ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。




喪失帯、エノキアン・アエティール。
言葉が力を持ち、言霊として自立している世界。
そしてそれらを御する"意志"が力となるこの世界────そこで生きる人々は、大きく分けて4種類に分類される。

言霊と共存を目指し、昔ながらの生活を続けている『言ノ葉ノ氏族』。
言霊と契約し、その言霊に自らの意志を織り交ぜた召喚獣を使役する『召喚者』。
言霊を道具へと宿し、様々な用途に役立つ魔道具を創り出す『言霊具職人』。
そして────言霊を掌握し、自らの肉体に宿す『契約者』。

言霊と共闘する召喚者や、言霊を道具に宿す言霊具使いたちと、言霊を直接宿す契約者の間には、圧倒的な格差が存在する。
召喚者は自らの意志と言霊を融和させた"召喚獣"を召喚する場合、詠唱による祈り────アーサナーと呼ばれる段階を必要とする。
そのため基本的には、戦闘の際にわずかながら隙が生まれる。言霊具を使う者も同様。道具に自らの意志を反映させる際に、僅かなラグが発生する。

だが、契約者は違う。
契約者は自らの内側に人智を超越する言霊を宿している。即ち、人類を優に超える権能を直接自身の一部として扱えるのだ。
当然、その戦闘力も人間とは桁違いに跳ね上がる。言霊の持つ力を、即ちこの世界の一部たる概念の持つ力を、そのまま自身の力とする。

これがどれほど恐ろしいかは筆舌に尽くしがたい。
例え召喚者が契約者を相手取り、その相手と同じ言霊を扱ったとしても、十中八九契約者側が勝つ。
そう断言出来るほどに、契約者の力は圧倒的に高いのだ。

必然的に、契約者と呼ばれる存在は驕りを持ち、やがては世界を支配するために徒党を組み始めた。
我らこそは言霊を御した始まりの言霊使い、アレイスター・クロウリーの正統なる後継である────そう憚らずに叫び、略奪を繰り返し続けた者たち。
今は略奪こそ落ち着いているが、何らかの目的の為に召喚者育成都市"学園都市"の者たちを次々と襲撃している、悪辣非道なる契約者の集団。


彼らの名を、『銀の星』。
30人の上級契約者と無数の配下から成る、この喪失帯における最大の契約者軍団である。





喪失帯の中心、"虚孔"。
その周辺に複数の召喚者たちがいた。彼らはこの喪失帯にて最大の都市、学園都市の調査員だ。
何かを調査しているかのように、言霊具を調整し、数値を確認するなどしている。

そんな光景を、遠目から眺めつつ会話をする2人がいた。

「ひい、ふう、み……。二十四、五人か。思ったよりも少ないな」
「大方、"虚孔"から投射される言葉の破片の回収に訪れたのでしょう。我々との交戦は考えていないと見れる。
 あるいは、大部分は失っても1人生き残ればそれでいい。そういう思惑が透けて見える人数ですね」
「ガハハハハハハハハ!!! どうでもいい。全員殺すだけだ」

会話をする2人の片割れが、豪快に笑いながら言い放った。
巌の如き隆々とした筋肉と、天を衝く大嶽の如き巨躯、紅蓮に燃え盛る炎のような凶悪な表情を持つ漢だった。
横に並ぶ男は、その大男とは対照的な小柄で細身の男である。砂漠の中心でありながら漆黒のコートに身を包んでいる奇妙な男であった。

「先に俺が仕掛ける。文句はないな?」
「ええ、どうぞ。私はおこぼれで十分ですので」
「よかろう」

巨躯の男がそう告げると同時に、そのまま高速で走り出した。
地割れとすら思われる程の衝撃が周囲に響き、即座に学園都市の調査員らに異変を感じさせる。

『なんだ────まさか!!』
『"奴"だ!! バンジ・シンラが来たぞ!!』
『落ち着け……想定していた事だ! 全員で違う方向に逃げろ。誰か1人でも生き残る事を考えろ!』
『そんなに慌てる事でもないでしょう……? あの距離であの図体だ。ここまで辿り着くまで時間があ────』

