最終更新: nevadakagemiya 2018年03月01日(木) 19:55:19履歴
─────最初は、夢を見るのが楽しかった。
夢の中で広がる世界。異形の怪物がひしめき合う楽園。
そんな世界を夢の中で描いて、そして小説にするのが、楽しかったんだ。
………………次第に、夢を見るのが怖くなった。その夢の世界が、何度も終わる夢を見た。
そしてその夢は、やがては僕自身が滅ぶ夢へと変わっていった。僕は夢を見る度に泣いた。
────────でも、それは正しい事だった。夢の通りになるべきだったんだ。
うすれゆく意識の中で、僕は思う。
僕は
生まれて
き
ちゃ
い
け
な
い
存在
だ
った
ん
だ
◆
──────────南緯47度9分 西経126度43分
「クククククク………!!どうした英霊様よぉ…。
俺を止めるんじゃなかったのかァ?残念だったな……
生憎だったなぁ!!お前ら如きに俺は止められない……!!」
口元を布で覆った男、Dr.ノン・ボーンが
笑いをこらえられないといった様相で言う。
周囲には島一つ見当たらない海上に浮かぶ大型船の上空で、
英霊を捧げられた神霊、アザトースがぽつりと浮かんでいる。
彼女の周囲には空間が歪むほどの魔力が満ち、円のように満ちている。
その様はまるで──────────────
「まるで聖杯………………生きた聖杯じゃないか…!!」
「……答えろ!!!なんで……なんでこんな事をするんだ!?
彼女だって生きていたんだぞ!?それを利用してまで…得るものは何だ!?」
カルデアのマスター、藤丸立華が眼に涙をためて叫ぶ。
それに対してDr.ノンボーンはクククと喉を鳴らしながら答えた。
「青二才が、得る得ないじゃねぇんだよ。これは復讐だ。
我ら人類が新世界に昇華するために、英霊共には根こそぎ犠牲になってもらう。
彼女はその為の必要犠牲さ。分かってねぇなら口出すんじゃねぇよガキ」
「復讐……………………、犠牲だと………………!?」
「そうだ。英霊絶滅計画。今までの人類の進化を全て0とし、
そしてもう一度人類の自立進化の可能性を見出す計画こそが、
俺の望む新世界。その為に、"奴"により人類史全てを、リセットする。」
ノンボーンは上空に浮かぶアザトースを親指で差し、
そのまま突き立てた親指を地面に向かって振り下ろす仕草を取った。
「…………………。」
そのノンボーンの姿を見て、彼の周囲の仲間と思われる人々は
ただ黙ってみているだけであった。止めようとするものも、笑う者もいない。
「そもそも考えても見ろ。根源だぞ?
根源がそばにある。それを利用しないお前たちは何だ?
菩薩か?聖母か?"そんなんだから人類が衰退するんだよ"。
欲がないのが正義か?違うな。それを利用し、発展することこそが人類の本懐だ。
それをしようとしない時点で、やはり英霊は悪だ。切り捨てるのが正し──────」
「黙れ」
マスターの隣に立つ、白いコートを着た神殺しの抑止力、
タイタスクロウが固く掌を握り締めながらノンボーンをにらみつける。
「もう喋るな……。口を閉じろよドブ野郎………ッ!!
アイツを知らねぇオメェがそれ以上奴を語るんじゃねぇ……!!」
「貴様が抑止力か。なるほど、面白い魔力をしているな。基本俺はお前たちとは敵対しない主義だが、
こうして貴様ら………人類の総意と敵対するというのならまぁ、仕方なく敵対してやろうか。
やれやれだ、これではカール・クラフトの大言壮語を嗤えんなぁ」
「………っざっけんじゃ………ッ!!」
「タイタス!アレを!!」
タイタスの隣に立つマロニーが天を指さす。
すると、上空に浮かんでいたアザトースが明らかに尋常でない苦しみ方をしていた。
「ぁ……っ!!ぃぎ!っひぃあ………………ッ!!
