辿る運命は、彼の予想を遥かに大きく覆す事となる。
◆
ブリテン島へと辿り着いた彼らを待っていたのは戦乱であった。
戦乱の中を掻い潜り、ザックライアスらはブリテン地下に居を構える魔術協会支部へと到達する。
大陸の聖堂教会から逃れてきた、という体でザックライアスとポスポロスは師弟揃い彼らの一員となった。
一員となり始めに待っていたのは、基礎学習だった。基礎的な魔術を学び、そして既に持っている魔術の腕前を測る段階。
数年間のそのプロセスが終われば、次は応用。既にいくらかの体系ごとに分かれ始めていた集団─────今でいう"学部"に相当する、所属する学閥の決定に移る。
1000年代の時計塔は希代の魔術師にして後の法政科ロードの家系、バルトメロイが台頭し始めた時期でもあり、それに付随する形でロードの原型が生まれた時期と言われている。
無論ブリシサンのようにこの時期以前からロードに近しい存在もいたが、現在の学部ごとに分かれ専攻分野を研究するという時計塔の原型が出来上がったのはこの時代に当たる。
その後200年をかけ、時計塔は名実共に最高峰の魔術機関となり、魔術社会の中心的存在となっていくのだが─────それはまだ、この時系列よりも後の話となる。
「"始まりの大敵"……か。聞いたところによると、その情報はどうにも見たビジョンそのものに意味があると考えられる。
天より落ちる星々、地を飲み干す大洪水、星を包み込む植物……。どれも荒唐無稽な話ではある。だが……荒唐無稽だからこそ、大きな力を持つ」
「……? どういう事です? 荒唐無稽な作り話……って思うって事っスよね。なら、普通はスルーすると思うんですけど」
「たとえそれが偽りであろうと、伝承というものはそれだけで力を持つ。神話などいい例だろう。それが本当にあったのか、あるいは偽りかなど、誰1人証明できない。
だがしかし────────それは確かに力を持っている。その伝承の真偽は関係ない。"伝承という概念そのものが力を持つのだよ"」
「はぁ……。そういうものなんです?」
「物語に沿った攻撃しか受け付けない伝承防御、神話の時代の宝具を現代に再現する伝承保菌…………。
いずれも神性や神秘のみならず、『伝承』……物語の力そのものの力を強く感じさせる。魔術とは、偽りの虚構を現実に映す神秘と私は考える。
そう言う意味では、この伝承を用いた神秘こそ、最も魔術的な分野だと私は考えるね。魔術とは斯く或るべしだ」
「な…………る、ほど……?」
「まぁ、いずれ分かってもらえればそれでいい。
君の言う啓示の内容にはいたく興味を引かれた。どうだね? 我々の下で研究を本格的に進める気はないか?」
「えっ、良いんですか? 自分まだここ入ってほんの数年ですよ!?」
「数年でも基礎の習得は出来ている。此処にくる以前から魔術をしていたとは聞いたが伸びしろが非常に良い。師の腕が高かったのだろう。
兎角、そちらも来てくれる気ならばすぐにでも手続きをしよう。始まりの大敵とやらの正体、我らブリシサンの系譜の名の下に解き明かして見せようじゃないか」
「……! ありがとうございます!」
とある学閥に属する魔術師から差し出された手を、ザックライアスは固く握りしめて返した。
この時は確かに彼の中には喜びが満ちていた。数多くの知識が集うこの協会、研究なんてすぐに終わるとばかり考えていた。
もう苦労することなんて、痛みなんて、何一つないと────────この時は確かに、そう思っていた。
何もかもが、甘かった。
魔術協会の保有する史料を当たるも、始まりの大敵と目される存在は見つからなかった。
世界各地の神話の資料を当たるも、同じように始まりの大敵に当たる存在は確認されなかった。
世界の端とも言えるような辺境の地にある民間伝承にまで焦点を当てるも、変わらず始まりの大敵と考えられるものは存在しなかった。
そも、"始まり"とは何か? "大敵"とは何か?
魔術世界では曖昧な言葉を以てして複数の意味を重複させるという事は多い。
故に、"始まり"という言葉が意味するところがどういったものなのか。背景にどのような意図があるのか?
術者が何故このような言葉を以てして伝えたのか。その予想がほんの少しずれるだけで、結論が天と地ほどに変わる。それが魔術世界の"研究"であった。
後世のロードが推理小説の用語を持ちだし、「魔術とはホワイダニットが最も重要である」と言った事にも類似する事例である。
そして何よりも厄介な部分が、"大敵"と謳われた存在であった。
何にとっての大敵なのか、そもそも敵とは何を意味するのか?
終わりか、あるいは災害か。はたまた敵と扱われただけの無辜なる存在か? 予測を拡げればそれこそキリがない。
結論から言えば、たった数言葉の啓示から、その啓示の指し示す物の本質を探るなど、到底無理な話だったのだ。
雲を掴むような話。どれだけ足掻いても、調べても、何処まで行っても暗中模索、五里霧中。先の見えない無間地獄。
そんな研究だったが故に、1人、また1人と研究者は消えていき、やがてザックライアスが成人と呼べる年齢を超えるころには、周囲には誰1人として残っていなかった。
『もう諦めろ』
『始まりの大敵なんぞいやしねぇ』
『もう魔術師として不自由ないほどの腕はある。何故そこまで、根源でもないものに拘る』
幾度とない程に、魔術師達がそう言った。
それでもザックライアスは意固地になって研究を続けた。
「これは俺が得たもんだ……。根源? 窮極の叡智? 知ったこっちゃねぇ……!
