━━これは、終わった世界で生き抜いた者達のその後の話し。
幸福だったか不幸であったか、その一生は彼らにしか分らない。
この手で出来る事はただ一つ、終わりを与えることで彼らに己の人生の値札を付けさせてやることだけだ。
幸福だったか不幸であったか、その一生は彼らにしか分らない。
この手で出来る事はただ一つ、終わりを与えることで彼らに己の人生の値札を付けさせてやることだけだ。
20--年./月.%日
春先の暖かな陽気が孤児院の窓から差し込み、室内を光りと暖かな空気で満たす。
自分以外は誰も居ないその場所で、その大柄な女は椅子に腰掛けピクリとも動かない。
つい数時間前に、その女は孤児院に最後までいた孤児を里親へ引き渡し、見送ったところだった。
「………。」
女の人生は、血に塗れていた。
過去の闇の中で数多の人間を手に掛けてきた。
そうする内に、女自身が闇となり、恐ろしくなり、逃げ出したのだ。
その果てに行き着いたのが此処だった。
まるで己の犯した罪を禊ぐように、酬われぬ子供達をこの手で育ててきた。
「………。」
そうして、数十年が経ち、気づけばもう己の身体は限界を迎えていた。
自分は天国に行けるのだろうか。
否、自分は地獄に行くのだろう。
それは恐ろしくはない、ただ一つ気がかりなのは
地獄からでも、自分が育てた子供達を見守ることは……出来るのだろうか。
そう思う、自分勝手な愚かな自分を……。
「まったく……度し難いねぇ…。」
そう呟くと、彼女の身体はだらりと椅子から崩れ落ちたのだった。
春先の暖かな陽気が孤児院の窓から差し込み、室内を光りと暖かな空気で満たす。
自分以外は誰も居ないその場所で、その大柄な女は椅子に腰掛けピクリとも動かない。
つい数時間前に、その女は孤児院に最後までいた孤児を里親へ引き渡し、見送ったところだった。
「………。」
女の人生は、血に塗れていた。
過去の闇の中で数多の人間を手に掛けてきた。
そうする内に、女自身が闇となり、恐ろしくなり、逃げ出したのだ。
その果てに行き着いたのが此処だった。
まるで己の犯した罪を禊ぐように、酬われぬ子供達をこの手で育ててきた。
「………。」
そうして、数十年が経ち、気づけばもう己の身体は限界を迎えていた。
自分は天国に行けるのだろうか。
否、自分は地獄に行くのだろう。
それは恐ろしくはない、ただ一つ気がかりなのは
地獄からでも、自分が育てた子供達を見守ることは……出来るのだろうか。
そう思う、自分勝手な愚かな自分を……。
「まったく……度し難いねぇ…。」
そう呟くと、彼女の身体はだらりと椅子から崩れ落ちたのだった。
「ふむ、この資料は一考する余地があるな。」
自身の教え子が研究し、持ち込んだ資料を片手に桜の木が立ち並ぶ通りを歩く。
とても興味深い内容であったが、やはり歩きながら読むというのは危ないものだ。
男は気づくと向かいから歩いてくる女性とぶつかり、手に持っていた資料を地面に落としてしまう。
「おっと、すまない。よそ見をしていた。」
男は屈み、地面に落ちた資料を集めながら、ぶつかった女性に謝罪をする。
"━━いえ、私もよそ見をしていたものですから"
女性は言葉を返すと、男と同様に屈み
地面に落ちた資料を拾いはじめる。
「これはますます申し訳無い、当方の不手際で貴女の綺麗な手を地面に……。」
男は女に向き直り、改めて礼を告げようとしたその時だ。
男は、眼を奪われた。
その女性の水色に靡く髮を、見る者を吸い込む深い海のような瞳を
そしてわずかな微笑みが、男の胸を貫いた。
"━━どうか、なさいましたか?"
「……結婚しよう。」
それが、この2人の始まりの出会いであった。
自身の教え子が研究し、持ち込んだ資料を片手に桜の木が立ち並ぶ通りを歩く。
とても興味深い内容であったが、やはり歩きながら読むというのは危ないものだ。
男は気づくと向かいから歩いてくる女性とぶつかり、手に持っていた資料を地面に落としてしまう。
「おっと、すまない。よそ見をしていた。」
男は屈み、地面に落ちた資料を集めながら、ぶつかった女性に謝罪をする。
"━━いえ、私もよそ見をしていたものですから"
女性は言葉を返すと、男と同様に屈み
地面に落ちた資料を拾いはじめる。
「これはますます申し訳無い、当方の不手際で貴女の綺麗な手を地面に……。」
男は女に向き直り、改めて礼を告げようとしたその時だ。
男は、眼を奪われた。
その女性の水色に靡く髮を、見る者を吸い込む深い海のような瞳を
そしてわずかな微笑みが、男の胸を貫いた。
"━━どうか、なさいましたか?"
