ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

謎の空間。夢と現実の狭間。そこに呼ばれた人々は、何をできるのか。
ザイスティス・コールマン。そのサーヴァントノーベル。かつての聖杯戦争で遺志を受け継ぎ。受肉したサーヴァントと共に闘い続ける者。

大賢者マギ。"敗戦"のセイヴァー、修身。かつて相対し、再び巡り合った2人。悠久を生き救世を願う者と、期せずして救世主のクラスを得た者。

アラディア・ヘロディアス。魔術の祖を名乗る女神。そうあれとされた者。そしてその虚な伝承が、女神ヘロディアスとの合一で霊基を満たし現界したサーヴァント。

流火。付き従う謎の影。壮絶な運命の果て、確かに何かを掴んだ少女。そのサーヴァントは、来たるべきその時まではやってこない。

御門遙。かつては聖杯戦争に参加したこともあるようだが、今回はサーヴァントを連れていない。しかしその覚悟と胆力は、正しくマスターに相応しいそれである。

彼らは集った。集わされた。ここから先の打ち棄てられた歴史を見るために。見せつけられるために。
虚無に閉ざされた子供部屋で、トランプを見つけた彼らは。絵柄とそれが記されたものを合わせることで世界を飛べると知った。
そして飛んだ先は、崩壊した戦線。苦しみに満ちた要塞。トランプに関連づけられた絵そのものの光景だった。

ここから始まるのはなんだろうか。救えない者たちを救うことか?哀れにも敗北した者達に眠りを与えることか?
それは、これから語られる。

────結末




         終焉


破滅                  



    幕引

               最後




        


   敗北



絶滅








喪失


LAST CLOSING


いつか来たる終わり



**

2.敗者必滅の崩壊要塞

光に包まれた先。目の前にあるのは、立派だったはずのボロボロの要塞。
見渡すと要塞を守る兵士たちの一部は体調悪そうにぐったりと壁に腰掛けており、中からも苦しそうなうめき声が聞こえてくる。
敗戦濃厚。そんな有様だった。

「ふむ……要塞か。」
「スペードの9と言うわけじゃな。どうやらお主の小細工は無意味だったようじゃな、マスターよ。」
「……ほっとけ。」
ザイスティスとノーベルが軽い掛け合いをする。
ハートへと書き換える試みは失敗した。それ以外の道は許さないとでも言わんばかりに、たどり着いた先は要塞。スペードの9が示した場所だった。
「……本に描かれていたのと同じみたい。さっき触れたので発動したなら、ページとトランプを合わせれば――という。」
アラディアの推測は、果たして当たっていた。
本とトランプを同時に持ち、触れさせたことで世界は変わった。何はともあれ道は開けた。
「他のトランプでも、似たようなことが起きるかもね。」
遙は言う。実際、そうでなければ。この世界を渡り歩き、脱出することなど望めない。

状況把握をしていると。見張り台の兵士たちが、こちらに気づいた。
「敵が来たのか」
「憎たらしい敵が来た」
「恨めしい敵が来たぞ」
途端に要塞が慌ただしくなる。兵士たちが疲れ果てた身体を叩き起こし、臨戦態勢を取る。
まず、遙が己の魔眼を使った。眼鏡を外し、敵意を視認する。敵意は、強烈なものだった。
「……凄いな。右も左も魔眼持ちだ。魔眼収集のためにでも集められたのか、俺たちは。」
横で見ていたザイスティスが呟く。彼も魔眼を受け継ぐ者だから。
「まさか、私が片目を隠す理由を早々に看破するだなんてね。冗談ですけど。」
アラディアが余裕たっぷりに嘯く。流石サーヴァント、この程度では動じないのか。
「まあ、見る必要はなかっただろうけど。会話が通じるかは大分怪しいよ。」
そもそもまだ距離が遠い。対話を試みるには何もかも足りないようだった。
「演技ではなく本気で敵意をもって向かってきているから。対話とかをしたいならば、落ち着かせることが必要でしょ。」
遙はそう、結論付けた。

