マシュロー・パズミノ
最終更新：ID:tN3E2tOcFA 2022年03月03日(木) 15:17:27履歴
「肩の力抜いてお前の好きなようにやれよ。後の始末は俺が引き受ける」
基本情報
魔術・特殊技能・特性など
『絆』
『
『裸眼』
礼装・装備など
『
人物像
来歴
性格
行動規範・行動方針
役どころ・コンセプト
因縁キャラ
透視能力により裸体そのものを巨大な魔眼に変える『裸眼』の使い手。
戦闘になれば全方位に肉体・精神両面を標的とする大規模破壊を撒き散らし続けるため、納剣典礼司式会も長く手を焼いた。
体表面の透視分の消費魔力を節約できるという合理的判断から日常的に全裸で生活していたと伝えられている。ヌーディスト。
手塩に掛けた二人の部下を率いての聖務で潜入中だったマシュローが遭遇した際には、最高位の対神秘概念防御が用意されていたはずの両名がほんの数回の彼女との接触で完全に籠絡され堕落しており、自ら護符を外した部下たちが親友だったはずの相手を互いに面罵しながらあたかも想い人の愛を奪い合うかのように悪霊女王手ずからの殺害を乞い願う異様な光景を目の当たりにしている。
『双子蛭の接吻』で物理的に脳を保護して効果をレジストしていたマシュローは取り急ぎ悪霊女王を斬り伏せて討滅、部下たちの命だけは守り抜いたが、マシュロー以外は強烈な精神汚染で使い物にならなくなってしまい、これ以上の聖務続行は不可能と判断して撤退に甘んじざるを得なくなった。
納剣典礼司式会に配属されてから初めての黒星をつけられたのもあって半ばトラウマに近いものを抱いたのか三十年以上が経った今でも呪術師と聞くだけで渋い顔になる。新規加入者のアリアが死体を操ると知った日には丸一日遠い目をしていたらしい。
二十六席円卓騎士団は第八秘跡の存在を認めておらず、人心を乱す魔術を偽り奇跡を触れ回る涜神の極み、神への侮蔑だとして、公式に批判を行っている。
二十六席円卓騎士団で禁忌とされる生体神秘の移植にすら貪欲に触手を伸ばす有様は生ゴミ漁りのカラスに擬えられ、二十六席円卓騎士団と傘下組織においては不吉なる者 という蔑称が用いられることもしばしば。
マシュローが納剣典礼司式会の最高顧問を務めた時代は東側諸国の情報が封鎖されていた時代でもある。東方への進出を断たれ聖堂教会との勢力争いが一層激化していた当時、マシュローの潜入先はもっぱら西側諸国。東方教会の近況について調査する機会がなかった上に、活動を勢力圏内に限定する機密院の引き篭もり体質も相まって、その詳しい内情というものにはひどく疎い。
しかし神秘を肉体に移植する古儀式派の忌むべき悪習は二十六席円卓騎士団で異端とされる行為の最たるもの。マシュローはそれだけで忌避に足りると主張し、実際、人外と同じかそれ以上に、蛇蝎のように嫌っている。
「カラスどもめ……！ 事もあろうに銀狼を飼い馴らそうだと？ 前時代的な人身御供なんぞ如何にも弁え知らずの機密院 が考えそうな浅知恵だ！ 殉教者気取りで傲慢に涜神を重ねるのは望んで地獄に落ちる異端の勝手だとも、ああ、勝手にやってくれ！ だが内々に封印すべきものを貸しだす真似は異端といえど傲慢がすぎるぞ！ なぜあのような前時代の遺物どもが放置されている！ 東方主教座ごと悪魔に取り憑かれたのか！？」
──タマ加盟にあたって展開された数ヶ月に渡る愚痴と正教批判（主な被害者は百古）より抜粋
新教は多数の宗派に分かれるためそれに伴って複数の暗部組織が誕生した。これを取りまとめるのが各暗部とフル・コミュニオンの関係にある二十六席円卓騎士団である。
第一席から第十ニ席に加盟組織代表者、第十四席から第十九席には遍歴部隊『納剣典礼司式会』の構成員、第二十席から第二十五席には各エリアの顧問祓魔師が就任する。
伝統的に信徒の魔力使用そのものを異端視しているため、使用者に魔力生産を求めない概念武装や装備自体が魔力を産出し魔術を編む“生きている武器”──『惑霊』が正式装備として採用されている。
荊
備考
基本情報 
【氏名】マシュロー・パズミノ
【性別】男性
【年齢】58歳
【出身】英国
【身長・体重】186cm・94kg
【外見・容姿】ホーバーク代わりの黒スーツの上にサーコートを着用する珍妙な風体をした男。
鬱蒼と伸び茂った髭面に隠されているが素の面立ちは青年のように若々しく加齢の痕跡がない。
両腕と一体化した『双子蛭の接吻』の上からジャケットを着ているため肩口から袖元に掛けてが常にパツパツに膨れ上がっている。
【属性】中立・善
【魔術系統】悪霊払い、悪霊使役
【魔術属性】火
【魔術特性】なし
【魔術回路】質：C 量：C 編成：異常
【起源】維持
【所属】『荊』
【イメージ画像】
出典:Mano's Picrew!
【性別】男性
【年齢】58歳
【出身】英国
【身長・体重】186cm・94kg
【外見・容姿】ホーバーク代わりの黒スーツの上にサーコートを着用する珍妙な風体をした男。
鬱蒼と伸び茂った髭面に隠されているが素の面立ちは青年のように若々しく加齢の痕跡がない。
両腕と一体化した『双子蛭の接吻』の上からジャケットを着ているため肩口から袖元に掛けてが常にパツパツに膨れ上がっている。
【属性】中立・善
【魔術系統】悪霊払い、悪霊使役
【魔術属性】火
【魔術特性】なし
【魔術回路】質：C 量：C 編成：異常
【起源】維持
【所属】『荊』
【イメージ画像】
髭なし
毎週髭の色が変わっていた時期（画像は紫）
魔術・特殊技能・特性など
『絆』
『双子蛭の接吻 』
�祁拭柄�着型）惑霊。有力な死徒であった『裸眼』カルゼーネ・シトルベッサを加工して造り出された銀色の生きている篭手 。
篭手と言っても前腕部のみならず肩口までを呑み干してしまう長大なものであり、関節部は一切存在しないが、靭やかに曲がり動きを邪魔しない。そのため遠目には厚切り肉のごとく重厚に織られた光沢のあるシルクのオペラグローブのようにも見える。
湾曲した外面部には聖句がびっしりと刻まれ、刻字の溝で乱反射する眩い金属光沢を帯びているが、装着時に腕に触れる内側の面には無尽の飢えを研ぎ澄ました肉塊が蠢いており、装着者が素肌を捧げれば喜々として獲物に牙を突き立て血を啜り始める。
吸血を受けると体液交換を介して魔術的なリンク状態が発生し、その際にシトルベッサの能力や形質が一時的に発現。装着者は復元呪詛や身体強化といった死徒の基礎的な能力の他、シトルベッサの代名詞でもある『裸眼』を獲得する。
また、生粋の美食家で「活造り」を好んだシトルベッサの体液には、筋肉や神経の活動を妨げずに苦痛だけを鈍麻させる作用がある。そのため、着用しているだけで痛みに怯まなくなるばかりか、感覚共有による死の伝染や神経操作は勿論のこと、主教級の加護ですら減衰できない高威力の精神破壊など、抗い難く厄介な攻撃の数々を完全に遮断できる。
便利な防具だが、反面、代償は重い。
あらゆる苦痛を削ぎ落とされるため、罪悪感や葛藤すら感じなくなり、装着中は快楽殺人者的な傾向が表れる者も少なくはない。長期使用ではリンクを切断した後にも強い後遺症が残った報告もあり、装着を繰り返せばやがて精神をシトルベッサに汚染され、彼女に支配された「子」に成り下がるのではないかとまことしやかに囁かれている。
