個人的な備忘録。事実と妄想は峻別していきたい。

ルイス・フロイス

 在昌の話を追っていくうちにルイス・フロイスに出会ったのですが、この宣教師もなかなか面白いです。
 ルイス・フロイスは彼の書いた『日本史』という書物で有名です。戦国時代をヨーロッパ人の眼から克明に描いたこの書は、ヨーロッパのイエズス会で熱望されながらそのあまりの冗長さに怒り狂った上司ヴァリニャーノによって受け取りを拒否、要約を強制されたといういわくつきの書物なのです。フロイスは要約を拒否したため、彼の存命中この書が日の目を見ることはありませんでした。
 現在日本語に翻訳されているが全12巻。読めば読むほどイラっとくること間違いなしで、翻訳者には頭の下がる思いです。

 基本、
  • キリスト教の布教がうまくいかないのは悪魔のせい。
  • 何かキリスト教にとっていいことがあればそれは常に神様のおかげ。
 という文章が12巻にわたってずうっと書き連ねられていると思えばよいでしょう。
 原理主義者というのは本当に幸せなんだと痛感させられます。自分の頭で考える必要が全く無いのですから。

 ちなみに、このフロイス『日本史』原本を世界中で探す話が日本語版の冒頭にあるのですが、それがまたこれだけで一つの冒険活劇になっています。世界中に散らばったフロイス『日本史』の原本がいかにして集められたか、興味のある方はご自分の目でお確かめください。なお、上述の通り本文の通読は戦国時代の研究者でもない限り決しておススメしません。

ヴァリニャーノによるフロイス評

 ちょっと面白いので転記しておきます。
「大いに慎重さに欠け、イエズス会外部の者との対話の際に警戒すべき人に対しても口が軽く、誇張癖があり、小心者で些事にこだわり、中庸を保ち得ない」

 今ならパワハラで訴えられてもおかしくないレベルの文章ですが、いったい何をすれば上司からこのような評価を受けるのでしょうか?

クォーゾウイン

 本来であればガスパル・ヴィレラの項に入れたほうがよいのかもしれませんが、いきいきと記されているのがフロイス『日本史』なのでこちらで扱います。

 ヴィレラが京都にいるときのこと。クォーゾウイン(Quozoin:三文字目のoにアクセント記号)という法華宗の僧侶が天文学の議論をしようとヴィレラを訪れます。このクォーゾウインなる人物が歴史上の誰なのかはまだ比定されていません。
 このクォーゾウインが月の満ち欠けに関してヴィレラに問いかけるのですが、話があまりに稚拙すぎてヴィレラが逆に当惑してしまうのです。
 当時の、というよりこの時点からずっと先もそうなのですが、イエズス会は天動説です。ただし、月の満ち欠けに関する理論は完成していました。太陽と月、地球の位置から、月の満ち欠けや日蝕、月蝕が起きるという基礎的な理論は遥か昔から伝わっていたのです。
 当惑するヴィレラに代わり、クォーゾウインをたしなめたのが在昌です。当然ながらクォーゾウインは激昂し、在昌に何者かと尋ねます。
 そこで在昌であることを知らせると、クォーゾウインは色を失ってその場から逃げだしてしまうのです。
 このシーンでは実は在昌は自分が天文学を職としていると言っているのみで、「賀茂家の者だ」とは言っていません。
 フロイスは在昌のことを「日本で最高の天文学者の一人で公家でありはなはだ高貴な在昌殿」と持ち上げているのですが、勘解由小路家は公家と言っても地下(じげ)であり、堂上家(とうしょうけ)のひとつ半家(はんけ)である土御門家とはわけが違います。
 父親の在富は殿上人になったのものの、数十年後京都に帰ってきたときも在昌は「はんしやうでん(半昇殿、半殿上とも)」扱いであり、従五位下すら受けていないこの時点では「はなはだ高貴な」というのは言い過ぎです。

 フロイスはいつもどおりまるでそこに自分がいたかのようにこのシーンを描いてみせます。フロイスは自分が真っ先に逃げ出した戦場の有様まで仲間の手紙を元にしてまるでその戦場にいたかのように書くため、上司から猛烈に嫌われていました。あと、彼の文章の技には「このとき、フロイスは〜」と自分のことでありながら三人称でしれっと書いてみせるというものもあります。

伊予の堀江

 さて、このルイス・フロイスが実際に在昌と出会ったのは伊予の堀江です。西暦で言うと1565年1月1日から3日ほど後のことになります。
 在昌は息子や娘、それどころか身重の妻まで連れて都から豊後へと向かっている途中でした。ちなみに後で説明しますが、この当時豊後は日本におけるキリスト教の中心地でした。
 よりにもよってこの日在昌の妻は産気づき、男の子を出産してしまうのです。
 都から離れた旅路での出産ということで、当然ながら妻の容体は悪化します。この時在昌の妻を救ってくれたのが修道士ルイス・デ・アルメイダです。
 彼については、また別のページを作るとしましょう。




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