kagemiya@ふたば

さて、メナム河の水底には、ワニが魔法の宝玉の力で人となって暮らしている王国があった。
水底の洞窟の中ではワニは人に化け、洞窟から出ればワニの姿に戻るというものだ。
さて、その王国の一つを守るワニ王ラムバイは仏の教えを正しく守る王であり、それもあってかラムバイの国と人の間にはこれといって問題は発生していなかった。
だが、ラムバイが老いで前線を退いたことで新たに王となったチャーラワンは、仏の教えを守らず、欲望のままに人肉を食らい、悪事を働く悪しき王だった。

ある日、チャーラワンにより、人間の大富豪の娘であるタパオトーンが拐われてしまう。
チャーラワンはタパオトーンに一目惚れし、自らの国に連れ込んでタパオトーンを妻にしたのだ。
だが、娘を拐われた富豪はそんなことはいざ知らず。
娘の仇と意気込み、最も早くチャーラワンを生け捕りにした者に多大な報酬を約束した。
そして、報酬目当てのワニハンターたちが次々とチャーラワンに挑んだ。
しかしチャーラワンは魔法の牙を持っており不死身であったため、それを知らずに挑んだワニハンター達は次々と命を落としてしまう。
絶望した富豪は報酬を上げ、ワニ王を討伐した者に自らの財産の半分と、タパオトーンの妹であるタパオケオを嫁にやると公言した。

さて、クライトーンは船で商売に来ていた町でその噂を耳にすると、商人事業拡大のための資金とついでに嫁を求めチャーラワン退治に立候補することを決意する。
そこで常日頃呪文念法を教わっていた寺の住職(師匠)の元に行くと、自分がワニ王を打倒できるかどうか相談した。

師匠は「お前の実力ならば、勝つことができるだろう。ただし奴は不死身であり、それをどうにかしない限り殺すことはできん」と答えた。
クライトーンは「ならば、不死身のワニ王を倒すにはどうすれば良いのです」と聞いた。
それに対して師匠は、「この槍、七つの金属を一つにして作られた七金鎗であれば、奴の鱗を貫き、魔法の力を無効にして仕留めることができる」といい七金鎗を見せた。
当然、クライトーンは「お師匠様、ではその槍をお貸しください」と頼み込んだ。
だが師匠は、「ならぬ。出家の身のわしが、人の殺生を助けることをしてはならぬのだ。わしが手渡せるのはこの程度よ」と言い護符をクライトーンに渡し、「話は終わりだ。行くなら行け」と、七金鎗を壁に立て掛け、寝転がって寝息を立て始めた。
師匠の真意を察したクライトーンは、「申し訳ありません、この槍、お借りします」と七金鎗を手に取ると、急いでワニ王退治の準備に向かった。
クライトーンが去った後、師匠はむくりと起き上がると「あやつめ、やっぱり持っていきおったわい」と、呆れながらに笑みを溢した。

さて、一方のチャーラワンは、拐ったタパオトーンに首ったけすぎて元々妻であった二人のワニ嫁に怒られたりしていたが、ある日、自らが神によって殺される予知夢を見る。
その件を前王であるラムバイに相談したところ、ラムバイは「それは大凶の予知であり、死の運命は変えられない。恨むなら仏の教えを守らなかった自分を恨め」と言い残し念仏を唱えるために自室に籠ってしまう。
チャーラワンは流石に慌て、妻たちを部屋に戻すとワニの国の入り口を大岩で塞ぎ、何者も侵入できないようにした。

しかしクライトーンは相手の根城に攻め込むつもりは毛頭なかった。
筏に乗り、爆燭を構え、護符により防御を固めたクライトーンは、招魂の儀式によってチャーラワンを引きずり出したのだ。
たまらず大ワニの姿で水上へ飛び出したチャーラワンは、眼前に現れたクライトーンを見ると尻尾と顎を使って猛攻を仕掛ける。
しかし護符と爆燭、そして呪文により守りを固めていたクライトーンには傷ひとつ付けられず、お返しとばかりに数度、七金鎗による攻撃を食らって大きな傷を負った。
このままでは負けると確信したチャーラワンは、水中に逃げれば追ってこれまい、と急いでワニの国へと逃げ戻る。
だが、クライトーンには爆燭がある。逃げ出したチャーラワンを追い、クライトーンもまた河の底へと潜った。

国へと戻ったチャーラワンはラムバイに助けを求めるが取り合ってもらえず、なんとか自室に戻ると妻の一人であるウィマーラーに「今まで俺に傷をつける奴などいなかったのに、今回は異様な強さの奴が現れた。流石にまずいかもしれない」と弱音を溢した。
そして、血塗れの夫の姿に驚き、女中を呼んできて治療をさせようと部屋の外に出たウィマーラーの目の前に、クライトーンが現れた。
クライトーンはウィマーラーの手首を掴まえ、「ワニ王はどこだ！言わないとこれで突くぞ！」と七金鎗を突きつけた。
(この時、クライトーンはウィマーラーの美貌に若干興奮していた)
脅されたウィマーラーが「そこの部屋の中に…」と言いかけたところで、騒ぎを聞いたチャーラワンが部屋から出てくる。
そして、妻の手首を掴んで槍を突きつけていたクライトーンの姿を見ると、激昂して人の姿のまま襲いかかった。
しかし深手を負っているチャーラワンではクライトーンに敵うはずもなく、力尽きて捕らえられてしまった。
この間に、ウィマーラーはなんとか逃げ出すことに成功する。

