最終更新:ID:0y6BZXch5Q 2017年07月19日(水) 01:57:05履歴
この世のありとあらゆる事は、その全てが、正も、負も、
全て欠けてはならない、特別な事象である。
その一つ一つが今を創り、事実(いま)を成し、そして自分(いま)を支えている。
その一つ一つが今ここにある全てを構築する、言うなれば、欠片(パーツ)なのだ。
だが、人は後悔する生き物だ。
過去のどれか1つでも変われば今の自分は存在しないのに、必ずと言っていいほどに人間は振り返る。
『あの時ああすればよかった』『あの選択をしていれば』『あの人を助けていれば』『王にならなかったら』
…………………例を挙げて行けば、キリが無いだろう。
ここにいる英霊も、同じく後悔をしていた。
だがしかし、彼女の後悔は他の英霊とは比べ物にならない。
─────────比べ物にならない程に、”小さかった”のだ。
だがしかし、その後悔が生み出した澱みは余りにも大きすぎた。
そうそれは───────彼女が、自身の霊基の全てをかけてでも、やり直したい後悔。
◆
『見つけた』
「……………………?」
一人の少女が、少女に向かって言う。
黒髪の短髪を持つ、地味目な少女であった。
対する、声をかけられた側の少女は、白く長い髪を持っている。
前髪は目を隠し、怪しげな雰囲気を作り出している。だがしかしなぜであろう。
この少女は、その挙動の1つ1つが、人を惹き寄せそして誑かし、虜へと書き換えるような怪しい魅力を持っていた。
「 な ぁ に ? 」
白髪の少女はその言葉に反応し振り返る。
恐ろしく、しかして魅力的なその声は、聴く人が効けばそれだけで吐き気がこみ上げてきて生きるのも嫌になるほどであった。
彼女は、その身体だけではなく、声にも、仕草にも、歩いた場所にさえ、膨大な魔力を帯びていた。
『あの日、あの時、…………ボクは生まれた』
対して黒髪の少女は、そんな悍ましい少女に臆せず、自身の言葉を紡ぎ始めた。
『ドス黒く染まった…………人類悪にまで堕ちたお前から…………逃げ出すように』
「………………あら、……………なるほどね。」
『どうしようも無かった…。僕に止める手段はなかった…。だから…僕は”そうする”しか無かった』
「貴方………………わたし(メアリースー)ね?」
『だが僕は………。いや、僕「ら」は出会った!幻霊と言う概念に!
そして!お前を倒す術を得た!!見切りをつけたお前と言う人類悪を倒す術を!!』
バッ!と黒髪の少女は片手を突きだし、臨戦態勢を取った。
その動きに白髪の少女は一瞬身構えたが、しかしすぐに構えを解き笑った。
「………ふっ、驚かせないで?ふふふっ、びっくりしちゃったじゃない」
『…………なんだ、何がおかしい?』
「貴方(わたし)が私(メアリースー)を倒せると思ったの?怖いわぁ。
私からあの時はなれたって言うから、てっきりルーラー(わたし)かセイヴァー(わたし)かと思ったら…。
まさか、こんな私もいたなんてね………………」
白髪の少女はちょこんと何処からともなく椅子を出現させて座り、クスクスと楽し気に笑った。
『なん………………だと…………っ!?』
「だぁーってぇー、一番私の良い所をあの2人に持ってかれちゃったんだもの。
そりゃあ彼女たちを警戒もするでしょ?まぁ…その分何倍も世界中を渡り歩いて私(メアリースー)と同化したから、
別にあの子たち、ぜーんぜん脅威じゃ無いんだけど」
ピン、と少女は人差し指を立てて、頬に当てながら悪戯っ子のような笑みを浮かべる。
「そんな時に、こんな知らない子(わたし)が来ちゃったんだもの。拍子抜け、ってやつでしょ?」
『貴…………っ!!様ァァァァァアアアアア!!!』
少女は魔力を走らせ、そして感情に身を任せて宝具を使用する。
『侮蔑せよ、我は此処に在らざるべき也(I am All Fiction.)ッ!!』
「………………………フフッ、それが貴方の宝具ね?
