最終更新: nevadakagemiya 2017年05月07日(日) 23:37:08履歴
「ハァ…!ハァ…!ハァ…!ハァ…!」
女性が走る。走る。走る。息を切らし、喉が血が出そうな程に痛くても、走り続ける。
理由は単純明快だ。追われている。彼女を追う影が、もうすぐそこの背後に迫っているのだから。
『待てェ!!待て待て待て待て待て待て待て待てェェェェエエエエエエ!!!!!
餌っ!!餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌餌ァァァァァアアアアア!!!』
その背後に迫るは、廃墟と化したビルの合間を遊ぶようにビュンビュンと飛び回っている小柄な少女だった。
身長からして、10歳ほどであろうか?しかし、そんな可愛さは微塵も無く、ただ見る者に恐怖を与える威圧感しか無かった。
その叫んでいる言葉からして、既に普通では無い。『餌』。少女の叫ぶ単語から、追われている女性は、
もし自分が彼女に追いつかれた時にどうなるのか…………想像に難く無かった。
「(殺される…………。捕まったら、きっと殺される…!!)」
彼女はそう考えるのが精いっぱいだった。もはや、それしか考えられない程に追い詰められていた。
”彼女ほどの素早さならば、すぐにでも自分を捕まえられるのに何故すぐに捕まえないのか”など、考える余地も無かった。
大通りにでた。
だが目の前に広がるのは、ただただ廃墟のみ。文明が滅び去った、人の影など1つも存在しない場所だった。
助けを求める事の出来る存在など、何一つない。
「だめ………、逃げられない………!か、隠れな………」
『 み ぃ つ け た 』
声が木霊した。その声の方向────己の上空を見ると、そこには自分を追っていた少女がいた。
その顔は非常に悍ましい笑みをしており、自分の末路が如何なるものかを物語っている。
「いやァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!」
女は絶叫し、大通りを走った。”何も障害物の無い”大通りを。
「あァ…、ッたクようやくだだっ広い所に出てくれたゼぇ……………っ!」
少女が懐から対戦車用ライフル銃を取り出し、そして照準を逃げる女性に合わせる。
「あばよ、そして…………」
「 い た だ き ま す 」
痛みはなかった。音も無かった。
ただ、ただ何の予兆もなく、女性の左脚は”失われた”。
「なん……………え?なんで……………えっ!?」
「あー、シクッたかぁ〜…参ったね、どォーも」
女性の目の前に、さきほどまで自分を追いかけていた少女が現れた。
「悪いね、怖がらせちゃって。今度は一発で終わらせてやるから」
「あ……………い…………イヤ───────」
彼女が銃を構えたその刹那、彼女の目には映った。
目の前の少女より、自分に向かってくる細やかな流星を。
そして、その流星にある──────びっしりと牙の生え並んだ口を。
「じゃあな。」
彼女がそう言った時には、既に女性の首から上は無くなっていた。
◆
──────大罪の聖杯戦争、そうこの闘争は後に呼ばれることとなる。
私がこの聖杯戦争を知ったのは、ほんの…………ほんの些細な理由だった。
元は、時計塔の小さな噂話から………。『聖杯が顕現する』『それを手に入れれば何でも叶う』なんて………。
まるで子供のおとぎ話みたいだったけど、それでも…私はそれを手にしてでも叶えたい願いがあった。
すぐに私は聖杯についてを調べ上げて、そして…聖杯が出現する場所を探り当てた。
しかし、そんな私を待っていたのは、文字通り掛け値なしの絶望であった。
魔術師同士の血みどろの殺し合い、共闘と裏切り、そして死。全てを混沌と混ぜ合わせたような地獄だった。
まぁ、そんな地獄の中でも良い人…サーヴァントと出会えたのが、私の唯一の救いだったと言えなくもないが。
しかし、そんな物は全て茶番でしか無かった。……この聖杯戦争は、初めから仕組まれた出来レースだったのだ。
かの魔術の名門にして長き年月に渡り在り続けている、オリジンストーン家。その連中が、全てを仕組んでいたのだ。
聖杯はオリジンストーンの現当主の手に渡った。私達は必死で、願いの為に死に物狂いで闘ったのに………。
余りにもむごく、そして納得のいかない結末であった。しかし今は、そんな事もどうでも良いと思える。
──────────────問題は、その後に起こったのだ。
彼女は言った。自分は大敵を受け入れる器なのだと。
彼女は言った。オリジンストーンは、人理の大敵を纏め上げ根源に至るのだと。
彼女は言った。その為に、聖杯が必要なのだ…と………。
全ては彼女が言ったとおりになった。
彼女の内に、非常に澱んだ…されど大きな魔力が多数流れていくのが分かった。
その大きな魔力の流れは、彼女の中で溶け合い、絡み合い、そして1つになって────────────
次の瞬間、視界に映る全ての景色は崩落した。
◆
『────────────と、言う訳でありましてですね?
