ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

「ガレス卿、アイアンサイド卿、パーシヴァル卿を見かけませんでしたか?」

訓練場からキャメロット城内へと戻る途中、眉間に皺を寄せた険しい表情でそう問いかけをしてきたランスロットにガレスとアイアンサイドは思わず顔を見合わせた。

「私達は朝から訓練場にいましたので……訓練場にはいませんでしたが」
「そうですか……」
ガレスの返答にランスロットの眉間の皺が一層深まる。

「ああ、そう言えば……」
「「知ってるのですか!?」」
ふっと思い出したように声を上げたアイアンサイドにガレスとランスロットの視線が集中する。

「そ、そう慌てないで欲しいのであるな!……確か訓練場に行く前にベディヴィエール卿とルーカン卿と話している姿を見掛けたような」
二人の女性騎士に詰め寄られ思わず一歩たじろいだアイアンサイドは左手を顎にあて、薄らいだ記憶の糸を探りだした。

「お手柄です!アイアンサイド卿!」
「むぅ…パーシヴァルにベディヴィエール卿とルーカン卿ですか、珍しい取り合わせですね」
目を輝かせるガレス、一方ランスロットは僅に眉間の皺が取れ、はて?と首を傾げる。

パーシヴァルとベディヴィエールならば同じ槍使いとして行動を共にする事はあり得るが、そこに王の執事であり、ここの所厨房専門、口の悪い者に言わせれば円卓の飯炊き係、と化しているルーカンが混じるのはどうにも奇妙だ

「ふむ、ではルーカン卿に……」
ここで考えても仕方ないとランスロットは顔を上げ、移動しようとした。

「わおぉぉぉぉぉぉんっ!」
「ぶもぉぉぉー!」
その瞬間、危機を周囲に知らせるような猟犬の遠吠えとそれに追い立てられるような獣の叫びが周囲に響き渡る。

「何……!?」
周囲を見渡すガレス。

「ガレス卿、猪である!」
いち早くそれに気付いたのはアイアンサイドだった。

アイアンサイドの指差した先に見える猪の姿、と言っても普通の猪ではない、目測でも通常の倍はある。
猪は興奮しているのか、目が血走り暴れているのか走っているのかも分からない。

「猪!? 何故キャメロットに猪が!」
「疑問は後です、ガレス。 どうやら一直線に此方へと向かって来ているようですから」
混乱しているガレスを諭すと、ガレスとアイアンサイドを庇うように前に出てランスロットは無手で構えを取る。

「幾らランスロット卿でも素手では! ここは私とアイアンサイドが!」
槍を構え、ランスロットより前に出るガレス。

「任せるのである!」
アイアンサイドは大きく頷くと、ガレスを守るように両手の盾を構えた。

「しかし、ガレスも訓練用の…」
「素手で挑むよりはマシです!」
「いや、でも……」
それでも尚自分が前に出ようとするランスロットの言葉をガレスが遮る。

「ガレス卿、ランスロット卿! 譲り合いは後にして欲しいのである!」
ふたりの口論に堪えかねたアイアンサイドが思わず抗議の声を上げ、ランスロットは仕方ないとでも言いたげに不承不承でガレスの後ろへと回った。

そんなやり取りの中でも猪はお構い無しで突っ込んできており、大分距離を詰めていた。
猪は三人の先方で盾役となるアイアンサイドの目前、距離にして後数メートルまで近づき、アイアンサイドは足腰と盾持つ両腕に力を込め、奥歯を噛み締める。

後方に控えるのは自分より格上の騎士二人。
しかし、今はまともな武器を持たず、鎧を身に付けず、女性特有の細く柔らかな四肢を外部へと晒している。
ならば、我が身を持って盾となるのが騎士としての役目!あの日救われたことへの恩返し!

アイアンサイドが覚悟を決めた瞬間、上空で何かが輝いた。

「あれは……ガレス!アイアンサイド!下がりなさい!」
その正体を真っ先に把握したのは後方におり、俯瞰できる位置にいたランスロット。
ランスロットの叫びにガレスとアイアンサイドは構えを解き、後方へと飛び退く。