パァン、と。何かが弾けるような音が響いた。
何が起きたのか。そう認識するよりも早く、調査員たちの周囲に鮮血と脳漿が飛散する。
それからさらに遅れ、砕け散った頭蓋の破片と脳の一部が辺り一面に散らばり、それで初めて調査員たちは起きている現実を理解した。

「なんだ。少し待ってやったというのに、この状況を理解するのが精一杯か?」
『う、うわああああああああああああああああ!!!!』

先程まで地平の彼方から走っていた巨躯の男が、今目の前に立っているのだ。
そして同時に、調査員の内の1人の頭部を"握り潰している"。まるで疾風の如き速さで巨躯の男は、調査員の頭を握りつぶし宙高くへ放り投げたのだ。
だが、仲間の死程度で揺らぐ学園都市の調査員ではない。彼らは何度も仲間の死を乗り越えて学園都市の外部を調査してきたエリートだ。
即座に臨戦態勢へと移り、そして自らの召喚獣を呼び出す祈りアーサナーを唱える。が────

『我が天ァ────』
『祖にゲァ────────』
「遅いな」

瞬きよりも早く、4人の調査員が肉片へと変わった。
詠唱を唱えるために口を開くとする。その筋肉の動きよりも早く巨躯の男は拳を握り締め、そして一瞬のうちに正拳突きを放つ。
その握り締められた拳は調査員の胸部を貫き、その衝撃は円状に全身へと広がり、目にも留まらぬ速さで粉々になった。

何より恐ろしいのはその攻撃の"余波"だ。
一撃の拳により肉片へと変わった調査員の肉片が、他の調査員を屠る凶器へと転じたのだ。
漢の放った一撃によって粉微塵と化した調査員の肉片は、その1つ1つが音をも置き去りにする速度となっていた。
例えるならば散弾か、あるいは炸裂弾か。その無差別な広範囲攻撃は瞬く間に4人の命を奪うに至った。
一撃。たった一撃の拳による攻撃。それだけでこの巨躯なる男は4人を屍へと変えたのだ。

『なんだこいつ……!!?』
『狼狽えるな! 我々は召喚に成功した! 心が折られれば召喚獣は弱る! 必死に己を鼓舞するのだ!!』
「ほう。俺が4人を殺す間に祈りアーサナーを終えるとは。優秀な召喚者のようだな」

手に付着した血を払いながら、巨躯の男は豪快に笑った。
男の周囲には、すでに召喚獣を召喚した契約者が構えて取り囲んでいた。
合わせて6人ほど。全員が共通の召喚獣。巨大な杭の如き金属がその右腕に備えられている。どうやら装備に変化するタイプの召喚獣のようだ。
その姿は表層世界における、爆薬の炸裂を利用して杭を打ち出す『パイルバンカー』と呼ばれる武装を髣髴とさせた。

「「「喰らえェッ!!」」」

一糸乱れぬ連携により、6人が同時に杭を掲げ巨漢に打ち込む。
凄まじいまでの衝撃音が鳴り響き、その6つの衝撃が揃って巨漢にクリティカルヒットした。
1人の人間に対して打ち込むには、あまりにもオーバーキルな攻撃。通常であれば肉片も残らず粉微塵に砕け散るだろう。
だが────────────

「……は?」

攻撃を撃ち込んだ6人は、全員が揃って同じ幻覚ヴィジョンを共有した。
全ての意志を込めて賭した一撃。時にそれは、攻撃を放った相手の言霊や意志と共鳴し、相手の本質を映し出す事がある。
故に彼らはその攻撃を通して、敵たる巨漢……バンジ・シンラの本質を垣間見たのだ。