「さて。」
唐突にマギが呟く。
「眼ではないですが、私もそれなりに。」
言って、彼女は不思議な構えをとる。目を閉じ、手を広げ。全身の回路を、構造を、神経を。集中させ、"検索"を始める。普段と違ってノイズは多量に混じっていたが。
指針を示すには、十分だった。
「検索。要塞の奥深く。スペードの本と同じ魔力を感じます。」
それは予測ではなく観測。絶対的な確信がそこにあった。
「それじゃあ、それを手に入れたらまた別の場所に出れるかもね。」
「他に指針はないし、要塞に入ることが目標になるのかな?」
聞いて、遙が結論を纏める。皆も当然、同意する。
「……そうなるね、強行突破か。あるいは抜け道でも探すか。」
ザイスティスの提案。争うか、争わないか。
「痛々しい人たち。あまり、争いたくはないです…。」
セイヴァーはやはり、争いを出来るだけ起こしたくないようだ。特にその限界に近い兵士たちは、彼女に何かを思い出させるものだった。
「幸いにして負傷兵が多い、本調子ではないだろう。サーヴァントの力をもってすれば、押し通る事は不可能ではないかもしれないが。」
とはいえザイスティスも、あくまで損益の観点から、彼の"鑑識眼"による分析からだが。本格的な戦闘は避けたいようだった。
「それこそゲームブックみたい。 白旗、掲げてみましょうか?」
アラディアが試しに白旗を伸ばし掲げてみる。変化はない。それどころか、こちら自体すらはっきり見えていないようだ。ザイスティスの鑑識眼がそう告げた。
「……あら、駄目みたい。むやみやたらに乱暴な手立ては取りたくないのだけど。」
「……状況があまり見通せないし、消耗は避けられるなら避けるべきかな。」
流火も、直接戦闘は避けたいようだった。

「んー。例えばだけど、とりあえず一定の距離を取って戦闘にならないようにしつつ。
興味を引いているうちに私と誰かが…本の気配を見つけた人が良いんだけど、それを取りに行くのはどうかな?」
そう、ある程度平和的な提案を遙が取った時。
ザイスティスが異変に気づいた。
「……ん?待て、何か様子がおかしいな。あの兵士たち。俺たちを見据えていない。
焦点があっていないというか…ただ敵が来たと叫んでるだけだな。」
「……正気を失っているのか?」
見据えていない。そこに閃いたのか、遥が大胆にも行動する。
眼鏡を外し、魔眼を起動し。
「もし襲ってきたら逃げるけれど、逃げ遅れたら戦闘になるんだよなあ…。」
そんなことを呟きながら、単身弓兵の軍勢に近づいていく。
近づけば当然、弓矢が放たれる。
「っ…!おいさっさと引け!アンタ死ぬぞ!」
ザイスティスは止めようと、守ろうとしたが。その結果は意外な展開を見せた。

弓を引く力はあまりに弱かった。その狙いはとてもまばらだった。
「ん?」
少し遙は考え込んで。
「たぶんサーヴァントと一緒にいれば、問題なく突破できるよ。突破しようとする私に、集中して殺気が来たわけでもないんだよね。」
「私個人にだけ、殺気を向けているわけでもないことがわかったよ。」
「…そういうの、よくわかるから。」
「……やっぱり、眼鏡付けてる方が落ち着くな。」
そう言いながら、戻ってきた。

「そっか……」
少し、流火は遙の身を案じる。彼女たちは、かつてとある聖杯戦争で出会っていた。流火は遙と、あと少しの人たち。彼女らによって救われた。
そこには深い絆が。
流火は続ける。
「すり抜けて通れそうだし、そうした方がいいかな。勿論、警戒は怠らずに……だけど。」
「サーヴァントがいるのであれば、問題なく通過はできるか。」
「強行突破といきましょうか。…敵になりえるのかさえ分かりませんが。」
ザイスティス、マギも同意する。正面から行っても戦闘にならないというなら、異論は生まれなかった。
「あっ。最初に入ろうとして置いてなんだけど。私はただの人間だから、身の安全は周りに大分任せるね。」
御門遙。彼女は勇敢だが、あくまでこの場で一番非力。協力するのなら、護ってやるほかないだろう。それに応えたのはアラディアだった。
「お任せあれ。」
そう言って彼女は何かを唱え。影の軍勢が現れた。騎行せし影乙女。アラディアの背後に続く、動物に騎乗した亡霊乙女たち。
「肉盾、肉盾? は貴方達に任せるわ。」
乙女たちはアラディアのその言葉に少し不平と不満を浮かべるが、従う。

