ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

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前回までのあらすじ

時計塔・現代魔術科のロードを務める男、ロード・エルメロイ2世。
彼の下に一通の手紙が届いたことから全てが始まった。『始まりの石の血脈に宿る、殺意の影をどうか祓って欲しい』。
それはオリジンストーンと呼ばれる、魔術界隈においても名高い歴史ある魔術家系における、殺人事件をにおわせる手紙であった。

オリジンストーン本家へと向かったロード・エルメロイ2世とその内弟子グレイ、
そしてオリジンストーンの分家が1つ、ブラックストーンと関りがあるという少女、ソフィー・ノット・シンフィールド。
彼ら3人は駅で出会ったミランダ・マイルストーンという女性に連れられオリジンストーン本家屋敷へと向かった。

本家屋敷には複数人の魔術師が既に滞在していた。
マイルストーン家当主、ワイズ・マイルストーン。
スクラップストーン家当主、ブライアン・スクラップストーン。
レッドストーン家次期当主、ファースティ・レッドストーン。
カルムストーン家当主、デッドブロウ・カルムストーン。

彼らは全員、シングルストーン家当主にして時計塔講師である、
ダイオニシアス・シングルストーンの殺人事件当日に屋敷にいた者たちであった。
事件当日の事情聴取として集められたという。

2世は彼らから事件当日の様子を聞くが、その際にオリジンストーン本家の当主夫妻が屋敷に到着。
そして2世を見ると同時に困惑の表情を浮かべる。曰く、彼らはロード・エルメロイ2世を招待していないという。
本来、ストーン分家の事件はフリーメイソンが解決するしきたりになっていると語る、本来の事情聴取人、Dr.ノンボーン。
誰が2世を呼んだのか? ストーンの保有する魔術的資源とは、どのような交差を生み出すのか?


交錯する疑惑と猜疑。始まりの石がヒビ割れてゆく。

【第四章〜前編〜】




事件の解決を依頼された私たちが、事件現場であるオリジンストーンの屋敷を訪れて数時間が経過した。
日は傾き始め、夜闇が辺りを包み始める頃合いとなっていた。だけれども私たちは、事件を調査する事はなく、客室に座している。
理由は────正直なところ、自分自身にもよく理解は出来ていない。だからこそ、

「いやぁ……、本当に申死訳ございません。せっかく来ていただいたのに、
 わた死たちオリジンストーンの盟約のせいで、このようなおもてなしとなって…」
「いえ、構いませんよ。もとより此処へ出向こうと考えたのは、我々の意志ですしね」
「ロードにそう言っていただけるとは有り難いお言葉デス。あ、グレイさん御砂糖何個いりますか?」
「あ……、拙は1つで良いです」

だからこそ私たちは、デッドブロウさんのお話のお誘いにのり部屋で彼と対面していた。
Dr.ノン・ボーンと名乗るフリーメイソンの使者によって追い出されそうになった私たちを、彼に庇っていただいたのだ。
曰く、『ロードがここまで来ることには、それ自体に意味がある』と。その際に師匠の、少しバツが悪そうな横顔が印象的だった。
ワイズさんもそれに乗ってくれて、結果的にはノン・ボーンさんが折れてくれた。その際の光景が脳内に想起される。

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────

「既に日も傾き始めています死、何よりここまでロードが出向いたという事は、彼らの貴重な時間を浪費させたことになります。
 この辺りは列車の本数も少ないデスし、少なくとも本日1日は滞在頂いてもよろ死いと思うのですが、いかがデスか? ノンボーンさん」
「俺もそれには賛成だぜ? ロードが動くってのはそれだけで貴重だからな。それを無下に帰したとなると、お前どーいわれっかなぁー!」

ギスついた雰囲気の中で、剽軽なワイズさんの声が響く。
そしてデッドブロウさんの言う通り、実際現在の時刻は4時ごろ。
この屋敷が駅から離れていた事もあり、到着にはかなりの時間を要していた。
もしこのまま私たちが帰る選択を取った場合、帰り道にまた大幅な時間を要する可能性がある。
最悪の場合、電車がなく明日まで待ちぼうけとなることもあり得るほど、此処は都心部から離れた場所であった。
そうなった場合、時計塔のロードでもある師匠にとっては大幅な時間のロスになってしまう。
確かにそれだけは、出来る限りは避けたいと思うのが自分としても正直な感想だった。

「ストーン一族にはよくあることよね、こういうの。
 何でみんなで協力して事件を解決しよう、と言えないのかしら?
 いつも誰もが、自分がやる私がやるって喧嘩ばっかり」

そう一言、小さく呟く声が聞こえた。ファースティさんだ。
彼女は広間に置かれている椅子の上にちょこんと座って、頬を膨らませながら手に持つ本のページをめくっていた。
自分もまた、こういった話にはあまり分け入ることが出来ないため、特に取り留めもないまま彼女に声をかけた。

「……こういったことは、よくあることなのですか?」
「うん。まだ私は若いけれど、レッドストーンの次期当主なのだから覚えておきなさい…と、
 よくお父様やお母様に覚えさせられたものだわ。フリーメイソンとオリジンストーンの関係について、ね」
「相変わらずファースティは勉強熱心ね。正直言って助かるわ。
 何分、立場が立場なもので。関係者ではあるのだけれど、内情に関してはそれ程詳しく無いのよね。
 ……ごめんなさい、グレイさん。フリーメイソンが介入するとは思わなかったもので、お力になれないかもしれません」
「い、いえそんなことないですソフィーさん。ソフィーさんの知識がなければ拙たちは右も左も分からない状態ですしたので…」
「……そう、言っていただけると助かります」

そんな取り留めもない会話をしていた、その時だった。

「………………まぁ、ロードを追い返したとなれば時計塔と要らん諍いを生みかねないか」

ボソリ、と。誰にも聞こえないような小さな声でそうノン・ボーンさんが呟いたように聞こえた。
聞き違いだったか、あるいは気のせいだったかもしれない。確かにノン・ボーンさんの声ではあったが、
あまりにも先ほどまでの彼の口調とは異なる粗雑な口調だったため、おそらく気のせいだったと思う。
もしかしたらアッドの声真似かもしれない。などと考えた時に、ノン・ボーンさんが師匠の方へ向きなおして口を開く。

