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モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ。謝って狼の森に入ってしまった酔っぱらいと飢える狼を語った一冊。

蒲公英酒の国で、傲語と流言は酒気と一緒に飛んでいく。
酔っ払いの間で、誇張された伝説は往々にもっと遠くまで広げられる。酒臭い戯言のように、あの伝説もごちゃごちゃでおもしろく見えがちである。

伝説によると、モンドのある時代に有名な酔っ払いがいた。休猟時間の清泉町の狩人と同じくらいに、彼は酒量が多く、いつも泥酔まで飲み続けた。金を使い尽くすまで、彼が酒場から出ることは決してなかったという。

ある日、飲み終わった酔っ払いはふらふらと間違って狼の森に突っ込んでしまった。

今の奔狼領はすでに王狼の領地、理性ある者は大半森の殺気で逃げ道を選ぶ。北風の王狼が狼たちの魂を集めて、外部からの侵入を防ぐためであると、年をとった狩り人は言う。
遥か昔の時代。群狼の領主がまだ北風とともに森へ訪れ、狼族に秩序と平和をもたらしていない時代。森は狼たちが争い、血にまみれた遊戯をしてきた場であった。

こうして、モンドの有名な酔っ払いは狼の森に突っ込んだ。

黒い森の影に覆われ、草や枝が足を引っ張っても、酔っ払いは気にすることなく歩き続けた。
あっという間に、緑色の光る目が彼を狙った。
それは一匹の狼。狼は酔っ払いの後ろをつけながら心の中で囁いた。
「これは怪しいぞ！」

数百年の間に、狼の森に入ってくる人間は一人もいなかった。例え傲慢な貴族であっても、面倒にならないよう、奴隷をこの森に流すことを拒んだ。

「なのにこいつ、一人でここまでくるとは、実に怪しい！」
狼はこう思いながら、酔っ払いの酒気を耐えてその後ろをついていった。

モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ。本巻では、酔っぱらいが孤狼に過去のことを教えた。

遥か遠い荒原の上に、一匹の狼がいた。

やつはかつての王狼、自分の部族を率いて郷土を探し、狩りと戦いを経ってきた……あの頃の生活はやつの体に数多くの傷を残した。

やつは部族を率いて野原と古びた宮殿を越し、魔物と仙霊の領地を駆け抜けた。
荒原は残酷な地。日々に衰弱する王狼の群れもだんだん四散することになった。年月が経つと、群れには老いた王狼しか残っていなかった。

伝説によると、荒原は神が存在しない地、古い魔神が残した亡霊の残骸と旧日の仙霊が住んだ宮殿が残されているだけだった。独り身の老狼が灰色の宮殿を通りがかる時、やつは音楽の音に引きつけた。

「これほどの美しい響を耳にしたことがない。空腹感を忘れるいい音じゃ。」
狼は雑草が生い茂った灰色の広間に足を運んだ。砕いた石棺の上にある彫刻は依然として顔がはっきり見えた。

室内に入ると、狼は演奏をしている少女にであった。
彼女は灰のような蒼白の肌をしていて、目を目を伏せいでいた。彼女はその細長い指でリュートの弦をかき撫で、悲しい曲を弾いていた。

狼は少女の前で座った。渇きと孤独を忘れたまま、やつは静かに少女の演奏を聞いた。

「昔日の秋夜の蝉鳴りは、流し者の吟唱であり、人類最初の歌であった。
「彼らはすべての形と神が宿る故郷を失い、歌と思い出しか残されていた。
「最後の歌い手が、最初の仙霊が、終わりの曲を弾きながら天使のホールに座っていた。」

森で遊ぶフェアリーも彼女の歌に引かれて、敬意を捧げた。

「何の歌だ？」
狼は困惑の顔をして、彼女に問いかけた。単語も、音節も分かるが、少女の言葉は狼が聞いた幾多の言葉とも違った。

「仙霊の歌です。」
蒼白の少女は答える、
「遥かな昔、私たちが荒地の人間のために作った歌です。今は己の運命を歌っているんですけど……」

すると、狼は少女の旋律に従って不器用に呼応し始めた。
狼の声は滄桑して、悲しみに溢れていた。

「何を歌っていますか？」
少女が聞く。

「俺たちの歌だ。」
狼が応えた。

「聞き苦しいです。」
リュートを撫でながら、少女は情けなく評価した。
「一緒に歌うのはどうでしょうか？」

こうして、狼と少女の合唱が古びた宮殿のホールで響いた。今でもその地を通りがかる冒険者はその奇妙な歌声を耳にすると云う。

「これだけ？」
がっかりしたように、狼は口元を舐めた、

モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ。本巻では、孤狼が酔っぱらいにお酒と狼のことを教えた。

