ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

「なんで、なんでこんなことに!?」
青年は一人、荒野を走っていた。
ジャージにサンダル、とても荒野にいるべき姿ではない彼は何者かに追われている。
誰に?と聞かれたとしても分からないとアホ面を下げて返しただろう。
青年は中肉中背、髪を僅かに茶色に染め、成績の平均は3.6。ライトノベルやアニメのように特異な生まれや能力なんて欠片もない。なんの変哲もない普通の高校生だった。
友達と遊んだ帰りに一寸呑みたいなと思い、コンビニでビールとタバコを買って上機嫌で家に帰ろうとした矢先、謎の光に包まれたのだ。
てっきり車のライトかと思ったら、目が覚めれば見渡す一面なにもない荒野の真っ只中。手にはコンビニのビニル袋とビール4本とタバコ2箱。
良くわかんねぇけど歩くべ、とぬるくなりかけたビールを飲みながら宛もなく歩きはじめた。
十分程歩き人影を見つけ、思わず声を掛ければ、相手は赤い目、鋭い犬歯、口元から垂れる真っ赤な液体、言うまでもなく血だ。
軍服を着た複数の推定吸血鬼を前に彼は恐慌状態になり叫んで逃げた。
「ば、バケモノ!」
ご機嫌なディナーをぶち壊され、彼らからすればバケモノ等とプライドをぶち壊して更に泥をぶちまけるような罵倒。
プライドの高い『喪失帯ドラキュリア』の吸血鬼、それも軍人、が黙っていられる筈もなく青年を追い掛けはじめた。
本気で走れば夜の吸血鬼の身体能力にタバコと酒を嗜む一般的不良学生など数秒も経たずに捕まえられる。
だから、今この状況は、必死で逃げる『異邦人』をターゲットにした吸血鬼達の趣味の悪いハンティング遊びの真っ最中だったのだ。

数十分が経ち、青年の息が切れはじめ、足の動きが鈍った頃、それは青年の目の前に姿を現した。
岩を椅子代わりに空を眺め、擦り切れたダスターコートを着てパイプを咥えた男。
まるで親父と昔見た古い西部劇みたいだ…、と頭の片隅で場違いなことを思った青年は精一杯の叫びを上げた。
「た、助けて!バケモノ!バケモノに追われてる!」
今まで出したこともないような大声が出た、ダスターコートの男は青年に流石に気づき、僅かに首を傾けると片手を上げる。
「なんだ、小僧。ああ、追われてるのか……なあ、煙草持ってないか? あと酒。一服奢ってくれるなら、助けてやってもいいぜ」
男は呑気な、余裕のある笑みを浮かべて青年に問い掛ける。
「え、え?」
なんで、この状況で酒とタバコ!?青年は理解できずに困惑するばかりだ。
やがて本気を出した吸血鬼達は青年に追い付いた。
「ミラー中佐!」
「……待て、アウトランダーか」
青年と男に飛び掛かろうとする部下を制止する部隊の指揮官らしき男。

アウトランダー。汎人類史に置いては「遠く未知なる地へ向かう冒険者」を差すが、『喪失帯』であるドラキュリアでは違う。
「outland」に住む者、即ち吸血帝国に恭順せず、西方人類勢力にも北部異邦人軍にも従わない荒野に生きる者達のことだった。
彼らは吸血鬼や獣人、人類を問わずドラキュリア各地におり、束縛や秩序を嫌い単独か小さなコミュニティで生きている。
独自のネットワークを持ち、自分達の生活を侵す者達に対しては高い攻撃性を示すことから吸血帝国から出来るだけ触れないように布告が出ていた。