飛来したのは複数の短槍、投げ槍。
投げ槍は猪の行く手を遮るように突き刺さり、驚いた猪はその足を止めた。

その瞬間、足を止めた猪の後ろから疾風の如く駆け抜ける影。
それは二頭の猟犬と一人の人間だった。

「がるるるぅぅぅ!」
「ぶもぉぉぉー!」
脚が止まった猪の後ろ足に猟犬達が食らい付き、猪は苦悶のうめき声を上げる。

「よしっ!間に合ったぁ!」
猟犬と共に飛んで来たのは赤い槍を背負い、軽装の革鎧を身に付けたパーシヴァル。
その顔は泥や埃にまみれ、鎧には木や葉がついている。

「パーシヴァルちゃん!?……今です、アイアンサイド!」
パーシヴァルの姿と猟犬達の働きに好機を見たガレスがアイアンサイドの名を呼んだ。
「応ッ! はあああああぁぁぁぁ!レッドタックルゥゥゥゥゥゥっ!」
「やぁぁっ!」
それだけで全てを察したアイアンサイドは両手に盾を構え、全ての力と体重を込めた体当たりを見舞い、間髪入れずにアイアンサイドの後方から飛び込んだガレスの訓練用の槍の一撃が猪の顔面を打つ。

二人の騎士が放った瞬時のコンビネーションにバランスを崩した猪は大きく仰け反った。
後ろ足へと食い付いた猟犬達は既に猪の足から離れ、猪から一定の距離で威嚇の唸り声を上げている。

「助太刀感謝します!」
続いて、パーシヴァルの放った投げ槍は猪の前足を貫くように突き刺さり、先の猟犬の攻撃と合わせて自身の四肢を支えられなくなった猪は地面に倒れ込んだ。

「遅れてすまない! だがよくやった、パーシヴァル!」
猟犬達とパーシヴァルに少し遅れて後方より駆けて来たのはパーシヴァルと同じように革鎧を身に纏った銀の右腕を持つ騎士、ベディヴィエール。

「悪いが、トドメは貰うぞ!」
放たれる目にも留まらぬ馬上槍の一撃。
ベディヴィエールの槍は的確に急所を貫き、断末魔と共に猪は力尽きた。


「ふぅ…危なかった…そこの方、ご協力ありがとうございました…ってランスロット卿!ガレス卿にアイアンサイド卿も!」
猪が完全に息絶えた事を確認したパーシヴァルはランスロット達に向かい頭を下げようとして、三人に気づき、驚きを隠せない。

「これはどういう事ですか?パーシヴァル卿?」
非難めいたランスロットの視線がパーシヴァルへと突き刺さる。

明らかに猪の事以上に怒っている。
理由は分からないが、何か逆鱗にふれるような事をしただろうか?
特にランスロットを怒らせるのような事をした覚えもないので自問自答しようにも答えが見つからない。

「いえ、これはですね、ベディヴィエール卿が獲物は生け捕りにしないと鮮度が落ちると! 私はしっかり血抜きをすれば大丈夫だって言ったんですよ!」
動揺しているのか聞かれてもいない事まくし立てはじめるパーシヴァル。

「悲しいなぁパーシヴァル卿……血抜きはめんどくさいからキャメロットでやりましょうと言ったのは君じゃないか……」
槍の血を拭ったベディヴィエールはパーシヴァルの様子を見て、明らかに面白がって茶々をいれている。

「言ってないです! あ、いえ……ベディヴィエール卿がそう言うのであれば……とはいいましたが……」
パーシヴァルは完全に目が泳ぎ、無意識で周囲に助けを求める。

「はじめて城に来たときはそこにいるイノシンのような皮を被り、嘘など言わない純真な子だったのにな……年月は人と胸を成長させ嘘をつけるようにしてしまうのか!」
ベディヴィエールのパーシヴァル弄りは止まらず、わざとらしい大袈裟な身振り手振りで泣き真似でまで始めた。

「べ、ベディヴィエール卿! 昔の話は止めて下さい!」
顔を真っ赤にして怒り出すパーシヴァル

「あははは……えーっと、どちらが本当なんでしょうか?」
自分にまで話が行くのを嫌がったのか流石にこのままでは話が進まないと思ったのか、苦笑しながらガレスはパーシヴァルに助け船を出した。

「私です!」
「私を信じられないのかい、ガレス卿!」
顔を真赤にして涙目で訴えるようなパーシヴァルと隠そうにも笑みが隠せないベディヴィエール。

「それよりも何故狩りに?」
二人の訴えをスルーして、ランスロットはベディヴィエールへと問いかける。

「ああ、それはだ……」
「ベディちゃん! パーシヴァル卿! 戻ったのかい!?」
流石にランスロット相手にふざけるようなことをせず真面目にベディヴィエールが答えようとした時、城の方から走って来る人影があった。

