ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。





西暦2017年、人類史は敗北を迎えた。
人理は漂白され、世界は七つの異聞帯に分かれ支配された。
だが、しかし、汎人類史は未だ尚もその死を受け入れてはいなかった。

異聞帯にカウンターとして汎人類史の英霊が召喚され、
絶対的なる力を持つ異聞帯に対して立ち向かい続けた。
いずれ来たるであろう、星見の砦の使者が来るその日を待ち続けて。

それは此処、最大の異聞帯であるアトランティスにおいても変わらない。
いや、最大であるからこそ、汎人類史は最大の抵抗を見せた。全ての異聞帯の中で、最大の数の英霊を召喚し対抗した。


これは、最大の異聞帯であるアトランティスに召喚され、
そして汎人類史の希望をつなぐためにその命を散らした、英霊の物語の一端である。





「とりあえず、今のところはまだ見つかってなさそうで安心っすね」
「そうね。でも油断しないようにしないとね。相手はあのオデュッセウスなのだから」
「まぁ…そうなんだけど…。あの仮面ライダーみたいなやつがオデュってまだ実感ないんだよなぁ…」
「異聞帯なんだもの、そういうものでしょう。歴史が違えば、性別や性格の1つや2つ違うものよ」

着物のような服を着た女性と、ボロボロの白いコートを羽織った男が草原を歩く。
その後に続くように、無機質な印象の少女と紳士服の男がゆっくりと歩いていた。
紳士服の男はその手に手帳を持ち、何かを呟いて思考を整理させながらメモをつづり続けていた。
そして隣の無機質な少女はというと、時たまそのメモの中身を興味深そうにのぞき込もうとしては、紳士服の男に隠されていた。

「何を書いているのですか?」
「ああもうあんま見るもんじゃねぇぞ? ここで見たもの得た物を少しでも生かせるように座の俺に刻み込んでるだけだ。
 何せ神代ともいえる魔力の濃さが今尚も続いている異聞帯だぞ? 少しでも活かしとかねぇと、オカルティストとして名が廃るってもんだ」
「貪欲っすねー…メイザースさん。普段はめんどくさがりなのに…」
「おめぇは良いよなぁタイタス! 持って生まれた神殺しっつー神秘があるんだから!」
「欲しくて貰ったわけじゃないんすけどねぇ…。まぁその分役立っているんで文句はないっすけど」

タイタス、と呼ばれた白コートの男が、拳を握ったり開いたりしながら苦笑いしつつ言う。
彼は俗にいう"神殺し"という力を持っており、抑止力の使者として此度の異聞帯のカウンターとして召喚された。
この異聞帯は、今なお生き続けているオリュンポスの神々が支配している異聞帯であるため、彼の力は相性がいいと判断されたのだろう。

そしてその隣を歩く女性、天羽々斬もまた、同じく神秘を切る能力を持つ抑止力として召喚されている。
この異聞帯において、異聞帯の主戦力として立つオデュッセウス艦隊らは、エキドナと呼ばれる魔獣の母を武器として使役している。
エキドナとは上半身は美女だが下半身は蛇という異形で語られる神話の魔獣たちの母であり、彼女はそのカウンターとして召喚された。
人に仇なす蛇────否、竜を殺す竜殺しの剣の使者として、彼女は汎人類史の祈りに応えたのだ。

オリュンポスの神々、そして魔獣の母。それらだけでも脅威だがこのアトランティスにおける最大の脅威はそれらではなかった。
最も恐ろしいもの。それは彼らの遥か天上にあった。成層圏よりもはるか上に或る、狩猟の神アルテミスそのものであった。
星すらも穿つ対星宝具、それを頭上から放つ究極の防衛兵器。その在り方は遥か未来に作られると言われる、神の杖という兵器にも似ていた。
"それ"があるが故に、汎人類史の英霊達は苦戦を強いられていた。正確な威力、スペックもわからない状態の中で、
何処から撃たれるかもわからない超強力な威力の攻撃に、怯えるしかなかった。

