ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

何故我々は負けたのか。問うても問うても答えは出ない。
何故我々は負けたのか。問うこと自体が間違っている。
何故我々は負けたのか。負けるのは、運命なのだから。
何故我々は負けたのか。だから、それを問うたりしない。
何故我々は負けたのか。理由があるとすれば、一つ。
何故我々は負けたのか。…お前たちを、引き摺り込むため。

地下世界の球戯場にて向かい来る敵。"球戯"のレムナント、ラワハル・シバルバーを撃退した一行。
しかし、それは呪いを産んだ。怨嗟の声を響かせた。自分から襲っておいて、理不尽だ?そうではない。
敗者は弱者。救わないのなら、その復讐心は溢れ出てしまうもの。彼らはとっくの昔に崩壊した存在なのだから。正当な反撃などない。弱者を痛めつけるなら報復がある。
それは、当然のことだ。
次なる舞台は喪われし図書館。さあ、傲慢にも救いの手を伸ばすのか。果たして。

────結末




         終焉


破滅                  



    幕引

               最後




        


   敗北



絶滅








喪失


LAST CLOSING


いつか来たる終わり


**

4.全呪滅本の亡図書館

吹雪から逃れるように、誘い込まれるように。たどり着いたのは、周りに本棚が沢山ある場所だった。どうやら図書館のようだ。
辺りを見渡すと、ゴォゴォと燃える暖炉が複数あるようで。その炎以外に明かりはなく。
それらの暖炉の周囲には、炎を明かりとして本を読んでいる人々がいた。どれも先ほどの要塞の兵士たちのように、人間とは思えない容姿。この世界の住民だろう。
そんな人々の中の1人の少女が、目に留まった。当然だった。少女は他の人々と違い、人としての姿を保っていたから。
それだけではない。純白のドレスのような、清楚で大人びた衣装をまとっていた。腰に届くほどの、ウェーブがかった金髪。
どれもこれも、穢れなく美しい女性だったから。
彼女も此方に気付いたようで。柔らかく、声をかけてきた。
「……こんにちは。貴方たちも、こちらに本を読みに来たのですか?」
「……こんにちは。」
代表して、流火が挨拶する。
「ああ、外は吹雪だ。本を読みつつ、ここで暖を取らせてもらえるならありがたい。」
敵意を感じない。なら、とザイスティスも警戒を解く。
「何もなければ色々と読みたいんだけど…ここはなんて図書館なのかな?」
どこかに実際にあったものなら、そこから何かのヒントになるかもしれない。遙はそう推察して質問するも。
「はい。こんにちは。……名前はとうに失われました。燃やされた、あるいは捨てられたともいえますが。否定されたといっても、良いかもしれません。」
彼女はそう、告げる。
「お邪魔するわ、外は死にそうなほど寒くて。…否定された。まあ、そういうこともあるわよね。」
疑問視された自らの霊基を無理矢理補強して存在を保っているアラディアとしては、感じいる所がないでもなかった。
「本、本。素晴らしい。素晴らしいですね。ええ、時間があるなら全て読みたいくらいなのですが。検索も上手く効かないここでは叶わないでしょう。
それでも、本は是非とも。読みたいですね。」
マギは珍しく、感情を露わにしている。目を閉じ、検索の構えを取る。
「本を読みたい、ですか。構いませんよ。暖を取りたければ暖炉を囲んでください。生憎明かりも、あれ以外ありませんが…。」
そう言う少女を、ザイスティスはその眼で"鑑識"する。
少女は人の本質を学び、神学を尊ぶ才能があると分かった。
…加えて。強さと言い表すも憚られるほどの強い怒りと悲哀があるとも。
「焚書みたいなことをされたのかな…?」
遙が、否定されたという書物の山を見て。
「…本を燃やしていますね。薪とするため、火を絶やさないために。」
検索完了。暖炉の中には薪のように本が詰まれ燃やされていることが分かった。
加えて、それらの薪が無ければすぐに火が消えてしまうという事も。
本を尊ぶ場で、本が燃やされている。
その矛盾に、驚きを隠せない。
「……ええ、そうです。」
それ以外の方法はない。少女の口ぶりは、そんなようだった。
セイヴァーが、燃やされていく己が教科書を想像しかすかに震える。果たしてその想像は、この場と合致してしまうのか。

