ダミーカラット・デッドコピー

「あ、そういや一応訊いとくが」
　ロッソ・スケイルは九人の仲間を見渡しながら言った。
「別に、俺についてこなくても良いんだぜお前ら。グラックヴァイズの奴みたいに留守番したいってんなら構わねえさ。誰も責めねえ。
わざわざ危ない橋渡るなんて俺みたいな物好きのジジイのやることだ。やっぱり参加したくねえってんなら今のうちに申し出てくれ」
　ヴァチカン襲撃直前、老人は最後に仲間に尋ねる。
　此処から先は死地。或いは仲間を失うこともあるだろう。
　しかし、頼もしい仲間たちは老人の不安を吹き飛ばすように声を上げる。
「何言ってんだよロッソ！　アンタが危険なヤマ越えようとしてんなら俺たちも一緒さ！」
「そのとおりだとも！　俺たちは同じ一座の仲間じゃねえか！　水くせえぞ、ロッソ！」
　老人の口元が綻んだ。
「おめえら……。……あーあー、とんだ馬鹿どもだ。いいぜ、好きにしやがれスットコドッコイども。
死んだら死んだでその時さ！　俺たちは新たな人類の繁栄の薪だ！　せいぜい派手に燃えてやろうぜ！
それに例え俺たちが死んでもあいつがいる！　誰のことだかはもちろんわかってるだろ？　なぁバカ野郎ども！」
「ダミーカラット！」「ダミーカラット！」「愛すべき間抜け！」「燃える炎の心の子！」「無脳の王！」
「ダミーカラット！」「ダミーカラット！」「真なる太陽！」「俺達のダミーカラット・デッドコピー！」
「イグザックトリィ！　カッハハ！　最高だぜ阿呆ども！　そうさ！　奴が、ダミーカラット・デッドコピーが必ず仇を取る！
そして燃え尽きる俺たちの炎を継いで未来を照らすコルヌの太陽となるだろう！　安心して死にやがれくたばり損ないどもめ！」

「許せねぇ……絶対に許せねぇ……！　こんな理不尽許せないよなぁロッソ……！　あいつら……全員皆殺しにしてやる！」

基本情報

【芸名】ダミーカラット・デッドコピー
【真名】「ゆらゆら歩き」ミッゼヘンテ
【性別】男
【年齢】18歳
【出身】中国
【身長・体重】180cm・72kg (嘲障時 1592cm・4013kg)
【肌色】赤【髪色】赤【瞳色】赤

【属性】混沌・反人
【神代回帰】質：A+++ 量：A+++ 編成：感覚的誤差が生じた無限数錯覚への神秘幻想
【起源】統合
【所属】『能無し曲馬団』
【称号】『司会役』

魔術・特殊技能・特性など

『嘲障ムルーレ』

「みんな！　ゆらゆら歩きの僕と歩幅を合わせてくれ！　さぁ、思い出せミッゼヘンテ！」
『五の濠』の奥義『限定霊障』と同ランクの出力を恒常的に発揮する魔人技。
体表に刻まれた疑似魔術刻印が形成するエーテル体に『示現大罪』を受肉させることで怪力乱神を振るう。
「ゆらゆら歩き」ミッゼヘンテの場合は録音及び再生及び拡大解釈。
彼の『転写鎖・逆順』で触れた『示現大罪』を宿主の情報ごと"録音"し、
録音済の『示現大罪』の能力を"再生"し、自身の能力として"拡大解釈"する。
ミッゼヘンテの録音に容量はないが、ダミーカラット曰く「絆の力」が力の源となっているようで、
『転写鎖・逆順』で録音できるのは互いを真の友人と思っている間柄の者たちの能力に限る。
現在、ミッゼヘンテはヴァチカン襲撃事件で消滅した十人の『花形』の能力を完全な形で保管しており、
理論上は彼だけで『角』と『知恵遅れ』全ての『示現大罪』と能力を行使することが可能。
『示現大罪』の拡大変容体はホモ・サピエンス。

録音内容(旧『花形』)

「黎明の」ムルードア

『黎明の光よ闇を裂け！　我が太陽、ムルードア！』
その能力は汚染。
オリジナルの「嘲る」ムルル同様に変異種ムルルの種子を周囲の人間の中に植え付け起源覚醒させる。
『示現大罪』の拡大変容体は獅子。

