Step_2...多様性に目を配れ
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nevadakagemiya 2017年11月23日(木) 01:08:53履歴
──────────某所にて
「さて、FFF社への無断の侵入……、
随分とご苦労だったなぁ？カールクラフト。」
一人の男が、12の席が囲む円卓を前に立っている。
12の席はまばらに空席があるが、座っている者たちは皆とてつもないオーラがあった。
「ええ…………。独断専行、まことに申し訳ございませんノンボーン殿」
「いやいいさ。何せお前と俺たちは、無関係なのだからな」
「…………………。」
男は深々と頭を下げる。しかしそれに対する、円卓を囲むメンバーの顔色は冷たい。
「俺たちとしては、そのままお前が野垂れ死んでも良かったんだがな」
「ノンボーン、そりゃちょっと言いすぎじゃねぇの？
まぁ確かに、独断専行はいただけんがねぇ」
円卓を囲む男の内の一人、黒包丁を持つ男が笑う。
「ですが、此度の遠征では得るものもございました。
我々が目指すべき一点、新世界を目指すのに避けては通れない道を……」
「ほう………、なんだ？」
男は顔を上げて言う。
「抑止力にございます」
その言葉が発せられた途端、円卓を囲む者たちはざわついた。
「ほう………、これはまた大きく出たな」
「確かに、新世界を目指す為には避けては通れないだろう」
「え……？皆さんそんな危ない方法で目指そうとしてたんですか？」
「………えーっと、よくし………？」
？と円卓を囲むメンバーのうち、一人の女性が首をかしげる。
「アナタ…抑止力も分からないんですか」
「ええ………、その、ごめんなさい」
「…………。」
石膏像のような男が少し唸る。
「良いですか？抑止力というのはですね………
──────いざ言葉にしようとすると難しいですね」
「おい大丈夫かこの組織はよぉ」
男が黒包丁を磨きながら頭を掻く。
「抑止力という物は、主に二つありますがこの場合障害となるのはアヤラの抑止力と呼ばれるもの……
人類の集合的無意識が固まり、力となった物です。人類の発展を妨げるもの、滅ぼそうとするものを、
間接的・直接的関わらず滅ぼす………、いわば滅びに対するカウンターですよ」
円卓を囲むメンバーの内、礼装に身を包んだ男が丁寧な口調で説明する。
「では何か………拙者(ワシ)らが目指す世界は、人類の発展を妨げると言いたいのか……？」
「い───────いえ、決してそのような事では……」
「過剰な発展も、抑止力は"発展を妨げる"と解釈するようですね。
今までの記録からそう読み取れます。顕著なのは根源への到達です。」
威圧する大男に凄まれた男に、すかさず礼装の男がフォローを入れる。
「そういえば、根源に到達した"とされる"魔術師は皆自殺しておりますね」
「もしくは、根源から帰ってこないかです。これは根源に至り、その技術を応用しようとした場合は
抑止力に見つかり、排斥されるからです。根源による無限の発展は、それ即ち人類の堕落、衰退と同じですからね」
「な、なんか難しい話になってきましたね餅先輩………。」
「要は、楽しすぎないように叱るお目付け役ってことですよクレアさん」
「なるほどー」
円卓を囲むメンバーの内、隣り合った少女たちが何か納得し合う。
「全く、だから魔術で根源に至るなどダメなのだ。これからは科学の時代だ。」
「恐らくですが、至る手段が魔術だろうと科学だろうと武術だろうと
根源への到達を広めようとした瞬間に抑止は排斥しにかかるでしょう」
「え。」
円卓を囲むメンバーの内、白衣の男が若干固まる。
「言いたい事はよくわかる、カールクラフト……。」
そして、円卓を囲むメンバーの内口元を布で覆った男が姿勢を正しながら発言する。
「俺の"英霊資源化計画"、そしてモーチセンの"全人類よりの死の消去"、
イケスの"感情を思うがままとする料理"………これらは特に、世界に危険視されるものだろう」