アァァァァァァアアアア!!!痛い!痛い痛い痛い痛い゛ぃ!!!」
「………………はじまったか…………。」
ノンボーンはそう呟くと周囲の仲間たちに合図を送る。
それと同じくして、天は墨で塗りつぶしたかの如く黒き暗雲に覆われ始めた。
「なんだ………何が起こるっているんだ!?
ホームズ!そっちではどうなっている!?状況を!」
『非常にまずい事態だ。"大気の魔力の割合が徐々に増加している"。
しかもこの魔力、マナともオドとも違う。文字通り"別次元の代物"だ。』
「なに………………を!?」
ダ・ヴィンチがホームズに聞き返そうとした、その時であった。
非常に大きな地震……いや海震が突然、彼らを襲った。
「うわっ!?なんだ!!」
『………………なんの冗談だこれは?
"地面がその場に出現しようとしているぞ"!』
「くっそマジかよ!!マスター俺に掴まれ!!」
バッ!とタイタスがマスターを抱きかかえる。
そしてそれからすぐに、船が浮いていた海面から、
突如として地面が隆起し出現した!
マスターと召喚されていたサーヴァントは、
唐突の事態ではあったがすぐに着地した。
恐るべきは敵たちであった。唯の人間であるにも関わらず、
連中は浮き上がった船から恐れることなく飛び降り、怪我一つなく隆起した大地に着地した。
「マジかよ……あいつら人間だよな!?」
「た……タイタス………あれ…」
抱きかかえられているマスターが、声を震わせながらタイタスの服のすそを引っ張る。
彼の視線の先には、己の顔の半分を抑えながらのたうち回るアザトースがいた。
◆ ◇ ◆
「ぃぎぃ……!!っく……痛い…!痛いよぉ………!!」
叫ぶ。叫ぶ。泣き叫ぶ。
それが救いにならないと分かっていても、そうしなくちゃ耐えられない。
…………耐える?なんで?自分の中に疑問が生じる。
文字通り、身の内側からぐちゃぐちゃにかき回されるような激痛が全身を走る。
触手が身体の孔という穴から嬲り、理性の精神を狂気に犯してゆく。
嫌だ。嫌だ。嫌だ。ソトと繋がりたくない。僕は僕でありたい。
化け物なんかになりたくない。人でありたい。………"死にたくない"。
そう願いながらも、頭の何処かでは分かっていた。
…………僕は生きていてはいけない存在だと。
生まれては、いけなかった人類の大敵だと。
カルデアでは、幸せだった。
特異点で拾ってくれた僕にも、優しくしてくれた。
杞憂、ニビル、金烏、……友達も…いっぱいできた。
─────楽しかった。本当に、楽しいだけの日々だった。
………………でも、それ自体が間違いだったのかもしれない。
僕なんかが、人類の大敵たる僕が、幸せを得るだなんておこがましい事だったんだ。
これは、生まれたことが罪だった僕への、罰なのかもしれない。
『─────!!─────!』
…………誰かが叫んでいる……。
もう五感も働かない。ただ肉に包まれてゆくだけの感覚しかない。
………………誰でも良い。誰でも……。この罪にまみれた僕に、手を差し伸べてくれるなら……。
こんな、生きることが間違いの化け物を、救ってくれるなら………。
た
す
け
て
「開く………開く…!扉が……!異端なる扉が……!
ぃぃぃぃぃぁぁあああああああアァ譁 ュ怜喧縺 !!!!」
◆ ◇ ◆
ぐじゅる、ずちゅちゅと触手が彼女の内側から這出し、
瞬く間に彼女の肉体を包み込んでゆく。
「チッ……!アザトース!!耐えろ!!己を強く持て!!!」
「………ぁ………、……た…す……ケ、t」
アザトースは涙を流しながらそう言い残し、
完全に自身の肉体からあふれ出てくる触手へと呑み込まれた。
「………ッ!!!ノンボォォォォォォォォォオオオン!!!!
