最終更新:ID:obtZ59QIlg 2019年11月30日(土) 00:00:06履歴
「おい、知ってるか? 迷宮にたまに出てくる女の話」
「ああ。あれだろ。『休憩エリアの怪』」
「そうそう。泉がど真ん中にある休憩できそうな静かなエリアがたまにあって、そこに長いこといすぎると出てくるっていう」
「あれなあ。たまに他の奴らが見たって言うけど、実際どうなんだ? そういうエネミーがいるのか?」
「いや、分からん。ただ、警戒はしといたほうがいいと思ってな。こんな場所だ、どこで何が出てきてもおかしくない」
「そうだな。その女についての噂話なら何度か聞いたし、此処で情報共有しておくか?」
「そうしよう。そろそろ休憩したいと思ってたとこだし、丁度いいだろう」
「そもそも正体が分からんから、情報の絶対量は少ないよなあ」
「一応、サーヴァントって噂もあるが。確かなのは、枯れ枝みたいに痩せた、赤い服の女だってことだ」
「で、確か目玉が全部真っ黒なんだったけか」
「そうそう。旧人類史になんか縁起があるって話も聞くが、生憎日本の伝承のことなんか俺は殆ど知らんからな」
「俺もだ。ま、ともあれ、まず性別とナリは間違いないだろう」
「ヤツが持ってる能力は、割りとどの噂話でも共通してるよな?」
「だな。『目を見たら金縛りに遭う』、『視界に入ってなくても近くにいると嫌な雰囲気がする』。未確認だが、金縛りにあったまま逃げられないと死ぬってのも聞いた」
「マジか。それは聞いたことなかったわ」
「何にせよ、近づかないのが一番だな。目を合わせさえしなけりゃ害はないはずだ」
「……あ、金縛りで思い出した。こいつ短刀持ってるらしい」
「短刀!? いきなり現実的な脅威が出てきたな……」
「金縛りに合って逃げられないままと、短刀を取り出して刺してくるんだと。痴話喧嘩が行き過ぎて刃物振り回す女みたいだな」
「止めろよ……急に話をリアルにするのは……」
「生きた人間なら、何かに限界が来て狂っちまった女ってところか」
「サーヴァントなら、何かを呪ってる反英霊かねぇ。おぉ、おっかない」
「しっかし、女ねえ。別嬪さんなら顔くらい拝みたいところだが」
「目玉が真っ黒なのを除けば、割りとイケてるらしいぜ。一夜を共に過ごしたい!って感じの雰囲気じゃないだろうが」
「ほーう。ちなみに胸はどうなんだ。年齢は?」
「……流石に悪趣味だぞおい。えー、外見年齢は目撃者によってバラけてるな。恐慌状態での記憶だからあまり当てにはならんが」
「ま、流石に「子供」じゃなくて「女」って呼ばれるような年齢なのは共通してんだろ? なら其処は良いや」
「で、胸……。胸というか、さっきも言ったが、基本的にかなり痩せ細ってるみたいだからな。良いように言えばスレンダー美人ってとこか」
「そーか。そりゃ残念だ」
「……一応確認するが、冗談で言ってるんだよな。相手がいないからってマジでお付き合いしたい訳じゃないよな」
「いや流石に冗談だよ!? いくら俺でも相手は選ぶわ!」
「だよな……」
「それによー、やっぱそういうのは内面だぜ? この稼業に理解のある相手なんざそうそういねぇからなあ」
「まあ、確かにな。行きずりの関係ってくらいなら別に構わねえだろうが、お前そういうとこ妙に潔癖だからな」
「うるせっ」
「……そういや、この女はどういう人間なんだろうな。さっきは好き放題色々言ったが、言葉を喋らんから内面は全く分かってないんだよな」
「あー。そういやたまにいるよな。『無辜の怪物』とかで本当の姿から変わっちまったサーヴァント」
「人間だと、二重人格ってこともあるかもな。何だったっけな、魔術師のナントカストーンって連中は一族揃って二重人格者らしいし、魔術師関係ならそういうヤツもいそうだ」
