ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。



※FGOセイレムネタバレ注意

※原典との差異、並びに公式の型月世界の設定との差異があります
ご注意ください







─────────アメリカというものは、歴史の浅い国である。


とは魔術世界ではよく言ったもので、たかが精々300から400年ほどの年月しか経っていない
時計塔のような魔導教育機関なども少ないし、何より歴史が浅いものだから人が揃っていない。
アトラス院のような紀元前四桁年前から存在しているような連中などまるで手が届かない。

年月・研究材料・人員!そのすべてに於いてアメリカという国は敗北しているのだ!

しかしそこは先進国アメリカ。人手が足りないなら金とコネで教育機関を急増した!
幸い当時から約200年前のアメリカ建国時には新天地を求めた3、4代程度しか
歴史の無い弱小魔術家系たちが多数訪れたおかげで数は揃っている。

また、時計塔という場所は今でこそ現代魔術科という物があるが当時は敷居高い物であり、
入学はもちろんの事、教鞭を取る事も研究をするにも莫大な金とコネと権力と歴史と他諸々が必要であった。
そんな時計塔からあぶれた魔術師、教師、研究者がアメリカへと流れ込んできたことで、
なんとかアメリカという魔術発展途上国は人員と教育者の確保が出来たのである。

さて前置きが長くなった。何故このような前置きをしたかというと、
今回の舞台は、そんな魔術発展に躍起になった中で生まれた、魔術の教育機関の1つ……
表向きは考古学や人類学の大学として偽装された『アメリカの時計塔』の1つ、
ミスカトニック大学だからである……。





─────────19■■年、マサチューセッツ・セイレム近郊
ミスカトニック大学付属図書館にて─────────

『はい、これいつものね』
一人の男が、図書館の司書に数枚の紙を渡す。
その紙にはタイプライターにより打たれた文章がぎっしりと詰まっていた
『やぁこれはどうも。カーターさんの夢の話、好評ですよ』
『それは良かった。僕はぁ夢魔術の研究の1つとして役立ててもらえれば良いかと思ったんだけど
まさか資料としてではなく小説としてヒットしちゃうだなんて、思いもよらなかったよ』
ははは、と初老の男性は軽く笑う。

─────────そんな男性たちのやり取りの少し背後にて、魔術師たちが語り合う。
いや、魔術師と言ってもイギリスにいるような格式と伝統に縛られている者たちではない。
彼らは精々3,4代ほどしか歴史を重ねていない、イギリスでは笑いものにされるような家系の魔術師たちだ。
しかしここ、アメリカでは彼らを嗤うようなものはいない。なぜならここにいる魔術師全てが彼らと似たようなものだからだ。
そういった家系に不幸にも生を受け、理由も分からないまま根源を目指すよう言われる…………
そんなニューエイジの魔術師2人が、資料を見ながら口論していた。

「だからよ、根源には何があるんだ?」
「そりゃあなんでもさ!旨い飯!でかい車!良い女!」
「ホントかぁ?ほんとにそこに行きゃあなんでもできるのか?」
「ああそうだ!根源に行きゃあなんだって出来るんだ!だから魔術師は根源を目指すんだ!」
その男たちは、今の若者とそう変わらない単調なノリを持て余していた。
何のために生まれて、何をして根源を目指すのか、それすらも分からず、ただ学生生活を送っていた
「でもよォ、魔術師がここ2000年かけて誰一人たどり着けねぇんだろ?どうやって行くんだよ」
「だからこうして図書館に来たんだろぉ!?ほらこのページ!興味深い事が書いてあるぜぇ!」
青年の1人が開かれている本のページをめくり、1つのページに目を留める。
そこには、『根源接続者』という文言が描かれていた。
「根源……接続……?って事ぁ、もうこいつらは根源に着いてるってことか?」
「多分なぁ、羨ましいなぁー。なんだって出来放題じゃねぇか!」
「ホットドッグ毎日買えるかなぁ!?」
「フレンチフルコースだって毎日食い放題だぜぇ!?」
二人の青年はギャッハッハと声をそろえて爆笑する。
それに対し周囲の図書館利用者と司書は迷惑そうな視線を向ける。
「………でもよぉ、根源に繋がってるそいつは、死んだらどこ行くんだ?
天国か?地獄か?根源に繋がってるってきっと悪用するだろうけど…でも根源だし……」
「─────────わからん………………。」
二人の青年は揃えて首を傾げた。