テメェだけはぜってぇ許さねぇ………!!!」
「激昂いただき光栄だよ抑止力。だがまぁ、その怒りには答えられないな。」
そう言うとノンボーンは腕時計の指し示す時間を見る。
そしてすぐに空の彼方から音速のジェット機が飛んできて梯子を垂らす。
「さらばだ英霊共。二度と会う事はないだろう」
そう言うとノンボーンは、部下と仲間共々その梯子に
あろうことか素手で捕まり、そのままどこぞへと去っていった。
「おい待てこのドブ野郎!!」
「深追いはするなタイタス!!
それよりもあのアザトースをどうするかだ!!」
チッ、とタイタスは舌打ちをしながら天に浮かぶ触手の塊を見る。
………………殺すしかねぇのか………………、とタイタスは苦々しく呟いた。
その瞬間、バラバラバラとヘリが複数機到着し、中からウィルマース財団の面々が顔を出す。
「待たせたなタイタス!!……どうやら、遅かったようだな」
「あんたらのせいじゃないさ。気にしないでくれピースリー」
「………………。」
タイタスの追い詰められたような表情を見て、
ピースリーは何かを悟ったような顔をする。
「オイタイタス!!来たら何が起こってんだこりゃあ!?
とりあえず何を爆破すりゃあいいんだオイ!?」
「爆発じゃ納めらんねぇよラバンの叔父貴!!」
その瞬間、ごぽり…、と天に浮かぶ肉塊が何かを吐き出した。
それは名状しがたく蠢く肉塊であり、そして数多の触手がその表面を覆っていた。
「?……なんだアレh」
『ッ!!!伏せろ!それは──────』
瞬間、肉塊は爆薬の如く触手を広げた。
「ッ!!!!」
『データ上、それは紛れもない"神性"だ!
大丈夫か!?おい返事をしろ!』
ホームズの珍しい慌てた声が響く。
何とかタイタスたちは立ち上がるが、周囲は見るも無残な状況と化していた。
「チッ………………!旧支配者レベルの代物かぁ……?
──────ッ!?冗……談だろぉ……オイ!?」
震える身体にムチ打ち、立ち上がったタイタスの視界に入ったものは、
先ほどの神霊レベルの肉塊が、夥しい数降り注ぐ地獄のような光景であった。
◆
タイタス・クロウは絶望という物をこの時感じた。
シャッド=メルと対峙した時も、異世界に一人放り出された時も、
ヨグ=ソトースをその目に見た時でさえ、彼は心は折れなかった。
それでも………、文字通り具現化されたこの世の破滅を前にして、
初めて彼の心は折れた。
だが、それでも心が折れない人々がいた。
ウィルマース財団の人々が、果敢にアザトースの生み出す悪性神性に立ち向かう。
訓練された戦闘兵たちであったが、それでも次々に負傷する財団たち。
ラバンやカーター……自分より数倍の修羅場をくぐっている英霊たちも立ち上がる。
様々な手段でアザトースへの攻撃を試すが、アザトースには一切の傷がつかない。
それでも、それでも彼ら英霊は、『攻撃をしている間は神性が出現しない』
という理由だけで、自分の霊基を削ってまでアザトースに連続攻撃を行った。
─────────恥ずかしい話だが、この場にいる英霊で最も若い英霊は、
このタイタス・クロウであろう。彼は考えた。そして恥じた。
何を?最も力がない、信仰がない事を………ではない。
一人勝手に絶望し、膝をついていることを、だ
タイタス・クロウは立ち上がる。
もう膝をつくようなことは無い。
何故なら自分には、立ち向かう切り札があるのだから
◆
「待てタイタス」
ガシッ、と肩を何者かに掴まれる。
かつてウィルマース財団にて共に戦ったウィンゲート・ピースリーだ。
「お前、また一人で解決しようとしているんじゃあないだろうな」
「……………………………………………………。」
タイタス・クロウは応えない。
ただ口を真一文字につむぎ、アザトースへ向ける拳を固めているだけだ。
「お前は生前からそうだった。
何かあろうとすると、すぐに一人で解決したがった。
マロニーの奴がそう愚痴ってたっけなぁ。………。」
ピースリーが少し笑いながら言っていたが、
やがては険しい表情になってタイタスの目を見つめる。
「…………死ぬ気か」
「当然だ。あんな化け物。
死を以てしてでも止められんだろう」
そうタイタスが言うと、ピースリーは
タイタスの首を締めあげた。
「考え直せタイタス。奴ならば我らが何とかする!