「ところで。」
アラディアが口を開く。ようやく、話の通じそうな相手を見つけた。
「いい加減、此処がどのような場所なのか知りたいのだけど。貴方は何か知っている?」
少女へと問う。
「ここについて知りたい? …あまり話せることはないけれど、それでも良ければ。
ここは積み上げられた残滓。失われた、敗北した、否定された者たちの残骸のたまり場。
ここもそう。ゴミのように散り積もった、様々な理由で掃き捨てられた学説の流刑地。
────名を、ゲヘナ。誰が最初にそう名付けたかも知りませんが、此処はそう呼ばれている。
はそんな流刑地に、"レムナント"として流れ着いた、1人の敗北者だ。」
少女の口調が、変わった。
「レムナント?敗北者というのは確か…あの女の人も言っていたけど…もっとちゃんと話を聞いておけばよかったな…。」
少し遙は後悔する。此処は敵だらけの場所ではないのかもしれない。
「ゲヘナ……ゴミ捨て場か。随分とまあ……自虐的な呼び名だ。」
ザイスティスはため息をつかざるを得ない。
「レムナント。ここに住む人々の総称だよ。そう、ゴミ捨て場に積み重なる醜いものたち。それが貯まった汚泥。深淵界喪失譚、ゲヘナ。それがここさ。」
少女の言葉は自虐的にも聞こえて。セイヴァーがぴくり。その言葉に反応した。
「敗北。なんだかずうっとそんな気はしていました。積み重なっている。…私も、そちら側にいてもおかしくない。」
ずっと感じていたシンパシー。それの正体に触れた気がした。
「人の歴史はいつだって勝利した者が紡いできた。ならそれと同じ数。ううん。それ以上の敗北者が積み重なって歴史は出来ている。」
そして我が身は敗北の側にある。そう少女の形を取る敗喪徒は言う。
「……否定された、吐き捨てられたとは言え、それらの学説があったからこそ、今の科学は成り立っておる。それをこうして燃やすのは、科学者の名を背負ううえであまりいい気分ではないな。」
ノーベルは毅然とした態度で。己を消し去ることを望んでいた狂戦士は、もういない。
「…それが、この世界のルールだとしたらどうだろうね。」
すこし、寂しそうに。少女は呟く。
「なるほど、敗北者が積み重なって歴史はできているか。確かにそうかもしれんが……。
それはあまり愉快な発想ではない。科学は失敗も成功も背負って成り立っている、人の歴史も、儂はそう考えるがね。」
ノーベルは再び。その態度を示す。
「…そう。そう考えられる君たちみたいな。本来、君たちみたいなものがいるのは、少しおかしいんだけれどね。
さて、なら読んでみると良い。ここもそういった敗者の残骸が集まってできた場所だ。」
そういって少女は、立ち並ぶ本棚を指さした。
「……。」
流火の心に、言葉が沈む。
「────胸が痛いわね、本当に。」
アラディアも、その有り様が。痛ましく見えて仕方なかった。
「自分の存在を歴史から消したいとか宣ってた爺さんが、まあ変わりに変わったもんで。」
自らのサーヴァントの言葉に、ザイスティスは少し感慨深く。
気が付けば、一行はその視線を本棚に対して向けていた。本棚はぎっしりと詰まり。きっと智慧を授けるだろう。
「読んでみると良い、と勧められたのなら素直に従っておこうか。どうせ、この図書館にある本はいつかは燃やされてしまうんだ。
ならせめて俺たちが読んでおけば、歴史から消えることもないだろう。」
ザイスティスは、自らのサーヴァントの意思を汲み。
異論はなく、図書館の探索が始まった。