「なるほど、料理が旨すぎるのも罪というわけか」
「(なんか勘違いしてる気がするこの人)」
得意げにする料理人と、それを冷めた目で見る女性を横に男は続ける。
「他にもあるが………まぁそもそもの話、新世界を作るにあたり、
確かに既存体系の象徴ともいえる抑止力は、遅かれ早かれ滅ぶべきものだろう……」
「そ…………そうでしょう。ですからどうか……今こそ導き手たちが一つと────」
「だが、その具体的な方法は何処にある？」
ギロリ、と口元を布で覆った男が睨みつける。
「─────────………ッ」
「抑止は常に先手に回る。人として、そして英霊として。
それをどう防ぐというのだ？仮に、その襲い来る抑止の使者を打倒するとしよう。
次の手が回されるだけだぞ。より強固な手段を以てしてな。抑止を倒すなど到底無理だ」
「ほう、貴方はそれで良いのですかな？新世界を目指すのに、その新世界の最たる邪魔者を放っておくと？」
男は挑発的な態度を取り、睨み返すように笑う。
「ふん、抑止力など金の力で賠償してやりますよ。
その程度で委縮するならば、最初からこんな組織に投資などしません」
一人の男がそう発言する。そしてそれを皮切りに、円卓を囲むメンバーが騒ぎ出す。
「自分はバッチ来いですよ抑止なんざー！上等じゃないですか！！」
「抑止力………、それは大多数の為に少数を切り捨てる……、
許しては置けない……！断じて………っ！！」
少女がバチンと拳を合わせ、石膏像のような男がガタガタと拳を震わせる。
「拙者(ワシ)も同意見だ。疑問なのはお前の方だノンボーンよ」
大男が口元を布で覆った男のほうを向く。
「貴様は我々の中でも行動派であったはずだ。そんな貴様が何故ここまでおじけづく？」
「実際に対峙したことがないから貴様らはそんなことが言えるのだッ！！！！」
ダンッ！！と口元を布で覆った男は渾身の力を込めて円卓を叩く。
ビリビリと空気が震え、常人なら気絶するほどの圧力と魔力が部屋を覆う。
「いや……………、すまない。声を荒げたことを、謝罪する。」
「い…………、良いんですよDr.ノンボーン。誰にでもあることです」
「だが…何故私はあんなことを……？抑止と対峙したことなど私には……？」
ぶつぶつと口元を布で覆った男が一人呟き続ける。部屋は数瞬、沈黙が支配する。
「えー………、私としての見解を述べさせて頂くならば………。」
そんな中、礼装で全身を覆った男のくぐもった声が響いた。
「確かに私も、皆さんと同じように抑止は打倒せねばならない存在とは考えます。
全人類の不死。それは実現すれば確かに抑止としては見逃せないでしょう。永遠の繁栄をそれは意味し、
やがては繁栄は止まり衰退となる……、すなわち人類の滅亡の遠因となるのだから」
「では……………………。」
「しかし、今の段階では敵対するデメリットが大きすぎると私は想定します。
抑止力とは本当に執念深く、そして強い物なのです。」
「ってことは、あんたはノンボーンに賛成というわけか」
黒包丁を持つ男が意外そうな顔で聞く。
「ええ、まぁ………そうなります」
「へぇー、意外だわー」
少女がニヤニヤしながら脚をパタパタする。
「現段階では騎乗の空論を出ない作戦に、私は協力できません。
確実に成功する段階になった、と信用できる段階となれば別ですが………申し訳ございません」
「───────────私も…………同意見だ…………。」
重々しい鎧に身を包んだ騎士が口を開く。
「ふーむ、サーとモーチセンさんがそう言うならば
辞めといた方が良いかもしれませんね」
「そう言う事だヴェルジニア。というわけで悪いなカールクラフト。
具体的な作戦でも思い浮かんだら、また導き手たちを収集でも何でもしてくれ」
そう言いながら口元を布で覆った男はガタリと乱暴に立ちあがる。
見ると頭を痛そうに抑えていた。
「だ、大丈夫ですかDr.ノンボーン！」
「良い………。俺は少し、部屋で休む………。」
そう言って男が部屋を出ていったのを皮切りに