「おっ、こっちも面白そうだぜ」
二人の青年は引き続き資料をめくる。そこには多数の根源への到達の研究が掛かれていた。
魔術での探求はもちろん、武道を極めるといったトンチキな物、果ては『根源を作る』などという物まであった。
「すげぇー!!このグロースって奴めっちゃでかい口叩くなぁ!」
「でもよォ?根源って作れるものなのか?この世界の始まりだろ?」
「そりゃあ、世界が1個増えるんだろ?」
「あほか!?そりゃパラレルワールドって奴だろ!」
「えぇー……じゃあ何が増えるんだ………!?」
二人の青年は真剣な顔をして、傍から見ればバカげた事を考える。
「…………………………宇宙が増える、とか」
「お前は何を言っているんだ?」
「だってよォ、平行世界は可能性で分岐するんだろォ?
だったらもう始まりから分岐するんだったら、もうこれ宇宙が増えるしか考えられないジャン!」
「あぁー……宇宙ねぇ……そうねぇ、うん………………。」
青年の1人が顎をさすりながら考える。
「うん、そうなんじゃね?根源が増えりゃ宇宙が増える!宇宙の外!外宇宙の誕生だ!」
イェーイ!と訳も分からず二人は拳をぶつけ合う。


そんな2人の背後に、一人の女性が近づいた。
「お………面白そう……な、話を…………して……る、わね…………。」
「──────────────────ッ!!?」
その女性は、俗にアルビノと言われる真っ白な肌と不気味な白髪をしていた。
目は四白眼でぎょろりと浮かんでおり、それがより一層少女を不気味に思わせていた。
「宇宙、の………外…………?面白、い……じゃない……」
「あ…………あんたは………………」
「あたしも……、ここの、生徒……。ラヴィニア……っていうの」
女性は律義に自己紹介をする。
「あたし………たちも、似たような……ものを、求めてるの………。
外の、宇宙………………。外なる………神々…………。」
「へ、へぇー………」
「ほら見ろ!やっぱ根源は一つじゃねぇんだ!!」
「で、でもね…………?そう…簡単に……"外"へはいけない…………。
深淵、を………覗き込むときは…………、深淵もまた………こっちを見てるんだから………
ふふ………、大いなる………門と鍵………いあ………いあ………」
そう言うと、そのアルビノの女性、ラヴィニアは何処かへと行ってしまった。
「………………なんだアイツ?気味悪ぃな」
「そうかな?俺はちょっと可愛いと思ったぜ?」
「嘘ォ!?」





その談話する青年たちを背後に、黙々とタイプライターを打つ男がいた。
男の名は、アルバート・N・ウィルマース。英文学助教授をしており、
その傍らで、アマ民俗学者としての顔も持つ。

男は必死の形相で、片手に1つの資料を持ちながら己の考えを半紙へとタイプし纏めて往く。
「(この魔導書に記されし事柄は…全て真実だ……。私が…私が伝えなくては……!)」
いや、男の手にある"それ"は、資料などではない

其は、禁断の知識が描かれた、"魔導書"であった。

かつて、一人の腕のいい星占い師がいた。名前や記録などは残っていない。
ただその男が発狂しながら書き残したと言われる魔導書だけが、こうして残っている。
その名も無き男───仮に、名をアブドゥル・アルハザードとしておく───が何故発狂したかは分からない。
その彼が描いた、『アル=アジフ』と名付けられしその本にその答えは記されていた。
そこにはいずれ宇宙より怪物が飛来し、人類を根こそぎ滅ぼすであろうという、
口にするも憚られる忌まわしき知識が詩の形式をとり記されていた。

本来ならば誰も信じないであろう、その妄言にも等しい魔導書を、この男は信じた。
何故か?他でもない。男はその魔導書に書かれているような『宇宙からの恐怖』を実際にその目で見たからだ!!