ふと、御門遙は思いついた。自分はこの中では学のある方ではないし、何か本を読む側から引き出せないかと。
だから、ちょっとそれは気の迷いだったかもしれない。
…色仕掛けを、レムナントに向けて試みた。が。
「…。」
本に夢中でまったく色仕掛けは効かず。会話も成立せず。
「…会話にならないし、読んでいる本の意味も分からなかったよ。他の人に任せて、大人しく読める本を読んでおこう…。うん。」
色気が足りなかったか。少ししょぼくれる。
「それじゃ、こっちは本棚を漁るとしようかな。何冊かは読める本があるかもしれない。」
「ええ。ええ。読めないなら読めるまで読むべきです。理解は全ての源です。」
「あー、遙ちゃん?貴方は十分魅力的だと思うから、ここはお姉さんたちに任せて。」
「…流火ぃ…。」
割とショックを受けているようで。流火が慰め係を担当することになった。

まず、マギが手に取った本は。
マギが取った本は、どうやらトランプに関係する事柄が書かれている本のよう。
だがそのページの節々には、「インチキ」「嘘」などと落書きが散見される。どうやらここに居座るレムナントたちの仕業か。
「全く。」
マギは少し呆れたように。
しかし内容はおおまか正しい事柄が書いてあるようで。落ちているトランプに関連する事柄を調べられそうだった。
「落書きが邪魔ですが。まあ読めないほどではありませんね。」

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真・トランプの解説

スペードの2:悪い方への変化。再スタートを考えるべき。過去を整理する。復縁の誘いに乗ると失敗。
スペードの7:恋愛の破局、友情の決裂。予期せぬ出費があり大きな重荷となる。無理な注文をされる。
スペードの9:精神的に追い込まれる。運が無い。ひらめきや発想の転換ができない。友情が破たんする。
スペードのキング:人間関係でトラブルあり。友人間や家族間で孤立する。商談や結婚が直前で破談になる。

クラブの4:調子が良くなるが、足元をすくわれる。他人の恨みを買う。相手に深入りして反発される。
クラブの7:相手に誤解を与える。失敗するが挽回もできる。あきらめたらそこですべてがおしまい。
クラブの9:対人関係で失敗や苦労が多い。知識欲を満たす行動が良い。過信や他者批判で失敗する。
クラブのJ:先走りに注意の暗示。物事の本質見極めること。変化や改革、行動には向いている時期。

ダイヤのA:金銭や名誉が手に入る。成功をつかむ。告白やプロポーズをされる。勝負運に恵まれる。
ダイヤの4:マイペースでいくと良い。変化は失敗の元。感情的になり孤立を招く。友情にひびが入る。
ダイヤの7:二兎を追うと両方失う。行動前に目的や目標を必ず定める。出費に注意。注意力の低下。
ダイヤのK:堅実な結婚。情熱より現実的な面を優先すべき。ライバルの出現。才能の過信は大禁物。

ハートのA:幸運の暗示。援助や協力が見込めて、成功をつかむ。恋愛成就、出会い、結婚、家庭円満。
ハートの3:衝動的な行動に注意。ただし相手からアプローチには積極的に応えると吉。心変わりあり。
ハートの10:計画の立案にも実行にも良い暗示。チャンスが何度も訪れる。他者の好意は受け取るべき。
ハートのQ:黒く塗りつぶされている。


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続けて、ザイスティスが本を手に取る。
手に取った本はボロボロだが。しかしなんとか文字を読み取ることはできた。題名はダムナティオ・メモリアエ。
中を見るに、打ち捨てられた人々の記録があるようだ。しかしまるで何百年と放置されたかのようにぼろぼろで、一部しか読みとれない。