「病み鴉」クッシャー

『増え殖え不壊腑会フえ負えふ江！　増殖し、ししっ、しっしろ、クッシャー！』
その能力は分割。
僅かな肉片から様々な獰猛極まりない生物を創造して使役し物量によって敵を押しつぶす。
『示現大罪』の拡大変容体は鷺。

「嬌名」ヒュゼラン・シュー

『ああ、これこそが高揚……瞳を奪いましょう？　ね、ヒュゼラン・シュー？』
その能力は盲目。
一定範囲に侵入した相手の五感をランダムに三つ、強制的かつ永久に喪失させる。
『示現大罪』の拡大変容体はイソギンチャク。

「膿柱」アイゼン

『伝え！　腐れ！　そして宿るのだアイゼン！』
その能力は腐敗。
周囲の人間の精神を腐らせ、それを養分に育ち毒霧を放つ苔を植え付ける。
『示現大罪』の拡大変容体はナメクジ。

「麗らかな」ローゼルジム

『全部捨てて捨て去ってぇ？　ブッァァァカ！　それでも私には届かない！　ローゼルジムには届かないィッ！　クッヒャッヒャッヒャヒャヒャハァァッ！』
その能力は硬化。
体表を柔らかく剛健な物質に変化させ、衝撃や気功を含めた全ての攻撃を無効化する。
『示現大罪』の拡大変容体は蛾。

「暮れなずむ」ムースハズン

『ムースハズン、ムースハズン、名無しの森で朽ち果てし少女は亡骸を啄むトーブ鳴きバロロームの訪れ内在する怒号は救命し遠征しコリティスシアの輝きを得るままムハン人の囁きを得て鳴動鳴動鳴動鳴動鳴動鳴動鳴動しはずむなる！　ムース！　ムース！　ムース！　ムース！　ムースハズン！』
その能力は問答。
彼の言葉を理解しようとした者の脳にループ構造を作り精神を完結させることで植物状態に陥らせ、
最終的には産まれ落ちた瞬間まで遡って誕生しなかったことにする。
『示現大罪』の拡大変容体はブージャム。*1

「隔周」ウェカ

『我が名は空。我が名は無。我が名はウェカ。全ては無意味。諦めよ』
その能力は透過。
肉体を情報に変え、物質界・アストラル界・過去・未来からのあらゆる干渉をシャットアウトしながら一方的に攻撃する。
『示現大罪』の拡大変容体は巻貝。

「纏わりつく」ジ・ジ・ンプ・ズ

『君に仕立ててあげるっ！　とっても可愛い死に装束っ！　レッツ・コーディネイト！　行くよジ・ジ・ンプ・ズ！ﾐ☆』
その能力は虚飾。
無から生み出した服で着飾らせた相手は、代償として生み出された服の三百九十倍の重さだけ肉体を失っていく。
『示現大罪』の拡大変容体はイトマキエイ。

「鏡衣滴る」ウェザォーナナ

『星が出るよ♪　星が光るよ♪　星が回るよ♪　星が、並ぶ、並ぶ、並ぶ♪　────死ね。ウェザォーナナ』
その能力は空洞。
望んだ場所に超超局地的に作用する重力の井戸を自由に生み出し、相手を重力レンズ越しに映る歪んだ姿に固定する。
『示現大罪』の拡大変容体は蜻蛉。

「警鐘する」ハンザ

『視えたァッ！　これこそが我が活路、ェェェンドゥッ我が覇道ッ！　ベルを鳴らしたまえハンザ！　儂様のショータイムだ！』
その能力は予言。
使い手が完全無欠に無双しシーン中で最も活躍し目立ち周囲に称賛を受けるという予言を絶対に出力し、未来を予言通りの形へと歪める。
『示現大罪』の拡大変容体はペンギン。

礼装・装備など

『転写鎖・逆順』

劣化した『道化』の贖罪釘。
「ゆらゆら歩き」ミッゼヘンテの能力によって"録音"を発現させた代償に『道化』の能力を全て喪っており、
『道化』が内包するはずの『示現大罪』、「嘲る」ムルルを痕跡さえ残さず遺失してしまっている。
これによってダミーカラットは『欠番の愚者』の粛清対象外に逃れてしまった。*2