「さて…通過はできるとして、だ。あの兵士たち、どうする?」
ノーベルが一つの問いを、皆に向かって投げかける。
「下手に攻撃したら、本格的に敵とみられるかもしれないし。」
遙が答える。あくまで損益を軸に考える。
「要塞の中へ入ってから包囲されるという可能性も、考慮するべきではないかね?」
ノーベルもそれに倣う。
「そもそも脅威になりそうにないなら、放置して良いんじゃない。」
「さっきと同じならば、包囲されてもまた光に包まれて別の場所に行く可能性の方が高そうだし。」
何もわからない世界。それでも出された情報から推理する。
「……なるほど、それよりも先に次の空間へのキーを手に入れてしまえばいいという訳か。」
ノーベルのマスター、ザイスティスが引き継ぎ合点する。
「あのくらいの練度なら、きっとサーヴァントが四騎も居れば問題ないでしょう。増援がなければだけど。」
サーヴァントの1人、その中でもトップクラスの戦闘能力を持つアラディアが太鼓判を押す。
「虎穴に入らずんば、なら電撃戦だ。乗り込むとしようか。」
ザイスティスも、乗り込む決意を固める。
「……駆け抜けよう。」
流火も、同じく。
「どんな状況かもまだ分からないけれど、じっとしていても何も起きないでしょ。」
先導者たる遙が、勢いよく。
「私としては、異論はないですが。…セイヴァー。」
「奥に何か、マスターさんのいう本や、それ以外の何か。それがいる可能性も、あります。」
マギとセイヴァーは、少し慎重に。要塞の中、まだ見ぬ敵を警戒する。
「其の時はセイヴァーちゃんに頼むわ?」
アラディアは、心配するセイヴァーに微笑む。あなたがいれば安心よ、と。
結論は出た。正面から、突破する。しかして敵は傷つけない。そんな無茶苦茶な作戦は、果たして。

**

矢の雨が降り注ぐ。しかしそれは見掛け倒し。当たらなければ、威力も低い。サーヴァント達が振り払えば、誰も傷つくことなく正門までたどり着けた。
「おい、あんたら。俺たちは敵じゃない。」
そうザイスティスは改めて。声の届く距離なら対話が通じないか試みる。しかし、返ってくる声はなかった。
「……まるで、酔わされてるみたいだ。」
「操られているようにも、見えます。」
流火とマギの見解。とにかく彼らは無機質な動きだった。
「ちっ…反応なしか。正門までたどり着かれたと言うのにこれじゃあ、対話は期待しないほうがよさそうだね。」
ザイスティスがそう言った時。対話を試みた声そのものに反応したのか、矢が飛んできた。それは至近距離のものだったが。
アラディアと流火のサーヴァント、その姿なき剣。2人によって難なく切り払われる。
「っと、悪い。余計な事をしてしまった。」
「良いよ。そういうのが通じないのがわかるだけ。」
「そこに生きる人間ではなく霊のような意識の残滓か、作り者なのかもね。」
「規定された行動しかできないから、対話はできないって感じ。」
そう、遥が締める。こうなれば、出来ることは一つだけ。正門の前に立つならば、それが容易に開くものならば。
門に手をかける。難なく開いた。

**

正門を抜けた先では、兵士たちが待ち構えていた。
一瞬、警戒の態勢に入る。
しかし彼らがあなた達を襲うことはない。
なぜなら彼らは、床に倒れて呻いているから。
「苦しい…」
「援軍は…援軍はまだなのか…」
「もうダメだ…アルタゲルスはおしまいだ…」
「…。痛ましい。」
マギが思わず呟く。その苦しみは、検索するまでもなく明らかだった。
通路を見渡すと正面には居住区への大きな道があり、その先に礼拝堂があるのが見える。
右側に壁の上へ登る階段への道があり、左側には扉がある。