「良いでしょう。冷静になれば、賓客の一員とみればそう不都合はありません。
 先ほどの失礼な言動にはお詫び申し上げます。────ですが、あまりロードに長居されますとこちらも調査がしづらい。
 交通の便が乏しい事を鑑みましても……明日にはこちらを発って頂けると、こちらも喜ばしいのですがよろしいでしょうか?」
「ええ、構いません。メイソンの調査員が殺人現場を調べるというのでしたら、我々がいても邪魔になってしまうでしょう」
「オイオイそれで良いのかよ2世!?」
「不服はありません。解決するべきものがいるというのならば、そちらに任せるに越したことは在りませんから」
「けどよぉ!!」
「分かりました2世……。あまり無益な言い争いもする物ではありませんワイズさん。
 わた死と死ま死ては、ロードと会話が出来る時間が出来たというのは喜ばしい事デス」
「難しい事は分からないけど……、私もソフィーとお話しできるのならそれでいいと思う」
「元よりストーン家の事件はメイソンの管轄だからね。しかし、ロード・エルメロイ2世を誰かが呼んだのも事実。
 ……だがまぁ、その犯人を捜すよりは殺人事件の犯人を捜す事こそ、我々の最も目指すべきところだと考える」
「その通りです。お話が早く助かります、ブライアン・スクラップストーン」

そう言いながらノン・ボーンさんは壁や扉、窓の付近にスキットルをいくつか配置する。
そして一通りの設置を終えると、指を鳴らして一小節の詠唱で魔術を起動した。

「起動(awaken)、」

その一言と同時に、スキットル内に収められた水が、まるで生き物のように現れ出て、
そして非常に細いワイヤーのようになって四方八方の壁や床を伝って周囲を調べるように這いずり回る。
それは例えるのなら、地面に横たわる数十の蛇のようにも映った。

「あれは────、」
「Dr.ノン・ボーンは非常に優れた水魔術の使い手……とは界隈では有名な話だ。
 攻撃、探知、様々な用途に用い、まるで自分の肉体の一部のように用いていると伝え聞いている。
 流体魔術の粋を集めたその技術は、かつて時計塔にもその名が響いていた水を操る魔術の名手、
 ライラック=ワーカインド・メイディーンに匹敵すると聞いている」
「あー、その名前なら俺も聞いたことがあるな。メイディーン家に勘当されつつも、一流のバウンティハンターとしてのし上がったとか」
「それは……えっと、フリューガーさんのような、フリーランスの魔術師さんですか?」
「ああ。とは言っても、もう100年以上前の人物だがね。それでも時計塔にはその魔術は優れた物だったと記録が残されていた。
 たしか、彼が最後に向かった地も、ファースティ嬢の語った西部の聖櫃を巡る闘争であったと聞いている」
「あら、言われてみればそんな人もいたわ!」

退屈そうにしていたファースティさんが、手に持っていた書物をぱらぱらとめくる。
そして、そこまで師匠が小声で解説をしたところで、ノン・ボーンさんがこちらにたいして視線を向けた。

「なるほど、それがお得意の魔術の解説ですか。
 いや、まだその前座……時計塔のため込んだ記録の閲覧と言ったところでしょうか?」
「おっと……失礼しました」
「いえ良いんですよ。ただ、あまり自分の魔術を観察されるのは恥ずかしいのでね、
 現場付近には立ち入らないでいただけるとありがたいですね」
「要するに邪魔ってこったろー? 言われずとも俺らは部屋も待ってるぜコノヤロー!」

そう悪態をつきながら、ワイズさんが私たちの背を押して広間の出入り口へと導く。
その様子を特にノンボーンさんは止める事もなく、分かりましたと頷いてミランダさんやルシアンナさんへ事情聴取を開始した。

「では、わた死たちも客間で待機していますので、御用があればお呼びくださいね」
「はいお願いします。まずは当主夫妻と、ミランダさん、ブライアンさんの4名から事情をお聞きしましょう」
「ではその前に、私が客間に案内してもよろしいでしょうか? 紅茶はアールグレイを用意しましょう。
 それと差し出がましいようですが、夕食の準備も致しますので、よろしいようでしたら是非召し上がってください。
 遠いところを着ていただいた、ほんの些細なお礼です。2世がたも、どうぞごゆっくりとおくつろぎください」
「お気遣いいただき、感謝します。イズラエル当主」
「イズラエルでいいですよ。ロード・エルメロイ2世」


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というわけで、現在オリジンストーン屋敷の客間には、
師匠、私、ソフィーさん。そしてデッドブロウさん、ワイズさん、ファースティさんの6名が揃っていた。
ブライアンさんとイズラエルさん、そしてルシアンナさんとミランダさんは現在聴取を行われるため広間にいる。
ひとまず食事には招待するという流れになったため、それまで私たちは客間で彼らと共に待機する事になった。

「しっかしお堅ぇもんだぜ、ったくよー。なぁにがメイソンとストーンの盟約だ。
 結局利権が欲しいだけなのによぉ。時計塔の連中ってだけで邪険にしやがって」
「本当に申し訳ありません。フリーメイソンが関わってくるとは、私としても想定外の事態でした」

ワイズさんが背もたれによっかかりつつ悪態をつき、ソフィーさんが頭を下げる。
私はその謝罪に対し、謝らなくてもいいですよと返すと、師匠が続けた。

「そう謝るほどの事ではない。私は気にしていないよ。そもそも、ミス・ソフィーはブラックストーンに近くはあるが当人ではない。
 もしかすると、フリーメイソンとオリジンストーンが盟約を交わしていること自体、知らなかったのではないだろうか?」
「そうですね……大まかな部分は聞いていますが、詳しい部分までは、何とも」
「あまり聞いていないわ。お父様もお母様もどちらかと言えば研究が専門だから……。
 ああいった口論がストーン分家に多い、とは聞いていたけれど、メイソンがどういった組織なのかまでは聞いていないの」

実を言うと、自分もあまり分からない。そういう意味では、同じように分からないファースティさんとソフィーさんがいた事は安心できた。
おそらく師匠は分かっているだろうから、この場で知らないのは自分だけという事にならなそうでホッと胸をなでおろした。

「わかりま死た。ではそうデスね。一旦ここはわた死が、オリジンストーンとメイソンの関係……。
 その発端である、オリジンストーンの持つ魔術資源の鉱脈について、少死お話死たいと思うのですがよろ死いで死ょうか?」
「良いと思うぜ。普通に時計塔の資料見れば書いてあることだしな」
「私からもお願いします。招かれざる客の身ですが、こうして居合わせた以上、
 オリジンストーンとフリーメイソンの関係と歴史については身につけておきたいですからね」
「了解死ま死た! かのロードにお願いされるとは、恐縮デスね。
 死か死……まだ新参な私の講義など、時計塔のロードにとっては釈迦に説法ではないで死ょうか?」
「いえ、そのような事はありませんよ。魔術師の家系の歴史となれば、その家系に属するものが最も詳しいものです。
 この場では私より、貴方やミスター・ワイズ、ミス・ファースティの方が何倍も私よりストーン一族については詳しいでしょう。
 あくまで此処では私は一介の生徒として、講義の邪魔にならないように生徒役に徹しますよ」