だが…貴様が命を投げ出すような真似はするな!!
死は救いではないんだぞ!!」
「死ぬことは怖くない。いや、
一番怖いのは、俺が死ななかったことでお前たちが大勢死ぬことだ」
タイタスは変わらない瞳で言う。
ピースリーは悟った。こうなったこいつは、何を言っても考えを変えないと。
「……………………勝手にしろ。」
「…………すまない、ピースリー」
「代わりに、終わったら一発殴らせろ。
この機械の拳で、全力でなぁ」
バァン!!と近づいてきた肉塊の化け物を、
パンチ一撃で肉片にしながら、ピースリーは笑った。
「……………………良いだろう」
ニィ、とタイタスは笑い、再びアザトースへと歩を進め始めた。
◆
歩を進めるタイタスを脅威とみなし大量の神性を生み出すアザトース。
宝具で倒して進むタイタスだが、魔力が少なくなってゆく。
見かねたタイタスに手を差し伸べ、未知を切り拓くカーターとラバン。
二人の先輩の神殺しの激励を受け、タイタスは全速力でアザトースへと駆ける。
一方その頃、フランク・H・シンドーは迷っていた。
変身して良いのか?勝ち目はあるのか?そも、変身できるのか?
相手は根源そのもの。勝ち目があるかは分からない。
だがそれでも、立ち上がり道を切り拓く男たちがいた。
彼はその男たちに賭け、彼らに続くべくルルイエの岩陰に隠れ、
ガイアの後押しを受けて星の戦士へと変身した。
◆
『今だ!!タイタス!』
「感謝するぜ……星の戦士ィ!!」
ドォン!!!と星の戦士の拳が天に浮かぶ肉塊に突き刺さる。
ジュゴォォォ……!といびつなる音が響き、アザトースの肉体の一部が破壊される。
だが、それでもすぐさまに破壊した部分が再生されてきりがない。
「ふん、やはり再生力はヨグソトースレベルか。
まったく、面倒な所ばかり娘や息子に似やがるなアザトース」
『どうするタイタス!?突破口はあるか?』
「ああ、当然な……!」
バッ!とタイタス・クロウは拳を高々と掲げる。
「命を俺に預ける気はあるかぁ!?星の戦士ィ!!」
『……………良いだろう!我が命運、貴公に託す!!』
「ありがたい………。なら死ぬ気で奴を抑えろ!!
殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って
殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴って殴ってェ!!!
全権能を再生に回させろ!!!その内に奴を仕留める!!!」
『承知した!』
星の戦士がコクリと頷き、天高く飛び上がる。
ズガァン!!!とまずは一撃をたたき込み、すぐさまに再生される。
すぐさまにダァン!!と攻撃を続け、それと同時に再生される。
更にもう一度、続いてもう一度、何度も何度も攻撃を星の戦士は続ける。
もはやその応酬は、常人の目では追いきれない代物となってた。
「すげぇ………。」
『────此処だッ!ヴェテルギウス・レイ!!!』
キィン!!と十字に組まれた両腕が煌き、
閃光がアザトースに向かい放たれる。
シュゥゥゥゥゥ………と数多の触手、臓器、肉片が蒸発し、
そしてとうとう肉塊の中に封じ込められたアザトースの本体が顔を出す。
「アレがっ!!」
「手間かけさせやがってガキ……」
『今だタイタス!!』
外界の空気にあてられたアザトースの本体が、
うっすらと目を開き、そしてその目に映る全ての存在に対して、語り掛ける。
「たす………け……テ」
「──────良いだろう。」
そう言うと、タイタスの全身が光に包まれまばゆく輝き始めた。
「"人"の助けの願いを受け入れるのがァ!!!