貴方がた人類はぁ、すべからく滅ぼし去る事となりましたぁ〜♪
今現在エ・グラトニールが固有結界を拡げているので、絶滅は今暫しお待ちをお願いいたしますわ。
恐らく全世界がこの結界に包まれるのには1週間ほどかかりますので、それまで部屋の隅でガタガタ震えてて下さいまし。
ああご心配なく、わたくしたちアルターエゴは、貴方がたの意見・攻撃は一切受け付けませんのでその点はご考慮無く…』
「クソッ!!」
ドン!!と机を叩く音が魔術協会に木霊した。
『どうなっているんだアレは!?神秘の秘匿はどうなっている!?』
『これがオリジンストーンの望んだやり方なのか!?』
『チッ!連中と連絡が付かん!現地に飛ぶぞ!』
『駄目です!完全に空間が隔絶されています!』
怒号や乱雑な喋りが部屋中を飛び交う。先程世界中の伝播をジャックして放送された内容についてであった。
その放送の内容は2つ。1つは聖杯戦争という魔術的儀式が世界各地で行われていたと言う事、
そしてその儀式の結果が、自分(その放送の主)達であると言う事。もう1つが────────
今から1週間後に、この世界の全ての生命体を滅ぼす、と言う事であった。
何が起こったか把握するべく、魔術協会は緊急の有識者会議を開いた。
しかし分かる事は一切なく、ただ事態を更に混乱させるだけであった。
「新しい情報です」
一人の魔術師が会議室へと入って来た。そして、手に持つ数枚のレポートを机の上に置く。
「先程、聖杯戦争の行われていた■■の■■■地区の魔力反応の観測を行いました。
すると、今まで観測された事の無い波長が検出され────────」
「見せてみろ!」
その広げた書類群に、有識者たちはワッと群がった
『なんだこの魔力量は!?有り得ない!これがサーヴァントの物か!?』
『いやコレは話に聞く人類悪そのものだ』
『ありえん!人類悪なぞ神代の次代でも無ければ顕現などしない!』
様々な推測や予想が飛び交う中、一人の男がボソリと呟いた。
「…………アークエネミー………。」
『!!!!』
『そうか…………そのクラスかァ…………!!』
有識者の一人が頭を抱える。他の有識者達も、それが出てくればどうしようもないと言った風体だ。
「あの…アークエネミー…とは?」
先程書類を持ち込んだ魔術師が、近くにいた一人のロードに耳打ちで質問する。
「そうだな、最悪の機会だし隠す必要も無い。教えておくとしよう…」
そのロードは葉巻を置くと、書類を一枚裏返しペンでいくつもの平行線を書き始めた。
「キミは平行世界の運用の話を知っているね?かの宝石翁の魔術だが…」
「はい、知っております。」
「ならば、平行世界が存在する…と言うのも当然知っているな?」
「はい。授業で習いましたので…剪定事象や編纂事象というものも、存在すると…」
「良い。知っているならば説明の手間も省けて助かる。
さて………その平行世界だが、当然ながら終わることも存在する。」
そう言いながらロードは、いくつか書いていた平行線のいくつかの先にバツ印を付ける。
「さて、こうなると滅んだ世界には何らかの要因が生まれるわけだ。わかるね?」
「は、はい…。確か、恐竜が隕石で滅んだとか…ですか?」
「そうだ。霊長の世と言うものにも、いずれ終わりは来る。隕石で滅びる世界。洪水で滅びる世界。
邪神の復活で滅びる世界。太陽の暴走で滅びる世界。………ああ、死徒の蔓延により滅んだ世界も有ったな。
そういった滅びは一度起きたら、もう二度とそれを知る物は存在しない。何故ならそれを知る物は、皆死に絶えるのだからな」
「は、はぁ………」
「そして更に重要になって来るのは、英霊召喚システムだ。コレは英霊の座と呼ばれる場所から、
英霊を使い魔たるサーヴァントとして呼び出す………説明するまでも無かろう」