「そういえば、イアソン組は?」
「ヘラクレスでアトランティス防衛兵を蹴散らしていると聞いています。私たちも出向くべきでしょうか?」
「いいや、あんたは力を温存しておいた方が良いだろう。あんたはアルテミスに届くことのできる数少ない手段の一つだからな」
「そうですか…。分かりました、メイザースさん」

そのアルテミスへの対抗として召喚されたのが、この無機質な少女。真名を"はやぶさ"と言う。
彼女は宇宙へと飛び立った機構が英霊となった物であり、成層圏を超える高度に或るアルテミスに届くことのできる数少ない英霊である。
幻霊の集合で構成されており、かつて泥濘の新宿で面識のあるタイタス・クロウと出会って、行動を共にしている状態であった。

そしてその隣を歩み、はやぶさに指示を出した男が、マクレガー・メイザースと呼ばれる魔術師である。
黄金の夜明けと呼ばれる魔術組織をウィリアム・ウェストコットと共に設立し、近代魔術界隈に大きく影響を与えた男。
比較的に近代以降の英霊が多いこのメンバーの中で、天羽々斬と共に導く役割になっているが、本人はあまりその立ち位置を気に入っていない様子であった。

「大体俺は英霊ってシステムはあまり好きじゃないんだよなぁ……。
 今がやばいなら今の人間が動くべきだと俺は思うんだがそこの竜殺しはどう思う?」
「しょうがないでしょう? 地表は漂白され、世界から人は消え去った。異聞帯の人々は私たちの世界の人じゃない。
 結果、戦えるのはまだ見ぬカルデアのマスターとその所属人員だけ……。それも今、此処に向かっているはずだから、もう少しだけの辛抱ね」
「とは言うものの、メイザースさんもこうして召喚に応じているって事は、それなりにやる気があるって事なんじゃないっすかぁ?」
「まぁ、ほぼ神代の現代に召喚されるなんざ、もう二度と経験できないだろうしな」
「この人……人理漂白すらも貴重なケースの1つとして捉えてるな!?」

まぁな、とメイザースは少し笑い肯定する。
天羽々斬は眉間を抑えため息をつき、タイタスは苦笑いをこぼす。

「だが、だ。この異聞帯も最大ではあるが、最大なだけじゃあないか? と俺は考える」
「へぇ、その心は?」
「異聞帯というものを俺なりに調べてみたが、それは総じて不安定だと俺は考える。
 汎人類史は今はこうして潰れてはいるが、それでも尚も食い下がらず生き続けている。まぁ言うなら…"しぶとい"んだ。
 それに比べりゃあ異聞帯なんてのは…なんだ、弱いんだよ。存在強度とでもいうのか、安定していない」
「テクスチャの話? 天逆鉾のように、皮膜(ルール)を縫い付ける物があると伝聞では聞いているけど」
「それだ。異聞帯というものは要は、壁に画鋲で張り付けた紙だと俺は考えている」
「……その画鋲が、この異聞帯の王であるゼウスであり、そしてあの"樹"だと…?」
「そうだ。カバリストやってるだけあって察しは良いなタイタス」

ビシッ、とメイザースはタイタスを指さして肯定する。
続けて手に持っていた手帳を拡げ、タイタス、天羽々斬、はやぶさの3人へ見せる。
そこには、地球と思われる円を囲むように3つの円が書かれていた。

「黄金の夜明けやってた時から、各世界での神話の差異には苦労したもんだ……。
 ウェストコットの詭弁(ファインプレー)が無かったら、黄金の夜明けなんぞ作れなかっただろう。
 いやそれは置いといて…、英霊になってからその差異の意味がようやく理解できた。地球ってのは法則ごとに敷物のようなものがある。
 それが世界のルールを変え、法則を変え、そして価値を変えていた。しかしソロモン王だかキリストだかが、これを統一した。
 これが現代人類が住む法則……そう、俺は認識している。統一した奴は予想でしかないがな」
「俺も大体その認識っすね。そのテクスチャが綻びてたから色々起きたのが俺の時代でした」
「神代住まいの私から見ても、概ね間違えてないと思うわ。良く調べたわね」
「興味あることには詳しいだけだよ」