篭手と言っても前腕部のみならず肩口までを呑み干してしまう長大なものであり、関節部は一切存在しないが、靭やかに曲がり動きを邪魔しない。そのため遠目には厚切り肉のごとく重厚に織られた光沢のあるシルクのオペラグローブのようにも見える。
湾曲した外面部には聖句がびっしりと刻まれ、刻字の溝で乱反射する眩い金属光沢を帯びているが、装着時に腕に触れる内側の面には無尽の飢えを研ぎ澄ました肉塊が蠢いており、装着者が素肌を捧げれば喜々として獲物に牙を突き立て血を啜り始める。
吸血を受けると体液交換を介して魔術的なリンク状態が発生し、その際にシトルベッサの能力や形質が一時的に発現。装着者は復元呪詛や身体強化といった死徒の基礎的な能力の他、シトルベッサの代名詞でもある『裸眼』を獲得する。
また、生粋の美食家で「活造り」を好んだシトルベッサの体液には、筋肉や神経の活動を妨げずに苦痛だけを鈍麻させる作用がある。そのため、着用しているだけで痛みに怯まなくなるばかりか、感覚共有による死の伝染や神経操作は勿論のこと、主教級の加護ですら減衰できない高威力の精神破壊など、抗い難く厄介な攻撃の数々を完全に遮断できる。
便利な防具だが、反面、代償は重い。
あらゆる苦痛を削ぎ落とされるため、罪悪感や葛藤すら感じなくなり、装着中は快楽殺人者的な傾向が表れる者も少なくはない。長期使用ではリンクを切断した後にも強い後遺症が残った報告もあり、装着を繰り返せばやがて精神をシトルベッサに汚染され、彼女に支配された「子」に成り下がるのではないかとまことしやかに囁かれている。
『裸眼』
対象の精神と肉体に干渉する魅了と透視の魔眼の一種。
能力そのものは平凡だが、“視力が眼球機能に依存しない”という特異性があり、本来のシトルベッサによるものなら死徒化によって強化された視線を全身の細胞から投じる芸当すら可能。『裸眼』による凝視は37兆の眼光を束ねた極星の視線であり、一つの恒星にも匹敵する。そのため凡庸な魅了視ですら久遠を蝕む呪いとなる。
『双子蛭の接吻』も同じ能力を持ち、共生関係にある装着者を除いて、篭手を視認した相手に対して自動発動する。
かつての『裸眼』が恒星であれば、こちらは太陽光を反射する月のようなもので、透視能力を失い、ひと目で精神を汚染し神経系を破壊してみせた過日の面影はない。しかし、なおも視線の圧は通常の魔眼のそれを遙かに上回っており、魔眼除けの護符などは通用せず、高ランクの概念的防御を複数組み合わせても多少の威力減衰しか期待できないだろう。『裸眼』を無効化する最有力手段は“見ないこと”であり、その他に術はない。
納剣典礼司式会に所属していた頃のマシュローは、常日頃は長袖のサーコートに篭手を隠しており、起動の必要に応じて必要なだけ袖を破り取ることで魔眼を制御していた。
『荊』に在籍する今はスーツのジャケットを魔眼殺しに利用しており、特に彼がサーコートを着る必要はないのだが、いくつもの戦場を共に駆け回り、同じ返り血を浴びてきた思い出の品ということもあって今でも肩から先を破り捨てたそれを愛用している。
能力そのものは平凡だが、“視力が眼球機能に依存しない”という特異性があり、本来のシトルベッサによるものなら死徒化によって強化された視線を全身の細胞から投じる芸当すら可能。『裸眼』による凝視は37兆の眼光を束ねた極星の視線であり、一つの恒星にも匹敵する。そのため凡庸な魅了視ですら久遠を蝕む呪いとなる。
『双子蛭の接吻』も同じ能力を持ち、共生関係にある装着者を除いて、篭手を視認した相手に対して自動発動する。
かつての『裸眼』が恒星であれば、こちらは太陽光を反射する月のようなもので、透視能力を失い、ひと目で精神を汚染し神経系を破壊してみせた過日の面影はない。しかし、なおも視線の圧は通常の魔眼のそれを遙かに上回っており、魔眼除けの護符などは通用せず、高ランクの概念的防御を複数組み合わせても多少の威力減衰しか期待できないだろう。『裸眼』を無効化する最有力手段は“見ないこと”であり、その他に術はない。
納剣典礼司式会に所属していた頃のマシュローは、常日頃は長袖のサーコートに篭手を隠しており、起動の必要に応じて必要なだけ袖を破り取ることで魔眼を制御していた。
『荊』に在籍する今はスーツのジャケットを魔眼殺しに利用しており、特に彼がサーコートを着る必要はないのだが、いくつもの戦場を共に駆け回り、同じ返り血を浴びてきた思い出の品ということもあって今でも肩から先を破り捨てたそれを愛用している。
礼装・装備など
『地錆 』
水の源のところに行って、塩をそこに投げ込んで言った。「主はこう仰せられる。『わたしはこの水をいやした。ここからは、もう、死も流産もおこらない。』こうして、水は良くなり、今日に至っている。
納剣典礼司式会の標準装備のひとつ。「淘汰」の概念武装。
高濃度の塩水を用いて聖別した武器全般を指し、マシュローはツーハンデッドソードを愛用する。
古来、塩は神との契約の象徴とされていた。
穀類の供物には必ず塩が使われ、塩による浄化の描写も少なくない。
堕落したソドムとゴモラの罪を滅ぼしたのは硫黄、そして塩である。
塩による浄化と滅ぼしは摂理の鍵が通用しない相手にも通りが良いため、多種多様な異類妖物と交戦する納剣典礼司式会で特に好まれている。
名前こそ地錆だが、耐久面での不安から錆びつかない素材を使う場合もあり、必ずしも錆びているわけではない。
しかし概念のぶつかり合いでは錆が強いほど一撃の効果を見込めるのも確かである。
ベテランにもなれば消耗前提での戦闘を想定しており、塩水と武器さえあれば調達は容易なのもあって予備を複数用意していることもしばしば。
マシュローの『地錆』は十字軍時代の武器を死海の水に沈めて製作しているため、錆の塊のようになってしまっている。それだけに概念武装としての格は高い。
納剣典礼司式会の標準装備のひとつ。「淘汰」の概念武装。
高濃度の塩水を用いて聖別した武器全般を指し、マシュローはツーハンデッドソードを愛用する。
古来、塩は神との契約の象徴とされていた。
穀類の供物には必ず塩が使われ、塩による浄化の描写も少なくない。
堕落したソドムとゴモラの罪を滅ぼしたのは硫黄、そして塩である。
塩による浄化と滅ぼしは摂理の鍵が通用しない相手にも通りが良いため、多種多様な異類妖物と交戦する納剣典礼司式会で特に好まれている。
名前こそ地錆だが、耐久面での不安から錆びつかない素材を使う場合もあり、必ずしも錆びているわけではない。
しかし概念のぶつかり合いでは錆が強いほど一撃の効果を見込めるのも確かである。
ベテランにもなれば消耗前提での戦闘を想定しており、塩水と武器さえあれば調達は容易なのもあって予備を複数用意していることもしばしば。
マシュローの『地錆』は十字軍時代の武器を死海の水に沈めて製作しているため、錆の塊のようになってしまっている。それだけに概念武装としての格は高い。
人物像
荊棘のエンブレムを纏う『荊』の魔術師の１人。
慈愛や赦しを尊び殺人を厭う真っ当な聖職者だが人外狩りの異端審問官という前職ゆえか“人ではない存在”に強迫的な差別意識を抱いている。