「アルタゲルス…?」
「そんな城とか土地の名前、みんな知っている?」
まず気になった言葉を、遙が問う。そして、流火が答えた。
「……アルタゲルス。アルメニアの、要塞の名前だ。」
「ふむ…?」
ザイスティスが少し、興味深そうに。
「ローマとペルシアの間にあって、ペルシアに攻められて、それで……。」
「アルタゲルスにはファランゼムっていう人がいて、頑張ってたんだけど。努力もむなしく、疫病で兵たちが倒れて陥落しちゃった……って聞いたことがあるよ。」
「多分、ここは丁度その時代なんだと思う。」
流火が、自身の知識を。痛ましい歴史を、語った。
「確かに、アルタゲルス要塞で違いはないが…ファランゼムの時代にしては建築が進んでいる。」
ノーベルが補足する。それは、この世界が歴史に消えた要塞そのものではなく、作り物である証だろうか。
「誰か治療技術のある人はいるかな?彼らを治療すれば、あるいは情報を引き出せるかもしれない。」
ザイスティスの提案。情報が欲しいのは統一された見解ではある。
「……医学なら、一応。できないことも無いけれど。」
流火が、立候補する。アルタゲルスの末路を知っていても、彼女には見捨てられないのだろうか。
「正直、治療せずに探索するのも一つの手ではあるよ。……さっきの兵士と同じなら攻撃をしてくる可能性もあるし、下手すれば。」
(……苦しむことだけが役割として与えられたから治療しても意味がないかも、は言う必要がないかな。)
遙は少し、最後の言葉だけ言うのをやめた。きっとそういう問題ではないような気がしたから。
「…アルタゲルス。敗残者の砦。敗北の運命にあるモノ。…救ってしまえるのでしょうか。」
マギは悩む。救いたいのは当然だ。しかし、アルタゲルスの結末は、敗北は。マギも知っている。でも。
「……それじゃ、どうしよっか。……と言っても、私がやるしかないよね。」
その流火の意志を、否定することはできなかった。苦しむ兵士に向かって流火が近づく。そうすると。

兵士は未だ剣を堅く握りしめていた。そして、その兜に隠された顔は人のものではなかった。
敵が近づいてきたから、斬る。その指定された行動を、苦しみにもがきながらも救いの手にすら気づかず実行する。
「流火!」
遙が思わず叫ぶ。友へと剣が振り下ろされる。咄嗟に“何か”が流火を庇う。彼女自身は守るが、その腕は斬りつけられてしまう。
「……!」
流火はギリギリのところで死を回避した。
「……随分と、無茶をする。いや、これは言い出した僕の責任か。…すまない。」
ザイスティスは謝る。少し、過去を思い出していた。
「……ごめん、『眼』で見て殺気を確認しなかった私のせいだ。」
遙も謝る。避けられた事態だったと。
「……ううん、いいよ。」
「こうなることは、何となくわかってた。」
「それでも、やってみないって選択肢は無かったから……」
流火は、二人へ。気にしなくていい、わかっていたことだと。伝えた。
「…………」
アラディアはその姿を見て。救いの手を差し伸べる姿を見て。あえて何も言えなかった。
「流火、さん…。」
セイヴァーにとっても、その献身は。かつて自身が伝えたもの。かつて自身が背いたもの。それを連想させた。
「だがまあ、これではっきりしたのう。奴らは敵じゃ。」
「状況にかかわらず、規定された行動しか取れないみたいだね。兵士は。」
対話のできない、敵。その事実がはっきりしたと、ノーベルと遙は告げた。
「……近づいた者を攻撃して、また沈黙か。」
「……そうね。与える物を、其れでも拒絶するというのなら。差し伸べられる手は無いわ。」
おそらく彼らは、そういうモノ。手を差し伸べられない。苦しみを放置してやることしか、できない。貧者を救う者たるアラディアは、わずかに気落ちした様子だった。

