最終更新: nevadakagemiya 2017年01月05日(木) 21:51:12履歴
※この文章にはFGOと矛盾する内容も含まれております。
さて、一つの聖杯を巡る話をしよう。
魔術王による人理焼却は知っているかい?
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。
それが魔術世界で言われる『人理』だ。
かの魔術王は聖杯を用いてこの人理を破壊した。
方法は単純、人類史上のターニングポイントに聖杯を送り込んで、人理の定礎を破壊したんだ。
万能の願望器なんてあれば、いとも容易く混乱は起こる。
そしてその人理を修復する為に奮闘しているのが、人理継続保障機関・カルデアだ。
彼らは数々の技術をを用いて人理の異常点、『特異点』を探索、聖杯を回収することで人理を修復していった。
え、よく知ってるって?
じゃぁ話が早い。
今回の話はこの人理焼却・人理修復に関わる話だ。
『特異点』の聖杯? いいや、違う。
これは誰にも知られない『特異点』修復の話さ。
奇妙な光景ではあった。
状況的には全くの無音、なのに、視界全てを埋め尽くす炎が猛烈な勢いで迫ってくる。
奇妙な事もあるものだ、と二人の騎士は同時に嘆き。
次の瞬間、爆炎がものの見事に十字に斬り裂かれた。
剣二振り、二人の騎士によって振るわれた剣は、見事な十文字の軌跡を爆炎に刻み打ち払う。
『しっかし英霊になったとはいえ、こんな場所で戦う事があるとはなぁ』
『同感だ。■に行ったのは私では無く、友人の方なのだがな』
会話を交わす二人の騎士、その容姿は些細な違いはあれど、驚くほどによく似ていた。
そして何よりも、その手に握られた剣。
宝剣とも言うべき装飾が施されたその剣は、その二本ともが、全く同じ形をしている。
『悪いですけれど二人とも。無駄話してる暇はありません』
二人の騎士の後方から、新たな声が掛かる。
姿こそ直接は見せないものの、その声は少年とも少女とも判断のつかない、中性的な声だ。
そして続く四人目の声、こちらは中年の男の声。
『時間も魔力も有限なんだ、とっとと仕留めるか逃げるかするぞ!』
『今戦えているのだって、私の宝具でサポートしているからなのですから』
言われ、二人の騎士はお互いの顔を見合わせた後、正面を見る。
正面に浮かぶは巨大な炎塊。
意思があるのかどうかすら判断がつかないソレは、自身を陽炎のようにくゆらせながらその場から動こうとはしない。
ただ思い出したように先程のような炎を放つのみである。
『…敵なのは間違いないのか、裁定者よ』
一人の騎士が後方に問い掛ける。
それに、中性的な声が応えた。
『間違いありません。少し特殊な条件で召喚されたからなのか、まだ本調子では無いようですが、ソレは大敵。倒さねばならないモノです』
『騎士としては不意打ちのような真似は避けたいのだが。どう思う、私』
この二人の騎士、見た目は良く似ているがどうにもその性格には違いがあるらしい。
落ち着いた物腰の一人に比べて、もう一人は些か粗暴な印象を受ける。
『んー、人類と自身のプライド比べりゃ選択は決まってるっつうか…』
『それはそうなのだが…!?』
その瞬間だった。
一方の騎士が呆れからか警戒を解いたその一瞬、炎塊が一際大きく身震いした。
とたん、再び勢いよく爆炎が周囲に放たれる。
『この程度!』
『なんだ、まるで見計らったみてぇに…ヤバい! 狙いは俺たちじゃねえぞコレ!』
二人の騎士は難なく爆炎をかわし、斬り裂く。
しかし爆炎、いや、もはや火球となった攻撃はそれが全てではなかった。
騎士の横をすり抜けた火球は勢いを弱めることなく突き進む。
目標は騎士の遥か後方、声の主、裁定者。
『ああやっぱりこうなるか! 急発進だ!何かに掴まってろ!』
『え、きゃぁぁぁぁ!!』
光の線を描いて火球が飛ぶその先。
その先で光が輝いたかと思うと、流星のように何かが一条、空を切り裂き飛び出した。
『ま、待って下さい、あんまり離れ過ぎるとセイバーさん達が』
『分かってる! 回収はするが今は回避に専念だ!』
二個、三個と連続して火球が飛び、虚空に爆炎が上がる。
