ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

私、伊東甲子太郎は、ゆらゆらと提灯を揺らしながら帰途についていた。

浮かれるような気分で七条通を歩いている。
いい酒を呑めた。
こんなにも晴れやかな気分はいつ以来だろうか。

山南さんが切腹したあの日よりも前なのは確かだろう。
山南敬助――――
朗らかで、理知的で、誰よりも武士道というものを重んじていた。
本人は絶対に否定するだろうけれど、私が追い詰めてしまったようなものだった。
私なんかよりも、新選組という組織には無くてはならない人だったのに。
あの土方くんでさえ、山南さんが居なくなってからは、どこかおかしくなってしまった。
沖田くんにも恨まれているかもしれない。

――――だが、これで道筋はついた。
近藤さんとなら、この混迷した時代の先駆けにもなれるだろう。

(平助に、今度は時代を先駆ける魁先生になってもらおうかな)

なんて――――
「ふふふっ」

自分のつまらない冗句にも笑ってしまう。

足取りも軽く京の街を進む。
暦は師走の頃だが、それにしてもやけに冷える。
だが今夜は、そんな冷たい夜風すら心地よく感じられる。

ああ――本当に――
月明かりの下で、歌いだしたい気分だ――――

……と、前方に幾人かの人影があった。
酔いでほぐれた頭だったが、さすがに羞恥心は残っている。

(でも、やり過ごした後に歌ってしまおうかな――)

などと考えていると、影が、ぞろぞろとこちらに向かってくる。
そして、先頭の人影が声を掛けてきた。

「伊東さん、ご苦労さまです」

彼らはどうやら自分の知り合いだったらしい。
歌を自重しておいてよかった。
もし夜道で酔っ払って歌っていただなんて吹聴されていたら、御陵衛士の皆に格好がつかないじゃないか。

……と馬鹿な事を考えているとはお首にも出さず、挨拶を交わす。

「見回りかな? 寒いのにご苦労様」

私が提灯の明かりをかざすと、ようやく相手の顔が見えた。

「おや、キミはたしか……」

山南さんを慕っていた――

「こんな夜更けに、提灯もつけないでどうしたんだい」

「はい、実は――――」


※※※


ざり……ざり……

ざり……ざり……

さっきまで心地よいと感じていたはずの、師走の寒さが骨身に染みる。
手の震えが止まらない。

ざり……ざり……

震えは、寒さだけが理由ではなかった。
私は、人を斬ってしまった。
あの場から逃れるために。
斉藤くんや沖田くん達に、「人斬りでは時代を変えられない」なんて事を散々言っていたくせに。

ざり……ざり……

うまく動かない身体を引きずるように歩く。
こんな深手を負ったのは初めてだ。
刀で斬られ、槍で突かれた。
体中、血だらけで穴だらけだ。今もどんどんと血が溢れ出ている。

(せっかく近藤さんと呑んだ良い酒も、血と一緒に抜けてしまいそうだな……)

近藤さんと酒を飲み交わしたのが、もう随分前の事のように思える。

(私は、こんな所では死ねない……)

近藤さんとの約束がある。
山南さんへの贖罪がある。
御陵衛士の皆との未来がある。
だって、やっと道筋がついたのだから。

そして、何よりも死ねない理由はもう一つある。
ここで私が死んでしまえば、恐らく残された御陵衛士たちは新選組と絶対的に敵対してしまうだろう。
怒り狂った平助や三樹三郎たち御陵衛士の顔が脳裏に浮かぶ。
今は袂を分かっているとはいえ、「誠」の旗を掲げた者たちが殺し合うという最悪の状況はどうしても避けたい。

ああ。だから、絶対に死ぬことは許されない。
私はここで死ぬ訳にはいかない。

――――なのに、おかしい。
――――足が、動かない。

振り返ると、ギョッとした。
道に血の川ができている。

(これは全て私が流したものなのか……)

道理で、寒いはずだ。
しかし寒さと酔いのせいなのか、痛みはほとんど感じられなかった。

(もう、痛みすら感じられなくなっているだけかもしれないな……)

何にせよ、こんな目印を残していたら、きっとすぐに追い詰められてしまうだろう。
足を止めてはいけない。
塀に身体をあずけて、なんとか足を進める。

ず……ずるり……

こんなに血だらけになって帰ったら、皆はどんな顔をするだろう。
平助――――毎度死地に頭から飛び込んで、傷だらけになって帰ってくるのを見せられる私の気持ちを、少しは分かってくれるだろうか。
三樹三郎――――涙と泡を大量に吹きだして倒れるだろうな。ちょっと楽しみだ。
新井くん――――呑兵衛の彼のことだから、私の傷なんかよりも近藤さんと二人でいい酒を呑んだことを羨ましがるだろう。
服部くん――――きっと頭をかきながら、いつもの気の利いた軽口を叩いてくれるに違いない。