ふっ、と自嘲するようにメイザースは鼻を鳴らす。
そして本題に入りなおすとでも言いたいように手帳をめくって白紙のページにペンを走らせる。

「そういったテクスチャのように、既に失われた歴史を再現…あるいは蘇生し、
 汎人類史が喪われたこの地表で再現している……。そういうものが異聞帯だと、俺は見ている」
「その心は?」
「テクスチャの違いって言うのは、文字通りルールを変えるという事だろう?
 聞いた話では、神代では地下に潜るだけで死者の世界があったと聞いた。それぐらいルールを変えるなら、
 既に無くなった世界の法則を再現することもできる…と考えたんだが? どうだろうか」
「…………、ええ。筋は通っている…と思う。私は神代に生きた身とはいえ、
 一介の剣だから詳しい事は分からないけど、矛盾は無いと思う」
「良し。ならこれから続く仮説も正しいはずだ。この異聞帯はテクスチャだ。
 そしてテクスチャを固定する物は、天逆鉾や最果ての槍のように、地に突き刺さる物。つまり」
「あの樹を破壊すれば、この異聞帯は消滅する」
「そのとおりだはやぶさ」

大きくメイザースは頷いた。
タイタスもまた、ふむ…と唸りながらメイザースの言葉をかみしめる。

「しかし異聞帯側から見れば、世界が消えるのは勘弁願いたい。
 そのために異聞帯の王たちは、あの樹を全霊で守り続ける、か……」
「まぁ王というのはあくまで比喩だがな……。多分そうなんだろう。ひょっとしたら、
 異聞帯と化したと分かっていない王もいるかもしれないがな。それはまた別の異聞帯の話だろう」

さて、と言い換え、メイザースはタイタスとはやぶさのほうを向く。

「そこで現状の課題は大きく3つ。オリュンポスに立つゼウス。
 そしてオリュンポスに向かおうとする俺たちに対してにらみを利かせている、アルテミス。
 さらに俺たちを追い続けている、異聞帯のオデュッセウス艦隊と、エキドナだ」
「4つでは?」
「オデュッセウスとエキドナはセットみたいなもんだから1つで良いんだよ!
 まぁともかくだ。この場にその3つへの抑止力は全て揃っていると言っていいだろう」

4人が互いに互いを見合う。
竜殺し、神殺し、そして星にその手を届かせるもの。
確かにこの場にいる英霊達は、まさに先ほど挙げた異聞帯の"樹"の伐採の障害、
その総てに対して絶大なカウンターを誇る英霊達ばかりであった。

────だが……

「あー……、あのー……すんません」
「どうした、タイタス・クロウ? うんこか?」

気まずそうに一人、手を上げる男が1人。
タイタス・クロウ。現代の神殺し。この異聞帯を支配する"神"を穿てる可能性の抑止力。
そんな男が口にした言葉に、他3人は肝を抜かれることとなる。

「俺の神殺し……、この異聞帯の王に…効かない…かも………です」
「「「………………え?」」」





「それは……どういう?」
「神殺しの抑止の守護者と聞いていますが…」
「神を殺せない貴方なんてただのロリコン貧乏探偵じゃない?」
「言い方ぁ! まぁ、神殺しっつっても俺のは他のと少し違うんだよ」

タイタスは頭を掻きながら、どう説明したもんかとぼやきながら己の能力について説明を始める。

「ナイチチ、お前の竜殺しは逸話が昇華されたスキル、それで合っているな?」
「合っているけどその呼び方は辞めろと何度言ったら分かるのかしら」
「合ってるな。まぁ普通、○○殺しって言うのは逸話が昇華されるもんだ」
「それはお前も同じだろう? カバリストの後輩たるお前が神すら殺しているというのは俺も聞いている話だから」
「いや、それが微妙に違うんすよ。俺の神殺しとしての力は、俺由来じゃない」
「……抑止力との契約、ですか」