◆ ◇ ◆

男には友人がいた、老紳士のエイクリーという者だった。
エイクリーは数か月前の台風の中で、甲殻類のような菌類のような怪物の死骸が流されているのを見た。
それからという物、エイクリーはウィルマースと文通をしながらその生物を調査していた。

エイクリーはその生物に仮称───ユゴス(冥王星)より来たるミ=ゴ───を名付け、
その生物の目的は、生態は、生息地は何なのかを調べ、そして次第に明らかとしていった。

しかし、ある日エイクリーからの手紙は激変した。
手書きの文面はタイプライターに変化し、そして内容は、その生物と和解したという
にわかに信じがたい内容へと変化していたのだ!

不可思議に思ったウィルマースは彼の家へと向かう。
そこには確かに無病息災のエイクリーがいた……しかし何か違和感をウィルマースは感じる。
その日は嵐が到来し、泊まることになりいざ就寝しようとしたその時であった!!
悍ましき人とも思えぬ声がエイクリーの寝室より響いた!

何事かとウィルマースが駆けつけた時にはすべてが遅かった!
エイクリーは両腕と頭部だけを"残し"、無残な姿となっていた!
殺されたわけではない!"持ち去られた"のだ!その遺体からは脳だけが綺麗に抜き取られていた。
エイクリーの調査を恐れたミ=ゴが、彼の脳を肉体から抜き取り調査を中断させたのだ!!

◆ ◇ ◆

このような悍ましい経験をした彼、ウィルマースは……人類の終末は彼らの手で行われると考えた。
そんな中で出会ったのが、この冒涜的知識が詰まった『アル=アジフ』である。

彼はここに記されている存在…「アルティメット・ワン」の存在を信じ、
そしてそれに打開策を見出すべく、ある一つの組織を作りだすことを決意した。
この世界……『今』を『人類』の手で『守護する』、そんな組織を作る決意を………。

しかし、それは生半可なことではなかった。
ただでさえアメリカという国は人手と費用が足りないのだ。
国内は当然、イギリスなどにも助力は期待できない。協力者も当然期待できない。
話せば、気違いか精神異常者として隔離されるだけだ、と男は考えていたからだ。
「(だがそれでも………私は絶対にこの組織を完成させる!
 人類の平和は、我ら人類の手が守らなくてはならないのだ!!)」





そこからのウィルマースの人生は、まさに苦難の一言に尽きるであろう。
協力者を募ったが無意味であった。資金援助者を探したが無意味であった。
知識の助力を求めたが無意味であった。その行動の、すべてが無意味であった。

極東の島国に、滅びを見た男が創った一族があると聞いた。
それは五十四の協力者を遥か昔に募り、そして滅びに備えていたという。
その一族の者……上層部と思しき『玉鬘十片』に、協力を打診した。
だが───────────────無慈悲にも一蹴された。

『我々は現在、雲隠事件による亀裂の修復に忙しい。
妄言ならばよそを当たってほしいね』

ルドルフ・フォイルナーという男のかつての研究室も訪ねた。
しかし、求めていた成果を得る事は出来なかった。

カザン周辺にある紋章院を訪ねた。
しかし、待っているのは無慈悲な門前払いであった。

情報を求めて日本中立機構へと足を運んだ。
しかし、外部の者に情報を与える事は出来ないと払われた。


そして────────────── 一切の成果がないままに、三十年の月日が経った。


「(ダメ……なのか?もはや……私は………!
 何も成せずに………終わるのか………ッ!?)」
男は自暴自棄になり、教鞭を取る際には必ず冒頭でこの事実を熱弁した。
しかし、当然というべきか奇異の目で彼は見られ、その噂はすぐに広まった。
気が触れたと悪い噂が噂を呼び、とうとう彼は教職を追われる羽目になった。

