kagemiya@ふたば

『おう若造よ、もしお前さんがこれを聞いていると言う事はワシはくたばったのだろう』
『そして……本当ならば、ワシ自身の口からお前さんに語らねばならない事を語る事が出来なかったと言う事だろう』

『まず最初に言おう。ワシこそが神戸の崩壊の大きな要因の一つだ』

『お前さんは「何を言っておる」と思っておるだろうな。ワシの責任や罪などカタチのないものだ、と以前と同じ事を言おうとしておるだろうな』
『いいや、形はあるのだ。お前さん達が凄鋼と呼ぶナノマシン、それそのものなのだから』

『のう、お前さんは神代ギリシャにナノマシンが存在したと言って信じるか？信じられんだろうな』
『だがな……存在したのだよ、テオス・クリロノミアと言うナノマシンがな。文字通りの神の遺産よ』
『人の身にそれを与えれば、その肉体は超人の如きものとなり生身で魔獣を打倒する事も可能になるであろうな』

『そしてワシは、それを再現しようとした』

『正しくはHCU全体にワシの知り得るテオス・クリロノミアの情報をリークし、HCU全体を利用して再現させようとした』
『何故か？神戸の発展のためか？技術者としての好奇心からか？ハハ……ハハハハッ……どれも違う』

『我が子を……我が子の残滓を内に宿すあの娘を死なせぬため。たったそれだけの、老い耄れの我儘だ』
『あぁ、我儘だ。その我儘が凄鋼と言うナノマシンを生み出させ、そして神戸を地獄に変えたのだよ……！』

『お前さん、別れる時にワシに「仕事が楽しかったんだな」と言ったよな？』
『楽しかったものかよ！ずっと、ずっと！王権争いなどと言う下らん事に巻き込まれたあの娘の！我が子の命を繋ぐ事を考えておったよ！！』
『もし、全てが間に合わずとも数十年……いや、数百年かけてでも時空渡航船を完成させ過去に戻ってでも間に合わせねばと、常にそう思っておった！！』
『あの娘に！アイカに！そして我が子イカロスに！二度と墜ちぬ翼を！太陽すらも飛び越える翼を与えねばならぬと！！そう思い続けておった！！』
『その為にワシは三島を！真田を！HUC全てを利用した！！それが悪でなく何と言うンだ！？悪は、悪と呼べるものはワシ自身だ！！』

『なぁ、レオンよ……サーヴァントと言うのはな、結局は亡霊なのだ。過去の妄執なのだよ』
『あの娘の姿を見て、その内に宿るものを感じ取り、我が子が炎に包まれながら海に落ちる姿を思い出してしまった』
『そして、ワシはそれに耐える事が出来なかった』
『とんだ笑い話であろう？たかが亡霊風情が、既に死んだ倅を生かそうと必死になっていたのだからな』
『嗚呼……笑い話で終われば、どれだけ良かったか』

『………………』

『……ワシはな、あの事故の後で神戸で生き残った者達の姿を見た』
『彼らの身体を蝕むナノマシンの姿を、その背に生えた空を飛べぬ翼を……ワシ自身の撒いた悪の形を見た』
『両足がナノマシンに飲まれた小僧の為の車椅子を作る手伝いをしながらな……どうしようもなく、自分が悪であると自覚したよ』
『だからなのだろうな、責任を取ると言って神戸に残ったのは。ワシはワシ自身の悪を野放しに出来なかった』
『何か、ワシの撒いた悪を刈り取るために、せめて何かをせねばならぬと……な』

『それでやっている事はジャンク屋とはな』
『それ以外の責任の取り方を知らんとは言え、これでは仕事が楽しかったのだろうと罵倒されても仕方なかろうよ……ハハ……ハッ』

『こんな事で許されるなどと虫の良い事は考えてはおらん』
『ワシは、裁かれねばならん』
『或いはお前さんがこれを聞いていると言う事は、裁きが下された後なのかもしれんな。そうあれば、どれだけ良いだろうか』
『贅沢を言うならば、その裁きの手を下すのがお前さんであればどれだけ良い事か……』
『これはこれで、虫の良い事かもしれんな。嗚呼……』



『レオンよ、次はもっと良いサーヴァントを呼ぶと良い。こんな偏屈爺、今の時代に居った所でロクな事をせんぞ』