伝説によれば、モンド最初の酒は北風が吹荒ぶ時代に醸造したと言われる。

氷結の王たちが争う時代、氷の嵐で抗った祖先たちは果実を酒にし、寒さを避けた。あの氷雪がモンドを覆い、蒲公英がまだ成長しなかった時代に、酒は彼らに勇気を与えた。

モンド初の酒を発明した者は一人のあわてんぼであった。

氷雪が部落を覆った時、あわてんぼは部落の食料を見張っていた。
いくら天地が雪に覆われたと言え、たまに寒さに耐える小動物が穴を掘って、食料を盗み食いした。だから、部落には食料を集めた洞窟を見張る者が必要だった。

当時に、陰気な洞窟を見張るには十分の気を配らなければならなかった。さもないと、積み上げた食料は大半湿気で腐ってしまった。そしてたまに、隠れた小さい生霊も人間に悪ふざけをした。

あわてんぼはまたサボった。風の精霊は狐の姿に変化し、洞窟に忍び込んで、酵母を生成し、果実を熟成させた。
腹が減って果実を取りにくるあわてんぼは発酵する果実の濃厚な食感に惑わせ、即時にそれを獣の皮で絞ったものが、今の酒になった。

雪原で酒を発明したあわてんぼは初めての酔っ払いでもあった、彼が初めて酔っ払って夢に落ちた人であった。

最初の夢で、彼は一匹の狼になった。そして長い時間を経って、彼は同類たちと風雪の中で人間と食べ物を争い、また最初の仙霊にであった。

群れで生きる人も、群れで生きる狼も孤独に耐えない生き物。酒は彼らの夢を繋いだ。

しかし、彼らが夢に対する態度は全然逆だった。

人間が狼の荒原に憧れのは見たことあるが、狼は人間の欲望に怯えた。牠は人間が危ない幻覚に酔って希望を探す行為が分からなかった。
最も狼が忌憚するのは、人間の夢で自分が狼なのか、狼の魂を持つ人間なのかが区別つかないことであった。

それで、狼は人間の毒物から離れることを誓った。
風の民ではない狼は酒と牧歌に属していなかった。だから、狼は人間の領地から離れ、荒野と森で家を建てた。

「これがお前たちが酒と呼んでいるものと狼の関係だ。」
狼は自慢そうに酔っ払いに言った。
しかし、酔っ払いはすでに松の葉でぐっすりと眠った。

狼はため息をし、酔っ払いを置いて、場を離れた。

モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ。謝って狼の森に入ってしまった酔っぱらいと飢える狼を語った一冊。

蒲公英酒の国では、自慢話と噂話は酒気と一緒に広まっていく。
酔っ払いの間で誇張された伝説は、往々にしてより遠くまで拡散される。酒臭い戯言のように、本来の伝説よりも二転三転とする物語は面白く生まれ変わるのである。

とある言い伝えによると、モンドのある時代に有名な酔っ払いがいたそうだ。休猟時間の清泉町の狩人と同じくらい彼は酒量が多く、いつも泥酔するまで飲み続けた。金を使い尽くすまで、彼が酒場から出ることは決してなかったという。

ある日のこと、飲み終わった酔っ払いがふらふらと間違って狼の森に足を踏み入れてしまった。

今でこそ奔狼領はすでに狼王の領地であり、理性ある者は大半が森の殺気で逃げることを選ぶだろう。これは北風の狼王が狼たちの魂を集め、外部からの侵入を防ぐためであると歳をとった狩り人は話す。
しかし、遥か昔の時代。群狼の領主がまだ北風とともに森へ訪れておらず、狼族に秩序と平和をもたらしていない時代。森の狼たちは争い、そこは血にまみれた遊戯の場であった。