それは、天蓋を衝かんとするほどの大嶽だった。


人1人の攻撃で、山を崩す事が出来るだろうか? と問われれば、その答えは当然"否"であろう。
目の前の男はまさに"それ"である。6人の召喚者は言葉ではなく"意志"を以てそれを理解した。眼前に立つ巨漢は、はっきり言って"人ではない"。
生物学的に言えばそれは人であろう。だが、直感的に人を超越した力を持っている。そう断ぜざるを得ない。
その証拠に、通常であれば衝撃だけで人1人を粉微塵にする杭が6本同時に放たれても、男には傷1つ付いていなかった。
それどころか、ニィと愉快気に口端を吊り上げながら男は笑い、そして攻撃者に問うてきた。

「どうした? 終わりか?」
『……………………なんだと?』
「終わりか、と聞いている。待ってやってるんだよ。
 お前たちが俺に傷を与えるまで。……オイ、まさかこれで終わりなのか?
 だとしたら────────期待外れだなァ!!!」

男は拳を握り締め、そして横薙ぎに一振るいした。
その発生した衝撃波によって、召喚者らは全身の穴という穴から血を吹き出し、無様に地面へと倒れ伏した。
これは物理的な破壊の意味もあるが、彼らの心が折れた意味も大きい。たった一撃で彼らは、その生命を維持するための精神総てを破壊され、そして生きるという行為を放棄したのだ。
それは理屈ではなく、ただ単純に強い意志の前に生きるという本能をへし折られたという道理。
それほどまでに、この巨躯なる男の意志は圧倒的な強さを誇っていたのだ。

「流石は銀の星最高戦力と目される怪物。"風林火山ジ・オールマイティ"バンジ・シンラ。
 惚れ惚れするほどの戦闘能力。例え敵でも、強き力に惹かれるというのは男である以上避けられんと言う事か」
「そういう貴様はなんだ? 俺のことを知っているということは、先ほど殺した奴らよか骨があると見ていいか?」
「ああ。俺は奴らを引き連れて来たリーダー。一級召喚者スクィッド・カトルフィッシュだ」

そう告げるが早いか否か、眼にもとまらぬ速度の攻撃が巨漢へと放たれる。
避けることもままならないまま、男の皮膚は切り裂かれ鮮血が乾いた茫漠に散った。
先ほどまで余裕の笑みを浮かべていた巨漢も、これには驚いたように感嘆の声をあげた。

「驚いたようだな。そうでなければ面白くない」
「いやぁ。俺に出血させた召喚者なんぞ57年ぶりだ。つい、面白くなってしまった。
 当然すでに詠唱は終えているな? ならば見せてみろ、お前の本気を。俺も存分に楽しんでやる」
「楽しませなどはしない。貴様の苦痛に歪んだ面を、我らが仲間の墓前に捧げてくれるッ!!!」

スクィッドが叫ぶと同時に、その背中からは10本の触腕が縦横無尽に伸び拡がった。
巨漢はその触腕を見て、瞬時に眼前の男が如何なる言霊と契約しているのかを理解できた。
見覚えのある触腕だった。触腕と言うことはそれを持つ何らかの生物と契約しているに相違ない。
ましてやその触腕は、非常に特徴的なフォルムをしていた。先端に集中した吸盤を持ち、なおかつその吸盤には細かい牙が生え揃っている。
吸盤に牙を備える生物など、もはや一択しかない。

「イカの召喚獣か。それも人獣一体型……先ほどの連中と同じく、纏うタイプか」
「そうだ。だが先ほどの奴らと一緒と考えてくれるなよ。俺はこの言霊と一体となれるほどに、強く理解と応用を積んだ。
 故に一級になれた。特級である貴様に、手を届かせるほどになァ!」

そう叫ぶと同時だった。スクィッドの姿が、巨漢の眼前より"喪失した"のだ。

「──────ッ! 面白い!!」
「その余裕がいつまで続くかな?」
「ッ!!」

巨漢の背後より声が響く。振り返るよりも早く、無数の触腕が遠距離から男へと攻撃を放った。
触腕の先端に集中した吸盤の牙が、幾度となく巨漢の皮膚を切り裂いて出血をさせる。どれだけ筋肉を肥大化させようと、人間である以上"皮膚"は鍛えられない。
先の杭使い達との違いはそれであった。スクィッドは巨漢であろうと防げない皮膚を狙い攻撃を続けていたのだ。