「…礼拝堂のほう。おそらくあのトランプに似た魔力が。」
話題を変えるかのように、沈黙していたマギが口を開く。検索によって、周囲のものを探知していた。
無論マギも、この苦しむ異形に思うところはある。異形だからと排斥するのなら、自分も異形に相違ないから。しかし、それ以前に。根本的に救えないものとして、彼らが配置されているようにも思えた。
それならば、前に進まなければ。全てを解決する以外、彼らを救う術はないのかもしれない。

「正直、ここで殺しておくのも手だと思うけど…。」
「まあ、そういうことしないよね、あんたらは。」
ザイスティスは、念のため、と言ったふうに確認を取る。
「できることなら…。はい。」
セイヴァーはやはり、人を殺すことなどできない。
「それも一つの手ではあるだろうけど。……意味はないよね。今のところ。」
遙は、その意味を問う。
「理解が早いわね、それも魔眼とやらの効力? ……私は、敗者にこそ力を授ける神だから。その手には賛同しないわ。」
アラディアは当然。その理を揺るがせない。
「ええ。無意味であり、無用であり、無駄であり、無価値であると断じます。提案しづらい案を提出した者として、あなたを責める訳ではありませんが。」
マギは強く、少し優しく否定する。
流火は何も言わない。ただ、その目つきが何よりも彼女の心中を物語っていた。
「わかったわかった、別に俺だって強行しようってわけじゃないさ。だからそんな目で見ないでくれ。」
ザイスティスも素直にこの案を収め、改めて案を取り出す。

「OK、じゃあ当初の予定通り次の空間へのキーを目指すとしよう。えーっと、礼拝堂が居住区の中?だったかな、大賢者様。」
「はい。そちらに行けば。…ただ。」
マギが目をやった、居住区への道。そこには兵士たちが道を塞ぐように倒れていた。
「彼らを傷つけずにどかさなくちゃね。お任せあれ。」
そう言って、アラディアは前に出て。
魔術を詠唱。すると途端に兵士たちの身体がふわりと浮き上がり、抵抗するも空しく進路から除去された。
「おのれ…おのれ…俺達はここを護らなくては……」
恨み言を吐くも、兵士たちに傷はなく。それはアラディアからすれば当然のこと。
「御免なさいね。きっと、悪いようにはしないから。」
困ったような顔で其方へ微笑む。柔和な女神のそれだった。
「……まあ、そうだね。俺たちは悪いようにはしないさ。」
ザイスティスが少し。去り際に声をかけた。

**

一行は居住区に入る。ここでも住民たちが兵士たちと同じようにそこらでうめきながら倒れている。
蝿や蚊のような虫が死体の周りをぶんぶんと飛んでいる。
建物も朽ち果てかけた民家ばかりで、興味を引くのは先にある古びた礼拝堂ぐらいしかない。
住民たちの顔は、兵士と同じく異形。今度こそ救いの手を差し伸べられるか。諦めて、しまうか。