さて、クライトーンは人の姿のチャーラワンを見て「これが本当にあのワニ王なのか？」と疑問に思ったが、先ほど自分がワニ王を貫いた傷が同じ場所にあることを発見し、ワニの国ではワニが人に化けるのだということを理解する。
「ならば、拐われたタパオトーンの死体が見つからなかったのも頷ける。さては嫁として拐って、この洞窟のどこかにいるな」と感付いたクライトーンは、部屋という部屋を探しついにタパオトーンを発見。

だが、タパオトーンはワニ国で暮らしたことでワニ国の霊に憑かれ、ワニとしか会話ができない状態になってしまっていた。
ひとまず助けに来たことだけを伝えたクライトーンは、タパオトーンの手を引き、縛ったチャーラワンを引きずりながらワニ国から脱出。
洞窟を抜けたところでチャーラワンがワニの姿に戻ったため、それを筏がわりにして陸地へと帰った。

帰ってきたクライトーンは、生け捕りにしたチャーラワンを富豪夫妻に見せ、タパオトーンも救出したと報告した。
夫妻は娘が生きていたことを喜んだのも束の間、タパオトーンがワニ霊の影響で話せなくなっていることを知り悲観に暮れる。
富豪がワニ霊をタパオトーンから追い出す方法を聞くと、クライトーンは「このワニ王を仕留めれば、ワニ国からの影響も無くなって言葉を取り戻すでしょう」と伝えた。
それを聞いた富豪は、「ならば、殺してしまって構わない。どうせ大量の人を食い殺した相手だ、正当な報復だ」と言った。
しかし、クライトーンは仏の教えを守る者。
自ら殺生を行うのはさすがに気が引ける、として近隣の住民からチャーラワンを殺したい者を募ったところ、大量の人が押し寄せた。
だが、いくら住民たちが刺そうと叩こうとチャーラワンを仕留めることはできない。
魔法の牙の力は健在であり、チャーラワンは変わらず七金鎗でしか傷を負わないのだった。
が、あまりの光景に見かねたクライトーンが住民の一人に槍を貸したため、チャーラワンはその住民の手によって殺された。

タパオトーンが無事に口を利けるようになると、富豪は喜び泣いた後、クライトーンに約束の報酬である財産と、おまけにタパオトーンも嫁にやると言った。
富豪としては、商人としても優秀、ワニ王に立ち向かう勇気も申し分なく、何やらやたら強い神通力を使えるクライトーンを手元に置きたかったのである。
クライトーンはこれを快諾。
富豪の家に住み着き、二人の美しい妻を迎えたウハウハ生活を送ることになった。



……と、ここで終わらないのがクライトーンという男である。

ワニ王退治からしばらくして、クライトーンは物思いに耽っていた。
「あのワニの嫁、美人だったな……」と。
そこでクライトーンは、一芝居うって嫁たちを騙し、未亡人になって淋しがっているであろうワニをものにしにいくことにしたのだ。
ある日クライトーンは、「ワニを退治する時に力を貸してくれた師匠に、まだお礼をしに行っていないのを思い出した。しばらく師匠に会ってくるから家を開ける」と二人の嫁に告げて家を出る。
無論、向かう先は寺などではなくメナム河の底のワニの国。
再び爆燭を使って水の中を動けるようになったクライトーンは、王を倒した相手に怯えるワニらが逃げるのをいいことにあっさりと王宮までたどり着いた。

さて、ワニ嫁……ウィマーラーは、夫を失った悲しみから自室に籠り泣いていた。
そこに扉を勝手に開けて入ってきたのはクライトーン。
ウィマーラーはクライトーンを見るなり「人殺し！近寄るな！」と威嚇するが、クライトーンは「君が淋しいだろうから慰めに来たんだ。これからは一緒に暮らそう」と天効媚薬之呪テーパランチュワンを吹き掛けた。
すると、たちまちウィマーラーの流していた涙は悲しみのものから喜びのものとなり、瞬く間にウィマーラーの心はクライトーンのものになった。
この後、クライトーンはついでにもう一人のチャーラワンのワニ嫁ルアムラーイワンも同じ手口でものにすると、二人のワニ嫁と肉欲三昧の日々を送り出し、気づけばすっかり地上に嫁を残してきたことなど忘れてしまっていた。