そんな狼の森に、モンドの有名な酔っ払いは迷い込む。

黒い森は影に覆われ、草や枝が足に引っかかろうとも、酔っ払いは気にすることなく歩き続けた。
瞬く間に、緑色に光る眼が彼を見据える。
それは一匹の狼。狼は酔っ払いの後をつけながら心の中で呟いた。
「これは怪しい！」

数百年もの間、狼の森に入ってくる人間は一人もいなかった。例え傲慢な貴族であっても、面倒にならないよう奴隷をこの森に流すことを拒んだ。

「なのにこいつ、一人でここまでくるとは実に怪しい！」
狼はそう思いながら、酔っ払いの酒気に耐えながら、その後ろをついて歩く。

モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ。飢える狼と酔っぱらいの出会いを語った一冊。

周知の通り、狼の嗅覚は人間より数万倍敏感である。
獲物を追いかける途中、狼は酒気にやられ緑色の目には涙が留まっていた。

「フン……」
野原で生まれ、森で育った狼は一度も人間の文化に接したことがなかった。たまにシードル湖の向こうから酒の香りが吹かれてくるが、狼がその匂いの意味を知るすべはなかった。

「こいつ、鼬（イタチ）の同類かもしれない。とっくのとうに俺に気づいていて、おならをしたんだ！」
そう思った狼は、酒の匂いに耐えながら足を速めた。

酔っ払いは狼と違って慎重な生き物ではない。
酒は時に人を狂わせ、時に人の感覚を繊細にする。
原理は不明だが、酔っ払いは自分についてくる狼に気づいてしまった。
酒気でくらくらした狼が、松葉を踏んで音を出したのかもしれない。

「誰だ、お前もトイレを探しているのか？」
酔っ払いは覚束ない口調で聞いた。
「人間、お前こそ誰だ？すごく臭いぞ！」
狼は鼻をヒクヒクさせながら、脅すような声音で答える。

しわがれている狼の声に、酔っ払いは恐怖よりも興味を持った。
「ダチよ、どういう事情かは知らないが……モンド人につまらない酒は大禁忌だ。今宵はこの月明かりの下で、何か物語を話そう」
言い終えると、彼はげっぷをした。

狼は酔っ払いの言葉を無視して、その喉を一気に噛みちぎってやろうかと考える。
だが、酒の悪臭のせいで食欲はそそられず、狼はしぶしぶ了承した。
「フン、思えばそんなに腹が減ってるわけでもねぇ……お前の戯言に付き合ってやる」

酔っ払いが背伸びをすると、蒲公英の綿毛がいくつか舞い上がった。
そして、彼は今夜の物語をはじめた。

モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ。本巻では、酔っぱらいが孤狼に過去のことを教えた。

遥か遠い荒原の上に、一匹の狼がいた。

そいつはかつての狼王、自分の部族を率いて郷土を探し、狩りと戦いを幾度と経験してきた……その頃の暮らしがヤツの体に数多くの傷を残した。

ヤツは部族を率いて野原と古びた宮殿を越え、魔物と仙霊の領地を駆け抜けた。
荒原は残酷な地だ。日々衰弱する狼王の群れもだんだんと四散していった。年月が経つと、群れには老いた狼王しか残っていなかった。

伝説によると、荒原は神が存在しない地、古い魔神が残した亡霊の残骸と旧日の仙霊が住んだ宮殿が残されているだけ。その独り身の老狼が灰色の宮殿を通りがかった時、ヤツの耳に音楽が聞こえてきた。

「これほどに美しい響きは耳にしたことがない。空腹感を忘れるいい音じゃ」
狼は雑草が生い茂った灰色の広間に足を運んだ。砕けた石の棺の上にある旧主の彫刻は、依然として顔がはっきりと伺えた。

室内に入ると、狼は演奏をしていた少女を見つける。
彼女は灰のような蒼白の肌をしていて、目を伏せていた。彼女はその細長い指でリュートの弦をかき撫で、悲しい曲を弾いていた。

