ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

/蒲穂わに 一日前


 学校は暫く休むことになった。
 普通なら何かしら怪しまれるところだが、そこは就職組の少年。
 研修があるためしばらく叔母に休むように指示されたと言えば快諾された。

「さて、と」

 学校への連絡を終えた少年は倉庫街に来ていた。
 倉庫の一つ、蒲穂の持つものに用心深く辺りを見回しながら入っていくと、
 意を決したように周囲の空間に呼びかけた。

「いるんだろ? ええと、……サーヴァントさん?」
『はい、いますよ』
「……おおぅ」

 予想していたより近くで聞こえたせいか、思わず少年は仰け反った。
 ……というか、念話で話されることは経験済みだったはずだが、
 そのことに関しては彼の頭からぽろっと抜け落ちていたようである。

「ええと、姿は見せられないんだっけ?」
『ええ。残念ながら』
「理由とか、言えたりする?」
『ごめんなさい。あなたが自分で気づくまでは言えません。そういう事に決まってるんです』
「そう……か」

 サーヴァントの声は心の底から残念そうなものだった。
 少年を騙そうという悪意は見受けられない。
 少なくとも、少年にはそう思えた。

「わかった。信じるよ」
『……ありがとうございます!』
「うん。俺達パートナーだしさ。不信から始まるのは不毛だよ。
 ああ……で、だけど。俺は君をなんて呼べばいいのかな?」
『キャスターと。そうお呼びください』
「キャスター、ね」

 その名前を噛みしめるように繰り返す。

「それでだ。最初に訊いておきたいんだけど、キャスターにはどんなことができるんだ?」
『どんな、とは?』
「ええっと、そうだな。例えば、戦うのが得意とか、なにか武器を使うのが上手いとか。
 あ、でもそうか。キャスターってことは魔術が得意なのかな?」
『えっ』
「……え?」
『……私、あんまり魔術使えません』
「マジで……?」
『マジです』

 少年の背中を冷や汗が伝った。
 気が遠くなりつつある主の様子に気がついたのか、
 慌てたようにキャスターが付け足した。

『あ、でも! でもマスターさんを強化することはできますよ! こんなふうに!』
「……強化されてるのこれ? そんな感じはしないけど」
『されてますよ。ちょっと跳ねてみてください。
 目標はええと……あそこのコンテナくらいで!』
「コンテナ……?」

 キャスターの言葉を聞いて少年は彼女の言うコンテナを探す。
 しばらく、きょろきょろと辺りを見回していたが、
 やっと件のコンテナに気がついて、苦笑を漏らした。

「あれは無理だよキャスター。跳ねるったって10mはあるぞ?」
『できますよ?』
「流石に冗談きついよ。
 強化魔術で加算しても俺程度じゃ基礎値が足りないのはわかりきってる」
『む、やらないうちから信用してくれないのですか?
 さっきは"不信から始めるのは不毛"なんて言ったのに』
「あー……うん。それもそうだな。ごめん」
『もー! やっぱり半信半疑じゃないですか!』

 口では謝るも内心やはり信用していないことに気づいたのだろう。
 プリプリとキャスターは怒っている。
 それを宥めるため、少年は言う通りに跳ねてみることにした。
 勿論、コンテナまで跳べるとは欠片も思ってはいなかったが。

「じゃあ、コンテナ目掛けて跳べばいいんだな?」
『はい! でも、コンテナじゃなくてコンテナの上ですよ?
 ぶつかってしまったら怪我をするかもしれませんし』
「はいはい」
『じゃあ、いちにのさんで跳んでくださいね?
 いち、にぃの、さん!』

 声に合わせ、片足で軽く地を叩く。
 踏み切りの目標は10mも高くにあるコンテナまで。
 強化魔術をかけていても、人間のひと跳ねでは届ききれない。
 そのはずだった。

「…………え?」

 ふわり、などという生易しい言葉では表せない浮遊感。
 それにしばし遅れ、足裏に床とはまた別の硬い感触が触れる。
 振り向けば、先ほどの立ち位置が遥か地面にあった。

「……嘘、だろ?」
『だから言ったじゃないですか! 跳べるって!
 これでようやく信じていただけましたか?』

 それ見たことか、とでも言いたげな声で、
 キャスターはふるふると震えているマスターに告げる。
 どこか得意げな調子は自分の性能を再評価されることへ向けられたのか、
 はたまた、強情なマスターをやりこめたことへのものか定かではないが。

『マスターさん……?』

 依然として身体を震わせるマスターに
 キャスターは心配混じりの声を投げかける。
 地上から10m。
 サーヴァントにとっては屁でもない高度だが人間には致命に足る。
 そんな場所に立ってしまったこと、
 あるいは、その距離をひと跳びにしてしまう身体になったこと。
 それらが自身の主の身を竦ませているのではないかと考えたのだ。