円卓を囲んでいた面々は会議室を後にして行った。
◆
──────── 一人になった会議室にて、カールクラフトは考える………
「(感情に乱されるな……………脳を冷やせ、冷静に対処せよ……………)」
彼は考える。抑止力を打破する方法を、現状体制を崩御させる方法を。閃きを。
抑止力、それは"ありきたりなる世界に満足いかない"彼の前に幾度となく立ちはだかってきた。
────────いや、違う、語弊があった。彼の前に、ではない。彼を腹心とした者の前に、であった。
まず最初は黄金の獣と称されたゲシュタポのトップであった。彼は永劫を求めて根源を目前とした。
ある魔術の名家の出であったその黄金の獣は、先天性の天才的な手腕により瞬く間に根源への達成理論を見つけたといった。
それが嘘か真か、そんなもの在るはずがないと彼は当時は笑ったが、その翌日彼はチェコ人に暗殺された。
カールクラフトはこれを抑止によるものと疑っている。根源への到達理論発見は嘘ではなかったのだ。
いや…例え嘘だったとしても、恐らく彼ならば到達したのだろう。または彼の子孫ならば………
抑止はそれを容赦しない。その原因を過去へと遡り、絶つ。それが抑止力だ
最も親しい友人だった男を殺され、彼はこれより、
抑止という存在を敵視するようになる。
第二に、抑止に敵対するという目的が一致した堕天使であった。
堕天使は平行世界の全ての自分と同期する権能を持っており、既に数に出来ないほどの
トライアンドエラーを繰り返していた。その果てに、堕天使は抑止を滅ぼす手段を見つけたといった。
それは、"この世界そのものを特異点で埋める"事。そして特異点を罠で囲み、全世界から隔絶することであった。
実際に特異点を形成し、ある神殺しの抑止力を罠にかけ封鎖することは出来た。故に………、完璧であると思われていた。
「だが──────、そもそも"特異点で抑止力が働かない"という事実そのものがミスリードならば………？」
彼の悪寒は的中し、実際に堕天使は英霊と人類の共同戦線の元に敗れ去った。
そこに抑止力の後押しがあったのかは今でも分からない。
そして今、第三の抑止の介入が今起こり得ようとしている。
「何とかして………、なんとかして打開策を見つけなくてはならない………ッ！
二度と………もう二度と………ッ！！抑止の手で我が同胞を失うわけには──────ッ！！」
彼は頭を掻きむしり、アイディアを引き釣り出そうと躍起になる。
すると、その瞬間に脳裏の彼方に埋もれていた記憶がよみがえる。
そう、彼は以前会っている。
抑止力の妨害を受ける案件……根源への到達に挑んだ者に。
『私は私の────────独自のアプローチで根源に至る。』
天文科ロード、マリスビリー・アニムスフィア。彼は以前、その男と出会った時にそのような言葉を聞いた。
「独自のアプローチ………。そう言えば奴は、以前起きていた聖杯戦争に何度か参加し勝ち抜いていた……
聖杯による魔力の搾取？いや違う、そんな単純な願いならば、魔術師が"独自のアプローチ"などと─────ッ！」
そこで男は思考を続ける。止めることなく続ける。常人ならば知恵熱が出て血液が沸騰するような速度で、
男は考え、思考して、計算して、試行して────────────１つの考えに思い当たった。
「……………………そうか、奴が関わり、あの時に"なくて"、今に"ある"もの………それが答えか」
男はそう呟くと、携帯電話を取り出してある魔術組織に連絡を取る。
「もしもし、人理継続保障機関フィニス・カルデアですか？
そちらの行っている活動に対し、ぜひともご見学を───────」
◆
「ここが、疑似地球環境モデル……通称カルデアスと呼ばれるものです。
100年後に時代設定したこのカルデアス表面の文明の光を観測する事により、
未来における人類社会の存続を保障する事が、我々カルデアの任務です」
「ふむ…………、懇切丁寧な解説、感謝の限り」
男とオペレーターのような女性が巨大な地球儀のようなものの前に立ち話す。