抑止力だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
拳を高々と掲げたタイタスの背後に時計の文字盤が出現する。
かつて失われたタイタスの第二宝具。時と時空を跳躍する4本針の柱時計。
「────────ッ!!あれは!」
同時刻、かの時計の一部を義眼とした二人の少女たちはその目から見た。
助けを求める少女の姿を、そしてその助けに答える一人の男の姿を。
煌々とした光がタイタスと時計を包む。
時計の文字盤はタイタスの右こぶしに宿り、そして霊基と一体化する。
「あれは………!」
「かつてタイタスが……ヨグ=ソトースを破った宝具……。」
ティタニアが震えながら呟く。
「ダメ!それだけはダメタイタス!!
それならば確かに……無限の遍在による攻撃ならアザトースに届く!
でもダメ!!それをしたら!あなたは消えてしまうわ!!」
「何っ!?」
マスターがティタニアに問う。
「人間だったころのタイタスならあれを使用しても辛うじて生きていたわ……。
でも、今のタイタスは抑止力。人間の集合的無意識の下に成り立っている!
そんなタイタスが己の肉体を無限偏在にしたら……存在が無限に拡散して消えてしまうわ!」
「そんな…………やめろ!辞めるんだタイタス!!」
拳を掲げたタイタスは、叫ぶマスターの方向を振り返り見る。
『早くしろ…もう私ももたない!』
「アア……、分かっているさ…」
タイタスはグッと拳を固め、
飛び上がり拳をたたき込む姿勢に移る。
「男が一度決めた覚悟に!!!
マスター"程度"がごちゃごちゃ言うんじゃアねぇぇぇぇぇぇぇえ!!!!!」
「…………っ!れ……令呪を以て…………」
「辞めるんだマスター!!」
令呪を掲げようとしたマスターに、
同じく彼のサーヴァントであるラバンが怒鳴る。
「それ以上の言葉は、あいつへの侮辱になるぞ」
「…………………………。」
マスターの握った拳が震える。
サーヴァントが、死ぬ。いや、存在が消える。
今までのように再召喚では呼び出せない。文字通り、消える。
─────────その時、彼の脳裏には、一人の魔術王の姿がなぜかよぎった。
「──────ッ!令呪3画を以て、
タイタス・クロウに命ずる!!」
「………っ!」
「必ず勝てェ!!!タイタス・クロウォ!!!」
「委細ッ!!承知!!!」
ダンッッッ!!!!とタイタス・クロウが飛び上がる。
アザトースへと近づく度にその速度は加速し、天にある肉塊へと到達する寸前には、
既に光の速さを優に超えていたっ!
「うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!!!」
男は絶叫する。そして、絶叫と共に脳裏をある記憶がよぎる。
星の抑止力が、アザトースの邪神を産む権能を抑え、
そして人の抑止力が、眼前に神を捉えているこの光景の記憶。
────そして、宇宙(そら)の技術が、四本針の時空駆ける時計が、
光を放ちこの霊基(み)に溶け込むこの光景の記憶。
「(────嗚呼───、全ては、この時の為に───)」
遥か昔、人が神と生きし時、『世界』は人間に力を授けた。
────────それは、神への抑止力────────。
人間の持つ集合無意識によって作られた、神々の「権能」よりの世界の安全装置。
「(無限の力だと?『全にして一、一にして全なる者』だと?
────────そんなもの、生前この手で破っている)」
其は安全機構。外界より来たりし異邦者が、悪意を持って侵食を開始した時、
その対抗策を外界より見つけ、そしてその無限の遍在を以て打ち倒す抑止力。
「(────────放てば霊基どころか座の記録ごと砕けるだろう。
だが……………んな事ぁ知ったこっちゃねぇ───────)」
ニヤリ、とタイタス・クロウは口端を釣り上げて笑う。
「(────────俺はタイタス・クロウ。人類の抑止力だ)」
「死が怖くて抑止力できるかクソボケェェェェェェェ!!!!!」
『行けェ!!タイタス・クロウぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!』
「歯ァ食いしばれ!!!『無限偏在せし神殺しの譚(オムニバスサーガ・アウエアネス)』ッッッ!!!!」
グワッシャァァァアアッッッ!!!!と、轟音と共に、
タイタス・クロウの全身が、アザトースという名の肉塊を貫いた。
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