最終更新:ID:p9w0p4b+Mw 2021年08月28日(土) 21:00:55履歴
『怯え、竦み、伏し、目を逸らす。それが過ちだというのであれば、立ち上がる事は正義なのか?』
────────────kagemiya@ふたば生誕5周年記念作────────────
「ヒューゴ! これどっち逃げたほうが良いと思う!?」
「待ってろすぐ読む! ────"一か八か(Double_or_Nothing)"! よし、こっちだ!!」
イギリス、ロンドン。複数の少年少女らが路地裏を縫うように走っていた。
彼らは先述の時計塔に通う魔術師の見習いたち。それも先ほど有事に巻き込まれていたロード・エルメロイが直々に教鞭を振るう、通称・エルメロイ教室に通う生徒たちだ。
そのどれもが一級に光る魔術の才能と卓越した技能を持ち合わせており、時折その才能がとんだ事件の引き金を引くこともしょっちゅうある、2世にとっての自慢の生徒であり悩みの種であった。
そんな彼らが逃げている理由、それは別に問題を起こしたからでも2世から与えられた課題を忘れたからでも、先日のように教職の魔術師の車を大破させたからでもない。
「どうなっているんだ……? なんで、"境界記録帯が俺たちを狙っているんだ"?」
エルメロイ教室の面子の一員、獣性魔術の使い手サムナ・アトキンソンが疑問を口にする。
そう。久々の休日にショッピングを楽しんでいた彼らを、突如として魔術師の使い魔が襲ったのだ。
それもただの使い魔ではない。境界記録帯、ゴーストライナー。人類史に語られる英雄の力を持った破格の使い魔であった。
「理由は分かりません……ですが分かるのは1つだけ。彼等、凄まじく強いですわ! 私の剣術がまるで通じませんでしたもの」
「リアっちの剣技が効かないって、やっぱうわさに聞く使い魔の最上級だけあるねぇ」
「笑ってる場合かよ。本気の殺意ではなかったけど、あれ俺たちへの敵意は本物だったぞ」
「野生の勘ってやつかサムナ。確かに俺も、あくまで手探りしているって感覚はあったなぁ。賭けとかでもいきなり全部ベットしないだろ? ああいう感じがした」
「なるほど────────うわっ前! 前!!」
甲冑を纏った少女が叫ぶ。彼らが入る路地裏の前方には、彼らの進行を防ぐかのようにサーヴァントが待ち構えていた。
狭い路地に似合わない大仰なバイクに跨った、首の存在しない英霊だった。一見するとB級ホラーに出てくる怪物のような風貌だった。
しかし時計塔で魔術の鍛錬をしている彼らには、その眼前に立つ存在が持つ歪かつ強大な魔力量を即座に感じ取っていた。
「こっちにもサーヴァントかよ!!」
「なんだよアレ首なしライダー!? ああいうのも境界記録帯になるもんなの!?」
「っていうかヒューくん占いの結果外れてんじゃん!」
「知らん! 多分先回りされたか何かだろう!」
慌てて横方向に曲がり眼前に立つ英霊から逃げるエルメロイ教室の生徒たち。
その逃げた先は大通りだった。人が大勢いる。彼らはこの状況に対し、期待と不安が半々な感情を抱いていた。
もしサーヴァントを使っている襲撃者と思しき人物が神秘の隠匿を重視する人物なら、この大通りでまで戦闘を行うような愚行は行わないだろう。
そもそも時計塔現代魔術科のキャンパスにほど近いこんな場所で騒ぎを起こすなど自殺行為ゆえ、通常通りの思考回路を持つ魔術師ならばまずやらない。
だが万が一、襲撃者がそんなこともなりふり構わず行うような人間なら……そんな不安が彼らの脳裏を過ぎっていた。
「どう思います? そもそも私たちを襲うメリットが襲撃者にあるはずですが、それはなんだと思いますか?」
「ホワイダニットってやつだね。うーん、考えつくのは……私たちを人質にして2世を脅迫?」
「先生はロードだぞ? 俺たちみたいな一介の生徒がそもそも人質としての価値を持つかね?」
「まぁ正規の手段を使わない奴だ、街中で襲ってくる可能性も十分……」
「────────なぁ、おかしくないか」
「どうして町中のみんなが、境界記録帯を連れているんだ?」
サムナが呆然としながらそう呟いた。
何を────、と聞き返すよりも早く、彼らはその目の前に広がる光景を目にした。
そこにはありえない光景が広がっていた。有り得ないからこそ先ほどは視認してもそうだと認識できなかったのだろう。
境界記録帯の姿を象った使い魔……サーヴァントと呼ばれる存在を、町中にいる人間が1人残らず連れているという異様な光景がそこにはあったのだ。
「なんだこれ……。夢でも見てるのか、俺たち?」
「残念ですが一向に現実ですよ。まぁ私としても、突然ロンドンに繋がったのは驚きましたが」
「っ! さっきの……!!」
呆然とするしか出来ずにいた彼らの前に、1人の女性が表れた。
肩元の少し下まで伸ばしたブロンドが目を引く、十八歳ほどの少女だった。