「しかし……………、人類の未来を観測し異常が見受けられたらマスターと英霊を過去に飛ばす。
これではまるで、抑止力そのものですなぁ？なぜ、人間の手で行おうと？」
「前所長……、マリスビリーさんのご意思なのです。これから先の未来は、
我ら人類が直々に保障しなくてはいけない、と………」
「なるほど、ご立派な魔術師だ。しかし、この度はお悔やみ申し上げる」
男は深々と頭を下げて、そのマリスビリーという男の死を弔い悲しむ。
「(このアラヤの抑止を模倣したシステム、やはり奴はここで抑止力をかいくぐる術を模索した。
奴の自殺こそがその証…………。魔術師の自殺、それは"己が根源に到達した"という意思表示に他ならない)」
「─────あ、あの……………………？」
「ああこれは申し訳ない。眼に少しゴミが入ってしまいました。」
男は目から数滴の液体を垂らす。当然泣いてなどおらず、演技である。
「ふふっ、お優しいのですね。」
「お褒めいただき、感謝の限り」
そんな会話をしながら2人は廊下に出てしばし歩く。
その道中で、多数の人物とすれ違った。その出で立ちは古今東西あらゆる服装・文化が混ざっていた。
「しかし、この施設には随分と多くの英霊たちがいるようだ」
「ええ。えーっと、守護英霊召喚システム・フェイトというのですけれど、
…………ご、ごめんなさい。あんまり私システムとか分からなくて」
「いえいえ良いのですよ。しかしサーヴァントなど召喚する時点で奇跡。
いったいどのようにして、これほどの数の召喚に成功されたのか気になって」
「それは〜…………え〜っとぉ〜………………」
「それはねぇ、何処か別のカルデアが危機に陥っているからだ」
頭を抱えて悩む女子職員の横に、突如として麗しい黒髪の女性が現れる。
「うひゃあ！だ、ダ・ヴィンチさん！？」
「ほう、貴方が万能の天才か。初めまして。
私の名はパルケルス・アハスヴェール。以後お見知りおきを」
「おお、君が見学者かい？始めまして。知らぬ人はおらぬダ・ヴィンチちゃんさ。」
そう互いの名を言い合うと、二人は互いの手を握る。
「(偽名を使ってまで侵入したのは良いけど、あまりやらかすなよ？)」
そう女性はささやいて、どこかへと去っていってしまった。
「あらら、行っちゃいましたぁ〜」
「………………………流石は万能の天才、
一筋縄では探らせてはくれないか」
「ふぇ？何か言いました？」
「いえいえ、なんでもありません」
こうして男は、のらりくらりとカルデアの施設を見学するも、
数多くの英霊たちに囲まれているという環境ゆえ、得れるものは特になく帰還となった。
◆
アニムスフィア……………貴様が何を企んでいるのかは掴めなかった。
しかしだ。それを調べる事は出来る。私はそれを実現できる英霊を知っている
貴様が聖杯でショートカットをしたというのならば、
私も使わせてもらおうか……………聖杯という奇跡を！！
「マニハルト殿、一つ頼み事をしてもよろしいかな？」
「ほう、貴方が直々に私に接するとは珍しい。何事ですかな？」
「いえねぇ、少し頼みたいことがございまして」
「聖杯を一つ、教会を買収し野に放っていただきたい。
ああ、金で動きそうな者ならば、既に一人"作らせて頂きました"」
その日、ネバタの街に聖杯が顕現した。
正式名称『第六百三十六号聖杯』。それは、元は聖堂教会が管理していた物。
それを"悲しい事に"一人の管理者が金に目が眩み"一般魔術師"に売り渡してしまった。
だがその"一般魔術師"は聖杯を扱いきれず暴走、魔術師は死亡。暴走の結果"運悪く"聖杯は独立起動。
結果として、東洋の彼方の御三家が編み上げた"聖杯戦争"のシステムを独自に再現してしまった。
「───────というのが、私が裏で組み上げたフェイク・ストーリーです」
「へぇー凄いね。やるねぇ君。臆面もなくそんな壮大な嘘つけるとか尊敬しちゃうなぁ」
「神代のトリックスターにして獣と蜂と妖精を欺いた貴方に讃えられるとは光栄の極み。」