「はい」
「世界そのものは、この英霊の座というものと、滅びを知る物がいなくなるという二つの事実を繋げると言う道を考えた。
英霊の座に、『滅び』という概念をストックしておき、何らかの節目ごとに世界に呼び出し、滅亡の予行練習を行う………。
そしてそれ等で培った能力を、対策を、『人類悪』に活かす…………。それが、アークエネミーだ。」
「剣士でも…弓士でも槍兵でも無い……。滅びの……英霊………!?」
魔術師の青年はゴクリと唾を呑み込んだ。
「理解が早くて助かる。そう…。信仰では無く、恐怖によって霊基を保つ英霊。いや…災厄と言うべきか。
文字通り、人理の大敵たる存在。人類が打倒すべき悪では無く、文字通りの災害。それが…アークエネミーという奴だ」
「…………………………………」
魔術師は言葉を失っていた。無理もない。自分が知る真実なんかよりも何十倍も恐ろしい真実を、
いきなり目の前に突き付けられたのだから。
「だが奴は言った。一週間後だと………。
人理の大敵だからと言って、悲観することはない。連中は何度か出現記録があるが、その全てが打倒されている。
まぁ…たった一週間と見るか、一週間もあると見るかは自由だがね」
「そう………ですね。分かりました!ありがとうございます!!」
そう言うと若き魔術師は会議室を去っていった。
しかしそんな青年と裏腹に、ロードは眉間に皺を寄せた渋い顔をしていた。
ロードは、一つの事実を隠していた。この波長から読み取れるもう一つの真実を。
もしこの事実を公表すれば、時計塔はたちまち絶望に包まれる…そう直感したが故に、彼は先ほどの青年には言わなかった。
「(この魔力の波長………。予想が正しければ、あの3人の少女達には…アークエネミーが複数”混ざっている”…!!
通常サーヴァント…英霊が混ざるなど有り得ない事だ…だが…!オリジンストーンは千と数百年続いた家系…
なにを起こしても不思議では無い…!!)」
そう思いながら、新たな煙草にロードは火を付けた。
手元には、聖杯戦争の舞台となった街に行った数人の生徒の書類があった。
「(無事でいてくれ………。)」
彼には、そう願うしか無かった。
外界から隔絶され、特異点と化したその聖杯戦争の舞台の内側の惨状を知るすべは、残されていないのだから。
◆
「たぁ!!」
一人の少女がアルターエゴと戦闘を行っている。
空を飛ぶように飄々と攻撃を行っては敵と距離を置く、ヒットアンドアウェイ戦法と呼ばれる戦い方だ。
「んもう、あんまりちょこまかと攻撃をされると少し目障りなのですが?
痛みもありませんしダメージも通りませんが…もう諦めになられたらどうです?
もう人類に希望もありませんし、貴方がた英霊にも未来はありません。お引き取り下さいま………」
そう喋っている間にも、ビシィと攻撃がヒットする。
「ちょっと!!流石に怒りますわよ!」
「ならこっちに来てみなよー!きっと楽しいよー!」
「言われなくても!このアングリードを舐めないで下さいまし!」
ヒュバァ!!と高速で攻撃を受けていた少女は飛び立ち、攻撃をしていた少女に向かって飛ぶ。
「嘘!?はや…っ!!」
「おーっほほほほほほほほ!!!アルターエゴを舐めた結果ですわ!
ぐしゃぐしゃにした後にエ・グラトニールの晩御飯にして差し上げますわーっ!!」
「─────なーんてね」
そうつぶやくと少女は、ニヤリと口端を釣り上げた。
「?」
「『帰郷の西風(アポードシィ・ゼピュロス)』!!」
そう少女が叫ぶと、轟ッ!と暴風が吹き荒れた。
「きゃっ!!………ってあーっ!いない!?」
見ると目の前には既に少女の姿は無く、既に逃げ去った後であった。
「チィィイイイ!!!腹のお蟲さんが煮えくり返りそうですわ!!