『申し訳ないが、生徒に妙な事を吹聴するのは辞めていただきたい。
貴方からは教師としての資格を取り下げさせていただく』

男は、すべてを失った。真実を誰も信じない事。
それより恐ろしい事が、絶望が、何処にあるであろうか。
絶望の中で男はミスカトニック大学から去ることを決意した。
荷物を纏めて、与えられた研究室から去ろうとした………その時であった。

「あ、あの!!宇宙よりの脅威を熱弁された、
アルバート・N・ウィルマース助教授とは!あなたでございますか!?」
一人の青年が研究室の門をたたいた。

「──────────何者だ………?」
「ミスカトニック大学、生物学科二年所属!ウィンゲート・ピースリーと申します!!
貴方の提唱する"人類の手で防ぐ宇宙よりの脅威"に賛同し───────!」
「帰ってくれ──────!!もう私には………………無理な話なんだ!」
男は力無さげに青年を追い返そうとした。しかし、青年は引き下がらない。
「そんなことを言わないでください!!僕は………僕の父は!
かつて貴方の言う、"脅威"に取り憑かれたのです!!」
青年のその言葉に、ウィルマースは驚愕した。
「何………だと………!?」

青年は語る。
かつて男の父である、ナサニエル・ウィンゲート・ピースリーと呼ばれる男が、
怪生物に一時精神を乗っ取られ、奇行に走っていたという。
しかし、目の前に立つ青年だけが、その父を見放さずに共に歩んだというのだ!
「まさか………あのピースリー教授の?」
「はい!!」
「そうか……あれも人類の智慧の外の生物の仕業だったというのか!」
ガシリ、と青年と男は手を握り合う。
「同じく、人類の智慧の及ばぬ存在に被害を受けた同志がいます!
どうか、僕たちに力を貸してください!ウィルマースさん!!」
「ありがとう……!ありがとう………!!君たちがいてくれて……!」

こうして、この年に、非公認ではあれど一つの魔術組織が完成した。
名を『ウィルマース財団』。人類の叡智が遠く及ばない超生命体。
宇宙から、そして未来からの生命に対抗するべく、人々が手を取り合った瞬間であった。

数年後、ウィルマースは心不全によりこの世を去った。
しかし、彼の意志は受け継がれる。人類を外部よりの脅威から守るというその意思は………
ウィンゲート・ピースリーは彼の意志を継いでウィルマース財団所長に就任した。
彼は各地を奔走し資金を集め、1つの財団へと組織を押し上げた。

この財団が、後に世界を救う事となる。







『ウィルマース財団だぁ?そんな訳の分からない組織に融資出来る訳なかろう!
かえれかえれ!!こっちは忙しいんでねぇ!』


「す……すいませんピースリー所長。X計画の資金ですが…。
結局……時計塔ロード…3つしか融資受けれませんでした……」
「構わん!むしろ3つ得れただけ上出来じゃアないかぁ!!」
男の声が響く。男の名はウィンゲート・ピースリー。
人類の脅威になる存在に対抗する組織、『ウィルマース財団』の現所長。
「伝承科から始まり、現代魔術科、そして呪詛科かぁ……、ふむ!良い!」
「しかし、この話をした途端伝承科の人……急に動き始めましたね……
まるで全てを知っていたかのように………」
「我々の時もそうであったさ。流石はソロモンの一番弟子が設立したと言われるだけある。
まるで未来を見通す千里眼の如き的確さである。まぁ、そんなものが実際に在れば苦労せんがねェ」
「は、はぁ………」
ふざけているのか、はたまた本気で言っているのか
よく分からない口調でピースリーは言う。
「ところで………」
「はい?」
「君誰だったかな?」
ズコーッ、と青年が勢いよく足を滑らせる。
「酷いですねぇ!?」
「いやぁな?まさか私が所長を任されるなど思ってなかったから……
まだ正直、人の整理が出来ていないんだよ、うん。すまん」
「大丈夫ですか!?アーサーです!アーサー・マイヤー!!」