「あっ、僕の事知ってるんだ。こりゃありがとっ」
ホテルの一室にて、一人の魔術師と少年………いや、一見少女にも見える子がいた。
二人は互いに、まるで旧知の友人同士であるかのように気さくに談話を続ける。
しかし、二人の間柄は決して親友や旧友などではない。
「それじゃあ僕の願いは言わなくても分かるかなっ？」
「ええ勿論。完全なる貴方となる事でしょう？
勿論成功させますとも。なぜなら私もそれが願いなのですから」
「えー？ひょっとしてお兄さん蟲フェチ？ちょっと引くなぁー」
「ははは、私が愛する存在など生来おりませんとも。私は全てを俯瞰する故」
そう、二人の間柄はマスターとサーヴァント。ここに出現した、いや……盗まれた
聖杯を巡ってこの地までやってきた魔術師なのだ。名を、カール・エルンスト・クラフトという。
「しかし、まさか私がナチスで得た知識がここで役に立つとは。
ダーニックめから聖杯戦争のシステムを聞いたは良かったものの、
それを成す為の肝心要たる聖杯がありませんので、無用の長物な知識かと思っていましたが………」
「この世に存在するすべてに無駄はないんだよ友よ？」
「はははっ！神代を生きた友は言う事が違う！」
「でも、そんな成功の中で呼んだのが僕で良かったのかい？
僕は口はうまいけど腕っぷしはサーヴァントの中でも下の下。
下手すれば、人間のアスリートにすら腕相撲で負けるかもだよ？」
「良いのですよ。我々が目指すのはサーヴァントを殺すことではない。」
にやり、と口端を釣り上げながら男は大袈裟な身振り手振りを加え語る。
「マスターを殺し魔力源を絶ち、サーヴァントを消滅させる事に目的は在る。
その目的のために動くならば、貴方はまさに最適解だ！あなたの口と私の魔術。
この二つが揃えば、もはや騙せぬ敵はいない！存分にこの戦争を楽しもうではないか友よ！！」
「ふふっ、そう言ってもらえると嬉しいね。」
「最も、真なる目的はその後にある……………。
期待しておりますよ？"全ての物語の王"アナンシよ」
「期待されてるねぇ随分。まぁ応えるのなんて容易いけど？
良いよっ！このアナンシ、君のために全力を尽くすと約束しよう！！」
男はその子供に握手を求める仕草を取る。しかし子供は、その手を高く掲げてハイタッチに変更した。
「でも？正直マーリンや孔明ほど口は回らないからそこは勘弁してね？」
「ええ良いですとも。あまり活躍されると私の出る幕がない物でね」
「あっはっはっ！そりゃごめん！」
◆
「シュラーフ・トリノミアス・エスワン�靴反修靴泙后�
聖堂教会より派遣されました………。以後お見知りおきを。」
「はじめまして、アレクサンドロ・ディ・ノートルダムと申します」
「(息を吐くように嘘ついてるよこのマスター)」
先ほどの2人組が、聖杯戦争という事もあり派遣されてきた監督役とあいさつを交わす。
「しかし、フリーメイソンのお抱え魔術師が偶然居合わせ、協力までしてくれるとは有り難い限り。」
「いえいえ、私も秩序を乱す悪しき願いを叶えようとする魔術師を快く思いません。
いわばこれは私が好きで協力をするという事です。どうか馬車馬の如く使っていただいて結構です」
「馬車馬などと！休息こそ人間の本懐。今日はもう遅い。明日対策会議を開くとしましょう。
あーっと、そこのサーヴァントも寝ないと調子が出ないだろう。君ももう寝なさい」
そう言うと、二人は握手を交わして教会を後にした。
「んだよーアイツ！僕を子ども扱いして！！」
「まぁ、しょうがないと思えますよ私は。」
「何だとー！？」
ある程度口論を繰り広げた後、互いにククッと小さく笑う。
「それで、どうですかな？"彼"は？」
「簡単に騙せそうだね。でもバレると後が怖いし
殺すとしたら一番最後じゃないかなぁ？」
「exactly、全く寸分の違いなく私と同じ思考！
やはりあなたとは良いパートナーとなれそうだ」
「えへへっ、そう言われると照れちゃうなぁ〜
これじゃあ友人の一線を越えた関係になっちゃうよぉ〜」