はやぶさが、はっと気づいたように呟く。
その言葉に天羽々斬がなるほど、と相槌を打つ。

「そういえば貴方言っていたわね、生まれた時に霊液を浴びたと」
「ああ、瑠璃色のエリクシール。アラヤの抑止力が形となった、殺せない存在を殺す力。
 それを生まれ……つまり名付けと同時に浴びて、魂と一体化しちまったのが俺だ。守護者としての契約の亜種だな。
 だから俺の神殺しの力は、逸話であるけどそれ以上に"抑止力からのもらい物"なんだよ」
「なるほど……。抑止力の使者だから、異聞帯の神には無力という事かしら?」
「それもあるけど、微妙に違う」

へぇ? と首を傾げる天羽々斬に、タイタスが続けて説明を続ける。
メイザースとはやぶさはというと、普段聞けない抑止力の内事情に興味深そうに耳を傾けていた。

「俺の神殺しはな、"外"専門なんだよ。俗にいうクトゥルフ神話の神々だ。
 既存の神殺しの抑止が、1人の人間に宿ったからちょうどいい使おうぜ、っていう感じで変わったんだ」
「外……。最近観測された、フォーリナーというクラスと関係があると言われる、異界の神々ですか」
「ああ」

はやぶさの言葉にタイタスが頷く。
かつて、ここではないどこかで、魔神柱と呼ばれる存在が外の神の降臨を試した。
本来有り得ないその異端からの降臨は成功し、たった一瞬ではあれど外とこちらはつながった。
"それら"にとって、その一瞬だけで十分だった。外よりの高位存在はこちら側のありとあらゆる時空に干渉し、
そしてこちら側への侵食を拡げているという。

「神なら同じじゃない、とでも?」
「ああ。外からきた高位存在……面倒だから旧支配者と呼ぶとしよう。
 連中に抑止力なんぞ効かない。こっち側の存在じゃないから。抗体の無い病原菌みたいなものだ。
 もし暴れられれば、本当なら対抗策もなく世界は滅び、人類は一瞬で駆逐され連中のおやつになるだろう」
「だが、その対抗策があった……いや違うな、"造った"…か? お前のその言い分を聞くと」
「正解ですよメイザースさん。旧支配者も、神々も、弱点がないのは同じだ。"なら作り出せばいい"。
 既存の神殺しの抑止力は、殺せない存在を殺せる要因を全人類の過去・現在・未来からサルベージしてぶつける力です。
 対して俺専用に改造された抑止力は、旧支配者どもをこちら側に強制的に固定して、そして既存の神殺しをぶつける物です。
 威力は劣るが、特攻の範囲を広げた物……殴れない存在を殴れるようにしたもの、といえば分かるでしょうかね?」
「わかりやすいよ、つまりこういう事だろう」

カリカリとメイザースが手帳の空きスペースにメモを書き記し、考えを整理する。
天羽々斬が頷いてタイタスの言葉を噛み締め咀嚼する横で、はやぶさだけが空を眺めていた。

「今までなら、こっち側の神しか殴れなかったが代わりに凄まじい威力だった。
 これからの神殺しは、外側の神々にもダメージを通せるが威力は以前より下がった。
 そしてお前は後者、そう言いたいんだろう?」
「わかりやすい纏め、ありがとうございます」
「……つまり、この異聞帯の神に効かない理由って…単純に威力?」
「そうなります。神霊……死んで生身の無い神ならともかく、生きている神は文字通り絶対だ。
 以前のバージョンの神殺しならおそらく難なく殺せたでしょう、ですが…今の俺だとどうなるか…」
「ちょ、聞いてないわよ!? どうするのよそれなら早くダウングレードしなさい!」
「保証期間過ぎてたりするのか? 無料アップグレードならクーリングオフ出来ないか?」
「無理ですよそんなWindowsじゃねぇんだから!!」