彼らウィルマース財団は、一つの計画を立てていた。
それは『人類のテクスチャの綻びを修復する』という壮大な計画だ。
19■■年、彼らが発足した当初こそほぼ無名の組織であったが、
その地道な活動が功を奏し、先ほど挙げられていた時計塔伝承科他、
いくつかの組織の援助を受ける事が出来、大幅に調査範囲を広げられた。

その結果、彼らは在る重大な危険領域を発見した。
南緯47度9分 西経126度43分。その遥か海底で、神代が侵食を開始していたのだ!
『宇宙や未来からの化け物を探してたら過去からの化け物を掘り当てちまったぜ!!』
とはピースリー所長の談である。

そして彼らは、その海底に眠る神代の残滓を屠るべく、"X計画"と称されるプランを設立。
そのテクスチャの綻びを修正するべく資金を調達していた───────

───────がしかし、第二次世界大戦が勃発しそれどころではなくなった。
その後色々とすったもんだが巻き起こり、このままX計画できないんじゃ………
と所長その他が考えていた、1980年代の時であった。

『地底でのテクスチャの綻びを確認。
魔性に堕ちた神性群複数を確認!今向かいます!!』

報告があった。報告者の名はタイタス・クロウ。
自称『人類滅亡の抑止力』などと言う痛い奴であったが、
目的が同じというのでウィルマース財団に招き入れた。

そして結果として、その地中にて発生したテクスチャの綻びは修正に成功。
それにより発生した魔性に堕ちた神性……悪性神性シャッド=メルの討伐にも成功した!

男たちは直感した。「これならいける」と
X計画を本格的に実行するべく、更に援助を集め、大量の魔術兵器を用意。
魔術という人類の積み重ねと、核という人類の新たなる灯の力により、その海底の遺跡は滅びたに見えた………

だが、甘かった。
その海底に眠っていた悪性神性───仮称:クトゥルフ───は、
持ちうる権能すらこの現代で再現を果たせるほどに適応していたのだ!

そのクトゥルフは、己の娘である存在、仮称:クティーラから、
己が死した際に生まれなおすという『胎内回帰』の権能を保持していたのだ!!

復活したその悪性神性は、己の住処を破壊したウィルマース財団へ暴風雨という形で報復。
ウィルマース財団の構成員の9割は、この暴風雨により死に絶えた…………。
そして、かつてシャッド=メルを打倒した男、タイタスとその助手は、
この時には……世界の何処にもその姿が見当たらなかった。





「生き残ったのは………僕たち、だけなのか……!?」
アーサーマイヤーは叫ぶ。血と、臓物と、瓦礫と、死だけがそこに在った。
『ダメだ………!神々何かに勝てる訳ねぇよ……!ふざけんなよ……!』