「……結婚しよう。」
それが、この2人の始まりの出会いであった。
横浜のとある港。
深夜の波打つ音が、周囲に響く。
「おいおい、これは何の冗談だ?」
学生服を身に纏った、黒髮の女子高生が人気のない暗がりで
複数人の黒服をまとった男達を従え、いかにもな危ない雰囲気を放つ集団を相手に、睨みを利かせている。
「アタシは確かに現金でと言ったはずだ、なぁ、言ったよな、言ったよな!山田!」
「へ、へい!言いました!」
隣にいるお付きの男を脅すように声を荒げる。
「ならこいつは気の利いた冗談ってことで一度だけ見逃してやる。」
「おら、さっさと出せ、金を」
元が短気な性格に、さらに拍車がかかっているのだろうか。
女子高生は自身が用意した荷物の上にドカリと座ると、商談相手に最後の忠告をする…が。
「へへへ、なに、何も商談を反故にするつもりじゃねぇんだよ」
「聞けば"お嬢さん"、組の人間が何人かやられたって話しじゃねえか。」
「だからよ、こいつで取引しねぇか?」
商談相手は後ろに控えていた男に、大きな木箱を用意させ中身をあけさせる。
その中には……"機関銃"がしまわれていた。
「どうだ?なかなかの代物だ、オタクの白い粉と釣り合うだけの……。」
商談相手の男が言いかけたとき、それを遮るように男の肩に"短刀"が突き刺さる。
「はぁ……言ったよな、金だってよ。」
「金の代わりにそのデカブツで我慢してくださいだぁ?」
「……もういい、"やれ"」
「……ッ!」
悲鳴が轟く、横浜の港が血に染まり、死体が積み上がる。
そして、体中に短刀が突き刺さった男が血泡を吹きながら
何かを言い足そうに、自身に未だ殺意を向ける女子高生を見上げている。
「…理由は2つだ。」
「一つ、テメェの用意した武器じゃウチのシマを荒らしたクソったれを仕留めるなんてできねぇんだよ」
「二つ、テメェはアタシを"お嬢さん"って呼びやがった。」
「あばよ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
しばらくした後、積み上がった死体を片付ける黒服の男達が
その場を去ろうとする自分達のボス…その女子高生の後ろ姿を見ながらぼやく
「最近の若頭は荒れてるな…。」
「あぁ、いくらなんでも皆殺しはな…。」
「あんなことがあったばっかりだしな……。」
「でもよ! これじゃあ御頭にバレたら…。」
部下の声は聞こえている。
でも、止まることは出来ないし、許されない。
アタシの、アタシ達の看板にドロクソを塗りたくったあのクソ野郎を殺すためには
その為には金だ、金で信用と手段だ、もっともっと強い駒が居る。
途方もないようで、いつ来るか分らないその時を考えると、ため息が出る。
「…帰るぞ。」
自分をこれまで長く支えてくれた配下は、此処に来るまでに多くを喪った。
いまは"彼女"だけが信頼できる寄る辺。
そして、彼女は夜に消えていく。
終わりのない闇の中へ━━。
深夜の波打つ音が、周囲に響く。
「おいおい、これは何の冗談だ?」
学生服を身に纏った、黒髮の女子高生が人気のない暗がりで
複数人の黒服をまとった男達を従え、いかにもな危ない雰囲気を放つ集団を相手に、睨みを利かせている。
「アタシは確かに現金でと言ったはずだ、なぁ、言ったよな、言ったよな!山田!」
「へ、へい!言いました!」
隣にいるお付きの男を脅すように声を荒げる。
「ならこいつは気の利いた冗談ってことで一度だけ見逃してやる。」
「おら、さっさと出せ、金を」
元が短気な性格に、さらに拍車がかかっているのだろうか。
女子高生は自身が用意した荷物の上にドカリと座ると、商談相手に最後の忠告をする…が。
「へへへ、なに、何も商談を反故にするつもりじゃねぇんだよ」