肉体的なピークはとうに過ぎているはずだが『双子蛭の接吻』に寄生された影響で肉体年齢が維持されており二十歳そこそこの若者のような勇壮さを保つ。
特技：スーツの袖を1cm間隔で破り取ること
好きなもの：嗅ぎ煙草、裁縫、アンティークのオルガン
苦手なもの：人外、銃、アルコール、アリア・ジェミナイ
願い：なし
【一人称】俺 【二人称】お前 【三人称】あいつ/そいつ
慈愛や赦しを尊び殺人を厭う真っ当な聖職者だが人外狩りの異端審問官という前職ゆえか“人ではない存在”に強迫的な差別意識を抱いている。
肉体的なピークはとうに過ぎているはずだが『双子蛭の接吻』に寄生された影響で肉体年齢が維持されており二十歳そこそこの若者のような勇壮さを保つ。
特技：スーツの袖を1cm間隔で破り取ること
好きなもの：嗅ぎ煙草、裁縫、アンティークのオルガン
苦手なもの：人外、銃、アルコール、アリア・ジェミナイ
願い：なし
【一人称】俺 【二人称】お前 【三人称】あいつ/そいつ
来歴
マシュロー・パズミノが納剣典礼司式会の祓魔師だったのは30年以上前のことになる。
INF全廃条約が締結され東西情勢の緊張が緩やかに雪解けていく当時、マシュローにとっての戦いは人類と人外とのイデオロギー的対立であり、血潮を浴びながら敵を打ち倒す高熱の戦争であった。
当時の南アフリカは表の社会では分断された西側諸国における重要なレアメタル資源産出地とされていたが、裏にはもう一つの顔があった。それが魔術世界におけるレアメタル、神秘の産出である。
納剣典礼司式会はプロテスタント系でもカンタベリー大教主座を頂点に戴くアングリカン・コミュニオンの血を引いた二十六席円卓騎士団を母体とする異端審問機関である。その特徴として最たるものが──現在では解消された関係だが──教会組織にも関わらず魔術協会と全面的な提携を行っていた点にある。
これは聖公会が英国王を首長とする組織だからであり、その膝下で活動しており英国貴族も多数所属する時計塔派閥とは成り立ちからして切るに切れぬ関係が結ばれていたからに他ならない。
そういうわけだから、納剣典礼司式会の主たる目的はアフリカ南部に渡った宣教者と新たな信徒を異類妖物から守護することにあったが、魔術への造詣はそう深くなかった二十六席円卓騎士団では封印しきれない強力な神秘を接収した場合、自前の封印機関ではなく専門家である時計塔に管理を任せるのが通例となっていた。口がさない言い方を用いれば、横流しである。
当時の納剣典礼司式会とは貴族の代わりに“野蛮な”呪術師と交戦し、命を賭しても我が身を顧みず、戦友が命を落としても文句すら言わず、見返りも取らずに神秘資源を時計塔に売り渡す、とても都合のいい、魔術協会の尖兵であった。
彼が“カトルジエム ”だったのはそういう時代である。
産まれおちて間もない頃から孤児院に預けられ育ったマシュローに親の記憶はない。
12歳の夏。勤労の宛すらないまま孤児院を放り出され、聖公会の祓魔師に拾われる。14歳の夏。祓魔師として頭角を示し始める。15歳の冬。戦死した師に代わり二十六席円卓騎士団の第二十席を拝領。19歳の春。師を斃したカルゼーネ・シトルベッサを討滅。その功績から祓魔部門最高位の称号、遍歴騎士を受勲し、第十四席として納剣典礼司式会に配属される。その後は後進を育成しながら聖務に邁進──これがマシュロー・パズミノの無私の人生と栄光の全てだ。
全てが脆く崩れ落ちたのは25歳の冬のこと。
予兆 は非常に些細だった。一ヶ月もの単独潜入任務を成功させ帰還したマシュローの腕から『双子蛭の接吻』が剥がれなくなっていたのである。
かつての仇敵、シトルベッサを封じた篭手は六年の年月において何度も主を変えては精神を蝕んだが不思議とマシュローにだけは何の影響も及ぼさなかった。
マシュローとしては実際には単なる体調不良や長期間の聖務による疲れが精神汚染を得意としたシトルベッサに紐付いたというのが実情だろうと考えており、自分自身にシトルベッサに抗する特別な能力があるわけではないと結論づけている。事実、『双子蛭の接吻』に暗い噂が耐えなかったのは強靭な精神力と信仰で篭手を制御する聖人マシュロー・パズミノの存在に端を発してもいた。生ける伝説である彼が御するからこそ、噂は大げさに脚色されていたのである。
しかし、篭手が制御を離れた瞬間、そんな根も葉もない裏付けが反転する。もはや『双子蛭の接吻』は伝説的英雄マシュロー・パズミノですら御しえない怪物になってしまった。誰もがそう認識したのだ。
二十六席円卓騎士団はこの事実を重く受け止め、マシュローに肩から先を切り落とし、義手型の惑霊を新たに移植するよう指示。噂など一笑に付していたマシュローも粛々とこれを受け入れ近いうちに手術が行われることが決まった。
しかし手術の前日。マシュローに小さな疑問が過ぎる。
──切除したシトルベッサは何処に向かう？
騎士団の手に負えなくなった今、間違いなく『双子蛭の接吻』は時計塔に託される。そのとき、時計塔の魔術師が、真理追求のためなら他人を人と思わない外道たちが、果たしてシトルベッサの封印を解かないと言えるだろうか？ 誰がそれを保証する？
続けざまにマシュローの脳裏に浮かんだのは同胞の守護を名目に行われてきた侵攻作戦とその中で無意味に命を落としてきた仲間たち。必ず蘇ると封印完了のその瞬間まで彼を哄笑し続けたシトルベッサ。そしてマシュローを守るため命を捨てた師の死に顔と、師が遺した妻子の涙。
マシュローはその日のうちに姿を消した。
その後の顛末は在り来りで工夫もない。
本部はマシュローの出奔からシトルベッサに魅入られたことを確信し破門と異端認定を発令。
マシュローは古巣のみならず聖堂協会や賞金稼ぎのフリーランサーに命を狙われる逃亡生活を送る。
こうして追われる身となった彼が最後に逃れ着いた場所、それが、30年と少し前、ミロクを失った直後の『荊』だったのである。
INF全廃条約が締結され東西情勢の緊張が緩やかに雪解けていく当時、マシュローにとっての戦いは人類と人外とのイデオロギー的対立であり、血潮を浴びながら敵を打ち倒す高熱の戦争であった。
当時の南アフリカは表の社会では分断された西側諸国における重要なレアメタル資源産出地とされていたが、裏にはもう一つの顔があった。それが魔術世界におけるレアメタル、神秘の産出である。
納剣典礼司式会はプロテスタント系でもカンタベリー大教主座を頂点に戴くアングリカン・コミュニオンの血を引いた二十六席円卓騎士団を母体とする異端審問機関である。その特徴として最たるものが──現在では解消された関係だが──教会組織にも関わらず魔術協会と全面的な提携を行っていた点にある。
これは聖公会が英国王を首長とする組織だからであり、その膝下で活動しており英国貴族も多数所属する時計塔派閥とは成り立ちからして切るに切れぬ関係が結ばれていたからに他ならない。
そういうわけだから、納剣典礼司式会の主たる目的はアフリカ南部に渡った宣教者と新たな信徒を異類妖物から守護することにあったが、魔術への造詣はそう深くなかった二十六席円卓騎士団では封印しきれない強力な神秘を接収した場合、自前の封印機関ではなく専門家である時計塔に管理を任せるのが通例となっていた。口がさない言い方を用いれば、横流しである。