『始めっから、俺たち人類があんな連中に勝てる訳なかったんだ』

『魔術協会はこれを知っていたんだろう………!』

『なんでいねぇんだよタイタス・クロウはよぉ……!』

『きっとアイツ逃げたんだ。俺たちがこうなると知って………』

「いないものをあてにするな!!!!!!」

アーサーマイヤーの怒号が響く。
「…………すまない…。取り乱した………。」
『………………。』
沈黙が走る。
確かに、X計画にタイタス・クロウが来なかったのも事実だ。
シャッド=メル討伐の際に、最も役に立ったのは彼であった。
しかし、それでもウィルマース財団には、彼がいなくとも財団のみの力だけで、
神性を滅ぼす技術はあった。問題は、事前知識、調査、そして………資金であった。
「(くそ……!どうすればいい!?僕たちだけじゃあもう組織は崩壊寸前だ…!
 世界はいずれあの邪神が目覚めれば滅ぶ……!タイタスはあてに出来ない…!
 どうすれば………!?どうすればいい………!?)」
「アーサー」
トン、とフルフェイスマスクで顔を覆った男が肩を叩く。
「まずは君が落ち着いたらどうだ?」
「君は………?」
「ボールドウィン・オルブライト。まぁ今はどうだっていいじゃないか。
俺たちはやれる限りの事をやった。ならば、これからもやれるべき事をやるだけだ」
「やれるべき、事………」
アーサーは言われ、己が冷静さを欠いていたことに気づく。
そして、かつての所長であるウィンゲート・ピースリーが語っていたことを思い出す。

『俺の時代は苦労したもんだぁ!地道に足で広報だぜ!
まぁ、足が世界を救うって時もあるもんだ!お前も覚えておけよアーサー!?』

「………………足、か………」
「何か思いついたか?アーサー」
「──────いや………」
アーサーはグッと握りこぶしに力を込めて、そして叫ぶ。
彼は考えた。この中で一番地位が高いのは、所長秘書を務めた自分である。
─────────ならば、自分が立ちあがらなくてどうするのだ、と。
「ここにいる!!ウィルマース財団全構成員に告ぐ!!!」

「今!!僕らは絶体絶命の位置に立たされているといっても良いだろう!!
だが!!どうか希望を捨てないで聞いてほしい!!立ち止まらない限り!!僕らは進める!!」

「ウィンゲート・ピースリー秘書を務めた僕が!!独断で今方針を決めよう!!
この方針が気に入らないというのなら遠慮なく意見が欲しい!!!」

「僕らは!!僕らの手で!!」

「ウィルマース財団を再興する!!!」





「FFF社ですか?………はい、はい。
そちらにある■■■■礼装の出所を………はい。」

「紋章院■■支部ですか?………はい、
■■■■という魔術師の……はい、■■の経歴を調べた所そちらに……はい」

「スペース・オーバーシアーでしょうか?
頼んでいた資料が出来ました。そちらに自動書記で送ります。
……はい、了解しました。ではそのように」

「ランディブルク大学ですか?
そちらから数人程魔術師を……はい、いえ■■■■など…はい、」


アーサー・マイヤーは、迅速に動き続けた。
ただ、"己が出来る事"をひたすらに、愚直に、行い続けた。
常人ならば血反吐をぶちまけるような激務を、常にこなし続けていた。


「日本中立機構ですか?ああ、その事は重々承知ですが……はい、
■■■■の情報が……はい、いえその件は」

「超国家社会主義ドイツ労働者党でしょうか?
いえ、此度はそのようなことは関係ありません。はい、
ただ■■の■■■■を少々……はい、」

「ギムナジウムでしょうか?はい、そちらに教育を受けているものを……はい、
いえ、そうですね……はい、ありがとうございます。では■■、■■■■を優先的に」


「あ………アーサーよぉ………もう辞めてくれよぉ!
見ているこっちが辛いよ!!少しは休んでくれ!!」
一人の男が、かつてアーサーと共にこのウィルマース財団に所属した男が叫ぶ
「ダメだ。僕はウィルマース財団を立て直さなくてはならない。
僕は出来る事を積み重ねる。例え、この肉体が死のうとも……!!」
ギリリっ、と男は拳を握りながら言う。その言葉には、強い信念が感じられた。
「ど、どうしてそこまで責任を持ってんだよ!?意味が分からねぇ!!」
「………………僕はあのピースリーさんの秘書だった。だから、
あの人の意思は僕が継がなくちゃいけない………。」
ガタリ、とアーサーは立ち上がる。
「ウィルマースさんが!そしてあの人が!!命を賭けて作った財団を!!
人類の最終防波堤を!!僕は決して!!無に帰したりはしない!!!」