「ダムナティオ・メモリアエ…ローマの、存在抹消措置か。確かに、この空間にこれほど相応しい言葉は無いだろうね。」
そう感想を述べたザイスティスの目に、ある一節が止まる。
『敗者に手を差し伸べるならば、敗者はその手を取る。だがその者が憎悪抱くなれば、その手は毒を孕む蛇とならん。』
その意味は、如何に。
最後にアラディアが、何気なく選んだ本は。無惨なものとしか、言えなかった。
ページはズタズタに引き裂かれ、そしてあちこちに落書きが。
落書きの内容は「すべてのものが完全に救われるはずがない。」「魂の先在などあり得ない。」と、否定ばかりで。
それどころか、著者に対する罵詈雑言まで含まれた、侮辱と罵倒の嵐。
そして。
本の題名は、『諸原理について』
著者の名を、オリゲネスと綴られていた。
アラディアは、本をぱんぱんと軽く叩いて埃を落とし、
「……そういうこと。アナタもまた、そうなのね。」
そう、少女の形をとった存在へ声をかける。
「分かったかな。此処がどういう場所か。」
微笑みながら少女は言った。その笑みはどこか、諦観にも似た感情を感じさせる笑みだった。
「"そう"という事は、僕が何か分かったようだけれど。
…聞こっか。」
解る。アラディアは当然、分かる。
「……神学者の中で、最も名高き者達の一人。 その著作は、後世の、また同じ宗教に殉じた人々によって『異端』と断じられた。
分かるのよ。私は、その宗教と対立した者だから。その世界に、魔術を与えて変革した者だから。」
そうでしょう、オリゲネス? ……女性の身体なのは、それも何らかの意味が?」
「…ええ、セイヴァー。あなたもあちら側にいたかもというのは、当たっているかもしれませんね。この感じ。」
アラディアの推察が当たっていれば。セイヴァーの直観も当たっているだろう。
「………………。」
パタリ、とアラディアの言葉を聞いた少女は、本を閉ざして目を閉じる。
そして、言葉を紡ぐ。
「うん、僕の名はオリゲネス。子の肉体は去勢し、男性であることを捨てた証と、それともう一つ。
カラカラの屑に殺された妹の残滓だ。
少女は、否、オリゲネスは初めてその言葉に感情を灯したように響かせる。
その感情は、正しく憎悪の篝火といって相違ない程に、深く、悍ましく、痛ましい程に、響き渡った。
「……御免なさいね、わざわざアナタの口から言わせてしまって。」
その悲しみを受け止めて、アラディアは謝る。
「オリゲネス。その名と対峙したくはなかったですね。知を尊ぶ者として。」
「と、言うと?」
マギの呟きに、オリゲネスは反応する。
「古代キリスト教最大の神学者。いわゆるギリシア教父とよばれる神学者群の一人。…確かに異端とされようとも、貴方は叡智を積み上げた存在。それが、こんな。あまりにも痛ましい。」
「…………まぁ、痛ましいと思うのなら、こんなのはまだ序の口だよ。
そこのご老体は言ったね。"このように否定された学説が燃やされているのは良い気分でない"と。…その理由は、今からわかるよ。」
そうオリゲネスが言うと、複数灯っている暖炉の火が一斉に弱まり始めた。暖炉の火が消えれば明かりが消える。加えて温度も急激に低下する。
そんななか、レムナントの1つが言葉を放つ。
「燃やそう」
その言葉は増えていく。
「燃やそう」「燃やそう」「燃やそう」「燃やそう」「燃やす時間だ」
「分からない学説を」「間違っている学説を」「不都合な学説を」「あってはならない学説を」
「全部燃やして薪にしよう」
そういいながら、次々とレムナントたちがその手に持つ本を暖炉へと放る。
「……!」
流火も、その行為には驚きを隠せない。
「愚かなり……。」
ノーベルはやはり。その行為を認められない。
火は、確かにその勢いを取り戻す。だが1つだけ、勢いが戻らない。
薪を未だくべていない、オリゲネスの暖炉だ。
「早く燃やせ」「お前も燃やせ」レムナントたちがオリゲネスを指さし命令する。
「くべないの?」
そう問う御門遙に、オリゲネスは自らの手に持っていた本を無言で見せる。
その著者もまた、オリゲネスに他ならなかった。
いや、その本だけではない。オリゲネスの暖炉に積み重なる本たちは、総て────────。
「とりあえず、適当に本を持ってきたけど。燃やしたい本は……って…!」
あくまで仕方ないから燃やす。そう考えていた遙に、オリゲネスは自らの有り様を突きつける。
「僕は今まで、僕の本を燃やし続けて暖炉の焔を保ち続けた。」
「…自分の残した証を燃やしてきたんだね。」
そう言う遙に、オリゲネスは答える。
「分かる? 僕は僕の手で、否定された…敗北された過去を、証明させられ続けた。これが、この世界のルール、本当の姿だ。
要塞を攻め落とされた者たちは、その時の凌辱された記憶を延々と受け続け、神秘殺しに殺された魔性はその殺された刹那を味わい続ける。」
(いやだ、いやだ。わたしより、ひどい。)
敗戦のセイヴァー、修身。彼女もまた否定された存在。それを永遠に突きつけられ続けるなんて、想像するだけで。思わず目を覆う。
「醜悪極まりない世界、としか言いようが無いな。」
ノーベルの言うそれは、的確なもので。この世界は、地獄に落ちたもの達が更に深く落とされた先だった。
「自分で書いた者以外は、燃やせないの?」
遙は問う。純粋に、疑問だった。
「……できるよ。できるけど。僕にはできない。僕に、否定された僕に、他の人を否定しろというのかい?
知性ではそうしたいけど、復讐者の霊基が、それを許してくれない……。
…………この僕の本を燃やさせたくないというなら、選んで欲しい。君たちの持つそれらの本、どれを燃やすか…選んで欲しい。
オリゲネスの言葉は変わらない。しかしその奥に秘めたものは、如何に。