「一応今回は非戦闘員っぽいけど…どうする?」
ザイスティスが。医療行為を行うかの提案をする。
「まあ、武器を持ってないならそう簡単に襲われないだろうけど。気を付けてね。」
流火の答えは決まっているのだろう、というように遙は言う。
「お気をつけて。遺憾ながら、私には治療の技術がありません。お願いいたします。」
マギも、流火の背中を押す。
「……うん。じゃあ、また。今度こそ。」
流火はそう言って、苦しむ住民に近づく。
「随分とまあ…お人好しな事で。」
ザイスティスは言う。呆れたようにも、感心したようにも。
「敵…ひぃぃ…た、助けて…」
しかし流火が近づくと、住民は怯え始めた。こちらを敵と認識しているらしい。
さらに近づくと、ジタバタと暴れ出す。これでは治療できない。
「この…暴れんっな!」
すかさず、遙が拘束する。会話が通じないなら、無理矢理にでも治療してしまえ。
片腕を背中に回させ、動きにくくしたうえで馬乗りになる。
「はい、今のうちに治療すると良いよ。」
「……正直、こういう時に男手に活躍してほしいんだけどね。」
ちらりとザイスティスの方を見る。
しばし、治療が行われる。身体の作りは人に似ていた。
「……ヒト以外の治療も、できるんだ。昔、私がそうだったからね。」
流火が治療を終える。住民は身体の調子が良くなったことに明らかに困惑していた。
「凄いね、流火。」
拘束を解きながら、友を労る。今度は癒せた。
自由になった住民はこちらを伺い、怯えながらも自分の家に帰っていく。
「待って!」
遙が再拘束する。安心してほしい。何か教えてくれないか。少しでも、分かり合えないか。そう試みるも。
住民は全くこちらの言葉など通じていないようで。
「だめじゃな、やはり意思の疎通は難しいらしい。」
ノーベルが、少し諦めた風に。
「みんなは他に何か試したいことはある?」
「ないなら怖がってるし離してあげようと思うんだけど。」
それでも、治療はできた。
「良いと思うわ。治療も滞りなく行えたみたいだし、私は其れで。」
貧者に、敗者に。救済を施せた。
「意思の疎通ができないのは。致し方ないです。」
何か意味があろうと、無かろうと。
住民はまたさっき見たような怯え方とセリフを言いながら自分の家に帰っていく。
全く同じ動作、セリフだった。
「……まだ、駄目そうかな。」
本当の意味で癒せたかは、わからないけど。
「ま、そうだね。彼らから情報を引き出すのは難しい、と言う事がわかっただけでもよしとしよう。」
確かに先ほどの兵士とは、違った。

その住民の姿を見て、何人かが意見を述べる。
「攻撃の時もだけどさ。本当に人形みたいに、決められた行動しかできないんじゃないかな。」
「先ほどの行動。本当に全く同じですね。私が言うのも滑稽ですが、機械のよう。」
「そうだね、同じ意見だよ。何度話しかけても「ここは〇〇の町だよ」しか言わないNPCみたいなもんじゃないかな。」
人形、機械、NPC。彼らの見解は概ね一致していた。つまり。
「んー…他に何か情報が出てこないなら、もう住民は無視しても良いんじゃないかな。」
「規定された行動しかとらないならば、そこに触れなければ危害も加えないでしょ。」
遙は言う。ザイスティスも同意する。
「ん…ああ、そうだね。情報が引き出せないのなら、礼拝堂へ向かう他は無いかな?」
彼らは苦しむだけの人形。怯えるだけの機械。同じ言葉を繰り返すNPC。ならば、中心へ向かうしかない。
「そうなると、なんでわざわざこの空間を作ったのか、それが気になるな。限界間近の要塞、兵も民も傷つき崩壊は間近、シチュエーションとしちゃ悪趣味極まりない。」
ここは作られた世界。もはやそれは顕になっていた。
「彼らの役割は何なのか。気になるところではありますが。」
マギもザイスティスに同意する。ここは何故、作られたのか?誰が、作ったのか?
それはまだ、わからない。ゲヘナの闇は、薄く深く広がっている。
「じゃっ、行きましょうか!」
アラディアが、気を取り直しなさい、というように音頭を取る。
そう、行くしかない。レールに乗せられているとしても、そのレール以外に道はないのだから。

**

礼拝堂に近づくと、そこでは恨み言や呪詛を吐き散らす声が聞こえる。
扉はしまっているようだ。
外観はボロボロの要塞の中にあってここだけは比較的しっかりしている。
「さて、ようやく目的地かな。」
ザイスティスは少し疲れた風に。男ながら、彼は一行の中で一番体力がないかもしれない。
「……ここ、かな。」
「流火、お疲れ様。」
「さて。今回聞こえてくる言葉は、明確な意志を感じますね。」
「礼拝堂という割に、聞こえてくる声は随分なモノだけどね。」
女性陣は疲れ知らず。そして礼拝堂より聞こえてくるのは、世を呪う願いと怒り。
「奴らにも同じ苦しみを…。」
「私たちだけがこのまま苦しみ続けるなど、あってたまるか。」
そう呪い続けていた。
「扉を開けた瞬間奇襲、と言うのはぞっとしないね、窓か何かから中の様子を伺えないだろうか。」
明らかな敵の存在を感じ、ザイスティスが警戒する。
窓を覗く。遠くから、気づかれないように。中ではボロボロの服を着た女性が、祭壇に向かって祈りながら呪詛をはき続けている。
そして、祭壇の上。『聖杯』のような何かが、あった。