────────────数か月後、時計塔法政科にて

アーサー・マイヤーは大量の資料を持って時計塔の一室を訪れていた。
その資料の量は半端ではなく、ファイルに閉じても3人で運びきれないほどであった。
「本来はデータとして送りたかったのですが、そちらを考慮しこのような形とさせていただきました。」
「────────────それは……どうも」
そこに記されているのは、………時計塔の魔術師からしてみれば、眼をそむけたくなるものであった。
「ふむ………時計塔所属の……"全ての"魔術師たちの、汚職・犯罪歴か………」
「それだけではありません。時計塔の歴史の影に埋もれた、多数の汚点。
これらを世間に公表すれば、魔術協会の一角の地位すら危ぶまれるでしょう。
"そういった情報"を私は、中心に調べ上げました」
「ここまでの量の情報を、どうやってこの短時間で調べ上げた?」
「簡単なことです」
アーサーは真顔で、一切の表情を変えずに言った。

「一日22時間、世界中の魔術機関に人員を配置し、調べ上げたまでです」

「……………ほう」
老魔術師はニヤリ、と口端を上げて安楽椅子に腰かける。
「新興魔術組織の連中から、"時計塔の存続にかかわる"等と連絡を受けて駆けつければ……
なんだ………"この程度"の事であったか………フッフッフ………」
「…………………この程度、ですか………………」
「そうだ。本来ならばこの程度、もみ消すことなど訳がない。
この陰謀と策略が渦巻く時計塔では、特になぁ……。しかし──────」
ガタリ、と老魔術師は姿勢を変え、アーサーの貌を覗き込む。
「何故、ここまで命を賭けて時計塔に交渉する?何を望む?
金か?地位か?名誉か?それとも知識か?」

「──────────────────全てです」

アーサーは続けて言葉を紡ぐ。
「我々は、深海に潜むテクスチャの綻びを修復するべく、計画を練りました。
しかし、準備が不足し、知識が不足し、情報が不足し、資金が不足し、人員が不足し、
失敗を招き大多数の尊い人命を失い事になりました………………」
「………………ふむ」
「私はもう二度とそのような理由で人命を失いたくなどない!!!
故に私は!!時計塔、並びにアトラス院、彷徨海といった魔術協会!!
聖堂教会!フリーメイソン!紋章院!他魔術組織全てに!!援助の協力をしてもらいたい!!
その為ならば私達は命をも惜しくはない!"人類の未来の保護"という計画の成就に比べれば!」
「───────────────そうか…………。」
老魔術師は葉巻に火をつけ、加えながらうなずく。
「お前と同じような事を言って乗り込んできた奴ぁ、過去に2人いた。
どちらも人類の未来を守るんだとの一点張りだった………。」
ククク、と喉を鳴らしながら続ける。
「だがここまでやる気を見せた馬鹿は、お前さんが初めてだ。
自分がやれる手段を全て試す、試してからぶつかって来る。
お前さん、愚直なほどに馬鹿だねぇ………。」
「…………………………………………。」
─────────だが、と老魔術師は付け加える。

「故に気に入った。良いだろう。人員の支援、資金の援助。
並びに活動と発言の為の地位確立と信頼を設ける場。全て用意してやる。
アトラスや彷徨海、教会と紋章院には話をつけといてやる。」

「い…………良いんですか!?」
「その代わり、その物騒な書類群は燃やしておけ。
そんなもの残して置いたら数時間で消されるぞ?」
クックックと老魔術師は低い声で笑った。
「だが我々は協力するからには厳しいぞ。
しっかりとした設備を用意ししっかりと計画を遂行し、
そしてそれからもしっかりと人類の未来とやらを守ってみたまえ」
「ありがとう…………ございます…………!!」





