Pretty Liar > 第3話 All about Her
撮影において、ほぼリテイクのない楓に感服する奏。
だが楓は「高垣楓だから」という理由で遠慮されて
いるのではないか不安だという。その夜、
酒に酔って奏に介抱された楓は、本音を打ち明ける。
本当の私を真っ直ぐに見てほしい。ありのままを
見せる、それが自分のアイドル像なのだと。
だが楓は「高垣楓だから」という理由で遠慮されて
いるのではないか不安だという。その夜、
酒に酔って奏に介抱された楓は、本音を打ち明ける。
本当の私を真っ直ぐに見てほしい。ありのままを
見せる、それが自分のアイドル像なのだと。
撮影中 | |
---|---|
監督 | カット! んー、奏ちゃん、いまのところもう一回やろっか! |
奏 | はい。すみません、よろしくお願いします。 |
撮影後 | |
奏 | ふぅ……今日は、いつもよりリテイクを出してしまって。 ……迷惑をかけてしまったわ。 |
楓 | まぁ、そんな日もありますよ。 良いものをつくる上で、リテイクは避けて通れませんし。 |
奏 | 私たちは本職の女優さんではありませんし。 私たちなりに、全力を尽くしていればいいのだと思います。 |
楓 | それはもちろん、そうなのだけど……。 でも、ミスはミスよ。 そこに言い訳はしたくないじゃない。 |
奏 | 奏ちゃんは、努力家ですね。 |
楓 | プライドが高いだけよ。嫌になるほどね。 |
奏 | それはとっても、素晴らしいことだと思いますよ。 さぁ、失敗は反省して、でも切り替えて、 明日からも頑張りましょう。 |
翌日 | |
監督 | オッケー! さすが楓ちゃん、文句なし! |
楓 | はい、ありがとうございます。 |
監督 | よし、次いこっかー! |
休憩中 | |
奏 | ほとんどリテイク無し。さすがね、楓さん。 |
楓 | 偶然ですよ。演じやすいシーンが多いだけです。 |
奏 | そうかしら。 私から見ても、楓さんの演技は自然で、 よくできていると思うけれど……。 |
楓 | どうでしょうね。 私にはむしろ、少し不安なんです。 |
奏 | 不安? |
楓 | ええ。自分で言うのもなんですけど……。 「高垣楓の演技だから」と思われている気がして。 |
遠慮されているというか…… 「高垣楓がやったんだから、これでいい」というか。 なんだか、そう思われている気がするんです。 | |
奏 | それは……まぁ、そうでしょうね。 楓さんが合格点以下の演技をすることは少ないでしょうし……。 |
それに、楓さんのスケジュールを考えると、 何度もリテイクを出すのも難しいでしょうから。 | |
楓 | それで妥協させてしまうのも嫌ですし。 そんな風に高く見られてしまうのも嫌なんです。 |
私はただ、ひとりのアイドル、ここではひとりの役者なんです。 歌姫の高垣楓なんて、そんな人はいないんですよ……。 | |
奏 | …………。 |
楓 | なんて。困らせちゃいましたね。 なんでもありません、忘れてください。 |
アパート | |
楓 | ただいま帰りました〜。 |
奏 | ……酔った楓さんを連れて帰ってくることに、 少しずつ慣れてきている自分が恐ろしいわ……。 ほら、まずメイクを落として……。 |
楓 | ふふふふ。私たちのふたり暮らしも、だいぶ長くなってきましたね。 奏ちゃんのいろんな面を知れて、私は嬉しいです。 私のことも、知ってもらえていると思いますし。 |
奏 | いろんな面を知られてるなんて、なんだか少し恐ろしいわね。 矮小な私自身を、見抜かれてしまいそう。 |
楓 | そう思うのは、奏ちゃんがまだ若い証拠かもしれませんね。 大人になると、自分を正しく見てもらえることに、 安心するようになりますから。 |
奏 | ふぅん……。 そういうものかしら。 |
楓 | 年を取るにつれて、ありのままの自分を受け入れていくんです。 自分に見合ったモノ、見合った環境。 その心地よさを知って、それに満足していく。 |
それ以上を求められても、 申し訳なくて、息苦しくなってしまう。 | |
奏 | あら、高垣楓のホンネ? お酒が入っているとはいえ、 なかなか衝撃的なこと聞いちゃったわね。 |
楓 | もう、奏ちゃんにもわかっているでしょう。 私はただの、ひとりの女性。 |
お酒を飲めば醜態だって晒しますし、 ときどき、朝寝坊だってします。 歌や演技だって、きちんとレッスンをして、やっています。 | |
もちろんアイドルとして、求められた姿には応えます。 ですが……本当の私を真っ直ぐ見てほしい、 ありのままを見せる、それが私のアイドル像なんです。 | |
奏 | 本当の私、ね。 |
たしかに、私にも少し、貴女のことが見えてきた気がするわ。 ……そう、本当の私。 | |
楓さんが、そんなにその幻想を剥いでほしいのなら……。 私が、手伝ってあげましょうか? |