「姿を消した……いや、擬態か」
「イカはその体色を感情により変化させる。
 意志により従えた言霊ならば、自在に風景に溶け込むことも容易だ」
「面白い。説明の後払いで意志を跳ね上げているな。だが、それでもこの程度か。
 このレベルの攻撃では俺を殺すには万年かかるぞ。まだあるんだろう? 特級オレに手をかけるとまで言わしめる秘策が。
 見せてみろよ。待ってやる。どうやって俺を殺そうとするのか、愉しませてくれよなァ!!」
「良いだろう。出し惜しみはなしだ。唯一俺に与えられた秘策を見せてやる」

そう告げると、スクィッドは1本の注射器を取り出した。
片手でも注入できる、いわゆるペン型タイプの注射器だ。
それを男は勢いよく自らの首筋、頸動脈に突き刺し、そして内部に満たされた液体を注入した。

「オ──────オォォォァァァアアア!!!!」

男の目は充血し、その紅は彼の眼球の周囲にすら拡がってゆく。先の注入した薬品の影響であることは明白だ。
同時に、男の全身が膨れ上がってゆく。否、正確には彼と一体化している召喚獣が膨張し、天を衝かんとするほどに巨大な召喚獣へと変貌していっているのだ。
巨漢はその光景を前にして高揚していた。なぜならその膨張してゆく召喚獣は、眼前の男の肥大化してゆく"意志"の表れだったからだ。

「後付けで意志を増大させる薬品!! "意現石"か!
 直接体内に注入するとは考えたものだ! それならば俺に届くやもしれん!!」
「史上最大の頭足類──────"メガスクイド"の言霊!! 我が手足となり、勝利をもたらせェ!!!」

その"言葉"と同時に膨張は止み、1つの巨大な影が現出した。
出現した形は、まさしく山の如しであった。身長3mを優に超える巨漢を見下す事さえできる、巨躯なる10の触手に支えられた怪物。
その名は"メガスクイド"。表層世界において一部の学者たちが研究と仮説の末に導き出した、今から2億年後の地球にて覇者になると考えられる『仮説上の最強生物』だ。

本来、そんな生物はこの地球上に存在しない。
存在しない言霊を形とすることは出来ない。それが前提である。
だがこの男はそれを、肥大化した意志と研究を重ね尽くした知識を以てここに再現したのだ。
『イカの生態であればここまで進化できる』という知識の裏付けと、『必ずやここまで強く進化する』という確固たる意志。
2つが重なり合うことで、この地上に存在する如何なる生物をも超越した結実をここに成す事が出来たのだ。
これは"意現石"というブーストを得たという前提を考慮しても破格と言えるだろう。

「面白いッ!! 面白いぞ貴様!!
 今まで出会った召喚者の中でも十指に入る!!
 だが──────でかいだけでは俺を殺せんッ!」
「でかいだけかァ! 試してみろォォォォォオオ!!!」

巨漢が拳を握り攻撃を続ける。
一度、二度、三度……。幾度も拳が巨躯なる怪物に当たるも、手ごたえは一切ない。
水分を多量に含んだ怪物の対比が、衝撃を分散しダメージを限りなく0に等しい状態にまで軽減しているのだ。

「メガスクイドは最大8tにまで成長する最大種!!
 それを今ここに再現して見せたのだ! 生半可な攻撃は通らんと知れ!!」
「ハハハハハァ!! これは楽しいなァ! どれだけ殴ってもゴムのように衝撃が跳ね返り分散する!
 焼いて食えば、さぞや喰い応えのある晩餐になるだろうよ! 億年後が楽しみだ!」
「どちらが食われる側か!! 思い知らせてやる!!」

叫ぶと同時に巨躯なる怪物の触手が、巨漢の肉体を捉えた。
触手1つ1つがまるで大木のように太い。通常の人間であれば1本が締め付けるだけでも全身の骨が砕かれるだろう。
それが10本すべて巻き付いてもなお、巨漢の肉体は人の形を保っていた。だが、吸盤に生え揃った鋭い牙が皮膚に食い込み、着実にダメージを蓄積させていく。
このまま続ければ、その命脈に刃を届かせるのは明白であった。