「聞けば"お嬢さん"、組の人間が何人かやられたって話しじゃねえか。」
「だからよ、こいつで取引しねぇか?」
商談相手は後ろに控えていた男に、大きな木箱を用意させ中身をあけさせる。
その中には……"機関銃"がしまわれていた。
「どうだ?なかなかの代物だ、オタクの白い粉と釣り合うだけの……。」
商談相手の男が言いかけたとき、それを遮るように男の肩に"短刀"が突き刺さる。
「はぁ……言ったよな、金だってよ。」
「金の代わりにそのデカブツで我慢してくださいだぁ?」
「……もういい、"やれ"」
「……ッ!」
悲鳴が轟く、横浜の港が血に染まり、死体が積み上がる。
そして、体中に短刀が突き刺さった男が血泡を吹きながら
何かを言い足そうに、自身に未だ殺意を向ける女子高生を見上げている。
「…理由は2つだ。」
「一つ、テメェの用意した武器じゃウチのシマを荒らしたクソったれを仕留めるなんてできねぇんだよ」
「二つ、テメェはアタシを"お嬢さん"って呼びやがった。」
「あばよ」
・・・・・
・・・・
・・・
・・
・
しばらくした後、積み上がった死体を片付ける黒服の男達が
その場を去ろうとする自分達のボス…その女子高生の後ろ姿を見ながらぼやく
「最近の若頭は荒れてるな…。」
「あぁ、いくらなんでも皆殺しはな…。」
「あんなことがあったばっかりだしな……。」
「でもよ! これじゃあ御頭にバレたら…。」
部下の声は聞こえている。
でも、止まることは出来ないし、許されない。
アタシの、アタシ達の看板にドロクソを塗りたくったあのクソ野郎を殺すためには
その為には金だ、金で信用と手段だ、もっともっと強い駒が居る。
途方もないようで、いつ来るか分らないその時を考えると、ため息が出る。
「…帰るぞ。」
自分をこれまで長く支えてくれた配下は、此処に来るまでに多くを喪った。
いまは"彼女"だけが信頼できる寄る辺。
そして、彼女は夜に消えていく。
終わりのない闇の中へ━━。
・・・・たわけ!俺に終わりなどない!
しかし、そうだな、節目というのはどの人間にも必要だ。
今がその節目であるというのなら、その興に付き合うのもやぶさかではない。
だがあまり期待するな。
俺はそんな仰々しいものを用意していない。
そうだな…では旅立つ前に、絵を残していこう。
それがここまで俺に世界を見せてくれた者達への礼としてな。
後日、失踪した一人の芸術家が使っていた貸家のアトリエから
1枚の描き上げられた絵が見つかった。
それは、色とりどりに塗りこんだキャンパスを黒い絵の具で塗りつぶし
ペン先を使って黒い絵の具を削り、風景を描いたものだった。
それは、この世のものとは思えないほど繊細で、美しい風景だ。
題名は「終わりにこそ光りがある」
この風景こそが、この芸術家にとっての終わりであり、始まりだったのだろうか
今となっては調べる術はない…。
しかし、そうだな、節目というのはどの人間にも必要だ。
今がその節目であるというのなら、その興に付き合うのもやぶさかではない。
だがあまり期待するな。
俺はそんな仰々しいものを用意していない。
そうだな…では旅立つ前に、絵を残していこう。
それがここまで俺に世界を見せてくれた者達への礼としてな。
後日、失踪した一人の芸術家が使っていた貸家のアトリエから
1枚の描き上げられた絵が見つかった。
それは、色とりどりに塗りこんだキャンパスを黒い絵の具で塗りつぶし
ペン先を使って黒い絵の具を削り、風景を描いたものだった。
それは、この世のものとは思えないほど繊細で、美しい風景だ。
題名は「終わりにこそ光りがある」
この風景こそが、この芸術家にとっての終わりであり、始まりだったのだろうか
今となっては調べる術はない…。
━━あぁ、油断した。
今、私はどうなっている?
