レッスンルーム | |
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レッスン後、居合わせたメンバーに残ってもらい、 美由紀のオーディション対策の相談に乗ってもらうことにした…… | |
○○P | みんな、付き合ってくれて感謝するよ。 |
菜々 | いえいえっ! 美由紀ちゃんの力になれるなら喜んで! それにアニメのお仕事となれば、個人的にも興味ありますしっ! |
拓海 | 頑張ってるヤツには手ェ貸すのが、仲間ってモンだからな。 |
夏樹 | なんの相談にしたって、頭数いた方が知恵は出せるだろうさ。 |
瑞樹 | さっき練習してたのが、オーディション用の台本なのよね? 声の通りなんかは悪くない感じだけれど。 美由紀ちゃんの受ける役って、どんな感じのキャラクターなの? |
○○P | 今回の話の主役になる少女だね。 偶然手に入れた魔法の靴で大人の姿となり、 密かに夢見ていた歌手としての人生を歩み始めるんだ。 |
美由紀 | えへへ、すっごくキラキラしたお話っ♪ でも心の中では、悩みを抱えてて…… 家でも学校でも、暗い感じだったりするの。 |
そういう『ミユキ』の気持ちがね、 みゆきにはまだちょっとわからなくって……。 | |
ベテラン トレーナー | ふむ。 具体的には、どのあたりだ? |
美由紀 | 台本の最初の方だと、友達とも家族ともあんまり仲良くなさそうな 台詞が多くって……。 |
仲が悪い……のかなあ? それに、自分のことも嫌いみたいな台詞がたくさんあるんだ。 | |
『あたしが何をしたって、何を言ったってひとつも変わらない。 ……あたしを見ないみんなが嫌い。 それを変えられないあたしも嫌い……!』とか……。 | |
ベテラン トレーナー | ふむ……。 |
美由紀 | だから魔法の靴で夢を叶えて、大人の歌手になったんだよね? 秘密をバラしたら魔法が消えちゃうから、誰にも秘密を 言わないようにがんばって……。 |
でも最後はお母さんとお父さんの前で自分が『ミユキ』だって秘密を 話して、魔法の力を捨てちゃうの。 | |
どうしてなんだろう? 歌手になるのはずっと『ミユキ』の夢だったのに。 | |
ベテラン トレーナー | そうだな……。 柳瀬は、ご両親とは仲良しか? |
美由紀 | ……? は、はい。 |
ベテラン トレーナー | 小さい頃から、今までずっとか? |
美由紀 | はい、ずっと仲良しです! |
瑞樹 | あー……なるほど、そういうコトね。 |
ベテラン トレーナー | ……ふふ。 まあ、そういうコトだ。 |
これは確かに、今の柳瀬が『ミユキ』の心情をすぐに 理解できないのも無理ないと思ってな。 | |
美由紀 | ……? |
瑞樹 | そうねぇ……ヒントは……『お年頃』ってところかしら。 |
美由紀 | んんん……? |
瑞樹 | 美由紀ちゃんくらいの年頃の子の中には、成長する途中で一時的に 精神がアンバランスになることも少なくないのよね。 |
その中で、今まで仲の良かった家族…… 特に親御さんとか年上の兄弟なんかと 仲が悪くなったりする子も出てくるの。 | |
ベテラン トレーナー | ああ。 そしてそれは当たり前のことで、何も珍しいことじゃあない。 |
○○P | 中には美由紀のように、身近な人間とギクシャクするような 経験をしない子も当然いるし。それはそれで幸せなことだけどね。 |
美由紀 | うん。お父さんたちと仲が悪くなるなんて、想像できない…… あ、でもそういうの、教科書にちょっと書いてあったかも。 |
菜々 | なんだか微笑ましい感じですねぇ。 ナナもどっちかって言えばあんまりギクシャクしたりはしないまま おと……じ、17歳になった方ですけれど! |
夏樹 | 難しいお年頃、だとさ。 アタシたちにも覚えがあるかもな。 |
拓海 | ……言っとくが、アタシがツッパってんのは地だ。 一時的なモンじゃねえからな。 |
夏樹 | はは、悪い悪い。そうだったな。 |
……けどまあ、中学くらいの頃には、 口から出る言葉と気持ちが裏腹ってこともたくさんあるさ。 | |
きっとその台本には、声に出る台詞だけじゃなくて、 目に見えない『ミユキ』の言葉もたくさん書いてあるんだろうな。 | |
美由紀 | 見えない言葉……かぁ……。 |
そう言って美由紀は、再び難しい顔で台本とにらめっこを 始めたのだった…… |