Fate/Shadow beginning_4
最終更新：ID:p9w0p4b+Mw 2021年09月05日(日) 00:49:10履歴
『出会うはずのない者たちが出会う時、其処に生まれるのは不協和音か。あるいは、有り得てはならぬ災害か』
────────────kagemiya@ふたば生誕5周年記念作────────────
刃と刃がぶつかり合う音が夜観市に響く。
殺し合いの音。命を奪い合う闘争の音。容赦なく命脈を絶とうとつばぜり合う剣戟が響き続けていた。
片や派手なスーツを纏った壮年の男。片や着物の上に革製のジャンパーを羽織るちぐはぐな服装をする少女。
そのどちらも卓越した技巧を以てして、闘争を続けていた。
「勘弁してくれないかな……。正直オレとしてはそんな乗り気じゃない」
「連れねぇこと言うなよ。こんなオッサンの攻撃をここまでいなせてるんだ。ただ物じゃねぇのは見えてるぜ？
アンタ、こっち側だろうが────よっとぉ！！」
壮年の男────名を矢衾幻河という男が、自らの骨で形成した刃を大振りに振るう。
対する少女はその手に持つナイフを以てその攻撃の威力を軽減させつつ、スレスレで回避する。
矢衾はそんな少女の巧みな戦闘技術に対して、口端を吊り上げながら凶悪な笑みを作り悦んでいた。
「こっち側？ 何のことだよ。気味の悪いおっさんだな」
「とぼけるなよ。オッサン矢衾警備保障っていう所でお仕事してるんだけどね、これがまたろくでなししか集まらねぇんだわ」
「だろうな。見りゃ分かる」
「手厳しいね。まぁ、ならどういうタイプのろくでなしが集まるのかも、検討はついてるんだろう？」
「………………」
「何だよだんまりかい。"人殺し"共だよ」
ニタァと笑いながら矢衾は告げる。少女は自分たちと同じ"人殺し"の類だと。
それは趣味嗜好だとか、性格だとか、そういったものではない。もっと根幹的な、魂の属性(イロ)が殺しを求めている。
そう言った感覚を感じるのだと矢衾は少女に対して告げるのだ。
「へぇ。興味ないな。そういうのは」
「にしてはアンタ、殺し合いにノリノリじゃねぇか。どうだい？ うちの会社で働くってのは」
「生憎先約がいるんでね。オレには既に居場所がある」
「ああそうかい。なら、死んでくれねぇか。ちょっとオッサン、昂っちまったんでな！」
そう矢衾が笑い、同時に少女がナイフを構え、再度衝突が起きるかと思われたその時だった。
突如として、彼らのもとに第三勢力が駆けてきた。淡い金髪を伸ばした少年と、蒼と漆色の武家鎧に身を包んだ女性だった。
彼らは何かに追われているかのように息を切らしながら走っていたが、目の前にいる矢衾と少女を目にして立ち止まった。
『っ、人がいるセイバー……。これ以上逃げると巻き込んでしまう！』
『問題ないわ。体力も回復したから、ここで迎え撃つ』
『ありがとう。ならここで……。っ！ 待て！！』
金髪の少年がセイバーと呼んだ鎧の女性に対して魔力を送る。同時に女性は何らかの剣術の構えを取って振り返った。
女性が見た先には、夥しい数の生きる屍の群れ────即ちグールが2人を追いかけていた。彼らはそれを撃退するべき攻撃を放つ準備をする。
しかし彼らを追いかけていたグールのうちの数体が、とびかかる様に矢衾と少女たちへと向かったのだ。
少年は叫ぶ。自分たちが魔力を回復するために逃げた結果、関係ない人たちを巻き込んでしまうので無いかと悟り、大声で2人を逃がそうと声を張り上げる。
「逃げてください！！ そいつらは、僕たちを狙って────────！！」
「うるさい」
「邪魔だよ」
少年が叫んだ瞬間、少女と矢衾は一瞬のうちにグールを両断した。
それだけじゃない。即座にその視線を少年たちの背後に存在する大量のグールへ向けると、まるで苛立ちを覚えているかのような表情をしながら目にもとまらぬ速さで向かう。
まるでその選択が当たり前であるかのように、グールから逃げることなく殺戮という選択を彼らは選んだのだ。
「楽しみを邪魔するんじゃねぇよ！！ 死にぞこない共が二度くたばりなぁ！！」
「鬱陶しいんだよまったく。あのマンションを思い出す。すぐに片づけて……あとはとんずらさせてもらう」
「これは……凄い。あの数のグールを、一瞬で……」
「如何する？マスター」
「僕たちも行こう。お願いできるかな、セイバー」
「委細承知」
そう頷いてセイバーが2人と共にグールを相手取るために群れの中へと飛び込んだ。
グールの腕が切り裂かれ、血が飛び散り、そして臓物がはじけ飛ぶ。屍山血河もかくやと言わんばかりの惨状が形成される。
その戦闘の中、偶然背中合わせになったジャンパーと着物の少女とセイバーが共闘する形になり、互いに言葉を交わしながらグールと戦闘を行った。
「やるなお前。結構強いじゃないか」
「貴方こそ」
「お礼ついでにさ、こいつら片づけたら一緒に逃げない？ あれ、しつこいんだよね。オレとしては早く用事を片づけたいのに」