当時の納剣典礼司式会とは貴族の代わりに“野蛮な”呪術師と交戦し、命を賭しても我が身を顧みず、戦友が命を落としても文句すら言わず、見返りも取らずに神秘資源を時計塔に売り渡す、とても都合のいい、魔術協会の尖兵であった。
彼が“
産まれおちて間もない頃から孤児院に預けられ育ったマシュローに親の記憶はない。
12歳の夏。勤労の宛すらないまま孤児院を放り出され、聖公会の祓魔師に拾われる。14歳の夏。祓魔師として頭角を示し始める。15歳の冬。戦死した師に代わり二十六席円卓騎士団の第二十席を拝領。19歳の春。師を斃したカルゼーネ・シトルベッサを討滅。その功績から祓魔部門最高位の称号、遍歴騎士を受勲し、第十四席として納剣典礼司式会に配属される。その後は後進を育成しながら聖務に邁進──これがマシュロー・パズミノの無私の人生と栄光の全てだ。
全てが脆く崩れ落ちたのは25歳の冬のこと。
かつての仇敵、シトルベッサを封じた篭手は六年の年月において何度も主を変えては精神を蝕んだが不思議とマシュローにだけは何の影響も及ぼさなかった。
マシュローとしては実際には単なる体調不良や長期間の聖務による疲れが精神汚染を得意としたシトルベッサに紐付いたというのが実情だろうと考えており、自分自身にシトルベッサに抗する特別な能力があるわけではないと結論づけている。事実、『双子蛭の接吻』に暗い噂が耐えなかったのは強靭な精神力と信仰で篭手を制御する聖人マシュロー・パズミノの存在に端を発してもいた。生ける伝説である彼が御するからこそ、噂は大げさに脚色されていたのである。
しかし、篭手が制御を離れた瞬間、そんな根も葉もない裏付けが反転する。もはや『双子蛭の接吻』は伝説的英雄マシュロー・パズミノですら御しえない怪物になってしまった。誰もがそう認識したのだ。
二十六席円卓騎士団はこの事実を重く受け止め、マシュローに肩から先を切り落とし、義手型の惑霊を新たに移植するよう指示。噂など一笑に付していたマシュローも粛々とこれを受け入れ近いうちに手術が行われることが決まった。
しかし手術の前日。マシュローに小さな疑問が過ぎる。
──切除したシトルベッサは何処に向かう？
騎士団の手に負えなくなった今、間違いなく『双子蛭の接吻』は時計塔に託される。そのとき、時計塔の魔術師が、真理追求のためなら他人を人と思わない外道たちが、果たしてシトルベッサの封印を解かないと言えるだろうか？ 誰がそれを保証する？
続けざまにマシュローの脳裏に浮かんだのは同胞の守護を名目に行われてきた侵攻作戦とその中で無意味に命を落としてきた仲間たち。必ず蘇ると封印完了のその瞬間まで彼を哄笑し続けたシトルベッサ。そしてマシュローを守るため命を捨てた師の死に顔と、師が遺した妻子の涙。
マシュローはその日のうちに姿を消した。
その後の顛末は在り来りで工夫もない。
本部はマシュローの出奔からシトルベッサに魅入られたことを確信し破門と異端認定を発令。
マシュローは古巣のみならず聖堂協会や賞金稼ぎのフリーランサーに命を狙われる逃亡生活を送る。
こうして追われる身となった彼が最後に逃れ着いた場所、それが、30年と少し前、ミロクを失った直後の『荊』だったのである。
性格
がさつで無遠慮かつ差別的。レッドネックのステレオタイプを表面的になぞったような野人。ザ・コミュ障の天敵。
日常会話方法は怒鳴り声を使う他に存在しないと思っている節があり、がなりたてるように話すため、恫喝しているんだか単に声が大きいんだか判別に困る。
致命的に空気が読めず、行動の端々から育ちの悪さが見え透いている。格式張った場所では息苦しさを隠しもせず居心地悪そうに顔を顰める癖を持つ。
控え目に表すのであれば「野趣的な男性」。
理性的とは言い難いが、意外にも感情を行動に反映させることは少ない。
マシュローは一口に表せば「ルールに帰属する人物」で法や戒律を重要視しているため常に規律には真摯であり、自身の美学や主張よりも、時には強い殺意を抱く人外すらも無視して任務を優先する。
そんな、言ってしまえば普通の人なので倫理観のないタイプの人間に同行した場合には余りの非常識ぶりに当惑を覚えるケースも多々。
常軌を逸した連中と組めばバディの行動の意味不明さに理解が追いつかず呆然としがち。酷いときにはフリーズしてしまう。
納剣典礼司式会では後進の育成に力を入れており、聖務の合間を縫っては自ら教導を行っていた。実はおせっかい焼きで面倒見の良い人物。
世話好きを見込まれ『荊』には新人のバディを任されることも多く、マシュローが一度も組んだことがないメンバーというのは珍しい。
（現時点での該当者は『屍犬』、サンクティ=�将掘�黄金の環の黒獣）
かつては頻繁に潜入を行っていたので暇な時間や現地での習俗に触れる機会も多く、半ば必然的に多趣味になった。無骨な顔に似合わず楽器には殊更強く、篭手をつけたまま何でも器用に弾きこなす。
マシュローが在室する間は大抵耳慣れない楽器の音が漏れ聞こえてくるためアジトに帰還しているのがわかりやすい。
一方でアルコールは大の苦手。常在戦場を心掛け安息日のワインすら遠慮していたせいか完全に耐性を失ってしまい今ではビールグラスを一杯干すだけで千鳥足。
このことはその昔は酒豪でならしたマシュローの唯一のコンプレックスであり異様に沸点が低い。
酒の席で煽ると躍起になってペースを上げ数分も経たぬうちに耳まで赤く染まって地に伏せる醜態をさらすだろう。
日常会話方法は怒鳴り声を使う他に存在しないと思っている節があり、がなりたてるように話すため、恫喝しているんだか単に声が大きいんだか判別に困る。
致命的に空気が読めず、行動の端々から育ちの悪さが見え透いている。格式張った場所では息苦しさを隠しもせず居心地悪そうに顔を顰める癖を持つ。
控え目に表すのであれば「野趣的な男性」。
理性的とは言い難いが、意外にも感情を行動に反映させることは少ない。
マシュローは一口に表せば「ルールに帰属する人物」で法や戒律を重要視しているため常に規律には真摯であり、自身の美学や主張よりも、時には強い殺意を抱く人外すらも無視して任務を優先する。
そんな、言ってしまえば普通の人なので倫理観のないタイプの人間に同行した場合には余りの非常識ぶりに当惑を覚えるケースも多々。
常軌を逸した連中と組めばバディの行動の意味不明さに理解が追いつかず呆然としがち。酷いときにはフリーズしてしまう。
納剣典礼司式会では後進の育成に力を入れており、聖務の合間を縫っては自ら教導を行っていた。実はおせっかい焼きで面倒見の良い人物。
世話好きを見込まれ『荊』には新人のバディを任されることも多く、マシュローが一度も組んだことがないメンバーというのは珍しい。
（現時点での該当者は『屍犬』、サンクティ=�将掘�黄金の環の黒獣）
かつては頻繁に潜入を行っていたので暇な時間や現地での習俗に触れる機会も多く、半ば必然的に多趣味になった。無骨な顔に似合わず楽器には殊更強く、篭手をつけたまま何でも器用に弾きこなす。
マシュローが在室する間は大抵耳慣れない楽器の音が漏れ聞こえてくるためアジトに帰還しているのがわかりやすい。