やれることは何だってやる……。進み続けて、俺が生きたって証を示す! そして教会の連中の鼻あかしてやる!!」
ザックライアスは手を伸ばし足掻き続けた。歩む脚がある限り進み続けた。
恐らくは生来よりの性分なのだろう。何処までも可能な限り努力し、尽力し、奮励し続ける。
そして必ず意味を見出して見せると─────。そのために何処までも進み続けるのが、彼なりの自分の人生に対する、一種の礼儀であった。
だが、その邁進の意志も、何年経過しても答えの出ない命題を前に、とうとう音を上げる結果を生み出した。
「ダメだ……ダメだダメだダメだ!! 畜生!!!
どうやっても意味が分からない……! なんなんだよ"始まり"って!!
なんなんだよぉ!! "大敵"ってぇ!!!」
ブリテン島を訪れて10年が経過しただろうか。ザックライアスの精神はもう限界に至っていた。
進み続けると決意し、渇望と言っても差し支えないほどに執着し続けたとて、答えが見えなければいずれ限界は来る。
もはやどうすれば答えが見えるのかもわからない。それでも止まることが出来ない領域にいる。そんな葛藤が彼の中にあった。
部屋の中で苦悩するザックライアスの部屋の前。扉を隔てて1人立ち尽くすしか出来ずにいる影がいた。
「………………」
そんな兄の苦しむ姿に、ザックライアスの妹のヘレナは声をかけられずにいた。
どうにかして何か声をかけるべきではないのか? そう思いながらも書けるべき言葉が見つからない。
魔術師である兄の気持ちが分かるのは魔術師だけ。魔術師でもなくただ養われるだけの自分に出来る事があるだろうか。
そう考えると、ヘレナはただザックライアスの部屋の前でただ立ち尽くすしか出来ずにいた。どうすれば兄の苦悩を和らげることが出来るだろう。
悩んで、悩んで、悩み続け────────そんな中、不意に自分の背後に気配を察し、そのまま道を譲っては自室に戻る。そんな繰り返ししか出来ずにいた。
結果ザックライアスは、ただ1人で悩み続けるのみであった。
孤独というものは精神を追い詰める非常に強力な要因であり、苦悩する彼は更にその精神を深く、深く苦しみへと沈めていく。
やがてその限界にぶち当たった"現実"に対する行き詰まりは、ザックライアスの心に1つの負の感情を生み出した。
なぜ自分だけが、こんな啓示を受けて立ち往生しているのかという、怒りが込みあがってゆく。
「相変わらず苦戦しているようだな」
「ポスポロス……。今度は何の資料持ってきた?」
「いや、資料はない。ただ貴様が叫んでいたが故に、顔を見せただけだ」
「そうか……。そうかよ……。だったら……俺の愚痴、聞いてくれないか……」
「───────。」
ポスポロスはザックライアスの問いに対し、ただ無言で返した。
それを肯定と受け取ったのか、あるいはそう判断する心の余裕すらなかったのか。
どちらにせよ、ザックライアスはポスポロスに対して自らの心の内を吐露し始めた。
10年という月日が経過しても尚、心からは信用していない漆黒の男に対して心情を吐き出してしまうほどに、彼の心は追い詰められていたのだ。
「俺は……、10年も前はずっと迫害され続けて生きてきた……。
生きてるのが……生まれた事が間違いだったんじゃねぇかって思うぐらいに……。だから……十字軍に縋った……。
そして大勢死んでいくのばっか見せられた……。死ぬべきのは俺だったんじゃないかって……何度も十字軍の中で思ったんだ…俺は……」
「────────。」
ポスポロスはただ無言を続ける。
対してザックライアスは、自分でも驚くほどに饒舌に口が回った。
今まで意固地として大敵を追い続けた反動か、あるいはこれこそが本当の彼の顔なのか。
理由は不明だが、彼は過去に抱いた思いをポスポロスへとぶちまけた。
「聖十字架を見て……啓示を得て…嬉しかった……俺でも生きる意味があるんだって……。
でも……!! 与えられても連中は俺を見下した……!! 見返してやろうって足掻いた……! 足掻き続けた!!
それなのに何だよ、これ……!! 無理難題じゃねぇか……!! どんだけ足掻いても……! 頑張っても……答えなんか一切出てこねぇじゃねぇか……!!」
「────────苦しんでいるのか。憎悪に身を焦がした身でありながら」
「苦しいに決まっているだろうが!!」
ザックライアスはポスポロスの胸倉を掴んだ。
いつかの自分を思い出す。隠者ピエールに強く当たっても何も解決できないでいた自分を。
ただ普通に生きたかっただけだったのに、命を賭して足掻くことでしか活路を切り開く術がなかった───いや、"知らなかった"愚かな自分を。
ザックライアスは心の中では分かっている。今の自分はあの時と何ら変わらないと。
ただ醜く、愚かしく、足掻くという方法しか知らない。言うならばそれは、幼き日から延々と続く呪縛。
先の見えぬ暗闇を歩みながら、ただ問い続けるしか出来ない自分に、ザックライアスは深く恥じ入っていた。
「この闇の向こうに何がある?」「足掻いた現実はいつ報われる?」と────。口を開け餌を待つ雛鳥のように、問い続けることしか出来ぬ愚かな自分を。
だが、理性では分かっていても、もはや本能が、魂が、存在の根幹が悲鳴を上げていたのだ。
足掻く以外に道を切り開く方法が知りたい。だがしかし、足掻く以外に道が残されていない。
足掻いた先に報われる未来があるか分からないものの、それ以外の道が開けない。故に彼は、大敵という存在を追い求め続けた。
満たされた生活などではない。ただ自分の生きた意味が欲しい。それだけを求めて彼は、かつての幼き日に追い求めた"当たり前"と同じように、"意味"を追い続けていた。
しかしその先に待っていたのもまた、未知という地獄だった。どれだけ調べても光の見えない暗黒の路。それが今、彼の歩み続けている道程に他ならない。
その現実は、ザックライアスの精神を摩耗させ、もはや修復の出来ない領域に至るほどに、彼の心を破壊していた。
「俺は……何も変わっちゃいねぇ……。幼い頃に"普通"を求めていた頃から……何1つ……!