「用事……？」
「そ、まぁ仕事みたいなものかな」
和服とジャンパーの少女……名を両儀式という少女は、彼女の知り合いの女性に頼まれてこの街にやってきたらしい。
しかし突如として矢衾が襲い掛かってきたのでどうにかして引き離したいのだという。グールをなぎ倒しながら会話をするうちにセイバーと打ち解け、セイバー側も自分たちについて話し始めた。
彼女たちは元は伯林という場所にいたのだが、突如として湧き出したグールに追われるうちに見知らぬ街に迷い込んでいたというのだ。
「伯林……？ ドイツの？ それはまた変な話だな。ここ日本だぞ？」
「日本！？ 今の日本ってこんなに発展していたのですか？ いえ、そもそも今とは……」
「おっと、危ないぞ」
式の言葉に一瞬疑問を抱き思考するセイバー。その隙を取られて背後にグールが回るが、式が即座にナイフを投擲してグールの脳天を貫いた。
ひとまず一時共闘することになったセイバー陣営と式。両者の間には、何故こんなに大量のグールが出現したのかという疑問だけが残っていた。
そして、その事実を知るであろう者たちが、彼らのもとに迫っているのだった。
◆
「ふぅむ……。何やら、妙な計測結果が出ているみたいだね」
「リリィメリィ君もそう思うかい？ やっぱりレイシフトするのは辞めたほうが良いかな……」
ここはカルデア。ある可能性────魔神王により人理が焼却され、クリプターと呼ばれる存在により人理が漂白された可能性とは別の可能性のカルデア。
ここでは複数のマスターとサーヴァントたちが協力し、綿々と続く人理の中でたびたび発生する特異点を修復するべく活動をしている魔術機関である。
泥濘の如き混沌とした新宿、忘却の彼方と交錯せしビキニ環礁、最近では英霊が探偵になる風変わりな特異点など、多くの特異点を解決してきた。
そんな英霊と人間が協力する"こちら"のカルデアにおいて、今朝正体不明の人理の淀みが観測されたのであった。
「ちょっとこれは様子見するべきじゃないかなぁ？」
「おいおいダ・ヴィンチ。様子見していてえらいことになったらそれこそ事だぜ？ この前の新宿みたいなオチはやだぜ俺」
「うーん、ザックライアス君はこう言っているが、リリィメリィ君はどう思う？」
「まぁ確かに、こちらが大人しくしていても向こうも同じように大人しいとは限らないよね」
金髪の少女、ザックライアスと呼ばれたマスターがカルデア顧問の英霊、レオナルド・ダ・ヴィンチを説得し、レイシフトの敢行を急がせた。
彼女はかつて特異点で時間をかけたがためにとんでもないことになったのをトラウマに思っており、なんとか早く物事を解決させようとしているのだ。
リリィメリィと呼ばれたマスターはデータが足りないと安全を保障できないと反論はしたのだが、結局レイシフトを敢行するという方針になった。
「む、レイシフトか。では儂も同行するとしよう」
「おや君は……。ファルス・カルデアからの出向マスターのルーナティル君。何でここに？」
「なに、外様とはいえ儂もマスターの一員よ。手が空いたなら仕事を探して要所を回るのも当然のこと。レイシフトとタイミングが合ったのは言わば偶然のこと」
「え〜本当かなぁ〜？ まぁ良いか。人手が足りないのは確かだしね。サーヴァントはファルス・カルデアからの持ち込みかな？」
「問題ない。既に見繕ってはある。廊下で暇そうにしていたので、すでに契約済みだ」
「ライダー、瑞鶴です。出撃準備は完了しています」
「怖いぐらい用意周到だね」
彼らの会話に出るファルス・カルデアとは、"こちら"のカルデアを支援する協力組織である。
潜水艦のように海中に潜る本部にサーヴァントやマスターが常駐しており、カルデアを支援するために様々な技術や人員を提供している。
今ダ・ヴィンチと会話をしている魔術師、ルーナティル・ベストルドゥティルもまた、そんなファルス・カルデアから派遣されてきた魔術師だ。
いつもならばもっと多くのマスターが定期的に交換されるのだが、数日前からファルス・カルデアはあわただしくなり連絡も取れない状況にあるという。
聞けば召喚された、孔明を名乗るサーヴァントがアレコレ指示を出しておりその指示に従うので手一杯なんだとか。
「大分そっちは大変なんだって？ 戻らなくていいのかい？」
「はっはっは。まぁ向こうに置いて来た裕也などが頑張ってくれるはずさ」
「うーん。心配。ま、こっちはこっちのレイシフトを始めちゃおうか。良い？ 変なことがあったら、すぐ戻る事。良いね？」
「「「了解」」」
そう言ってカルデアのマスターとサーヴァントたちがコフィンに入り、レイシフトを敢行する。
そのレイシフトした先に待っていたのは、彼らの想像を絶する世界であった。
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「ここは……どこだ？ そもそもこんな景色、今までの人類史にあったか？」