外見・容姿の詳細など

さっぱりとした青年。いつもにこにこと笑顔を絶やさず明るく元気。
まだ表情に幼さが残るが、時には歳に似合わぬ大人びた顔も見せる。
絶世の美男子であるため女性団員の一部は密かにファンクラブを作っている。
数多くに親しまれ、また親しむ、妙な魅力を醸し出す十八歳。

人物像

ヴァチカン襲撃事件後、『司会役』に就任した若き『角』。
サーカス団としての活動は放棄しているため冷たいやつと思われがちだが、
いざ仲間たちが傷つけられれば義憤に燃えて戦おうとする、クールだが熱い男。
ロッソ・スケイルの生前から最強の『角』の称号をほしいままにする最高戦力。

イメージカラー：ドレッド
特技：大量殺戮
好きなもの：仲間,友情,人殺し
苦手なもの：喧嘩
天敵：険悪ムード
願い：「角」の繁栄

【一人称】僕　【二人称】あんた

台詞例

来歴

本名は劉彭離。五歳の頃に『道化』に転じたが才能があったのか六歳の夏に起源に覚醒。
絶対的な力を得た彼は周りの人間が虫同然に思えるようになり、持て余した力と暇を連続猟奇殺人で解消していた。
それにも飽きた七歳の終わり頃、生きたまま観客を解剖しようと思いつき偶然訪れたサーカスで運命に出逢う。
「ダミーカラット・デッドコピー」という芸名を貰った彼はそれからの十年を『能無し曲馬団』で過ごし、
ロッソ・スケイルを始めとする『角』の同胞たちと友人となって、『座長』であるロッソの計画を手伝い続けている。

友人たちが殺されたことでダミーカラットの怒りに火が付き、復讐のために単独でのヴァチカン襲撃に奔ったが、
『五の壕』と教皇庁による総力戦に惜しくも敗れ、ダミーカラットが『能無し曲馬団』に戻ることは二度となかった。

性格

友情に篤く、何よりも友を大事にする爽やかな好青年。
別け隔てなく皆に接するタイプで『角』であれば見た目や素性を気にせず友だちになろうとする。

……が、それはあくまで『角』相手での話。
彼の本質は子供じみていて陰湿で粘着的かつ差別的。『角』以外を旧人類と呼んで毛嫌いし『知恵遅れ』でもそれは変わらない。
『角』の仲間に悪印象を与えたくないため表向きには『知恵遅れ』にも博愛をもって接しているが、
見えないところでは暴力暴言は当たり前、酷ければ『嘲障』のサンドバッグに使ってストレス発散の道具にする。
非常に狡猾で、『知恵遅れ』をいたぶる時には必ずターゲットを一人に絞るためロッソ・スケイルにすら露見していなかった。
ダミーカラットが暴力性の捌け口にしている獲物が苦痛に耐えかねて『能無し曲馬団』から逃げ出せば密かに後を追って殺害し、
男女問わず死姦を行い、戦利品として奪った眼球をコレクションに加えて次のターゲットを決めるのが一つのサイクルとなる。
これまでにダミーカラットがコレクションした眼球は百九十六個。つまり、九十八人の『知恵遅れ』を昏い衝動の犠牲にしている。
その中の七十九人が『角』としての覚醒を果たしていたがダミーカラットは見下す相手が同列に並ぶのを嫌って例外なく殺害した。
ロッソ・スケイルたちは死した『角』の能力を引き継げる彼を『新人類の救世主』と褒めそやし、
彼らの死後も『能無し曲馬団』と『知恵遅れ』を導く最高のリーダーとして期待を寄せて自らを薪とすることを選んだが、
仮に彼が『能無し曲馬団』を掌握したとすれば先にあるのは『角』の未来ではなくダミーカラットの幼稚性が支配する箱庭だろう。

