最終更新:ID:qFBK3jEr4g 2021年05月12日(水) 21:25:58履歴
「檀那。着いたぞ。懲役棟 だ。」
「…うん。だいじょうぶ、セイバー。」
傍の幼子は、そう答えるも。
"生きたいのに。こわい。きえるのが、こわい。…けすのが、こわい。でも。でも。"
その心は余りにも。今にも消えてしまいそうだった。
セイバーにとって、己の檀那 であるオズワルドは守るべき存在だった。たとえ、自ずから罪人を名乗ろうと。
たとえ、その存在が極小単位に過ぎずとも。
そういう契約を交わしたから。それだけではない。契約を交わすだけの、魂の輝きを見たから。それは、間違いない。
「さあ、此度もコードキー探しと行こうか、檀那。」
そう声をかけ、共に一歩を踏み出す。記憶を失くしたサーヴァント。脆弱で穴だらけのマスター。
彼らが勝利を掴むには、ダンジョンの攻略は欠かせない──。
収容棟 から突入できる懲役棟 と呼ばれるダンジョンには、月の聖杯戦争の猶予期間 における重要事項の多くが詰め込まれている。
一つ、コードキーの入手。執行 の日、決戦の場となる刑場 に入場するには、ダンジョン内に生成されるコードキーを入手しなければならない。
参戦資格そのものを得られなければ、待つのは闘わずして消滅する道のみ。
二つ、アイテムおよび月砂 の入手。ダンジョン内には戦闘などに活用できるアイテム及び、月において通貨として使用できるレゴリスを遺す エネミーが設置されている。
レゴリスはコードキャストの作成、換装など数々の面で必須であり、強いマスターとレゴリス長者はほぼ同義である。
そして三つ。次なる対戦相手の情報の入手。ダンジョンに侵入できるのは自分だけではない。対戦相手も同じようにダンジョンを攻略し、戦果を得る。
相手サーヴァントの戦闘の残滓を見つければ、その戦力、クラス、あるいは真名をも明らかにする手がかりとすることができるだろう。
またそれだけではなく────
「…ライダー。宝具の使用を許可する。ただし─」
「もちろん。直接手は出さず、あくまで妨害。強制中断はボクもゴメンだよ、マスター。」
そうどこかで声がしたことに、セイバー達は気づいていない。
そして、瞬く間に。
「…!檀那。"おかしな霧が出てきた"…って、檀那!?」
一寸先すら霧に紛れ、セイバーの視界から全てのものが消えた。…無防備なマスターを含めて。
…またそれだけではなく。対戦相手に干渉することも、可能である。
直接の戦闘は短期間のうちに強制中断されてしまうが、間接的な妨害なら話は別。
…セイバーとオズは、先の見えない靄の中に閉ざされてしまった。
これでは探索どころではない。いや、その前に檀那を護らなければ。
「檀那!…ダメだ、完全に分断された…!」
果てしない霧の中、声すらすぐに吸い込まれる。赤髪の女性はただ歯噛みして身を動かせずにいた。
が。
"セイバー、セイバー!きこえる、かな?"
確かに聞こえる、心に響く声があった。
"つみびと"のオズワルド。死したデータの残骸より、継ぎ接ぎによって生まれた生命。
彼の"生まれ持っての"特性。流出思考 。
その幼き思考を霊子に載せて外へ流出させてしまい、他者に"サトラレ"てしまう。見せたくないもの、聞かれたくない言葉さえ。
しかし、今回はその特性が功を奏した。
彼が強くセイバーを想うことで、その位置は思考の発信源としてセイバーへ伝わる。
「…おお聞こえたぞ檀那!ねぇ、そこから動がないように!」
ひしっ。
声の"響く"方へセイバーがいくと、足元に何かがしがみついた。…振り払ったりなどするわけない。それは我が檀那 なのだから。
「セイバー!よかった、セイバーがいなかったら、ぼくは…。」
「おおみなまで言うな。大丈夫か、檀那?」
"セイバーといっしょなら、きっと。"
「ねえ、セイバー。一つ、おねがいが。」
なんだろう。了承する。
「手を。繋いでくれませんか。ここを出るまで、離れるわけにはいかないですよね。」
"こわい。こわい。でも、セイバーといっしょなら。"
「…もちろんだとも、檀那!」
その小さな掌を掴み、ふと思う。自らが檀那と呼ぶ幼子の、言葉にできない心の奥底を想う。
きっと、檀那の視界は未知と恐怖で常に覆われている。
生まれたばかりのその存在は、あまりにも儚い。自分が狼狽えた霧の中でも、檀那は狼狽えなかった。