「少なくとも……。私の記憶にはないね。一切。まったく」
「これは……、太平洋の空とはまた違いますね……」
彼らが辿り着いた場所は、異様な光景の高原だった。景色の向こう側に城がある。それは通常の人類史でも十分あり得る光景だろう。
だがその城と同時に、空には飛行機のようなものが飛んでいる。概算で10mは優に超えるような巨大な鎧が動いているのも見えた。明らかに人類史の"正常"を逸脱している光景だった。
城の周辺に目をやると、そこには無数の"騎士"と呼べるような風貌の人々が大勢存在している。そして城のふもとには、石造りの街並みが広がっているのを彼らは確認していた。
「空気が乾燥しているね。気温も少し寒いみたいだ。ここは……高地、なのかな」
「カルデアー？ 聞こえるかー？ おいダ・ヴィンチー！？ ダメだ。全然通じやしねぇ」
「ふむ。これはあれか。現地の協力者をまず見繕わねばならない……と言う奴か？」
「ルーラー。君はこれをどう思う？ 私としては、西洋風の城に高地という条件なら、スイスかアイルランド辺りと推測……いや、そもそもあのような形の城は人類史にはありえないか？」
「ふむ。少し待てマスター。誰かくるぞ」
リリィメリィが同行させたルーラーのサーヴァント、"隠されし首領"が耳をそばだてる。
すると高原の向こう側から足音が聞こえた。特異点の現地人ならば、何らかの手段でこの特異点の情報を得ることが出来る。
穏やかな人物だと良いが……と、そんな事を考えていたカルデアのマスターたちの前に現れたのは、思いもよらない人物であった。
「あ、志貴ー！ 誰か人がいるよー！ 鎧じゃないのー！」
「そう走らないでくれ。こっちはただでさえ寒くてやってられないんだから」
「んん……？ あれは……日本の、学生服という奴ではないのか？ 女の方は……野暮ったいというか、飾らないというか……。その辺のブティックで買ったような服装だな」
「どちらにせよ、あちらにいる鎧の騎士たちや中世風味なお城とは似合わなそうだねぇ……」
「俺たちと同じレイシフトしてきた奴……。って訳は無いよな」
高原の向こう側からやってきたのは、日本の学生服を纏った眼鏡の少年と、素朴な服装を纏った女性の2人組だった。
先ほどの観察でカルデアが見た騎士たちとは明らかに異なるその風貌。カルデアはこの2人を、どう見ても普通の人間ではないと悟った。
「お前さん方……何もんだ？ 見た所明らかにここら辺の雰囲気に合わない服装をしているようだが……」
「俺は遠野志貴。こっちは……まぁ一応、アルクって呼んでくれ。俺たちも何があったかは分からない。気づいたらここにいたんだ」
「よろしくねー」
「宜しくお願い致します。私は瑞鶴と申します」
「瑞鶴ちゃんねー。可愛いねぇ」
「えへへ……。あ、ありがとうございます」
アルクと瑞鶴が仲良く握手をしたり互いの服装や容姿を褒め合う。
その横では志貴と名乗った青年とカルデアのマスターたちが、互いに互いの現状を話せる限りで話していた。
「うーん……。彼らが嘘をついているようには思えないね……」
「何かの拍子に特異点に巻き込まれた、と見るのが普通かな？」
「そもそも、ここが特異点なのかどうかすらも怪しくなってきたな。先ほどの飛行機や巨大な鎧などと言った、卓越した技術が存在するのも気がかりだ」
「とりあえずあの……見えるか？ 城下町らしきものがあるから、其処に向かおうと思ってたんだが、その途中で君たちに出会ったって訳だ」
「了解。んじゃ俺たちも向かおうとしようか。よろしくな志貴」
「ああ」
「………………まさかなぁ。普通ロストサイクルに行ける方法なんてないはずだしなぁ……」
"隠されし首領"がしかめっ面で考える横で、カルデアのマスターたちは突如としてこの特異点と思しき場所に迷い込んだ志貴と協力を締結した。
城下町へと向かい、鎧に身を包んだ人々にここはどこなのかを問うた。するとみんな等しく、ここはアナトリアと呼ばれる『喪失帯』であると答えた。
『なんだ異邦人かい？ だったらここで上手く暮らしていきな。歓迎するぜ』
『騎士になりたいなら、まぁ努力すると良い。外征騎士団に入れば、きっと儲けることが出来るぜ』
『ミレトスの連中は知らない？ 知らないなら結構だ。あんなお人よし共、知らないに越したことはない』
「んー……ダメだな。特異点じゃないなここ。喪失帯ってなんだ？ 聞いたことも無い」
「私たちが行った……クロスロードとかとはまた違う感じ……でしたね。普通に人間とサーヴァントが共存している感じでした」
「当職の行った、探偵特異点に似ているが……。うーん、これは言うべきか言わないべきかぁ……」
「なんだいルーラー。随分と歯切れが悪いじゃないか」
「いやだってこれはなぁ……。うーむ」
「ッ！！ 待って！！」