しかし裁定者を乗せた何かは、爆炎の余波を受けながらも決して直撃を受ける事無く、虚空を飛び続ける。
『こんなところで墜ちてたまるかぁ! 俺の、人類の夢は墜とさせねぇぇぇ!』
一方の騎士たちも窮地に立たされていた。
遠距離に火球が放たれると言う事は、近距離ではより強力な爆炎、火球に襲われるということでもある。
謎の炎塊は先程までの静寂はどこへやら、今や明確な敵意を持って近くへ、遠くへと炎を放ち続ける。
『あぁ成程こりゃぁ敵だ、間違いなく敵だな、俺』
『そうだな私、後ろの二人には申し訳ないが、これで思う存分剣を振るえるというもの』
二人の騎士は、全く同じ剣をそれぞれ構えた。
輝く剣は不毀にして不滅の宝剣。
魔力が剣に集い、戦闘準備万端というところで騎士は高らかに告げる。
『『よし、脱ぐぞ!』』
『脱ぐんじゃねぇぇぇぇ! 乗せねぇぞお前らぁぁぁぁ!』
この聖杯が魔術王によってもたらされたかどうかは分からない。
けれど確かな事は、この聖杯が人理定礎を破壊していて、尚且つカルデアにも発見されてなかったという事だ。
じゃぁ今もその人理定礎が破壊されたままかといえば、そうでもない。
既に聖杯は破壊され、人理は修復済みだ。
その時代に、聖杯によって召喚されたサーヴァントの皆が頑張ってくれたからね。
でもそれは決して楽な戦いじゃあなかった。
何せまず前提条件、戦闘環境からしてイレギュラーだらけだったんだから。
「ささ、酒はまだあるぞ〜」
「おお! これはこれは姫君直々のお酌とは、ありがたくお受けしますぞ〜」
男が手にした杯に、透き通った酒が並々と注がれる。
既に赤ら顔になっている男は、締まりのない笑みを浮かべるとそれを一息で飲み干した。
「いやー、日本の酒は初めて口にしましたが、この美味い事美味い事。美人もいるし酒もある、正に天国ですな〜」
「うふふ、男爵殿もよき飲みっぷり。もう一杯ゆくか?」
桜舞散る広い庭園の一角。そこに四人の男女の姿があった。
その装いは多種多様で、年齢、人種すら一致していない。しかしこの四人には一つだけ共通点がある。
この時代に召喚された、サーヴァントだという事だ。
「あの…こんな事していてもいいのでしょうか?」
四人のうちの一人、一番幼く見える少女が恐る恐るといった様子で口を開く。
「今この時代、この場所は人理焼却の特異点で、私たちはそれを防ぐために召喚された…んですよね?」
薄い肌の色と白髪から、どこか儚げな印象を受ける少女である。
身に纏う服は青色を基調に統一されており、少々レースが多いが現代の服に近く見える。
そんな少女の言葉を受け、別の一人が言葉を返した。
「良い、王である私が許そう」
言葉を返したのは身長2mはあろうかという大男だ。
「確かに我らの目的は人理修復だ。しかし闇雲に戦えば良いというわけでもない。必要な時に戦い、不要な時は休む。それも大事なのだ」
野太い、しかし落ち着いた優しい声だった。
ゆっくりと、言い聞かせるように少女に語るその声は、どこか焦りを感じていた少女の心を落ち着かせていく。
「…すみません。こういうのは、私の得意分野の筈なのに」
「良い。戦いに慣れておらぬのだろう。慣れぬ状況で焦るのは仕方のない事だ」
言って、大男は杯を口に運ぶ。
少女もコップに注がれたジュースを一口飲んだ。
「それにな、現状の戦力では防衛はできても反撃はできぬ。故に我らはこうして待っているのだ」
「待っている、ですか?」
「そう。私をこの戦場に喚んだ、我が胸の秘石が告げた未来を、仲間を待っている」
大男の胸の辺りがが、青白く光る。
それは只の光ではあったが、どこか不思議と冷徹さ、そして知性を感じさせる光でもあった。
「ん〜夢見、未来視というやつですかな王よ」
「ほぅ雅な。これが王様の宝具かえ?」
ふと気づけば、先程まで二人で騒いでいた男女も大男の近くへと寄って来ていた。
男の方は燕尾服を、女の方は豪勢な和服を身につけている。
「男爵よ、未来視くらいならばおぬしも使えるのではないか?」
「え!? 吾輩ですか? いやーどうでしょう、まぁ無理すればできなくもない、と言いますかせいぜい数秒先までといいますか…」
