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グロ、リョナ表現あり! 閲覧注意!









人は死ぬ時、何を考えて、何を感じるんだろう。
小梅ちゃんにずけずけと聞くのも申し訳ないし、
あたしは晶葉ちゃんと一緒に大発明をすることにした。

近ごろ流行りのVR。これにちょっと手を加えたら、
視覚だけじゃなく、送信者からの五感の全てを受信者の脳に伝達する、疑似体験装置のできあがり。

そしてあたしの秘密の地下ラボには、「体験」をしてもらうのにぴったりな「人材」がたくさんいる。


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シキ「? なにこれ? これ付けてればいーの?」
志希「そーそー。晶葉ちゃんと一緒に作った新発明でねー。
    相手の人が五感にどんな刺激を受けてるのか「受信」できるんだー。
    そっちが送信機でー、こっちが受信機ー。」
シキ「ってことは匂いも〜? あたし以外の人ってどんな嗅覚してるんだろーねー。気になる!」
志希「でしょでしょー? でも今回はあくまで実験ってことで、あたし同士でね。」
シキ「りょーかーい。これ付けたまんまラボをうろついてればいーのー?」
志希「んー、とりあえずそこの実験室の中から「あたし」を見てみて?」
シキ「おーけー。どうー? 見えるかにゃー?」
志希「おおお。すごーい。「あたし」が「あたし」を見てるー。」

『あたし』の視界に移る「あたし」が手を振っている。
「あたし」が喋ってもいない言葉が、「あたし」の頭に響く。
「あたし」が喋った言葉が、『あたし』の耳に届く。
動いているのは自分なのに、見ているのは外から。
喋っているのは自分じゃないのに、聞こえてくるのは内から。
喋っているのは自分なのに、聞こえてくるのは外から。
にゃはは。わけわかんなーい!


------
突然、ガシャンと音を立てて実験室の扉がロックされた。
『あたし』の体温が芯からひやりと冷える。
続けて全身から汗が吹き出る。考察するまでもなくこれは「焦り」だ。

シキ「え…? ちょっと、なんで閉めたのー…?」

あ、やばい、これ。
今『あたし』すっごい怯えた声してる。
すっごく全身が震えてる。
全身で危機感を訴えてる。

普段の生活はおろか、アイドル活動でもこんな怖い目に遭うことってなかなかない。
そうだそうだ。「怖い」ってこーいう感覚だ。

シキ「ねえ…、聞こえてるでしょ…? 開けてよ、ねえ…………何するつもりなの…?」

実は『あたし』には実験室の構造は全部は教えていない。
ばれちゃったらこーいう時不便だからね!

志希「ごめん、頭の中ぐるぐるして、変な操作しちゃったー。
    まだちょっと感覚が落ち着かないからさー、そのまま後ろの壁にもたれて座っててくんない?」
シキ「う、うん…いや、ぁー、そうだよねー。いくらあたしでも未知の体験すぎるよねー…。」

思考まではさすがに読み取れないけど、気丈にふるまっている声は震えに震えている。
ああ、今あたし最高に怖い。
「あたし」が上を指さすのが見える。
と間をおかず、視線は天井を見上げた。


------
ヒュンという風切り音とほぼ同時に、首筋を風が吹き抜けた。

熱っ!? 冷たっ!? 熱っ!?

反射的に腕に向かって電気信号が飛ぶ。
わずかに腕が持ち上がったところで、電源を落としたように感覚が途切れた。

視界がものすごい早さで点滅する。
聴覚は甲高い耳鳴りに埋め尽くされた。
触覚が感じ取るのはぱくぱくと必死に動く唇の湿度。
味覚と嗅覚をごちゃごちゃに塗りつぶすのは…
…血の味。

シキ(…!? ……っ、っ、!?!?!?)

おおー、すごい。
情報の奔流に晒されてぐっちゃぐちゃに混乱している「頭」の五感とは裏腹に、
首から下の感覚は、無慈悲なほどに、ない。
なんにも、ない。

痛くなってくるのは…もうコンマ数秒先、かな?


------
シキ(…ヤバい…ヤバい…ヤバいヤバいヤバい…! 逃げっ、逃げっ……!)

