ナレーション | 傾いた経営を立て直し、かつての名門校の栄光を取り戻すため、 改革に乗り出した川島学園理事長・川島瑞樹。 |
彼女は学園を立て直す柱のひとつとして、業績低迷期の間も 唯一実力者を社会に送り出し続けていた食品栄養科の強化を 進めるため、生徒募集と広報活動の一体化施策に乗り出した。 | |
瑞樹 | 本年より、 川島学園料理女王決定戦の全国中継開催を宣言します……! |
決勝戦 | |
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放送部・亜子 | さーあ、なんとTV中継まで入った川島学園料理女王決定戦! お題の「おかわりしたくなる、究極の一膳」で優勝を手にするのは はたして誰なのかー!? |
解説の泉 | 実力は甲乙つけがたいね。ひとり目は火力こそ正義…… 一族秘伝の巨大な鉄鍋持参で入学し、 細腕に似合わぬ鍋捌きで炎を操る中華の天才『鉄鍋の菲菲』。 |
放送部・亜子 | ふたり目は名門料亭の跡取り娘…… 食材と対話し、和食道……とりわけ煮物料理を 極めようとしとる『煮つけの葵』や。 |
解説の泉 | そして料理人とは無縁の家系でありながら、 昨年の大会を制した強者……『学園料理女王・響子』。 |
みんな卒業後は著名な料理人や有名料理店にスカウトされるとか。 いずれ劣らぬ天才たちって感じだよ。 | |
放送部・亜子 | そういえば、なんでか知らんけど いずみは食品栄養科の生徒でもないのに、 3人と料理対決したことあるんやったな。 |
解説の泉 | 開発中の料理AIの学習教材として最適だと思ったの。 私の研究の礎にしたかったけど、学習途上のプログラムで あの3人の相手はさすがに無理だったね。 |
放送部・亜子 | 誰が勝つにしても楽しみやなぁ! なお審査員は本校卒業生にして『神の舌』との異名もある 料理研究家で、元学園料理女王でもある榊原里美氏や! |
審査員・里美 | よろしくお願いいたしますねぇ〜♪ |
料理中 | |
鉄鍋の菲菲 | いまこそ一族伝来の九龍神火鍋、本領発揮のときネ! 全開火力で行くヨ〜♪ |
野菜を識る者・千夏 | そう……あの圧倒的火力をも制御する彼女の技をもってすれば、 食材から瑞々しさを奪わずに ムラなく完璧に火を通すことができる。 |
フランス留学でメトル・デ・レギュム…… 『野菜を識る者』と言われた私を下した彼女の技術は本物よ。 | |
煮つけの葵 | へへっ、聴こえる……食材の声が! それじゃあ今日の出汁は……これでいくっちゃ! |
郷土料理の匠・沙織 | 葵ちゃんは幼少期から旬の食材と向き合い続けたことで、 あらゆる食材の声を聴く……つまりコンディションを 感じ取ることができる……。 |
だから、煮物の火の通りや味の沁み込み加減も……最適な出汁も、 その日の食材の状態に合わせて、直感で理解してしまう。 どんな煮物でも完璧に作れる……羨ましい才能ですね。 | |
フラワー姉妹・みちる | 響子ちゃんが勝ちますよね、法子ちゃん。 |
フラワー姉妹・法子 | 響子ちゃんが勝つよね、みちるちゃん。 |
みちる | 響子ちゃんの料理は、特別だったからね。 誰も勝てないよ。 だって、あたしたちに勝ったんだもん。 |
法子 | |
放送部・亜子 | おーっとぉ! 3人と準決勝を戦った面々が謎の訳知り顔で ライバルを評しとるけど、そろそろ調理時間終了やで〜! |
実食 | |
審査員・里美 | まあ。 食欲をそそる香りがしますね〜。 |
鉄鍋の菲菲 | 川魚の刺激的唐辛子炒め煮だヨ〜! |