一見すればそれは、ただ優れた容姿を持つ女性にしか見えないだろう。だがエルメロイ教室の生徒たちにはそうは映らなかった。
何故ならその少女が持つ魔力量は、常人のそれとは遥かに異なる量であり、そして同時に歪な質であったからだ。
「なんなんだこれ……。さっきも感じたが、ひどく混沌としている。境界記録帯っていうのはみんなこうなのか?」
「それは私たちが特別なだけです。それにしても、殺すしか能の無い"首なし"まで来てるなんて、無駄に人死にが拡大するだけなのに……。
未だ死人が出ていないのは奇跡でしょうか。それとも単に首なしの気紛れでしょうか?」
ふぅ、と少女はメランコリックにため息をついた。
攻撃をしようという素振りもなければ殺意も薄い。ただほんの少しだけ、しかし確実な敵意がそこにはある。そういう状況下にあった。
どうにかして情報を引き出さそうと、生徒の一員であるヒューゴが試みる。だがそんな中、周囲の視線に違和感をサムナが覚えた。
『なんだ? サーヴァントと人間の喧嘩か?』
『おいおい"夜警"が来るぞ? まぁ、運動レベルのものならそこまでお咎めなしかもしれんが』
『まぁ多少の怪我があったところで、聖杯ですぐに治るだろうしな』
「なに……? 何なのこの人たち? 聖杯? 夜警? 何のことです……?」
「────────。はぁ。思ったより"早い"んですね。また妙な常識が混ざってきているようです」
「…………お前は、何だ。種族とかそういうのじゃなく……どういう名前なんだ……? それに、俺たちを襲う目的は……なんだ?」
「あら、サーヴァントと分かった上で名前を聞くんですね。ではひとまず、ビーチェとでも名乗っておきますか」
クスリ、とビーチェと名乗った少女は微笑んだ。その少女の微笑みは確かに恐ろしかったが、それ以上に恐ろしかったのは周囲の人々だった。
サーヴァントを当たり前のように連れている。サーヴァントをサーヴァントだと認識している。いやそれ以上に『サーヴァントがいる事に違和感を覚えていない』。
何が起きているのかという困惑で判断力を失いそうになりながらも、エルメロイ教室の生徒たちは必死で目の前に立つサーヴァントから情報を引き出そうとしていた。
「襲った理由は……まぁ、そうですね。強いて言えば、ここにいたから、とだけ。
こちらもこちらで困っているんです。突然新宿からこんな所まで飛ばされて、戻りたければ"敵"を倒せなどと」
「敵? どういう事だ? お前たちは何かと戦っているのか?」
「別にそう言うわけではないんですが……。何と説明すればいいのやら」
「貴様ら!!!!!!!! 何をしているか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
緊張が走る一触即発の中、突如として怒号が響き渡った。
その怒号がした方向を見ると、エルメロイ教室の生徒たちは揃って度肝を抜かれた。その視線の先には身の丈2mは優に超えるのではないかという大男がこちらに向かって走ってきていたのだ。
しかもイギリスという国に似ても似つかない、中世日本の衣服である烏帽子と狩衣を纏うと言う珍妙な服装をしていた。いや、彼らが驚いたのはその男の体躯でもなければ服装でも大声でもない。
ましてやその男が連れている弓を携えたサーヴァントに対してでもない。彼らが驚いたのは、その大男の持つ魔力の量であった。
「え、なに!? ディオちゃんの生み出したキメラでもあのレベルの魔力放たないよ!?」
「おちつけ! アレは人間だ! ……いや人間、なのか……!?」
「……はぁ。彼ですか……。とりあえず退くとしましょうか」
「あ、待て!!」
呆れたようにビーチェは嘆息し、そして瞬きのうちにどこかへと去って行ってしまった。
彼女を追おうと走り出そうとするサムナやヒューゴだったが、屈強な大男によって肩を掴まれ止まらざるを得ない状況を作られてしまった。
「貴様こそ待て。今は我の話を聞け!!!!」
「痛ァ!? か、肩の骨が外れたかと思ったろおっさん!!?」
「喧しい貴様ら!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
今この英吉利で起きている事態を知らんのか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
不注意に出歩きおって!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
「喧しいのは貴方の方ですわ……」
甲冑姿の少女が耳を塞ぎながら呆れた。ヒューゴも同じ感想だったが、大男の言葉を聞き逃さなかった。
「イギリスで何が起きてるか……知っているのか?」
「ああ。今この英吉利において、キルケーと呼ばれる神代の魔女が聖杯大戦を引き起こしている……!!!!