仰向けで空を見上げている
視線を左に向ければ、腕は千切れ遙か彼方に飛んでいた。
視線を右に向ければ、良かった、腕はちゃんと太刀を握って其処にある。
視線を下に向ければ、うーん良くない、足はあるがねじれて可笑しな方向を向いている、良くない、良くなみ。
「………儚いものだな。」
自分の惨状に、自分は驚くほどに冷静だった。
現れた異界に、いつものように意気揚々と乗り込み
シャドウと戦い、あと一歩の所でまさか。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!死なないで!」
こんな子供が、いるなんて。
ツイてないぞ私、ついてない。
しかもその子供を庇ってこんな取り返しの付かないことになるなんて。
やっちまったぜ。
「……安心しろ、あともう少しで死ぬがまだ生きてる。」
シャドウが今が好機と言わんばかりにこちらに近づいてくる。
ちょっとまて、今良いところなんだからちょっと待て、ラストなんだぞ。
「お、お姉ちゃん…私のせいで…。」
良い反応だ少女よ、死にいく者に罪の意識を抱くのは良いことだぞ。
「気にするな、それよりも行け、逃げろ。」
嬉しいリアクションをしてくれる少女だ、きっと将来は良い芸人になる。
その将来を守るためにも、安らかに眠ってたいところだが
やはり、最後の最期まで苦しんで血反吐を吐きながら暴れてやろう。
「で、でも…。」
いいぞいいぞ、もっと盛り上げてくれ。
「……行け!!!」
「ッ!……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
あ……本当に行っちゃった…あともう2〜3回くらいこのくだりしたかったのに…。
「……さて、静かになったな。」
落ち着け私、とりあえず立ち上がって…よっこらしょ。
残った右腕で太刀を握りしめる。
「私の最後の大舞台だ、大立ち回りの大往生をさせてもらおうか。」
よし、決まった。
…にしても。
「お前の言うとおりになったな。」
「刀もいつか折れる…か、ふ、本当にその通りだ。」
「こんな折れ方は予想外だったが、これはこれで良いものだ。」
「さて……では一足先にあの世で待つとしよう。」
「私は刀、故にただ━━斬るのみ。」
数時間後、その現場にペルソナ使い達が駆けつける。
其処にあったのは、異界の核となっていたシャドウの残骸と
そのシャドウに半身となりながらも、大太刀を突き立て離さない女剣士の亡骸が見つかった。
その日、その異界が現れたのは人が密集した市街であった。
だが、死者は奇跡的にただ一人だけだったという……。
今、私はどうなっている?
仰向けで空を見上げている
視線を左に向ければ、腕は千切れ遙か彼方に飛んでいた。
視線を右に向ければ、良かった、腕はちゃんと太刀を握って其処にある。
視線を下に向ければ、うーん良くない、足はあるがねじれて可笑しな方向を向いている、良くない、良くなみ。
「………儚いものだな。」
自分の惨状に、自分は驚くほどに冷静だった。
現れた異界に、いつものように意気揚々と乗り込み
シャドウと戦い、あと一歩の所でまさか。
「お姉ちゃん!お姉ちゃん!死なないで!」
こんな子供が、いるなんて。
ツイてないぞ私、ついてない。
しかもその子供を庇ってこんな取り返しの付かないことになるなんて。
やっちまったぜ。
「……安心しろ、あともう少しで死ぬがまだ生きてる。」
シャドウが今が好機と言わんばかりにこちらに近づいてくる。
ちょっとまて、今良いところなんだからちょっと待て、ラストなんだぞ。
「お、お姉ちゃん…私のせいで…。」
良い反応だ少女よ、死にいく者に罪の意識を抱くのは良いことだぞ。
「気にするな、それよりも行け、逃げろ。」
嬉しいリアクションをしてくれる少女だ、きっと将来は良い芸人になる。
その将来を守るためにも、安らかに眠ってたいところだが
やはり、最後の最期まで苦しんで血反吐を吐きながら暴れてやろう。
「で、でも…。」
いいぞいいぞ、もっと盛り上げてくれ。
「……行け!!!」
「ッ!……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」
あ……本当に行っちゃった…あともう2〜3回くらいこのくだりしたかったのに…。
「……さて、静かになったな。」
落ち着け私、とりあえず立ち上がって…よっこらしょ。
残った右腕で太刀を握りしめる。
「私の最後の大舞台だ、大立ち回りの大往生をさせてもらおうか。」
よし、決まった。
…にしても。
「お前の言うとおりになったな。」
「刀もいつか折れる…か、ふ、本当にその通りだ。」
「こんな折れ方は予想外だったが、これはこれで良いものだ。」