「…図書館を補強するとか、衣服を更に着るとか。」
「そう言った当たり前も、当然。ここでは通じないのでしょうね。」
マギと流火。"当たり前"でなかった者たちには、なんとなく理解できた。
「わがみを、否定する。」
消せない己という、歴史に残る存在への復讐。どうしても、修身という存在には他人事には思えなかった。
彼女もまた、復讐者の霊基でしか本来存在できないものだから。
「私はあなたを知らないし、ここに置かれた本の大多数は知らないわ。今持っているトランプに関わる本は、たぶん次に進むために必要なもの。」
遙は、知らないからこそ。オリゲネスに寄り添う。
「……ああ、そうだ。一つみんなに伝え忘れていた事があった。
『敗者に手を差し伸べるならば、敗者はその手を取る。だがその者が憎悪抱くなれば、その手は毒を孕む蛇とならん』、だってさ。さっきの本の一説。
彼女への同情も共感も確かにある。けど敗者への同情が事態を好転させるかは、ちょっと疑問だね。」
ザイスティスは、知っているからこそ。オリゲネスを警戒する。
「というより、重要なのはさ。トランプに似た魔力反応を探ることだよね。
……他の世界と同じように住民に危害を加えることやちょっとした手助けは出来ても世界全体をどうこうできるわけではないだろうし。」
そう言って、遙が魔力を探知すると。
トランプの魔力はオリゲネスの暖炉の中にあり。レンガの中に、スートも隠されていた。
しかし。"今は"閉ざされていた。
「これは、燃やさなきゃ、かな。」
そう、火をつけるしかない。本を捧げるしかない。それがこの世界の、醜悪なるルール。
「んー。火が付けばいいんだよね?ちょっとした衣服でも良いのかな、これ。」
「さっきのオウムの羽でも置いてみるかい?」
「薪が必要なら、私も。適当に空気中から生み出しますが。」
三者三様に代案を出す。
その言葉を聞き、アラディアはオリゲネスの著作に目を落とす。
「やってみればいいと思うわ。でも、多分……。」
その先は、アラディアが言うまでもなく。皆が認識していることだった。
この世界はすでに終わったものたちの世界。彼らに取れる選択肢は限られ尽くしている。
「先ほどの三択であるのならば、儂はダムナティオ・メモリアエの本を推そう。筆者の前でその著書を燃やすほどにむごいこともあるまい。」
かつての我身を思いながら、ノーベルは言う。自身を否定する。それは本当は耐え難いことだから。
「正直、俺も彼女の著書を燃やすのには反対だけどね。彼女の霊基は復讐者だ。彼女が今は理性的であれ、それがトリガーになって襲い掛かってこないとも限らない。」
あくまで警戒する視点だが、ザイスティスも賛同する。
「────悪趣味な世界の主の考えを推察するなら、『それでは未だ足りない』のよね、きっと。」
「とことん悪趣味なルールで固められた世界。きっとそれにある程度従わざるを得ない。」
悪趣味。そうとしか言えなかった。アラディアとマギは歯噛みする。
「……燃やさせないわ。先ず薪にするのは、其方のダムナティオ・メモリアエについて書かれた本。『此れ』は、一先ず私のものだから。」
アラディアは手元の『諸原理について』を見せる。
そして。だから。結論は、そう、決まる。
「これでダメならまあ、しょうがいないよね。」
「…一応、戦闘の可能性は。」
「『敗者に手を差し伸べるならば、敗者はその手を取る。だがその者が憎悪抱くなれば、その手は毒を孕む蛇とならん』だからね。
ただ、これの方が戦闘を避けれるとも思うよ。」
「ええ、どちらにしても。当然の結論です。」
「ね。『諸原理について』は、彼女のためにも燃やさせないわ。」
「ダムナティオ・メモリアエ」。それを燃やす。それは、オリゲネスに手を伸ばすということ。伸ばし返された手が毒蛇と化す、その可能性を捨てるということ。
その選択は、必ず正しい。決意を以ってなされたのだから。