「おお、姉上」
人影に向かい手を振るベディヴィエール。
人影はベディヴィエールの姉、王の執事、またの名を円卓の飯炊き係ルーカンだった。

「実はですね、ルーカン卿に頼まれて王の夕食用のお肉を狩りに行ったんですよ」
ベディヴィエールに代わり、ランスロットたちに事情を説明するパーシヴァル。

「なるほど」
ランスロットはパーシヴァルの言葉に頷くと確かめるようにルーカンの方を見る。

「いやぁ、私が食材の手配を忘れていてね……流石に夕食がパンとガウェイン卿のマッシュだけなんてなったら王に何を言われるかわからないからねぇ」
ランスロットの無言の問いに恥ずかしそうに額を掻きながらルーカンは答えた。

「ではガウェイン卿は……」
「元気にマッシュしてるよ」
ベディヴィエールの問いかけに大きく肩を竦める。

((((してるんだ……))))
その場の全員が楽しそうにマッシュしているガウェインの姿を思い浮かべたのか思わず押し黙った。


「あー……それで獲物は何だい?」
空気を変えるためかベディヴィエールへと問いかけるルーカン。

「こいつと鹿二頭、それに鳩や鴨が何羽かです。 こいつ以外は後で荷車で来ます」
振り向き、今しがた仕留めた猪を指差し、ベディヴィエールは答える。

「ふむ? 割りと不猟だねえ?」
自身の予想と違ったのか、ルーカンは不思議そうに首を傾げた。
元々狩人でもあったパーシヴァルとベディヴィエールに何人かの従者、いつもであればもっと大量の獲物が取れても不思議ではなかった。

「すみません、私の読み間違いです。 前から目星をつけていた狩場があったのですがどうも逃げられたようで……」
ルーカンに向かい、深々と頭を下げるパーシヴァル。

「いやいや、この大物は数を補って余りあるのであるな!」
「確かにこのサイズは中々見れるものではありませんね……」
パーシヴァルを慰めるようにアイアンサイドとガレスは言った。
二人の言葉通り、先程仕留めた猪は全長は数メートル、全高も1.8メートルはある。
体重なら通常の猪の数倍はあってもおかしくないだろう、下手をすれば魔猪とも呼ばれかねない猪だった。

「元々私の不手際を無理を言って猟に行ってもらったんだ、パーシヴァル卿が謝ることはないよ」
「そう言っていただけて幸いです」
ルーカン達の言葉にようやくパーシヴァルは頭を上げる。

(それにしても森の中で木の実とか殆んど実ってなかったし、獣も少なかったように感じたのは気のせいでしょうか?)
頭を上げたパーシヴァルはふと倒れ伏した猪に視線を向ける。
胸の中に何とも言えない違和感があったが、あの猪が木の実等を食べ尽くしたから獣達が姿を消した。
パーシヴァルはそう思い、胸の中に仕舞って置くことにした。

「これだけ大きければ暫く肉には困らないね。……余ったら干し肉にでもするかな」
パーシヴァルの疑問を知る由もないルーカンは猪の周りをぐるりと回り、どのように料理するかの算段を始めていた。

「パーシヴァル卿、すまないが解体を手伝ってくれないかい?」
ある程度目星がついたのか、ルーカンは立ち止まるとパーシヴァルに顔を向ける。

「あ、わかり」
「待って下さい、パーシヴァル卿は私との先約があります」
ルーカンの解体を手伝う為に答えようとしたパーシヴァルの言葉はランスロットの強い口調に遮られた。

「え!?」
「そういえば探してましたね」
驚きの表情を見せ、ランスロットの顔を見るパーシヴァルにガレスはそう言えばと納得の声を上げる。

「それなら仕方ないね」
宛の外れたルーカンは顎に右手を当てると、猪をどう解体するか考え始めた。

「あの……ランスロット卿? その約束?をした覚えがないのですが……」
「何を言っているのですか? この間の宴会の席で化粧をしていないことについてに話して、私が教えようかと言ったら機会があれば是非と言っていたではないですか」
おずおずとランスロットへと問いかけるパーシヴァルにランスロットは首を傾げながら自信満々に言う。

「あ……そう言えば言ってしまったような……いや、でもそれは約束になる、いや、なりますか……」
か細い記憶の糸を辿りながら、自分から言い出したことなので無碍に断るわけにも行かず頭を抱え始めるパーシヴァル。