わかんない。
なんにもわかんない。
頭がちかちかする。
五感の全てが壊れてしまったみたいに制御できない。

思考を埋め尽くすのは危険信号。
あたしの直感が全力で警鐘を打ち鳴らす。
逃げなきゃ。
ここから、今から、なにから?

それなのにあたしの身体はぴくりとも動かない。
あたしの渾身の指示も受け付けない。
届かない。
どうして、どうして、どうして。

一瞬の混乱の後、首筋からじくじくと痛みが伝わってきた。
一瞬が永遠みたいに引き延ばされる。
できそこないの回線を通るように、痛みはのんびりと脳内に伝わり、増してゆく。

いやだいやだいやだいやだいやだ。
違う、違う、違う、違う。
そんな馬鹿なありえない。
この痛みだってたいしたことじゃない。
きっとショックで感覚が麻痺してしまっているだけなんだ。
だから動けあたしの身体。

腕。床を叩け。身体を持ち上げろ。
脚。膝を伸ばせ。立ち上がれ。

このっ、このっ、このこのこのこのこのっ。
動け動け動け動け。
届け届け届けあたしの命令、あたしの電気信号。
神経を伝われ。筋肉を動かせ。

……あれ?
伝える? どこに?
動かす? なにを?

ない。
身体が動かないとかそういうレベルじゃない。
ない。
身体が、ない。
視覚聴覚嗅覚味覚。ある。
触覚。突き出した舌は空気の冷たさをを感じ取ってる。
触覚。首を焼かれているような熱さ。痛み。
触覚。…それだけ。そこから下が、ない。

そんなことはありえないはずなのに。
電気を伝える神経が、繋がっていない。
脳からの命令は物理的に届かない。

痛っ。
首からの痛みがギュッと大きな波になった。
視界が下を向く。
眼球運動じゃない。
止まっていた景色が坂を転がり落ちるようにスピードを得る。
落ちる。落ちる。おちる。

シキ「えゅっ」


------
志希(ヤバいヤバいヤバいヤバいヤバいっ、これヤバいっ!)

一瞬…といっても何十秒、いや、何分にまで拡張された一瞬が過ぎて。
肉体が現状を把握した。
指令塔との連絡が途切れた。
なんの指示も降りてこない。
指示がなければ動けない。
一切の指示を受け取らない肉体にできることは…ない。
なんにもない。ゼロ。つまり脱力するだけ。

すうっと腹筋が、胸筋が、肩が、首が重力に逆らうことをやめて項垂れる。
骨も肉も皮も繋がらなくなった頭部は、地面と平行でなくなった接地面から転がり落ちた。

地面が迫る。ぶつかる。視界が一瞬塞がる。
受け身もとらず、もろに顔面をぶつける。いたーい。舌噛んだ。
視界が揺れて…目に映るのは…『あたし』。
『あたし』だったもの。肉体。胴体。
うーん、上手いことそっち向いてくれたね。

相変わらず耳鳴りで聴覚は潰れてるし、
嗅覚と味覚は血の味でいっぱい。
視覚は酸欠で白飛びし始めて来たけど、しっかり目の前の光景を目に焼き付けている。

目の前にいる…あるのは、一切の意志を失くした肉の塊。
その在りようはお肉屋さんの店先に並ぶお肉ともはや変わらない。
びゅーびゅーと噴水みたいに血が吹き出ていて。
たまに呼気交じりの声にもならない幽かな音を吐き出す。
不規則に、小刻みに、縦に横に、大きく小さく、痙攣を繰り返す。
最後の一瞬に命令を受け取りかけた指先は、突然の信号の喪失に戸惑うかのように、
めちゃくちゃなダンスをぴくんぴくんと続け、伸ばした爪が床をかりかりと引っ掻いている。

さいっこうに悪趣味で気持ちの悪いオブジェ。
我が身に起こったことを理解することも出来ず、
ただ各々のパーツが、残留した電気信号と不随意運動で無意味な動作を続ける。
あれらはまだ生きているつもりなんだろう。
酸欠と失血で筋肉が動けなくなるまで、
惜しむかのように精一杯の生命活動を続けるんだ。

あ……
視界がどんどん白に包まれていく。
必死にぱくぱくと動いていた舌と唇も、だんだん動きが鈍くなっていく。
耳鳴りも血の匂いも痛みもいつの間にか消え失せていた。
ん、最後につんとアンモニアの刺激臭。
それでおしまい。
見えない。動かない。
消える。なにもかも。

…ここまで。


------
シキ(ウソだウソだウソだウソだウソだっありえないありえないありえないありえないっ!)