一方でアルコールは大の苦手。常在戦場を心掛け安息日のワインすら遠慮していたせいか完全に耐性を失ってしまい今ではビールグラスを一杯干すだけで千鳥足。
このことはその昔は酒豪でならしたマシュローの唯一のコンプレックスであり異様に沸点が低い。
酒の席で煽ると躍起になってペースを上げ数分も経たぬうちに耳まで赤く染まって地に伏せる醜態をさらすだろう。
行動規範・行動方針
『荊』の任務優先。
殺人への忌避感はあるが敵が武器を収めない場合には実力行使を辞さない。
そうでなくても斥候やサポートは粛々とこなすため任務放棄はしない方針。
しかし、下戸を馬鹿にされるのだけは弱く、速やかに酔いどれて戦闘不能になる。
殺人への忌避感はあるが敵が武器を収めない場合には実力行使を辞さない。
そうでなくても斥候やサポートは粛々とこなすため任務放棄はしない方針。
しかし、下戸を馬鹿にされるのだけは弱く、速やかに酔いどれて戦闘不能になる。
役どころ・コンセプト
肝心なときに酒関係でダウンし味方を孤軍奮闘に追い込むトラブルメーカー
動けるときにはベテランの年長者としてしっかり働いてくれる
殺すタイプの人外ヘイターでは話の都合が付きにくいので、酒を勧めれば物理的に沈黙する感じに
動けるときにはベテランの年長者としてしっかり働いてくれる
殺すタイプの人外ヘイターでは話の都合が付きにくいので、酒を勧めれば物理的に沈黙する感じに
因縁キャラ
- トーレイズ・カグノールド・カラドグリホ
- カルゼーネ・シトルベッサ
透視能力により裸体そのものを巨大な魔眼に変える『裸眼』の使い手。
戦闘になれば全方位に肉体・精神両面を標的とする大規模破壊を撒き散らし続けるため、納剣典礼司式会も長く手を焼いた。
体表面の透視分の消費魔力を節約できるという合理的判断から日常的に全裸で生活していたと伝えられている。ヌーディスト。
- 悪霊女王
手塩に掛けた二人の部下を率いての聖務で潜入中だったマシュローが遭遇した際には、最高位の対神秘概念防御が用意されていたはずの両名がほんの数回の彼女との接触で完全に籠絡され堕落しており、自ら護符を外した部下たちが親友だったはずの相手を互いに面罵しながらあたかも想い人の愛を奪い合うかのように悪霊女王手ずからの殺害を乞い願う異様な光景を目の当たりにしている。
『双子蛭の接吻』で物理的に脳を保護して効果をレジストしていたマシュローは取り急ぎ悪霊女王を斬り伏せて討滅、部下たちの命だけは守り抜いたが、マシュロー以外は強烈な精神汚染で使い物にならなくなってしまい、これ以上の聖務続行は不可能と判断して撤退に甘んじざるを得なくなった。
納剣典礼司式会に配属されてから初めての黒星をつけられたのもあって半ばトラウマに近いものを抱いたのか三十年以上が経った今でも呪術師と聞くだけで渋い顔になる。新規加入者のアリアが死体を操ると知った日には丸一日遠い目をしていたらしい。
- 『聖堂教会』
二十六席円卓騎士団は第八秘跡の存在を認めておらず、人心を乱す魔術を偽り奇跡を触れ回る涜神の極み、神への侮蔑だとして、公式に批判を行っている。
- 『欠件機密院』
二十六席円卓騎士団で禁忌とされる生体神秘の移植にすら貪欲に触手を伸ばす有様は生ゴミ漁りのカラスに擬えられ、二十六席円卓騎士団と傘下組織においては
マシュローが納剣典礼司式会の最高顧問を務めた時代は東側諸国の情報が封鎖されていた時代でもある。東方への進出を断たれ聖堂教会との勢力争いが一層激化していた当時、マシュローの潜入先はもっぱら西側諸国。東方教会の近況について調査する機会がなかった上に、活動を勢力圏内に限定する機密院の引き篭もり体質も相まって、その詳しい内情というものにはひどく疎い。
しかし神秘を肉体に移植する古儀式派の忌むべき悪習は二十六席円卓騎士団で異端とされる行為の最たるもの。マシュローはそれだけで忌避に足りると主張し、実際、人外と同じかそれ以上に、蛇蝎のように嫌っている。
「カラスどもめ……！ 事もあろうに銀狼を飼い馴らそうだと？ 前時代的な人身御供なんぞ如何にも弁え知らずの
──タマ加盟にあたって展開された数ヶ月に渡る愚痴と正教批判（主な被害者は百古）より抜粋
- 『二十六席円卓騎士団』
新教は多数の宗派に分かれるためそれに伴って複数の暗部組織が誕生した。これを取りまとめるのが各暗部とフル・コミュニオンの関係にある二十六席円卓騎士団である。
第一席から第十ニ席に加盟組織代表者、第十四席から第十九席には遍歴部隊『納剣典礼司式会』の構成員、第二十席から第二十五席には各エリアの顧問祓魔師が就任する。
荊
マシュローが加入した時期が時期なので現構成員の殆どが後輩に当たる。
同僚。決闘のことしか考えてない娘。よくバディを組むメンバーの一人。
彼女が殺害したセンザン・ゴジョウはマシュローの竹馬の友であった。従って彼を殺したアイオラに思うところがないわけはない。
しかし──これは他のメンバーらにも共通するが──『荊』のようなヤクザ仕事に返り討ちのリスクは付き物であり、少なくとも選んだ生業の中で死ねた者は幸福だったとマシュローは考えているため、恨みつらみはなく、新たな仲間として受け入れている。
組織に入ってからも決闘漬けの生活を送る彼女を心配しており何かにつけては新しいぬいぐるみを買い与えている。
マシュローが強い愛着を持つ生まれ故郷、アイルランドに掛けて「アイラ」という愛称までつけており、ほぼ、孫同然の扱い。
「ほぅらアイラ。新しいお友達が来てくれたぞ。今度は灰色のウサギさんだ。仲良くしてやってくれ」
「……あの娘も。いつかは敗けて、そして死ぬのだろうな。旅立った俺の旧友たちのように」
同僚。人に成り代わる怪物。一度だけバディを組んだことがある。
基本的に関わりを持たないように心掛けているもののサンクティやザリエーシェへの態度に比べると刺々しさが少なく、明らかに戸惑いを覚えている。
SFチックな生態に理解が及んでいないのもあるが、なにより、マシュローが戴く教義は“赦し”を史上目的とし、彼自身も告解と悔い改めを重視している。
ゆえに平均的な人間らしくあろうと「回心」した彼を憎悪する理由が特に見当たらないのだ。
サンクティに比べ明らかに危険な生態を持つカレブを放置するのは染み付いた教義の矛盾点でもあるが、わざわざ言及して面倒事を増やしたくないので誰も指摘していない。
「アシュクラフト？ ……あいつは、よくわからん。情報を食べるとか食べないとか……じゃあなんだ？ 出納帳をたらふく食った俺のヤギは経理をやってくれるのか？ しないよな？ メーメー鳴いてるだけだよな。普通に考えて食えんだろ情報は。最近の若いのは難しい言葉を使うのが流行りなのかしらんが俺にはもうさっぱりだ……」
同僚。冷静沈着な火の玉小僧。よくバディを組むメンバーの一人。
昔の仲間だったチフラ・サイファーについては逃亡どころか仲間を襲撃し子供まで人質に取ったというのだから呆れるばかりで憐憫の情はない。
カローラの我が身が傷つくのを顧みない無鉄砲な戦いぶりには戦死した昔の友人を思い出してしまい、まだ十代の少年ということもあって目をかけている。