御陵衛士の面々の顔が浮かんで、少し愉快な気分になれた。
怒り狂った顔なんかより、こっちの方がいい。
だから足を動かさないといけない。
皆の顔を見るために――――

ず……ずるっ……

(ああ、でも斉藤くんには、どっちにしろすごく怒られるんだろうな……)
何のために自分を引き抜いたんだって言われるだろう。

(身体が……重いな……)

ほとんど足が進んでいない。力が入らない。
無理やりに足を前にだそうとして、かくん――と膝から力が抜けた。
今地面に倒れてしまえば、もう起きられないだろう。
足をふんばろうと力を入れると、今度は頭の血が失せて、ふっと気が遠くなった。

地面に、倒れる――――

(ちょっと、駄目みたいだ。みんな……すまない……)

「――――――――――」

……地面に顔がぶつかる直前、誰かに抱きとめられた。

「伊東―――――」

私の名を呼ぶ小さな声がした。
この声の主は、抱きとめてくれたこの人は、一体誰だろう。

近藤さん? それとも平助が駆けつけてくれた?
追っ手の気配では無いのは確かだったが、今この時に誰が来てくれたというのか、全く想像できなかった。

顔を見ようにも、提灯は捨ててしまっている。
頼りの月明かりも雲に隠れてしまったのだろうか、あたりは真っ暗だ。

私が困惑していると―――――
ぎゅっと、抱きしめられた。

抱きとめてくれた事には感謝するけれど、そんなに強く抱きしめられたら、身体に残っているわずかな血がこぼれてしまいそうだ。
キミの着物にも血がついてしまうよ。
それに、私は追っ手に追われている身なんだ。キミも襲われてしまうかもしれない。

「お前は本当に、どこまでも甘いヤツだ……」

絞り出すような――まるで、どこかに深い傷でも負ったみたいな声。
"彼"のそんな声を聞いたのは初めてだった。
だって、"彼"はとても強かったから。
私は"彼"が傷つく所を一度も見たことが無かったし、想像した事も無かった。
でも、強く抱きしめられながら聞いたその声は、紛れもなく"彼"の――――

――――斎藤一の声にならない泣き声だった。

斎藤一に抱きしめてもらって、しかも泣いてもらえるなんて、これ以上無い冥土の土産じゃないか。

思い残すことは、本当にたくさんあるけれど―――――
まぁ、悪くない幕切れなんじゃないか――――


※※※


――――しかし、
まだ私の生命のろうそくの火は半端に残っていたらしくて。

よせばいいのに、
死に場所に斎藤一が現れた奇跡に、斎藤一の友情の涙に、気持ちよく浸っていればいいのに。
一つの疑問が、頭の中に浮かんで消えない。

――――"斎藤一"が何故、今ここにいるのか。

血と一緒に酒も抜けたらしい私の頭は、意識は朦朧としているくせに、驚くほどに冴えていて。

――――――――――――ああ。そうか。

断片的な状況から、思考をすっとばして疑いようのない事実だけを弾き出してしまった。

斎藤一は、御陵衛士を裏切ったのだ――――

彼が何故そうしたのか、その理由までは分からないけれど。
きっと、これは私が至らなかったせいんだろう。
斎藤一を友としてつなぎとめておけなかった、伊東甲子太郎の。

でも、彼はそんな私を抱いて、涙を流してくれている。
どんな事情があったのかは分からないけれど、裏切られてしまった事は口惜しいけれど、
やはりキミは私の最高の友だった。

……しかしね斎藤くん、
それならそうと、最初からキミが私を仕留めてくれればよかったんだ。
そしたら、私もこんなに血まみれでクタクタになるまで歩き回らずに済んだし、
人斬りなんて真似も、しなくてよかったのにさ。

後方で策を弄するばかりの私に、自分で人を殺す手応えと斬られる痛みを最後の最後に叩き込んでいくなんて。

ああ、本当にキミってヤツは、最後まで…私に…………厳しい……んだ…な――――――――――――――

コメントをかく


利用規約をご確認のうえご記入下さい

Menu

【初めて来た人へ】

【TRPG】

【ボードゲーム】

【動画】

 

泥ガチャ
(現在カード18種)

Wiki内検索

News

泥HPATK計算機

レア度
クラス
ステータス傾向
筋力
魔力
敏捷
耐久

※小数点以下切り捨て
 HP
初期HP
最大HP

 物理タイプATK
初期ATK
最大ATK

 魔術タイプATK
初期ATK
最大ATK

DL版HPATK計算機
計算式ソース:
https://www9.atwiki.jp/f_go/pages/1341.html
Java Scriptソース:
http://www.hajimeteno.ne.jp/dhtml/dist/js06.html

どなたでも編集できます