妹は幸せにできた……。それなのに……。意味を求めてまだ足掻いている……。足掻き続けなくちゃ、もう生きられないんだ……。
止まりたいのに……もう止まることが出来ねぇんだ……! どうして……どうして俺は……こうなっちまったんだ……!!」
「簡単だ」
今にも泣きだしそうな声でザックライアスは問う。
それに対してポスポロスは、低く呟いた。
「屍の路を進みだしたその時から、お前は止まることを知らなくなった」
「………………しか、ばね……?」
「お前は今、慚悔に支配されている。生き残った事に対する後悔の念に。
あの日、民衆十字軍の一員となった時、心では自由を、財を、名誉をと願っていただろう?」
「………………ああ、そうだ。俺はあの日……当たり前の生活を…………」
「だが、その根幹とは別の、もう1つの思考があった。──────自分はユダヤ人だという、拭いきれぬ自意識が」
「……そこから先は慎重に言葉を選べ……。師だろうが何だろうが知らねぇが……!!
テメェまで俺がユダヤだったことを馬鹿にするんじゃねぇだろうな!!
お前も同じユダ公の癖にィ!!」
ザックライアスがそのポスポロスの胸倉を掴む手に力を入れる。
その視線に怨嗟の感情を宿すザックライアスの瞳には、漆黒の炎が迸るような錯覚さえ常人には覚えさせるほどの凄味があった。
だがしかし、ポスポロスは一切怯まずに淡々と言葉を返す。
「私は違う。むしろ逆だ。お前だ。
"お前自身が、ユダヤ人であったことを慚悔しているのだ"」
「…………俺、が?」
「そうだ。先ほども自分で言っただろう。"生まれてきた事が間違いだ"と考えていた、と。
貴様自身が、己の存在に否定的であった。だがしかし、通常の生活を追い求めた。……一種の二面性。矛盾精神と言える。
それを抱えたままに、言ってしまえば"半端なままに"、貴様は十字軍として進軍をした。そして大勢の死をその目にした。
────────覚悟の無いものが死を前にし、知る事のない感情の濁流に呑まれ、ただ進むという選択肢しか選べなかった。それだけの事だ」
「…………どういう……事、だ………………」
「全てはお前の覚悟が足りなかった。故にお前は"進み続ける"事で、過去自分に足りなかった覚悟を満たし続けている。
過去、自分は足りぬままで歩み始めたという慚悔を拭うために、お前は今、止まらずに進むことで満たされ続けているのだ。
それは十字軍が終わった後も変わらない。お前も今もまだ、ただ独りで孤高の十字軍の進軍を続けているにすぎないのだ」
「………………じゃあ、何か? お前……。今…この状況は……俺が……俺のせい……なの、か…?
俺が何の覚悟も決めずに……十字軍として出たってのが、悪いって言うのか!?」
「それもまた、違う。生きようとする権利は、生物全てに平等にある」
ザックライアスは戸惑いながら問うた。自分は間違っていたのかと。
ただ何も望まず、ユダヤ人として虐げられ続けて生きていれば良かったのかと。
だがポスポロスはそれすらも否定し、生きるために歩むことの意義を説いた。
「その生をより良きものにするために足掻く。それは間違っていない。
意味を見出すために足掻くのも間違ってはいない。そしてその歩みの上に、屍の重みを積み重ねるのも間違いではない。
罪の重さを背負うほどに、十字架を背負うほどに、その歩みが踏み出す脚には意味が宿るのだから」
「じゃあ、なんなんだよ……。俺は今、どうしてこんな──────」
「思いだせ。何処からお前の人生は狂いだした?
今お前が答えを出せない理由は、なんだ?」
ポスポロスの問いを通し、ザックライアスは自分の過去を追想する。そして今自分が苦悩する理由を辿る。
ユダヤ人だったことか? 違う。民衆十字軍に参加したことか? 違う。聖十字架を発見したことか? 違う。
────────啓示を、受け取ってしまった事か?