落ち着いた雰囲気はそのままで、些かからかうような口調で大男が燕尾服の男に告げる。
燕尾服の男はバツが悪そうに明後日の方向に顔を向け、言葉を濁した。
と、その時である。
「敵襲だ! 上空より! 恐らく隕石!」
庭園に凛とした声が響く。それとほぼ同時に、庭園に新たな人影が姿を現した。
声からして恐らく女性である事は分かるが、その風貌は異様であった。
手足、胴体はおろか顔すらも、その肌の一切を見せず、覆面や包帯でその身を覆っている。
「御苦労、弓兵。円盤は無しか」
「今のところ見えない。恐らく奴らも隕石の対処に追われているのだろう」
ならば、と言って王は立ち上がる。
同時に庭園が大きく揺れた。覆面の人物が告げたとおり、敵襲が始まったのだろう。
桜の木々が揺れ、花弁がさらさらと雨のように舞い落ちる
しかし庭園の五人に、その光景をゆっくり愛でている時間は無い。
「ふん、星の雨で自身の縄張りを主張しているつもりか。足元のモノを傷付けたらどうするつもりだ、愚か者め」
戦闘の向き不向きはあれど、人理を護る為に皆ここに喚ばれたのだ。
英雄もいれば、英雄とは到底呼べない者もいる。それでも今この時、逃げるわけにはいくまいと、五人はそれぞれに立ち上がる。
「音楽魔術でどこまでゆけるかじゃの。敵の姿さえ見えればマッハ3で蹴散らすのだがのぅ」
「まぁ吾輩程の大英雄が本気を出せば、流れ星程度ちょちょいのちょいですがな! 今回は些か手加減してやりましょうかな!」
「できることは少ないですけど、せめて皆さんのサポートができるよう、頑張ります」
「主の元に喚ばれておきながら、万全で戦う事が出来ないとは…だがこの弓にかけて諦めるわけにはいかない!」
「星よ、月よ、我が帝国を見よ、我が世界樹を見よ。如何なる悪意にも、燃やせぬ意志がある事を知る時だ」
五人のサーヴァントが庭園を後にする。
奇しくもその時、同時刻、別の場所では謎の炎塊が苛烈なる攻撃を始めていた。
この聖杯なんだけれど、カルデアが気付けなかった要因は3つある。
1つ、あまりに近代過ぎた事。
この人理定礎は確かに重要なポイントなんだけれど、2015年時点では、他の特異点と比べるとそうでもない。
けれどより未来、2050年とか2100年になってくると話が違う。
現在というよりは、未来に対して大きな影響を与え得る特異点だったんだ。
2つ、他の特異点による人理の異常に、完全にカモフラージュされていた事。
これは早期解決を果たしたサーヴァント達のファインプレーなんだけれどね。
より大事な人理定礎が崩されているうちに、この特異点は修復された。
1つめの要因もあって、カルデアの観測の目もそちらを向いていたのだろうね。
そして一番重要な3つめ。
これはカルデアのシステム上の問題なんだけれど…疑似天体、カルデアスは分かるかい。
見た目大きな地球儀なんだけれど、このカルデアスと近未来観測レンズ・シバによってカルデアは各時代の異常を発見してきた。
でもこのカルデアとシバにもいわゆる死角があったんだ。
地球上どんな場所でも観測できるカルデアスとシバだけれど、人類の活動範囲は今やそれに留まらない。
そう、その特異点は、宇宙(ソラ)にあったんだ。
「ふふふ、円盤、月面戦車、更にはサイボーグ部隊、どれをとってもかつての第三帝国とは比べ物にならぬ戦力だ。武器英霊はどうしている?」
「サイボーグ兵士の体を与えた後は大人しくしていますよ。きっと今度の侵攻作戦では大きな成果を出してくれるでしょう」
「うむ、ではまず手始めに…あの、何だ。月の表に出現したラブホテルじみた建物? アレを攻略する」
「ええ、あそこには数名の英霊が確認されています。引き入れるにしろ潰すにしろ、対処は早い方が宜しいかと。魔王殿も隕石遊撃部隊から呼び戻しましょう」
「聖杯探索はその後、か。もどかしいが仕方あるまい。よし、今すぐ全兵を集めよ!」
「またそう急に無茶を言う。流石に少し時間は貰いますが、ついに、ですか」
「うむ、今ここ月面にて、第三帝国復活の時である!!」
さて、一つの聖杯を巡る話をしよう。
魔術王による人理焼却は知っているかい?
