ImgCell-Automaton。 ここはimgにおけるいわゆる「僕鯖wiki」です。 オランダ&ネバダの座と並行して数多の泥鯖を、そして泥鱒をも記録し続けます。

『飛翔』

大罪の聖杯戦争、序章-route.M



月面、の、裏側。

「────どうでしょうか?」

本来ならば、見渡す限り、不毛な岩石しか広がってない筈の場所。

「…いや、美味いですよ?美味いんですけど」
「…何かご不満が?アビエル」
「…いいえ?ただ、まさか白米出てくると思わなかっただけででして」

…其処に在るは、未来の文明都市。
しかして、その街に光は無く、在るのはただ一機(ひとり)のみ…で、あるはずだった。

「現在の西暦での、あなたの言語地域での主食を、可能な限り再現したのですが」
「…再現?いま再現って言いました?」
「はい。なので、厳密に言えばそれは本来の白米、ではありませんね。成分及び性質は、99.9以下96桁パーセンテージまで一致していますが」
「……まぁ、大丈夫ならいいっすわ」

…地球での騒乱。
それにより「弾き出された」男が一人。
どういうわけか、その市街の中央部で白米を食らっていた。

「…ごちそうさんでした、っと」
「お粗末様でした」

「…では、食事も済みましたし、一つ質問をよろしいでしょうか。アビエル」
「ん?はいはいご自由に?俺に答えられることならなんでもどーぞ?」

「…その、他の人類は、どこに?」
「へ?」

…少女(便宜上、ソレをそう呼ぶ)に問われた男は、その台詞のあまりの素っ頓狂さに、思わず、一瞬思考が停止する。

「…私の中の記録によれば、この世代ならば人類は72億前後の人口を保っている筈なのですが…」
「…いや、どこに、って、そりゃ地球でしょ、地球」

「…はい?…ここが地球では?」
「…いやいや?ここ、ノットアースですよ?俺今さっき地球からかっ飛ばされましたし?」

「───────」

何を言う、といった調子で男が答えた瞬間、少女の気配が変わる。

「な、何?」
「座標確認。エラー。原因サーチ。1件該当。抑止力による干渉及び行動制限を確認。エラー修正開始。疑似根源、接続。抑止排除。…エラー、削除完了。再度座標確認。計算終了。…現在位置、月面」

少女が高速で何かを口走る。その体表に見える歯車が高速で回ると、しかし即座に停止した。


「…なるほど、理解しました。アビエル、まずは感謝を」
「え?あ、はい。どういたしまして
?」

「……そして、巻き込んでしまい、申し訳ありません」
「え?……痛ッ!?」

瞬間、男の手に、痺れるような痛みが走る。
…だがそれは、男にとっては、幾度か経験のある痛みだった。

「これは…令呪の!」

…そう。
彼の右手の甲に刻まれるは、円の中に、歯車。その更なる中心に地球の意匠をたたえ────蒼白く光る、令呪であった。

「ってアレ?青い?」
「…これで、情報の同期及び市民登録第一号、そして、マスター権限の付与が完了しました」

「ちょ、ちょちょちょっと待ってくださいません?」
「権限の取り消しは不可能です」
「あ、いやいや、そこは別に…まぁ。ともかく、説明が欲しいんすわ説明」

「……あぁ、すみません。そうですね。…では、時間も無いですし、簡潔に。私が何であり、何をしようとしているか。そして、貴方…マスターに何をしてもらうかを、お伝えしましょう」
「…あ、はい。お願いします」

少女は語り出す。

「まず、私はこの時代から見ると、遥か未来の存在という事になります。正確には平行世界に近しいものなので、直結の未来ではありませんが。そして私は、その世界より、人類文明を保つために、過去へと送り込まれた機構です」
「……えーっと、て事は、このようかわらない建造物群は、未来の我々が?」
「はい。…異星のもの、とでも思いましたでしょうか?…それが抑止力の目的でしたのですから、仕方ありませんが。……話が逸れましたね。…私の役目である文明の保存。その本質は、文明機構の全てを単独で再現可能な私を過去の平行世界へと送り込むことで、現地の人類に、その文明を継承することにあります」
「…え?この街一人で?」
「はい。内蔵機構により、自動展開、増殖が可能です。……なので、本来ならば私は地球へと自立証明レイシフトし、文明の継承を行う筈でした。……しかし、どうやら抑止力により『月面の未来都市』に付随されてしまい、ここに座標を固定されてしまったようなのです。……そこで、貴方が必要となります、マスター」
「…はぁ」
「貴方をマスターとし、私をサーヴァントとして偽造することで、抑止力側からの制限を逸らします」
「…なるほど…?」
「そうすることで、この月面から地球へと飛翔。…マスターの記憶から読み取った、大異変の排除と、目的の達成へ向かいます」
「異変の排除と言いましても貴方さんがどのくらい…あサーヴァントだからステータス見りゃいいのかってドゥエ!?」

