ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。


 ――これは、物語の幕間にも載らぬ余談。
 異説の聖杯戦争か、あるいは剪定事象の果てか。
 何方にせよ、何処にせよ。
 歴史には残らない、逸れ者達の小唄。
 片方にとっては取るに足らない、流浪の一部。
 だがしかし、もう片方にとってはそれはまさに運命に出会ったが如く。
 そんな小話である。


     ★


 何処とも知れぬ竹林。すでに日は落ち、月光が竹の合間を縫って地面を照らす。
 風は凪ぎ、しなる枝葉がかすかな擦れの音を立てる。
 物寂しい、あるいは風流。その風景の中、二人の女が向かい合っていた。

 二人の女。二人の剣士。二人の武芸者。二人の求道者。
 両者は良く似ていた。その麗しい容姿も、そして腰に提げた刀のように、研ぎ澄まされた気配も。
 違うとすれば、片方が刀に全てを捧げたのなら、もう片方は刀の果てに道を見出したこと。
 そして――これから始まる死合において、どちらが地を這うか、である。

 女の片方。二刀の剣士が、曖昧に笑った。
「あのさ。やっぱり、命の取り合いまで行かなきゃダメ?」

「何を言いますか」
 もう片方、一刀の剣士が鋭く笑う。
「剣士が二人顔を合わせたならば、命の取り合いにならなければ嘘でしょう」

「そういう観念は、正直良くないと思うんだけど。
 ほら、それじゃ終いには誰も彼も斬らなきゃいけなくなるでしょ?」
「それに何の問題が?」

「……正気?」
「剣の道に正気を問うなど。それこそ愚問でしょう?」

「――ああ、うん。そうね」
 その言葉と同時に、二刀の剣士の纏う雰囲気が、変わった。
 瞳は天眼。目の前の相手を斬る、という結果に特化される機能。
 行く道は無数にあれど、行き着く先は一つに収束される。

「其処まで行き着いたら、確かに斬る他ない。
 修羅までならばそれでも生きられるけれど、畜生か餓鬼か、そうなっちゃったらもう救いはないわ」
「救いなど必要ではありませんよ。
 ただひとつ、貴女を斬らねば、私は立ち行かない」
 一刀の剣士も、笑みを崩さぬまま、鞘より刀を抜き放つ。
 確かな殺意を受けながら、その気配に変わりはない。
 剣気は元より放っていたもの。命は剣に捧げたもの。命の取り合いになったとて、変わる理由がない。

「――それを言うならば、最後の踏ん切りがついた」

「名誉や金の為なら自分は逃げる。恨みや義によるものでも自分は逃げる。
 だが――御身の精神が、私を殺さなければ生きていられないというのであれば立ち合おう。
 互いの命を奪わねば立ち行かぬ人生ならば、観念して修羅にならん」

 二刀の剣士が、刀を握る。その瞳が一刀の剣士を見据え、死を予感させた。
 それがどうした、と一刀の剣士は笑う。
 剣に生きることすら許されなかったこの生涯、剣に死ぬならばまた愉快。
 成る程確かに、自らは斬り倒される他に止まる術のない畜生だ――!

「二天一流、新免武蔵守藤原玄信!
 我が第五勢を以て、その妄執、十文字に斬り捨てる!」
「名は捨てました。燕返しの剣士とでも」

 斯くして二人は命を奪い合うに至る。

 結末など、語るまでもない。
 その価値もない、ただの小噺だ。
 ゆえに、語るは一句だけ。


 ――鮮やかなり天元の花。
   その剣、無空の高見に届く。

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