アイオラにぬいぐるみを買い与えるように彼にも何か渡すべきかと一先ず菓子類をよく買っているがカローラの表情が読めず喜ばれているのか判断に迷う。
「ミノさん」という愛称で呼ばれるようになって以降はマシュローもカローラに「カロル」という愛称を与え、そう呼ぶようにしている。
「つまらない死に方をしたな。サイファー。排斥され逃げ延びた俺たちの終の住処が『荊』だ。肩までどっぷり浸かったまま老いたお前にやり直せる宛なんてあるわけねえのにな」
「ああなりたくなきゃ居場所を探して早いところ足抜けしろ。俺のときは25歳でも手遅れだった。……上手く隠れたら探さないでおいてやるよ」
同僚。書庫籠りの眠れる龍。頻繁にはバディを組まない相手。
直感に従いがちなマシュローと理屈好きのネロは方針が対立しやすい、というのも原因だが、“敵陣に単身突っ込む暴力装置”という役割が被っており両名を同席させても却って運用の幅が狭まってしまう実利面での問題が強いと言える。
こと単純な火力においては組織内でもネロが上位に入るため、マシュローに求められるのは潜入工作技術と長期的運用を前提とする諜報能力になる。しかし、ネロに任される任務では彼が得意とする短期的な破壊活動で片付くケースも多く、必然として職務上は疎遠になっている。
が、プライベートではネロから一方的かつ大いに興味の視線を注がれており、酔狂や嫌がらせでないのは理解しているだけに却って不気味で仕方ない。
最近になって、この黒々とした髭が悪いのではないかと思い始め、三十年掛けて伸ばした髭に引導を渡すか否かを巡って煩悶する日々を送っている。
「ネロのことか……。えー……あいつの飯は美味いと、思う……うん……その……なんだろうな……。…………やっぱり髭が悪いんじゃないか？！ 俺にはもうネロのやつが髭を毟り取る隙を虎視眈々と伺ってるようにしか思えねえ！ ……そうだ百古。お前、髭の脱色とか出来ない？」
「どうなってやがる……何度色を変えてもまるで効果が出やがらねえ。あっ……てめぇ百古ォッ！ グリーンやピンクが駄目でもこれなら絶対大丈夫っつったよなお前！ 過ごしたさ！ レインボーカラーで一週間！ 何も変化がねえ！！ さてはお前──"笑い過ぎてお腹痛い"じゃねえんだよ腐れ魔女！」
同僚。堕ちたる梟。“現在は”あまりバディを組まない相手。
教会の護りを素通りして内部から人を堕落に誘う夜魔は古来より納剣典礼司式会の聖絶 指定種。子に罪はないとするマシュローも曰く「昔戦った呪術師連中を思い出す」らしく、“混じり物”といえど堕ちるだけ堕ちた百古には厳しい目を向けがち。
マシュローが組織に加入した当時は──まだ両人ともに精神的な未熟さが目立つ上に古株を一挙に失って仲裁を欠いたのも加味すべきだが──何かと気に食わないところが互いに目につき、数え上げれば切りがないくらい日常的な衝突を繰り返していた。
反面、暴力装置のマシュローと諜報要員の百古は役割の振り分けがぴったり嵌っており、潜入工作という得意分野も一致するため、万年人手不足の『荊』ではセット扱いでの運用も少なくはない。特に屋台骨のミロクたちを失って揺らいでいた当時は個人よりも組織と任務が過剰に優先されがちで、性格的に合わない相手とのバディを拒否する余裕もなく、相性の良い両名は否が応でも呼吸を合わせる必要に迫られた。そのため、バディを組んでいた期間や回数そのものは不動のトップで、めっきり組まなくなった最近も昔取ったコンビネーションの杵柄は健在。
「何度でも脅すが、ガキどもに手を出したら組織を裏切ってでもお前を殺す。そのあとは犠牲者に篭手 を託して仲間殺しの俺も自害する。多少なりと事情を知る俺まで死ねば……そうなりゃミロクを偲ぶ人間は誰一人と『荊』に残らねえ。恩があるならくれぐれも自制してくれ」
「俺がお前より先に死んだら……今更、神の審判を五体満足で受ける気はないが、篭手までもアリアにくれてやるわけにはいかない。あの娘の玩具としちゃ荷が勝ちすぎだ。そのときは頼むぜ百古。悔い改めた今のあんたなら、きっと、古い仲間の遺品を手荒には扱わない。俺はそう信じてる」
同僚。必殺系暗黒メイド。現「荊」メンバーに限定すればバディ結成回数は百古に次ぐ二位。
その理由は戦闘面での相性の良さ。視認の必要から高い制圧能力に反して逃亡するターゲットを取り零しやすい『双子蛭の接吻』の弱点をマツリカが狙撃でカバーする形になり安定した任務成功率を見込むことができる。そのため、交戦が予想される任務をマシュローが請け負った際には、先ずマツリカを探して声を掛けるのが恒例。
何度も力を合わせ同じプロジェクトに励む。こうなって行くと伴って交友も深まっていくのが一般的な人間関係だろう。
ところが世話焼き体質のマシュローはそれにもかかわらずマツリカには干渉したがらない。マツリカと同年代のアイオラやカローラを甘やかし、アリアに日々お節介を焼いて、時にはタマにすら叱責を向けるというのに。プライベートでのマツリカへの接触機会は偶然を除いては無きに等しい。
というのはマシュマロが彼女から一種の「割りきり」を感じているためである。マツリカにとって「荊」は過程。所属を明らかにして日々の糧を得るための一時的な場所に過ぎず過度な干渉は受け入れ難い──のではないかと。もちろんマツリカの口から聞いたわけでもなく単なる当て勘に過ぎないが、それゆえにマシュローは彼女が徹底するスタイルと人生観に口を挟まず、彼女が果たすべき目的を追う時間を奪わないように心掛けている。
「作戦はいつも通りプランA。半刻もしたら俺がひと暴れしてネズミを叩き出す。マヌケなネズミが顔を出したらお前が仕留める。以上だ。それでは現時刻をもって作戦行動を開始する。──んじゃ、よろしく頼んだぜマツリカ」
「放っておいた方が育つ人間ってのは稀にいる。あの子はまさにそういうタイプだよ。俺ぁ家政婦事情には疎いがね、こんな水底の泥濘みでも追う夢があるってのは良いことだ。下手に踏み込むよりも折り合いの外側から話し掛けたほうが上手くいくはずさ」
同僚。頭痛の種。よくバディを組むメンバーの一人。
ただでさえ肉体派かつ感覚派のマシュローには怠惰で飽き性な悟り世代の現代っ子を理解できないというのに、更にアリア個人の道徳と遵法精神を歯牙にもかけない非常識ぶりには開いた口が塞がらない。
彼女と任務に使うたびに明後日の方向へ駆け出すような突飛すぎる発想の数々に遭遇し、多大な困惑と疲労感に苛まれる羽目になる。
できればあまり一緒に仕事をしたくはないのだが、悲しいことに常識という概念が抜け落ちた『荊』ではストッパーになる者が少なく、辛うじて常識を持つカレブはアリアと組みたがらないので必然的にマシュローにお鉢が回る。
アリアが組織に加入したばかりの頃は多少なりと可愛がっていた時期もあった。が、何度か、もとい何度も殺されかけた今のマシュローは無かったものとして扱いたがっている。
「いいなアリア。今回の任務は俺が片付けてくる。全部やる。だから、頼むから何もするな。ここを動くな。絶対動くなよ？ もう二十ニ歳だから約束したことは守れるよな？ よし。よし。わかったな。わかってくれたか。……頼むぞ？」