「どんな性格してんだろうなあ。まあまともってことは無いだろうが」
「さてな。それが分かれば苦労はしないってなもんだ」
「……あ、そうだ。もしこいつに出くわすようなことがあったら、お前、絶対に嘘はつくなよ」
「あ? なんでだ?」
「どうも、口先でだまくらかしてその場を切り抜けようとしたヤツが何人かいたらしいんだが。そいつら、迷宮から帰ってきた後、呪われてたらしい」
「呪いィ? まさか、それで死んじまったとか」
「いや、其処までではないが……。端的に言うと、不幸の手紙みたいな、「ちょっとだけ確率を悪い方に偏らせる」呪いだそうでな」
「何だそりゃ。アマの礼装屋でも作れる狡っ辛い呪いじゃねえか。そこらへんの子供が悪戯に使うようなヤツだろう?」
「しかし、それでも呪いは呪いだ。何回も重複してかかると流石にヤバい。隕石に巻き込まれて死にました、とかが現実的になってくる」
「そりゃ勘弁願いたいな……。まあ、覚えとくわ。嘘をつくな、だな」
「……と、まあこんなもんか?」
「こっちが知ってるのはこれで終わりだ。そっちは?」
「俺もだな。まあ、一応確認できてよかった。短刀持ってるってのは初耳だったからな……」
「基本的に、手出しせずにさっさと通り過ぎれば脅威にはならない。目を合わせないのを大前提にすれば、まあ大丈夫だろう」
「だな。……さて、そろそろ出発するかあ」
「そうしよう。もう休息は十分に取れた」
「かーっ。しかし、別嬪さんねえ。一回くらい顔を見てみたい気もするが」
「止めろ止めろ! そういうのは口に出すと本当に出てくるぞ!」
「おい、これどうなってんだ!?」
「どうなってるって俺が知るかよ! こんなの集めた噂にはなかった!」
「な、なんで……なんでッ」
「なんであの女が迷宮から出てきてるんだ!?」
「…………」
「くっそ間に合わねえ! おい、ターミナルから港に降りるぞ! 適当な廃棄船ちょろまかして「天王寺」に逃げる!」
「アレほっといていいのか!?」
「カレンがなんとかするだろ! 短刀振り回してる危険人物だぞ!」
「それもそうかあ!? じゃあ逃げっか!!」
「…………」
「……はあ。一息ついた。まさか、迷宮から抜け出してくるとはな」
「心臓が潰れるかと思ったわ……。しかし、なんだって俺を追っかけてきたんだろうな」
「さあなあ。俺達二人を認識した瞬間に走ってきたが……」
「ま、逃げ出せたからいいか……」
「って思ったんだけどよォ!? アイツ確かに「梅田」に置き去りにしてきたよなあ!?」
「そのはずなんだがなあ!?」
「今度は「天王寺」に来てやがるッ!」
「海路なら分かるはずだし陸路なら俺らより早く来れるはずがないってのに……! ええい、今度は「難波」だ! 念の為に監視頼む!」
「お、おう!」
「…………」
「……うっそだろ。もういやがる! さっきまで確かに「天王寺」に居たのに!?」
「冗談じゃねえぞ……! これじゃ逃げ切れねえ!」
「つうかカレンはどうした!? 都市情報網に通報はしたはずだぞ!?」
「███……」
「ん……? おい、今アイツ何か言わなかったか?」
「知るか! それどこじゃねえよ! お前もなんか逃げる方法を───」
「█████████████████████───」
「あ」
「な」
「███……███様……どこに……」
――――本日未明、「難波」近海にて、「梅田」へ不審な通報を行った男女の二人組が意識不明の重体で発見されました。
両市の都市情報網での発表によると、女性は呪的攻撃を原因とする昏睡、男性は短刀での刺傷による出血多量が原因とのこと。「天王寺」警察は――――
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