そう恭しく師匠は頭を下げ、私たちと同じように話を"聞く"態度になった。
いつもは私たちへ講義をしてくれる立場なのに、こうして一緒に聞く立場になるというのは、とても奇妙な感じがした。
『イッヒヒヒ!! 何だよ自分の蘊蓄癖が人の話の邪魔になる自覚はあったってかぁ!?』とアッドが笑おうとしたので、
軽く揺さぶって笑い声を無理やり制止させた。

「では不肖、デッドブロウ・カルムストーンが知っていることを話させていただきま死ょう」

そう頭を少し下げてから、デッドブロウさんはオリジンストーンとフリーメイソンに関する一連の過去を語り始めた。





「そういえば、アビエルは?」

客間へと客人たちを送り届けたイズラエル・オリジンストーンが、広間で待機していたルシアンナ・オリジンストーンへ問う。
ルシアンナはミランダ・マイルストーンと共に、事件当日の事情聴取を受けている所であった。

「ああ、アビエルは今はディーティームの世話をしているわ。
 このまえ漫画を買ってくれたからって、張り切って手伝ってくれているみたい」
「そうか。あいつにも好きな物が出来てくれてよかった。何かを好きになるという事は、何かの原動力になるからね」
「あら、もしかして自分の事?」
「さて……どうかな?」
「ご主人が戻ってきたところで話を続けましょう。ダイオニシアス卿の死亡推定時刻は午後の11時過ぎ。
 発見時刻は日付変更前後。第一発見者はルシアンナ・オリジンストーン。間違いありませんね?」
「はい。当日はオリジンストーン一族の当主による懇親会がありましたので……。
 その中でも今ここに集まっている方々とダイオニシアス卿は、特に懇意にしておりましたので」
「の割には、ダイオニシアス卿は時計塔ではオリジンストーン本家への敵意をむき出しにしていたと聞き及んでいますが……」
「それで私たちが、殺害という凶行に及んだと考えますか?」
「いえ、あくまで事実を述べたまでです」

平坦な口調のまま、ノン・ボーンは手帳に万年筆を走らせる。
丁寧な文字で綴られるメモ書きを終え、先ほど設置していたスキットルを手元に回収する。
どうやら、現場の探査が終了したらしい。

「物的証拠、なし。霊的証拠がないのは降霊担当のメイソンから聞き及んでいる。裏も取れている……。
 降霊に犠牲者の霊が反応しないというのはまぁよくあることではあるが……。反応すらないとは少し引っかかる」
「呪詛に関連するもの……殺害方法でしょうか? 東洋の呪術では、魂ごと殺害する方法もあると聞き及んでいます」
「魂ごと消し去るというのも一つの手段でしょう。あるいは魂を封印するか……」


「────────もしくは、魂を捕食したか……、か」





「さて皆さん、まず初めに……何からお話を死ましょうか?」
「えっと……確かフリーメイソンは、友愛団体でしたよね。まだ拙は詳しく知らないのですが…………」
「15世紀ごろに設立した結社であり、自己の研鑽や改善、社会奉仕を目的とした組織と記憶しております。
 魔術世界に於いては、時計塔を卒業した生徒も多く関わっている魔術結社的側面もある……とは」
「そうデスねぇ。となるとまずはフリーメイソンのやっていることについて深く話す必要はなさそうデスね。
 ここは、彼らがどのように死てオリジンストーンと関係を持ったか、から話死ま死ょうか」

そう言うとデッドブロウさんは、手帳とペンを取り出して、何か図柄のようなものを記し出した。
上向きのコンパスと、下を向いた直角定規が交差したような図柄。そしてその真ん中にアルファベットのGの文字を記したものだ。
その図柄を指さしながら、ファースティさんが問う。

「ああ、これってメイソンのマーク?」
「ええそうデス。コンパスと定規……石工の象徴であると言われています。
 フリーメイソンの具体的な起源は明かされてはいませんが、石工に潜入を死ていたテンプル騎士団であったと言われています」
「テンプル騎士団……?」
「聖地巡礼を手助けするべく設立された騎士団……と言われている。
 主な業績としては、巡礼者の守護や金銭の一時預かり……今でいう警備団や銀行のような仕事だな。
 だがその結果として莫大な金銭を得、時の権力者であるフィリップ4世に処刑されたと言う……」

師匠が私に対して補足説明を行うように解説してくれる。
私だけでなくファースティさんも知らなかったようで、なるほどと首を縦に振り納得している様子が見えた。

「さすが、こういった歴史はお詳しいデスね。そうデス。
 その崩壊の後に彼らメイソンは石工に潜み、友愛や自由、平等を謡うようになったといいます!」
「なるほど…………。しかしそちらも随分詳しいですね。そういった組織にかつて所属していたりとか?」
「いえ、わた死の趣味ですよソフィーさん。わた死の目の届かない……抽象的に言うならば"外"とでも言いますか。
 そういったものにわた死、興味がつきないのデスよ! まぁ研究の本職は"死"についてなのデスが…………、
 それはまた、然るべき機会に語ると死ましょう。わた死、語りたがりなので自重死ないと」

そう言いながら、デッドブロウさんは話を続ける。その時の彼は、私の眼にはどうも何かを我慢しているように見えた。
例えるなら、何か別のことを語りたいけれど、今はもっと別のことを語るべきだからと、自分を押し殺しているような、そんな感覚を覚えた。

「さて、本当にテンプル騎士団が発端なのか、あるいは石工が発端なのか。
 どちらが起源かは定かではないデスが、彼らメイソンは『自由、平等、友愛、寛容、人道』の5つの基本理念を掲げています。
 これらの言葉は、歴史上の多くの事件や事柄にも大きく影響を与えていますね。例えば、聞き覚えがないですか? 自由と平等と友愛を掲げた革命など…」
「…………ッ、フランス革命」
「そうデス」

聞き覚えのある言葉だった。歴史を少しでも学んだものなら、ほぼ確実に聞く歴史上の事件。
世界で初めて巻き起こった市民革命で、多くの血が流れながらも最後には人権宣言により幕を閉じた、人類史に於いて外せない1ページ。
その革命に、フリーメイソンが関わっていた……という事なのだろうか?