城下町で得た情報を基に、今後どうすれば良いかを語る志貴たちとカルデアのマスターたち。
そんな最中、何か気配を感じたかのようにアルクが飛び上がって、猛スピードで駆けていった。
城下町の騎士たちの間を縫うように疾走するも、何かを見失ったかのように周囲を見渡して、志貴のもとへと戻ってきた。
「うーん。見失っちゃった……」
「またお前が言っていた"影"か？」
「うん。城下町の人込みに紛れていたように感じたんだけど……逃げられちゃった」
「影、とは？」
「ああ。アルクが此処に来てからずっと、何者かに見張られているような感じがするって言っているんだ。
こいつは勘が鋭いからさ。万が一を思ってたんだが……。俺もこの城下町に入ってから視線は感じるようになった」
「そいつがこの特異点…違う、喪失帯の首謀者か……。あるいはお前らがたをここに連れてきた奴かって感じか」
「ではまず、その影とやらを探しましょう。索敵機を飛ばします！」
「たのんだぞライダー。では儂はルーンで探ってみるとするか」
そう言い放ち、それぞれがそれぞれの行動をとり始める。影を探す為に、あるいはこの喪失帯というものが何なのかを知るために。
そうして一旦離れ離れになった後、"隠されし首領"がルーナティルに近づいて肩を小突いた。
「ん、なんだ？」
「何だではないわ。貴様"大神"だろ。見れば……というか名前で分かるわ。騙す気あるのか」
「おや、気付いていたのか」
「御身ならば、この喪失帯がどういうものか来た時点で分かっていたろう。何故喋らなんだ」
「それはお主にも言える事だ。何故、彼らにここが喪失帯だと分かった時点で言わなかった？」
「此処から帰る事の出来る手段など、ほとんど存在しないという事をな」
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『………………何故だ。何故争わない。最強の真祖よ。
君ほどの力があれば、この喪失帯を起点に、あのカルデアのマスターたちを起点に、カルデアも喪失帯も滅ぼせるはず』
『悪意の扇動が足りないのか……？ いや、彼女に直接手を出したら、逆にこちらが危ないか』
『……仕方ない。カルデア側に直接アプローチをかけてみるか。
ソロモン王のいないカルデアならば、あるいは────────』
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「うーん……レイシフトした彼らと連絡が取れなくなってしまった。
だから情報を集めてからのほうが良いって言ったのに……。しかし彼らがどの時間軸にも存在しないって、どういう事だ？」
「おい！ おいダ・ヴィンチ！！」
ダ・ヴィンチがカルデアの管制室で機会を弄りながら頭を掻いていたその時、カルデアに召喚されたサーヴァントである藤原保昌が駆け込んできた。
慌てふためいた様子で、どうにも何かがあった様子である。ダ・ヴィンチは寝耳に水といった様子で驚き、そして事情を聴いた。
「うわぁ！？ 一体何があったんだい保昌ちゃん！？」
「シミュレーターだ！ シミュレーターに異変が起きやがった！」
「シミュレーター？ 確かセイバーの安倍晴明くんやメアリー・アニングちゃんが使ってたはずだけど」
「それだ！ それで異変が起きたんだよ！」
「突然シミュレーター内に見知らぬサーヴァントとマスターが表れたんだよ！」
「はぁぁぁぁぁぁあああ！！」
「っ！ 落ち着け……！ 何故我々を攻撃する。いやそれより、どうやってここまでやってきた！？」
「貴方たちが"聖胎"を保有しているとイヴに教えられたので。時代の異変を解決するために、回収します」
「聖杯……？ 確かに私たちは持っていますが……。貴方は一体……」
「モニカ。モニカ・ジャスティライト。ただのサーヴァントです」
突如としてシミュレーター内に出現した少女のサーヴァントが、カルデアのサーヴァントと交戦する。
その攻撃手段は徒手空拳。モニカと名乗った少女は明らかに人間を超えた、人理の英霊であるサーヴァントと匹敵しうる膂力を以てして攻撃を放つ。
理由は明白だった。彼女もまた、サーヴァントであるからだ。だがしかし、カルデアには理解しきれない疑問があった。
「モニカ……？ カルデアにそんな真名を持つサーヴァントがいるとは、聞いたことがない。聖モニカが召喚されたとでも言うのか？」
「そうですか？ まぁ……些細な事でしょう。早く終わらせたいので、早急に決着を付けますよ」
「もしやデミ・サーヴァント……？ だとしたらデムデム団とかいう組織が絡んでいるあれか……！？」
「そもそもなんでシミュレーター内にいきなり出現したんだよこいつ！」
カルデアのサーヴァントたちがモニカとぶつかり合い、その正体を考察する。
だが招待などまるで掴めず、互いに争い合うのみ。そもそも彼女の目的からして不明なのだ。