我はその中で!!!!!! 対抗となる策を編んでいるところだ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
フハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!!!!!!!!!」
「そんな話…………あったっけか……?」
「聞いた事無いけれど……、でも現にこうしてサーヴァントは召喚されているしね」
「ですがもし本当なら……。そうだ、何処か安全な場所などはありませんか?」
「よかろう!!!! ついてこい!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
そう叫び、大男は自らが連れるサーヴァントと共に走り出した。
それに続く形でエルメロイ教室の生徒たちも走る。例え今は分からなくても、安全な場所に出て事情を聞けばいいと彼らは判断したのだ。
大通りを抜け、路地裏を抜ける。しかし道を抜けた先に待っていたのは、彼らの想像を絶する光景だった。
「なん…………だと……!!!!?」
「ここは……日本? いやそれより……何で夜になっているんだ……!?」
「写真で見たことがある……。ここは……日本の、新宿……だ……」
「そうか……。なるほど、これは、"そういうこと"か……!!!!!!!!!!!!!」
「どういうことだ? 何があったんだおっさん?」
「ちっ……抜かったわ!!!!!! まさかこの我ともあろうものが……嵌められるとは!!!!!!!
だが……、安心しろ!!!! ここまで連れてきたのは我の責任……。お前たちは絶対に元居た場所に、心身ともに無傷で送り届けてやる!!!!!!」
ギリィ……ッ、と大男が力いっぱいに拳を握り締めながら静かに言った。
そして烈火の如く怒りの感情を滾らせる。常人にはありえないほどの魔力が迸る。
だがその圧倒的な覇気とは裏腹に、大男が生徒たちに放った言葉は非常に柔らかく、そして優しい声色だった。
「いくぞニムロド……!! どうやらかの魔女以上に倒すべき敵がいるらしい!!!
この安倍晴明を欺いたその胆力……!!! 死という褒美を以て報いてやるわ!!!!!!!!!!!!」
◆
「何だあのサーヴァントたち……!? 幻霊の混ざり物より遥かに常識離れだぞ!?」
新宿。日本の首都、東京都の一角を示す都市の名。しかし今この場において、その単語は当たり前の新宿を意味する言葉ではなくなる。
ビルが崩れ、人が洗脳される。首が撥ねられ、龍が舞い、ゴミのように命が消えゆく。ここはそんな悍ましき非日常が日常となっている魔の特異点。
ある1人の魔術師の実験が生み出した、通常の人類史から切り離されし英霊と幻霊の蠱毒。────────名を泥新宿。泥濘の如くに淀んだ悪夢の舞台である。
「あなた、たちが……グーラの敵、なんですね……。じゃあ、解体します……」
「これ以上俺を苛つかせるなよおおおお!! 腹が立って仕方ねぇ!! っつーか此処どこなんだよおおおおおおおおお!」
「タイタス!! お前こいつらの素性とか分からないのか!? お前探偵だろ!?」
「俺は万能じゃねぇんだよ! だが……"普通じゃねぇ"のは伝わってくる!」
そんな泥新宿にて、鍔競り合うように刃を交わす英霊達がいた。
抑止力より遣わされた神殺しの探偵、龍殺しの為に幻霊を宿した"竜狩り"のランサー。どちらもこの魔の巣窟たる泥新宿においては善よりの英霊である。
彼らはこの泥新宿において過ごして長い英霊達ではあるが、今彼らが戦う英霊達はどちらも彼らが見たことのない特殊な霊基を持っていた。
「こいつら……複数の英霊の霊基が折り重なっているように作られている……」
「幻霊融合と同じ、か? いや違うな。こいつらの中心にあるのは……人間。それも人間の持っている感情の一側面か!」
「ヒヒ、ご名答。ンまぁ分かったところで、対策のしようはないだろうけど────サァ!!」
身の丈ほどある注射器を槍のように扱う英霊の攻撃を華麗に交わしながら、竜狩りのランサーがその喉元を狙う。
だが、筋骨隆々英霊がその黒光りする鉄腕を以てして竜狩りの攻撃の軌道を僅かに逸らさせた。
「ヒヒッ、サンキューイーラ」
「苛々させんじゃねぇよ!!!! その笑い方も!! すぐ死にそうな戦い方もなぁ!!!!」
「死んでも別にいいだろう? どうせ私たちぁデータ何だから。死ねばリポップ。月にもう一度こんにちわってな」
「月、だと? お前ら……まさか月からやってきた英霊だとでも言うのか?」
「ア……、ヤベ。バレた? ま、どーでもいっか、バレても」
ケタケタと笑いながら、注射器を武器にして戦う奇妙な英霊は言った。
それと同時に、更に続けて彼らと同じような魔力を持つ英霊が次々に出現してくる。
どれもこれも通常の英霊を超える魔力量を持ち、加えて通常の英霊とは一線を画す歪な構造を持っていた。