オリゲネスの目の前の暖炉に、火が灯る。
同時に、暖炉にあったトランプと同じ魔力が励起し、まるで扉として誘うように、暖炉付近に扉が出現した。
「…………」
自分の本を燃やさなかった彼らに、オリゲネスは眼を見開いて驚いた。
「………君たちは、僕の本を燃やさないでいて、くれるんだね……。
……ありがとう。」
暖炉は灯った。いずれまた消える炎であろうとも、彼女はこの刹那だけ、自らの敗北をその手で再現せずに済んだ。
そして何よりも、目の前に立つ人々は、自らの本を燃やさなかった。
その選択に対する、そしてこの今に対する安堵が、彼女の胸にあった。
彼女の表情に、心の底からの安らぎが。見えた。
それは、憎悪を受け入れ、怒りを己の骨子とした復讐者たる彼女とは、最も遠い在り方だった。しかし今の彼女には、それが救いだった。
「わからないけど、わかります。きっと、復讐者は復讐者でなければいけないわけじゃない。」
自分だって、救世主の霊基を得ているのだから。セイヴァーは彼女の喜びを肌で感じた。
「……ああ、そうだ。確かにあんたは異端と言われたけどさ。
あんたの思想は西欧思想史に大きな影響を与えてる。それは今を生きる人間にも無関係ではないことだ。
否定するやつには勝手に否定させておけばいいさ。あんたの思想は無駄じゃなかったんだから。」
ザイスティスの知見。客観的に見たって、オリゲネスの存在は無駄じゃない。
「……ありがとう。こんな地獄で、感謝の言葉を口にする時が来るだなんて、ね。」
オリゲネスは、喜びを湛えた目で。
「……本を焼いたところで、全てが無くなる訳じゃない。紡いだ想いは、人の心と魂にこそ宿るものだから。……覚えておくよ。オリゲネス。」
流火はそう言った。彼女も多くの想いを受け継いだ者だから。
「『聖書の言葉とはその文言ではなくイエスの思想にこそある』、あんたの言葉だろ?
だったら、異端も焚書も知ったこっちゃないさ、その思想は息づいているんだから。」
「……はは。僕の言葉を引用されちゃあ、納得するしかないや。」
ザイスティスの言葉は、オリゲネスのそれで。納得するほかない。
「すべてを焼かれても、私もその名を残しています。ならあなたも。私より偉大な人、なんでしょう?」
「どうかな。僕はそこまで偉大だとは思わないけど。でも、覚えていてくれるならとても嬉しい。」
「貴方ほどの方が偉大でないとしたら。まあ人は往々にして、自分を小さく見てしまうものですが。ええ、皆。忘れないでしょう。」
我が身を焼いた、セイヴァーとオリゲネスのやりとり。それを聞いて、マギは宣言する。
「そうね、次に行く道も開けた。……一寸ヒヤっとしたけど。二重の意味で。
この本は……貴女が持っている?それとも、私が持っていってもいい?」
アラディアは、『諸原理について』を見せる。
「どちらでも良いよ。そんな本で良ければ持って行ってもいいし。僕にくれてもいい。」
「ちょっと……いえ、かなり装丁が崩れてるけど――なら、私が持っていきましょう。きっと、全文解読して見せるわ?」
"学説"のレムナント:「ふふ……嬉しいなぁ。そう言ってもらえると、書いた甲斐があったというものだよ。
特に不思議な力とかは無いけど、僕はその本を通して、君たちのこれからの安寧を、精一杯心から祈らせてもらうよ。」
アラディアは、ひとつ。敗者とされた者から受け継いだ。それは、また一つの救い。
「くれぐれも、大事にしてくれよ?もうボロボロだけど、ね。」
いたずらめいた笑顔で、オリゲネスはそう言った。その表情は、彼女の心が救われたことを意味していた。
「綺麗ごとが通用する内は貫き通させて貰う、そう決めたから。 じゃ、行きましょうか。」
アラディアは、本を懐に仕舞った。
扉に刻まれたのはスペードのキング。それは、映画館を指し示している。

