ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。







「なぁ、"エントロピー"って……なんだ?」
「────はぁ?」

喪失帯、エノキアン・アエティール。
その中で最も発展している集落、『学園都市』の大通りを2人の学生が歩く。
片割れが突如として疑問符を上げる姿に、もう一人の学生が首を傾げた。

「知らんが……なんだそれ」
「俺も知らねぇよ。突然なんか振ってきた」
「あー……それもしかして投射じゃね?」
「なんだっけそれ」
「授業寝てたのかよお前」

呆れかえりながら、学生の片割れが『投射』という語彙について説明を始めた。
面倒そうに頭を掻き、なんといえばいいかと悩ませながらも説明するところを見るに、責任感は高いのかもしれない。

「この世界ってさ、始まりがあるだろ?」
「うん。良く分かんねぇけど、なんか根源とかそう言うのだろ」
「そこから概念が流れ出続けてるんだってさこの世界には。それを俺たちが受信すると、そういう風に分かんねぇ単語が突如浮かぶ。
 それは俺たちの魂が無意識のうちにアストラル体として投射され根源に近づくから……って聞いてたろ!?」
「いつだったっけそれ……。やべぇわマジで覚えてねぇ」
「リジェ先生のトッキューホームルームでやってたろ……基礎だぞ?」
「あれ進級に関係ねぇ話だろ!? 聞いてるお前の方が驚きだわ」
「んなこと言ってると常識知らずとしてお前上いけねぇぞ。
 知ってるか? 上級生のデニールさん、死刑宣告喰らったとか」
「うっわ怖ぁ。……勉強しよ」

そんな取り留めもない会話をしながら、笑い合って大通りを往く学生たち。
そんな中、ふと頭の中に浮かんだ疑問を彼らの内のどちらかは分からないが、確かに言葉として口に出したものがいた。

「待てよ? んじゃあさ、この"エントロピー"って単語はどうすんだ? なんか知ってるとすげぇのか?」
「それを調べるんだよ。誰も知らないけど、世界の始まり……根源から流れてきたって事は、確かに存在する言葉なんだ。
 それが何を表すのか、どういう概念なのか理解できれば、その言霊との契約も召喚獣も言霊具も、全部利益独占できるんだぞ」
「すげぇじゃん! ……あれ? 言霊の力ってその言葉が受ける信仰由来だろ? 俺だけ知ってても意味ないんじゃねぇの?」
「そりゃあ、あれだよ。名前が決まって無くても無意識にそれに対して誰かがなんか信仰持ってたら、それが力になるんだろ?」
「………………。………………? ??????」
「俺が悪かった。俺がお前の脳細胞に合わせた言い方が出来なかったのが悪い」
「お前俺のこと馬鹿にしてんだろ?」
「リジェ先生の授業忘れる馬鹿だからな」
「おめぇなぁ〜……!」

ギリギリとふざけた様子で首を絞める友人に、ため息をつく学生。
そのまま遊び半分であしらい、とりあえずと前置きして彼が先ほど言った"リジェ先生"とやらからの受け折りをそのまま話す。

「例えば……そうだな。"熱いお湯が気づいたら温くなってる"って概念があるとするだろ?
 あとはまぁ…他にも"気づいたら氷が解けてる"とか、"どれだけ焚火を焚いても温まらない"とか」
「うん」
「それ全部"温度が逃げていくから"じゃん? もしその温度が逃げるっていう概念に名前が付けば、
 たとえその名前を知らなくても『うわ〜気づいたらお湯温くなってるわぁ…』って嫌な気分(=信仰)が溜まるんだよ」
「んじゃ俺がもし、その"温度の変化"がエントロピーって言霊ですよって定義づければ、俺温度の変化の力独占できるの?」
「多分」
「無敵じゃん」
「じゃあお前温度の変化をいつどういう状況でどうなったらこれぐらい起こるとか説明できるのかよ」
「無理」
「だよな」

2人の学生が同時に頷いた。
それを理解できるとしても自分たちには早すぎると。
互いに馬鹿だ阿呆だと普段から罵り合うからこそ分かる。『自分たちに理解できる内容ではない』と。
なので彼らはそのまま、自分たちのような学生の身分が「投射」を起こしても意味がないと、言葉ではなく心で理解できたのだ。

「けどよぉ、そう言うの理解できる奴ってどれくらいいるんだろうな?」
「投射自体はまぁよく起こることらしいけど……理解できる人何かそれこそ一握りだろ」
「大学とかその辺の研究機関で複数で研究するのかね。『今日投射でほにゃららって言葉受け取ったんだけど』とか?」
「フランク過ぎんだろ……。ただまぁ、複数人で研究しねぇと分からねぇよなぁ……」
「個人で分かる人いるのかね? 分かったらマジで独占ものじゃん」
「そりゃあ…………」