人類をより長く、より確かに、より強く繁栄させる為の理――人類の航海図。
それが魔術世界で言われる『人理』だ。
かの魔術王は聖杯を用いてこの人理を破壊した。
方法は単純、人類史上のターニングポイントに聖杯を送り込んで、人理の定礎を破壊したんだ。
万能の願望器なんてあれば、いとも容易く混乱は起こる。
そしてその人理を修復する為に奮闘しているのが、人理継続保障機関・カルデアだ。
彼らは数々の技術をを用いて人理の異常点、『特異点』を探索、聖杯を回収することで人理を修復していった。
え、よく知ってるって?
じゃぁ話が早い。
今回の話はこの人理焼却・人理修復に関わる話だ。
『特異点』の聖杯? いいや、違う。
これは誰にも知られない『特異点』修復の話さ。
奇妙な光景ではあった。
状況的には全くの無音、なのに、視界全てを埋め尽くす炎が猛烈な勢いで迫ってくる。
奇妙な事もあるものだ、と二人の騎士は同時に嘆き。
次の瞬間、爆炎がものの見事に十字に斬り裂かれた。
剣二振り、二人の騎士によって振るわれた剣は、見事な十文字の軌跡を爆炎に刻み打ち払う。
『しっかし英霊になったとはいえ、こんな場所で戦う事があるとはなぁ』
『同感だ。■に行ったのは私では無く、友人の方なのだがな』
会話を交わす二人の騎士、その容姿は些細な違いはあれど、驚くほどによく似ていた。
そして何よりも、その手に握られた剣。
宝剣とも言うべき装飾が施されたその剣は、その二本ともが、全く同じ形をしている。
『悪いですけれど二人とも。無駄話してる暇はありません』
二人の騎士の後方から、新たな声が掛かる。
姿こそ直接は見せないものの、その声は少年とも少女とも判断のつかない、中性的な声だ。
そして続く四人目の声、こちらは中年の男の声。
『時間も魔力も有限なんだ、とっとと仕留めるか逃げるかするぞ!』
『今戦えているのだって、私の宝具でサポートしているからなのですから』
言われ、二人の騎士はお互いの顔を見合わせた後、正面を見る。
正面に浮かぶは巨大な炎塊。
意思があるのかどうかすら判断がつかないソレは、自身を陽炎のようにくゆらせながらその場から動こうとはしない。
ただ思い出したように先程のような炎を放つのみである。
『…敵なのは間違いないのか、裁定者よ』
一人の騎士が後方に問い掛ける。
それに、中性的な声が応えた。
『間違いありません。少し特殊な条件で召喚されたからなのか、まだ本調子では無いようですが、ソレは大敵。倒さねばならないモノです』
『騎士としては不意打ちのような真似は避けたいのだが。どう思う、私』
この二人の騎士、見た目は良く似ているがどうにもその性格には違いがあるらしい。
落ち着いた物腰の一人に比べて、もう一人は些か粗暴な印象を受ける。
『んー、人類と自身のプライド比べりゃ選択は決まってるっつうか…』
『それはそうなのだが…!?』
その瞬間だった。
一方の騎士が呆れからか警戒を解いたその一瞬、炎塊が一際大きく身震いした。
とたん、再び勢いよく爆炎が周囲に放たれる。
『この程度!』
『なんだ、まるで見計らったみてぇに…ヤバい! 狙いは俺たちじゃねえぞコレ!』
二人の騎士は難なく爆炎をかわし、斬り裂く。
しかし爆炎、いや、もはや火球となった攻撃はそれが全てではなかった。
騎士の横をすり抜けた火球は勢いを弱めることなく突き進む。
目標は騎士の遥か後方、声の主、裁定者。
『ああやっぱりこうなるか! 急発進だ!何かに掴まってろ!』
『え、きゃぁぁぁぁ!!』
光の線を描いて火球が飛ぶその先。
その先で光が輝いたかと思うと、流星のように何かが一条、空を切り裂き飛び出した。
『ま、待って下さい、あんまり離れ過ぎるとセイバーさん達が』
『分かってる! 回収はするが今は回避に専念だ!』
二個、三個と連続して火球が飛び、虚空に爆炎が上がる。
しかし裁定者を乗せた何かは、爆炎の余波を受けながらも決して直撃を受ける事無く、虚空を飛び続ける。
『こんなところで墜ちてたまるかぁ! 俺の、人類の夢は墜とさせねぇぇぇ!』