二人同時にタイタスにつかみかかるが、無理なものは無理だと反論するタイタス。
そんな3人に、空を見上げていたはやぶさが一言だけ告げた。

「────逃げたほうがいいです、今すぐに」
「え?」
「どうした?」
「…………まさ、か」
「はい」

「アルテミスに、補足されました」





────時刻は、少し前に遡る

「ニーケー島よりの定時通達が途絶えました」
「尻尾を見せたか」

大海を往く数十を超える艦隊、その1つの上に立つ仮面の男に連絡が伝わる。
同時にその男は、どこかへと通信し、そして攻撃の準備を整える。

「ヘラクレス擁するアルゴー船の英霊達か、あるいは神殺しなどと嘯いていた不遜者どもか……。
 どちらにせよ、危険因子に変わりはない。確実に潰す」

そう言って、ただ一言だけ告げた。

「ヘラクレスはまさに脅威だが、神殺し、竜殺し、そしてあのミネルヴァと魔術師の力は未知数だ。
 既に死に絶えた世界の抑止力(ちから)などたかが知れているが……神を殺したとまで大言壮語を語るのならば────。
 ニーケー島にいる存在がどちらでも構わない。偶然も奇跡もない、圧倒的なる光を以てして焼き去ってやろう」

その言葉に一切の油断はなかった。いや、違う。"慢心"が無かった。
男には絶対的な自信がある。万分の一の確率でも、自分たちに敵対する英霊達。
汎人類史が自分たちに敵うはずもないとは考えていた。

しかし、だからと言って手を抜くことは違うと男は考えていた。
例え羽虫であろうとも、それが脅威になる可能性があるのならば全霊を以てして排除する。
それがこの戦場においての彼の信念であった。増してや相手側に立つ英霊の数人は、その力を良く知っている。
故にそれに並び立つ英霊達も同等に、油断なく、慢心なく、そして驕りなく殺す。そう決めていた。

「ニーケー島に天の配剤を放て」

そして、その命令を放った刹那

「────ッ」

男は咄嗟の判断で、跳んできた弓矢をすんでで躱す。
それが英霊の放った弓矢であることは、その威力からすぐさまに把握できた。

「────来たか」

男はその弓矢の放たれた方向を見やる。
その先には、船というにはあまりに小さすぎる、ボートというが相応しい小舟があった。

「や、や。中々やるじゃない。ボクの弓を躱すなんて!」
「対峙するだけで分かる。イアソンやヘラクレス、そしてアキレウスが来ていた時点で、"お前"がいるとは読んでいたぞ」
「そりゃどうも。ボクも随分と有名になったみたいだ。分かってくれて光栄だよ」

軽快に、どこかふざけたように、小舟に乗った女性は笑う。
周囲には幾千の艦隊と魔獣たち。しかし、その攻撃を躱し、いなし、潜り抜けながら、弓矢を放つ。
まるで風に乗っているかのように。まるで小鳥と遊ぶように。

「分かるさ。"同じ存在なのだから"。だが、汎人類史の俺は随分と巫山戯ているようだな」
「そういう君は、随分と余裕がないようだけど? どうしてそこまでピリピリしているのかな」
「お前たち汎人類史を、完膚なきまでに駆逐するためだ」
「ふぅーん」

トッ、と軽く跳躍し、女性は船の上に飛び乗る。
眼前に立つは、仮面の男。放つ殺気は、それだけで人を殺しかねない鋭利な刃の如く鋭く放たれる。
だが女性は微動だにしない。変わらずに軽薄な態度を崩さず、しかし目の前に立つ男への油断は一切ない。

「君は船、ボクは弓。どちらも一長一短だけど、さてどうなるかな」
「答えるまでもない。勝敗は一瞬で決まるのだから」
「……うん、やっぱりだ」

ニッ、と女性は口端を吊り上げて弓を引く

「キミ、つまんないね」
「負け惜しみか? 見苦しいぞ」
「さて、どうだろうかな」

両者の間に霊力がぶつかり合う。
それは闘志であり、意思であり、力であり、そして信念であった。
互いの実力は文字通りの拮抗。だが保持する戦力は桁違い。勝敗は文字通り目に見えている。

「(だが、何故こいつはこの場に立つ?)」
「(ボクとキミ、その違いはただ一つ……。────を知っているか、それだけしかない)」

一陣の風が吹いた。

「我が名はオデュッセウス! イタケの王にして、トロイア戦争ギリシャ軍の大軍師なり!」
「我が名はオデュッセウス。アトランティスを守護する艦隊の長にして、汎人類史を駆逐する者なり」