さて、ダミーカラットが次のターゲットにしたのは以前から旧人類だと看破していた『角』の偽物。
彼女の醜い重瞳は合わせて四つの目を持つ貴重品だ。
これを普通の眼球四つ分と数えてコレクションに加えれば二百個に到達するからメモリアルにちょうど良い。
更に『花形』の役職持ちが彼と彼女しかいない今ならダミーカラットが一座の頂点に立てる。一石二鳥だ。
どうやら『花形』に名乗り出ようとしている身の程知らずなゴミもいるようだが、その程度なら簡単に殺せる。
まずはトップに立つ事実を作るのが大事だ。後で向かうつもりだった仇討ちも功績稼ぎに流用できる。
ロッソたちは殺されてしまったが所詮敵は旧人類。ダミーカラットが本気を出せば一日もかからず皆殺しにできるだろう。
誰もがダミーカラットを崇め、ダミーカラットを恐れ、ダミーカラットに平伏する理想郷はもう目の前に見えていた。
気を使うべき仲間を理不尽にも奪われた今、ダミーカラットは誰の目も気にすること無く悪意と害意で口の端を釣り上げた。

行動規範・行動方針

常に友情のために動く……というのは表向きの話。
根本的な問題としてダミーカラットは自分を褒めそやし持ち上げる、取り巻きとしての友人を望んでいる。
子供っぽい承認欲求を暴走させる彼はある意味で悪魔という呼称が最も相応しい『角』であることだろう。
彼は自分すら欺いてしまう程の巧みさで他人のためを装い、その実、徹頭徹尾自分のためにしか行動しない。

役どころ・コンセプトなど

故人(?)　組織のバックストーリーの中心人物その2
汚染クソジジイから受け継がれた綺麗なセリフを吐く下衆外道ポジションで強さ的には裏ボス三体目くらいのレベル。

因縁キャラ

ユースド・ポケット

「あのさぁ、もうわかってんだよ、なあ、おい。あんた、ただの旧人類だろ。……っあぁぁぁぁぁ、くっっっせぇなぁ！　旧人類くせぇんだよお前さ！！　うぇ、吐き気してきた、おえぇっ。…………は。いいや、殺す気も起きないし、僕、あんたより優先することあるし、ロッソや皆を騙してたのは許してあげる。感謝してね？　見逃してやるんだから。…………。…………。……あぁぁぁぁぁあああぁぁぁぁぁぁあぁあああぁあぁ！！　わっっっっかんねえかなあぁぁぁぁあああぁぁ！？　僕の言ってることがさァぁああぁァ！？　今すぐ出てけって言ってんだよこのゴミ人類がッ！　じゃなきゃ今すぐ自殺しやがれ化物みたいな形しやがってよぉおぉぉぉぉぉお！　気持ち悪いんだよッ！　口が裂けてんのも関節多いのも肌が青いのも目ン玉の中身多いのも全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部全部存在レベルで僕たちの気分を害してるんだよクソ愚鈍がッ！　…………ハァ……ハァ……ハァ……────────フゥ。悪い悪い、流石にこれは言い過ぎだったよ。謝る。あんたみたいな出来損ないに居場所なんて無いことくらい僕もわかってるのにね。ふふっ、可哀想に。ごめんねぇ？　"バケモノ"ちゃん？　今すぐってのは大人気なかったよねぇ？　でねぇ。僕、今からロッソたちの仇討ち行ってくるからさ。帰ってくるまでには荷物まとめて消えておいて。ああ、皆への挨拶とか、いらないから。とにかく、とぉにぃかぁくぅ、早くいなくなってくれない？　ああ、そうだなぁ明日の朝には戻ってくるから。それまでにね？　頼むよ？　もしも僕が帰ってもそのくっっっっっっせぇッ旧人類臭を撒き散らしてやがったら、あんたが嘘つきだってことを皆にバラして殺すから。公開処刑ってやつ？　こう、あんたへの罵倒が渦巻く中、最高に苦しむ死に方で少しづつ殺していく感じで。一回やってみたかったんだよね。面白そうだし。……でもさぁぁあぁ？　嫌だよねぇえぇぇぇ？　そんな終わりぃぃぃぃいぃぃいぃ？　…………ふ、ふっふっふっふっふっ、ふははははっ。いいねいいねぇ！　産業廃棄物にもなれないゴミ生物にしてはいい表情するじゃんかぁッふはっはくはあっはっはァッ！　ふくあははっはははふくくははふくはははくァッッ！　…………ぁハァ……それじゃあね、ゲロ袋ちゃん。必ずだよぉ？　約束だからねェ？　あ、そうそう。これは僕とからの希望だけど、なぁるぅべぇくぅ苦しんで死んでねぇ？　あはっ。じゃ、バイバァイ♪」
　