今度会ったら並大抵の痛みでは済ませませんわ!ったくもーっ!!」
プリプリと起こりながら少女は所定の位置へと戻る。
すると少女はそこに、黒い宝石の欠片がいくつか散らばっているのに気づいた。
「あら?こんなきれいな宝石、ワタクシ持っておりましたっけ?」
指でつまんで拾い上げ、上から見たりしたから覗き込んだ入りしても、見覚えが無い。
「まぁ良いでしょう。特に気にするほどの物じゃございませんわ」
そう言うと少女は指でつまんでいたその黒い宝石をポーイと放り投げた。
─────その宝石が、自身の霊基から自然発生しこぼれ落ちた物とも知らないで。
◆
「帰ったよー」
『帰ったかオデュッセウス!!』
先程アルターエゴを相手していた少女が、多くのサーヴァントと魔術師が集う場所へと帰還する。
するとすぐに彼女を取り囲む人だかりが出来た。
『大丈夫か!?追けられて無いか!?まぁここは結界のおかげで見つかりにくいと思うけど!』
「大丈夫だよ〜。可愛いボクをストーカーする奴は1人もいませんでしたー」
「……………………。」
その様子を、一人遠くから見守っている赤髪の少女がいた。
「や、刹那ちゃん。今日も可愛いね。」
「へゃ!?あ、あの…その、…………お、お疲れ様です…………。」
そう言うと少女は向こうへと行ってしまった。
「やれやれ、可愛すぎるのも困っちゃうねボクは」
「いや明らかに今のは違うんだろ」
「やぁ忠治、久しぶりー。オムパレーは?」
「さっき帰って来たよ。どうもエ・グラトニールの野郎と交戦したらしく、奥で治療を受けている。」
「そっか…………………。ああ、そうだ。採れたよ、例の物が。」
少女はそう言うと、先程まで硬く握りしめていた左手を開いた。
その中には、大小さまざまな形の漆黒の宝石がいくつも存在していた。
「マジかよ…!本当にィ、存在していたのか!?」
「うん、タイタスの言った通りだったよ。アイツは死んじゃったけど………。
でも、やっぱり最後はヤル男だったみたいだね。」
「まぁ、ふざけた奴ではあったけど仕事はする男だったしな、あいつは。
しっかし……………………」
少女と対面している漢…国定忠治は顎に手を当てながら言う。
「本当にコイツを使えば、神さまと融合できるってのか?」
「分からない。例え出来るとしても、それ相当のリスクは負わなくちゃあいけないと思う。」
少女は………オデュッセウスはうーんと腕を組んで首をかしげる。
─────────二人の話す事柄については、現実時間で2時間前、
しかしこの特異点と化した固有結界内での体感時間で言うなれば、3日前にさかのぼる。
◆
「ぜってぇーあのクソアマが絡んでいる。」
そう宣言したのは、白髪に白いスーツを纏っている一人の探偵だった。
「えぇ〜ホントにぃ〜?」
「マジだ!これだけは絶対マジだ!!俺のディティクティブとしての勘がそう言っている!!
俺はあいつと今まで1853戦1798勝12敗33分した仲だ!!これだけは絶対に言える!!連中にはアザトースが絡んでいるー!!」
「ちょっと負けてるじゃないか!」
暴れそうになる探偵をオデュッセウスは羽交い絞めにして取り押さえる。
「ハァ…ハァ…ハァ…!と、とにかく、だ!!俺の直感が正しければ!
連中に敵う手段があるってわけだ。」
『あんな化け物にか!?』
『デタラメ言ってんじゃねぇぞぉ!!』
連鎖召喚によって呼ばれた多くの英霊たちが、探偵へとブーイングを飛ばす。
しかしオデュッセウスは、そのブーイングを諫めて止めた。
「まぁまぁ、こいつにも何か考えがあるんだろうよ。
こいつは汚言や暴言や怪文章は吐くけど嘘はつかない奴だ。信用は出来る。」
「なんか棘ある言い方だなオイ。まぁ良い。俺の推理はこうだ
今はまだ現出はしていないが、おそらく連中の取り込んだ災害の中には十中八九アザトースがいる。
なら、奴の権能も恐らく連中は使うだろう。通常なら世界からの排斥が掛かるが、こん中なら使い放題だからな。
本来ならこの事態は最悪極まりない所だろうが、今回の場合に限ってはこれは非常に俺らへの有利となる」
『ほう?その根拠とは?』
「これだ」
その探偵はカチリ、と腕時計のスイッチを入れると空中に映像が映し出された。
そこには何やら黒い宝石のような物が映っている。
「待って、何その便利機能」
「こいつは『壊神傑晶』。全ての神の源にあたるアザトースの野郎が権能を行使した場合に発生する副産物だ。
言うなれば、世界中に存在するありとあらゆる神々の権能の結晶化したモノ………とでも言うべきか」
「…………………ひょっとしてだけど、それを僕らサーヴァントの霊基に取り込むとか言うんじゃ」
「exactly!(その通りでございます)」
「帰ろう。こんな奴の言う事を真面目に聞いたボクが間違いだった」
「ああ待って!!ホントまじで予測でしかないけどこれしか方法無いんだってマジで!」
そう危機感を感じていない数人の英霊たちであった。しかし、一瞬にして恐怖が彼らを包んだ。
「おおっとぉ〜?随分と纏まってる上等な英霊共がいるじゃあねぇかぁ〜!!