「やった……! やれる、やれるぞ!!
 そうだ、そのままだメガスクイド! お前の力は山すらも砕く!!
 このままバンジを殺せ! 殺して奴らの墓前に捧げるんだァ!!」
「──────ッチ。面倒だが、しょうがない。"技を使うか"」
「……なんだと?」

触手に締め付けられながら男の放ったため息に、スクィッドは耳を疑った。
"技を使う"。そう男は言ったのだ。それは即ち、先ほどまでの攻撃は男にとって技術でもなければ技でもない。
ただ己の思うがままに力をふるっていただけでしかないのだ。それはつまり──────。

「言霊を、使っていない……だと!?」
「いちいち面倒なんだよ。詠唱だのなんだのと。だから俺は、"こう"させてもらう。
 これが俺の詠唱だ。これが貴様との契約の証だと。言霊をねじ伏せ刻み込んだのさ」

そう告げながら巨漢が行ったのは、至極シンプルな行為だった。
拳を、力強く、めいっぱいに、握りしめる。ただそれだけの行為。それを彼は、世界への"契約"としたのだ。
これは、彼だからこそできたことだ。言霊を直接宿す契約者だからこそ、そして普段から拳を以て他者と関わり続けている彼だからこそ実現した祈りアーサナーであった。

祈りは、言霊を介して世界に変革をもたらす。彼自らが望む世界の理が付け加えられる。
巨漢にとってのそれは、まさしく通常の契約者とも召喚者とも桁違いの出力を見せた。

「──────なんだ、それは……?」

その目の前で起きる事象に、スクィッドは目を疑わざるを得なかった。
何故ならその事象は余りにも現実離れし、その満ちる意志の強さは人間から大きくかけ離れていたものだったからだ。


握りしめられた男の拳は、天に輝く太陽よりも眩く、燦々と輝きを放っていたのだ。


スクィッドは一級召喚者だ。故にその観察眼も優れている。
他の生物よりも視力が優れているイカの言霊を操る故、その観察眼は常人の何倍もあった。ゆえにこそ、眼前に広がる事象の理論は理解できた。
"大嶽"の言霊の持つ質量が、握りしめられた拳に集中する。そして"火炎"の言霊の熱量がその質量に反応する形で、彼の拳に収束してゆく。
もはやそれは、1つの星と言わざるを得ないほどの熱量。当然人間である巨漢の肉体は耐え切れず自壊してゆくが、驚異的再生能力を誇る"大樹"の言霊が崩壊した肉体から再生させてゆく。
集中と、収束と、再生。それが"疾風"の言霊により凄まじい速さで繰り返される。それはまさしく、拳大に収められたこの星の自然の具現だった。

「なんだ……それは!! なんなんだ!!?
 お前は一体何なんだァァァァァアアアアア!!!」

スクィッドは耐え切れずに叫ぶ。彼は眼前で起こっている理論を理解はできる。
"理解できるからこそ"魂が拒絶する。そんな自然の具現が如き力を生身で再現できる人間がいる事を、脳細胞が拒絶する。
もはや外付けの薬品で精神力を極限まで高めたことなど無意味と言えるほどに、彼の心は粉々に砕け散っていた。

「知らん。ただ力いっぱいに握りしめたら、こうなっただけだ。
 握り締めれば締めるほど強い。シンツの奴から教わった"技術"だ。
 それで一度、とにかく握り締め続けたらこうなっただけだ」
「なん……で。なんで……お前はそんな────!!
 "そんなことができるんだァ"!!!?
「知りたいか。そんな物簡単だ」


「"俺の方が強い"。それだけだ」


喝ッッッッッ!!!!!! と男が吠えた。そして、太陽が如き拳がさく裂した。
瞬間、拳がさく裂した巨躯なる召喚獣がはじけ飛び、そしてその召喚者は衝撃に耐えきれないまま四散した。

