ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

黒咲恵梨佳は魔術師だ。
魔術の源──魔力には、『マナ』と『オド』の2つの種類がある。
魔術回路を流れる、原初の生命力。
この2つは大雑把に分けるなら、自然界の魔力か、人が体内で生成する魔力かの違いだ。
生み出される場所の差があるだけで、本質的な力は同一だ。
サーヴァントが活動するにも、魔力というものは必要不可欠だ。
魔術師のオドをサーヴァントに供給する方法も幾つかある。
マスターとサーヴァントの魔力はパスで繋がっているけど、それ以外の方法も使うに越したことはない。
──体液交換。これが、一番手っ取り早い方法だ。


──腰が、動かない。
太腿はぶるぶると笑ったままで、立ち上がることすらままならない。
嗚呼、畜生。隣で余裕そうに鼻唄を歌っているアーチャーが恨めしい。
この間は、あんなにもしおらしかったのに。
「マスター、大丈夫? ……ホラ、ボク、人外も相手にしてたから、ちょっとやり過ぎちゃったかも」
「──大丈夫じゃ、ない」
結局立ち上がることは出来ず、ボフッとシーツに突っ伏した。
温もりを残したシーツが、じんわりと肌を暖めた。
「それもこれも、マスターが可愛いからさ。──でも、無理はしないでね。今晩はもう、ゆっくり休んで」
「──そうさせてもらうわ。おやすみ、アーチャー」
「おやすみ、マスター。良い夢を」
私は瞼を瞑り、這い寄る睡魔に意識を任せた。
──供給してやった魔力の分、しっかり休息を取らないと。
私達は、生き残らなければいけないんだから。




──不潔な男の匂いが、鼻につく。
ロクに手入れをしていないであろう口臭と、金属と汗の混じり合った酢の様な匂い。
それ以外は何も無い。周囲は真っ暗で視界が効かず、身動きを取るスペースすらない。
ああ、とても不快だ。こいつら、身の手入れとかはしないんだろうか。するわけがないよなあ。
ボクは男むささの中でじっと、時を待った。──ボクは、これで全てを終わりにするんだ。
周囲から上がっていたトロイア人の歓声は、時間を経る毎に、徐々に少なくなっていくなっていった。


羽目板を蹴破り、ボク達は外に出た。
女神に捧ぐと偽りし巨大な木馬の中に、ボク達はいた。
ボクの計画はこうだった。

まず、ギリシャの全軍は今まで使っていた野営地を焼き払い、近くの島に身を潜める。
そして、一人残した囮をトロイアにわざと捕らえさせ、偽の情報を流す。
『ギリシャ軍は逃げ出し、女神アテナの怒りを防ぐため、木馬を残してこの地を去った。もし、この木馬がトロイアの地に入れば、ギリシャ軍は破滅するとの神託を得た。だから、木馬は巨大に作られたのである』
戦に疲れたトロイア人は、城門を壊してでも、この木馬をイリオス市内に引き入れようとするだろう。
中に、ギリシャ選りすぐりの精鋭が潜んでいるものと知らずに──。

──こうしてまんまと、ボクの知略は成功したってわけだ。
こんなに意地の悪い作戦、どうやったら思いつくんだろうね、まったく。
ボクは、自嘲と少しの後悔に、卑しい笑みを浮かべた。
トロイアの市民は兵も民も、残らず酒に溺れ、心地の良いヒュプノスの誘いに身を任せている。

──さて、もう狼煙が上がるだろう。
合図を見たギリシャ軍は、城門が破壊されたトロイアになだれ込み、そして──この難攻不落の地、トロイアを蹂躙する。
「さ、さ、さ。みんないるようだね。奴らはバカ騒ぎを終えて酒に酔い、間抜けにぐーすかと眠りの中だ。どんなツワモノだろうと、こんな姿じゃあ赤子みたいなものだよねえ」
ボクは、傍で眠りこけていたトロイア兵の鎧を蹴りつけた。
しかし、よほど飲んでいたのかむにゃむにゃと寝言を言うだけで、まったく起きる気配は無い。
今際の際に残す言葉がこれとは、名も知らない兵だけど運が無いね。
ボクは、手に持った槍で男の首を一突きにした。声もなく、首からは赤い血が吹き出す。
──彼は、眠ったままだ。もう、起き上がることもない。
「この通りだ、アカイアの英傑達よ! まずはオデュッセウスが一つ、首級を上げた! さあ、この私に続け! トロイアの最期は汝自らの手で果たすのだ!!」
ウオオオォォォォ────!!!!!