互いが持つ信念が交差する。
互いが使える力が交錯する。
互いの持ちうる総てが、ぶつかり合う。

誉れ高き大軍師と、冷酷なる大軍師。
2人のオデュッセウスの刃が、今此処に交わされた。

「(────これが通るとしたら、最後の最後か)」

「殺した暁には、利用させてもらおう。
 その霊基、その魂、その記憶の一片までも」

「(キミは、ボクじゃない。……だからこそ、負ける)」





そして、海上での決戦と同時刻。
勝利の女神の名を冠するニーケー島を、天に在りし女神の弓矢、"アルテミス"が補足する。
星さえも消し去る究極の一撃。それが今、ニーケー島に立つ4人の英霊達に対して向けられていた。

「……おそらくは。被害予測……ニーケー島……全域…。回避不可能です」
「うそでしょ……? 島にいる人たちの事を考えてないの!?」
「待て待て待て! 俺たちはこの島の中心にいるんだぞ!? どれだけ最短距離で急いでも沖まで10分はかかる!」
「発射までの時間測定できるはやぶさちゃん?」
「エネルギー密度……収束段階に移行……。予測時間、……4分30秒」
「…………。死んだな、俺ら」

立ち上がり、あれやこれやと計算していたメイザースが地面に座り込む。
それに対して、天羽々斬が叱咤するように声を上げる。

「ちょっと!? 諦めるの早すぎない!?」
「いや、魔術師とは言え近代の俺がまぁよくやれたもんだろうと思ったわけだよ。
 一応アトランティス護衛兵どもを十何人か屠ったわけだし、これでも十分な頑張りだと思うぜ俺は」
「いやいやそれにしてももう少し足掻くとかそう言うのをねぇ!! そうだはやぶさちゃん! ここにいる全員を背負って急速移動とかできる!?」
「申し訳ありません。1人ならまだ可能ですが全員となると……」
「じゃあ……助かる方法は……」
「────────ある!」

天羽々斬が蒼褪めた顔色に変わっていく。
その絶望を吹き飛ばすように、一人無理やり声を上げた男が一人いた。
タイタス・クロウ。彼は「しょうがねぇ…」と頭を掻きながら一言呟き、魔力を励起させる。
同時に出現したのは、人の背丈を少し超えるほどの大きさの柱時計だった。

「……ここで出すほか無いか…」
「それは…………?」
「四本針の…! あんたそれ壊れたんじゃなかったの!?」
「壊れてたけど無理言って直してもらったんだよ…。異聞帯だからと、1回だけ使える」
「四本針…? とすると…まさか、時空間を旅する時計!? 黄金にいた時噂には聞いていたが、マジか!?」

興奮しながら時計に触れ、手触りや何やらを確認するメイザース。他2人の英霊も希望を持てたのか表情が明るい。
だが、希望を指し示したタイタス自身の表情はと言うと、何処か不安が差すかのような、暗い表情をしていた。
その表情に、抑止力として付き合いの長い天羽々斬が何かに気付く。

「…………何かあるのね?」
「隠せねぇなぁ羽々斬には……、まぁ、うん。そうだ。
 この時計は抑止力のおまけみたいなもんだ。つまりこれも、俺の神殺しと同じ、汎人類史限定だ。
 ルールからしてまるっきり違うここで使うなら……、最低でも地図やらなにやらダウンロードしなくちゃならん」
「この異聞帯の大気情報、地図、地表構成要素他データは記録済みです。……ですが、データ量は膨大です。
 想定ダウンロード時間としては……。今から始めたとしても、攻撃到達まで十数秒ほど……足りません」
「ああ、結局俺たちはここで死ぬしかないってわけか」