審査員・里美 | ……素晴らしい。 花椒と豆板醤をはじめとした数々の香辛料が、 箸に手をつける前から食欲を無限に刺激します。 |
放送部・亜子 | おーっと? 里美審査員の喋りの雰囲気が変わりましたが、これは? |
解説の泉 | 彼女、美味しい料理を評論している最中はああなるんだって。 |
審査員・里美 | 丁寧に下処理された魚はカリッと焼きつけてあり、 中はしっとりと柔らかい……それでいて野菜類の食感や風味も しっかりと残されている……まさに至高の神技です。 |
放送部・亜子 | おーっとぉ! 菲菲選手の川魚の刺激的唐辛子炒め煮、 文句なしの高評価が出たァ! |
審査員・里美 | 先ほどのが『動』であるとすれば、 こちらは『静』……といったところでしょうか〜。 |
こ……これは……! | |
煮つけの葵 | 至高のけんちゃんうどん。 味わって食べてほしいっちゃ。 |
放送部・亜子 | ん? けんちゃんうどんて? |
解説の泉 | 大分の郷土料理だよ。 基本的な構成要素は、関東で言うけんちん汁に近いね。 |
審査員・里美 | ……そう、確かにこれはけんちゃんうどんです。 しかし……この複雑かつ上品な出汁は……もしやエソですか。 |
煮つけの葵 | さすがやね、ご名答っちゃ。 水揚げしてすぐのエソを、 いっぺん軽く焼いてから出汁をとったんちゃね。 |
審査員・里美 | 確かにそうすれば、生臭さは一切残さず、 上品で豊かな風味だけを活かすことができます。 |
そして出汁を一部のムラもなく沁み込ませた根菜たちと、 つゆを纏ううどんの奏でるハーモニー…… 食材の声が聴こえるとの噂も誇張ではないのでしょうね。 | |
放送部・亜子 | 葵選手のけんちゃんうどん、これも高評価やーッ! |
審査員・里美 | さて、最後は去年の女王ですかぁ〜。 昨年は私、海外にいましたので前回大会を拝見しておりませんが、 楽しみにして……おや〜? |
学園料理女王・響子 | はい、どうぞ。ご飯とお味噌汁とお漬物です♪ |
放送部・亜子 | あははは……いやいやさすがにそれだけってことは……。 それだけ!? 本当にそれだけなんっ!? |
審査員・里美 | ……いえ、待ってください。 これは一見すると、 普通のご飯とお味噌汁とお漬物……ですが……。 |
お箸が……お箸が止まりません……! | |
放送部・亜子 | な、何が起こっとるんやー!? |
学園料理女王・響子 | 私は、誰かに美味しいご飯を食べてもらいたいなと思って 作っているだけなんです♪ |
審査員・里美 | それだけ……いえ、それこそがこの一膳を成立させています……。 このお米もすべての粒にムラなく火が入り潰れもなく立っている。 研ぎ……いえ、もっと前の選別段階から気を遣っている……! |
お味噌汁もお漬物も。超絶技巧や特異な才能、豪華な材料によって ではなく……美味しいものを人に食べてもらいたいという手間と 想いだけで、このレベルにまで味を引き上げているのですね……。 | |
裁定 | |
審査員・里美 | 本年の優勝者はいずれも甲乙つけがたく、技巧・センス・想い…… それぞれが究極の高みを目指すに足るレベルまで 味を引き上げたということで、3名同時優勝といたしますねぇ〜♪ |
さ〜て。 それじゃあ審査も終わりましたし遠慮なく〜、 アレ、やっちゃってもいいですかぁ〜? | |
放送部・亜子 | おーっとォ! これは出るんかぁ〜!? 料理研究家榊原里美氏が太鼓判を押した料理にのみ行うという…… |
大会中継・亜子 | ハチミツ味変やぁ〜!!!! |
瑞樹 | ……なんでハチミツ? |
ナレーション | その後、川島学園への受験資料の請求が一時急上昇したという…… |