なぜセイハイを求めるのか？ 何故ここに現れたのか。その全てが謎に包まれているからだ。
「そもそも聖杯を集めて何をするつもりだお前！」
「？ 聖胎は回収すべき。そう、そのために私たちはいる。そうよね？」
「えっと……。イヴが此処に、僕たちが回収するべきものがあるって、言ってんです」
「なに！？ マスター！？ サーヴァントだけじゃなくマスターまでいるぞアイツ！」
突如としてモニカの背後に、無垢そうな少年と、小さな妖精のような少女が出現する。
少年はモニカと魔力のパスが繋がっており、彼女のマスターであるという事は一目瞭然であった。だが同時に疑問も残る。何故、シミュレーター内に突然彼らが出現したのかと言う事だ。
サーヴァントだけならば突発的に召喚されたと、まだ説明できる。だが少年は明らかに人間だ。突然この空間に現れるはずがない。
そんな謎が謎を呼ぶ闘争の渦中の中に、この争いが仕組まれたものであると告げるべき者が、彼等のすぐそばまで迫っていた。
「────まったく、世話が焼ける奴だ。独断専行など……我々の計画にはない」
「……いや、計画通りにいかない道を歩むのも、確かに英雄の素質と言えるか」
「だが」
「これだけは看過できない。お前を唆した者は、我々と同じ側だ。このまま進めば、碌なことはない」
男が独り言葉を口にしながら、急いでカルデアへと向かっていた。
どのような方法で？ それは彼にもわからない。だが1つ分かることがある。彼自身も理屈が分からないが、彼には今、望むべき場所へと向かう事が出来る力があった。
ならば向かうしかない。このような奇跡的状況になった事を喜ばしく思いながらも、彼は焦りながらモニカの下へと向かう。
向かうその男の名を、ソルド・シャスフィアと言った。
◆
────夜観市、ビルの屋上。
眼下で繰り広げられる死徒と人間と異能者の闘争を、ビルの屋上から見ている影が1つあった。
美しい金髪に、姫のように整った容姿。幼い背丈に不釣り合いな豊満な乳房が目を引く少女だった。
名をイルミーナ・イントリーグ・アマランス。"最強"を求めるために夜観市を訪れた死徒である。
「ああ、さいっこー……。誰も彼も最高に強そうで……興奮しちゃうなぁ、私。
誰から負かして強さを奪おうかなぁー。誰の尊厳から破壊しようかなぁ？ あっは！ すっごい楽しみぃ！」
「楽しむのはいいけれど、人前で自慰をしようとするのはいただけないかな」
「っ、誰？」
頬を紅潮させながら、眼下で戦闘を行う矢衾、セイバー、そして両儀式の姿に興奮するイルミーナ。その背後に突如として声が響いた。
振り返るとそこには長い金髪に朱色の眼の女性が立っていた。茶のトレンチコートとハンチング帽を纏い、何より胡散臭い微笑みが特徴的な女性だった。
「……何？ 私今すっごい興奮してるんだけど、邪魔しないでくれる？
それともぉ、貴方が私の無聊を慰めてくれるのかしら？」
「申し訳ないが、私では到底満足させられる気がしないね。見た所、相当経験豊富に見えるからね」
「人を見る眼はあるみたいね。まぁ、こっちは答えは聞いてないんだけれど」
グギリ、とイルミーナが指を鳴らしながら臨戦態勢に入る。
トレンチコートの女性はそんなイルミーナを見て、肩を竦めるようにため息をついた。
「おっと、私は殺されるのかい？ そうなる運命なら仕方ない。
けれど、せっかく良い話を持ってきたというのに……それも言わずに殺されるのは、私としても心苦しいなぁ」
「………………いい話？ この夜観市で、私が27祖になれる可能性があるという話しよりも？」
「勿論。27祖がどういったものかは分からないけれど、それよりきっといい話だと思う。
さっきの言葉を聞くに、最強を求めているんだろう？ だったらきっと気に入るはずだ」
「未だギリシャの神々が生きている世界……興味はないかな？」
「へぇ……。面白そうじゃない。お義母(かあ)様が聞いたら、きっと喜びそう。あの人、最強とか神とか大好きだし」
◆
「へーっぶし！！」
「あらお兄様、風邪でも引かれましたか？」
「うーん……誰かが俺の噂をしているのかもしれない」
「噂されるほど知り合いいねーだろ兄貴」
「ちょっとディーティーム！？ 本当のこと言わないでくれる！？」
「そうだよオリーブ。真実はなによりも人を傷つけるんだから！」
「さりげなく肯定はするんだね俺に友達が少ない事！」
アメリカのとある街、サンウッドを歩く青年と少女の兄妹が、そんな他愛もない会話をする。特に目立った様子もない、普通の兄妹だ。
強いて言えば、妹と思しき少女の方が、口を開くたびに雰囲気と口調が変わる点が目立った点と言えるだろうか。この理由は、少女の精神性にある。
少女はとある理由により多重人格により複数の人格を宿しているのだ。名を、ディーティーム・オリジンストーンという。
「しかしディーティームが聖杯戦争終えてもう1週間かぁ……」