今朝までに、何人殺しただろう。数えていない。自分の手を眺めると、乾いた血糊がべっとりと付いている。
女子供には手をかけていないが──それは、単に『戦利品』だからだ。慈悲の心で逃したわけじゃない。
油と煙が未だ匂う街の中には、戦場で戦っていたらボクらを散々苦しめたであろう戦士達が、無残な姿で転がっていた。
女だって、全員が無傷では無い。男の体液を垂らし、すすり泣くのはまだ良い方だ。女陰に槍を貫かれ、絶命した少女の姿もちらりと見た。
──ふと見えるあれは、アガメムノンの配下の仕業だろうか。女をテーマにしたグロテスクなオブジェはそこかしこに飾られている。戦場の狂気というのは、未だにもって理解が出来ない。理解したくもない。
イリオスには、ギリシャ軍の鬨が響き渡っている。勝利に酔う将軍達が祝いの言葉をかけてくるが、ボクは適当に答え、城門を出た。

早く、帰る支度をしないと。イタケにはボクを待つ人達がいる。ボクは王として、民を導かなければならない。
必要な物資は既に積み込んである。胸を張って凱旋できる戦利品も。あとは船を出しさえすればいい。
城門には、トロイアの王プリアモスの首が晒してあった。その瞳は、絶望と怒りに満ち、ボクを睨みつけているように思う。
昨日までは、この街の朝は戦に出向く男たちと、それを送り出す妻たちのささやきが聞こえていたのだろう。
だが、今響いているのは異邦人であるギリシャ人の蛮声。
10年にも渡る長き戦いでトロイアはどれだけの物を失ったのだろう。
アカイアは勝者だ。土地も富も奴隷も手に入れた。
しかし、トロイアが得たものは何も無い。全てを喪った。
戦勝国は富を得て敗戦国は喪う。これは変えようも無い戦いの摂理だ。
だが、それでも。たとえそれが摂理でも。一夜にしてこの街を焼き払い、地獄と変えたのは──このボクなんだ。


──我らの王、オデュッセウス! 謀巧みなオデュッセウス!! イタケの王、オデュッセウス!!!!
イタケの船団は、オリンポスにも響くほどの喝采でボクを出迎えてくれた。
──はぁ。あれほどの地獄を見たというのに、こうも部下に慕われると悪くなかったと思えてしまう。
ボクは頭を無理やり切り替える。ボクはイタケの兵を守った。王として、それ以上の誉れがあるものか。ボクに、恥ずべきことなんて無いんだ。無いはずなんだ──。
「や、や、や。みんな! ボクからキミ達に言える言葉は一つだけだ」
歓声がぴたりと止み、兵達はボクの言葉を待つ。
ボクはスゥ、と深呼吸して、腹に息を蓄えた。
「一同──! お疲れ様でした!!」
一瞬の静寂の後、大きな笑い声が上がった。
本当に嬉しそうな笑顔で、お互いの健闘と、故郷への想いと、王の活躍を語り合っている。
「さぁ、みんな帰ろう! 明るく豊かで──素晴らしい妻の待つイタケの国へ!!!」
兵達は皆、満面の笑顔で船を漕ぎ出した。
──10年間、長かった。本当に本当に──長かった。
嗚呼、ペネロペ、テレマコス。やっとキミ達に会うことが出来る──。




途中でボクじゃなくて私って言ってるのは自分の部下じゃない人が相手なのと、おちゃらけた態度から急にシリアスになることで士気を高めるため
イタケの兵相手には普通にボク
念のために

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