「そういうのを、特級って言うんじゃあねぇの?」





「特級がどういう連中か教えてほしい?」

そう笑いながら、黒服のスーツを纏った男に問い返す男がいた。
名をリジェ・セル。学園都市でも数少ない『一級召喚術師』に属する人間。
見るからに軽薄そうにニタニタとした笑みを続けながらリジェは続ける。
確かに表情こそは微笑みに固定されていたが、目は笑っていなかった。

「それ君、俺がここ10年一級から上行けてないの知ってて聞いてる?」
「いや一級の中でも指折り数える昇進スピードでしょリジェさん!? 別に嫌味でも何でもなく知識として知りたいんですよ!」
「あ、っそーぉ? んじゃまぁ別に答えないこともないけど」

目を細め、口を尖らせながらリジェは頷く。
そうして自分の中にある"特級"という存在に対する認識をいくつか纏め上げ、そしてそれに対する評価を淡々と言葉として紡ぎ出した。

「これから俺が君に対して話す内容は、
 あくまで俺個人として────という前置きが付くことをご承知願いたい」
「分かりました。公式見解ではなく、あくまでリジェさんの思う"特級"への認識である、と」
「その通り。だからまぁ誤解を恐れずに言うと…………連中はさ、人外なんだよ」
「化け……もの?」

ひらひらと、まるで宙に舞う紙切れのように軽薄にリジェは言葉を吐いた。
いつものような冗談か、あるいは────そう思ってスーツの男はリジェを見る。
だがリジェのその眼は笑っていなかった。まるでいくつもの絶望を味わった過去を振り返るとでもいうかのように、
その眼は真剣そのものと言っていい程に真っ直ぐな眼差しであった。

「ディノモス=クィブラルバルド。知ってる?」
「学園都市のデータバンクで、何度も名前が出てきましたので、多少は…………」
「あれはさ、常人に理解できない"狂気"を理解したから特級になったんだよ。ま、今はどっか行っちまってるけど。
 他の例だとアノニマスさんかね。彼の場合は執念で"魂"というものを理解して特級に上り詰めた。……この共通点、分かる?」
「は? えーっと……。仰る意味が…………」
「"狂気"と"魂"。ま、共通点上げろっていう方が難しいか。
 要はさ、こいつら全部方向性がいくつもあるんだよ。狂気っつってもアホほど解釈あるでしょ?
 魂だってそうさ。死んだら天国行くの? それとも輪廻転生するの? はたまた亡霊になるの?
 分かったもんじゃない。でも連中はそれを理解して、そして自分の力として支配下に置いている。
 これはまごう事なき特級の事象だ。何せ『通常理解できないものを理解している』んだから」

どこか羨ましがるように、あるいは子供が夢想を大人に語りかけるような口調でリジェは言葉をつづった。
特級とは文字通り「特別である」と。通常理解できない、理解してはいけないものを理解するからこその特級なのだ、と。
曰く一級と特級の狭間にある境界は、2級と1級の間にある壁と比べて遥かに高く、遥かに遠いのだという。理解できない言葉を理解しようとする覚悟。
そして実際に理解する精神。なによりもそれらの言霊を使役し、己の力として使い切る"意志"。これらは天に選ばれた才能であるのだと。
だがしかし────、と。そう付け加えてリジェは言葉を続けた。

「才能がない滓でも特級になれる方法がある」
「あるんですか!? ……ろくでもない事な気はしますが」
「すーるどいねぇ君ぃ。ま、簡単な方法なら誰だって特級になれちゃうしね。
 けどね、やるのは簡単なんだよ。……やるのは、ね」

そう言いながらリジェは自分の背後を指さした。
彼は現在、学園都市中枢部にある施設の廊下の壁に寄りかかりながら会話をしている。
彼の背後には地図があった。学園都市、ひいてはその周囲に存在する様々な地理的な特徴をまとめた地図である。
多種多様な文化を保持する集落や、既に滅び去った廃墟、他にも意図不明な文明の後などが様々に描かれている。
それらの中心部────。一般的に虚孔と呼ばれる部分を親指で指しながら、リジェは続けた。