その程度………。私(メアリースー)という美しきコロニーの中に不純物を受け入れ、そして作り上げたのだその程度?
アハハっ!おかしい!おかしいったらありゃしないわ!!傑作よ!」
『………………それはどうかな?』
通常ならば、激怒してもおかしくない程の、少女の罵倒。
しかし、それを受けてなお…………黒髪の少女は”笑っていた”。
「──────────────────────────────ッ!!」
それに何かを察したのか、白髪の少女の頬を冷や汗が伝った。
「………………まさか……………!!」
余裕を浮かべていた白髪の少女だったが、その表情からは笑みが消え、代わりに焦りの表情が浮かんだ。
「………………………………………消えている………………!?
いない…………いないわ!!私の中の私(メアリースー)達が!!」
その反応に、黒髪の少女はニィイ…ッと口端を釣り上げた。
だがその表情は、一瞬後に一転する。
「いない!!いない!何処にもいない!!”八十億七千三百二万八百九十人分の私が”!!!!」
───────────────────────────────────今…………なんと言った?
黒髪の少女の脳裏に浮かんだのは、ただただ疑問符であった。今、目の前の”敵”は何と言ったのだ?
その焦りようからして嘘を言っているようには到底思えない。かと言って、今彼女の口からでた言葉が真実とも思えなかった。
メアリースーとは、幻霊を寄せ集めて作った英霊だ。しかしそれでも、その数は多くて数千程度であったはずだった。
確かに1人1人は非常に弱い幻霊であったが、それ以上集めたら自我を保てなくなる。───────そのはずだった。
────────────── 一体、目の前の”敵”は──────────どれほどの進化を遂げたのだ…………!?
「やってくれたわね………………。」
ギロリ…と白髪の少女は黒髪の少女をにらみつける。その眼は、人間の物とは思えない程に恐ろしかった。
「私の霊基(にくたい)の5%も削ったのは褒めてあげる………。でもね、ちょっとオイタが過ぎたみたいねぇ………!」
『だったらどうする?お仕置きでもしようっていうのか?』
「そうね………!私の霊基の一部に戻るなら許してあげるわ!!!」
『やれるものなら…………やってみろォ!!』
二人の少女(メアリースー)が、激突を始めようとした────────その時であった。
{ 待ちなさい、メアリー }
声が響いた。
「あ…………、わ、フェイカー(わたし)…………。」
「どうしたのメアリー?そんなに怖い顔をして…………。」
「あ、あのクリミナル(わたし)が…私の中に在った沢山の私(メアリースー)を……」
そう言いかけると、白髪の少女は目から涙をあふれさせ、声を上げて泣き始めた。
その姿に黒髪の少女は、ただ困惑するだけであった。
「泣かないでメアリー、大丈夫。また集めればいいだけじゃない。
次はどんな世界の夢を奪う?次はどんな人々の理想を食べる?」
「………うん、ありがとう。ごめんねメアリー(わたし)。ちょっと弱気になっちゃった。」
『…待て…』
「それで良いのよメアリー。さぁ、一緒に旅立ちましょう。」
『待て!!』
黒髪の少女は突如として間に入って来た少女に対して、宝具を放った。
『駄作はここに極まりて(ニヒルアルティーケル)!』
だが、少女はそれを避けるそぶりをみせず、抵抗なく受け入れた。
『な…なんで…!?』
「クリミナル………ね?」
『…………ああ、そうだ…。』
「この一撃は、私「たち」を見つけた褒章よ。次に会う時まで取っておいてあげる。
もし次に会うときは…………その時は互いに消え入るまでやり合いましょ。」
『!…待てェ!!』
彼女がそう叫んだ時には遅かった。
二人の少女はもう既にその空間には、跡形も無く存在していなかった。
『…………チッ!!ようやく足取りをつかめたと思ったのに…………!!』
少女は地団太を踏みながら、ポケットの中に手を入れて紙を取り出す。
『…………やはり……、…彼らに頼るしか道はない………!!』
────────その紙には、こう記されていた。
────────────────人理継続保障機関フィニス・カルデア、と。
英霊伝承異聞 メアリー・スー[クリミナル]
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