「さあ恐怖しろ。更に敵が増える事に恐怖しろ。そして見事、それを克服してみせろ」
「さぁ寄越せよ……。ここは上等な餌が揃ってるんだろ? 全部残さず、俺に寄越せ……!」
「クソ……まだ増えるのか!」
「月から来たかというのは置いておいて、お前たちが外部から来たものである事、そして此処まで戦力を揃えてきているのは事実。
一体何が目的だ……。なにより、お前たちを指示している者たちは誰だ!?」
「目的ぃ? んな分かり切った事いちいち聞くとは……苛つかせるなぁオイ!!」
「マァいいじゃんイーラ。ここは1つ、聞かせながら闘りあおうゼ?」
「ふっ、この血の王冠を戴く、完全無欠の勝利の女王たる私を相手取るのだ。それぐらいでないとハンデが足りぬ、というわけか!」
新たに出現した、白に赤いラインが走る鎧で身を包んだ少女が神殺しの探偵とぶつかり合った。
両腕に装着した車輪でぶつかり合う。紙一重で交わしながら神殺しの探偵と竜狩りのランサーは、彼らにここ新宿へと攻め込んだ目的を問うた。
「戦いながらでも、話してくれるのはありがてぇなオイ!」
「俺たちは苛つくことに、突如としてこの場所にいた。そしたら苛つく奴が表れてこう言いやがった!
"俺たちは此処にいる敵を倒さなくちゃ帰れない"とよ!! 俺らが死ぬか! 俺らの敵が死ぬか! その二者択一だと言った!! ああ思い出すだけでムカつくぜえええええええ!!」
「ま、別に死んでも月でリスポーン出来るんじゃね? って私は思うがね? だがとりあえず暴れるのは面白いだろ? だから手始めに目についたお前らを襲ってる、てワ・ケ」
「なんたる悪辣さ……。いや、人間の1つの感情がカリカチュアライズされているが故に、簡単に極端な行動に走れるという事か!」
「妖精の質の悪さを思い出す……なぁっと!!」
鎧の少女の猛攻をしのぎ切り、そしてなんとか敵たちと距離を取る神殺しの探偵。
近代の英霊故か、既に息が上がっていた。対する謎の敵勢力は皆余裕の表情である。
どうするべきか────と、手をこまねいている竜狩りだったが、そんな中で突如として地が震えた。
「なんだ……? こいつは……お台場……、レインボーブリッジの方面か?」
「っ! まさか……! この反応! 奴は既に討伐された、はず……!?」
同時にお台場の方面から魔力が迸る。探偵と竜狩りはその魔力に覚えがあった。
かつて彼ら抑止力が結束して滅ぼしたはずの『毒虫』の気配。そしてなによりも目覚めさせてはならない、世界蛇の持つ"圧"が蘇りつつあるのを彼らは感じていた。
まさか、あり得ない。そんなはずが────。そう思考する中、お台場の方角から1人の英霊が飛来してきた。
「レルムー、イーラー、こっち終わったよー。めんどくさかったけど、まぁ私が直接戦うよりはマシだったかなぁー」
「おー、お疲れさんリコリプレスー。っさぁて、んじゃ第2ステージに入っちまいますかァ」
「何故だ! なぜあれを蘇らせることが出来た!? あの世界蛇は既に我々が……!!」
「知らねぇよンなもん。私たちはただ、協力者から情報を得ただけだ」
「────────────ッ。この狂気(けはい)は……!?」
神殺しの探偵が怖気だった。彼が気付いた時には、周囲が既に囲まれていた。
10や20では済まない。ざっと100は超えるだろう。それほどの多くの存在が、グルリと囲む形で戦っていた彼らを包囲していた。
その全てはサーヴァントではない人間であったが、だが明らかに常人と違うと探偵と竜狩りは悟っていた。持っている自我の質とでも言うのだろうか、それが圧倒的に常人と違っていた。
この魔都と化した泥新宿においても尚も色褪せぬ自我、"狂気"と呼んでも差し支えないほどの純粋無比な感情を内側に宿す集団が彼らの周囲に立っていた。
「えーっとぉ、彼らを倒せばいいんですぅ? 霧六岡さぁん」
「まぁ待てちゃんどら。戦には名乗り口上という礼儀がある。此度は我ら月下に紛れ狡く生きる必要なし、堂々と名乗らせてもらおうではないか」
「………………あんた基本的に、闇夜に紛れずに堂々と名乗ってるけどね私たちの事」
「喧しい両石。……さて、泥濘の新宿に生きる抑止力よ、始めまして。我らはルナティクス。
この度、一時ではあるが月より来たりし自我の極致らと共に、この泥濘の新宿をまるっと頂きに参った、狂月の徒である!!」
「ルナティクス……!!? その名前、どこかで聞いた覚えが……!!」
探偵が目を見開いて記憶を探るが、その名前に関する記憶がまるで靄のかかったかのように不明瞭であった。
呵々大笑としながら自らに関して話す霧六岡と呼ばれた男。彼らは月の狂気に導かれた狂気信仰群衆であるという。
彼らは気が付けば何故かこの場におり、そして一時だけ"自我の極致"────暫定クラス名:アルターエゴと彼らが暫定的に呼ぶサーヴァントたちと手を組んだというのだ。
「我々も彼らと同じように、この場から抜け出すには敵を倒せと仰せつかった! しかし敵とは何だ? 一向に分からん!!