「祠堂さん……安心して天国へ逝けたのでしょうか……」
「色々と苦労させたみたいで……。すまん、俺が家から逃げ出したのが、なんかこんなことになって」
「マ、家に帰らずにこうして逃げ続けられるのは兄貴のおかげだし、別に気にしてねぇぜ」
「昔のことは昔の事だしね。あい変わらず最強厨なのは変わんないっぽいけど」
「そりゃあ、まぁ、俺のライフワークだし。最強を求めんのはな」
「はぁ、先が思いやられますわ……」
ディーティームがため息をついてこの先を憂いた。彼らが話しているのは、ディーティームがかつて参加した聖杯戦争についてだ。
過去に語られた英雄を使役して、願望機を手に入れる為戦う聖杯戦争。彼女はかつてそれに参加し勝利を得たが、ある1人の魔術師の願いをかなえるために聖杯を手放した。
そのために彼女は自分の家に聖杯を持ち帰ることが出来なかったが、放蕩していた兄であるアビエル・オリジンストーンと合流して世界中を旅している最中であった。
彼女はこの選択に後悔はしていない。むしろこうすることで家の宿命や、母親から強制され続けた厳しい修行から逃げ出すことが出来たので、むしろ肩の荷が下りたかのように安堵していたのだ。
「しっかし、今こうしている間にも聖杯戦争ってのは起きてるのかね」
「どうだろう？ 僕としては聖杯戦争に参加したのはあの日のが最初で最後だったけど、他でも起きてるのかな」
「ボルドーお前調べたろ俺たちで？ 現在聖杯戦争は世界中で多発してるってあったろうが！」
「あれー？ そうだったっけ。僕忘れちゃった」
「お前なぁ……！」
「どうどう。自分同士で喧嘩しない。まぁ世界中で起きているとは言っても、それを見分けるなんてむずいしなぁ」
「まぁやっぱり、サーヴァントがいるかいないかが聖杯戦争発生の見分け方だと思いますわ、私は」
「ふーん、あんな感じで？」
「へ？」
アビエルが目の前を歩く2人の少女を指さした。
人を指差す物じゃないですと注意しようとしたディーティームだったが、その指差す先を見て目を見開いた。
目の前を歩いていたのは、無精髭の男性とポニーテールの少女だった。
男性の方は鎧に身を包んでおり、明らかに街中に歩くような恰好ではなく。遠目からでも感じられるその風格が、普通の人間では無いことを示している。
少女の方は服装こそ学生服の上にレインコートを羽織るという少々奇抜な程度だが、腰に2本の刀を帯刀しているという、これまた異様な装いであった。
「えーっと……ここアメリカだよな。アキバじゃねぇよな」
「はい……。アメリカのサンウッドという土地で間違いないはずなんですが」
「それだけじゃねぇ。あの鎧騎士……魔力からしてサーヴァントで間違いねぇぞ」
「え、嘘……じゃあこの街で聖杯戦争起きてるの？ マジで？」
「とりあえずお兄様……。まずは慎重にどうやってこの街から出るかを考……」
「すいませーん。おっちゃんもしかして英霊ですかぁ？ 失礼ですがどれぐらい強いかを教えてもらえます？」
「あんの馬鹿兄貴！！！！」
臆することもなくサーヴァントに平気で話しかけるアビエル。
下手すれば殺されるかもしれないそんな行動に走った兄を諫めるべくディーティームが走る。
アビエルは目的を見つけると周りが目に入らなくなる精神性を持ち、最強と見るや後先考えない行動に走ることが多々あるため妹の苦労が尽きないのだ。
「おっ、なんだ俺たちのファンか何かか？」
「いやぁーサーヴァントなんて見るの久しぶりだなぁ。その鎧自前です？ かっこいいっすねぇ！」
「へぇ、アンタ鎧の良さが分かるのか。画面越しに聞く声援もいいが、直接言われるのも気分が良いな」
「調子に乗るなセイバー。都市戦争が終わったばっかだからって鎧のままでいるから目立ってるだろうが」
「まぁそういうなよ。こうやって足で名を広めるのも立派な仕事の1つだろう？」
「お前なぁ……」
「ちょちょちょちょっと……。打ち解けてるようですけど1つ質問を……！
な、なんでサーヴァントを霊体化させずに連れているんです……！？」
ディーティームは、セイバーと呼ばれた男を連れる少女に対して慌てふためきながら質問した。
サーヴァントという存在はそれだけで非常に優れた戦力であるため、通常ならば神秘の秘匿の観点からもあまり表沙汰にするべき存在ではない。
だというのに少女はサーヴァントを普通に連れている。何故と問うディーティームだったが、帰ってきたのは想像とは異なる答えだった。
「………………いや、サーヴァントを連れているのは当たり前だろ？」
「────────────え？」
ディーティームは呆然とした。
なまじ聖杯戦争に参加した過去を持つがために、サーヴァントの恐ろしさを知っているからだ。
だが少女が言うには、サーヴァントを連れる行為は当たり前であるというらしい。
今も複数のサーヴァントとマスターで疑似的な聖杯戦争を行う都市戦争……『都市間対抗擬似聖杯戦争』を行った帰りだというのだ。