こりゃあ、今日は満漢全席と洒落込もうかぁぁぁああああ〜〜〜!?」
「────アルターエゴ……………!!」
「ちっ!見つかったか!!」
「いや、ここは俺が残ろう」
そう言ったのは、さきほどの白い探偵であった。
「タイタス!?無茶だ!!キミでは奴に勝つことは出来ない!」
「んなもんどの英霊でも同じこったろうが!だったら弱い奴から犠牲になるのが、戦いのセオリーだろ?
それに、相手は神性持ちだから…多少の時間稼ぎにはなる」
「…………………でも…………」
「それに、一度行ってみたかったんだよ俺ぁ。『ここは俺に任せて先に行け』ってよぉ」
口ではふざけた事を言ってはいたが、その探偵の───タイタスの眼には、覚悟が灯っていた。
「………………………分かった。ここは君に任せる」
『そうと決まれば急ぐぞ!』
『早く!こっちへ!!』
「そう易々と逃がすかよぉぉぉ〜〜〜!!!!」
「おっと何処を見ていやがる?テメェの相手はこの俺だ。」
タイタスがアルターエゴの真正面に立ちはだかり、逃げる英霊や魔術師たちの壁となる。
当然アルターエゴはその立ちはだかるタイタスを殺そうと様々な攻撃を仕掛ける。しかし、
タイタスはその場から一切の身動きを取らなかった。
「ちぃぃぃぃぃいいいいっ!!いっちいちメンドクセェ野郎だなぁオイ!!!
オメェのせいで晩飯を逃がしちまったじゃねぇかよォ!!どうしてくれんだオイ!?」
「……………なら…………そうだなぁ………………」
グッ、とボロボロの肉体を無理に動かし、タイタスはファインティングポーズを取る。
「なら……………その……………空……………腹を……………紛らわす……………
闘争(ダンス)……………と…………………洒落………込もうぜ……………」
「…………………………ハァ?」
アルターエゴはその言葉を聞き、意味不明とばかりの表情をしたが、
やがてその表情は、とても楽しそうな邪悪な笑みへと変わった。
「面白れぇじゃねぇかオメェ。良いぜ!俺を満足させたら連中は追わねぇでやんよ!
た・だ・し………………………………………」
ビッ!とアルターエゴは掌を拡げてタイタスの眼の前に差し出す。
「5時間だ。5時間俺の猛攻を耐え抜いてみやがれ。耐えられるもんならなァ!
ほんのちょっとでも足りなかったら連中を追い、そして皆殺しにする!良いなぁ!?」
「良いだろうォッ!!」
男は全身に力を入れて声を張り上げ、自身の戦闘意欲を奮い立たせる。
「我が名はタイタス・クロウ!人として!人類として!!人理として!!!
貴様ら腐れ神性の権能の行使から世界を守護する抑止力の具現也!!」
「面白れぇ!やってみなぁ!!俺(あたし)はエ・グラトニール!