故に、ひとまずこの泥濘の新宿をまるっと頂けばいいとなった! この英霊と人間が共に過ごす世界、手に入れればきっと楽しいことになる!!」
「その為だけに我ら英霊を敵に回そうというわけか。随分と甘く見られたものだ。アルターエゴ……と言ったか。お前たち、こんな無秩序な連中と手を組んで、正気か?」
「手を組んだわけじゃないしぃ。あくまで私たちは"目的が一緒"なだーけ。情報を提供し合うぐらいはするけどねぇ?」
「そういうことだ。まずはこの泥濘の新宿にある"災害"を根こそぎ起こす。制御できるかは知らんが……ま、起こしてから考えるか」
「んなこと────────ッ!!」
『────────させない!!』
そう探偵と竜狩りが叫び、ルナティクスとアルターエゴを止めようとした刹那だった。
疾風が奔った。いや、違う。空を飛翔する異形の存在。前半分が鷲、後半身が馬のような合成獣が飛来する。
そして同時にその合成獣が────違う。その合成獣の背に跨る人間が、周囲を取り囲むルナティクスに向かって攻撃を放ったのだ。
「あれは英霊2基に……自然の嬰児、ホムンクルスか────うおおぉぉ!!?」
「触れれば転倒(トラップ・オブ・アルガリア)!! ……あれ?! 流石に見えない状態で打つのは無理だったかぁ」
「外しましたか……。しかし、今はまだ災害が目覚め始めたばかり。崩すなら今しかありません!」
「危ない危ない……!! 魔術で強化して全力で避けねば死んでいたぞ!?」
「オーイオイ早速死ぬんじゃねぇぞぉ自称・狂月の徒どもぉ!」
「ちぃ…! 笑っているんじゃない自我の極致共ォ!! 他人事と思いおって!!
レヴァーサロゼあたりならば同じルナティクスとして助力を期待したのだがなぁ…!」
笑い声を響かせるアルターエゴたち。そんな彼らの前に、合成獣────ヒポグリフが飛来して、その背から数人の男女が降り立つ。
麗しい風貌を持つ騎士、中性的な容姿を持つ少年、そして旗を携えた聖なる魔力を持つ少女。彼ら3人は明確にアルターエゴとルナティクスに対して敵意を抱いていた。
「仲間がやられて笑っていられるなんて、やっぱ即席のチームワークみたいだね!
これならいけるかもよ? ジーク!」
「お前たち……、何者だ?」
「話は聞かせていただきました。貴方たちに助力します。主よ……今一度、この旗を世界の為に振るいます!」
「俺たちも、ある意味では彼らと同類だ。気が付いたらここにいた。けれど、彼らがやろうとしている事は間違っている」
「うんうん! 1匹起きただけでも背筋が凍りそうだって言うのに、これ以上災害? とかいうのを起こされたら堪らないもんね!」
彼等はそれぞれ武器を抜き、そして戦う決意を固めた。
信じて良いのかと問う探偵に対し、彼らは無言でうなずいて肯定した。
「……分かった。竜狩り、お前はレインボーブリッジに向かってくれ。ザムザはおそらく、そこにいる」
「委細承知した。何かあればすぐに呼べ。こいつらは恐らく、底が知れないぞ」
「その点はだいじょーぶ! 多分、きっと、他の黒のみんなも来ているし、協力してくれるでしょ!」
「あまり楽観視をするのはどうかと思うぞ、ライダー……」
「オイオイ敵を前に雑談かぁ? 弱そうなくせに……苛つく野郎だぜえええええええええええ!!」
褐色のアルターエゴの鉄拳が、飛来した3人の中心に立つ少年へと真っ直ぐに向かった。
だが少年はその拳を腰に差していた剣で受け止める。筋骨隆々なアルターエゴに比べて圧倒的に華奢な少年だったが、彼は確かにその攻撃を受け止めていた。
何故だ────と褐色のアルターエゴが問うよりも早く、その少年の身体に変化が起きた。
「────────令呪を以て、我が肉体に命ずる!!」
その瞬間、少年の腕に刻まれた令呪が光を放つ。そうして少年の姿が変わる。
剣はより無骨に、肉体はより強靭に、そしてその肉体を覆う鎧は強く、あらゆる攻撃を通さないかのように固く構築された。
その姿は、その魔力は、まさしくこの場に立つどの英霊よりも強き姿であった。
「おお……ぐろぉりあす! 雄々ぐろぉりあす!!! すばらしいっっっ!!!