相変わらず身体は動かない。感覚が見つからない。
当たり前だろう。身体はとっくに遠くに離れてしまった。
いるはずのない眼前に身体がいる。
あたしが、あたしであるはずのものが目の前にいる。

シキ(やだっ、違っ、そんなっ、なに、これっ、あたしっ)

考えがまとまらない。
あたしはどこ?目の前の、これ?
違う。だって言うこと聞かない。
動けと思えば動く。それがあたりまえ。
だからうごかないこれはちがう。

血をふきだせなんて、ひゅーひゅー吐き出せなんて、
びくびくうごけだなんて、思ってない。
あたしじゃない。あたしの命令をきかない。
あたしじゃない。勝手にうごいてる
あたしじゃない。

声を上げようとしてもでてこない。
いっしょうけんめい口を、舌をうごかしているのに、声がでない。
きこえない。
におわない。
かんじない。

あたまのなかが白になる。
考えろ。どうしたらいい?
考える。消える。
かんがえてもきえてっちゃう。

めのまえもしろくなる。
みえなくなる。
いやだ、きえないで。
みたくない。でも、みえて。

きえる。しろい。
かんがえも、めのまえも、しろい。
しろ、しろ、しろ、しろ、しろ。
なんで、どうして、こんな。

…あいつがきた。あたしじゃない、あたし。
あたしが、あたしを、けしちゃう。
あたしに、あたしが、けされちゃう。
いやだ、そんな、ふざけるな。
あたし、おまえ、あたし、ゆるせない、
おまえ、おまえ、お


------
完全に視界がホワイトアウトする前にリンクを切る。
ぎりっぎりだったかな? もっといけたかにゃ?
まー失敗して「こっち」まで引っ張られたら怖い怖い。
賢明な判断ってことで。

目の前まで来た時にちょっと眉が動いたかな?
あたしのこと見えてたのかな?
もう数秒くらい感覚があったのかも。

よいっと。
んー、人の頭って重いとは言うけど、なかなかの重量感。
そりゃそうだよね。あれだけの情報の波を処理する脳髄が詰まってるんだもんね。
瞳孔は完全に散大。もう何も映ってないはず。
お? 今ぴくっと口が動いた?
なになに? コメント? できそう?
……んー、2、3回動いた、気もする。わかんにゃい!

これで頭部はお終いかな。
身体の方は…

手を肩に乗せてみると、まだまだぴくんぴくんと痙攣が続いてる。
手を取ると指の一本一本が絡みついたり離したりしてくる。
断面からは数拍おきに血液がぴゅっと噴き出し、
気道からは生温かい呼気がふっとあたしの手をなでる。
まだ数秒くらいは動いてそうなくらい元気。…元気?

うっ、くさい。
おっと危ない。踏んじゃうところだった。
用は足させておいたんだけどなー。
まだこんなに膀胱に残ってたの?
ここまで脱力しきらないと出てこない分も普段からあるってこと? むぅーりぃー。

うーん。とっとと運び出しちゃおうかと思ったけど、
意外と暴れん坊かもにゃー。
とりあえず床に寝かせて見てみよっかな。
ねーねー『あたし』ー。
この子の服脱がせるの手伝ってー。

シキ「はいはいりょーかーい。…ひえー、派手にやったねー」
シキ「ねえねえこの首こっち見てない? うーらーめーしーやー」
シキ「んー…。あたしの顔! 見慣れた! ていうか見飽きた?」

我ながらひっどいやり取り。
倫理観もなにもあったもんじゃないねー。

……キミはどう思う?
恐怖?
驚嘆?
感心?
ふふっ、そっか。









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