こうして、宇宙の外からの恐怖に立ち向かうべく設立されたウィルマース財団は、
紆余曲折を経て数多の魔術組織とパイプを持つ巨大な魔術組織となった。
彼らが掲げるは『人類の手による秩序と平和の維持』。
…平たく言えば、『正義の味方』とも言えよう

世界中の地上・地底・海底・そして空中、合計一億と二千八万箇所に設置された観測装置を通じ、
ウィルマース財団は24時間体制でこの世界に異常がないかを観測し続けている。

また、かつてタイタス・クロウが遺した技術と………
そして後に成功したX計画のノウハウを生かし、彼らは今日もこの世界に残る、
神代の残滓と、魔性へと堕ちし神性を狩るために、世界中を駆け巡るのであった。





─────────何処かにて

「ふむ………この枝は………そうさな、なかなか悪くはない、が………」
老人が一人、何か光の軌跡のようなものをたどりながら独り言をつぶやく。
名を、キシュア・ゼルレッチ・シュバインオーグ。魔導元帥とも呼ばれている。
「何故この枝だけが………不可思議な神性が多数出現する………?死徒でもなく、
さりとて魔術師の手によるものでもない………。なんだ?これは……」
うーむ、とゼルレッチは頭をポリポリと掻きながら考える。
「最近来訪したランドルフ・カーターと名乗る男と言い……最近は来訪者(フォーリナー)が多い……。
私が住む宇宙の中ならば我が観測の範囲内だが………来訪者の宇宙を見る為には理が足らん」
『だが、似た存在は偶然にもフィクションの小説に描かれているよ』
男の声が聞こえた。異空間に似合わない、電話の奥底からその声は聞こえていた。
「フィクション、だと?」
『ああ、H・P・ラブクラフトという男が記した物語が、その外宇宙の物語を的確に映している』
「ほう?」
『しかしそれは本来、完全なフィクション作品のはずだ。
今君が観察している世界は、そのはずなのにそのフィクションの一部が"真実"となっている』
「そこか………私が違和感を覚えていたのは」
フゥー、とゼルレッチはため息を1突き椅子に深く腰掛けなおす。
「本来ならば人類の築いたテクスチャはもっと頑強なはずである……
しかしこの世界は、なぜかそれが"弱い"………。何か、理由があるのだろうか?」
『もしかしたら、先ほど君が危惧した降臨者に在るのかもしれないね』
「……………そうかもしれぬ、な………」


─────────少し遠い未来、人理保障機関カルデア

「はいエムラクールぅー!!召喚打ち消されなァーい!!」
「ああクッソ!!またそれかよアザトース!ぶっ殺すぞ!!」
「ヘーイヘイニビルぅー!悔しかったらこの怪物を殺してみろォー!!」
「反則だろ!?隕石で焼くぞこんなの!!」
「出されるまで律義に待ったニビルも凄いよ……」
カルデアにアークエネミーと言われる英霊たちが集ってワイワイやっている。
「うっせぇーぞお前らぁー!!アビゲイルが起きちまったじゃねぇーかーっ!!」
「わーっ緑茶が怒ったー」
「にげろー!」
「待ちやがれ糞餓鬼ども!!」
双子の少女や上品な服の少年などが、緑色の外套のアーチャーに追われる。
そんな中で、一人の少女がひょっこりと顔を出す。
「お?新入りかい?やぁやぁよろしくー。
あっ、こんな触手運用にょなキモイ見た目でごめんねぇ!」
顔を出してきた少女に、異形の少女があいさつをする。
すると少女は、その異形に対する恐怖よりも、もっと別の驚きがあった
「えっ………うそ………。」
「ん?どったの?」


「貴方も………もしかして………降臨者(フォーリナー)?」

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計算式ソース:
https://www9.atwiki.jp/f_go/pages/1341.html
Java Scriptソース:
http://www.hajimeteno.ne.jp/dhtml/dist/js06.html

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