「ご心配なく、私に人外と付き合う趣味はございませんので」
「何をぉー！？」
ポカポカと少年(?)が男を叩きながら、二人はホテルへと向かっていった。
◆
そこから先は、笑えるほど順調であったと男は語る。
「全くもって、聖杯を願望機か何かと勘違いしているミーハー共の集まりでしたよ。
まったく……………願いなど、己が力で叶える以外他にないというのに。
叶える術も知らぬ願いを聖杯に縋る等、無知蒙昧も甚だしい！！」
「それは、我々に対する当てつけか？カールクラフト」
ギロリ、と口元を布で覆った男が睨みつける。
「いいえ滅相もない！貴方がたには新世界に対する明確なビジョンがある！
故に有象無象の魔術師とは違う！何せ導き手なのですからねぇ！」
「ちっ、白々しい………」
「まぁそれはそうとー、楽だったんでしょー？
聖杯手に入ったんですよねーぇ？見して下さいよぉー」
「まぁまぁ、そう慌てないで下さいラトフィア殿。物語には章という名の順序がある。」
「はぁー………そうですかー」
そう区切り、男は再び聖杯戦争の様子を語り始めた。
曰く、セイバー、ランサー、ライダーはサーヴァントとマスターの両方向からの説得、同盟、
からの篭絡により早々に弱体化。マスターの命脈を早々に絶たれ無念の内に脱落したらしい。
「ムッハッハァッ！ニンジャたるアサシンを警戒せず迎え入れるからだ！」
『僕ニンジャじゃないんだけどなぁー…………』
「ん？何だ？」
「いえなんでも………？
気のせいではありませんか？」
「ふむ………。」
そうして残ったのは、陣地に籠るキャスター、マスターはいつでも殺せるが単独行動が厳しいアーチャー、
そして最後に、そもそもマスターもサーヴァントも話が通じないバーサーカーであった。
「どうしたのですか？そのバーサーカーとやらは」
「簡単な話ですよ」
曰く、監督役を丸め込み討伐令を出させたとの事だった。
「トリノミアス殿、バーサーカーには理性がない。そして多量の魔力を一気に消費する…いわば生きる核兵器だ。
それが街にいて、いつ爆発するか分からない……平和を守る聖堂教会として、生かしておいて良いものであろうか？」
「う………………うむ……………そうであるな。確かに、いつ人食いに走ってもおかしくない」
「討伐令を出しましょう。サーヴァントを相手取れる存在は、同じサーヴァントのみ！」
「分かった。─────────残りしキャスター、アーチャーと協力し、
何としてでもバーサーカーを討伐せよ！！」
「了解しました…………。」
「なるほど………」
「相変わらずあくどいやり方だなぁ貴様」
「あくどいなどと！賢いと言ってくださいよ」
「それでどうなった？」
当然、3体のサーヴァントを相手取ったバーサーカーとそのマスターはただでは済まない。
激しい乱闘の末、アーチャーと相打ちになる形となって討伐された。
「うまい具合に、アーチャーとバーサーカーを掃除できたというわけだ」
「まぁ、消耗したところを狙う予定でしたが……運よく相打ってくれました」
ニヤニヤと気色悪い笑みを浮かべながら男は言う。ここに集った大半の者が、
その相打ちすらもこの男が仕組んだものなのではないかと怪しんでいた。
「そして最後に、キャスターと」
「ええ苦労しましたよ。何せ搦め手が通用しないのですから」
「ほう、ならばどうした？」
「互いに陣地に籠り、我慢比べでしたよ」
「えぇー…………。」
その後、キャスターのマスターは我慢が苦手だったようで、
しびれを切らして突撃を掛けてきた。陣地から出ればキャスターなど容易い。
簡単に背中を打つことが出来た。
「ふぅん、それであなたは聖杯を見事得れたという事ね？おめでとう」
「ええ、称賛の言葉感謝の限りです花宴殿」
「待て」
頭を深々と下げる男に、口枷を嵌め拘束服を着た石膏像のような男が制止する。
「何故アナタは、そのような回りくどい真似をした？
聖杯など、そんな真似をせず直接その聖堂教会から奪えばよかったものを」