「難波では一般的な興行だが……お前たちは知らないのか？」
「いやぁアメリカ進んでるなぁ！ サーヴァントを興行に使ってるんだって！」
「お前バカ兄貴明らかにおかしいって気付け！ そもそもナニワってなんだよここサンウッドだろ！」
「サン、ウッド？ そんなとこ聞いたことも無いが……」
どうにも話が噛み合わない。不可思議に思った少女のマスターは自分たちについて話し始めた。
少女……逆�端覯擦蓮⊆�分はモザイク市「難波」という街に住んでおり、先ほど言った都市戦争に「難波軍」として参加していると言った。
いつものように都市戦争を終えたと思ったら、気が付くとこの場所にいたのだという。
「見ない景色だとは思ってたが、まさかアメリカにいるとはなあ」
「話に聞いた、残響時間だったか？ その魔術師がまた何かやらかしたのか？」
「そもそもサーヴァントが当たり前ってのが俺たちの常識と違いすぎるわ……。あ、俺アビエルって言います」
「私はディーティーム。ディーティーム・オリジンストーンと申します。以後お見知りおきを」
「……オリジンストーン？ どこかで」
「ところでその剣なんなの？ 変な感じがするんだが─────」
「っ、触るな！」
何処かで聞き覚えのある姓に訝しむ朱音を気に留めず、アビエルは彼女の携えている刀のような礼装に興味を抱いて覗き込む。
見たところ擬似的な魔術回路でも組み込んでいるようだが、流石に観察するだけではその具体的な構造までは把握できない。
だからもっと詳しく知ろうとアビエルは、横で小突いて止めようとするディーティームを無視して礼装に手を伸ばした。
咄嗟に朱音は礼装を後ろ手に隠そうとするが、すんでのところで間に合わず、アビエルの手が一瞬だけ触れ──────────、
その瞬間、アビエルの背筋に得体の知れない怖気が走った。
「うわぁっ！！！？」
「ど、どうしましたお兄様…！？」
「ったく、人の物を許可も取らず触ろうとするからだ」
余りにもおどろおどろしい"ナニカ"を感じ取ったため、アビエルは飛び上がる様に後ろに下がってしまった。
通常恐れる事も退くことも選択肢にないような怖いもの知らずのアビエルだが、朱音の礼装に内包される正体不明の"ナニカ"には、心から恐れを感じた。
いや。正体不明ではない。アビエルはそれを知っている。かつてどこかでそれに触れたことがある。対峙したことがある。その名をアビエルは、恐る恐る口にした。
「あ、あのー……。間違ってたらマジで申し訳ないんですけど」
「……なんだ。言っとくが刀(コイツ)はもう触らせねえぞ」
「その……もしかしてメイソンとか……。あとはルシファーとかその辺の関係者、だったり？」
「はぁ？ んなヤツ、会ったことも聞いたことも無いが」
「あ、ですよね。アハハハハハ、アハハハハハハハハハ！」
「─────動くな」
「へ？」
冷や汗を垂らしながら笑っていると、突如としてアビエルが背後から銃を突きつけられた。
余りに唐突な出来事にドッキリか何かだとアビエルは一瞬思考したが、背中に当たる冷たい金属の感触で笑えない現実だと察した。
ディーティームと朱音、セイバーは即座に臨戦態勢をとるが、周囲にはアビエルに銃を突きつけた少年兵と同じような服装の兵士たちが並んでいた。
「ちょ、ちょちょちょっと！！？ なんですこれ！？ え？ 何！？ 何なの！？」
「こっちが聞きたいぐらいだ。"存在しないサーヴァントを召喚する"など、一体どうやって召喚した？
最近見かける"妖精"とやらの都市伝説と、何らかの関係があるというのか？」
「っ、気が付けば、周囲に人が1人もいない……？ 人払いが働いている！？」
「何なんだ、どいつもこいつも。まるでサーヴァントに希少価値があるみたいに話してやがる」
「いや、アビエルとやらの反応を見るに、むしろ俺たちの方が異質なんだろう。いわゆる、並行世界とやらに迷い込んだのかもな」
「……笑えない冗談だな」
「……どうします？ 相手がサーヴァントを連れてないなら、こっちに分があると思いますけど」
「いや、相手は恐らくサーヴァントのことを知っている。そんなやつらが対策なしに来るとは思えない」
「それに何より─────あっちにも、"いる"みたいだぜ」
そう朱音がディーティームに告げた直後だった。銃を突きつけた少年兵の隣にサーヴァントが突如として出現した。
宇宙服を纏った男だった。服装は近代の人間としか言いようがない姿ではあったが、その持つ魔力量は確かに英霊のそれだった。
「へぇ。宇宙飛行士もサーヴァントになるのか。こいつは驚いた」
「そちらのクラスは……セイバーか。既に確認されているというのに、一体どうやって召喚したのやら。
もしや、既に誰かが敗退して次の補充が始まったのか？ 俺のように」
「いや、霊器盤を見るにサーヴァントの総数は減っていない。完全に外部から訪れた英霊なのは間違いないだろう」