トランプを近づけると、また白い光に包まれ。
先ほどまでのと同じように、どこかへと移動をするのだろう。以前のような、恨み言や怨嗟の嘆きは響かない。────だが。
何か不穏な気配を感じる。先ほど白い光の中に貴方たちが見たのは、少女だった。しかし此度は違った。
貴方たちの目に映るのは、1人の男。だが、その顔は見えなかった。
否。
正確には"認識が出来ない"。あるいは嫌悪、あるいは憎悪、あるいは吐き気────様々な負の感情に"認識が塗りつぶされる"。
かろうじて、その男の所作が"手招き"であること、そして────その服装が、貴方たちの見た『少女と共にいた男』と同じであった事に気付いた。
追うか、あるいは問うか、それとも攻撃か?
────その男に対して何かアプローチをしようとしたときには、周囲の景色は既に、変わっていた。

**

風景が変わると、あなたたちの目の前には大きな建物があった。それ以外に建物は全くなく、周囲は荒れ果てて。導かれるように建物へ入ると、そこは映画館だとわかった。
無人の売店、散らばったパンフレットやポスターの山、崩れた瓦礫の山……。そして、閉ざされたスクリーンへの扉。
そういった様々な要素が、其処を映画館であると認識させる。しかし、まるでそこは、かつては栄えていたが今は捨てられたとでもいうかのように、様々なものが散らばっている。
「映画館、だね。」
「…スクリーンは、あっちかな。」
「音が聞こえるな。上映中ってわけか。」
「…鍵がかかっていますね。やはり、ここも一筋縄ではいかない。」
「オリゲネス。彼女の想いを、引き継ぐわ。この本にかけて。」
一同の思いはひとつ。この世界も、仕組まれたものだとしても。足掻いてみせる。

要塞を潜り抜けた。球戯を繰り広げた。図書に寄り添った。次なる舞台は映画館。そこでは何が描かれるのだろう。
彼らは知る。過去、現在、未来。或いはどこでもない新世界。どこにでも、敗者とされる者は存在すると。
…そしてついに、対峙する時が来る。敗者達との舞台を演出した、敗者の上に立つと豪語する者。
敗者の中にあって、敗者であることを認められない。そんな哀れなる邪悪が現れる。
そしてその更に奥には。この世界の"王"がいる。結末は、近づく。

深淵界忘却譚 ゲヘナ。そしてそこに縛られし敗喪徒レムナント。まず、何故彼らは敗北した?正義ではなかったから?必要ではなかったから?無力だったから?そうあれと定められていたから?そこに、答えがあるとすれば。決して一つではないだろう。

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