「さて……では一足先にあの世で待つとしよう。」
「私は刀、故にただ━━斬るのみ。」
数時間後、その現場にペルソナ使い達が駆けつける。
其処にあったのは、異界の核となっていたシャドウの残骸と
そのシャドウに半身となりながらも、大太刀を突き立て離さない女剣士の亡骸が見つかった。
その日、その異界が現れたのは人が密集した市街であった。
だが、死者は奇跡的にただ一人だけだったという……。
「はぁ……今日も、ふられてしまいました…。」
これまで私はなんど同じ失敗を繰り返してきたのだろう。
押して押して、押して駄目なら押し倒して…。
目の前の人を全力で愛しては、全力で逃げられる日々
重い……自分では理解してても、いざ目の前の人に少しでも好意を抱いてしまうともう抑えられない。
「うぅ………。」
頭上を散る桜の花のように、きっと私はこのまま散っていくのだろう。
「悲しい…悲しすぎます…。」
己の将来が一瞬だが見えてしまい、彼女は嘆いていた……前をよく見ずに。
その時だ、彼女の肩がある男とぶつかり
男が手に持っていた髮の束が地面に落ちてしまう。
"━━おっと、すまない。よそ見をしていた。"
男はそう言うと、かがみ込んで落ちた資料を集め始める。
「…い、いえ、私もよそ見をしていたものですから。」
「(なんて優しい声色の方……あぁ、きっと素敵で優しい人なのでしょう。)」
「(こんな方ともしお近づきになれたら……いえ、だめよ、そんなだから節操なしと言われるのよ)」
「(わたしはこれからずっと一人、これ以上はもう…自分を傷つけるだけ…。)」
悶々とする考えと同時に、自身も失礼を詫びるために男の落としてしまった紙を拾い上げる。
"━━これはますます申し訳無い、当方の不手際で貴女の綺麗な手を地面に"
その時、その人は言葉を止めて私の顔をまじまじと見つめている。
いったい…どうしたのだろう?
「どうか、なさいましたか?」
どこか怪我でもしたのだろうか…心配をした、次の瞬間
男は私に向かって、こう言うのだ
"━━結婚しよう。"
これが、彼との初めての会話。
私の、幸福な日々の始まり。
これまで私はなんど同じ失敗を繰り返してきたのだろう。
押して押して、押して駄目なら押し倒して…。
目の前の人を全力で愛しては、全力で逃げられる日々
重い……自分では理解してても、いざ目の前の人に少しでも好意を抱いてしまうともう抑えられない。
「うぅ………。」
頭上を散る桜の花のように、きっと私はこのまま散っていくのだろう。
「悲しい…悲しすぎます…。」
己の将来が一瞬だが見えてしまい、彼女は嘆いていた……前をよく見ずに。
その時だ、彼女の肩がある男とぶつかり
男が手に持っていた髮の束が地面に落ちてしまう。
"━━おっと、すまない。よそ見をしていた。"
男はそう言うと、かがみ込んで落ちた資料を集め始める。
「…い、いえ、私もよそ見をしていたものですから。」
「(なんて優しい声色の方……あぁ、きっと素敵で優しい人なのでしょう。)」
「(こんな方ともしお近づきになれたら……いえ、だめよ、そんなだから節操なしと言われるのよ)」
「(わたしはこれからずっと一人、これ以上はもう…自分を傷つけるだけ…。)」
悶々とする考えと同時に、自身も失礼を詫びるために男の落としてしまった紙を拾い上げる。
"━━これはますます申し訳無い、当方の不手際で貴女の綺麗な手を地面に"
その時、その人は言葉を止めて私の顔をまじまじと見つめている。
いったい…どうしたのだろう?
「どうか、なさいましたか?」
どこか怪我でもしたのだろうか…心配をした、次の瞬間
男は私に向かって、こう言うのだ
"━━結婚しよう。"
これが、彼との初めての会話。
私の、幸福な日々の始まり。
20××年.-月-日_●●支部所属カウンセラーの記録
「夢をみたんだー、えっとね
僕が赤いフードのお姉さんと、同じくらいの背の女の子と色んな場所を旅する夢!
すっごく楽しそうだった、とても幸せそうで…今の僕には、何一つないものを
夢の中の僕は、両手いっぱいに抱えてて……すごく、羨ましかったなぁ…。」
その後、怪物と恐れられた少女は姿を眩ましてしまう。
彼女の首輪には発信器が取り付けられていたが
その首輪は何者かに破壊され、ゴミ捨て場に投げ捨てられていた。
少女は連れ去られたのか、自らの意志で旅に出たのだろうか。
最後に彼女と話したカウンセラー、後の事情聴取でこう証言した。
「きっともう誰にもあの子は止められなかった……だって、あの子の目はもう…
我慢に我慢を重ねて、泣きたくても泣けなくて、叫びたくても叫べない子供の限界を迎えた眼だったから…。」
「夢をみたんだー、えっとね
僕が赤いフードのお姉さんと、同じくらいの背の女の子と色んな場所を旅する夢!