全てを喰らい全てを吸収し全てを取り込む!!暴食のアルターエゴだ!!」
二人が己の名と在り方を叫び、闘争が始まった。
その闘争の音は彼らを包む固有結界中に響き、後の英霊の話によると十数時間続いたと言われる。
◆
「そしてボクは奴の意志を継ぎ、何かあると言っただけの細い綱を頼りに…こうして希望を見つけてきたわけだ」
「だが…………そいつを安全に扱える保証もねぇ…。本当に、大丈夫なのか?」
その国定忠治の問いに、オデュッセウスはニヤリと笑って答えた。
「ボクはアイツを信じるさ。」
そう笑うオデュッセウスの横には、さきほどの赤髪の少女、刹那と呼ばれた少女が立つ。
「あ、あの………………」
「ん?何かな刹那ちゃん?」
「えっと、私達…………ようやく、戦うんですね……………。あの、アルターエゴ達と………。」
そう問う彼女の手が、微かではあるが震えていたのをオデュッセウスは悟った。
無理もない事であった。本来は聖杯戦争などと言う血みどろの戦争すら知らない少女であったのに、
こんな地獄すら生ぬるい悪夢に放り込まれたのだから。
────だが、そんな少女でも、些細なきっかけで成長することがある。
「い、いつでも魔力が欲しいなら言って下さい!!私達マスター、全力で支援します!」
「うん、ありがとう。でもいいのかい?ボク君のサーヴァントじゃないのに」
「ああ良いんです。彼女とは………もう別れを告げましたので………。」
「そっか、ごめんね。辛い事思い出させちゃって」
「いえ…、良いんです。とりあえず、皆でこの辛い状況から抜け出しましょう!」
おーっ!と二人の少女が拳を掲げた。そして、床に置いておいた黒い宝石をつまみ、一言…………。
「…………で、これどうやって使うんだい?」
◆
────────────アビエル・オリジンストーンの手記より抜粋
愛しき我が妹が、美しき最強へと変貌して、今日で丸一日。
まったくご先祖様もとんでもない術式を作り出した物だ。やっぱり血は争えん。
俺もご先祖さまも求める者は同じ、『最強』の二文字だったと言う訳だ!
だがしかし人理の大敵をまとめ上げるとは!その発想は無かった!参考としよう
人類悪の方が強いんだろうとか思ってたけど、人類悪より手軽故にこうして纏め上げやすいと言う訳だ。
纏めて召喚し、そして人格の統合に便乗させる形でまとめ上げる!良くできた術式よ本当に!
しかも家系図に起動式を隠すとはこれまた一本取られた!多重人格にもちゃんと意味があったのね!
…………とかなんとか書いてる場合じゃない。今の状況を綴っとこう。
現在、このフィールドを掌握しているボスキャラ…………クラス:アルターエゴと名乗る連中は
今のところ3人………。妹の人格を基礎としているのなら、あと1人いるハズなんだが………?
1人は街の、いや結界の?中心に座している。レモン妹のアルターエゴ。
一番接することが多い妹の人格だからとっつきやすいが…能力は不明。
分かる事と言ったら、一瞬でこの街の9割を廃墟へと変えたと言う事だけだ。怖い怖い。
もう1人はこの町中をグルングルンと飛んで徘徊しては人間やサーヴァントを食っているオリーブ妹のアルターエゴ。
こいつが一番分かりやすい。何かとイラついてるし空腹。まさに飢えた狼といったところだ。あ、貶し言葉よコレ?
対策は簡単。出会わなければそれでよし。無茶なんだけどさ。
更に1人が、ボルドー妹のアルターエゴ。こいつが一番怖い。昔っから分かんない妹だったが更に恐ろしい。
なんか姿形は俺より年上になっているし、服装はほぼ全裸だし、そしてやっている事は何やら兵隊?を産んでは
己の周囲を守らせているだけだ。その姿は神秘的であるながらも悍ましかった。
そして、それに対抗するは我ら人類の希望、サーヴァント達。
恐らく連中がアークエネミーを取り入れたせいであろう。1日数体のペースでこの結界内に増えている。
…………しかし、どれだけ増えても敵は人理の災害の複合体。サーヴァント単騎では敵うはずもない。
召喚されてすぐに敗北する者、召喚されても逃げ惑う者、挙句は連中に隷属する者まで出てきている。
だがそれでも、最初の聖杯戦争に参加していた英霊たちと協力し、地下レジスタンスを作り上げている英霊もいる。
分かるだけで現在、地下レジスタンス所属英霊■■基、敵隷属英霊■■基、中立英霊■■■基…といったところか。
勿論巻き込まれた魔術師たちも多い。
最初から聖杯戦争に参加していた連中7人に、この聖杯戦争の行方を監視するために送られた連中も多い。
すれ違った連中だけでも、カルデアの魔術師に時計塔の人、ノーパンだったから多分アトラス院の人…………
あと、ああそうだ。 弦糸五十四家の家紋?を付けてた人もいたっけぇー。ごめんねぇー先越しちゃってぇ
まぁやったの俺じゃあないんだけど。すんません空蝉瞳サァン。
恐らく魔術師は英霊たちのサポート、魔力供給に徹する事となるんだろう。是非とも頑張って欲しい。
オレぇ?俺は例えそれがコピーであろうと愛する妹の姿をとっているアルターエゴを攻撃するなんて良心が痛むぜぇー。
でも隷属なんて真似もしたくなぁーい。あんな不気味でエロティックな兵隊に作り変えられるなら死ぬわー
じゃあどうする?何する?簡単な話だ俺が直接連中に話を付けて仲間にしてーと頭を下げに行く!
