ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

一騎が落ちた。聖杯戦争は、確実に進む。

必ず次なる脱落者は出る。我が望みには全騎の脱落が必要だろう。

とりあえず、面倒なのはあのアサシン。

戦争を停滞させようとしているうえ、戦闘力も高い。

…とはいえ。セイバーに敵う英雄など、いるはずがないが。



戦争を止めようとする者がいるなら。加速させようとする者もいる。それは当然の摂理。

















                        Fate/Split Sisters











                           **



「ねえ薫!起きて!」「流石に寝すぎだと思う。」
うーん。学校はたしか休みだし。
「起きなかったら…」「どうしちゃおっか。」
うーん。そもそも聖杯戦争…そうだ。
飛び起きた。今は聖杯戦争中だ。寝てたら危ないじゃないか。
「起きた!」「あと少しだったのに。」
僕の顔をじっと見つめる二人の少女。アーチャーのサーヴァント、キスキルとリラ。
そして右手を見つめる。聖杯戦争に参加している証、"令呪"がくっきりと。
そう。僕、姫咲薫は、魔術師同士の殺し合い、聖杯戦争に巻き込まれている。

「さあ出かけるよ薫!」「この家はあらかた荒らしたし。」
「というか薫って健全男子だね!」「その手のあれ、全くないし。」
うーん。酷い話だ。
キスキルとリラは僕が寝ている間にこの一畳間をひっくり返し、飽きたから街に出たいという。

まあ確かに、二人の参戦理由は『現世を見て回ること』。それを叶えさせてやるのは、マスターの役目だ。
「じゃあ出かけようか。とりあえず霊体化してもらって…。」
二人の服装はコスプレみたいだし露出が多いし、落ち着いてみるとドキドキしてしまう。いやいや。そういうことは考えるな自分。
「霊体化とか風情がない!」「服貸してくれたら問題ない。」
え。
言って二人は当たり前のように僕の服をタンスから取り出す。そして。
「消えろ!」「消えて。」
そう言うと、二人の身を包む服は跡形もなく消え去った。…あの。
「その。目をふさぐ隙とかくれてもよかったんじゃないかな…。」
「ノーカンでしょ!」「女の子みたいな顔に視られても。」
理不尽だ。ともかく二人はあっさり脱いで、あっさり着替えた。下着はさすがに持ってないぞ。もうそんな羞恥心なさそうだけど。

そうして。とりあえず二人を連れて出かけることになった。…兄妹には、見えないだろうなあ。
「両手に花だね!うらやましい!」「三人姉妹。仲睦まじい。」
三人姉妹に見えたらまだマシかなあ…。とりあえず、この街を紹介しよう。マスターとして。うん。



                           **


とりあえず適当に街の中心へ。とはいえ知り合いには会いたくない。友達といえるほどの人はいないけど、更に距離を取られてしまう。
「見て見てあそこのお店!」「こういうデートにぴったり。」
「あそこのビル大きいね!」「女物の服とかほしいかも。」
そんなお金は申し訳ないけどない。というか二人とも、手を捕まえようとしてくるのが怖い。喰われる。

「あー二人とも、悪いけど見て回るだけね。お金ないから。」
独り暮らしでお先真っ暗。それが僕の生活事情だ。
「甲斐性なし!」「お金なし。」
「お金がないと縁もないよ!」「そういえば仲のいい女の子は?」
仲のいい女の子。言われて思った。そういえば、あそこにもよるべきか。
そんなに見栄えのいい場所じゃないけど、この街を語るなら外せない。




                           **



一気に人気がなくなる、誰もいない場所。単なる路地裏ってだけじゃこうはならない。
ここは何者かに破壊された傷跡が強く残っている。ここは人の死のにおいがまだ残っている。
崩壊した路地裏。10年前の聖杯戦争の決戦が起こり、みな死んだといわれる場所。
そこに、来た。

「ここ、良くない感じがするね、リラ。」「連れてきた理由はあるんだろうけどね、キスキル。」
「ここは10年前の聖杯戦争が終わった場所。…そう師匠に聞いた。」
「師匠!初めて聞く話!」「師匠。意味深な響き。」
「まあそんな大した話じゃないよ。単に友達の女の子。少し年上。それで師匠って名乗られた。」
そうして、少し昔の話を語る。

10年前の謎の多発変死。孤独になった子供は少なくなかった。僕もその一人だった。
そして、師匠も。その一人だった。青い髪の女の子。きっかけはどうあれ、初めての友達だった。
この路地裏で初めて出会った。お互いに魔術の素養があると分かったのはすぐだった。
シンパシーという奴だろう。ここに来るたびにたまたま出くわすようになった。
師匠は少し魔術に詳しかった。僕へ軽い指導をしてくれた。だから尊敬と憧れは強くなっていった。
なのに。

ある日のことだった。師匠からこれっきりだと告げられた。
「聖杯戦争。それがあの事故の正体だった。私と薫は会うべきじゃなかった。」
一方的な決別。聖杯戦争なんて、まだ教えてもらってない言葉だった。もっと教えてほしかった。離れたくなかった。
それで、終わりだった。…あの日までは。

一息つく。キスキルとリラは静かに聞いていてくれた。
「ねぇ、薫。」「あの日って、もしかして。」
「そうだね。僕が学校に遅くまでいた理由。君たちを召喚した運命の夜。
…学校で師匠を見つけた気がしたんだ。そりゃ、久しぶりで確証は持てないけど。
でもあの青い髪、髪型だって。そっくりだったんだ。」
そう、師匠の奇麗な青い髪。二つに結わえられたツインテール。…昔はもっと短かったけど。
それは珍しい色だったし。奇麗なグラデーションだったから、覚えている。
(初恋ってやつかな?)(まだ憧れどまりかも。)

二人がひそひそ喋っている。…ん?足音だ。そちらに目を向ける。
その姿を見た僕は。絶句するしか、なかった。

「…久しぶりだな。薫。」
近づいてくる。
「…本当に久しぶりだ。」
青い髪の少女。
「お前のほうは、忘れてしまっているか。」
違う。そんな訳ない。
「まあ、忘れていたほうがいいかもな。」
何か返さなければ。待望の再会だぞ。
「…師匠、ですよね?」
そう、一言。返ってきた答えは。
「渚 悠歌。私の名前だ。もう師匠じゃない。覚えられないならーーーーーーーーーーーーーーーー」
光が師匠の横に射す。最悪の予想をする。
「ーーーーーーーー単に、ライダーのマスター。そう覚えてもいい。…アーチャーのマスター。」
同い年くらいに見える、緑衣の少年が師匠の横に降り立つ。予想は、当たってしまった。

間違いなく、師匠も聖杯戦争の参加者。僕と殺し合う相手の、一人だ。

「こんにちは。僕はライダーのサーヴァント。マスターの命に従い、キミたちを倒しに来た。」
「…最初に提案したのはおまえのくせに。
さあ、そこの二人がアーチャーだろう。"知っている。"」
知っている、か。知っている人のはずなのに。何もかもが違って見えた。
「キスキル、リラ。やるしかない。…目的は、わからないけど。」
「闘っていいのか、わからないけど。」「勝てるかどうか、わからないけど。」
「「やるしかないなら、やるしかない!」」


師匠には何か考えがあるはず。そう願いながら、立ち向かう。
まだ覚悟は、出来ていない。

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