ミスター・エンターテインメント

「……ぁ……ぐ…………ぐ、ガッ、ガァアァァァアアァァァアアッ！　意見しやがったなッ、この僕の、僕の決めたことにッ、この僕にッ！　くそっくそっくそくそくそくそくそおッ！！　花形でもない旧人類のくせにぃぃイィッ、僕にだぞっ、この僕にだ、僕、ぼ、僕、く、あ、ぁ、あ、ぁぁぁぁぁあアァぁぅぁアぁぁぁぁアアッ！　自分では戦えない雑魚がァっ偉そうにッ！　偉そうに偉そうに偉そうに偉そうに偉そうに偉そうに偉そうに偉そうにィィィィィィッッ！！　…………ぁあ……いいさ。そうだ、やっぱりダメだよね。重瞳でも四つ分なんて。うん。その前に、二つ用意しなきゃ。ああ。そうだよ、旧人類のくせに、僕を差し置いて座長になろうとしてる奴には、身の程を教えてあげないとね。ふふっ、ふふふ。僕の力を見せてあげなきゃ。あはっ。…………待ってろよ、旧人類。帰ったら一番最初に殺してあげるからさ。ふふふふふふっ」

Q.汚染ジジイの能力ヤバイのになんで『角』少ないの？
A.こいつがいたからです。

能無し一座最強の『角』兼、能無し一座最低最悪のクソ野郎。
自分では本気で情に厚い熱血漢のつもりのサイコパスかつ僅か十年で九十八人の団員を殺したシリアルキラー。
仲間から能力を継承する能力は彼ら『角』たちに発現する能力でも完全に別格の強さを持つのに、
ダミーカラットは自分より立場が高い『角』しか友人と認めないため能力が十個より増えることはない。
実のところサーカスという取り組み自体馬鹿にしており、芸事に耽溺する『花形』たちのことも無意識下では見下していた。
しかし、同族には善意と親愛をもって接する『角』たちはダミーカラットの侮蔑に気が付かないまま生涯を閉じた。
ダミーカラットの本性に気がついていたのはただ一人、ユースド・ポケットだけ。
幹部たちが消えた途端にダミーカラットが彼女を狙ったのも、見透かされているのが前々から気に食わなかったことが起点。

ちなみに本名の劉彭離(リュ・ペンギ)は紀元前144年頃の中国の殺人鬼の名前が元ネタ。

その末路

ユースド・ポケットをいたぶって意気揚々とヴァチカン襲撃しに行った後、
ローマの街の一部に壊滅的被害を出すも結局ヴァチカンの門前で押し留められ、
最終的には最も屈辱的かつ最も苦痛を伴う方法で死……ねない。

具体的に言うと
①「白痴」ペスターロ・ヴィ・デーロで録音した仲間の情報を消され、
②「被せ割く」ラーグ・ラーグで嫌悪する旧人類の皮を被せられ、
③「臨界突破」ア・ラオア・リラで悪魔の機能を弱め人間部分を賦活され旧人類に堕ち、
④「逸脱」ファンドラッヘ・バーナードレーンで人格を保つようにされたまま、
⑤「嘲る」ムルルで汝は『道化』！されて粛清対象に入り、
⑥「終末の吹き手」モートヤカ・キュギュヒュセシアン・ルズ・ヘイゼの本気で悪魔性を数億に分割されて消却され、
⑦力のほぼ全てを失い人型を保っているだけの無力な姿ながらややあって平行世界になんとか逃げ延びたと思ったら、
⑧平行世界にいた『左手』に見つかり「融界」ブラッドブロームで『皮袋』にされてトイレに流され、
⑨汚物溜まりの底へと沈み、悪臭の中で動くことも出来ず永劫の時を過ごすことになる。

ちなみに、ダミーカラットの出した被害はアルメア経由で干渉した「急速落下」ド・トゥートゥハイハの巻き戻しで全部修復された。
ので、報告書上では被害ゼロという扱いとなった。
オマケに初の大規模巻き戻し活用例として必読資料になったため、その無様ぶりが後世まで知れ渡ることとなった。ちゃんちゃん。

