サンディ・ジョーンズ.
ヴァヌ・サヴランティー.研究・開発チーフ.
Cyssor.6月21日 2845年.
デスクの奥、壁にずらりと並んだモニターを、サンディ・ジョーンズは見比べていた。半ダースほどの最新ニュースフィードが、スクリーンの隅々で明滅している。しかし、その中に彼の関心を惹くものはなかった。妹のジェニー、テラン共和国の新兵である彼女が、Searhus の島で激しい衝突が起きていることを教えてくれたのだが。
視界はスクリーンへ釘付けになったまま、彼は落ち着かない気持ちで、妹と最後に交わした数日前の言い争いを思い出していた。
「どうしてそんなことをする必要があるんだ。ジェニー?」
彼女に問いかける。
「軍に参加しなくちゃいけない理由なんてない。どこの陣営の味方をするか、選ばなければいけない理由もない。テラン共和国もニュー・コングロマリットも……正気じゃないよ。わかるだろ。今も、互いに彼らは殺しあおうとしていて、居合わせた無実の人々ごと始末しているんだ。おまえまで殺されに行く必要なんてないだろ」
ジェニーからは嘲笑が漏れる。
「どこかの陣営の味方になる理由なんてない? 科学者カルト集団はどう? 陣営でしょ? 兄さんだって、人のこと言えない。エイリアンの神様だかの魔法の力に群がって……」
「神じゃない。ただのエイリアンだよ。Vanu は。彼らは実在したんだ。彼らの街を発掘して、遺物を分析した……そうしたら、ブリッグスが経験したのと同じように、僕らにもときどき、彼らからの啓示がくるようになった。テレパシーでの啓示だよ、ジェニー。Vanu は確かにいたんだ」
「 ”いた” ね。過去の話。そいつらが死に失せてから、何億年経つんだろうね?」
彼を睨みつけていた目を緩めると、彼女は続けた。
「なんと言おうが、私は意見を変えるつもりはない。そいつらが死んだのが、500年前だろうが、何億年前だろうが、知ったこっちゃないよ。聞いて、兄さん。つまりはこういうことでしょう。兄さんは科学者。だから分析して詮索する。自分の研究分野から外れていようが、何が起こるか見てみたくて、藪をつつきまわす。反応は毎回同じでも、何度も何度もつつきまわしてみる。兄さんにとっては、それが楽しいんでしょ」
「それが科学的検証だ。科学が生まれたときから、そういうものなんだ」
サンディはかすかにほほ笑んだ。
「そうね。兄さんの科学に一生懸命なところ、好きだよ。でもね、私たちみたいな、試験管や数式の世界に入り込めない人は、目の前の世界に向き合うしかないの。この惑星にきてから200年も経っていないのに、もう世界はばらばら。皆には平和が必要で、私は平和が欲しい。だから、私は平和への道の一部になりたい」
サンディは『兄』として、彼女に忠告することにした。兄としての忠告なんてものをジェニーが嫌っていたのは知っていたが。
「僕がおまえに言いたいことはな、本当はこうだ。このことにおまえは関わらないべきで、馬鹿どものことは、互いが撃ち合って全滅するまで放っておけばいい。そうしたら、この惑星は最後に残った者たちの物になる。平和的な研究を信じた者たちだ……僕と君だって、平和を望んでいるだろう。それに、テラン共和国の盟友とやらの全員がまっすぐで尊敬できるような人間ってわけじゃないのはよく知ってるだろ。彼らは独裁者。最低な連中だ」
ジェニーの顔が怒りの色に染まる様を見てとれた。
「じゃあ、ニュー・コングロマリットの方がマシだって、そう言うの? あいつらは最初から、コロニーの邪魔ばかりしてきた。稼ぎがないなら働かないって、仕事を拒んだ、もう地球に帰れないと気がついたその日から。テラン共和国は、ともに働ける日を望んでいたのに……」
サンディは前のめりになって、彼女の言葉をさえぎる。
「苛酷な法の下でだろう。もし逆らったら、捕まるか処刑される」
サンディの言葉なんて聞いていないかのように、ジェニーは続ける。
「 N.C. は忌々しい地下都市へ逃げ込んで、残された私たちに腐敗をもたらした」
「ああその通りさ。N.C の連中は自分たちかそれ以外か。T.R. の中にいては従うか死ぬか」
サンディは続けて言った。
「だから僕は中立であり続ける。この狂気に巻き込まれるのを僕たちは拒む。ジェニー、おまえさえ安全でいてくれれば、それでいいんだ。なあ、僕らのキャンプにお前を案内させてくれよ。僕が見ているものと同じものを見て、僕らを理解してくれ。そこで真実を見たとき、お前もきっと、僕らの仲間になりたくなる」
