最終更新:ID:mMwlv/Bv6Q 2019年04月17日(水) 08:04:18履歴
前回までのあらすじ
自身の運命である卑弥呼と出会った御幣島亨の前に、
悪辣外道なるギャンブラー、秋鷺柳が現れギャンブルが開始される。
しかし、御幣島の命すらも投げだしかねない気迫と、手足すらも捧げるという覚悟に柳は心砕かれかける。
だが、ギアスの内部に仕込んでいた隙間を利用し柳は勝負をうやむやとするべく逃走を開始!
共にいたツクシ、エマノンと共に逃げた柳を探すが…………?
◆
──────某所にて
「くそ! クソ! 糞!! あのヤロウ……ただじゃ……おかねぇ……!!
ふざけるんじゃねぇ……。公平性を期すために指を砕くだぁ……? 馬鹿じゃないのか!?」
どこか薄暗い酒場で男が一人、悪態を付きながらカウンターに座る。
男の名は秋鷺柳。ギャンブルで他者のサーヴァントを奪い続けてきた男だ。
その男が今、ハンマーで砕かれた自分の日本の指を包帯でテーピングしながらコーヒーをすする。
「注文は」
「北海道行きチケット裏名義」
顔面に無数の傷を持つマスターが問い、柳がぶっきらぼうに答える。
するとマスターは、表で聞けば誰もが振り向くような法外な金額を提示した。
それに対し柳は、小さく舌打ちをして小切手に提示された金額を記し、手渡した。
「確かに」
小切手を受け取り確認すると、そうマスターは頷いてチケットを手渡した。
チケットには『モザイク都市大阪発、モザイク都市札幌行き』と書かれていた。
此処は『ソドム』。天王寺だけではなく、大阪…ひいては関西の裏に生きる人間たちが集う場所。
言うならばギルドのような面もあり、彼らは此処で情報や物資、非合法な薬や臓器、挙句は戸籍すらも売り買いする。
渦廻うねりが胴元を務めているため、非常に多くの裏の存在が集うため、このように『逃走の手助け』も行うわけである。
「(まさかこの俺が……こんな負け犬みたいな真似をするなんて……!
負け犬……? 違う! 俺は負けていない!! 負けていないんだ!!!
今から向かう札幌にはアバシリ・プリズンがある。そこで大金叩いてもう一度再起してやる…。
あのラケルに媚びを売ることになるのは気に入らないが、いずれ奴のうわさのウォッチャーもこの手に入れてやる……。
そうすれば、そうしさえすれば俺はもうギャンブルで敵なしだ。世界中全員を俺の足蹴の下に見下してやる!!)」
そう心の中で下卑た笑みを浮かべながら、柳はコーヒーを飲み干した。
まずい、反吐の出る味だ、と心の中で吐き捨てて、彼は店を後にしようとした。
『ンンンッ! 賛美(ぐろぉりあ)! 実に賛美(ぐろぉりあす)!
ここの珈琲は実に美味だな!! いやぁ見事見事! 我がシン・デミウルゴスが舌も認める味だ!』
不愉快な気分に、さらに不愉快にさせるような声が響く。
馬鹿舌だ、一生そこで馬鹿みたいに莫迦を褒めたたえていろ。
そう毒づいて、男は踵を返して『ソドム』を後にした。
◆
「居りましたか」
「……すいません、どこにも……」
「こちらもだ。あの男、逃走のための経路すらも事前に用意していたとは」
「……ダボが」
ダン! と拳を握り締めて、
一人の青年──────御幣島亨がテーブルをたたく。
「亨さん……。折れた指が……!」
「構わんでください。自分のやったことです、痛みくらい何とでも。
……それよりあの腐れ、ようもまあとんずらぶっこきよったな」
握った拳から血が滲むほどに力を込めて、絞り出すように御幣島は言う。
そこには心の底からの悔しさと、そして柳への怒りが込められていた。
「あの手合いは何遍でも戻ってきよる。次はもっと上手いこと隠れてな。
ほないしたら……そうそう見つけられはせん。
負け認めさすには、今しかない。ないんや……!」
『…………』
歯を喰いしばる御幣島に対して、誰もがどう声をかければわからなくなっていた。
その時、その場にいた一人の少女が放った言葉が、彼らを導いた。
「私分かりますよ。彼の居場所なら」
その少女は、R.R.エージェンシーから派遣された、此度のギャンブルの立会人であった。
ギャンブルのギアスの1つとして、挑戦者は第三者の審判を依頼できる。それが彼女であった。