実の兄が頭を下げるんだコレに反対する妹なぞ存在するわけがねぇ!!まってろ愛しい妹よ!
明日正午!お前を迎えに行く!!お兄ちゃん嬉しいぞそんなに色々と育ってくれて!!
◆
────────某月某日、正午
「よぅ愛しい妹よ!久しぶりだなでっかく育って!!」
「あら、生きておりましたのお兄様?あの時ストーンの名を持つ者はみんな死に絶えたと思いましたのに」
「いや全員生きてるぞ。地下で半分は昏睡状態ではあるけど。」
へらへらとした男が、気さくに街の中心に座するアルターエゴへと話しかける。
「あらそうですの?それはそれは良かったですわ」
「だっろー!!?やーっぱお前優しいもんなぁー!わざと殺さないでくれたんでしょー?」
その嬉しそうな男の言葉に、少女はニコリと微笑んで応える。
「ええ、エ・グラトニールめの食事が増えたんですもの。喜ばしい事この上ないですわ」
「……………………え?ディ、ディーティーム……………?」
「残念でございますが、ワタクシは貴方の知っているディーティームでも、ましてや貴方の妹でもございませんの」
ニコリ…と少女はより一層笑顔を強める。しかし、その笑顔は目の前に立つ兄の知る物では無い。
何よりも冷酷で、何よりも恐ろしく……………端的に言うなれば、”人の感情が無かった”
「正直、目障りですので消えてくださります?貴方の言動、癪に触りますの」
ガオンッ!と音が響いたと思った次の瞬間、彼女の目の前から、男の姿は”消えていた”
「衛星軌道上へ打ち上げましたわ。嗚呼ご安心を。ちゃんと酸素や気圧が無くとも生きていける体にしてありま………
って聞こえていませんわね。ごめんあそばせ」
「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ
ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!」
男が一人、生身で宇宙空間に放り投げられる。普通ならこの時点で死ぬが、少女の粋な計らいか嫌がらせか、
彼はこれでは死ねない身体へと作り変えられていた。
「ちっきしょー!!!やっぱアルターエゴ共を言いくるめて利用するのには失敗かぁー!!
だが待っていろ人理の大敵共そして人類悪共ォ!!おれは必ず帰って来るぞ!
宇宙にはまだ見ぬ最強の存在が待っているんだ!!ルディング・メテオストーンの論文に在るように!!
そして中南米にあるあの大蜘蛛のように!!!宇宙にも最強は満ちている!!
そうだ地球に固執すること何か無かったんだ!これぞまさにチャンスじゃないか!!
俺は探し当てる!!この宇宙で探し当てて見せる!!世界は破滅に!!宇宙は最強に満ちているのだからァ!!
はははははっ!!あーっはははははははははははははははははは!!!!!!!!!!」
────────男は、永遠に地球へは戻れなかった。
最強と 究極の 二つの狭間を追い続けて 永遠に 宇宙空間を彷徨い続けるのだった
そして、死のうと思っても 死ねないので そのうち アビエルは 考えるのを 辞め────────
────────────────────────
────────────────
────────
「…………………しもし?もしもーし?」
「ハッ!!月の裏側にかぐや姫!?……………って、あ…どうもおはようございます」
「はい、おはようございます。」
「え………えーっと…………その?ここは?一体?」
「ここはいたって普通の街です。おはようございます」
「あ、はい、おはようございます…。って2回目ですよね。
いっやぁーなんか衛星軌道上にかっ飛ばされる夢見ちゃいまして」
「それは災難でしたね。自己紹介がまだでしたね。はじめまして、私は[言語化不能]と申します」
「ああコレはこれはご丁寧に。自分アビエル・オリジンストーンと申しますでございます」
「はい、今後ともどうぞよろしくお願い致します」
「あ、何か食べるもの有りません?腹減っちゃって」
「ああ、ではこちらへどうぞ───────────────」
──────────月の裏側の音声記録、より抜粋
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