肩を落とすメイザース。
だが、はやぶさのその言葉に、タイタスは己の頬を叩いて力強くうなずいた。

「おっけ十数秒だな。じゃあ"出来るわ"。
 今すぐダウンロード作業に移ってくれ」
「えっ────。………はい。了解しました」

タイタスの言葉に、はやぶさは一瞬疑問を口にしそうになるが、
刹那に彼女は理解したように頷き、そして4本針の時計にデータを移し始めた。
まるでそれは、己が疑問を発する一秒一瞬すらも惜しむというような、目の前に或る心に敬意を表すような手際の早さであった。

「……タイタス、貴方まさか…自分が犠牲になってあのシューティング・スター・オルテギュアを止めようと?」
「1差っ引いて3助かるんだ。お得だろう羽々斬。そも、こん中で一番役に立たないのはさっきも言ったように、俺だ。
 ずっと考えてたんだ。この異聞帯の神々を殺せない神殺しの俺がいる意味。なんとなく、今、この時の為なんじゃねぇかと思う。
 絶対止められない神の一撃が来たら、神殺しを全力出して止めて逃がせ、……ってな。神殺しという事に関してならA級英霊に並ぶ…と自負している。
 それが神の攻撃なら、完全にとは言わんが十数秒ぐらい……殺してやるさ。俺は死ぬだろうけど」
「でもそれって!!」
「そうか、分かった。"お前がそれでいいならそれでいく"」

ハァ……、と短く息を吐き、メイザースが立ち上がった。
その姿を見て、天羽々斬が驚いて声を上げる。

「ちょっと!? 貴方それでいいの!? 同じ…えっと、魔術師の仲間でしょ!?」
「良いも何も、そういうもんでしょうよ俺たち英霊ってのは。単純な数の駆け引き…。あいつがそれでいいって言うなら、止める必要はないですよ」

一見冷酷な判断をするように見えるメイザース。
だが天羽々斬は見逃さなかった。メイザースの、一瞬だけ覗かせた苦虫を噛み潰したような顔を。
そして同時に思い出した。英霊とは、抑止力とは、確かにそういうものであったと。大を活かすために小を捨てる。
ましてや今切り捨てられるのは生きている人間ではない。すでに死に、そして再度召喚も可能な抑止力の使者だ。
それを犠牲にするだけで生き延びられる。ならばそれに越したことは無いだろう。

「わかった。貴方がそう言うなら私も何も言わない。薄情だなんて、言わないわよね?」
「当然よぉ俺が言い出しっぺなんすから。まぁ、後に繋げるのが汎人類史の強み、っつーことでここは一つ託されてくださいよ」
「お前な……お前が死んでまで守った俺がお前以下の活躍だったら承知しねぇからな?」
「支離滅裂になってない? まぁとにかく、了解したわ。死に物狂いで頑張ってみるわ」
「俺もまぁ、主力を生かして逃がせるぐらいには努力するよ」
「メイザースさんにゃあ魔術や神秘の解析方向で頑張ってほしいんですが…っと、そろそろか」

苦笑いをしながらメイザースと会話するタイタス。
だが、空に一筋の煌きが見えたと同時に、こぶしを握り締める。

「とりあえず最悪の備えて、時計に入っててください。
 万が一の場合は適当にスイッチ押せば移動はします。何処に出るかわかりませんけど」
「怖いなそれ……」
「んじゃ、逝ってきますわ」

後ろ手に手を振りながら、タイタスは拳を握り締め天を見据える。
それを見送るかのように、メイザースと天羽々斬はタイタスの四本針の時計の中に入る。
その中では、はやぶさが自身と時計を接続して己の中のこの異聞帯のデータをインストールしている最中であった。

「調子はどう? いけそう?」
「それが……、データフォーマット形式変換が上手くいかず……。
 ですが大丈夫です。解析が終了したため現在は順調です。むしろ想定よりも早くインストールが進んでおります。
 この調子ならば、あと30秒もあれば────ッ!!」

一瞬、はやぶさが息をのんだ。
そして、それはまるで条件反射のように、上を見上げた。

「まさか!?」
「そんな……早すぎます……これは……!?」
「なるほど……。俺たちの脅威度を上げたってわけか?
 まぁヘラクレスやらがいると知られちまったからな。……つまり、これから放たれるのは……」
「…本気…とまではいわないけど、アルテミスの一撃の…真骨頂……」
「そうなる……!」