再襲撃の前後とユースド・ポケット

　ユースド・ポケット────ナリア・ラドヴィッジはダミーカラット・デッドコピーが湛える瞳の色をよく知っていた。
　見慣れた色。見世物小屋にいた頃のナリアが常に曝されていた彩りだった。
　だから、彼がナリアに急に詰め寄り罵倒を浴びせてきたときも、ナリアは少しも不思議だとは思わなかった。
　罵声。そして、不機嫌な声と鋭い痛み。
　五年ぶりの再会は思っていたよりも日常的な色をしていて、なんだか、随分昔に失くした鍵を部屋の隅で見つけた時に似ていた。
　決して劇的な再会をしたかったわけじゃないが、なんだか少し拍子抜けする。ぜんぜんへいちゃらだ。
　そもそもよく考えると再会というのが間違いかもしれない。だってナリアの人生は怒鳴り声と痣から出来ている。
　十年以上も、人生に長く刻まれたのだから、きっとそれらはナリアの一部になってしまっているのだろう。
　不思議そうな顔のナリアはダミーカラットの望む表情をしていなかったのか、彼はより苛立ちを募らせ拳の勢いを強める。
　この程度の痛みは慣れ親しむものよりずっと軽かったから耐えることは出来たが、別に痛いのが好きなわけじゃない。
　ダミーカラットのような人間が好む表情をナリアが作ってみせると、思った通り彼は満足そうに拳を止めた。征服感が満たされたのだろう。
　その後は芝居小屋時代の応用だ。ダミーカラットの表情と語気を観察し望む表情と息遣いを作ってみせる。
　それは幼い頃にナリアが最初に覚えた芸、楽しい遊びの一つ目だった。
　このゲームの優れているところは上手くやれば遊んでいても殴られないで済むことだ。
　ナリアが上手くゲームを進めるほど長く続けられるから、毎日頑張って練習して少しづつ遊び時間を伸ばしていったのを今も覚えている。
　もしも、このゲームがチェスのように世界各国で遊ばれるようになれば、プロのプレイヤーになれるに違いないとナリアは自負していた。
　けれどもナリアは褒められると嬉しくなるのを隠せないからやっぱりプロは難しいかもしれない。
　"罵倒部門"とか"八つ当たり部門"みたいに分かれていればいいのだが。
　そんなことを裏で考えながらもナリアはダミーカラットとのゲームを危なげなく続けていた。
　どうやら五年間の空白もナリアのプレイヤーテクニックを錆びさせることは出来なかったらしい。
　これには少し嬉しくなった。ちょっと前にサーカスのお客さんにジャグリングを褒められた時の暖かさに似ている気がする。
　やっぱり劇的な出会いにはならなかったが、ハーブティー入りのカップを両手で持ってるような、ほんわかとした手触りは心地よい。
　もう一つの出会いとは違ってずっと浸っていたいぬるま湯のような暖かさだったが、これ以上は顔が緩んでしまいそうだ。
　最後に少しだけ暖まると、いつもでも思い出せるように心のメモ帳にそっと栞を挟み込んでダミーカラットのほうに集中し始める。
　正直に言えばダミーカラットは難易度が低いほうだ。
　罵倒は子供でも言えるようなものだし、感情任せで山あり谷ありの息遣いは七歳の頃でも問題なく感情を読み取れただろう。
　でも、少しだけ気になるのが瞳の奥。ナリアの両親がよく浮かべていた感情が見え隠れしている気がしたのだ。
　きっと危険なものだから、ダミーカラットに幼稚な癇癪を起こされ、それを振り回されるのはあまりよくない。
　だからナリアはダミーカラットに気づかれないように、こっそり、こっそり、彼を観察しているのだ。
　彼の感情が爆発する瞬間、そこを狙って嗜虐心を満たしてやればダミーカラットのような底の浅いタイプは満足してしまうのをナリアは知っていたのだから。
　もうすぐ、もうすぐ、もうすぐ。…………今だ！
　ナリアが会心の表情を作ってみせると、ダミーカラットの目で昏い欲望が燃え上がり、彼はゲラゲラと大声で笑い始めた。
　やった！　成功した！
　心の中で上げた歓声は現実のナリアの顔も少しだけ緩めたが、ダミーカラットは絶対に気が付かないとわかっていた。
　なぜならナリアは知っている。ダミーカラットはナリアを見ているようで見ていない。
　彼が欲しいのは自分の言葉を響かせた相手が作る反響音、つまり、ダミーカラットの声のやまびこなのだ。
　初めから自分に酔っていて、でも、いつも同じカクテルでは飽きてしまうから他の誰かにシェイカーを振らせる。
　そのくせ混ぜすぎると不満になるけど、シェイカーを振る時の癖を読み取れるナリアには朝飯前。
　ついでに強い蒸留酒を混ぜ込んで飲ませてしまえば、ナリアがどんな顔をしていてもしばらくは自分の世界で夢を見てくれる。
　そして、ダミーカラットも、やっぱりナリアが思った通り、自分の世界に酔っ払ったまま何処かへ行ってしまったのだった。