「聖杯…か?流石に本物じゃないだろうけど。いや、それより。奴は扉に背を向けている。俺たちが入っても、奇襲の心配はないな。」
ザイスティスは窓の中から情報を抜き出す。
「……位置的に、気づかれずにあの杯を調べるのは難しそうだ。」
流火も、その位置関係を分析する。
「こんどこそ、言葉が通じないでしょうか…。」
争わずに、杯だけ調べられないだろうか。セイヴァーはあくまで、対話できないかと考える。
「二度あることは三度あるって言うけど…。」
できるなら、そうしたい。それは遙も同じだったが。果たして。

「検索。…魔力源はあの聖杯。らしきもの、ですね。」
「ところでここに来るときの目的ってさ、トランプと同じような魔力を感じたからだよね?」
「あそこからそれを感じた?違っても手掛かりにはなるだろうけど。」
遙が問い、マギは答える。
「同種のものとみて、間違いないと思われます。あくまで同種、です。」
僅かに違う。それは別のカードを示せということかもしれない。
「ん、そうか。なら違っていたとしても手掛かりにはなるよね。」
「むしろ違っていた場合、この空間にある魔力由来の物質は、同じ魔力源から造られているとかそういう仮定も作れるかもしれないし。行こう。」
そう、遥の一言で皆意を決する。礼拝堂へ、乗り込む。
「それじゃ、お宝を頂戴するとしますか。」

礼拝堂の中には、ひと目で分かるほどの美人だが、憔悴しきった顔をした女性が居た。
こちらに気づくと、彼女は腰に下げたファルカタのような剣を構え警戒する。
「……ファランゼム。」
流火がその名を口にする。古代アルメニア王国の王、アルサケス2世の王妃。王不在の中、アルタゲルス要塞にて14ヶ月の間疫病と絶望の中耐え続けた女傑。
しかしその最期は、死ぬまで陵辱されるという、あまりにも凄惨なものだった。
そう、ここがアルタゲルス要塞ならば。そこの主は、ファランゼム以外にあり得ない。

「……此れ迄の彼らとは一味違うみたい。サーヴァント級よ、アレ。」
アラディアがその魔力を探知する。
「きづきました、ね…。やはり、敵意が。」
この戦場を、崩壊寸前まで支えた人物なら。セイヴァーにとってそれは、話ができる存在かもしれないのに。
「この空間の中で彼女だけがまとも…あるいはこの世界は、彼女の心象風景か何かだろうか。」
ザイスティスがその眼で見る限り、彼女は異形の顔をしているどころか、素晴らしい美女と言って差し支えなかった。
ひどくやつれているが、それでもその美貌は消えていない。それが、却って恐ろしかった。
「……住民の一人を治療したようね、そこは私から感謝しておくわ。」
"陵辱"のレムナント、ファランゼムが喋り始める。彼女はこの空間の全てを知覚しているようだった。
「それでもここに来る時点で、あなた達は敵。」
「生を謳歌する憎たらしい人間と、その手先の人理の守護者。」
「ことばが、わかるのですか?」
明確な意思を感じ、セイヴァーが問いかける。しかし彼女は答えない。

「待って。私たちは、望んで此処に来たわけじゃ……。」
「そんなことは私の知ったことじゃない!」
流火の言葉を、ファランゼムは遮る。言葉は通じれど、分かり合えない。
「……その生への憎しみは、この要塞と関係があるのかな?」
ザイスティスが問うと、ファランゼムは怒りを隠さず答える。
「いいわ!1人助けてくれたから、その質問にだけ答えるわ。」
「大いに関係があるわ!ここは敗北から作られた世界だもの!」
敗北から作られし世界。それは即ち。
「敗北から作られた世界、ときたか。つまり、ここにいるあんたは敗北者ってわけだ。それならまあ、その憎しみも納得と言えば納得か。」
そう、ファランゼムは敗北した存在としてここにいる。もう、救えない。勝てない。逃れられない。