それだけでは終わらなかった。
拳を中心に放たれた衝撃はとどまる事を知らず、何処までも広がり続け周囲を破壊と暴虐の渦へと呑み込んでいった。
全ては男の拳に収束した質量と熱量が原因である。『力いっぱいに握る』。それを実現するだけで、彼の契約した言霊は全て彼の拳に収束した。
結果、大嶽に等しい出力とそれを全て灰燼に帰す熱量が全て拳の大きさにまとめられた。それが解放されればどうなるかなど、想像に難くないだろう。

その圧倒的な破壊は周囲一帯を蒸発させ、莫大な圧力と膨張エネルギーを生み出した。
エネルギーは上昇気流へと変貌し、局所的な熱が対流雲となり、巨大なきのこのように見える爆発煙を形成した。
これは学園都市と銀の星の戦争下に於いて2度観測された事象であり、後にコラプスが"これに並び立つ召喚獣を作り上げる"事を急務としたほどの威力であった。

通常、人間がこれほどの出力を得るなどあり得ない。
だが漢は成し得た。星の持つ出力……"核融合"に匹敵するほどの炸裂を、その手で成し遂げた。
理由は簡単だ。漢の"意志"が、世界の"理"に勝ったのだ。意志が世界を捻じ曲げ、そして言葉が支配する世界。その縮図とも言える光景がそこにはあった。
自らが強いという圧倒的な自負と、それを言葉にする事で世界の道理すらも捻じ曲げる事実。そしてそれを可能にする圧倒的な意志。
彼こそ、『銀の星』に於いて右に出るもののいない、最強のフィジカルを持つ契約者。

名を、バンジ・シンラ。
『世界全て』を意味する言葉を冠する名に恥じぬ、世界を支配するほどの意志を持つ漢である。


「……………ん? 周りに人間がいなくなったな」

「まさか、逃がしたか!? くっ……。俺が戦いに夢中になっている間に逃げるとはァ!!!!!!!
 なんと卑怯な奴らだァッッッッ!!!!!!!!!!」


ただ、最強なのはそのフィジカルだけである。
故にその序列は、『銀の星』幹部となって以来不動の第二席となっている。





バンジの成し遂げた"炸裂"の影響が届かないほどの彼方に、彼らはいた。
彼らは既に"銀の星"と邂逅することは想定済みだった。故にあらかじめ、瞬間的に距離を置く術を用意していたのである。

『よし。想定通りだ。何とか逃げ切れるかもしれない』
『油断するな。奴は想像以上の速度を"疾風"の言霊で可能にしている。一瞬でも悟られれば即座に────』
「その必要は……ありませんよ?」

逃げる調査員たちの背に戦慄が奔った。
まるで地の底から響くかのように、冷たく恐ろしき声だった。その言葉を聞くだけで鼓膜越しに脳細胞が凍り付くかのような声。
それが突如として彼らの背中から響いた。先ほどまで誰もいなかったはずの背後から、人の気配と殺気が重なって感じる。
その状況はまさしく"危機"と呼ぶ以外何物でもなかった。

『新手の"銀の星"か!!』
『我が手に鏃、我が手に弓。そして我が眼前に屠るべき敵。鏃よ風となり、我が声の下に敵を屠れ!!』
「おやおや、物騒ですね。私はただ、世間話をしに来ただけだというのに……」

一瞬にして調査員たちが臨戦態勢となり、背後に突如として出現した男を囲む。
灼熱の砂漠に似合わぬ漆黒のコートに身を包んだ男は、目を細めてクスクスと笑っていた。
絹の擦れるようなか細い不気味な声。そこに黒いコートと対照的な、死人の如き青白い肌が不気味さを更に際立てていた。

『……なんだ、こいつ。攻撃する気が無いのか?』
『油断はするな。データがないが慎重に取り囲め。先ほどの殺意、只者じゃないぞ!』
『例え新入りの銀の星幹部だったとしても、警戒するに越したことはない』

調査員たちは構えながらコートの男を取り囲んだ。
8人ほどの調査員と、その倍はいるだろう召喚獣が、一斉に男に狙いを定める。
どう足掻いても逃げ場のないその状況の中で、男はクスと静かに笑っていた。