「サンディ、勘弁して。本気でそういってるの? 兄さんを本当に大切に思っているし、だからこそ、私は T.R. にいかなくちゃならない。Vanu についてはもう読んだ。彼だか、それだか、なんて呼べばいいかわからないけど、それについても理解した。軍に行くのを辞めてまで、兄さんのお友達の意味不明な不思議話には付き合えない」
「意味不明だって? ジェニー、お前は、T.R. のプロパガンダを読んだだけだろう。お前は Vanu について何もわかっていない。頼むよ。Vanu についてをお前に見させてくれ」
ジェニーはあきれたように首を振り、
「ごめん。でも見ない。見れないし、見るつもりもない。それに、私たちは分かっているでしょ。この争いが大きな戦争に発展することはないって。2勢力は今も話し合っていて、きっと和解案を見つけるはず。いつだってそうなってきた。私たちみんなはオーラキシスから出られない、望もうが望むまいが、ともに働いていく道を探さなくちゃいけないから」
子供のころよくやったように兄の耳たぶを弾くと、顔の片側だけで作った笑顔だけを残して、ジェニーは振り返らずに去って行った。
サンディは頭を振り、モニター上でスクロールされているニュースフィードへと意識を戻した。ニュースフィードの中では、リポーターが深刻そうに話をしている。彼の声はひどく穏やかで、感情が無いかのようだ。
「テラン共和国とニュー・コングロマリットの双方の代表者によりますと、すべての講和会議は中止になりました」
T.R. と N.C. の代表者が出演するビデオが再生される。
「彼らのような反逆者を説得する方法なんて存在しません」
T.R. のスポークスマンであるジョージ・ハリスが啖呵を切った。
「私たちは、平和のための席から歩き去るような真似を、していません。テラン共和国がそうしたのです」
ニュー・コングロマリットのスポークスマン、ダイアン・ドゥレイパーがゆうゆうとそう返すと、ハリスの顔が画面いっぱいに映しだされ、
「あなた方のせいでしょう。あなた方が、Kaorr 砂漠地帯にある T.R. の開拓居住地を攻撃するよう傭兵に対して命じたから」
「違いますね。あなたの軍隊が進軍し、数十人の入植者を虐殺したからです」
「入植者? 彼らはそこで戦争のための兵器を製造していた。ダイアン、まるでそのことを知らないかのように振舞うのはやめていただきたい! あなた方テロリストは兵器を使おうとしていた、テラン共和国の罪なき市民に向けて!」
ハリスはそのように叫んだ。
言い争う2人の顔を、リポーターの顔が取って代わった。
「 T.R. 関係者からの発表では、N.C. の要求は全て拒否され、N.C. の指導者が以下の要求に……」
リポーターの口の動きは徐々に遅くなり、やがて何も音を発しなくなったが、代わりに彼の手がせわしなくイヤホンへあてられた――新しい情報が入ったようだ。
「ただいま新たな情報が入りました。Searhus 島にて、大規模な戦闘が発生しているようです。Kane 囚人収容所の近辺で、発生しているようです。両軍ともに、敵勢力が全滅するまで戦闘を続けると断言しています。現地のリポーターからは、大量破壊兵器が使用されたことを示す情報が報告されており、両軍の死亡者数は急激に増えています。また、リポーターからは……えー、少々お待ちください……いま、Searhus のリポーターとの通信が途絶えました。現在、連絡のとれない状況です。どうやら連絡が――」
サンディ・ジョーンズはただ茫然とモニターをみつめた。開いた口が塞がらない。ジェニーが激戦区のどこかにいる。なにが起きているか知らなくては。
「サンディ」
彼の名前を呼ぶ声が後ろから聞こえた。振り向くと、ウイリス・スコット議長が部屋に入ってくるところが見えた。
「愚か者どもめ。この惑星は今や戦火の中にある」
「それでも私たちは中立であり続けます。サー、そうでしょう?」
サンディが尋ねた。
首を横へと、スコットは振った。
「どちら側にもつかない、それが君の意味する所であるならば、その通りだ。だが、この諍いの外にいることは、もはやできまい。彼らは我々を滅ぼし、このいみじき惑星を手中に収めんとしている。人間性の真価を発揮させるべく Vanu が一度は統治したこの世界を守るために、我らは脅威を根絶せねばならぬ。今日ここに、我らは主権を宣言する――ヴァヌ・サヴランティー。オーラキシスを生き延びる軍勢はひとつだというならば、それは我らでなければならない」
ヴァヌ・サヴランティー.研究・開発チーフ.
Cyssor.6月21日 2845年.
