最終更新:ID:D2wxczZZbQ 2021年10月15日(金) 23:04:50履歴
紅いワインは何本目?
床が酩酊しちゃってさ、昼も夜もわかんなくてさ。ただ吞むほどに渇いちゃってさ。
また檻が開く。満月の夜に引きずり出される。そして僕たちはちょっと減る。いつものように。
君はずっといたね、血の薄い落ちこぼれだってね。呑めないって喰えないって吐き出してばかりだったね。
だからずっといたんだろう。使う価値ないから忘れられたんだろう。だから出られないんだろう。
いつも変な顔してたよ、哀しいっていう顔をしてたよ。僕はそんなの知らなかったよ。
君が教えてくれた。嬉しいには哀しいがあってさ。気持ちいいには痛いがあってさ。好きには嫌いがあってさ。
だから、嫌いじゃないものをあげた。君が吐かないように頑張った。そしたら君、ちょっと嬉しいってさ。ちょっと嬉しかった。
でもね、ちょっと夢から醒めすぎちゃった。
嬉しいことが哀しいんだ。気持ちいいことが痛いんだ。好きだったものが嫌なんだ。
全部逆なのはどうして?僕は何を知ったの?僕は何になるの?
君は、ひとになるんだっていった。たぶん、ちょっと嬉しい顔で。
だから、僕はひとになるよ。
君の■■な、ひとになるよ。
針が入る、ワインが血に混ぜられて、頭が白い靄に包まれる。いつものように、いつものように。満月の夜が来る。
今日は君だ。
君が減る。
わからない、わからない。これは白なの?これは黒なの?混ざり合って灰色になる。
君を傷つけるの?君を■■るの?何かを言おうとしても、何かをしようとしても、全部不確かに掠れてく。僕は何なの?僕はひとなの?僕は―――
爪が君の肉を裂いた。牙が君の腕を千切った。
やめて。
君が傷ついてく。君が欠けていく。
やめて。
君が汚れてく。
やめろ。
白くなる、白くなる、白い怪物に食べられる。君が食べられる、僕が食べられる。
君の顔が見えた、白い肌が真っ赤に咲いた。最後に、最後に。黒が君に語りかける。
僕のことを、嫌いだと言って。痛いって言って。
哀しいって、言ってくれよ。そしたらさ、僕は、僕を。
「いいよ」
叫んだ。
鼻を嚙み千切った。眼を突き潰した。耳を、皮を引きちぎった。
君は君じゃなくなって、僕は君になって、君は俺になった。
そして、みんな俺になった。
月はもう見えない。
白金が灰に陰っていく。溢れた血に精彩は無く、ただ息絶えそうな狼が一匹だけ。周りには誰もいない。舞台の幕は下りた、血の女王が勝利して、そして皆立ち去ってしまった。
黒く薄れた思考の端に、狼は一つだけ気づきがあった。
零れてる。
俺が零れる。皆が、君が、零れてしまう。
その焦燥に誘われて、僅かに動いた四肢の残りが藻掻いて、己の血だまりの中に倒れこんだ。
臓物に喰らいついた、血を啜り上げた。
千切れた手足を咀嚼して、落ちた目玉を飲み込んだ。
それは白かった。血で赤く飾られた、白い怪物の味がした。
喰らう、喰らう、喰らう。全て残さないように、何も残らないように、怪物の肉を喰らい尽くす。
痛い、嫌い、でも、もう哀しくない。
怪物はもういないから、全部黒くなったから。もう何もいらないよ、ワインも、肉も、もう十分だよ。
これでようやく、君と一つになれるから。君のそばにいられるから。
僕は、ひとになるよ。
君と同じ、ひとになるよ。
そうして、白い狼はいなくなりました。
おしまい。
床が酩酊しちゃってさ、昼も夜もわかんなくてさ。ただ吞むほどに渇いちゃってさ。
また檻が開く。満月の夜に引きずり出される。そして僕たちはちょっと減る。いつものように。
君はずっといたね、血の薄い落ちこぼれだってね。呑めないって喰えないって吐き出してばかりだったね。
だからずっといたんだろう。使う価値ないから忘れられたんだろう。だから出られないんだろう。
いつも変な顔してたよ、哀しいっていう顔をしてたよ。僕はそんなの知らなかったよ。
君が教えてくれた。嬉しいには哀しいがあってさ。気持ちいいには痛いがあってさ。好きには嫌いがあってさ。
だから、嫌いじゃないものをあげた。君が吐かないように頑張った。そしたら君、ちょっと嬉しいってさ。ちょっと嬉しかった。
でもね、ちょっと夢から醒めすぎちゃった。
嬉しいことが哀しいんだ。気持ちいいことが痛いんだ。好きだったものが嫌なんだ。
全部逆なのはどうして?僕は何を知ったの?僕は何になるの?
君は、ひとになるんだっていった。たぶん、ちょっと嬉しい顔で。
だから、僕はひとになるよ。
君の■■な、ひとになるよ。
針が入る、ワインが血に混ぜられて、頭が白い靄に包まれる。いつものように、いつものように。満月の夜が来る。
今日は君だ。
君が減る。
わからない、わからない。これは白なの?これは黒なの?混ざり合って灰色になる。
君を傷つけるの?君を■■るの?何かを言おうとしても、何かをしようとしても、全部不確かに掠れてく。僕は何なの?僕はひとなの?僕は―――
爪が君の肉を裂いた。牙が君の腕を千切った。
やめて。
君が傷ついてく。君が欠けていく。
やめて。
君が汚れてく。
やめろ。
白くなる、白くなる、白い怪物に食べられる。君が食べられる、僕が食べられる。
君の顔が見えた、白い肌が真っ赤に咲いた。最後に、最後に。黒が君に語りかける。
僕のことを、嫌いだと言って。痛いって言って。
哀しいって、言ってくれよ。そしたらさ、僕は、僕を。
「いいよ」
叫んだ。
鼻を嚙み千切った。眼を突き潰した。耳を、皮を引きちぎった。
君は君じゃなくなって、僕は君になって、君は俺になった。
そして、みんな俺になった。
月はもう見えない。
白金が灰に陰っていく。溢れた血に精彩は無く、ただ息絶えそうな狼が一匹だけ。周りには誰もいない。舞台の幕は下りた、血の女王が勝利して、そして皆立ち去ってしまった。
黒く薄れた思考の端に、狼は一つだけ気づきがあった。
零れてる。
俺が零れる。皆が、君が、零れてしまう。
その焦燥に誘われて、僅かに動いた四肢の残りが藻掻いて、己の血だまりの中に倒れこんだ。
臓物に喰らいついた、血を啜り上げた。
千切れた手足を咀嚼して、落ちた目玉を飲み込んだ。
それは白かった。血で赤く飾られた、白い怪物の味がした。
喰らう、喰らう、喰らう。全て残さないように、何も残らないように、怪物の肉を喰らい尽くす。
痛い、嫌い、でも、もう哀しくない。
怪物はもういないから、全部黒くなったから。もう何もいらないよ、ワインも、肉も、もう十分だよ。
これでようやく、君と一つになれるから。君のそばにいられるから。
僕は、ひとになるよ。
君と同じ、ひとになるよ。
そうして、白い狼はいなくなりました。
おしまい。
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