男の脳内に浮かんだ文字列は、何かが、おかしかった。

『【ステータス】筋力:★ 耐久:★ 敏捷:★ 魔力: ★ 幸運:★ 宝具:EX』

「…ホワイ?なんですか星って?」
「それは測定不能ランクを表します。規格外、というEXとは違い、規格の内外を問わず、全貌を把握できない、という事です。…まぁ、私は恐らく、この時代の全ての魔術師が集ったところで、スペックの1/10も解析できないでしょうしね」

「……もしかして貴方さん、最強でいらっしゃいます?」

「……それは、最強、の意味をどう取るかによりますね。…ですが、私の内蔵機関には、紀元後4億2584万5214年分の人理が全て記録されています。それは同時に、それだけの人理を束ねたエネルギー炉心の役割を果たしています」
「…よん、おく?」

「そして、現時点…いえ、これからの未来においても最も障害となる『侵食異界』に対しても、93%以上での有利交戦、そして78%以上での完全破壊を目論めます」
「……は?」

「…ですので。強力な精神干渉、もしくは情報への同時多数の霊子ハッキング、あるいはマスターの損失による月面への再封印。これらの条件が満たされなければ────────」

「…現状、地球上に、私を完全に破壊できるものは存在しません」


…その言葉を聞いた男は、前髪を振り乱しながら叫んだ。

「…マジか!?マジかよ!?ひ、ひゃ、ひゃーーーっはっはっはっはっはっはっはっーー!!!!?」

「どうしました…?…あ、いえ、こういう方なのですね、理解しました」
「…はは、ははははは!!!!ある意味妹に感謝だなぁこりゃあ!!…本当に、本当に宇宙には、誰も知らない最強が眠ってやがったんだあああああああ!!!!!!!しかも、それがこのおれのサーーーヴァントだぞぉおおおおお!??!???!!!」

「…すみません、なので。一週間の刻限より先に、私はあなたと共に地球へと戻ります。…まぁ、私にとっては戻る、とは言えないのかもしれませんが」
「…あっ、はい、すいません。もう行きます?」

「……その前に、ひとつだけやらなければいけない事があります。…抑止力への仕返しのようなものですが、確実性を上げるために…」

そう言った少女の背中から、数本のケーブルのようなものが伸び、地面へと突き刺さる。

「…マスターは、ムーンセル、という単語をご存知ですか?」
「もちもちろんろん?なんかすごいやつなのに目立つから手を出しにくいアレでしょう?」
「…はい。まあ。…現状の私は、リソースをその内半分と共有してしまっています。…なので」

「…それは、貰って行きます」
「……ヒューッ!!!!最高だぜ!!!!」




…都市は収束する。
その下、月の岩盤下の半球を、ただの岩石に変えながら。

…都市は収束した。
少女の姿をした一つの文明は、傍らに一人の男を立たせ、飛翔の準備へと入る。

「…そだ、もっかい名前教えてくださいません?」
「[言語化不能]です」

「…すいません。現代人、ソレ聞き取れないんすよ。なんで…意訳お願いできます?」
「意訳……『楽園』の概念を指す単語の、一つだった筈です」

「…じゃあ、呼びやすいように名前付けてもいいです?」
「……いいです」


「…じゃあ…『エデン』!!…とか、どうっすかね?」


「…了解。個体名追加」

「…よし!んじゃ、行きますかね!!全ての理不尽を棄却した、おれたちの楽園の為に!!!!」

「…?…九重次元障壁展開、亜光速霊子放出加速機構発動。『叡智の本棚・転写』、複写。再現権能、世界新編。…飛翔準備、完了」

「うおうおうお?なんか聞こえちゃいけない単語が???」

「…掴まってください。そして、着地までは喋らない事ですよ」

「…了解!!」



──────瞬間、光と共に飛び立つ二つの影。


それは、一秒と経たず、地へと降り立つ。




「…さぁ、我ら人類の反撃です」
「月からの放蕩より帰参!!俺は無敵を手に入れたぞおおおおおおお!!!!!」


…人類の叡智と、人類の大敵。
その大戦が、始まろうとしていた。


─────────────────────


『予告未遂』



────『男』と『楽園』は



「宝具、真名登録。多重展開。

…『天地乖離す開闢の星・双』」



────「理不尽」を壊すため



「はははっ、すげぇすげぇ!ほらほらどうですか大敵さんたちィ!!!」



────何よりも理不尽に



「今更命乞いしてもですねぇ!!俺が許してもコイツが許してくれるわけないでしょう!??!??!??」




────その力を振るう



「…更なる敵性存在を確認。……異常霊基と確認。通常攻性プログラムでの攻撃、有効確率極低。……攻性プログラム、全開放。宝具、真名登録。平行人理装填─────



…『再誕の時来たれり、我全てを修めるもの』」
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