「……。そうだ……。俺は……。あの時……撥ね退けりゃよかったんだ……。
啓示なんざいらねぇ……って。普通の暮らしだけで……十分だって……」
呆然とした様子で、ザックライアスは呟いた。
力無く両の手を垂らし、そして上を見上げて呆然としたように天井を見た。
そんな自失となるザックライアスの心の隙間に付け入るように、まるで狡く嘯く悪魔の如きポスポロスの声が木霊する。
「お前はその根幹に、邁進と言う名の2文字が刻まれた。民衆十字軍の死によって。
"あれ"は其処に付け込んだのだ。お前ならば止まらずに進み続けると。答えを出すまで足掻き続けると」
「………………あ、れ……?」
「啓示を授ける存在など1つしかない。絶対なる者。被造世界を創りし物。
貴様でも名を知るだろう、大いなる存在。それこそが─────貴様の苦悩を生み出せし物だ」
「………………ヤハ、ウェ……っ!」
ギリ……、と拳が握り締められ、そして口から1つの名前が漏れ出た。
それは幼い頃。自意識すらはっきりとしない中で祖父や両親が一度だけ教えてくれた名前。
呼吸と共に在ると教えられた、みだりに口にしてはならない、絶対的なる主たる神の名前。
それが今、怨嗟の感情に染まったザックライアスの口から放たれる。
「ああそうだ……! そうだ畜生!! 畜生!!
もう怒りをぶつけられるなら何だっていい! 全部! 全部お前のせいだ糞ヤハウェ!!
何が神様だ! 何が主だ!! 何で……何で俺だけこうなったんだ!? どうして俺なんかに啓示を与えやがった!!?
ふざけやがって……! ふざけやがってぇ!!! 畜生がああああああああああ!!」
ザックライアスは慟哭した。魂の奥底から湧き上がる怨嗟だった。
彼自身、本心から神を信じるような人間ではない。あくまで神という存在はいざという時に祈る程度のもの。
本当に存在するはずなんてない。そう理性では理解しても、湧き上がる怨嗟が、憎悪が、怒りが止められずにいた。
いつまでも終わらない苦悩。何処までも報われない現実。その負の感情を何かにぶつけずにはいられない。故に彼は、いるはずもないと思考した神に対して怒りをぶつけたのだ。
同時に
ぐちゃり────と、嫌悪感を催す音が近くで響くのをザックライアスは感じた。
「………………え?」
ザックライアスは意識の不意を突くように響いたその音の方向へ、全く警戒もせずに振り向いた。
するとどうだろうか。その音の響いた箇所を見やる視線の先では、ポスポロスの漆黒に染まりしフードの内側から、無数の手が伸び始めていた。
その奥、ポスポロスの素顔と言える場所は、文字通りの深淵であった。何もない。ただ何も存在しない虚空だけが、ポスポロスの内側に拡がっていたのだ。
「な────────ッ!?」
「やはりお前も、神を否定するか。魔術師となれば可能性はあったが、やはりか。
丁度いい。"大敵"の啓示を受けた人間を我が一部にした過去は無かった故な」
ザックライアスは逃げ出そうとしても、全身が強張って動くことが出来ずにいた。
無数の深淵より這い出る腕に囚われるザックライアス。そしてその全身を掴む腕から、何かが沁み込むように自分の内側へと侵入していく不快感を彼は感じた。
まるで自分の全てを外側から侵食されるような、たった1適の黒い雫が"ザックライアス"という存在の全てを塗りつぶしていくかのような。
そんな圧倒的な存在感の違いが、ザックライアスを包み込んでいく。
「お前を我が一部とする。お前の邁進は此処で閉ざされる。
"始まりの大敵"という存在、その意味。全て──────我が手を以てして、解き明かしてやる。
そのためにお前の存在、命、血脈。その遍くを、我が大いなる計画の為に、利用させてもらう」
「───! ………──ッ……! ……─、──………...」
そして深淵より闇が溢れ出す。漆黒の翼の如き魔力がポスポロスの背より顕現する。
地獄の具現の如き漆黒がザックライアスを包み、そして────────
───────────────
──────────
─────
翌朝
「……お兄ちゃん……? 返事、無いけれど……開けるよ?」
恐る恐るとした声が響き、ゆっくりとザックライアスの私室のドアが開いた。
開けた少女はザックライアスの妹、ヘレナであった。ヘレナは昨晩、苦悩するザックライアスに声をかけられずにいた。
苦悩し続ける兄に対して声をかけられない日々が続き、どうすれば兄の苦悩を和らげることが出来るのだろうと、一晩中考え続けていた。
そして彼女は、今までの自分は逃げ続けていたのだと猛省し、どれだけ兄が苦悩していてもまずは対面し言葉を交わすべきと考えた。
今まで話せずにいた詫びも兼ね菓子を焼き、朝食代わりにと兄であるザックライアスを労わる為に彼の部屋を訪れたのだ。
しかし、声をかけても返事が無かった。
不審に思ったヘレナがゆっくりと開けたドアの先にいたのは、普段と変わらぬ後ろ姿のザックライアスであった。
安心して声をかけるヘレナであったが、即座に彼女は異変に気付いた。
「ああよかった。返事がないから倒れているんじゃ……って……」
「────────ヘレナ、か」
振り向いたザックライアスのその眼には、生気が宿っていなかった。
いや、目だけではない。その全身から放たれる気配とでもいうべきか、それらが全て、全く人間と異なる何かに変質したかのような悍ましさを感じる状態にあった。
あまりにも突然の兄の変化に狼狽えるヘレナだったが、そんな妹を気にも留めず、ザックライアスは言葉を続けた。
「お兄……ちゃん……?」