一週間後、なぜかくしゃみが止まらなくなったクライトーンは唐突に「地上に残した嫁が俺の噂をしているな」と思い、地上の事を思い出す。
ウィマーラーたちを連れて地上へ帰り、嫁を四人に増やせば「ワニ王退治に嫁を四人で大金持ち」という英雄として歴史に名を刻めると思ったクライトーンは、地上に行くのを渋るウィマーラーをまた天効媚薬之呪テーパランチュワンで従順にすると、呪文の力を込めた髪飾りでウィマーラーの人化を保てるようにしてワニの国から連れ出した。

しかし、家へと辿り着く前に、富豪の屋敷の使用人により「クライトーンが新しい女引っ提げて帰ってきた」という話がタパオトーン、タパオケオの知るところになってしまう。
タパオケオは普通にキレながら、そしてタパオトーンは使用人の話からクライトーンがワニ嫁を連れて帰ってきたことを確信しながら、自らクライトーンの元へ向かった。

一方のクライトーンは、ウィマーラーを一度隠しておき先に嫁たちと話をつけようと考えていた。
だが、その話をしている矢先にタパオ姉妹が二人の前に到着。
クライトーンは言い訳を言う隙もなくタパオケオに詰め寄られ、タパオトーンはウィマーラーに対して「ワニの癖に人の旦那を寝取るんじゃないわよ！顔を潰してやるから見せろ！」と激昂。
王の妃であったプライドがあるウィマーラーもその言葉には我慢ならず、二人は取っ組み合いの喧嘩を始める。
一方のタパオケオはその話を聞き、使用人たちに「あの女はワニよ！殺しなさい！」と命令した。

さすがに多勢に無勢となったウィマーラーはクライトーンに泣きつくが、クライトーンはさすがに妻や使用人を攻撃はできないと躊躇。
ウィマーラーは「頼れない男！」と言い放つとクライトーンから渡された髪飾りを外し、大ワニの姿になって暴れだした。
突然の事態に使用人たちは散り散りに逃げ出し、タパオトーンとタパオケオはクライトーンに助けを求めたがクライトーンは「だから仲良くしてって言おうとしたのに！自業自得！」と介入しようとしない。
旦那が頼れないと知ったタパオ姉妹はウィマーラーに謝るが、ウィマーラーは怒りを納めようとしない。
が、しっかり謝ったならいいかと思ったのか、クライトーンはここでウィマーラーの前に立ち「ごめん、可哀想なことをしてしまった。必ず迎えに行くから、またあの部屋で待っていてくれないか」と説得。
ウィマーラーはその言葉を信じ、泣く泣く河へと帰っていった。

ひとしきり嫁二人を叱った後に地上での生活に戻ったクライトーンはしかし、あまりのウィマーラー恋しさに猫の声をウィマーラーの声と勘違いして喜んでみたり、柱に抱きつきすがるなどの奇行を繰り返すようになった。
タパオトーンはそれが「仕方ないから行ってらっしゃい」と言われたいがための演技であることを察し、「あーうちの夫はワニの媚薬で狂っちゃったのかしら！苦い薬でも飲ませれば治るかしらね！」と、わざとクライトーンに聞こえるように言った。
対するクライトーンは、そんなもの飲まされてはたまらないと「そうだな、ワニの媚薬にやられたかもしれないなぁ。あっそういえば君もワニの王様に媚薬を盛られたりしたんだったねぇ！」と皮肉返し。
当然タパオトーンとタパオケオは怒ってクライトーンに詰め寄ったが、クライトーンはここで大眠之呪マハーラルワイを発動。
二人の嫁を夢うつつの状態にすると、「ウィマーラーはワニの国の中では高い身分だ。もしこのままワニと人間の間に亀裂が走ってしまえば、これからワニと人間は憎しみ合うことになってしまうかもしれない。そうならないためにも、俺は行かないといけないんだ。わかるね？」と語りかけた。
意識が朦朧としている二人は、諦めも混じってはいたもののすんなりとそれを承諾。
そうして合意を得た矢先に、クライトーンはまたワニの国へと旅立った。

一方、国へ帰ったウィマーラーは、タパオ姉妹に対して恨みを募らせながらも、クライトーンを恋しく思っていた。
だが、数日の後、実際にクライトーンが帰ってきた時には思わず激情をぶつけてしまった。
ルアムラーイワンがそれを仲裁しようとするも、ウィマーラーは聞く耳を持たない。
だが、それを受けたクライトーンは、ウィマーラーを押し倒し、その衣を乱雑に引きちぎると乳房を掴み、無理矢理に肌を重ねた。
すると、ウィマーラーの気持ちは収まり、すっかりクライトーンとウィマーラーは仲睦まじい関係に戻ったのだった。

……以後、クライトーンは地上とワニの国を行き来し、四人の嫁を愛しながら、末長く幸せに暮らしたという。

"七金"のランサー。
真田ミコウのサーヴァントとして召喚された。
対照的な性格ながらに相性はよく、基本的に民間人の女性を口説かない契約の代わりに、ミコウ自身の身体や捕縛した違法回収業者を好きにさせてもらっており満足している。
いつもボディーガードのように付き従っている(たまにセクハラをして蹴られる)が、実際の戦闘の時はどちらかというとランサーが支援側になっている。