「全くですね。まさか聖杯戦争をしてみたかったなどというのではないでしょうな？
でしたら此度の出資、まとめてあなたに請求させていただきます」
「………………………。」
男は頭を下げたままクックックッと喉を静かに鳴らす。
その後頭を上げ、笑顔でその疑問に応対した。
「いえ、私は──────"聖杯など、端から目的としておりません"」
その言葉に、聞いていた全員が立ち上がった。
「何？」
「どういう事だ？」
「貴方は、O-13の新世界のために、
基盤となる聖杯を手に入れるというはずでは！？」
「ですから言ったでしょう」
騒ぐ大勢を前にして、男は笑いながら言う
「願いなど己の手で叶えるもの。聖杯に託すなど愚の骨頂です」
「貴様………言わせておけば！！」
「────────待ちなさい、ガフ」
「……止めるのか、モーチセン。この聖杯を強奪した男を！」
ガタリと立ち上がった男を、礼装で全身を覆った者が制止する。
「貴方が聖杯に願った物………。それが私達に、有利になるものなのでしょう？」
「………………………………。」
男はにやにやと笑いながら、礼装の男の言葉を聞き、そして頷く。
「もし、彼が聖杯を強奪、もしくは私欲のために利用したのなれば……
こうして我らの前にまず現れるはずがない。"逃げている"はずだ」
「………………言われて………みれば………。」
「そして、もし逃げたとしても、我らの追跡を逃れられると思っているほど、
彼は楽観的ではないはずです。そうですねカールクラフト？」
「──────流石の洞察力、そして推理力だモーチセン殿………。」
クククク………と男はあやしく笑う。
「その通り、私が得たのは聖杯に並ぶ………いえ、"聖杯すら超える代物"！！
必ずやあなた方の創る新世界実現のための道を指し示すものとなるだろう！」
「だが…………聖杯戦争を引き起こした説明にはなっていませんよ？」
「そーっすよ、なんでそんなまわりくど……………っ」
机に膝を置きながらトランプをいじって聞いていた少女が、
何かに気づいたようにパチィンと指を鳴らす。
「？ どうしましたクレアさん？」
「ひょっとして、回り道がなくちゃその"代物"を得られなかった？」
「はい、その通りですクレア・ラトフィア殿」
男はそう言って、深々と頭を下げた。
「なぁるほど、聖杯戦争は回り道じゃねぇ。
"英霊を召喚する"という、れっきとした奇跡が残る」
「そのためにわざわざ、聖杯戦争という回りくどい真似をしたわけか。」
「特異点に言ったが故、英霊が珍しい物と忘れていったわ！ヌワッハッハッハァ！！」
「さて……………、貴方がたがその行間に隠された真実にお気づきになられたところで、
私の口から語られる聖杯戦争という戯曲はとうとう最終局面へとなだれ込みます………」
下げた頭を三度男は上げて、両手を広げてまるで指揮者の如く振るう。
「さぁ喝采のご用意を…………」
◆
そして、彼らは聖杯に辿り着いた…………。
「おお、これが聖杯か、五十余年生き続けて目にしたのは初めてだ！」
「ええ………私も初めてだ。かのヒットラーが長きに渡り求め、そして手に入らなかったモノなのだから」
アサシン、そのマスター、そして監督役の目の前には輝く杯が浮かぶ。
「それで一体、これはどうしますので？」
「そうですな。中にたまっている魔力を消費する必要があります。
何か願いをお願いいたしますカールさん。ああ……もちろん秩序を乱すような願いはNGですぞ」
「はっはっは、大丈夫ですよトリノミアス殿。私の願いなど囁かなものです」
そう言いながら、男は笑う。
「そういえば……結局あなたの願いを聞けませんでしたな」
「ああ、恥ずかしい願いなもので、ついついはぐらかしてしまっていましたね
良い機会です。私の願いが叶うその瞬間を、どうか見届けてください」
「ええ勿論。」
「アサシン」
マスターたる男が言うと、アサシンが前に出る。
そして、何かを受け入れるように両手を広げる。
「(ほう、サーヴァントの受肉ですかな……？)」