「"大敵"の研究は順調だ。今しがた、血筋を利用した"手筈の採集"の為の大規模術式の算段が付いたところだ。
"始まり"という言葉を、夜明けである太陽に見立てる事をはじめとする事で、黄道を征く────────」
違う、と。ヘレナの脳が全霊を以てして警戒音を響かせる。
目の前の存在は兄ではない。それは見た目だとか、喋り方だとか、そういった以前の問題だった。
根幹が異なる。気配が異なる。一緒にいるだけで吐き気が止まらない。そんな嫌悪感を、今まで兄といた時には一切感じなかったというのに。
今のザックライアスは、ヘレナにとって「一緒にいてはいけない存在になった」のだと、悟らざるを得ない悍ましさが、その部屋には充満していた。
「(違う……。違う。こんなの……お兄ちゃんじゃ、ない……)」
「────────つまり、12だ。複数の約数を持つ完全に近い数値である12にまず血筋を分ける。
次にそこから複数、更に複数と可能性を分けていく。永劫に我が血筋に、"大敵"の真実を追わせ続ける。そして最後に、我が"始まり"へとその全てを帰依させる。
……それこそが、真に"始まりの大敵"を御するという事。我が子孫全ての命脈と引き換えに、我が手を始まりへ─────引いては大敵へと届かせる」
「(こんな事……お兄ちゃんは言わない……。お兄ちゃんが、家族をないがしろにすることなんて……!!)」
ヘレナの脳内に、在りし日のザックライアスの言葉が過ぎる。
自分に対して「生きていてくれるだけで良い」と言ってくれた、優しき兄の微笑みが思い出される。
「そんな苦労を子供にまでさせるのは嫌だ」と笑いながら言った兄の笑顔が、目の前の兄が別人だと告げている。
眼前にいるのは、まさに完全に合理主義のみに囚われた"魔術師"としか言えない、変わり果てたザックライアスの姿であった。
「すぐに準備に取り掛かる。まずは12の魔術師の血筋を用意する。
カバラ、呪術、陰陽道、たとえ時計塔の管轄でなくとも良い。種類は問わん」
今までの知る兄らしからぬ言動に、ヘレナは慄いて数歩だけ後ずさる。
それと同時に机から1枚の紙片が落ちた。ヘレナがそれに目をやると、見知った兄の字を以て何かが綴られていた。
必死で書きなぐったかのような、痛ましいとすら言える文字群が克明に、ザックライアスの本当の意志をヘレナへと伝える。
にげろ
おれが おれで なくなる
つばさ
のっとった やつ の
だれかに
たくし
同時に紙片と共に、1枚の羽根が舞った。
漆黒。そうとしか表現できない1枚の黒き羽片。
ヘレナはそれだけで悟った。今の兄は、自分の知る兄ではないと。
何者かに乗っ取られ、変質してしまったのが今の兄の姿を借りた何者なのかだと、言葉ではなく直感を以て理解した。
「何をしている。急げ。貴様にも子を成してもらう。
我が手に6。貴様に6。合わせ12の黄道星座に即した子を作り、始まりの意志を成す枝葉の根幹とするのだ」
そう言ってザックライアス────その姿を借りた何者かは、部屋を後にした。
同時にヘレナは一目散に駆けだした。ザックライアスが、本当の兄が残してくれた、漆黒の翼の欠片を握り締めて。
「(ごめん……ごめんね……お兄ちゃん……!!
声をかけられなくて……!! こんなことになるまで……気付けなくて……!!)」
「私……生きる……生きて見せる……!!
絶対に……! お兄ちゃんを乗っ取ったのが誰か……!
何年たってでも……! 見つけてあげるから……!!」
◆
────────何があった?
「……ここ、は……?」
意識がぼやけている。はっきりと分からない。いや、そもそも、此処は何処だ?
真っ暗だ。何も見えない。手足の自由も聞かない。全身が痺れたみたいに、身動きが取れない。
記憶が曖昧なまま、ぼんやりとしている。今はいつだ? ただ疑問だけが渦を巻く。
確か俺は……、十字軍に行って……ブリテン島に行って……そして…………。
『──────これより魔術刻印の移植を行う』
声が響いた。朧気な映像が映し出されるように浮かぶ。
魔術刻印……魔術師がその秘儀を構成に託すための物だったか……。そんな説明を聞いた気がする。
手が差し出され、何人か並ぶ魔術師達がその手に応じるように手を差し出す。何らかの魔術的な儀式を通じて、魔術刻印を移植するんだろう。
一体誰の────────と思った瞬間、嫌な直感が俺の脳裏をよぎった。
先ほど"移植を行う"と言ったのは、誰だ? 誰の声だった?
聞き覚えのある声だった。年齢を重ねてはいるが、何よりも聞き馴染んだ声だった。
何年も聞き続けたような、いや、生きている限り忘れることの無いような、それはまさしく──────。
「………俺……? 俺、なのか……? この、視点……は……!!?」
そう悟った瞬間、俺の脳内に記憶が雪崩のように蘇ってきた。
"始まりの大敵"を研究し続けた事。どれだけ足掻いても答えが出なかった事。理不尽により神を呪ったあの日の事。
そして────────神を呪ったが故に、あの漆黒の影に、俺の全てが乗っ取られた事を。
「じゃあこれは……あいつの……! ポスポロスの!?
糞……! ざけんじゃねぇ!! 俺の身体を乗っ取って何しようって言うんだ!!!」
『我が血を継ぐ子等に命題を刻む。ヘイレム。お前は天より来たる大敵を見定めろ。エレノア。お前は人の内側にある大敵を見定めろ』
俺の声は届かず、映像の向こう側の俺────いや、ポスポロスの野郎は淡々と言葉を続ける。
血を継ぐ……? じゃあ目の前にいるこいつらは俺の……!? いやそれよりも───あいつ…今なんつった?