狼は少女の前に座った。渇きと孤独を忘れ、静かに少女の演奏に聞き入った。

「昔日の秋夜の蝉鳴りは、流し者の吟唱であり、人類最初の歌であった」
「彼らはすべての形と神が宿る故郷を失い、歌と思い出しか残されていない」
「最後の歌い手が、最初の仙霊が、終わりの曲を弾きながら天使のホールに座っていた」

森で遊ぶ妖精も彼女の歌に惹かれて、敬意を払った。

「何の歌だ？」
狼は困惑しながら、彼女に問いかけた。単語も、音節も分かるが、少女の言葉は狼が聞いてきた幾多の言葉とも違っていた。

「仙霊の歌です」
蒼白の少女が答える、
「遥かな昔、私たちが荒地の人間のために作った歌です。今は己の運命を歌っているんですけど……」

すると、狼は少女の旋律に従って不器用に呼応し始めた。
狼の声は冷たく、悲しみに溢れていた。

「何を歌っているのですか？」
少女が聞く。

「俺たちの歌だ」
狼が応えた。

「聞き苦しいです」
リュートを撫でながら、少女は容赦なく評価した。
「一緒に歌うのはどうでしょうか？」

こうして、狼と少女の合唱が古びた宮殿のホールに響いた。今でもその地を通りがかる冒険者はその奇妙な歌声を耳にするという。

「それだけか？」
がっかりしたように、狼は口元を舐めた。
「そうだ、俺がひとつ語ってやろう」

狼は咳払いをして、物語を始めた。

モンドで言い伝えられている酒飲みの物語の1つ。本巻では、孤狼が酔っぱらいにお酒と狼のことを教えた。

伝説によれば、モンド最高の酒は北風が吹荒ぶ時代に醸造されたと言われる。

氷結の王たちが争う時代、氷の嵐に抗った人間の祖先たちは果実を酒にし寒さを耐え忍んだ。あの氷雪がモンドを覆い、蒲公英がまだ成長しなかった時代に、酒は彼らに勇気を与えたのだ。

モンドで初めて酒を発明した者は、一人のあわてんぼうであった。

氷雪が部落を覆った時、あわてんぼうは部落の食料を見張っていた。
いくら天地が雪に覆われたとは言え、たまに寒さに耐えながらも小動物が穴を掘り、食料を盗み食いするからだ。だから、部落には食料を集めた洞窟を見張る者が必要だった。

当時、湿気のこもる洞窟を見張るには十分な気を配らなければならなかった。さもないと、積み上げた食料の大半が湿気により腐ってしまうのだ。そしてごく稀にだが、隠れた小さな生霊が人間にいたずらもした。

あわてんぼうはサボっていた、これは今に始まったことではない。その時、風の精霊が狐の姿に化け、洞窟に忍び込むと酵母を生成し、果実を熟成させた。
腹が減って果実を取りに来たあわてんぼうが発酵する果実の濃厚な香りに惑わされ、即時にそれを獣の皮で絞ったのが今の酒となる。

雪原で酒を発明したあわてんぼうは初めての酔っ払いであり、そのまま寝落ちして夢を見た初めての人間でもあった。

最初の夢で、彼は一匹の狼になった。長い時間を経て、彼は他の群れの狼と牙を交え、雪風の中で人間と食べ物を奪い合った。そして、再び最初の仙霊に出会う。

群れで生きる人も、群れで生きる狼も孤独には耐えられない生き物だ。酒が彼らの夢を繋いだ。

しかし、彼らが夢に抱く思いは全くの逆だった。

吹雪を見てきた人間は狼が駆ける荒原に憧れたが、孤独な狼は人間の欲望に恐れを感じた。なぜ人間は危ない幻覚に酔いしれ、そこに希望を求めるのかが分からなかった。
さらに狼が恐れたのは、人間の夢で自分が狼なのか、狼の魂を持つ人間なのか区別がつかなかったことだ。

（テキスト記録漏れ）
風の民ではない狼は酒と牧歌に属していない。だから、狼は人間の領地から離れ、荒野と森に住処を構えた。

「これが、お前たちが酒と呼んでいるものと狼の関係だ」
狼は自慢げに酔っ払いに言った。
しかし、酔っ払いはすでに松の葉の上でぐっすりと眠っていた。

狼はため息を吐き、酔っ払いを置いてその場を離れるのであった。