その光景を見て、監督役たる老人は彼が願おうとしている願いをあらかた察する。
「(むぅ………、しかし受肉を許可しても良いものか？
しかし、噂では3人のサーヴァントが既に受肉していると聞く。
まぁ……、影響を及ぼさないならば良いだろう。いやしかし……)」
老人がそう考えている横で、マスターたる男は手の甲に宿る令呪を輝かせる。
「令呪３画を以てして、我がサーヴァントに命ずる。」
ニィィ……ッ、と男は笑みを一層強め、そして────
「聖杯を受け入れ、完全なる姿へと昇華せよォ！！」
「何─────────ッ！？」
「そして貴方とは、これでさよならだ。トリノミアス殿」
何をしている、と老人が言うよりも早く、男はその監督役の首を切り落とし、
そして入念に分割をした。二度と蘇生されないように。
「流石だねぇ、マスター？」
「この男が、私達を完全に信用していたのが悪いのですよ
まぁ……、そう信じるように仕向けたのは他でもない、私なのですがね？」
一方アサシンはというと、ゆっくりと天より降りて来た聖杯を、
まるで抱擁するかのように抱え、そして───己の霊基(カラダ)と"一体化"させた。
「んっ……………、あぁ……んっ。」
「ほう──────これは…………！！」
すると、そのサーヴァントの霊基(カラダ)が徐々に変化していき、
所々に蜘蛛の意匠が見られる姿へと変貌していった。
「嗚呼………。これだよ……！これこそが真の僕だ！！
なるほどね。此度の試練は三匹の敵討伐ではなく、七匹の英霊討伐だった、ってわけ？」
「そうなるのでしょうねぇ、しかし……これであなたは望む姿、望む権能に戻れたわけだ。」
「ふふん、ああ久しぶりだなぁ。"全ての物語の王"に戻れるのなんて何時ぶりだろう」
サーヴァントは、何か感慨深いような表情をする。
「さて？これで僕は全ての物語を知る者へと戻った。
これなんだろ？君が求めるものとは。一体だれの物語を知りたいのか、知らないけど。」
「ええ、私が求めたのは他でもない、貴方そのものだ。
はっきり言おう、私は貴方に"恋焦がれた"のだ。貴方に跪かせてほしい」
そう言うと男は膝をつき、まるで忠誠を誓うようなポーズをとる。
「そういって調子に乗った僕を操ろうというのだろう？調子良いんだからぁ
でも、気分が良いからとりあえずは乗って上げる。君いっしょにいて楽しいし！」
「ほう、これはこれはありがたい。」
そう言いながら立ちあがると、男はサーヴァントの手を取る。
「ではひとまずは、私の本拠地へ向かいましょう。
サーヴァント・アサシン。いえ………………。」
「サーヴァント・ディエティ、アナンシよ」
◆
「─────────と、物語は締めくくられます」
「そこで登場したのが、僕ってわけさ！」
パン、と手を叩いた男の横に、スゥーとサーヴァントが出現する。
「なるほど、そのサーヴァントが我らにもたらされし福音というわけか」
「福音だなんて………。照れちゃうなぁ、えへへ」
「しかし、如何にしてそのディエティを役立てるというのです？」
「そうですね、では実際に私が彼を選んだその理由と共に活用法をご教授しましょう」
そう言うと男はサーヴァント、いやディエティの方向へ向く。
「ではお願いします。」
「んもうっ、途切れた物語の答えばっかり聞くんだもの。
マスターには困っちゃったよぉーホント。」
ポリポリ、とディエティは頭を掻きながら渋々答える。
「ではー、これより。フィニス・カルデアを参考とした
抑止力を崩御させる計画の概要をお話ししまーす」
─────────かくして、それぞれ別の方向を向いていた彼らは同じ路を往く。
目指す先は、抑止の破壊。新秩序の為に、旧体制は破壊しつくさねばならない。
破壊と再生。スクラップアンドビルドこそが、彼らの辿り着いた最初の結論であった。
今、魔人たちが牙を研ぐ。今、魔人たちが立ち上がる。
◆
アナンシ「おまけパートだよーっ」
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