大敵だと? 見定めろだと?
──────まさか、"始まりの大敵"を知る命題を、後世にまで託すって言うのか?
俺だけ苦しめばよかったって言うのに、あんな答えの出ない課題を、俺の子供たちにまで残すって言うのか!?
『汝らオリジンストーン始祖12氏族。始まりの石の下に意志を継げ。
"始まりの大敵を御せ"の命題の下に。そのために子孫代々、命を賭して足掻き続けよ。
大敵の力を我らが手に。大敵の答えを我らが手に。それがオリジンストーンの、始祖たるザックライアスが意志と知れ。
お前たちに魔術を、力を託す"始まりの意志"と知れ』
「ふざけるなぁ!! 俺はんな事望んじゃいねぇ!!」
ふざけている。馬鹿げている。子孫代々足掻き続けろだと? 馬鹿なこと言ってんじゃねぇ!
これは俺が始めてしまった話だ。俺が止まらなかったせいで起きてしまった無理難題だ。だったら俺だけが抱えて死ぬのが筋だろう。
それがどうして子供たちまで苦しまなくちゃならないんだ。どうして子孫全員が足掻かなくちゃならねぇんだ?
ポスポロス、お前が何か企もうと知ったこっちゃねぇ。俺の身体を乗っ取りたいなら好きなだけくれてやる。
だが、それに俺の子供たちまで巻き込むな。俺の子孫全員まで、その呪縛に巻き込むな!! 苦しむのは俺1人でいいだろう!!
だからやめろ……! やめてくれ!!
『誓うならば手を取れ。天より堕ちた翼片より紡ぎし刻印。オリジンストーンの秘儀の欠片を。
此れを分岐させ、増殖させ、そして地に満ちる一族と成れ。大敵をその手に御するために──────』
俺が、ポスポロスがそう言うと同時に手が重なるように伸びていく。
やめろ。やめてくれ。その手だけは取っちゃダメだ。その刻印だけは継いじゃダメだ……!
それは呪いだ。それは呪縛だ。受け継いだが最後、永遠に答えの出ない命題に悩まされ縛られ続けることになる!!
俺が……俺だけが悪いんだ……! だからどうか……!
俺の呪いに息子たちまで巻き込まないでくれ………………!!
やめろ……やめ────────
────────────────────────
────────────────
────────
「やめろおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
そこで、俺は目を覚ました。ベッドのようなものに眠っている自分に気付く。
先まで見ていた、煉瓦と土色が支配する夢とは違う。直線と白色だけが満ちる景色。
周囲には誰もいない。何らかの休憩時間か、あるいは何かの理由で担当者が席を外しているのだろう。
その景色を見て俺は、自分の"今"を思い出す。正確に言うなら、"今"に至るまでの全てを正確に、克明に思い出す。
……そうだ。俺はポスポロス─────堕天使に乗っ取られて……そして刻印の一部として魂が分割された。
そのまま1000年間、ずっとオリジンストーンの血が受け継がれた魔術師の一部として……生き続けてきた。
そして……堕天使が死んで……空っぽなホムンクルスに偶然宿った俺は……こうして蘇ったんだ……。
はっきりと思い出す。自分が今まで歩んだ道程を。
不完全な魂の復活だった故か忘れていた、最も俺にとって深い場所にある記憶。
オリジンストーンという家系が生まれた全ての始まりを。
────────そして、自分の子孫全てに、俺が受けた命題を背負わせたという罪を、思い出す。
「あ……ああ……ああ……!! 俺は……俺はぁ……!!」
全てをはっきり思い出した俺は、自分が犯した間違いを全て自覚した。
今までぼやけたように分からなかった自分の過去が、はっきりと俺の罪を映し出し、罪悪感を増幅させていく。
俺が民衆十字軍に行ったせいで、俺が聖十字架を見つけたせいで、俺が啓示を受けたせいで、俺が魔術師になったせいで──────。
俺が、神を冒涜したせいで。何年も、何十年も、何百年も、ずっと俺の子孫が苦しみ続けたという事実が、俺の脳裏を蝕んでいく。
「糞……! クソ! クソクソクソクソクソォ!!!」
気付けば俺は起き上がり、血が噴き出るまでに壁に頭を打ち付けていた。
死んでしまえ。こんな罰当たりな俺なんか。死んだ方がマシだ。何恥知らずに蘇って生きていやがると。
怒りと悔しさが同時に込みあがって情緒がぐちゃぐちゃになっていく。それほどまでに、俺がしでかしたことは罪深いと自覚していた。
「何で……! 何で俺はあんな……! あんな糞見てぇな……!!!