一方の騎士たちも窮地に立たされていた。
遠距離に火球が放たれると言う事は、近距離ではより強力な爆炎、火球に襲われるということでもある。
謎の炎塊は先程までの静寂はどこへやら、今や明確な敵意を持って近くへ、遠くへと炎を放ち続ける。
『あぁ成程こりゃぁ敵だ、間違いなく敵だな、俺』
『そうだな私、後ろの二人には申し訳ないが、これで思う存分剣を振るえるというもの』
二人の騎士は、全く同じ剣をそれぞれ構えた。
輝く剣は不毀にして不滅の宝剣。
魔力が剣に集い、戦闘準備万端というところで騎士は高らかに告げる。
『『よし、脱ぐぞ!』』
『脱ぐんじゃねぇぇぇぇ! 乗せねぇぞお前らぁぁぁぁ!』
この聖杯が魔術王によってもたらされたかどうかは分からない。
けれど確かな事は、この聖杯が人理定礎を破壊していて、尚且つカルデアにも発見されてなかったという事だ。
じゃぁ今もその人理定礎が破壊されたままかといえば、そうでもない。
既に聖杯は破壊され、人理は修復済みだ。
その時代に、聖杯によって召喚されたサーヴァントの皆が頑張ってくれたからね。
でもそれは決して楽な戦いじゃあなかった。
何せまず前提条件、戦闘環境からしてイレギュラーだらけだったんだから。
「ささ、酒はまだあるぞ〜」
「おお! これはこれは姫君直々のお酌とは、ありがたくお受けしますぞ〜」
男が手にした杯に、透き通った酒が並々と注がれる。
既に赤ら顔になっている男は、締まりのない笑みを浮かべるとそれを一息で飲み干した。
「いやー、日本の酒は初めて口にしましたが、この美味い事美味い事。美人もいるし酒もある、正に天国ですな〜」
「うふふ、男爵殿もよき飲みっぷり。もう一杯ゆくか?」
桜舞散る広い庭園の一角。そこに四人の男女の姿があった。
その装いは多種多様で、年齢、人種すら一致していない。しかしこの四人には一つだけ共通点がある。
この時代に召喚された、サーヴァントだという事だ。
「あの…こんな事していてもいいのでしょうか?」
四人のうちの一人、一番幼く見える少女が恐る恐るといった様子で口を開く。
「今この時代、この場所は人理焼却の特異点で、私たちはそれを防ぐために召喚された…んですよね?」
薄い肌の色と白髪から、どこか儚げな印象を受ける少女である。
身に纏う服は青色を基調に統一されており、少々レースが多いが現代の服に近く見える。
そんな少女の言葉を受け、別の一人が言葉を返した。
「良い、王である私が許そう」
言葉を返したのは身長2mはあろうかという大男だ。
「確かに我らの目的は人理修復だ。しかし闇雲に戦えば良いというわけでもない。必要な時に戦い、不要な時は休む。それも大事なのだ」
野太い、しかし落ち着いた優しい声だった。
ゆっくりと、言い聞かせるように少女に語るその声は、どこか焦りを感じていた少女の心を落ち着かせていく。
「…すみません。こういうのは、私の得意分野の筈なのに」
「良い。戦いに慣れておらぬのだろう。慣れぬ状況で焦るのは仕方のない事だ」
言って、大男は杯を口に運ぶ。
少女もコップに注がれたジュースを一口飲んだ。
「それにな、現状の戦力では防衛はできても反撃はできぬ。故に我らはこうして待っているのだ」
「待っている、ですか?」
「そう。私をこの戦場に喚んだ、我が胸の秘石が告げた未来を、仲間を待っている」
大男の胸の辺りがが、青白く光る。
それは只の光ではあったが、どこか不思議と冷徹さ、そして知性を感じさせる光でもあった。
「ん〜夢見、未来視というやつですかな王よ」
「ほぅ雅な。これが王様の宝具かえ?」
ふと気づけば、先程まで二人で騒いでいた男女も大男の近くへと寄って来ていた。
男の方は燕尾服を、女の方は豪勢な和服を身につけている。
「男爵よ、未来視くらいならばおぬしも使えるのではないか?」
「え!? 吾輩ですか? いやーどうでしょう、まぁ無理すればできなくもない、と言いますかせいぜい数秒先までといいますか…」
落ち着いた雰囲気はそのままで、些かからかうような口調で大男が燕尾服の男に告げる。