「あ、あのー……。もしかしてこのサンウッドで聖杯戦争が既に行われていたりとかなんだりでして？」
「答える義理はない。────はい、こちらエクス。……はい、はい……。はい。了解しました。
ついてこい。依頼主が会いたいと言っている。お前たちに興味津々みたいだぞ」
「そ、そいつぁー、嬉しいやら悲しいやら」
「いや。俺たちを連れていくのは、少し待った方が良いぜ」
「何？ 命乞いなら、雇い主のもとに行った際に聞いてやるが……」
「そうじゃねえさ。─────ヤバいやつが、こっちに向かってきてるみたいだからな」
朱音の連れるセイバーが、口端を吊り上げながら笑ってそう告げた瞬間だった。
突如として何かが降下するような音が響き、衝撃波が巻き起こった。アビエルに銃を突きつけていた少年兵もこれは予測できなかったようで、即座に自らのサーヴァントと共に臨戦態勢に入る。
ディーティームはその隙を突いて兄の首根っこを掴み、可能な限り距離を取り逃げ出した。朱音とセイバーは臨戦態勢を取りつつ、降下してきた存在を観察する。
「うぅ……髪もドレスもボッサボサ！ カッ飛ばしすぎなんだよランスロット！ 私たちの事も考えろ！」
「逃げられたら困るからね。可能な限り急いでみたのさ。とにかく、話が出来そうな人間に会えて助かったよ」
「しかし、本当に妖精たちが見当たらないな。地理的にもここがブリテンとは思えない。まぁ、彼らから聞き出せば分かる事か」
表れたのは、3人の女性だった。
背の高い屈強な女性騎士。ドレスを纏った赤髪の少女。そして甲冑に身を包んだ小柄な少女であった。
纏う魔力だけで分かる。彼女たち3人はサーヴァントに匹敵、あるいはそれ以上の実力を持つ存在であった。
それだけではない。セイバーは赤髪の少女が呼んだ名前に聞き覚えがあった。
「ランスロット、“あの”ランスロットか？ ……ほぉ、背丈は小さいが名乗るだけの、いやそれ以上の力量はあるか？」
「感心してる場合か！ 見たところ3人ともかなり強い。それもあの青いヤツは特段厄介な気配がしやがる」
「……ふぅん。君のその武器、“よくない”ものを感じる。モースとも違うみたいだけれど……」
「何だって良いじゃない。ブチ壊しちゃえば同じでしょ？」
「さて、どうする。様子見した後に撤退するのが一番よさそうだが」
「わかってる！ 問題は、それができるかどうかってことだが……」
少年兵エクスとその仲間と思しき者たち、エクスのサーヴァント、そして朱音とセイバーが全力で警戒態勢に入る。
それほどまでに、出現した3人は強力な力を持つ存在だった。そんな光景を嘲笑うかのように、赤髪の少女はケタケタと笑っている。
一方で、屈強な女性騎士はその様子に困惑の色を覗かせていた。
「あっははは！ コイツら、もしかして私たちに敵う気でいるの？」
「彼らを刺激するなトリスタン。……聞け、人間。こちらに敵対の意志は無い」
「ランスロットの次はトリスタンか。確かにアイツの髪も赤かったが……。 ってことは、あのデカいのはガウェインか？」
「幻霊みたいに混じってるのとも違うみたいだな……。形だけ真似たみたいな、妙な感じだ」
「ちょ……！ ディーティーム離して！ 最強の気配が凄い！！ あれ多分ロンドンの地下で感じたやつと同じだって！」
「だまってろクソ兄貴！！ 今は逃げるのが先決だ！！」
「この状況ですら最強に執着するって呆れますわ……」
一触即発な雰囲気から少しでも距離を取るために、アビエルとディーティームは走り出していた。
アビエルは飛来した騎士たちに何かを感じたのか文句を言っていたが、妹に叱られた為にしょんぼりとしながらも逃げていた。
────────そんな逃げる2人を、ビルの屋上から敵意を以て見下ろす人間がいたと彼らが気付くのは、もう少し先の事である。
「とうとう、見つけた……。アビエル。アビエル・オリジンストーン……！」
「私の世界を滅ぼした、元凶……ッ！！」
◆
失われた世界も、剪定された可能性すらも、もはや等しく混ざり合った。
彼らの出会いは何を生み出すのか。そしてその背後に潜む者の、真の目的とは何なのか？
世界が完全に混ざり合った時、この世界に出現する影によって、その答えは明らかとなるだろう。
真実が詳らかとなったその時、彼らを襲うは絶望か、あるいは────────。
「いますぐ、モザイク市に、かえらなくちゃいけないんだ……」
「あの存在には……カルデアだけじゃ勝てない……。いやそれ以上に……何か"取り戻さなくては"…勝負の土台にすら、立てない……！！」
世界が終わる。世界が、始まる。泥裏たる世を正す為に、破滅を齎す影の偉業が、此処にある。
────────to be continued→
nevadakagemiya
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