畜生…………!! ちきしょう………!!」
どれだけ後悔しても過去は変わらない。俺が自由を求めたせいでこんなことになった。
どれだけ自傷したところえ罪は消えない。それでも、それでも衝動を止められなかった。
こんな腐った汚点なんざ消えたほうがマシだという、逃避と言ってもいい自己嫌悪が消えることはなかった。
その後すぐに、俺は音を聞きつけて駆け付けたカルデアのスタッフ数人がかりで止められた。
或る程度の鎮静剤を投与された後に、俺は全てを話した。俺の過去、俺の正体、俺の全部を、ありのままに────────
俺を此処まで連れてきた刹那にも、一緒に来たインセストーンの姉妹にも、カルデアの顧問だとかいうダヴィンチにも。
全員揃って、俺のいう事を静かに聞いていてくれた。
それが逆に俺は怖かった。
俺の罪が鮮明になって、みんなから拒絶されるんじゃないかという恐怖が、確かにこの時俺の中にあった。
◆
「……なるほど。オリジンストーンは……かのルシファーが、ね……」
ザックライアスが一通り自分の過去を話し終えるまで、その場にいた全員が静かに彼の言葉を聞いていた。
思い出した全てを。ポスポロスと名を偽って自分の肉体を乗っ取った存在、堕天使ルシファーの事から自分の生前まで、全てを。
長き時を超え堕天使の支配から逃れ、女性型ホムンクルスの肉体に精神が再現された彼は、ようやく自分が正しく"自分"であると自覚できた。
ザックライアスの子孫の中に散り分かれた自分の魂を繋ぎ合わせ、ようやく1つの人間としての自我を取り戻したのだ。
彼は─────現在の肉体基準で言えば"彼女"は、
元々はフリーメイソンと呼ばれる魔術結社がオリジンストーン本家の者の種から作ったホムンクルスだ。
だが如何なる偶然か。ザックライアスの魂を縛り付けていたルシファーが死亡したことで、空虚なホムンクルスの肉体にザックライアスとしての人格が再現された。
しかし精神が戻ったとしても"魂"が不完全だったが故に記憶が欠落していた。だからこそ彼は、蘇った時に出会った少女らと共に記憶を取り戻すため、"魂"の破片を回収する旅を続けていた。
その道中にカルデアと呼ばれる魔術組織にて、レイシフト先で出会った己の子孫から魂を回収すると同時に、記憶を取り戻したという結末に至る。
「君が此処に来た理由は聞いているよ。だから、その記憶が取り戻された理由もなんとなくわかる。
ルディング・メテオストーン……君がいった泥濘の新宿の"首謀者"と呼ばれる存在だ……。姓からも、ストーン一族だと思っていたよ。
おそらく彼に、接触したんだね。それと同時に、記憶が戻ったんだ……と」
「……ああ。そうだ」
カルデアの顧問英霊、レオナルド・ダ・ヴィンチが状況を整理するように言う。
その言葉にザックライアスは、ただ頷くしか出来ずにいた。そして自分を責め立てるように、震えながら頭部に爪を立て始める。
「そうだ……。俺のせいで……俺のせいであんな特異点が……。俺が……俺が……!」
「─────落ち着いて。大丈夫……。大丈夫だから……!」
「大丈夫って……何が分かるんだよ!!」
慌てて抑えるダ・ヴィンチに対し、ザックライアスは声を荒げた。
大粒の涙を滲ませ頬に伝わせながら、彼は己の罪を叫ぶ。己の過ちを後悔する。
彼は朧気ではあるが、死後の記憶も覚えていた。
それは彼を支配したルシファーが、ザックライアスの魂をオリジンストーンの魔術刻印に封じたためだ。
オリジンストーンは"分割継承"と言われる特殊な魔術刻印の分割方法を取る。そのために彼は、自分の祖先がどのような苦悩を受け続けたかをその魂で文字通り感じていた。
記憶が蘇った事でそのストーン一族の記憶とも言える情報が洪水のように溢れ、そしてそれらの原因こそが自分にあるのだと、彼は心から懺悔した。
「俺が魔術師なんかになったから……俺が啓示何か受けたから……!!
みんな……みんな苦しんだんだ……! みんな糞みてぇな人生を……災害を……!! なんで……! なんで俺は……!」
「それは間違いだ……。君たちストーン家がいたからこそ救われた人もいるし、助かった人たちもいる! 何より、この責任が全て君にあるなんて……」
「けど俺が……俺なんかが堕天使に乗っ取られたせいでこんなことになったのも事実だろ……!?
新宿だってそうだ! 俺が魔術師になんかならなきゃ、あんな災害は起きなかった!!」
ザックライアスは新宿であった事件を思い出す。空より降り注ぐ破滅の光景と、それに立ち向かう中で死んでいった大勢の英霊達を。
サーヴァントは死んでも座に帰るだけと理解していても、共に戦ってきた仲間たちが死んでいく様はザックライアスにとっては耐えられない光景があった。
新宿だけではない。人間を英霊と融合させる非道な組織の頂点に立った子孫がいた。魔術の探求に詰まり精神を壊した者がいた。死の探求の為だけに人の形を捨てた息子がいた。
ありとあらゆる子孫たちが、ある者は自分のせいで人生を狂わせ、あるものは自分が魔術師として子を成したせいで大勢の人間に対して迷惑をかけた。
その事実がザックライアスにとっては耐え難かった。自分のせいで。自分がいたせいでと────────彼の中の後悔が膨れ上がっていく。
「俺なんか……俺なんか!!
この世に生まれて来たのが間違いだったんだ!!!」
ザックライアスが慟哭する。
自分がいたから多くの人が苦しんだ。故にこそ、自分みたいな人間は生まれてきた事すら間違いであったのだと。
「間違いなわけないでしょ!!!!!」
だが、それを否定する言葉が、カルデアに響き渡った。
五月雨刹那。ザックライアスが、ザックライアスとしての精神を蘇らせた日本の研究所で出会った少女。
ストーン一族に散らばったザックライアスとしての魂の欠片を回収する旅路の中で、最も長い間共にいた1人の少女。
「刹那…………」
「確かに貴方の子孫はいっぱい苦しんだし……貴方の子孫のせいでいっぱい苦しんだ人が出たと思うけど……!!