「え!? ランスロット卿にお化粧を教わるんですか!?」
(なんで羨ましそうなんですか!?)
その話を聞いたガレスは思わず目を見開き、羨望の眼差しでパーシヴァルを見た。
パーシヴァルからすれば代わってあげたいが、自分から言いだしたことを他人に押し付けるのも気が引ける。

「……折角だからガレス卿も参加させて貰ったらどうであるか?」
その様子を見たアイアンサイドは、ポツリとガレスに提案した。

「……! ランスロット卿! そのお化粧教室ですが、私も参加しても良いでしょうか!?」
「ええ、勿論です」
その発想はなかった!と直ぐ様アイアンサイドの提案を実行したガレスに、ランスロットはにこやかに微笑んだ。

「良かったであるな、ガレス卿」
(アイアンサイド卿が娘を見るお父さんのような顔に!)
ガレスを暖かく見守るようなアイアンサイドの笑顔にパーシヴァルとベディヴィエールは思わずう顔を見合わせた。

「さて、私はこいつの解体を始めるかな」
「では、それは我輩が手伝うのであるな。 パートレープ達も呼べばさして時間はかからないのである」
人を呼ぶために城へと戻ろうとしたルーカンにアイアンサイドが声をかける。

「おお、アイアンサイド卿が手伝ってくれるなら助かるよ!」
「じゃあ、私も姉上の手伝いを……」
アイアンサイドの提案に手を打って喜ぶルーカンを見て、面倒な匂いを嗅ぎ取ったのかこれぞ好機とベディヴィエールはさり気なくルーカン達についていこうとした。

「ベディヴィエール卿もこちらに強制参加です」
だが、ベディヴィエールの目論見は襟を掴んでいたランスロットに阻止される。

「私もベディヴィエール卿が参加してくれたらこころづよいなぁ!」
「あー、裏切ったなパーシヴァル! 待て、待て! パーシヴァルと違って私はちゃんと化粧をしているぞ!」
こうなったらベディも巻き込んでやろうとヤケになったのかパーシヴァルはわざとらしい大声をあげ、ベディヴィエールはそれに対する言い訳をしだす。

「私に言わせれば二人とも大して変わりません。 第一今の二人とも泥と砂にまみれて人前に出れる姿ではないではないですか」
ランスロットの指摘に二人は声も出ない。

「なんだ、ベディちゃんも参加するなら後で冷やかしに行くよ」
「姉上!?」
話を聞き面白そうだと感じたのか、ルーカンは非常に楽しそうに笑いながら城へと向かっていった。



(この場からなんとか逃げ出すにはもはやエクターさんに引っかき回して貰うしかない! エクターさん、すぐに来て!)
もはや神頼みか偶然に頼るしかないと、パーシヴァルは藁にもすがる思いで必死に祈った。

───────キャメロット城内。

「……はっ! フレンズがお姉さま絡みで私を呼んだ気がするーっ!」
奇跡的にパーシヴァルの祈りが通じたのか、キャメロット城内でチェスを打っていたエクター・ド・マリスは突如として立ち上がるとその場で叫んだ。

「誰も呼んでねぇよ! 負けそうだからって誤魔化さないでさっさと打てや!……しかし何時もながら唐突だな、お前は」
チェスの相手をしていたボールスはエクターの叫びなど意にも介さず、走り去ろうとしたエクターの袖を掴むと無理矢理その場に座らせた。
付き合いの長いボールスからすればもはや何時もの事で済むことらしい。

(ごめんなさい、マイフレンズパーシヴァル……今回は貴方の力になれそうにもないわ……)
「なに人のこと睨んでだよ……」



「さて、化粧の前に先ずは汚れを落とすのに水浴びが必要ですね、みんなで行きましょうか」
パーシヴァルとベディヴィエールの姿を上から下まで見ると、呟くようにランスロットは言った。

「なんですって……!」
「えっ、全員で行くんですか!?」
「いやぁ、私とパーシヴァルが体洗いに行けばそれで良いんじゃないかな!」
ランスロットの言葉に目を剥くガレスと露骨に嫌な顔をするパーシヴァルとベディヴィエール。

「一緒に行かないと逃げ出すでしょう?」
(バレてる……)

「では行きましょうか」
「はい、ランスロット卿!」
パーシヴァルをガレスが、ベディヴィエールをランスロットが腕を拘束しながら浴場へと向かって行く。
パーシヴァルとベディヴィエールは流石に諦めたのか、抵抗もせず力なく引きずられて行くのだった。
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