すっごく楽しそうだった、とても幸せそうで…今の僕には、何一つないものを
夢の中の僕は、両手いっぱいに抱えてて……すごく、羨ましかったなぁ…。」
その後、怪物と恐れられた少女は姿を眩ましてしまう。
彼女の首輪には発信器が取り付けられていたが
その首輪は何者かに破壊され、ゴミ捨て場に投げ捨てられていた。
少女は連れ去られたのか、自らの意志で旅に出たのだろうか。
最後に彼女と話したカウンセラー、後の事情聴取でこう証言した。
「きっともう誰にもあの子は止められなかった……だって、あの子の目はもう…
我慢に我慢を重ねて、泣きたくても泣けなくて、叫びたくても叫べない子供の限界を迎えた眼だったから…。」
みんな、居なくなってしまった。
この街に住む、彼の生み出した子は、もうアタシだけ。
アタシ達が造られた存在であることを、知っているのは
知っていたのは、結局アタシと迷い猫だけだった。
「……寂しくなんかないゾ。」
嘘だ、本当は寂しい。
捨てられたのか、どうして彼はアタシ達を使わなくなってしまったのか
いや……元よりこうなる運命だったんだ。
「マスター……。」
きっともうこの声は、彼には届かない。
届いても、もう彼はここには戻らないだろう。
だからこそ、アタシ以外の彼の子供たちは皆
各々の結末に向かって自分の足で向かいはじめたのだ。
ならば、自分はどうするべきか。
自分には、何が残されているだろうか。
「分らないゾ…。」
あぁそうだ、君は僕が造った子達の中で一番純粋で、そして
誰にも染まらなかった。
だからこそ、君にこそ探して見つけ出して欲しい。
僕が予想しなかった、僕にも分らない結末を。
この声はもう君には届かないだろう。
でも、もう会えない君にこの言葉を贈る。
僕は君を忘れない。
「……アハハ、なんか今、マスターの声が聞こえた気がしたゾ。」
「なんか、ちょっと元気が出てきたゾ。」
「よし、いっちょ腹ごしらえと行くんだゾ!」
行ってらっしゃい、愛しい我が子。
この街に住む、彼の生み出した子は、もうアタシだけ。
アタシ達が造られた存在であることを、知っているのは
知っていたのは、結局アタシと迷い猫だけだった。
「……寂しくなんかないゾ。」
嘘だ、本当は寂しい。
捨てられたのか、どうして彼はアタシ達を使わなくなってしまったのか
いや……元よりこうなる運命だったんだ。
「マスター……。」
きっともうこの声は、彼には届かない。
届いても、もう彼はここには戻らないだろう。
だからこそ、アタシ以外の彼の子供たちは皆
各々の結末に向かって自分の足で向かいはじめたのだ。
ならば、自分はどうするべきか。
自分には、何が残されているだろうか。
「分らないゾ…。」
あぁそうだ、君は僕が造った子達の中で一番純粋で、そして
誰にも染まらなかった。
だからこそ、君にこそ探して見つけ出して欲しい。
僕が予想しなかった、僕にも分らない結末を。
この声はもう君には届かないだろう。
でも、もう会えない君にこの言葉を贈る。
僕は君を忘れない。
「……アハハ、なんか今、マスターの声が聞こえた気がしたゾ。」
「なんか、ちょっと元気が出てきたゾ。」
「よし、いっちょ腹ごしらえと行くんだゾ!」
行ってらっしゃい、愛しい我が子。
━━今日も、お腹が減りました。
近頃、毎晩悪夢に襲われる少女が居た。
その少女は常に身体から血を流し、あろうことかその血で自らの欲を満たす、悪食娘であった。
いつからそのような業を繰り返していたのか分らない。
気づけば彼女は、人の形をした何かへ成り果てようとしていたのかもしれない。
だが、それを今日まで堪えられたのは彼女を支えた友が多くいたからだ。
「……えへへ。」
空腹になる腹を抑え、廃墟となった建物の中で
自らが拵えた卓上に白いクロスを引き、椅子とカトラリー、何も乗ってない皿を用意して
思い出に、浸る。
「楽しかったぁ………。」
シャドウと戦い、たくさんの人々に助けられ、助けてきた。
あるときは狂った人として
あるときは友を救う隣人として
あるときはお菓子の家に憧れる少女として
そして今は……。
食欲に全てを支配された、異端物"アートマ"として。
「みんな、みんな…。」
どれもかれも、彼女にとっては幸福すぎる夢だった。
しかし、その悪夢は必ず訪れる。