「………………」
『ああ、ええっと! 大丈夫ですよマスターさん!
 足を滑らせても私がアシスト? 操作? するから問題ないですし! それに──』

 身体のことも、と続けようとしたキャスターの声を少年が遮った。

「……すげえよキャスター! こんなことが出来るなんて!」
『え? はい? ……そうですか?』
「ああ! そうだ。ちなみに、これ持続時間は?」
『ええと、マスターさんが望むだけ。ですね。はい』
「よくやったぞキャスター! これでまだ勝ち目が出来た!
 俺はマスターとしては下の下だ。サーヴァントに襲われたら終わりだろう。
 でも、この強化があればサーヴァントからだって逃げられる!
 ……あ、そうだった。キャスター、さっきは疑ってゴメンな。
 キャスターにはこんなにすごい魔術があるってのに、俺信用してなかった」
『えへへ、改まって言われると照れるといいますか……
 疑ったことはもう気にしないでください。ほら、私達はパートナー? ですから』

 照れくさそうにキャスターが少年の言葉を引用する。
 少年は聖杯戦争を生き残る術を与えてくれたキャスターが、
 その声さえもどこか頼もしいように思えてきた。

「ちなみに、他にはどんなことができるんだ?」
『えっ』
「いや、だから他の魔術は──」
『………………』
「キャスター……?」
『…………これだけ、です』

 恐る恐る、非常に言いにくそうにキャスターは静寂を破った。
 再度、そして今以上の沈黙が二人を取り巻く。

「…………」
『…………』
「……とりあえず、身体の動かし方だけ練習しようか」
『……ソデスネ』

 逃げる術があるだけマシ。
 そういうことになった。


□□


 倉庫の中で飛んだり跳ねたりを繰り返すうちにいつの間にか日が暮れていた。
 同年代では枯れた方に入る少年だが、やはり男の子。
 このような動きが出来るようになったからには夢中になるのも当然だった。

『結構練習しましたね』
「ああ。逃げ足を磨いておいて損することはないからな」
『その割には随分楽しまれていたようですが?』
「ま、まあ楽しみながらやるのが一番だからな。オッホン」

 ごまかすように咳払いをする少年に、キャスターはクスクスと笑う。
 念話から響く笑い声を浴びてちょっと赤面していた少年は、
 倉庫の扉を締めると、元通りに大きな錠前を掛けた。
 と、その時だった。

『マスターさん!』
「なんだよキャスター、からかうのも──」
『違います! この気配は……!』

 血相を変えたキャスターの声。
 それは、少年の背後に危険が近づいていることを仄めかす。
 例えばそう。

「アナタ、聖杯戦争のマスターよね?」

 ──そんな、少女の声であったり。

 白い。そう、雪のように白い少女だった。
 アルビノ、というのだろうか。
 透き通った肌にブロンドと赤い眼が煌々と。
 まるで星のように輝くものだから。
 強い光を浴びたものが目を眩ませその場に立ちん坊になるように、
 一瞬のうちに少年は少女に見惚れていた。

 それは、少女の人間離れした、
 身を竦ませてしまうほどの美貌のせいかもしれない。

 それは、白蛇を彷彿とする姿に、
 単に怯えて身体を強張らせていたのかもしれない。

 それは、アルビノの物珍しさに、
 思わず見入ってしまっていただけなのかもしれない。

 それは、願いのために他者を殺戮せんという意思に、
 初めて浴びた殺意に動揺してしまったのかもしれない。

 されど。どの思いこそが彼の真意なのか、など。
 ここでは、彼の感情の正答など意味を持たない。
 なぜか。
 それが当然であることを少年が理解するのは、
 彼女の言葉が、彼女もまたマスターである事実を示すと気づいてからだった。

『これは性フェロモンによる軽度の魅了効果! マスターさんもこれに──
 …………あれ? ちゃんとレジストできてる? できてるの?
 できてるならいいです! マスターさん! しっかりしてくださいマスターさん!』
「────────」
『呆けてる場合ではありません! マスターさん! マスターさん!』
「あ、ああ。なんだキャスター?」
『わからないんですか! マスターが居るということは!』

 しまった、と。
 キャスターの言葉に続くその名称を脳裏に浮かべる暇もなく。

「来て、■■■■」

 少女の声に続いて、滲んだ殺意が空間を軋ませた。
 第五架空要素が固結し霊体に仮初の受肉を与える。
 それは、この瞬間に少年が七度殺されるほどの隙を晒していたということで。
 刹那を絶死と変える猟犬は、まるで数時間も待てを食らっていたように、
 その研ぎ澄ました牙を獲物へ向けることを、やっとのこと許された。
 波紋。

『ああもう! お身体を失礼しますよ、マスターさん!』

 浮遊感。
 明滅。
 消え行く意識。
 瞼の裏に、怖気立つほどに眩く残る白。
 土煙の中で遠のいていく距離さえ通じず身を瘧のように震えさせる。
 ──それが、初陣での最後の記憶だった。

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