燕尾服の男はバツが悪そうに明後日の方向に顔を向け、言葉を濁した。
と、その時である。
「敵襲だ! 上空より! 恐らく隕石!」
庭園に凛とした声が響く。それとほぼ同時に、庭園に新たな人影が姿を現した。
声からして恐らく女性である事は分かるが、その風貌は異様であった。
手足、胴体はおろか顔すらも、その肌の一切を見せず、覆面や包帯でその身を覆っている。
「御苦労、弓兵。円盤は無しか」
「今のところ見えない。恐らく奴らも隕石の対処に追われているのだろう」
ならば、と言って王は立ち上がる。
同時に庭園が大きく揺れた。覆面の人物が告げたとおり、敵襲が始まったのだろう。
桜の木々が揺れ、花弁がさらさらと雨のように舞い落ちる
しかし庭園の五人に、その光景をゆっくり愛でている時間は無い。
「ふん、星の雨で自身の縄張りを主張しているつもりか。足元のモノを傷付けたらどうするつもりだ、愚か者め」
戦闘の向き不向きはあれど、人理を護る為に皆ここに喚ばれたのだ。
英雄もいれば、英雄とは到底呼べない者もいる。それでも今この時、逃げるわけにはいくまいと、五人はそれぞれに立ち上がる。
「音楽魔術でどこまでゆけるかじゃの。敵の姿さえ見えればマッハ3で蹴散らすのだがのぅ」
「まぁ吾輩程の大英雄が本気を出せば、流れ星程度ちょちょいのちょいですがな! 今回は些か手加減してやりましょうかな!」
「できることは少ないですけど、せめて皆さんのサポートができるよう、頑張ります」
「主の元に喚ばれておきながら、万全で戦う事が出来ないとは…だがこの弓にかけて諦めるわけにはいかない!」
「星よ、月よ、我が帝国を見よ、我が世界樹を見よ。如何なる悪意にも、燃やせぬ意志がある事を知る時だ」
五人のサーヴァントが庭園を後にする。
奇しくもその時、同時刻、別の場所では謎の炎塊が苛烈なる攻撃を始めていた。
この聖杯なんだけれど、カルデアが気付けなかった要因は3つある。
1つ、あまりに近代過ぎた事。
この人理定礎は確かに重要なポイントなんだけれど、2015年時点では、他の特異点と比べるとそうでもない。
けれどより未来、2050年とか2100年になってくると話が違う。
現在というよりは、未来に対して大きな影響を与え得る特異点だったんだ。
2つ、他の特異点による人理の異常に、完全にカモフラージュされていた事。
これは早期解決を果たしたサーヴァント達のファインプレーなんだけれどね。
より大事な人理定礎が崩されているうちに、この特異点は修復された。
1つめの要因もあって、カルデアの観測の目もそちらを向いていたのだろうね。
そして一番重要な3つめ。
これはカルデアのシステム上の問題なんだけれど…疑似天体、カルデアスは分かるかい。
見た目大きな地球儀なんだけれど、このカルデアスと近未来観測レンズ・シバによってカルデアは各時代の異常を発見してきた。
でもこのカルデアとシバにもいわゆる死角があったんだ。
地球上どんな場所でも観測できるカルデアスとシバだけれど、人類の活動範囲は今やそれに留まらない。
そう、その特異点は、宇宙(ソラ)にあったんだ。
「ふふふ、円盤、月面戦車、更にはサイボーグ部隊、どれをとってもかつての第三帝国とは比べ物にならぬ戦力だ。武器英霊はどうしている?」
「サイボーグ兵士の体を与えた後は大人しくしていますよ。きっと今度の侵攻作戦では大きな成果を出してくれるでしょう」
「うむ、ではまず手始めに…あの、何だ。月の表に出現したラブホテルじみた建物? アレを攻略する」
「ええ、あそこには数名の英霊が確認されています。引き入れるにしろ潰すにしろ、対処は早い方が宜しいかと。魔王殿も隕石遊撃部隊から呼び戻しましょう」
「聖杯探索はその後、か。もどかしいが仕方あるまい。よし、今すぐ全兵を集めよ!」
「またそう急に無茶を言う。流石に少し時間は貰いますが、ついに、ですか」
「うむ、今ここ月面にて、第三帝国復活の時である!!」
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