ただのホムンクルスではないかと思ってはいたが、人造の命の身で英霊としての力を宿すかァ!!! 名を何という貴様!!
いや違う!! 英霊としての真名ではない!! 貴様だ! 貴様個人の名を問おうではないか!」
「俺は……ジーク。ジークだ」
「良い名だ!! 貴様のその素晴らしさを計ってやろう。すぐには死ぬなよ? 耐えて見せろ。この暗黒の蠱毒たる泥濘の新宿において、我が試練を前に生き延びて見せろ!!
そして俺に人間賛歌を謳わせてもらおうか!! その素晴らしさ、その強靭さ!! その全てをこの俺に!! 愛させてくれることを真に願っているぞ!!!」
「アイツなんでこの新宿に来たばかりなのに仕切ってる空気出してるんだ?」
「諦めてください。あの人、ああいう人なんです」
「ついていけないですね……。まぁ私はそもそも、お嬢様がいない時点でやる気がないんですけどね」
はぁ、とアルターエゴの1人が1人だけ興奮しているルナティクスを横目にため息をつく。
そして空に浮かぶ満月を見やりながら、ぼんやりと物思いに耽っていた。自分自身を召喚し(つくっ)たマスター、"お嬢様"はどこにいるのだろう、と。
彼女たちアルターエゴは、本来は空高くに浮かぶ月にいるべき存在である。何故ならその月に、彼らを創り出したマスターがいるからだ。
その中でも彼女────真名:ミスルトナットは、その彼女らを創り出したマスター"お嬢様"に仕える役割を持つアルターエゴである。
故にこの泥濘の新宿への侵略行為には、それこそ"怠惰"のアルターエゴであるリコリプレス並みにやる気を覚えていなかったのだ。
「今頃なにをしているんでしょうかねー、お嬢様は。
また新しいおもちゃを見繕ってないといいですけれど」
そうぼやくように、空に浮かぶ丸い月を見上げながら、ミスルトナットは呟いて乱入者であるジークらに対して直死の枝を抜いた。
◆
「とりあえずこっちの方は行き止まりのようだ……」
「こっちもダメです。セイバーとも魔力のパスが切れていますし……。どうしましょう」
「その口ぶりを聞くに、君も聖杯戦争の参加者なのか。サーヴァントを従えているって言う事は、本選に進んだ……」
「あ、はい。自己紹介がまだでしたね。オズワルドといいます。よろしくです」
「……八門だ。よろしく」
誰もいなくなった校舎の中を、2人の少年が歩いて探索していた。
ここは通常の校舎ではない。言うならばここは電脳世界とでも言うべき、仮想の世界。つまり彼らは肉体を持たず、精神だけで存在すると言ってもいい。
彼らはある理由でこの電脳世界────"月"に存在するムーンセル内部で開催された聖杯戦争に参加することになった2人のマスターと言う記憶を持っていた。
しかし今はどういう事かマスターを喪い、そして同時に誰もいない校舎を彷徨っている。彼らはその理由を探るために協力し合っていた。
「ひとまず僕はセイバーを探したいと思っているんですが、八門さんは……」
「自分はヨハネがどこにいるかを探したい。アイツ放っておくと何するか分からないし……。
────ん、すまない。ちょっと待っていてくれ。……もしもし?」
突如として、八門の持つスマートフォンが電子音を鳴り響かせた。
八門がポケットから急いでそれを取り出して、耳に当てて電話に応答する。
こんな隔絶された場所に電波が届くのかという疑問がまずあったが、そうはいっても現に電子音が響いているのは事実であり、藁にも縋る思いで八門はその電話に出たのだ。
その電話越しに聞こえてきた声は、八門の想像とは真逆の、ふざけた口調の声であった。
『ビバビバビバ〜! 電話の向こうからこんばんわ! ようやく繋がりましたね向こう側の月のみなさん!
月は1つしかないのになんでこんなに物語があるのだろうと不思議に思う可憐な少女! アンビバレンスです!!!!』
「切ろう。どうやら悪戯電話が混線したみたいだ」
『ビバーッ!!? 薄情ですねぇ!! もうちょっと棗某ちゃんに見せたような優しさを私にも見せたらどうですくぁー!!?』
「そんな叫ぶ元気があるなら心配なんぞ無用だと思……。待て、何でその名前を?」
八門の知っている名前が、電話の向こう側の少女の声から出た。何故彼女の名を知っているのかと八門は問う。
アンビバレンスと名乗った少女は、ようやくこちらに興味が向いたことを嬉しく思ったかのように笑い声を響かせた。
事象がいまいち飲み込めないオズワルドはというと、疑問符を頭上に浮かべながら首をかしげているのみである。
『ビババババ〜! まぁ私は月で起きたことなら何でも知ってるので!
