ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

父ダイダロスは天才だった。誰よりも賢く、自信に溢れ、傲慢だった。
王から賜った女奴隷に、戯れに孕ませた子供の一人。名も知らぬ兄弟はいったい何人いるのだろう?
それでも解ることがある。天才ダイダロスの血を引いた子の中で、何故ぼく一人が彼の助手として選ばれたのか。
何故父は他の子供には目もくれず、ぼくだけを愛したのか。

────ぼくが、一番愚鈍だったからだ。


人を惹き付ける容貌も、何かを生み出す知能も、他を圧倒する腕力も、ぼくは持てなかった。なんにもできない哀れな子。
いじめられて泣いているぼくをみて、父は言った。
「お前はこの先何をやってもダメだ。まったくどうして産まれちまったのか可哀想に思うくらいだ。お前みたいなのを上手く使えるのは俺だけさ。」

父は天才だった。その言葉通り、ぼくは愚鈍な子から愚鈍な男にしかなれなかった。
父が量産する機械人形より、手際も悪いし失敗も多い。工房にもぼくの居場所はない。
ただ、ぼくの失敗を見て父は嗤ってくれた。
「本当に駄目な奴だ」と嗤ってくれた。
その時だけ、ぼくは此処にいても良いんだと思えて、笑えたんだ。

言われるがまま、何でも造った。オモチャから兵器まで、それがなんなのかも、どう使われるのかも解らず、考えずに。ただ父の言う通りに。それしかぼくにはできないから。
だからいきなり兵士に捕まって、父と共に迷宮に閉じ込められた時も、ぼくは何がなんだか解らずにぼおっとしているだけだった。
お前が手を抜いたんだろう、失敗したんだろうと父に殴り付けられている間も、ああそうなんだろうなと思って謝り続けた。

それでも父は、ぼくを必要としてくれた。
鳥の羽を集めて蝋で固めて、大きな翼を造ってくれた。ついて来いと言ってくれた。
だから僕は幸せなはずなのに。

太陽と海の真ん中で、ギラギラ光が反射する。ふっと気が遠くなるような美しさの中で、ぼくは気が狂ったんだ。
こっそりと、ゆっくりと、父の後ろに隠れながら上へ、上へ。まだ気づかないで父さん。
こんなぼくの愚かな姿を見て笑って欲しい。ぼくをぶん殴って、一瞬でも触れてほしい。ぼくを見てほしいんだ父さん。
解ったんだ。ぼくはこんな愚かなことしかできない。愚かさしか、人に誇れるものがない。あんたがそうぼくを造ったんだろ?

どろどろに脳味噌まで溶けていく様な熱の中で、遥か眼下の小さな影が、ふっとその場で硬直して、
一瞬だけ見えた父の表情が、ぼくは嬉しくて嬉しくて

泣きながら、海に落ちる。

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