いつか自身を抑えきれなくなった彼女が、その幸福な夢を食いつぶしてしまう。
鳴る胃袋に、彼女の理性はすでに壊れていた。
ただ、あと、あと少しだけ待ってほしい。
自らの幸福を、食いつぶさぬよう出した答えは
それは
「……さぁ、はじめましょう。」
「人生最後のフルコース、メインディッシュはもちろん」
「ジョーです!」
彼女の空腹を満たすシャドウとは……彼女はもう出会えなくなっていた。
世界はもう、彼女を必要としなくなり
その役目を取り上げた。
「あぐ、んぐ、んぐ。」
彼女は食らう、自らの足を
友を救うため、奔走した足を
「うっ、あうっ、んっ。」
彼女は食らう、自らの腕を
綺麗な指だと褒められた指を
「げふ、じゅっ、ぐっ。」
彼女は食らう、自らの身体を
自分の大切な思い出を胸に、壊さぬように
そして、そして、それでも
「うっ…う…あ…」
やっぱり
「お腹…減ったなぁ…」
この胃袋は、まだ満たされないのであった。
後日、その廃墟では、真っ赤なクロスに広がった
自身の血肉を食らい、死んでいる少女の遺体が見つかった。
近頃、毎晩悪夢に襲われる少女が居た。
その少女は常に身体から血を流し、あろうことかその血で自らの欲を満たす、悪食娘であった。
いつからそのような業を繰り返していたのか分らない。
気づけば彼女は、人の形をした何かへ成り果てようとしていたのかもしれない。
だが、それを今日まで堪えられたのは彼女を支えた友が多くいたからだ。
「……えへへ。」
空腹になる腹を抑え、廃墟となった建物の中で
自らが拵えた卓上に白いクロスを引き、椅子とカトラリー、何も乗ってない皿を用意して
思い出に、浸る。
「楽しかったぁ………。」
シャドウと戦い、たくさんの人々に助けられ、助けてきた。
あるときは狂った人として
あるときは友を救う隣人として
あるときはお菓子の家に憧れる少女として
そして今は……。
食欲に全てを支配された、異端物"アートマ"として。
「みんな、みんな…。」
どれもかれも、彼女にとっては幸福すぎる夢だった。
しかし、その悪夢は必ず訪れる。
いつか自身を抑えきれなくなった彼女が、その幸福な夢を食いつぶしてしまう。
鳴る胃袋に、彼女の理性はすでに壊れていた。
ただ、あと、あと少しだけ待ってほしい。
自らの幸福を、食いつぶさぬよう出した答えは
それは
「……さぁ、はじめましょう。」
「人生最後のフルコース、メインディッシュはもちろん」
「ジョーです!」
彼女の空腹を満たすシャドウとは……彼女はもう出会えなくなっていた。
世界はもう、彼女を必要としなくなり
その役目を取り上げた。
「あぐ、んぐ、んぐ。」
彼女は食らう、自らの足を
友を救うため、奔走した足を
「うっ、あうっ、んっ。」
彼女は食らう、自らの腕を
綺麗な指だと褒められた指を
「げふ、じゅっ、ぐっ。」
彼女は食らう、自らの身体を
自分の大切な思い出を胸に、壊さぬように
そして、そして、それでも
「うっ…う…あ…」
やっぱり
「お腹…減ったなぁ…」
この胃袋は、まだ満たされないのであった。
後日、その廃墟では、真っ赤なクロスに広がった
自身の血肉を食らい、死んでいる少女の遺体が見つかった。
その日、日本中をあるニュースが駆け回った。
数年前に引退したはずのトップシンガーが突如、復帰を宣言。
新曲をいくつも発表し、またしても人々を魅了させたその声はまさに歌姫の帰還であった。
「なぜ復帰を?」
そう聞かれたとき、その歌姫はこう答えた。
「たくさんの友達が、私を暗闇から救い出してくれたんです」
「だから……彼らにまた、私の歌声を届けたいんです。」
それは、彼女にエールを送り続けたファンへ向けたメッセージと報道された。
だが
その歌姫が、活動を休止すると発表した。
突然の発表に世間はざわついた、あれだけ活き活きに歌を歌っていた彼女が
全国ライブツアーの最後に、そう言ったのだ。
しかし、彼女はこうも言った。
「みんな、これが決して終わりじゃない。」
「私は、ただ…さがしものを見つけにいくだけ。」
「私にこの夢を、唄を歌う楽しさを教えてくれた人を、探しにいくんだ。」
「その人は私みたいに歌がうまくて、でも私とはまったく違う歌い方で」
「強いふりして一人でなんでもかんでも抱え込んで…その人は姿を消してしまった。」