でもだからって……貴方と貴方の子孫全部まで否定しないでよ!!!」
今まで短くはあれど、確かに旅路を共にした刹那の声がザックライアスの胸に響く。
それでも彼は叫ぼうとした。お前に何が分かると。1000年間も置き去りにされて現実を突きつけられた気持ちが分かるかと、感情のままに叫びたかった。
だがしかし、刹那の声がザックライアスよりも先に響く。
「貴方と一緒に生きた人や、一生懸命努力した子孫の思いまで否定する気なの!!?」
その言葉に、ザックライアスは息を飲んだ。
そして同時に思い出す。過去の自分のビジョンの中で、最後まで自分の隣にいてくれた妹の姿を。
堕天使に支配されそうになりながらも必死で抗って、最後の最後にメッセージを託した、ヘレナの存在を。
「………ヘレナ……。そうだヘレナは!?
アイツは……アイツは逃げきれたのか!? 俺のせいでアイツは……アイツは!?」
「落ち着いて!!」
「────────確かなことは言えない。けれど、カルデアやその他協力機関のデータを確認したところ、ウィルマース財団に1人ヒットしたよ。
1000年前に堕天使の翼を手にし、そしてそれを信頼できる誰かに託すまで守り続けたという……1つのストーン一族の分家最後の1人がね」
「………………それって……、もしか、して………………」
「断言はできない。けれど───────」
「その堕天使の証拠が起点になって、私たち人類がかの堕天使に勝利できたのは、紛れもない事実だ」
ダ・ヴィンチは真摯に、ザックライアスを真っ直ぐ見つめて言いきった。
その言葉に、その事実に、ただザックライアスは涙を流し、そして感謝した。
妹に託した物は現代まで続いていたと。そしてそれは確かに、意味があったものだったのだと。
誰に感謝をしたのかは、ザックライアス当人にも分からない。神か、と問われればその答えは否ではあるが、確かにザックライアスはその事実に対して感謝を抱いていた。
ただ涙を流すザックライアスに対し、優しく包み込むように背後に立った刹那は言葉を投げかける。
「貴方がどれほど前の人かとか……どれだけ苦労したか、とか……。
そういう気持ちも、苦悩も、私には分からない。けど……! 生まれて来たのが間違いだったなんて……言わないで……!」
「………………ごめん……」
振り絞るような声で言う刹那に対して、ザックライアスは小さく呟いた。
死のうとすることは間違いだった。否定するのは確かに意味がないと。ザックライアスは自分の思考の間違いに気付く。
「そうだ─────……。全部否定しちゃ……ダメだ……。
それでも、俺は……………………」
ザックライアスは思考する。その脳裏に感情を、記憶を、思想を、今までの全てを総動員して、自分が何をするべきかを考える。
自分を、自分の子孫たちを否定せず、ただ自分に出来る事を考える。
考えて
考えて
考えて
考えて
考えて
そして────────────────
◆
「体調は万全かい?」
「ああ。大丈夫だよ。おかげさまでな」
数日後。カルデアの医務室の扉に手をかけてレイシフトに向かうザックライアスの姿があった。
何かに吹っ切れたかのような、あるいは憑き物が落ちたかのような澄んだ目をして、付き添うダ・ヴィンチに対して礼を言う。
「もうすこし休んでも良いんだよ? 酷い過去を見たんだ。
君の精神的なショックは計り知れない。バイタルは安定しているけどいつトラウマが蘇るかは……」
「大丈夫だよ、本当に。休んでられなんかいられないんだからな」
そう言ってザックライアスはカルデアの廊下を歩みだした。
彼が出した結論、それは進み続けるという選択だった。彼は最初こそ、こんな自分は生まれるべきではなかったと慟哭した。
だがしかし、かつて犯した過去は消し去ることはできない。自分自身を、自分の子孫たちを、否定はしないしすることもできない。
それは一生懸命に生きた子孫たちの、そして自分と共にい続けてくれた妹に対する冒涜に他ならないからだ。
幼き日々に呪われた"始まりの石"の道程。それを後戻りすることはできない。ならば前に進むしかない。
進み続け、そして自分が犯してしまった間違いの欠片を、1つずつ拾い集めて贖罪している。それが、彼の選んだ道であった。
「俺の子孫全部を否定するほど自分勝手じゃない。
……けどだからと言って、俺のせいで苦労してるやつから目を背けられるほど屑でもないんでね。
少しずつやってくしかねぇ。1人ずつ会って、逢って、遭って……。悪かったって頭下げて俺の魂の欠片を回収する」
「これは、俺が始めた話なんだからな」
そう言って彼は次のレイシフト──────。
即ち、今は喪われたストーン分家が生きているだろう時代に起きた異変へと向かった。
散らばった自分の魂の欠片を回収するために。そしてなにより、自分のせいで迷惑をかけたと、謝罪するために。
それは終わらぬ物語。それは止まらぬ物語。
それは────────進み続ける、始まりの意志。
かつて自由を夢見た少年は、己の罪を払拭するために、砕け散りし石の破片を拾い集め、そして積み重ねていく。
その意志の焔が消えるまで、決して止まることなく、終わることなく────────。
End
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