　ゲラゲラ笑いのダミーカラットが去った後、ナリアはジャグリングの新技の練習をしながら少し考えていた。
　どうやら、ナリアは明日までにサーカスを辞めて出ていかなければダミーカラットに殺されてしまうらしい。
　こちらは酔いに任せての言葉じゃなかったから、たぶん、本当に殺されてしまうのだろう。
　殺されるのは困る。ナリアは思っていた。
　だって今練習してる技がまだ完成していない。難しいけれどあと何日かでマスターできる気はしているのだ。
　それに、できればサーカスの舞台に立って観客の前で披露してみたいし、そのためには沢山の練習が必要だ。
　でも『能無し曲馬団』を出ていくのも困る。フリークショー以外でナリアを雇ってくれるサーカス団なんて滅多にない。
　もし、あったとしても『能無し曲馬団』と同ランクのハコでサーカスクラウンを演じられる可能性はとっても低いのだ。
　殺されても困るし、出ていくのも困る。さぁ、どうしようか。
　練習しながら考えているうちに、ナリアは困るのが邪魔になってきた。
　困っているとクラブを取り落としてしまう頻度が高くなってしまうのだ。
　だからナリアは困るのを忘れることにした。
　どうせ答えは出ないのだから困っているだけ損してしまうし、ジャグリングはナリアの好きな遊びの一つなのに困っていては身が入らない。
　それに、ナリアはずっと昔から"おばけ"と呼ばれていたのだ。
　もしかしたら殺されても、"おばけ"から"ジャグリングおばけ"になるだけかもしれない。
　そう考えると気が楽になって、クラブを投げる手までが軽くなったような気がした。でも、すぐにまたクラブは重くなる。
　ナリアはまた困ってしまった。
　なぜなら、ナリアはジャグリングが好きだけど、手品も、玉乗りも、ダンスも、さっきの表情ゲームも好きなのだ。
　ジャグリングおばけになったら他は出来ないかもしれない。でも、どれか一つを選ぶなんて出来ない。
　それと、もしも歌うおばけになったら殺されるよりも困ってしまう。ナリアは歌うのがとても苦手なのだから。
　困りに困ってしまったので、通りかかったトカゲ男のドラッドに話してみると、
「……あー。私はおばけのことはよくわかりませんが、どれか一つ選べないならピエロのおばけになればよいのでは？」
　天啓だった。
　ドラッドの言う通りだ。ピエロのおばけになればジャグリングも、手品も、玉乗りも、ダンスも、表情ゲームもできる。
　歌うおばけでもピエロおばけの仲間ならきっとナリアの好きなことができるに違いない。
　嬉しくなったナリアはクラブをポンポン投げて見る。軽くなった身体は自由に動いて上手いこと新技が成功した。
　ドラッドが「おー」と間延びした声を出してパチパチと小さく手を叩く。
　成功と称賛で、もっと嬉しくなったナリアは真っ赤な顔を隠すように恭しくお辞儀をしてみせた。
　ふと、なにか引っかかる。
　そういえば少し前にとっても困っていたような気がしたが、あれは一体なんだっただろうか？
　小首を傾げて見たが思い出せなかったナリアは、今度は"思い出せなかった"を忘れて再びクラブを投げ始めたのだった。