「好きにやれとは確かに言った！ ああ言ったとも！ だがここまでやれとは俺は言っていない！ 一言もな！」
同僚。今すぐにでも斬り殺したい獣。未来永劫組むことはない。
彼女が自認する個体識別名は「タマ」。タマン=タルカンと呼んでも反応しないことさえあるがマシュローは五文字も長くて舌を噛みそうな名称を頑なに愛用している。愛称で呼ぶような気安さを覚えたくもなければ覚えさせたくもないのだ。
付き合いの長い人間でも怒声と通常発声の違いがわかりにくいマシュローだがタマと対面する間は非常にわかりやすい。常に怒声を発する。怒声でないときがない。むしろ怒声を発する状況でもなければタマとの交流の機会がない。彼がタマン=タルカンの名を叫んだら、それは怒号の呼び水なのである。
水と油な両者が──両者というには一方的すぎるが──邂逅すれば穏当な会話という概念はタマを置き去りに裸足で逃げ出し嵐が過ぎ去るまで雲隠れしてしまう。マシュローと彼女が過ごした二十年はその繰り返しに他ならない。
根が世話好きなマシュローから発せられた怒声が結果的にタマの中で規律や常識として結ばれた例も多少はあるが、マシュローはそんなものすら自分が与えたものだとは思ってもいなければ思いたくもなく、タマと親しかったセンザンが上手く躾けたのだろうと都合のいい解釈をしており、それを指摘すると烈火のように赫怒する。
とにかく万事が万事こういう調子なのでマシュローにタマの話題を振ることは『荊』においてタブー視される。一言に表すなら地雷源。
「タマン=タルカンの加盟に積極的だったのはお前だったよな百古。あの銀狼どうにかしろ、ガキどもの教育に悪い。……オイ。誰が服装の話をした。やめろ。力強く頷くんじゃねえ。“私はわかってるから”みたいな慈愛の目で差し伸べてる手を今すぐ降ろせ。……てめぇいい加減殴るぞ性欲ババア！」
同僚。元奴隷の読心能力者。出来うる限りバディを組みたくないメンバー。
何かを言おうとするたび言葉を先取りされるのに慣れずマシュローは彼女を大の苦手とする。
その様はマシュローから隠れるタマにも似ており、マシュローがタマを怒鳴りつけようとした途端、シシューの気配を察知して逃げていくことも稀ではない。
そのため、彼女が加盟してからというもの、タマ＜マシュロー＜シシューという謎の力関係が形成されている。
「………………………………………………………」
同僚。決闘のことしか考えてない娘。よくバディを組むメンバーの一人。
彼女が殺害したセンザン・ゴジョウはマシュローの竹馬の友であった。従って彼を殺したアイオラに思うところがないわけはない。
しかし──これは他のメンバーらにも共通するが──『荊』のようなヤクザ仕事に返り討ちのリスクは付き物であり、少なくとも選んだ生業の中で死ねた者は幸福だったとマシュローは考えているため、恨みつらみはなく、新たな仲間として受け入れている。
組織に入ってからも決闘漬けの生活を送る彼女を心配しており何かにつけては新しいぬいぐるみを買い与えている。
マシュローが強い愛着を持つ生まれ故郷、アイルランドに掛けて「アイラ」という愛称までつけており、ほぼ、孫同然の扱い。
「ほぅらアイラ。新しいお友達が来てくれたぞ。今度は灰色のウサギさんだ。仲良くしてやってくれ」
「……あの娘も。いつかは敗けて、そして死ぬのだろうな。旅立った俺の旧友たちのように」
同僚。人に成り代わる怪物。一度だけバディを組んだことがある。
基本的に関わりを持たないように心掛けているもののサンクティやザリエーシェへの態度に比べると刺々しさが少なく、明らかに戸惑いを覚えている。
SFチックな生態に理解が及んでいないのもあるが、なにより、マシュローが戴く教義は“赦し”を史上目的とし、彼自身も告解と悔い改めを重視している。
ゆえに平均的な人間らしくあろうと「回心」した彼を憎悪する理由が特に見当たらないのだ。
サンクティに比べ明らかに危険な生態を持つカレブを放置するのは染み付いた教義の矛盾点でもあるが、わざわざ言及して面倒事を増やしたくないので誰も指摘していない。
「アシュクラフト？ ……あいつは、よくわからん。情報を食べるとか食べないとか……じゃあなんだ？ 出納帳をたらふく食った俺のヤギは経理をやってくれるのか？ しないよな？ メーメー鳴いてるだけだよな。普通に考えて食えんだろ情報は。最近の若いのは難しい言葉を使うのが流行りなのかしらんが俺にはもうさっぱりだ……」
同僚。冷静沈着な火の玉小僧。よくバディを組むメンバーの一人。
昔の仲間だったチフラ・サイファーについては逃亡どころか仲間を襲撃し子供まで人質に取ったというのだから呆れるばかりで憐憫の情はない。
カローラの我が身が傷つくのを顧みない無鉄砲な戦いぶりには戦死した昔の友人を思い出してしまい、まだ十代の少年ということもあって目をかけている。
アイオラにぬいぐるみを買い与えるように彼にも何か渡すべきかと一先ず菓子類をよく買っているがカローラの表情が読めず喜ばれているのか判断に迷う。
「ミノさん」という愛称で呼ばれるようになって以降はマシュローもカローラに「カロル」という愛称を与え、そう呼ぶようにしている。
「つまらない死に方をしたな。サイファー。排斥され逃げ延びた俺たちの終の住処が『荊』だ。肩までどっぷり浸かったまま老いたお前にやり直せる宛なんてあるわけねえのにな」
「ああなりたくなきゃ居場所を探して早いところ足抜けしろ。俺のときは25歳でも手遅れだった。……上手く隠れたら探さないでおいてやるよ」
同僚。書庫籠りの眠れる龍。頻繁にはバディを組まない相手。
直感に従いがちなマシュローと理屈好きのネロは方針が対立しやすい、というのも原因だが、“敵陣に単身突っ込む暴力装置”という役割が被っており両名を同席させても却って運用の幅が狭まってしまう実利面での問題が強いと言える。
こと単純な火力においては組織内でもネロが上位に入るため、マシュローに求められるのは潜入工作技術と長期的運用を前提とする諜報能力になる。しかし、ネロに任される任務では彼が得意とする短期的な破壊活動で片付くケースも多く、必然として職務上は疎遠になっている。
が、プライベートではネロから一方的かつ大いに興味の視線を注がれており、酔狂や嫌がらせでないのは理解しているだけに却って不気味で仕方ない。
最近になって、この黒々とした髭が悪いのではないかと思い始め、三十年掛けて伸ばした髭に引導を渡すか否かを巡って煩悶する日々を送っている。
「ネロのことか……。えー……あいつの飯は美味いと、思う……うん……その……なんだろうな……。…………やっぱり髭が悪いんじゃないか？！ 俺にはもうネロのやつが髭を毟り取る隙を虎視眈々と伺ってるようにしか思えねえ！ ……そうだ百古。お前、髭の脱色とか出来ない？」
「どうなってやがる……何度色を変えてもまるで効果が出やがらねえ。あっ……てめぇ百古ォッ！ グリーンやピンクが駄目でもこれなら絶対大丈夫っつったよなお前！ 過ごしたさ！ レインボーカラーで一週間！ 何も変化がねえ！！ さてはお前──"笑い過ぎてお腹痛い"じゃねえんだよ腐れ魔女！」
同僚。堕ちたる梟。“現在は”あまりバディを組まない相手。
教会の護りを素通りして内部から人を堕落に誘う夜魔は古来より納剣典礼司式会の