デスクの奥、壁にずらりと並んだモニターを、サンディ・ジョーンズは見比べていた。半ダースほどの最新ニュースフィードが、スクリーンの隅々で明滅している。しかし、その中に彼の関心を惹くものはなかった。妹のジェニー、テラン共和国の新兵である彼女が、Searhus の島で激しい衝突が起きていることを教えてくれたのだが。
視界はスクリーンへ釘付けになったまま、彼は落ち着かない気持ちで、妹と最後に交わした数日前の言い争いを思い出していた。
「どうしてそんなことをする必要があるんだ。ジェニー?」
彼女に問いかける。
「軍に参加しなくちゃいけない理由なんてない。どこの陣営の味方をするか、選ばなければいけない理由もない。テラン共和国もニュー・コングロマリットも……正気じゃないよ。わかるだろ。今も、互いに彼らは殺しあおうとしていて、居合わせた無実の人々ごと始末しているんだ。おまえまで殺されに行く必要なんてないだろ」
ジェニーからは嘲笑が漏れる。
「どこかの陣営の味方になる理由なんてない? 科学者カルト集団はどう? 陣営でしょ? 兄さんだって、人のこと言えない。エイリアンの神様だかの魔法の力に群がって……」
「神じゃない。ただのエイリアンだよ。Vanu は。彼らは実在したんだ。彼らの街を発掘して、遺物を分析した……そうしたら、ブリッグスが経験したのと同じように、僕らにもときどき、彼らからの啓示がくるようになった。テレパシーでの啓示だよ、ジェニー。Vanu は確かにいたんだ」
「 ”いた” ね。過去の話。そいつらが死に失せてから、何億年経つんだろうね?」
彼を睨みつけていた目を緩めると、彼女は続けた。
「なんと言おうが、私は意見を変えるつもりはない。そいつらが死んだのが、500年前だろうが、何億年前だろうが、知ったこっちゃないよ。聞いて、兄さん。つまりはこういうことでしょう。兄さんは科学者。だから分析して詮索する。自分の研究分野から外れていようが、何が起こるか見てみたくて、藪をつつきまわす。反応は毎回同じでも、何度も何度もつつきまわしてみる。兄さんにとっては、それが楽しいんでしょ」
「それが科学的検証だ。科学が生まれたときから、そういうものなんだ」
サンディはかすかにほほ笑んだ。
「そうね。兄さんの科学に一生懸命なところ、好きだよ。でもね、私たちみたいな、試験管や数式の世界に入り込めない人は、目の前の世界に向き合うしかないの。この惑星にきてから200年も経っていないのに、もう世界はばらばら。皆には平和が必要で、私は平和が欲しい。だから、私は平和への道の一部になりたい」
サンディは『兄』として、彼女に忠告することにした。兄としての忠告なんてものをジェニーが嫌っていたのは知っていたが。
「僕がおまえに言いたいことはな、本当はこうだ。このことにおまえは関わらないべきで、馬鹿どものことは、互いが撃ち合って全滅するまで放っておけばいい。そうしたら、この惑星は最後に残った者たちの物になる。平和的な研究を信じた者たちだ……僕と君だって、平和を望んでいるだろう。それに、テラン共和国の盟友とやらの全員がまっすぐで尊敬できるような人間ってわけじゃないのはよく知ってるだろ。彼らは独裁者。最低な連中だ」
ジェニーの顔が怒りの色に染まる様を見てとれた。
「じゃあ、ニュー・コングロマリットの方がマシだって、そう言うの? あいつらは最初から、コロニーの邪魔ばかりしてきた。稼ぎがないなら働かないって、仕事を拒んだ、もう地球に帰れないと気がついたその日から。テラン共和国は、ともに働ける日を望んでいたのに……」
サンディは前のめりになって、彼女の言葉をさえぎる。
「苛酷な法の下でだろう。もし逆らったら、捕まるか処刑される」
サンディの言葉なんて聞いていないかのように、ジェニーは続ける。
「 N.C. は忌々しい地下都市へ逃げ込んで、残された私たちに腐敗をもたらした」
「ああその通りさ。N.C の連中は自分たちかそれ以外か。T.R. の中にいては従うか死ぬか」
サンディは続けて言った。
「だから僕は中立であり続ける。この狂気に巻き込まれるのを僕たちは拒む。ジェニー、おまえさえ安全でいてくれれば、それでいいんだ。なあ、僕らのキャンプにお前を案内させてくれよ。僕が見ているものと同じものを見て、僕らを理解してくれ。そこで真実を見たとき、お前もきっと、僕らの仲間になりたくなる」
「サンディ、勘弁して。本気でそういってるの? 兄さんを本当に大切に思っているし、だからこそ、私は T.R. にいかなくちゃならない。Vanu についてはもう読んだ。彼だか、それだか、なんて呼べばいいかわからないけど、それについても理解した。軍に行くのを辞めてまで、兄さんのお友達の意味不明な不思議話には付き合えない」
「意味不明だって? ジェニー、お前は、T.R. のプロパガンダを読んだだけだろう。お前は Vanu について何もわかっていない。頼むよ。Vanu についてをお前に見させてくれ」
ジェニーはあきれたように首を振り、