いえ月だけではないですよ! なんなら地球の事も知ってますから! まぁそっちの月はちょっと遠いんで苦労しましたが!
それはそれとして頑張ったので知っています! 努力家なアンビバレンスです!!』
「そもそも"そちらの月"という言い回しはどういう事だ!? 月は2つあるって言うのかアンブレラ!」
『アンビバレンスです!!!! 2つ? ちゃっちいですねぇ発想力が! "2つで済むわけ無いじゃないですか"』
『合わせ鏡のように無数に広がる平行世界の月の数、貴方数えられるんですかぁ?』
今までテンションが高いだけの少女だと思っていたが、突然声色が変わったその言葉に八門は怖気を走らせる。
その言葉ではっきりした。電話の向こう側の相手は、平行世界の月の人間である。それも、平行世界を超えるだけの力を持っていると言えるだろう。
何の目的なのか、そもそもどれほどの力を持っているのか。あるいは全てがハッタリなのか。八門はその頭脳をフル回転させて電話の向こう側の少女についての推測を進めていた。
「なにがあったの?」
「どうも平行世界の月の住人を名乗る奴がコンタクトしてきたらしい。さしずめ輝夜姫か何かか……それにしては品がないが」
『くらぁーっ!! 聞こえましたよー!! あ、でもかぐや姫良いですね! ロマンチックなので次それ使いましょう!! アンビバレンスです!!』
「アンビバレンスさんですね。オズワルドです。よろしくお願いいたします」
『アンビバレンスで……! 凄い名前間違えられてない!! 良い子ですねぇ、飴ちゃんあげますよ!!』
そう言うとオズワルドの頭上に複数の飴が生成され、そしてコツンと音を立てて彼の掌へと落ちた。
八門はその様子を見て、少なくともこちら側に干渉が出来る存在であるとアンビバレンスに対して考察を深めた。
「ひとまずこちら側に干渉が出来るほどの存在……ってことか」
『私のお話、聞いてくれる気持ちになりましたか?』
「一応は、な。まずどうやって俺たちの月にコンタクトを取ったのか知りたい。そして、そのコンタクトの目的もだな」
『コンタクトが出来た理由ですか。まぁおかしな客人が来ましてね。"少し月を掻き回してほしい"とかなんとか。まぁ私は掻き回すの大好きなので快諾しましたが!
すると何という事でしょう! 他の月と回線が繋がってるじゃないですか! これは私としても無二のチャンスですので活かそうかと思った次第です!』
「平行世界同士を繋げた存在は別にいる、という事か……。こちらに干渉できる理由は?」
『それはまぁ、私だからですかねぇ? 一応データとしてなら私にできないことはないので!』
「なら、その出来ないことはない力で一体何をするつもりだ?」
『んー、そうですねぇ。なんか聞くところによると其方は困ってるそうですし?
それに私としても、3つも4つも増えていく月の話にはいい加減飽き飽きというかぁ、関われないのはなんか悔しいなぁって思うのでー』
『ひとまず、英霊まぜまぜタイプ改め、"ムーンセルまぜまぜタイム"とかなんかしちゃったりしますね!』
何を────と問い質すよりも早く、八門とオズワルドの周囲が揺れた。
電話越しに無邪気に聞こえるがしっかりと悪意がこもっている笑い声が響く。八門はどういう事だと問い質すが既に変化は起き始めていた。
視界が霞んでいく。風景が溶けていく。畜生、またか────と。愚痴る様に八門が吐き捨てたのと重なって、彼らの周囲の光景が閉ざされた。
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そうして彼らが目覚めると、見知らぬ街に立っていた。
それもただの街じゃない。周囲は何処までも広がる無人の廃墟であった。
加えて廃墟は、まるで溶けた金属の奔流に襲われたかのように至る場所が金属による侵食を受けた、奇怪な廃墟であった。
ある程度の事態には慣れている八門ではあったが流石にこれには面を喰らったらしく、呆然と周囲を見渡すしか出来ずにいた。
「ここは……どこだ? いやそもそも……何故ここはこんな事態になっているんだ……?」
「データ……じゃなさそう。これ、もしかしたら……」
「ぶええええん! 此処どこですかぁ〜〜〜!!?」
突然鳴き声が響き、2人はそちらへと視線を向ける。
すると巨大な機械の怪物か兵器としか思えない存在に追われる少女がいた。
透き通った白色の肌に金色の髪を持つ、一見すると儚げな少女がそこにいた。最も、儚げとは真逆の叫び声を上げているわけだが。
「なんだあの機械……」
「ともかく助けないと……!」
「いや待て、そもそもアイツの声……、あの電話の……。アンビエントか!!」