「ああ。悲しいですね」
『どうした? 命乞いか?』
「ええ、まぁ、似たようなものでしょうか。
 最後に1つ、問うてもよろしいでしょうか?」
『……。聞いてやろうか』

取り囲んだ調査員の内、1人が告げた。
彼らとて馬鹿ではない。最大限に警戒していたつもりで、男に言葉を告げる許しを与えた。
これは、この喪失帯における性質に由来する。言葉が力になるこの世界では、戦闘中における一字一句であろうとも、重要な情報のやり取りになる可能性があるからだ。
銀の星と学園都市は、休戦したとはいえその横たわる溝は深い。ゆえに、何か情報を得られればと藁にもすがる思いがあった。
とはいえ、詠唱を許せば危険が伴う。データに無い契約者とは言えど、最大限に警戒するべきではある。
故にどのような攻撃があろうとも、即座に察知したうえで反撃できるように構えながら彼らは許しを与えた。

だが

「────────貴方がたにとって、"死"とは、なんですか?」

そう、男が訪ねた刹那であった。
一瞬────。まさに、身体はおろか感覚すらもそれを悟ることが出来ないほどの速度。
そんな瞬きよりも早き須臾の間にて、男の影が辺り一面へと広がり、周囲を包み込んだ。

『なっ────!!?』
「早く答えてくださいよ。貴方がたにとって、最後の問いになるのですから」

男は涼し気な笑みを崩さないままに問いを投げかける。
無機質なまでに細められたその目つきが、調査員たちの恐怖を倍増させた。
反撃をしようにも、その周囲一面に広がった影はまるでコールタールの如く召喚獣と召喚者の動きを鈍らせていた。

『うわあああああ! ああ! あああああああ!!』
「記録がなくとも、私を警戒した点は褒めてあげましょう。
 ですが、危機感が足りませんでしたね。学園都市に私の記録など、残る筈がありません。
 その理由が分からない時点で………そもそも問うのが間違いでしたか」
『待て…………どういう、こと、だ────!?』
「最後だから、教えますよ。私に出会った人は皆死んだ。それだけの簡単な話です。
 それが分かった時点で、あなたたちは必死で逃げるべきだった。這ってでも。
 最も、私と出会った時点で、そんな事叶う筈もないのですが」


「DIES MIES JESCHET BOENEDOESEF DOUVEMA ENITEMATUS.」


まるで祈るように、男は詠唱を告げた。
その詠唱がキーとなったのか、突如として男の足元から広がっている影から無数の手が出現する。
調査員たちは叫んだ。必死に逃げ出そうと足掻いた。足掻いて、足掻いて、足掻いて────されど、1人として逃げ出せなかった。
底の無き泥濘の如く影と腕は調査員たちを飲み込み、やがて断末魔1つ残らない静寂へと転じた。

「やれやれ。余りにも汚らしい最後だった。"記録"する価値も無かったでしょうか────?
 ま、"地獄"を使うのが一番手っ取り早いですからね。余りバンジさんに取られるのも癪ですし」
「ここにいたかインペリオ!!! 奴らの残りは何処だ!!!?」
「全て屠りました。数にして、8人程度でしたが」
「勝った!!! 俺は17人殺した。今日は俺の方が強かった!!!」
「ですが、通算ならば1874人対1852人で私の方が上ですけれど?」
「合計ならば俺の方が2869人殺している。俺の方が強い!!!」
「私が銀の星に入る以前の数を含めるのは無しでしょう」

片や豪快に笑いながら、片や静かに微笑みながら、2人は砂漠を歩み『銀の星』の本部へと向かう。
まるで数十の命を奪った直後とは思えないほどに、その歩みは軽快であり、その表情には曇り1つ無かった。



これこそが、エノキアン・アエティールに於いて最も力を持つ人間の集団、銀の星の頂点に立つ2人。
『銀の星』幹部第一席インペリオル・マクシムス、第二席バンジ・シンラ。災害とすら呼称される"特級"に分類される契約者たちの片鱗である。

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