「まぁ眉唾物な噂と一笑に付せられそうな話ではありますが、
 フリーメイソンが革命を行う側に立っていたというのは有名な話デス。
 とは言いま死ても、彼らが革命を起こした……というわけではありません。
 あくまで"革命を行う側にいた"というのが重要なのデスね、この話では」
「それはどういう……?」
「このフランス革命で、彼らが革命側に立っていたことが重要だということデス。
 まぁそもそも、このフランス革命では革命側に立っていないといつ死ぬかも分からない状態だったと聞きます死ね」
「ああ……確かパン屋ってだけで殺されたとかあんだろ? ひでー話だよな。扇動された大人数っていつの時代もこえーぜ」
「そうなんですか…………。すいません、拙はそこまで分かりませんでした……」
「まぁ扇動された民衆の恐怖など歴史には関係がないからな……。当時の熱狂した人々の様子は多くの物語に書かれている。
 有名どころで言えば、寓話の"罰当たりっ子"などか。革命に呪われた、一人の少女の物語だ」
「ああ、それは聞いたことがあります。"血、血、血、血が欲しい。ギロチンに、注ごう、飲み物を"……でしたっけ?」
「触れると人の首を落とす女の子の話だっけか? 如何にあの時代がイカれてたかってのが分かるぜ。なぁ2世?」
「そうですね。とにかく当時の人々は、ひどく興奮していた。誰も彼もが革命されるような時代だった。
 …………そしてその矛先は、当然魔術師達にも向けられたと時計塔の記録にも残されている」
「魔術師も……」

なるほど。確かに聞くだけで当時の人々がどれだけ熱狂していたかが分かる。
そういった人々が、傍から見れば何を行っているか不明な魔術師たちに対して矛先を向けるのは、当然と言えば当然と言えるだろう。
そう私が考えていると、デッドブロウさんは師匠へ指を差しながら「そうデス!」と声を上げた。

「そうデス。フランス革命の熱狂は魔術師達にも矛を向けま死た。
 その中には当時フランスに根付いていたオリジンストーン一族の分家もいたそうデス」
「なるほど。オリジンストーンの始祖であるザックライアス・オリジンストーンは、
 かつて十字軍に参加していたという記録があったと記憶しています。フランスにもストーン一族がいるのは、自然と言えるでしょう」
「はい。当然彼らは死にたくありません。革命で殺されるなど悲死すぎる死に様デスからね!!
 だから彼らは、当時革命側に立っていたフリーメイソンに対して助力を仰いだと言われています。
 曰く、"どうか我らを無事に、この狂気の渦から助けてほしい"、……とね……」

いつ、革命の標的にされるかも分からない。
確かにそれは恐ろしいことだろう。いつ扉を破って革命に染まった民衆が襲ってくるかもわからない。
そんな恐ろしい日常の中で、頼れる存在がいたとしたら何を犠牲にしてでも手を伸ばしたくなるのが、人というものだろう。
どれだけ魔術師が常軌を逸した存在でも、自分の命はやはり大切なのだと分かる。

「しかしよくわかったなぁ、当時のストーン連中!
 メイソンを見分ける方法なんざなんか特殊な握手方法ってのしか知らねぇぜ?」
「一説によると彼ら側からストーン一族に接触してきた……と言われています。
 当時から既にストーンは、莫大な魔術触媒で高名な一族となっていま死たからね」
「なるほど。その際の見返りとしてフリーメイソンが要求したものこそが……、
 オリジンストーンが鉱脈を有する希少な魔術触媒、『大いなる黒水晶』だったというわけですね?」
「さっすがはロード! 話が早いデスね!」

パン! とデッドブロウさんが手を叩いて師匠を称賛した。
謙遜しても、やっぱり何かと語るのを我慢できていないのは、とても師匠らしいと思った。
初めて会うロードと会話をしながら講義を出来る事が嬉しいのか、笑顔のままデッドブロウさんは続ける。

「その通りデス。彼らはフランスに残っていたストーン一族をイギリスまで亡命させま死た。
 それだけでなく住処や研究資金までやり繰り死てくれたと聞き及んでます。その対価として、向こうが黒水晶を要求死てきたそうデス」
「ですが、それは本家を通さない契約なのではないでしょうか。鉱脈を保持しているとはいえ、貴重な触媒には変わりない筈。
 例え、自分たちの分家を匿って貰ったとしても、そう易々と支払えるものではないでしょう。それも200年以上、現代まで続く程の契約となると猶更です」

ソフィーさんが挙手をして発言をする。なるほど確かに言うとおりだ。
列車の中で聞いた話によると、オリジンストーンが初代より保有する土地では希少な魔術鉱石が採れると聞いていた。
それを独占しているため、潤沢な資金繰りが可能とも教えていただいた。

冷静に考えれば、自分たちにとってのジョーカーとも言える資源、希少な魔術鉱石を、
分家を匿ってもらったからという理由で200年以上もの間渡し続けるというのも妙な話だ。
その分家たちが、彼らの願いで助けられたというのならば尚更のこと。本家がわざわざ自前の資源を支払うほどの事はない。

「ンー、それはデスねぇ……。まだ確証は得れてないのデスが……。
 メイソンが匿った分家の中に、彼らオリジンストーンにとって重要な家系がいた……と噂を耳に死ています」
「………………重要な……家系?」
「ハイ。オリジンストーンの本家は基本的にはわた死たち分家には干渉は死ません。
 デスが、実のところは通常の魔術家系以上に、分家に対して目を見張らせているという噂は聞いております。
 一説によると、分家の1つ1つに役割があるとか、あるいは分家が1つ欠けるだけでも多大な損害が発生するとか……まあ事実かは分かりませんが。
 とにかく、オリジンストーンは非常に分家を大事にする家系なのデス。その中でも殊更重要視している分家が、そのフランス革命で救われたという説が有力視されているのデス」
「それは先ほどお話に挙がっていた……12分家の一員なのでしょうか?」

思わず口を挟んでしまった。オリジンストーンの本家から最初に分かたれたという、始まりの12分家。
先ほどソフィーさんが説明してくれた家系が、デッドブロウさんの"重要視している分家"という言葉で連想された。
何故連想したのかは、私にも分からない。分家の中で重要視するというものと言えばという連想から来たものか

あるいは、最もオリジンストーンの本家に近い────。
即ち、本家の血が最も濃い分家という事に、何らかの意味を感じたのか。
……そう思っていた時、デッドブロウさんの言葉に1つの疑問が浮かんだ。
メイソンが要求したものは、あくまで黒水晶? ……それは、つまり────

「まぁその可能性が高いデスね。といっても、当時フランスにいた12分家の情報は不明なので、調べたいところデス」
「そういえば稀少なのは分かるのですが……、黒水晶の原石をメイソンが欲する理由は何故なのかは分からないままですね。
 メイソンは何故、黒水晶の原石を集めているのでしょうか? たしか、オリジンストーンの一族でなければ加工が難しかったと聞いていますが」

そう。黒水晶のままでは、強力ではあれど使いこなすことが難しい。
そのように列車の中で、師匠とソフィーさんから教わっていた事を私は思い出した。
オリジンストーンの一族でなければ加工が難しいそれらを、フリーメイソンは原石のまま得ているという事になる。
私が質問をすると、デッドブロウさんはまるで「言われてみればそうである」とでも言いたいように膝を叩いて2,3度頷いた。