「虚孔(アレ)に触れる。それだけで特級になれる。────なるだけ、ならな」
「すみませんが……意図が掴めません。何故虚孔に触れることが、特級になるという意味を……」
「君はさァ、投射って知ってる?」
「え? あ、はい。新しい言霊を直感で悟るという……」
「あれさ。最新の学園都市の見解によると、どうも虚孔から流れ出てるっぽいんだよ。
 嘘じゃないよ。虚孔に近ければ近い程、投射を受け取る人間の数と頻度が多いからね」
「────っ、それ……は。つまり」
「ここまで言えば分かるか。そうだよ。虚孔に直接触れれば、投射で湧き上がる概念を全て理解できる。
 ………………つまり、誰も知らない言霊を扱いきれる。まさしく"特別な存在"になれるんだよ」

クキリ、と首を鳴らしながらリジェは大きく伸びをする。
そしてそのまま大きくため息をついたかと思えば、いつものようなへらへらとした態度に戻って話を続け始めた。

「ま、俺の知ってる限りこの成功例は3人しかいないけどね」
「3人……。先ほどのリジェさんの話を見るに、失敗したらそれ相応の結末が待っているのでしょう」
「そだよ。分かってるじゃん。まぁその3人も色々と酷いことになってるっぽいけど。生きてればいい事あるっしょ、多分」
「………………ん? あれ? 少し……待ってください」

スーツの男が思考を巡らせる。
虚孔へと触れる事で特級に至る好機を得ることができる。しかし失敗すれば凄惨たる結末に至る。
その事実を念頭に置いたうえで彼は思考をつづけた。そして1つの可能性へと辿り着く。
その可能性に対してスーツ姿の男は、わなわなと唇を小刻みに震わせ始めた。

「────────分かっちゃった?」
「ここ数年……正確には、学園都市が銀の星と戦争を行って以降……、毎年虚孔への調査で行方不明者が出ています。
 任務中における銀の星との衝突であると報告書にはありましたが……、まさか、あれは……?」
「ついでに言うと、行方不明者に比例して学園都市の言霊研究の質は上がってきている。
 虚孔に触れた人たち、表向きは死亡って扱いになってるけどさぁ。"本当に死ねているのかな"?」
「…………すぐに上層部に……」
「言ってどうなるの?」

スーツの男性が走りだそうとするのを、リジェが肩を掴んで止めた。
離してくださいと叫ぶ彼に対し、リジェはゆっくりと諭すように言葉を紡ぐ。
蒼く輝く2つの眼が、まるで優しく灯るランプのように男の心を落ち着かせる。

「上層部に報告したところでどうなる? どうせ連中、これ全部知ってるんだから。
 君もここ入って3年なら分かってんだろ? 上層部の利権、保身、地位、金の為なら何だってする滓共だって」
「………………それ、は……」
「言葉を濁さなくて大丈夫。"アイツ"の名前を出さない限りは聞かれないし。
 ……ともかく、君がそういう反応をしてくれる一般人で安心したよ」

そう言いながら、リジェは1つの写真を懐から取り出した。
彼が人差し指と中指で挟むようにして持っているその写真には、1人の少女が映っていた。
だが通常の写真ではない。手足は拘束され、気を失っている。明らかに剣呑とした状況下で撮影された代物であった。

「これ、は────?」
「ヴィクティ・トランスロード……って言ったかな。さっきも話した"特級"、クリスティアさんちの養子ちゃんだ。
 どーも彼女も特級レベルの何かを持ってしまったらしい。だから上層部は至急に調べろと駄々こねてるらしいんだ」
「とすると……彼女も、虚孔に触れて……!?」
「いーや。彼女は虚孔に触れたどころか学園都市からの外出履歴も無い。
 正真正銘の『有り得ざる可能性(イレギュラー)』。学園都市の老害共も正直戦々恐々なんだろーさ」
「………………なる、ほど」
「さ、て」

そこまで言うと、リジェは飛び跳ねるように廊下の真ん中に立った。
そして両の腕を拡げると、ニィと快活に笑ってスーツ姿の男へ問いかける。

「ここまで聞いて、君はこの少女をどうするべきだと思う?
 憐れな囚われし姫君に対して、魔王城の一員たる俺たちは、一体どうするべきだと思う!?」
「………………」
「ま、今は答えなくてもいいよ。動けないって言うのもわかってはいるから」

そう笑いながら、軽薄に男の肩を叩いてリジェは歩みだす。

「……救えるのですか?」
「当然。俺誰だと思ってるの? "焦土"のリジェよ?」
「その二つ名、10年前に捨てたんじゃありませんでしたか?」
「学園都市が敵に回るんなら、あの日の俺に戻るのもやぶさかじゃねぇってこったよ」

そう笑いながら、男は指を鳴らしつつ廊下の暗闇へとその歩を進めていった。

「さぁって、カワイ子ちゃんを救う王子様の凱旋と行こうかぁ」

その歩む先には、"契約者"としての容疑がかかった少女、ヴィクティ・トランスロードを拘束している収容室があった。

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