「アーンービーバーレーンース!! ですー!!!! なんか気づいたらこんな場所にいたんですとにかく助けてー!!!」
「何? お前が俺たちを此処に連れてきたんじゃないのか!?」
「知らないですよ!! こんな地獄みたいな場所に連れてくるわけ無いじゃないですか!! 誰か助けふぎゃー!!?」
『オイ!! どうしてこんな所に一般人が入り込んでいやがる!! おいギドルディ! 援護頼む』
突如として怒号が響いた。同時にアンビバレンスと思しき少女を追っていた機械の化け物が横に倒れた。
ぎょろりとした目を持つ白い肌の少女が食いつくように機械の怪物に襲い掛かり、そのまま転倒させたのだ。
それに少し遅れ、怒号を放った褐色の男性が駆け付ける。そしてその場に立つ八門とオズワルドに向かって叫んだ。
「お前ら何処から来やがった!? この辺に一般人が入れる場所はねぇはだずだが……。
天使街の連中か? いやよく見ると羽根がねぇな……。電磁嵐避けの装備もねぇように見えるし…どうなってんだ? まさかロストHCUか?」
「ちょっとー!! いきなり危ないじゃないですか!! なにしでかしてくれてるんです!」
「あ? お前あのピアニストか。何でこんな所にいるんだ」
「ピアノ……? いや知らないですけど……」
褐色の男の言葉にただ疑問を抱くしか出来ずにいるアンビバレンスと思われる少女。
男ならこの場所について何か知っていると考えた八門は、ここがどこなのかを彼に問いてまずは打開策を生み出そうとした。
「なぁアンタ、事情に詳しそうだが、ここが一体どこなのか分かるか?」
「ああ? そんなこともわからずにここまで来たのか。迷い人か何かか……」
「ここは神戸。モザイク都市神戸だ。一応言っておくが、勝手口はあっちだ」
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『オイ……お前、生きてるか? アンリ先輩どうしましょこれ……なんか機械っぽいけど女の子みたいっすね』
『とりあえず上に報告かなぁー……。新しいロストHCUかもしれないけどこんなのの話し聞いたこともないし』
「………………。ヒト……?」
同時刻。神戸と呼ばれるその場所では1つの人型が落下していた。
どこか機械めいた女性の容姿を持っている存在。────異なる可能性では、月を蝕む癌と定義された存在が、神戸に落下していた。
その女性は目を開き、そして目に映る金髪の少年と純白の肌と髪を持つ少女を興味深げに覗いていた。
「ここは……どこ」
「お、目が覚めた。ここは神戸の天使街付近……っつっても分かんないかな」
「動けるなら自分で動いてほしいけど。ちょっと重そうで運べないしね」
「アンリ先輩仮にも女の人にそれはマズいんじゃ?」
「?」
首をゆっくりと傾げて疑問符を浮かべる機械の女性。少年と少女はそんな彼女についてここはどこなのかというのを説明し始めた。
そんな中、彼らの背後を少女が奔る。学生服を纏った少女が金髪の少年のサーヴァントを連れ、周囲を見渡しながら走っていた。
少年と少女、そして機械の女性は走る少女には気付かなかったが、少女は血相を変え、まるで周囲の状況を理解できないと言うかのように走っている。
「ハァ……ハァ……! ねぇボイジャー……。私たち、冬木に向かってるのは間違いなかったよね……」
「うん。エリセと一緒に、冬木に行く。それは変わっていなかったはずだよ」
「なのに……なんでこんな所にいるの……? それに、モザイク市神戸? そんな……おかしいでしょ?」
「西の方にモザイク市なんて、あるはずが……」
そう呟いて走る少女の前に、突如として人影が出現する。
殺気を感じ取り、即座に臨戦態勢をとるエリセ。その出現した人影は、包丁のような武器を握るその手に力を込めながら、小さく呟いた。
「先輩は────どこ」
◆
斯くして世界の理は捩れ狂う。
常識は崩れ、前提は崩壊し、自らの確立すらも総ては無限の果てへと消えゆく。
そして混ざりゆき、溶けゆき、その果てに或るのは破滅か、あるいは創造か────────。
それは例外の果ての例外。英霊が当然なりし世界ですら逃れ得ない。
混ざりゆく泥濘の運命に、次に巻き込まれるのは誰なのか。
それは誰よりも平凡で、誰よりも運命の中心に立つ、誰かなのかもしれない。
「御幣島さん……。何か……あちらの方向から、いやな予感がします」
「む……いやな予感とは。あなたの予感はただの第六感やない。……不穏ですな」
────────to be continued→
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