「ああー、そういえばそうで死たね。言われてみればそうデス。
 何も注釈が書かれていないから、てっきり呪物として加工済の物を受け取っていると思いま死たが……、
 彼らフリーメイソンが得ているのはあくまで採掘された黒水晶……確かに原石デスね。
 これだけだとただ力があるだけで指向性を持たせられないと思うのデスが……?」
「ふむ……言われてみれば確かに妙だ。彼らの契約はあくまで"採掘されたもの"の受け渡しに限る……。
 その契約の中に加工は含まれていないな……。いやそれよりも……オリジンストーンには、家系が重要、か」

師匠は師匠で、顎から頬にかけてなぞりながらメモ帳に自分の考えを纏めつつ記して整理している。
イゼルマの時もそうだが、魔術のヒントというか解明できる手掛かりを知ると自然と解き明かしてしまうのは無意識の癖らしい。
今回も、デッドブロウさんのちょっとした情報から無意識にオリジンストーンの魔術について考察をしているんだなと、その仕草から感じた。
『あいつ、いつか刺されんじゃねーの? いや現代なら撃たれるかぁ?』とアッドの笑い声が小さく聞こえた気がした。

「フリーメイソンには、黒水晶に潜在される魔力を扱える独自の技術がある……という事でしょうか?」
「あるいは別の使い道でもアテがあるんじゃねーか? 転売とか…ほら色々あんだろ? そういうのじゃね?」
「ソフィーなら何か知っているんじゃないかしら? ほら、ブラックストーン家とかかわりが深いでしょ?
 同じ黒い石だもの。何か知っているんじゃないかしら!」
「ごめんなさい、あまり知らないの。それと、黒い石だからと関連付けるのは安直すぎるわ、ファースティ」

軽く笑みを浮かべながら、椅子に座るファースティさんの頭を撫でるソフィーさん。
二人の年齢が近い事もあり、まるで姉妹のようにも見えるし、そのソフィーさんの浮かべる笑みは母親のそれのようにも見えた。
そう考えていたその時、ノックの音が響いた。

「うーん、推測でもよろ死いようで死たらわた死の考えを述べる事もできるのデスが────」
「デッドブロウさん。ワイズさん。Dr.ノン・ボーンが証言を聞きたいそうだ。広間まで来てほしい」
「あらら、わた死の専門分野を交えて語れる良いタイミングだったので死たが……。分かりました。ではわた死のお話はこれまでと死ましょう!」
「あー? 俺アイツ苦手なんだけどなぁ! まぁ良いや、ちゃちゃっと行ってくるぜ」

そう2人は言葉を交えながら、客室をあとにした。
2人と入れ替わるように、この部屋に訪れたブライアンさんが師匠の対面の椅子に座した。

「どのような会話をしていたのかな?」
「取り留めもない世間話ですよ。メイソンと、オリジンストーンの関係について」
「ああ、時計塔のロードには、少し退屈だったんじゃないかな? 我らの歴史は、貴方たちに比べれば短すぎるからね」
「そのような事はございません。まだ駆け出し者の身ですから……。非常に知見を深める事に役立ちました」
「そうか……。『大いなる黒水晶(アーク・クリスタル)』については、既に知っているものと思うがどうだろう」
「ある程度のことは……。稀少、かつ加工が難しい魔術触媒だと伺っております」
「なるほど」

ブライアンさんは懐から葉巻ケースを取り出す。
そしてライターを上着のポケットから取り出そうとして……、そのまま横に座るファースティーさんとソフィーさんを見て、取り出すのをやめた。
バツが悪そうにゴホンと1つ咳ばらいをしながらブライアンさんは続ける。

「実際時計塔が把握している通りだよ。
 あの水晶……『大いなる黒水晶(アーク・クリスタル)』は特級の触媒だ。
 採掘難度が、じゃない……。魔術で用いることができる形に加工することが、だ」
「オリジンストーンの一族で無ければ、加工も難しいそうですね」
「ああ。まぁそのおかげで、先ほどのような見苦しい言い争いを多く見てきたものさ」

まるで自嘲するようにブライアンさんは口端を吊り上げながら言う。
だがその眉間には、僅かながらにしわが寄っているのを自分は見逃さなかった。
口では軽くいっているけれど、どうやらその裏には、私たちの想像も出来ないほどの苦労があったように見える。

「魔術師にとって、触媒や呪物の確保は……文字通りの死活問題ですからね」
「ああ、それが自前で用意できるという事はメリットだが、それを狙うハイエナには悩まされたものだ……。
 "優美なるハイエナ"エーデルフェルト……、"堕ちた銀の星"クロウリー、東洋からは総角とかいう強盗が来た時もあった……。
 まったく……難儀なものを引き当てたものだよご先祖さまも」

ふっ、と笑いながらブライアンさんは肩を竦める。
その姿はまるで、先ほどの黒水晶を巡るようなやり取りを何度も目にしてきたかのように感じた。
細めた目はまるで、あんなものは身に余るとでも言いたいかのような、そんな感情を宿しているように見えた。

「どれだけ強くとも所詮は触媒だというのに……オリジンストーン本家も、分家も、外野すらも、
 まるで強い光に目が潰れた羽虫にように群がってくる……。あんな強い力が、何を生み出すかも分からないというのに、な」

自分も、師匠も、オリジンストーンの長い歴史の実態は知らない。
おそらくは、1度や2度とは言わずに何度も繰り返されてきたのだろう。
稀少な触媒を巡る権力争いが。あるいは実力行使が。そんな歴史に、私たちは口を挟めない。
生半可な慰めも、無責任な激励も、私たちに言う資格はない。

そう考えていたその時、ブライアンさんへ言葉を返したのは、予想外の人物だった。

「なにを生み出せるか、って? そんなこと、私が教えてあげますわ。ブライアン叔父様」
「………………ファースティさん……………今……何と?」

ブライアンさんの隣に座る、ファースティ・レッドストーンが、
胸を反らせつつ目いっぱいに張りながら、目を輝かせてブライアンさんの方を向いていた。





「いやぁ、お待たせ死ま死た」
「よぉ、事件解決の手がかりはどんなもんだ?」
「まだ難しいようです。巧みに証拠が消されている殺人のようで……」
「魔術界隈の殺人事件なんざ、証拠を残す奴の方がすくねぇからな」

そんなもん解決しようって方が無理ってもんだ、とワイズが鼻で笑う。
横に立つミランダは、そんなワイズと面と向かうノン・ボーンに対して怯えたような視線を向けていた。
ノン・ボーンはそんな彼らに視線を向けず、ただ試薬や魔術用具を取り出しながら返答する。