　ナリアが"思い出せなかった"を思い出して"困っていた"を思い出したのは次の日の朝だった。
　大変だ。ダミーカラットに殺されてしまう。
　殺されたら困ってしまうので近くにいたシルクハットのルックロックに殺されない方法を尋ねようとしたが、
「作業の邪魔です」
　そう、追い返されてしまった。
　次に見つけたのはパントマイム師のクローズドだった。
「……………」
　でもクローズドは口を縫い合わされて話せなかったので答えは貰えなかった。
　黙ったまま手を振るクローズドと別れて、次に見つけたのは機械男のヴァンヴィエッタだ。
「ダミーカラット……？　……すまない……思い出せない…………」
　忘れっぽいヴァンヴィエッタはダミーカラットのことを忘れてしまっていたらしい。
　ナリアも"困っていた"をさっきまで思い出せなかったので彼を責めることはできないだろう。
　申し訳無さそうな彼にお礼を言ってキョロキョロとサーカスの中を見回してみるが殺されない方法を教えてくれそうな団員は見つからない。
　ルイキエッドは夜明け頃の冷え込みで身体が凍ってしまったのか彼の眠る壺には『解凍中』と立て札があったし、それを燃える身体で温めている火吹き屋のカロラは忙しそうだ。
　他の団員たちはぽしょぽしょと目を擦って欠伸をしたり、朝食の用意を急いだりと、ナリアの質問に答えてくれそうな雰囲気ではない。
　新しい"困った"が増えてしまったナリアは困っているポーズのまま固まっていたのだが、
「オッハヨー！　ユーちゃん！　今日は早起きだねー☆」
　そんな声に振り向くと、そこには、うさぎの着ぐるみを着ているメリーがいた。
　早起きとメリーは言うがそれはメリーも同じだ。身体の弱い彼女がこんな早くに起きているのは珍しい。
　そう思ったナリアがメリーに尋ねると、
「チッチッチッ、違うんだなーこれが！　アタシ完徹！　キャッホー！　どっかの馬鹿の尻拭いなんて最高ね！」
　……よく聞けば声はいつもよりヤケッパチになっている。大分、疲れているのかもしれない。
　だが、尻拭いとはいったい何のことだろうか。
「ん？　あれ、ユーちゃんまだ聞いてなかった？　ダミーカラットの馬鹿がさー、昨日の夜に仇を討ちに行くって一人で飛び出してねぇ。何人かで追いかけたんだけど『五の濠』連中とこれがもう大戦争！　アタシたち入っても勝ち目ないから折を見てダミカラちゃんを回収しようと思ってんだけど……」
　ここで一層彼女の声は低くなってドスが効き始めた。
　着ぐるみの上からはわかりにくいが、メリーは内心、かなり荒れているようだ。
　長い溜息の後にメリーが続ける。
「結局、ダミカラちゃんは惨敗どころか惨死。死んじゃった☆　それでぇあのコが残した痕跡から辿られるかもしれないから一晩掛けて証拠と証人を消してきてぇ、やーっと人心地ぃ……」
　壁に寄りかかった着ぐるみがズリズリと音を立てて座り込んでいく。
　着ぐるみの奥からはスヤスヤと寝息が聞こえてきたので眠ってしまったらしい。
　ナリアにはメリーたちがサーカスの外で何をしているのかよく知らないので、戦争だとか何とかは上手く理解できていない。
　だが、どうやらダミーカラットは死んでしまったらしい。それだけははっきりわかっていた。
　ダミーカラットが二度と帰ってこないならナリアは殺されない。ようやく"困っていた"が解決された。
　ナリアはなんだか安心してしまって、とっても眠くなってきてしまった。
　そういえば昨日はジャグリングの練習に集中しすぎて眠るのを忘れていたんだっけ。
　くぁ、と欠伸をするとメリーの隣の壁を借りてナリアはウトウトと船を漕ぎ始めた。
　困ったことが無くなって、楽しいことはたくさん。いつものナリアの日常だ。
　夢のようなサーカスの日常は再び目を開けるその時もいつもどおりにナリアを迎えてくれるだろう。
　だからナリアは安心して目を閉じるのだ。きっと、この夢がずっと続いてくれると信じて。

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