メイザースは時計の扉を開き、空を見上げているタイタスに叫ぶ。

「タイタス!! おそらく向こうは本気で殺しに来た!! 乗れ!
 一か八かに賭けるぞ!! 多分お前が言った十数秒も持たせることは出来ない!」
「はぁ!? じゃあなおさら俺が死んでアンタらが生きるべきでしょ!?」
「いやどう考えても防げないから! 防げて一瞬だけ────」

そこまで言って、メイザースは何かに気付いたように一瞬だけ声を止める。
それと同時に、彼らを覆う点を、星の如き極光が包み込み始めた。

「…………来やがったか…!」
「どうするのタイタス! メイザース! 打開策は────」
「はやぶさ! どれくらい時間あとかかる!?」
「────シークエンス解析、…ジャスト10秒!」
「なら…行けるか!?」

メイザースが舌打ちを鳴らし、四本針の時計内部をその手で探り、そして頷く。
生前に見た時と時空に関連する魔術に関する書物を片っ端から脳内処理を行い仮説を瞬時に組み立てたのだ。

「……これなら……。羽々斬! 3本目の針を前に、2本目を後ろに動かせ!
 "時の遅延を発生させる"! 多分これならいけるだろう!!」
「分かるの!? この短時間で解析したとでも!?」
「アレイスターのトンチキ魔術理論を理解するのに比べたら屁でもねぇよこんなもん!」

メイザースは、かつて見た論文で、世界の時は4つの要素により成立しているというものを見た。
即ち、星、地、人、そして時。これらの4つの針はそれぞれ違うテクスチャの流れる時の過去、現在、未来を指し示すと。
それを限定的に時計という形で表しているというのならば、と彼は予測したのだ。

「タイタス!! 一瞬だ!! 一瞬だけでいい! 全力で止めろ!! 俺たちはそれで生き延びる!」
「合点承知!!」

叫ぶと同時に、タイタスは拳を握り締め跳躍した。
そして声高に叫ぶ。己の宝具の名を。彼が為した神殺しの唄の名を。

「オオオオオオオオオオオオオ!!!! 『我が生涯よ神を焼き尽くせ(タイタス・クロウ・サーガ)』!!」

刹那、星を焼き尽くす閃光がタイタス・クロウの神殺しの拳と衝突する。
当然の如く、タイタスの霊基は触れたその瞬間から消失していく。いや、焼き果てていくというが正しいか。
だが、それが神そのものの攻撃であったが敵の唯一の誤算だった。通常の英霊ならば瞬時に消え去るその裁きの矢、
それを彼は、一瞬、ほんの一瞬だけならば、留め耐えることができる。その一瞬こそ、3人の英霊を生かす道標となる。

「グッ……、ガ……!! アアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

右腕が蒸発した。胴体が消失した。両脚が焼却された。心臓(れいかく)が灰になった。
だが一瞬、確かに一瞬だけ神の本気の裁きを止める事に成功した。全身を文字通り焼き去る痛みの中、タイタスは確かに聞いた。

『────シークエンス、完全終了。イーリス島への移動を開始』
「(嗚呼……、安心した)」

意識と共に、全身が蒸発するその瞬間、彼は安堵を感じた。
俺が此処に生きていた意味は、確かに在ったと。

天羽々斬はエキドナたちを攻略、あるいは突破口の道標になるだろう。
はやぶさは天に浮かぶ神に手を伸ばす、あるいはその監視網を突破させる先駆けとなるだろう。
メイザースの旦那は現代の視点から神を、魔術を分析し、ここにいる多くの英霊達を助けるだろう。

それを生かせた。俺のいた意味は、確かに在った。


────さぁて……、次に呼ばれる場所は、どんなろくでもない場所なんかね


そう思いをはせながら、彼の意識はそこで途絶えた。

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計算式ソース:
https://www9.atwiki.jp/f_go/pages/1341.html
Java Scriptソース:
http://www.hajimeteno.ne.jp/dhtml/dist/js06.html

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