「ごめん。でも見ない。見れないし、見るつもりもない。それに、私たちは分かっているでしょ。この争いが大きな戦争に発展することはないって。2勢力は今も話し合っていて、きっと和解案を見つけるはず。いつだってそうなってきた。私たちみんなはオーラキシスから出られない、望もうが望むまいが、ともに働いていく道を探さなくちゃいけないから」
子供のころよくやったように兄の耳たぶを弾くと、顔の片側だけで作った笑顔だけを残して、ジェニーは振り返らずに去って行った。
サンディは頭を振り、モニター上でスクロールされているニュースフィードへと意識を戻した。ニュースフィードの中では、リポーターが深刻そうに話をしている。彼の声はひどく穏やかで、感情が無いかのようだ。
「テラン共和国とニュー・コングロマリットの双方の代表者によりますと、すべての講和会議は中止になりました」
T.R. と N.C. の代表者が出演するビデオが再生される。
「彼らのような反逆者を説得する方法なんて存在しません」
T.R. のスポークスマンであるジョージ・ハリスが啖呵を切った。
「私たちは、平和のための席から歩き去るような真似を、していません。テラン共和国がそうしたのです」
ニュー・コングロマリットのスポークスマン、ダイアン・ドゥレイパーがゆうゆうとそう返すと、ハリスの顔が画面いっぱいに映しだされ、
「あなた方のせいでしょう。あなた方が、Kaorr 砂漠地帯にある T.R. の開拓居住地を攻撃するよう傭兵に対して命じたから」
「違いますね。あなたの軍隊が進軍し、数十人の入植者を虐殺したからです」
「入植者? 彼らはそこで戦争のための兵器を製造していた。ダイアン、まるでそのことを知らないかのように振舞うのはやめていただきたい! あなた方テロリストは兵器を使おうとしていた、テラン共和国の罪なき市民に向けて!」
ハリスはそのように叫んだ。
言い争う2人の顔を、リポーターの顔が取って代わった。
「 T.R. 関係者からの発表では、N.C. の要求は全て拒否され、N.C. の指導者が以下の要求に……」
リポーターの口の動きは徐々に遅くなり、やがて何も音を発しなくなったが、代わりに彼の手がせわしなくイヤホンへあてられた――新しい情報が入ったようだ。
「ただいま新たな情報が入りました。Searhus 島にて、大規模な戦闘が発生しているようです。Kane 囚人収容所の近辺で、発生しているようです。両軍ともに、敵勢力が全滅するまで戦闘を続けると断言しています。現地のリポーターからは、大量破壊兵器が使用されたことを示す情報が報告されており、両軍の死亡者数は急激に増えています。また、リポーターからは……えー、少々お待ちください……いま、Searhus のリポーターとの通信が途絶えました。現在、連絡のとれない状況です。どうやら連絡が――」
サンディ・ジョーンズはただ茫然とモニターをみつめた。開いた口が塞がらない。ジェニーが激戦区のどこかにいる。なにが起きているか知らなくては。
「サンディ」
彼の名前を呼ぶ声が後ろから聞こえた。振り向くと、ウイリス・スコット議長が部屋に入ってくるところが見えた。
「愚か者どもめ。この惑星は今や戦火の中にある」
「それでも私たちは中立であり続けます。サー、そうでしょう?」
サンディが尋ねた。
首を横へと、スコットは振った。
「どちら側にもつかない、それが君の意味する所であるならば、その通りだ。だが、この諍いの外にいることは、もはやできまい。彼らは我々を滅ぼし、このいみじき惑星を手中に収めんとしている。人間性の真価を発揮させるべく Vanu が一度は統治したこの世界を守るために、我らは脅威を根絶せねばならぬ。今日ここに、我らは主権を宣言する――ヴァヌ・サヴランティー。オーラキシスを生き延びる軍勢はひとつだというならば、それは我らでなければならない」
原文ページ:PS2 CHRONICLES - SANDY JONES, VANU SOVEREIGNTY CHIEF OF RESEARCH AND DEVELOPMENT
- Sandy Jones(サンディ・ジョーンズ)
- Genny Jones(ジェニー・ジョーンズ)
- Briggs(ブリッグス)
- George Harris(ジョージ・ハリス)
- Diane Draper(ダイアン・ドゥレイパー)
- Chairman Willis Scott(ウイリス・スコット議長)
- Terran Republic(テラン共和国)
- New Conglomerate(ニュー・コングロマリット)
- Vanu Sovereignty(ヴァヌ・サヴランティー)
- Auraxis(オーラキシス)
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- ゲーム
- PlanetSide 2
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