「いえ、別にそのような事はございませんよ。調べようは多くあります」
「ほぉー? そりゃどういう?」
「たとえば状況証拠。ダイオニシアス卿が死亡したのは夜遅く……。かつ、明かりは机の上のランプ1つだけでした。
 こういった場合、音なくガイシャの背後を取る方法は限られますね? 例えば……影を使い魔として用いるなどですか」
「あ……?」

ノン・ボーンがワイズとミランダの2人へと向きながら彼なりの推理を語る。
丁重な口ぶりではあったが、その言葉は鋭利な刃物のように鋭く、尖っているように聞こえた。
それに対しワイズは、眉をしかめながら言葉を返す。

「そらぁミランダが犯人だって言いてぇのか?」
「あくまで私は可能性の話をしたまでですよ? ミランダさんの使い魔が影を媒介とするのは知っていますが、それが犯人とは言っておりません。
 それがマイルストーン固有の使い魔技術という事も。────それが何か?」
「……いちいち挑発するような真似しやがって……」
「まぁまぁお二人共。ここで言い争っても死かたがありません」

一触即発の雰囲気になる2人の間にデッドブロウが割り込み、イラつきを隠せないワイズを止める。
納得できないと思いながらも、此処でトラブルを生むのは自分たちにとって不利だと思いつつワイズはその場を引いた。
ノン・ボーンはというと、特に表情を変えずに調査を続けており、その隠れた口元と鋭利な視線に1つの乱れも無かった。

「さて……事件当日の貴方たちの動向をお伺いしましょうか」





「………………ファースティさん……………今……何と?」

突然の言葉に、私はつい裏返った声で聴いてしまった。
あまりにも唐突過ぎる発言者に、ソフィーさんは目を丸くして驚いているのが見えた。
一方ブライアンさんはというと、落ち着いた雰囲気で「ほう」と一言だけ呟いていた。

「一体どのような事に使ったと思う? レッドストーンの次期当主は」
「ええっと、そうですね。私は黒水晶という触媒は、その多大な魔力を用いた呼び水にしか過ぎないのだと思います。
 黒水晶に幾重もの加工が必要なのは、それを人の扱えるものにする必要があるからだと私は考えるのです。
 ならば、その大きな魔力を大きな魔力のまま使えれば、加工の必要なく用いれると思います!」
「ほほう、興味深い意見だね。なるほど、巨大な魔力を、巨大なまま…か」

ブライアンさんが柔らかい笑みで優しく微笑みながら、二度三度ほどファースティさんの言葉にうなずく。
幼いながらもその考察は、確かにオリジンストーンという歴史ある魔術家系の分家の次期当主らしく考えこまれていると私は感じた。
魔術の触媒というものは確かに、人が扱うもの。どれだけ出力が大きくても、それを用途に応じた形に精錬しなくては扱うことは出来ない。
師匠は以前、それを石油に例えていた。石油というものはそのままだとただ燃えるしか出来ないが、用途に応じて分離させることで燃えやすくなったり形を変えたりするという。
それは魔術の触媒にも同じことが言え、黒水晶も同じように、ただ資源のままではそれは人間では扱えない魔力の塊でしかないのだろう。

ただ、その用途が魔力のまま用いるというのならばどうだろう?
先の石油の例えで言えば、ただ燃やすためならば確かに石油のままで良い。
ファースティさんが主張していることは、即ちそれだ。つまり彼女は言うならば、
黒水晶が元々宿している魔力は以前、人のためには使わなかったものだと大胆な主張を行っているのだ。
思い切った解釈に心の中で頷いていると、ソフィーさんが少し笑いかけながら問いを投げかけた。

「なら、その呼び出す“もの”は一体何なのかしら。
 加工前の黒水晶は、サイズにも寄るけれど、十分に膨大な魔力を持っていると思うのだけれど」
「よくぞ聞いてくれたわねソフィー! そこで取り出すのがこの西部聖櫃戦争の記録!」

そう自慢げに笑いながら、ファースティさんは手に持っていた本を自慢げに胸を張りながら机に広げる。
広間にいた先ほども見えた、彼女が大事そうに持っている本。「ジャスティーンによる西部聖櫃戦争の記録」だ。
その冒頭を彼女は開いて見せてくれた。其処にはその本を記したと思われる魔術師、ジャスティーン・レッドストーンについて記されていた。

「ジャスティーン……私たちレッドストーンのご先祖様はね、天候操作魔術を使ったという記録がここにあるの。
 それはレッドストーンが代々受け継いでいる固有の魔術だったそうなの。いずれ私も継ぐことになるから、独自で練習しているのよ!
 これは非常に難しい魔術だったらしくてね? レッドストーンが1200年をかけてようやく形に出来たという魔術なの!」
「レッドストーンの魔術が気候に関するものだということは聞いていたけれど、1200年もかけて編み出したというのは初耳ね」
「そうでしょ? だってこれはとっておきの術だもの!」
「なら、それは外部の魔術師たちがいるこの場では言わないのが、魔術師としての礼節じゃないかしら?」
「……あ。えっと……その、………ほ、他の人には内緒だからね!」

しーっ、と口に人差し指を立てながらソフィーさんに対してウィンクをするファースティさん。
そのとても可愛らしい仕草をする彼女はとても子供らしい愛しさに満ちていた。だけれど、まだまだ魔術師の心構えには疎いという雰囲気が伝わってくる。
そんなことを想っていると、やれやれと笑いながらブライアンさんがファースティさんを優しく諭した。

「確かに、我々ストーンの分家だけならば良かったものの、外部の魔術師がいるこの場所だ。
 ましてや時計塔のロード。一魔術家系の魔術を読み解くのも不可能ではない相手だ。あまり軽率に秘密をばらす相手ではないね」
「ご……ごめんなさい。わ、私久しぶりにソフィーに会えて……あ、あとグレイさんにも初めて会えて……、その……舞い上がっていました……」
「良いんだよ。別に責めているわけじゃない。ただ自分の家の魔術、言ってしまえば"切り札"を早々に開示するのは、控えたほうがいいという話さ。
 ……本来なら、他の分家に対してもね」
「まあ、ロードの中でも2世は穏健な方ですから。そう軽々しく秘密を漏らすような真似はしないでしょう。……ですよね?」
「ん、……ああ。そうですね。安心してほしい。レディ。君の家の秘密をむやみやたらとバラすような事はしないよ」
「ほんと!? ありがとうございます!」

不安げだった表情が、パァと晴れて笑顔へと戻る。
その明るい笑顔のまま、彼女は嬉しそうな口調で言葉を続ける。

「私……私の家が、ジャスティーンの魔術も、私の家の天候魔術も、皆好きだから……。
 だから、誰かに話して凄さを共有したくて……。物語は、皆で楽しみ合うのが一番楽しい、って。
 そう教えてくれたのよね、ソフィー?」
「ええ。ファースティがジャスティーンについて教えてくれる時は、いつも嬉しそうだったわ」