そして、彼女の放った言葉はまさしく、彼らの──────
いや、御幣島の望んでいたものであった。
「ほんまですかッ」
「ええ、これを見てください」
スイ、と少女は手元の紙を差し出し、そして一部を指さす。
それは柳と、少女の会社たるR.R.エージェンシーの用意したギアスのスクロールであった。
指さされた一部にはこう書かれている。『プレイヤーは如何なる場合でも立会人より逃げられない』と。
「これ、勝負がついてから云々のルールの後に書いてあるので見落としがちですが、
別に勝負がついていない場合でも有効なんですよね。加えて、プレイヤーとあるので挑戦者に限りません」
「…………そら、つまり……」
「ええ」
コクリ、と少女は頷いて
「秋鷺柳の居場所は、例え地球の裏側にいようと私、並びにR.R.エージェンシーの下に24時間送信されます。
元々これを仕込んだのは社長ですね。ああいう手合いは、金払いは良いですけどいずれ逃げ出すことは想定していたんだと思います。
まぁ言っちゃうと、この契約書を使っていた時点から彼は社長に負けていたってわけですね。
──────というわけで、私は債権回収に彼の下へ向かいますが、ついてきます?」
「是非もありませんわ」
御幣島は、二つ返事で大きくうなずいた。
「まぁ、ハンマーで指砕いた人と一緒に旅行なんて嫌だと思いますが」
「とんでもない。これは俺が言いだしたことです。こんなとち狂った契約を履行してくだすって、寧ろ有難いことです」
「私も行こう」
そう言って、御幣島の隣にいたエマノンという男が立ち上がった。
「彼にサーヴァントを奪われ、失意に堕ちた人を大勢見てきた。
……例えるのならば、黒より暗き漆黒。あるいは絶望の畔に立つ者を引きづりこむ悪魔。もしくは魔王。
──────ああ、本性を垣間見て、ようやく彼の本質を理解できた。あれは、自由にしては、いけない男だったのだ」
「はぁ……。まぁ人手が多ければ多いほど見つけたとき拘束しやすいですし、歓迎しますよ」
「わ、私も……!」
御幣島の背後にいた少女、ツクシが名乗りを上げようとしたその時、
御幣島はゆっくりと振り返り、ツクシの両肩を叩いて、説き伏せるように言った。
「いや、影見は来んほうがええ。これは俺が首突っ込んだ問題やから。
お前さんは、自分のやるべきを見据えときなさい」
「……でも……」
「……したら、頼んます」
御幣島は、ツクシの眼を見据えていった。
その目には信念と、そして願いが籠っているようであった。
『生徒を危険に晒したくはない』という、強い意思が
「話は終わり?」
「はい。待たせて申し訳ない。……あー……」
「名前ですか? ひとまず、イーリス・カニーンヒェンと名乗っておきます。
……ああ、もしかしたら旅先で、ジピィズィアやザイシャと呼ばれるときもあるかもですが」
「なるほど。したら、宜しゅうお願いしますイーリスさん」
「少しの間ではあるが、よろしく。共に往こう」
「亨さん……、お供します。どこまでも」
そういって、三人は互いに握手を交わす。
こうして、勝負に背を向けたギャンブラーを追うべく、マスターとサーヴァントたちが手を組んだ。
◆
「遅い」
「いやぁすまんすまん!!! どうにも珈琲の上手い店を紹介されてな!!
思ったよりもだいぶ長く居座ってしまった! しかしカレーはどうにもまずくてな!!
やはり福神漬けのない店はダメだな! これからはマヨネーズにポン酢に七味に塩辛に加え福神漬けも持ち歩──────」
「恥ずかしいからやめてくれます……? 同じ救い主と思いたくないほど嫌なんですけど……」
空港にて、1人の女性と1人の男性がロビーにて待機しているところに、
小走りで奇っ怪な格好をした男が駆けてやってきた。
10人がいれば10人が振り返るような、世界各国の軍服をかきまぜた如き格好の男であった。
待ち合わせをしていた女性もまた、非常に豊満な胸部を大胆に露出した和服と言う、これもまた人目を引く格好で合った。
「どうでもいい。それよりもだ。飛行機の時間まであと少しだ」
「私たちが救い主の中で一番最後だそうですよ? どう責任を取るんです?」
「雄々、懺悔(まいでうす)!! これは我が秘蔵の無記名霊基でもくれてやらねばならぬか?