指揮官の言葉に返事すらせずに一瞥する男。
「我々はドラキュリア哨戒部隊だ、そこの異邦人を追っていた」
アウトランダーのこういう態度には慣れているの淡々と告げるミラー中佐。
「……哨戒部隊ね、人狩り部隊って素直に言えばどうだ?」
「貴様!」
男の皮肉に吸血鬼の一人が激昂し、いきり立つ。
ミラーは再びそれを制止し、男へと向き直った。
「これが最後通告だ、アウトランダー。 異邦人を引き渡せ」
吸血鬼達は命令さえあれば、何時でも飛び掛かれる体勢に入っており、文字通り今にも牙を剥かんとしている。
「異邦人ってなんだよ、あいつらなんなんだよ……」
青年は状況について行けず目を泳がせ、男に助けを求めるばかりだ。
男は青年も吸血鬼も意に介さずパイプを吸っていた。
「で小僧、酒かタバコはもってるか?」
男は煙を空に向かい吐き出す。
そこで青年は空を見上げて気付いた。
ずっと薄暗いので夜だとばかり思っていたのだが、違う。煙のような何かに覆われ、空が、太陽が見えないのだ。
そこで、漸く青年は理解した。自分は異世界か何かに迷い込んだ、異邦人なのだと。
「び、ビールとタバコならある!」
そして今頼れるのは目の前の男と手に持ったコンビニ袋の中身だけだ。
半ばやけくそ気味に覚悟を決めた青年は、虚勢を張って叫んだ。
「ビールか、悪くない。交渉成立だ助けてやるよ」
男は青年の虚勢を見抜いたのか、口元を歪ませるとパイプの中身を捨て、吸血鬼達と早退した。
「バカが!たかが酒で命を捨てるか!」
あざけ笑うように下品な笑い声を上げる吸血鬼達。
部隊の指揮官、ミラーだけは一切の警戒をせず、男を見据えるていた。
「我らドラキュリア陸軍実験哨戒分隊!他の喪失帯から得た技術で作られた肉体増強システム身を持って味会うが……」
「五月蝿ぇ」
「……え?」
一瞬だった。
吸血鬼達が軍服を破りその身を被う鋼を見せ御託を並べた瞬間、男は音一つ立てずに抜いた拳銃で『吸血鬼達』の額を撃ち抜いていた。
「こんなチャチな、チャチな……があ!!!!!!」
額を撃ち抜かれても平然としていた吸血鬼は突如として悲鳴を上げ、煙を上げ倒れる。
そのまままるで溶けてしまうかのように消え去った。
その場に残ったのは銀色に光る弾丸。

「銀の弾丸、ガンスリンガー……だと!?」
その光る弾丸を見たミラーは気付いた。あれは吸血鬼の肉体を滅ぼす銀の弾丸だと。
部隊の指揮官は見覚えがあった。
西部『征伐』時代、先祖から受け継いだ土地を守ろうとするインディアン達と共に吸血帝国を苦しめた者達がいた。
銃と銀の弾丸を武器に、自由と己の欲望の為に最後まで抵抗した無法者達。
その抵抗は結果的に西部に追い詰められた人類勢力に金よりも貴重な時間を与え、人類が勢力を建て直し、防衛網を構築、今に繋がった。
故に人々は畏敬と憧れを込め、吸血鬼達はありったけの恐怖と憎悪を込めこう呼んだのだ、ガンスリンガー、と。
「バカな、奴は!奴は遠の昔に死んだ筈だ!“最後のシャーマン”、“無法者アウトロー”、“精霊使い”、“吸血鬼狩り”……サンダンス・キッド!」
部隊の指揮官はそこで気付いた。
その男の顔を、風貌を彼は見たことがある。精霊を従え、銃を構え、世界を埋め尽くさんとする吸血鬼にどこまでも抗い続けた吸血鬼たちからその名を太陽、銀弾、白木の杭の如くに恐れられた男。
サンダンス・キッド。
「地獄ってやつはどうにも寝心地が悪くてな、こっちも録でもねぇが、タバコと酒がある分幾らかマシだ」
男、キッドは尽きない怒りを瞳に宿し、吸血鬼達を見据える。
「……退くぞ」「しかし……」
「貴様は現状の戦力であのサンダンス・キッドに勝てる気か?」
食い下がる部下を一喝するミラー。
「サンダンス・キッド、ここは貴様の勝ちだ」
「逃げるのか、臆病者が」
「部下と違い、私は臆病が罵倒とは思ってはいない」
お互い睨み合ったまま、ミラー達はじりじりと後方に下がっていき、やがて闇の中に姿を消した。
「逃げた?」
吸血鬼達がいなくなったと分かり、青年は思わずその場に座り込む。
「そのようだな。さて本当ならビールを味わいたいところだが、まずは安全な所に移動だ。行くぞ」
キッドは銃をホルスターへと仕舞うと、座り込んだ青年に手を差し出した。
「あ……ありがとう」
青年は手を掴むと、なんとか生き残れそうな事に気づき、深夜までやっていたコンビニと目の前のサンダンス・キッドに心からの感謝をしたのだった。

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