ソフィーさんに頭を撫でられ、ファースティさんは目を細める。
その子供のような仕草と同時に、彼女なりに抱いている彼女の家への感情を、彼女の言葉から私は感じていた。
尊敬とも、あるいは敬意とも違う。けれども自分の家────レッドストーンという家の持つ魔術に、最大限の誇りを彼女なりの形で持っている。
そんな喜びを彼女なりの感情表現で感じたような気がした。

「話が逸れたが、本題へ戻ろうか。うむ、レッドストーンは天候魔術を使用できる。
 本題としては、そのレッドストーンの天候魔術が、黒水晶にどう関係するのだろう、という事だ」
「はい。えっと……。私としては、レッドストーンが天候魔術を長い年月をかけて完成させようとした理由は、人の為だったと思うのです」
「…………ふぅむ」

先ほどまでのハツラツとした雰囲気とは打って変わって、ファースティさんは落ち着いた口調へと変わった。
幼いながらも、長い年月を積み重ねた魔術家系の次期当主。目上の人への礼儀は当然のように心がけているように見える。
丁寧に、そして強い芯があるような言葉で、ファースティさんは続ける。

「天候……特に荒らしや大雪などと言ったものは、幾度となく人々を苦しめてきました。
 私は、そういった存在から人々を守るために、同時に制御するためにレッドストーンは天候魔術を編み出したのだと思います」
「しかし、どうやってそれらの災害を御する? 災害というものは非常に強大だ。それを制御するには多大な魔力がいるだろう」
「……成程。そのための黒水晶の魔力と。ファースティはそう言いたいのね?」
「ええ! その通りよソフィー!」

ビシッ、と指を差してソフィーさんに満面の笑みを向けるファースティさん。
まるで自分が考えていた言葉を、そのまま言い当ててくれたことに対する喜びを表したいとでも言うように彼女の手を握る。

「私は思うの。きっと黒水晶の魔力で大きな災害の元を呼び寄せて、
 そして天候魔術を用いてそれを制御するのが、レッドストーンの本当の目的だったんじゃないかって。
 確か、世界には人の信仰が生み出した英霊達が集う場所があると聞いたわ。其処ならば、嵐や災害の概念もきっとあるんじゃないかしら?」
「なるほど。もしかしたら……そうかもね。もしそういった英霊達が存在するとしたら────────」
「………………………………アーク……エネミー」

私は、その存在を、その名前を、その定義を知っていた。
オリジンストーン屋敷への招待が来たあの日、師匠が読み解いていたあの資料。
それを通して師匠が自分に教えてくれた、人類に対する試練が形を成した英霊の側面(クラス)。

ちょうどここに来る前に師匠から聞いたその言葉が、ひどく印象に残っていた。
まるで誰かが前もって脚本を用意したかのように連鎖的に浮かんだその言葉を、私は気づけば口にしていた。

「……確か、人理の守護者たる英霊を召喚する際、その強大過ぎる存在を完全に再現することは不可能なため、
 それぞれに“クラス”を割り当て、その役割に応じて能力をオミットすることで使い魔として制御を可能にすると聞きました。
 そしてクラスには、基本的な7種に当て嵌まらない“エクストラクラス”が存在するとも聞きましたが……アークエネミーとは、その1つでしょうか?」
「あ、えっと……その……」
「ミス・ソフィーの考察の通りですよ。あくまで聖杯戦争について調べていた際に知り得た副次的な情報ですが、
 先ほどミス・ファースティの言ったような、"人類にとっての脅威"が形を取って召喚されたという記録はいくつかあるようです」
「なるほど、ありがとうございます」

ソフィーさんが軽く会釈をするように師匠に頭を下げる。
師匠の言葉に対して、ファースティさんは目を輝かせその表情を眩いばかりの笑顔に染めていた。
自分の考えていた推測が、真実であるという確信を得れたというような、とても喜びに満ちた笑顔だったのを覚えている。

「やっぱり……! レッドストーンは災害を人の為に止めようとしたのよ!!」
「ふむ。なるほど面白い考察だったよ。そのままでは人の手に余るほどの力を宿す触媒……。
 それをあえて、同じように人の手に余るものの呼び水として、それを制御する……か」

うんうんと、ファースティさんの言葉を咀嚼するようにブライアンさんは頷く。
その後「では」と、朗らかに笑いながらも鋭い指摘をブライアンさんはファースティさんへ突き付けた。

「もしレッドストーンが、その災害の概念……アークエネミーと言ったか、それを召喚し、制御できたとしようか。
 そうなった場合レッドストーンは大きな力を手に入れた、という事になる。それが……悪用されるという事は考えないかな?」
「…………それは……」
「災害を制御する。それは災害がいつ発生しても止める事が出来る事を意味する。
 が、それは逆に言えば"いつでも災害を発生させられる"という事を意味するわけだ。
 天候を制御するレッドストーンの秘奥……なるほどそれに、黒水晶という触媒。
 なおかつ過去の神秘ならば可能だろう。現代でも、アルビオンのような場所ならば……あるいは。
 もしそれが実現できたとして、その強大な力を悪用するような事になったら、どうするかな?」

軽い口調でブライアンさんは、ファースティさんへと問いかける。
口調は柔らかくとも、その言葉は先ほどまでのファースティさんと同じように、強い意志を感じる言葉であった。
厳しい言葉────とらえようによっては、少女の無邪気な想像に水を差すような言葉にも聞こえる、鋭い指摘。
だがそれはある意味ではこの世界では当たり前の摂理とも言える、…………言うなれば、現実の突き付けだった。

実際に大きな力を実現できれば、それは確かに素晴らしいだろう。
だがそれは、同時にデメリットも孕む。もしその手に入れた力が大きすぎるのならば、争いや諍いも生まれるだろう。
まさしく先ほどの、フリーメイソンと時計塔、そしてオリジンストーンの確執のように。

思えばブライアンさんが先ほど苛立ちにも似たような感情を見せたのは、そういう意味だったのかもしれない。
大きすぎる過ぎた力は、争いを生む。人間関係を崩す事もあれば、権力などのような差を人々の間に生み出す事もある。
そういった、人々の間で繰り返されてきたことを長く見てきたからこそ、ブライアンさんは人一倍、ああいった諍いに嫌悪感を示したのかもしれないと私は考えた。

「……そう……ですね……」

そんなブライアンさんの言葉を受け止めつつ、ファースティさんはじっくりと考える。
ソフィーさんが横から優しそうに見守り、ブライアンさんは顎髭を撫でながら一言問う。

「少し、ファースティ嬢には難しい質問だったかな?」
「そ、そんなことありません! 確かに、それほどの大きな力は争いの種になるかもしれません……。ですが」

そう前置きした上で、彼女はきっぱりと、力強く前を向いたうえで宣言する。

「私がそうさせません! 私の代で完成しなくても、何十年…何百年……どれほど経った先で実現したとしても、
 決して争いが生まれないようにして見せます! …………魔術は……、きっと誰かを、皆を幸せにするためにあると……思い…ますから…!」
「ふむ…………。……ふっ、あっはっはっは! いやすまない。いじわるが過ぎてしまったね」