英霊を弄繰り回すのは好きだろう両石? 兎男はどうだ? 90年物のウィスキーでもいるか?」
「いらん。酒なら基本は困らん量がうちにある。そういうもので解決しようとする所は相変わらずだなぁ霧六岡」
「同じくいりません。というか急ぎますよ。もうオルトヴィーン以外は集まってるんですから。あのエトネですら」
「オルトヴィーンが? ああそういえば2018年から連絡がつかなかったな」
「大方殺されたんだろう。あいつは見るからに悪に染まりやすい色だった」
「相変わらず悪だの善だのと気にしているのか兎男は! それならば俺は真っ黒だろうに!!」
「お前は振り切れすぎて手を出す気になれねぇんだよ」
男女はそう世間話をしながら、飛行機への搭乗窓口へ向かってゆく。
あまりにも安寧とした雰囲気ではあるが、その会話の内容はあまりにも平穏とはかけ離れたものであった。
「それでだ、集まってどうするんだったか」
「また忘れたんですか……。我ら救い主の誓いから25年経ったから集まるんでしょう?
ならば答えは単純明白。我らが造物主を起こすためにまずは世界中に狂気をばらまくのです」
「ああ、先代から聞いていた話だったか。今後25年間、世界の敵と言える存在が現れたのならばそれに揃え。
無いのならば25年待て。だったか、まったく造物主殿もよくわからない理念を残すなぁ」
「狂気信仰のトップだぞ。そりゃわけわかんねぇぐらい狂ってるだろうよ」
「それもそうか!!」
豪快に服装の奇怪な男は笑い、その声をロビー中に響かせる。
隣の女性はすさまじくいやそうな顔をしたのち、ため息をついて仕切り直しとばかりに一言発する。
「まぁ、とにかく行きましょうか」
「ああ」
「応とも」
『我らがルナティクスが待つ、モザイク都市札幌へ』
◆
──────札幌にて集い、交錯する思い
「とてもいいお話だとは思うけれどぉ、
貴方と組むメリットが浮かばないけれど?」
「畜生……ッ! あの女……!!」
「貴方、大阪から来たのね。それじゃあ…アカネ、って子に覚えはあるかしら?」
──────集いしマスター、すれ違うサーヴァントたち、そして、暗躍する悪魔
『ギャジャジャジャジャジャジャジャァ! あの女の歪みは利用できるぜぇ宿主様ヨォ!!』
「どういうことだ……? 何故、心臓が……疼く?」
「こんな言葉を知っています? 黒きものとは、いずれ引かれ合うんですよ」
──────その背後に蠢く、狂人集団『ルナティクス』!
「お前さん、その心臓の放つ色…悪だろう。なら、裁かなくちゃあなんねぇよな」
「悪!! 悪ならばそれ即ち王家の圧政に他ならない!! 王家に断罪を! 圧政に革命を!!」
月照寺兎男、バーサーカー・ロベスピエール
「神は全てを許すのです。救いも、そして狂気も。さぁ、貴方はどのような過ちを犯すのでしょうか?」
「いや神は死んだ。死んだのだ。しかし尚もこの世界には死と絶望と悪夢がはびこっている。これは即ち、永劫の回帰の果てに、今一度──────」
ブラザー・クレセント、バーサーカー・ニーチェ
「ねぇ、やっぱり……私の望む世界って、間違っているのかな?」
「いいえ、貴方は間違っていない。世界の生きとし生きる総ての結晶化。ああ、なんと、なんと美しい事か」
永瀬優愛美、バーサーカー・ヨーゼフ
「敵の動きを殺して盾にすりゃあ、あんな狂犬の流れ弾なんぞ恐れるに足らん。俺のために死んでくれや」
「キャアアアアアアアアアアアアアギャギャギャギャギャァ!! 最高!! 最高に気持ちいいよ!! みんなみーんな死んじゃえェ!!」
シュピネ、バーサーカー・夕立
──────そして、最悪が目覚める時
『ギャジャジャジャジャジャジャ!! おいおいとんでもねぇ強欲だ! 最悪の欲が迫ってきているぜェ!!』
「なんだ……? あのサーヴァントは……?」
「バーサーカー? いやキャスター……? ……違う!」
「まったく未知なるクラスのサーヴァントだ!!」
「"ああ"、"うるさい"」
「"五月蠅い"、"喧しい"、"騒がしい"、"煩わしい"」
「"黙っていてくれ"、"寝付けない"、"一人にしてくれ"」
「"この場にいる全員"、"殺してくれ"。"我が友よ"」
「──────ええ、承りましたわ。我がご主人様?」
"造物主"トバルカイン・ブラッディストーン、ムーンキャンサー・嫦娥【狂気】
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