kagemiya@ふたば

『虚孔鍵』には、持ち主の汚染される前の魔術回路が内蔵されている。
彼との相性が抜群なのは当然のこと、留水に搭載された保持機能は彼が本来用いる筈だった魔術なのだから。
また、隠された機能として「持ち主の内に秘めた感情を暴く」力があり、使い続ければ心まであちら側へと落ちてしまうリスクが伴う。

「俺はKAWAII……そう唱えるんだ。すると段々と可愛くなってきたような気がする。俺はKAWAII、俺はKAWAII……さあ一緒に。俺はKAWAII、俺はKAWAII、俺はKAWAII、もっと大声で！　俺はKAWAII、俺はKAWAII、俺はKAWAII……！　ほら？　丹田に可愛さが溜まってきただろう？　では、もう1セット行こう！」
「男が可愛くて何が悪い。KAWAIIは万国、いや、全生命体の共通言語。誰にだって、そう、君にだって可愛くなる資格がある」
「アイドルの輝きは！　加齢程度で翳りはせん！」
「KAWAII服を着る、KAWAII小物を付ける。効果的だが違うだろう？　KAWAIIのは自分じゃなくて身につけたモノだ。いいか？　俺のお前たち。KAWAIIは努力と研鑽、自分を磨くことで得られる。忘れてはいけないよ？」
「俺はKAWAIIか！」『KAWAII！』「俺は輝いているか！」『KIRAKIRA！』「そうか！　今日のお前たちも最高にKAWAIIぞ！　では最初のナンバーと行こう。新アルバムから……『マレフィカラム』」「(前奏)」

『虚無機関』の前身となった無名組織時代からの実験体。
持ち前の勘に従って適合者として選ばれるまでは大人しく振る舞っていたが、反魔術を得てからは態度を豹変。
四肢を拘束された状態で同室した研究員全員を活造りに変え、宣戦布告。これ以上の実験を拒む。
反魔術で魔術を無効化できる彼への対処は難しく、全力を尽くして殺したとしてもコストと釣り合わないが、
かといって反魔術を与えた以上は遊ばせておくわけにもいかないと判断した機関は妥協案の経過観察で同意を取り付けた。
これが功を奏し結果として無名組織時代からの実験体では、機関崩壊までを生き残った唯一のケースとなった。

『虚無機関』の実験体たちに牙を向けることはなかったがアンタッチャブルな扱いを受けることは多く、
怖がられるのは不本意だったが、力を誇示する以上は仕方のないことだと彼自身も納得していた。

まだKAWAIIに目覚めていなかった頃。一言で表せば怪物。
狂犬という形容からは最も遠い。冷静かつ論理的な判断で常に選択を行い、暴力を単なるカードの一つと捉えているタイプ。
戦力差を正確に把握して最も効果的なシーンでカードを切り、バイアスや印象論を操作することで狡猾に生き残る。
例えば以前に『虚無機関』へと行った宣戦布告も劣勢を覆すための小細工。
強大な力を持つ一部の構成員が遺憾なくその能力を発揮すれば自分の死が確定することには早くから勘付いていたため、
敢えて派手な事件を起こして恐怖をバラ撒き、強い少数の意見を衆愚たる弱者の怯えで塗り潰す状況を狙って引き起こした。