そう言いながら、ブライアンさんは横に座るファースティさんの頭を優しくなでた。
その際のブライアンさんの表情は、とても柔らかく、そして何処か安堵するような表情に見えた。

「いやぁ……すまないね。少し、殺人事件という事で気が立っていたようだ」
「いえ! 私も理想ばかりで現実が見えておりませんでした! 気づかせてくれたりがとうございます!」
「ははは、こんなご老体の言葉が役に立ってくれたのならば、それに越したことはないよ」

そう笑い合っていた所に、ノックの音が響いた。
開いた扉の向こうから顔を覗かせたのは、このオリジンストーン屋敷の当主でもある、ルシアンナさんであった。
曰く、食事の用意が出来たので是非とも集まってほしいとのことだそう。

「ん、もうそんな時間ですか。では我々も向かうとしましょう」
「食事は会食用の部屋に用意してあります。ご案内いたしましょうか?」
「いや、私たちが案内しよう。場所は覚えております。こちらは荷物を持ってから行きますので、ルシアンナさんは先に向かっていてください」
「ああ、ありがとうございます。では少し息子を探してから向かわせていただきます……。アビエルったら…ディーティームを置いて何処に行っちゃったのかしら……」

そうぼやきながら、ルシアンナさんは客間をあとにした。
私たちも、気づけば空腹が我慢できない段階に達しかけていることに気付き、
自分たちの荷物をそれぞれ持ちつつ、会食用の部屋へと向かう準備をする。
気付けばファースティさんの姿はなく、ソフィーさんを連れて一足先に部屋へ向かっているようだった。

「…………彼女はああいったが…」

すると、ブライアンさんは荷物を纏めつつ、
少し目を伏せながら口を開いて語り始めた。

「残念ながら魔術師の家というのは、人助けなど考えはしない。
 それはレッドストーン家も同じだろう。大方……天候魔術も根源へ至るための一手段としか考えていないだろうさ」
「…………それは……………」
「…そうでしょう。天候というものは、突き詰めればこの星の運行にも関りが深いものですからね。
 伸ばせば確かに、根源という未知なるものに対する足掛かりになると考えるのは自然でしょう」
「彼女もまた、理想の脆さと現実の重さを知る日がいずれ来るだろう…………。
 誰かの為に平等に使える力など、この世にはないのだと……」

そう語るブライアンさんの表情は、何処か寂しげに見えた。
そのまま私たちは荷物を纏め、ブライアンさんに案内されるままに会食用の部屋へと向かった。





そしてそのまま、私たちは食事の用意された部屋へと案内された。
部屋には机を囲むように椅子が円状に並び、それぞれの食事が用意されていた。

「あまり大したおもてなしは出来ませんが……」
「何を言いますかルシアンナさん! いつも美味死い食事には感謝死ております!」
「すみません……本来は来ることが想定されていない拙達にまで用意していただいて……」
「構わないよ。私としては、食事は多くに人たちと囲むことは喜ばしく思えるからね」

そうニコリと微笑んで、イズラエルさんは丁寧に私たちを座席へと案内してくれた。
それぞれの座椅子にはファースティさんやソフィーさん、デッドブロウさんなどが既に座して待っていた。
ただ1つだけ、ルシアンナさんの隣の座席が空いているのが目についた。

「ノン・ボーンさんの座席でしょうか……? まだ調査を行っていると?」
「いえ、彼は食事は必要ないと言っていま死た。魔術的な糧食でも持っているんデスかね?」
「となると……あちらの席は……」
「うちの息子だよ。今年で9歳頃になるのだがどうしても落ち着きがなくてね……」

そうイズラエルさんがため息をつきながら言った。
先ほどまでそういった影を見なかったから、現状ファースティさんとソフィーさん、そして私以外のこの屋敷にいる人々は大人のみだと思っていた。
冷静に考えてみれば、確かに魔術家系ならば次代へ魔術刻印を遺すための子を成すのは至極当然のことであった。

「どのようなお子さんなのですか?」
「有望ではあるんだが、如何せん奔放でな……。言えばしっかり言ったことを守るのだが、
 すぐに自分の判断で行動する事の多い困った奴だ……。今も会食だというのに……。
 客人が揃っているというのに次期当主の自覚がないのかあいつは……」
「それがあなた……」

申し訳なさそうな顔をしながらルシアンナさんが言葉を発する。
彼女が言うには、そのアビエルさんは私たちが広間にいる間は妹さんの子守を買って出ていたという事。
だがドアの隙間から私たちの声を聴いたのか、あるいは屋敷にあるピリピリとした雰囲気を感じ取ったのか、
どちらにせよ殺人事件があったという事を知った彼は、書置きを残して何処かへ行ってしまったという。
『犯人は俺が捕まえる!』と、メモが残されていたというのだ。

「なんだって……? ノン・ボーン氏の捜査の邪魔をしないか心配だな……」
「それよりも万が一犯人に見つかりでもしたら……私はそちらのほうが心配だわ」
「ふむ……本格的に探したほうがいいかもしれんな」
「なるほど。アビエル君の行きそうな場所デスか……。ならば、わた死も探すのをお手伝い死ま死ょう」

そう言いながら、デッドブロウさんが立ち上がった。
それに続くようにファースティさんも、私も行くと言いながら立ち上がる。

「待っているだけじゃつまらないし、私も探すわ! アビエルったらもう、本当に子供なんだから」
「師匠……、私たちも行くべきでしょうか?」
「そうだな。私たちだけここで待っているというのも忍びない。
 あまり人の屋敷をむやみにうろつくような真似はしたくはないが、我々も探すとしよう」
「でしたら、私もご一緒してよろしいでしょうか?」

そう言いながらソフィーさんが挙手をする。
こうしてデッドブロウさんとファースティさん、私と師匠とソフィーさんという2チームに分かれ、
アビエルさんの捜索が始まった。……屋敷の外には出ていないと思うけれど、何処へ行ったのだろう?





そうして、オリジンストーン家の次期当主、アビエルの捜索に出たグレイと2世、そしてソフィー。
彼らは捜索の中である隠されたオリジンストーンの秘奥の一部に接触する。

夜は更け、2世は屋敷を歩む中でブライアン・スクラップストーンと出会う。
語られるオリジンストーンの歴史と闇。始まりの石の影に潜みし殺意の正体とは、何を表すのか?


そして、第二の犠牲の足音は、刻一刻と彼らの下にその足音を近づけていた。

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