ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

茹だるような暑さの中、ジャージを着た女性、赤石一真(本名ファースティ・レッドストーン)がコンビニの袋を片手にゾンビのようにフラフラと歩いている。

「くそっ、二日酔いで頭がいたい……しかも日本の暑さはおかしい、なぜこんなに息苦しいの? 湿度が高いからなの?」
先日起きた民宿爆破騒動の際、温泉に全裸で浮いているところをライダーに助け出された赤石は二日酔いに悩まされていた(自業自得)。
マンションの自室で起き抜けにアイスが食べたくなりコンビニへと出掛けた赤石だが、そこで待ち受けていたのは暑さと二日酔いのダブルパンチ。
レッドストーン家の魔術をきちんと受け継いでいれば周囲の気温や湿度を操作し、快適な状態を保てたらしいが受け継げなかった以上無意味だ。
一人頭痛に耐えながら答えの出ない自問自答を繰り返しながら赤石の足はせめてもの涼、木陰を求めて公園へと足が向かっていた。



―――――――――影之宮ひだまり公園

「く、クレイジー……」
公園に辿り着いた赤石の見たものは木陰で涼むでもなく炎天下の中ボール遊びをする少年と少女の姿だった。
そもそも作られたばかりの公園の為、樹木の背が低く、名の通り日溜まりだらけで木陰が極端に少ないのだが。

「家にいる事が出来ないのか? これは虐待なのでは……」
「あ、ニートの姉ちゃんだ!」
思わず立ち尽くした赤石に気付いた少年の一人が声を掛ける。
とある出来事のせいでイギリスを追われ、日本は影之宮市に仮住まいを置いていた赤石は暇を持て余しており、街中を四六時中うろつき続けた結果、少年達といつの間にか顔見知りになっていた。
そして付いたあだ名が暇人だのニートの姉ちゃんである。

「ニートの姉ちゃん!」
「なんか面白いことやって!」
「暇人!」
「ジュース奢って!」

「あー!もう喧しい! 暑いんだから寄って来るんじゃない! 貴方達他に遊ぶ場所はないの!?」

「そんな事言ってもたそがれ公園の方は行っちゃいけないって言われてるし、子供だけで海とかキャンプ場行くと怒られるから行くとこここくらいしかねーんだもん!」
「ニートのお姉ちゃんと違って遊ぶお金もないもの」

「そこな財布も持ってもいなさそうな少年少女達、よく聞きなさい。 不労所得がある人間はニートではない、高等遊民と呼ばれるのよ」
少年たちが大勢集まって来るのを見た赤石は大きなため息を付くと訥々と語る。
赤石の個人的には子供の遊び場を制限するのは如何な物かと内心思ってはいるが、たそがれ公園のある風俗街の治安の悪さや胡乱さは確かに子供が近付くには教育に宜しくない。

「一緒じゃねぇの?」
「……違うわ、ニートにこの60円のガキガキくんが買えるかしら?」
少年の一人の野次で思考の海から抜け出した赤石は子供を鼻で笑うとコンビニの袋からアイスを取り出し、少年たちに突きつける。

「アイス……」
視線が一斉にアイスへと向けられる。

「アイスが食べたいなら上げるわよ、ただし一個だけ! さぁ争いなさい! 少年たち!」
少年たちの視線に勝ち誇ったように口元を歪ませた赤石はアイスを天へと掲げた。

「汚いじゃないですか! アイスのお姉さん!」
「ほほほほ、汚い卑怯は負け犬のたわごとと知りなさい!」
妙に丁寧になった少年の言葉にふざけて高笑いをする赤石。
少年たちはその言葉を受けてじゃんけんを始めていた。


「……でマスター? 少年達と遊んでるのは良いんだが、いつまでこの国にいるつもりかね?」
楽しそうに少年たちの戦いを眺めていた赤石の耳に男性の声が届く。

「…………そうね」
姿の見えない男の声に目を細めると子供たちの人数分のアイスと『みんなで仲良く食べなさい。 超絶美人で気前の良い高等遊民のお姉さんより』と書いた書き置きを残すと一人歩き出す。



「霊体化は涼しそうでいいな」
公園を出て木陰に入ったところで赤石の口調が変わる。

「そうでもない、まぁサーヴァントに気温は関係ないがね」
いつの間にか、赤石の隣には半袖のワイシャツを着てスラックスを履いた長身の男性が立っていた。
サーヴァントライダー、キュロス2世。 
赤石が『以前の聖杯戦争』で召喚したサーヴァントにしてイギリスを追われた原因の一つだった。

「さっきの質問だが、少なくとも時計塔で今回の騒動が忘れ去られるまではこっちにいる予定だ」
足を止めずにキュロスを横目で見ながら赤石は言う。
イギリスを追われて日本にまで来た理由は一言で言えば時計塔の有力者、ロードの血縁が参加しているとは知らずうっかりロードの血縁を倒し、意識不明にしてしまった。と言うものだ
原因は敵味方はっきりしない内に聖杯戦争が始まったり、ロードの血縁の慢心とうっかりだったりしたのだが。
まぁ、原因や理由は多々あれど時計塔の有力者を意識不明にしてしまった事実は変わらず、それに気付いた赤石は聖杯戦争など知った事かとライダーと一目散に逃げ出し、時計塔が動き出す前に家財を売り払って時計塔の手の届きにくい日本まで逃げて来たのだった。

「そうか、だがこの街、いやこの地域は雑多に過ぎる。 長居は勧められん」
「分かっている、だがその混沌さがいい目眩ましになる」
「分かっているならこれ以上はいわんがね。 しかし今更だが、何故日本のなんだ? 例えばアメリカという選択肢もあったと思うのだが……いや、個人的にちょっとした因縁があったので日本で良かったとは思っている」
「以前仕事でやらかしてな、FBIにCIAやデルタグリーン残党にも目を付けられてる、論外。 カナダはあんなレベルの低いところに行きたくない、メキシコは昔、麻薬カルテル相手に大暴れしたから無理だ」
「じゃあ、南米は……いや、止めておいたほうが良いな」
赤石の答えにキュロスは言葉を濁す。
南米にも良くない思い出があるらしい。
以前キュロスが寝惚けて緑の仮面が……とか空を、空を飛んでる!とか言っていたのを思い出していた。

「欧州は当然時計塔の勢力下だ、行くならアジアかアフリカだな」
「アジアかアフリカかぁ……日本で良いか」
キュロスはうーん、と考え込むような仕草を見せると一人勝手に納得して頷く。

「ん、それはヘイトスピーチでは?」
「違う、以前の召喚の時にアジア出身の凄まじい強さのアサシンが……まぁ、その話はいいさ、暫くは大人しくしていよう」
赤石の悪戯めいた笑みに苦虫を噛み潰したような表情を見せるキュロス。
赤石との会話で用はもう済んだのか、話すことはもうないと言わんばかりに霊体化し、姿を消した。

「全く自分勝手なサーヴァントね、ふぅ……」
割りと自由気ままな上に親のようにあれこれ口出しまでしてくるときた、赤石は肩を竦めると軽く溜め息を付く。
ふと、コンビニ袋の中身を見ると大分数を減らしたアイスの袋が汗をかき、中身が柔らかくなっているようだった。
アイスが溶けてしまっては炎天下の中、コンビニまで行った意味がない。
帰宅する足を少し早める。


ああ、この調子だと暫く暑い日が続きそうだ。
…………今度はライダーを連れてあの民宿へ温泉入りにいこうかな。

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