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未完 1
修司 4/16(木) 06:54:59 No.20090416065459 削除
誰が見ても中年と言われる歳になれば、多少の不安や悩みはあるものだと思うのです。
私も人並みには持っていますが、この程度の事なら今の時代、幸せな方なのだろうと納得させていました。
それが一本の電話で壊れてしまうのですから脆いものなのですね。

残業を終わらせて時計を見ると7時を過ぎ帰り支度を急いでいる時に、その電話はやって来たのでした。
携帯のディスプレイを見ると非通知でしたが、得意先の相手かもと思い出てしまいました。迂闊ですね。

「もしもし」

少しの沈黙の後、男の声が聞こえました。

『・・・奥さん、今日は帰りが遅くなりますよ・・・』

私よりもずっと若い声に感じます。

「はぁ?どちら様ですか?」

『・・・今日は返さないかもしれないな・・・よろしく・・・・』

意味不明な電話で、相手にしてもしょうがないと思い切って帰路につくと、そんな事も忘れてしまいました。
妙な事が当たり前に起こる時代に一々気に等していられません。

私の勤める会社は中心地から少し離れているので、自家用車での通勤が許されています。
愛車に乗り走らせていると今度は妻からの着信です。

「貴方、悪いんだけど少し帰りが遅くなるわ。明日は休みだから
飲み会をやろうって皆が言ってるの。私だけ付き合わない訳にもいかなくって。
申し訳ないんだけど食事は外で済ませて。ごめんね」

偶然の一致なのでしょうが、さっきの男は妻の帰りが遅いと伝え、妻も遅くなると連絡してきました。
週休二日の会社で今日は金曜日。休みの前の日に残業や付き合いで帰りが遅くなるのは、よくある話ですが妙に引っ掛るのでした。

妻は総合職として勤め、社内でも数人の部下がいる課長の肩書きを持っています。
出産後に産休を少し取っただけで、それなりのキャリアですから当然の立場なのでしょうが下で働く男達はどんな気持ちなのだろうかと考えたりもします。
男女同権の時代ですから特別なものではないのでしょうね。
立場上、残業で遅くなる事や出張で数日家を空ける事もありますし、飲み会だって付き合わなければならない時もあるでしょう。
お酒が好きな方なので、そんな時は帰りが遅いのも仕方がありません。
私は近所のコンビにでつまみを買い、好きな日本酒をチビチビやりながらテレビを見ているうちに眠ってしまったようです。
そんな眠りを携帯の着信音が妨げました。

『奥さん今帰しました。だいぶ可愛がったので今夜は貴方の相手は出来ませんよ。
まぁ、貴方ぐらいの歳なら、そんなの気にもなりませんかね』

先ほどの男の声です。徐々に寝惚けた頭が回転し、同時に腹が立ってくるのも当然でしょう。
・・・寝惚けていなければ非通知なんかには出ないのに・・・

「あんた誰なんだい。悪戯も程々にしておけよ」

『悪戯か如何か奥さんに聞けばいい』

今度は男から電話を切られてしまいました。
気分治しにコップにお酒を入れて飲み直し始めてから、どのくらい経ったでしょうか。
ドアの鍵を開ける音がし、時計を見るともう日付が変わっていました。

「あらぁ、起きてたの。遅くなってごめんなさい。タバコの臭いが付いちゃって気持ち悪いからシャワー浴びてくるね」

何気なく見た妻の服装に違和感を覚えたのは何故でしょう・・・・
・・・・そうか・・・スカートを穿いている・・・・・

女性がスカートを穿くのはごく当たり前なのですが、妻は殆ど穿きません。

『仕事場は男の人が多いから、脚をジロジロ見らる人もいるのよ。それに女を意識したくないのよ』

分かるような気がします。
知り合った時から上昇志向の強い女でしたから、男と同じ立場で仕事をするのに服装だけでも女性らしさを避けていたのでしょう。
ただでさえ男性社会なのですから、つっぱているんだろうと思いながらも、もう少し肩の力を抜いてもいいのにと思ったものです。

シャワーを浴びた妻はパジャマに着替えていました。

「私も少し飲もうかな」

私の隣に座りコップを持つ妻から飲みに行った時にする酒の臭いがしません。
酒好きの妻が飲み会に行って飲まないなんてありえない。

『だいぶ可愛がった』

男の声が甦ります。

「だいぶ飲んだんだろう?そんなに飲んで大丈夫か?」

コップに注いだ酒を立て続けに何杯か飲み干すのは、酒臭くないのを誤魔化すつもりか?
私が気付いていないと安心しているのか、飲み会の出来事を楽しそうに話しています。
しかし、男の変な電話だけで妻を疑うのは長く連れ添った相手に失礼です。
疑いの気持ちは、もう少し奥に置いておきましょう。
男の話が本当で妻が不倫行為に走っているなら、そのうちに分かるでしょう。
何も考えないでいた昨日の私ではないのですから。

その日、ベッドに入り久しぶりに妻を求めてみました。

「ごめんね、貴方。もう酔っ払って駄目だわ」

男の言った通りの行動を取りました。
背中を向けて寝る妻に『なぁ、俺を欺いていないよな』何だか悲しい気分でした。


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