「それで!その敗北者に対してどうするつもり!」
自嘲するでもなく、自身を敗北者として定義する。
「はい、ぼく。…それは、ひとごとじゃない、です。」
セイヴァーは小さく、震える声で呟く。"敗戦"。それは、セイヴァーが導いてしまった過ちの歴史。戦に負け、惨い最期を遂げた人物を目の当たりにすれば。自身がそれを生み出す側だったことも、目の当たりにする。
「他人事じゃない、などと。人理に刻まれた者に、私の事などわかるわけがない。さあ、くだらない同情はやめろ。私の前に立った理由。それを答えろ!」
互いにその本質を知れば、何か繋がるものがあるかも知れないが。ここは、そういう場ではなかった。
「あんたが素直に道を開けてくれるなら何もしないさ、だけど。邪魔をするというならまあ…争うしかないんじゃないの?」
ザイスティスが、そう言うと。
「そうなるのね!!やっぱり!結局!男はそういうもの!戦い戦い戦い!!いいわ。戦いを望むなら、やってやるわ!」
目の前の敵意が、爆発する。
「あー……ごめん、どうも地雷踏んだみたいだ。」
戦うしか、ないのか。
その時だった。

**

御門遙は、自分は戦力にならないから。そういう理由で密かに物陰に隠れていた。ただ、どうも一つ気づいたことがあった。
もう一度密かに動ければ、避けるべき戦闘を避けれるのではないかと。彼女は呪術師の家系。そして、同じ日本由来の忍ぶもの達の伝説も伝え聞いたことはあった。
それを、思い出す。不思議と身体に動きが馴染んだ。
素早く。隠密に。静かに。目的まで。
怒り狂う女性の裏にある、聖杯へと。

「……なるほど、中にトランプのマークが入っていたわけね。
大江山、図書館、そして球技場。そして今私が持っているカードに重ね合わせれば…。球技場、行ってみようか。」
聖杯を掠め取ると、そこに刻まれていたのはトランプのマークが3つ。きっと、これがマギの言っていた、トランプと同種の魔力。
ダイヤのキングを重ね合わせると、また辺りが眩く光り輝く。
「何か怒っていたようだけれど、私たちは貴方と戦うつもりはないから。祈り続けることが目的ならば、そこで祈っていると良いわ。」
そう、背後の女性に告げる。気づいても、もう遅い。
「……癒されない傷なんて、時間と祈りで慰めるしかないものね。」
そう、少しの憐憫を口にして。
「くっ…逃げるなあああああああああ!!!」
ファランゼムは思わず叫ぶ。それは、しかし。
「なんだ、逃げるなだなんて。争いたかったのはあんただったんじゃないか。まあ、もうその必要も無いけど。」
それは、ザイスティスから見ればわかりやすい矛盾だった。反論の余地さえ、時間さえ、哀れな女性には与えられなかった。

そうしてまた、光が全てを変える。また一つ、頁が捲られる。
結果的に見れば。ファランゼムは再び死ぬ運命から逃れられた。また祈りの呪詛を始めるかもしれないが、それしか救いはない。
哀れでも、惨めでも。敗喪徒レムナントへの救いが一つ。果たされた。

**

白い光の消えた後。また、まるで違う空間に飛び出した。
薄暗い地底空間には、石造りの神殿じみた球戯場が広がっていた。
まず目に入ったのは、串にハヤニエにして晒されたレムナント達の遺体と、その足元に転がる石のボール。
どうやら、ただならぬ敵がいるようだ。

彼らは敗北を定められた者。古の理、勝利の神話を紡がれるためにある英雄譚の踏み台。
勝利の裏には敗北がある。それを忘れるなかれ。

深淵界忘却譚 ゲヘナ。そしてそこに縛られし敗喪徒レムナント。彼らは定めに沿って負けゆく者たち。それを受け入れ、されど許せない者たち。

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