マシュローが組織に加入した当時は──まだ両人ともに精神的な未熟さが目立つ上に古株を一挙に失って仲裁を欠いたのも加味すべきだが──何かと気に食わないところが互いに目につき、数え上げれば切りがないくらい日常的な衝突を繰り返していた。
反面、暴力装置のマシュローと諜報要員の百古は役割の振り分けがぴったり嵌っており、潜入工作という得意分野も一致するため、万年人手不足の『荊』ではセット扱いでの運用も少なくはない。特に屋台骨のミロクたちを失って揺らいでいた当時は個人よりも組織と任務が過剰に優先されがちで、性格的に合わない相手とのバディを拒否する余裕もなく、相性の良い両名は否が応でも呼吸を合わせる必要に迫られた。そのため、バディを組んでいた期間や回数そのものは不動のトップで、めっきり組まなくなった最近も昔取ったコンビネーションの杵柄は健在。
「何度でも脅すが、ガキどもに手を出したら組織を裏切ってでもお前を殺す。そのあとは犠牲者に
「俺がお前より先に死んだら……今更、神の審判を五体満足で受ける気はないが、篭手までもアリアにくれてやるわけにはいかない。あの娘の玩具としちゃ荷が勝ちすぎだ。そのときは頼むぜ百古。悔い改めた今のあんたなら、きっと、古い仲間の遺品を手荒には扱わない。俺はそう信じてる」
同僚。必殺系暗黒メイド。現「荊」メンバーに限定すればバディ結成回数は百古に次ぐ二位。
その理由は戦闘面での相性の良さ。視認の必要から高い制圧能力に反して逃亡するターゲットを取り零しやすい『双子蛭の接吻』の弱点をマツリカが狙撃でカバーする形になり安定した任務成功率を見込むことができる。そのため、交戦が予想される任務をマシュローが請け負った際には、先ずマツリカを探して声を掛けるのが恒例。
何度も力を合わせ同じプロジェクトに励む。こうなって行くと伴って交友も深まっていくのが一般的な人間関係だろう。
ところが世話焼き体質のマシュローはそれにもかかわらずマツリカには干渉したがらない。マツリカと同年代のアイオラやカローラを甘やかし、アリアに日々お節介を焼いて、時にはタマにすら叱責を向けるというのに。プライベートでのマツリカへの接触機会は偶然を除いては無きに等しい。
というのはマシュマロが彼女から一種の「割りきり」を感じているためである。マツリカにとって「荊」は過程。所属を明らかにして日々の糧を得るための一時的な場所に過ぎず過度な干渉は受け入れ難い──のではないかと。もちろんマツリカの口から聞いたわけでもなく単なる当て勘に過ぎないが、それゆえにマシュローは彼女が徹底するスタイルと人生観に口を挟まず、彼女が果たすべき目的を追う時間を奪わないように心掛けている。
「作戦はいつも通りプランA。半刻もしたら俺がひと暴れしてネズミを叩き出す。マヌケなネズミが顔を出したらお前が仕留める。以上だ。それでは現時刻をもって作戦行動を開始する。──んじゃ、よろしく頼んだぜマツリカ」
「放っておいた方が育つ人間ってのは稀にいる。あの子はまさにそういうタイプだよ。俺ぁ家政婦事情には疎いがね、こんな水底の泥濘みでも追う夢があるってのは良いことだ。下手に踏み込むよりも折り合いの外側から話し掛けたほうが上手くいくはずさ」
同僚。頭痛の種。よくバディを組むメンバーの一人。
ただでさえ肉体派かつ感覚派のマシュローには怠惰で飽き性な悟り世代の現代っ子を理解できないというのに、更にアリア個人の道徳と遵法精神を歯牙にもかけない非常識ぶりには開いた口が塞がらない。
彼女と任務に使うたびに明後日の方向へ駆け出すような突飛すぎる発想の数々に遭遇し、多大な困惑と疲労感に苛まれる羽目になる。
できればあまり一緒に仕事をしたくはないのだが、悲しいことに常識という概念が抜け落ちた『荊』ではストッパーになる者が少なく、辛うじて常識を持つカレブはアリアと組みたがらないので必然的にマシュローにお鉢が回る。
アリアが組織に加入したばかりの頃は多少なりと可愛がっていた時期もあった。が、何度か、もとい何度も殺されかけた今のマシュローは無かったものとして扱いたがっている。
「いいなアリア。今回の任務は俺が片付けてくる。全部やる。だから、頼むから何もするな。ここを動くな。絶対動くなよ？ もう二十ニ歳だから約束したことは守れるよな？ よし。よし。わかったな。わかってくれたか。……頼むぞ？」
「好きにやれとは確かに言った！ ああ言ったとも！ だがここまでやれとは俺は言っていない！ 一言もな！」
同僚。今すぐにでも斬り殺したい獣。未来永劫組むことはない。
彼女が自認する個体識別名は「タマ」。タマン=タルカンと呼んでも反応しないことさえあるがマシュローは五文字も長くて舌を噛みそうな名称を頑なに愛用している。愛称で呼ぶような気安さを覚えたくもなければ覚えさせたくもないのだ。
付き合いの長い人間でも怒声と通常発声の違いがわかりにくいマシュローだがタマと対面する間は非常にわかりやすい。常に怒声を発する。怒声でないときがない。むしろ怒声を発する状況でもなければタマとの交流の機会がない。彼がタマン=タルカンの名を叫んだら、それは怒号の呼び水なのである。
水と油な両者が──両者というには一方的すぎるが──邂逅すれば穏当な会話という概念はタマを置き去りに裸足で逃げ出し嵐が過ぎ去るまで雲隠れしてしまう。マシュローと彼女が過ごした二十年はその繰り返しに他ならない。
根が世話好きなマシュローから発せられた怒声が結果的にタマの中で規律や常識として結ばれた例も多少はあるが、マシュローはそんなものすら自分が与えたものだとは思ってもいなければ思いたくもなく、タマと親しかったセンザンが上手く躾けたのだろうと都合のいい解釈をしており、それを指摘すると烈火のように赫怒する。
とにかく万事が万事こういう調子なのでマシュローにタマの話題を振ることは『荊』においてタブー視される。一言に表すなら地雷源。
「タマン=タルカンの加盟に積極的だったのはお前だったよな百古。あの銀狼どうにかしろ、ガキどもの教育に悪い。……オイ。誰が服装の話をした。やめろ。力強く頷くんじゃねえ。“私はわかってるから”みたいな慈愛の目で差し伸べてる手を今すぐ降ろせ。……てめぇいい加減殴るぞ性欲ババア！」
同僚。元奴隷の読心能力者。出来うる限りバディを組みたくないメンバー。
何かを言おうとするたび言葉を先取りされるのに慣れずマシュローは彼女を大の苦手とする。
その様はマシュローから隠れるタマにも似ており、マシュローがタマを怒鳴りつけようとした途端、シシューの気配を察知して逃げていくことも稀ではない。
そのため、彼女が加盟してからというもの、タマ＜マシュロー＜シシューという謎の力関係が形成されている。
「………………………………………………………」
旧メンバー
備考
2022/3/3 読心能力者が来てしまったのでコメントアウトや裏設定を格納状態に変更し可視化しました。伴って過去に可視化した内心部分にも格納を施します。二十六席円卓騎士団以外の格納箇所は長い間密接な付き合いのある百古と読心能力をもつシシューしか把握していない/できない部分と解釈してください。
nevadakagemiya
コメントをかく