それは逆に言えば、今まで常にその視界は霧に包まれていたということではないか。
そう、今と同じだ。漸く自分は、檀那と同じ視点を持てたのだ。
「…感謝しよう。姿なき敵よ。」
未だ霧は晴れず。されど、前よりもよく見通せるようになった。
なによりも大切な、護るべきひとのことを。
「…うん。だいじょうぶ、セイバー。」
傍の幼子は、そう答えるも。
"生きたいのに。こわい。きえるのが、こわい。…けすのが、こわい。でも。でも。"
その心は余りにも。今にも消えてしまいそうだった。
セイバーにとって、己の
たとえ、その存在が極小単位に過ぎずとも。
そういう契約を交わしたから。それだけではない。契約を交わすだけの、魂の輝きを見たから。それは、間違いない。
「さあ、此度もコードキー探しと行こうか、檀那。」
そう声をかけ、共に一歩を踏み出す。記憶を失くしたサーヴァント。脆弱で穴だらけのマスター。
彼らが勝利を掴むには、ダンジョンの攻略は欠かせない──。
一つ、コードキーの入手。
参戦資格そのものを得られなければ、待つのは闘わずして消滅する道のみ。
二つ、アイテムおよび
レゴリスはコードキャストの作成、換装など数々の面で必須であり、強いマスターとレゴリス長者はほぼ同義である。
そして三つ。次なる対戦相手の情報の入手。ダンジョンに侵入できるのは自分だけではない。対戦相手も同じようにダンジョンを攻略し、戦果を得る。
相手サーヴァントの戦闘の残滓を見つければ、その戦力、クラス、あるいは真名をも明らかにする手がかりとすることができるだろう。
またそれだけではなく────
「…ライダー。宝具の使用を許可する。ただし─」
「もちろん。直接手は出さず、あくまで妨害。強制中断はボクもゴメンだよ、マスター。」
そうどこかで声がしたことに、セイバー達は気づいていない。
そして、瞬く間に。
「…!檀那。"おかしな霧が出てきた"…って、檀那!?」
一寸先すら霧に紛れ、セイバーの視界から全てのものが消えた。…無防備なマスターを含めて。
…またそれだけではなく。対戦相手に干渉することも、可能である。
直接の戦闘は短期間のうちに強制中断されてしまうが、間接的な妨害なら話は別。
…セイバーとオズは、先の見えない靄の中に閉ざされてしまった。
これでは探索どころではない。いや、その前に檀那を護らなければ。
「檀那!…ダメだ、完全に分断された…!」
果てしない霧の中、声すらすぐに吸い込まれる。赤髪の女性はただ歯噛みして身を動かせずにいた。
が。
"セイバー、セイバー!きこえる、かな?"
確かに聞こえる、心に響く声があった。
"つみびと"のオズワルド。死したデータの残骸より、継ぎ接ぎによって生まれた生命。
彼の"生まれ持っての"特性。
その幼き思考を霊子に載せて外へ流出させてしまい、他者に"サトラレ"てしまう。見せたくないもの、聞かれたくない言葉さえ。
しかし、今回はその特性が功を奏した。
彼が強くセイバーを想うことで、その位置は思考の発信源としてセイバーへ伝わる。
「…おお聞こえたぞ檀那!ねぇ、そこから動がないように!」
ひしっ。
声の"響く"方へセイバーがいくと、足元に何かがしがみついた。…振り払ったりなどするわけない。それは我が
「セイバー!よかった、セイバーがいなかったら、ぼくは…。」
「おおみなまで言うな。大丈夫か、檀那?」
"セイバーといっしょなら、きっと。"
「ねえ、セイバー。一つ、おねがいが。」
なんだろう。了承する。
「手を。繋いでくれませんか。ここを出るまで、離れるわけにはいかないですよね。」
"こわい。こわい。でも、セイバーといっしょなら。"
「…もちろんだとも、檀那!」
その小さな掌を掴み、ふと思う。自らが檀那と呼ぶ幼子の、言葉にできない心の奥底を想う。
きっと、檀那の視界は未知と恐怖で常に覆われている。
生まれたばかりのその存在は、あまりにも儚い。自分が狼狽えた霧の中でも、檀那は狼狽えなかった。
それは逆に言えば、今まで常にその視界は霧に包まれていたということではないか。
そう、今と同じだ。漸く自分は、檀那と同じ視点を持てたのだ。
「…感謝しよう。姿なき敵よ。」
未だ霧は晴れず。されど、前よりもよく見通せるようになった。
なによりも大切な、護るべきひとのことを。
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