「だからみんな、少しだけ待ってて欲しい。」
「必ず私は、その人を見つけてここに帰ってくる。」
「ほんの少しのお別れだけど、次のライブを、楽しみにしててね!」
あまりにも唐突、だが歌姫の真摯な言葉に
会場の客はその言葉を信じ、声援を送り歌姫を見送ったという。
そして、何もかもが終わった後の舞台裏で
歌姫はさっそく、荷造りの準備をしていた。
「さて、ケジメはつけたしこれでスッキリだな。」
「調と切ちゃんにはしばらく留守番してもらうとして…。」
「後のことは花京院くんと鈴守さんに任せたし…。」
「……っし、行くか!」
二人分のパスポートを手に、待ち合わせ場所へ向かう。
長い旅になるだろう、だが
辛くはない、なぜなら
「俺は、ひとりじゃないからな。」
数年前に引退したはずのトップシンガーが突如、復帰を宣言。
新曲をいくつも発表し、またしても人々を魅了させたその声はまさに歌姫の帰還であった。
「なぜ復帰を?」
そう聞かれたとき、その歌姫はこう答えた。
「たくさんの友達が、私を暗闇から救い出してくれたんです」
「だから……彼らにまた、私の歌声を届けたいんです。」
それは、彼女にエールを送り続けたファンへ向けたメッセージと報道された。
だが
その歌姫が、活動を休止すると発表した。
突然の発表に世間はざわついた、あれだけ活き活きに歌を歌っていた彼女が
全国ライブツアーの最後に、そう言ったのだ。
しかし、彼女はこうも言った。
「みんな、これが決して終わりじゃない。」
「私は、ただ…さがしものを見つけにいくだけ。」
「私にこの夢を、唄を歌う楽しさを教えてくれた人を、探しにいくんだ。」
「その人は私みたいに歌がうまくて、でも私とはまったく違う歌い方で」
「強いふりして一人でなんでもかんでも抱え込んで…その人は姿を消してしまった。」
「だからみんな、少しだけ待ってて欲しい。」
「必ず私は、その人を見つけてここに帰ってくる。」
「ほんの少しのお別れだけど、次のライブを、楽しみにしててね!」
あまりにも唐突、だが歌姫の真摯な言葉に
会場の客はその言葉を信じ、声援を送り歌姫を見送ったという。
そして、何もかもが終わった後の舞台裏で
歌姫はさっそく、荷造りの準備をしていた。
「さて、ケジメはつけたしこれでスッキリだな。」
「調と切ちゃんにはしばらく留守番してもらうとして…。」
「後のことは花京院くんと鈴守さんに任せたし…。」
「……っし、行くか!」
二人分のパスポートを手に、待ち合わせ場所へ向かう。
長い旅になるだろう、だが
辛くはない、なぜなら
「俺は、ひとりじゃないからな。」
答えは、得られなかった。
僕の望む答えは、この場所では得られなかった。
人々の愛を、この目で確かめることは出来なかった。
この息苦しい世界で、唯一信じていたもの…信じたかったもの。
結局は希薄なものだったのだろうか。
分らない
分らないからこそ、また"確かめ"に行こう。
今度は自分ではない自分かもしれない。
でも、確かめずにはいられない。
確かめられずには……いられないんだ。
少年は、ゴミの山となった自室で薬と最期の水を飲む。
新しい世界へ、次の次の世界へ…
「それでは皆様、また何処かで。」
━━昨日の深夜、●●区のマンションで少年の遺体が発見されました。
遺体の周囲には毒薬と遺書が発見され、警察は家庭内の精神的虐待による苦痛からの自殺だと━━。
僕の望む答えは、この場所では得られなかった。
人々の愛を、この目で確かめることは出来なかった。
この息苦しい世界で、唯一信じていたもの…信じたかったもの。
結局は希薄なものだったのだろうか。
分らない
分らないからこそ、また"確かめ"に行こう。
今度は自分ではない自分かもしれない。
でも、確かめずにはいられない。
確かめられずには……いられないんだ。
少年は、ゴミの山となった自室で薬と最期の水を飲む。
新しい世界へ、次の次の世界へ…
「それでは皆様、また何処かで。」
━━昨日の深夜、●●区のマンションで少年の遺体が発見されました。
遺体の周囲には毒薬と遺書が発見され、警察は家庭内の精神的虐待による苦痛からの自殺だと━━。
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