経済・経済学に関するメモ。

猪木武徳
一般に「シカゴ・スクールの創設者」と目されるフランク・ナイトは、たしかに計画経済の賛美者に冷水を浴びせるような論文を一九二〇年代、三〇年代に書いている。しかし彼が競争経済の倫理的基盤に対しても等しく批判的であったことを忘れてはならない。ナイトの少し後輩にあたるヘンリー・サイモンズは、保守的どころか、電話や鉄道の国有化を提唱したほどであったし、ジェイコブ・ヴァイナーはまさに「中庸」を重んずるリベラリストで、いかなる極端な言辞や政策にも強い反発を示していた(日本経済新聞社編著 『現代経済学の巨人たち-20世紀の人・時代・思想』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、272頁)。

主張の例

橘木俊詔
フリードマンをはじめとしシカゴ大学に在籍する経済学者、哲学者、社会学者などに共通の思想なので「シカゴ・スクール」と称されて、自由の徹底的な尊重と公的機関による規制や関与を排除する主張である。シカゴ・スクールの人々の具体的な主張について、いくつかを例示して読者の参考に供し判断を仰ぎたい。(1)家賃の最低額を決めるという「レント・コントロール」という政策がアメリカで実行されることがあるが、低所得者にとっては安い家賃の住居が見つけられないので困ることになる。(中略)(2)麻薬の取り締まりを厳しくすることに反対している。(中略)シカゴ学派の人は、麻薬を吸う人は健康被害のリスクを自分で知りながら楽しみのために自己の意志と責任でそうするのであるから、その人の自由を阻害することにつながるという理由から、麻薬規制の反対を主張した。(中略)(3)シカゴ学派は、経済問題に関して人がなぜそのような活動をするのか、ということに論理的基礎を与えたが、もう一つの貢献は人間個人の日々の行為の決断にも論理的基礎を与えたことにある。(中略)たとえば、自殺については、生きていることの効用と苦痛を比較して、後者が前者を上回れば人は自殺するという論理である。(中略)(4)私が個人的に好みとするシカゴ学派の理論は、人的資本論と称される「教育の経済学」を定式化した点である。人は学校教育や職業訓練を受けることによって労働者としての資質なり生産性が高まるので、賃金や所得の稼得能力が高まることを経済理論で提出し、データの実証によってそのことを確認している。ノーベル経済学賞を受賞したG・ベッカーなどが中心となって主張した人的資本論である。この理論からすると、人はできるだけ高い教育を受けることが望ましい、という命題が生まれる(橘木俊詔 『朝日おとなの学びなおし 経済学 課題解明の経済学史』 朝日新聞出版、2012年、164-166頁)。
橘木俊詔
シカゴ学派の中で一つユニークな学説を主張しているグループがある。それはR・ルーカス(ノーベル経済学賞受賞)を代表とする「合理的期待形成派」と称される学説である。この学派の主張を結論から先に述べると、「政府の行うあらゆる政策の効果は無効だけではなく、かえって状況を悪化させることすらある」というものである(橘木俊詔 『朝日おとなの学びなおし 経済学 課題解明の経済学史』 朝日新聞出版、2012年、168頁)。
橘木俊詔
結論がマネタリストと同じなので、合理的期待形成学派はルーカスがシカゴ大学の教授であることも手伝って、シカゴ・スクールの一派に組み入れられているのである(橘木俊詔 『朝日おとなの学びなおし 経済学 課題解明の経済学史』 朝日新聞出版、2012年、169頁)。

評価

トーマス・カリアー
一九九〇年、九一年、九二年、九三年と、シカゴ学派の経済学者が立て続けにノーベル賞を受賞したのだ(トーマス・カリアー 『ノーベル経済学賞の40年〈下〉-20世紀経済思想史入門』 小坂恵理訳、筑摩書房〈筑摩選書〉、2012年、17頁)。
トーマス・カリアー
最初の四〇年間、経済学賞選考委員会はシカゴ大学経済学部を不当なまでに優遇してきた。科学に対する客観的な判断というよりは、シカゴ学派の経済学者が提唱する自由市場が好まれたのだろう(トーマス・カリアー 『ノーベル経済学賞の40年〈下〉-20世紀経済思想史入門』 小坂恵理訳、筑摩書房〈筑摩選書〉、2012年、264頁)。
猪木武徳
ベッカー(一九三〇-)は一九九二年度にノーベル経済学賞を受賞した。その折、彼の業績や学風が紹介されたが、ほとんど常に「保守的なシカゴ学派の旗頭」、といった言葉が紋切型の言葉に用いられていた。たしかにシカゴ大学は、政治学や社会学で幾人もの巨人を世に送り出しただけでなく、経済学でも重要な人材と学説を生み出してきた。しかし、経済学に限っても、シカゴ・スクール(学派)は決して均質な一枚岩を形づくってきたわけではない。実に様々な思想傾向と研究スタイルを持つ研究者を輩出してきたのである(日本経済新聞社編著 『現代経済学の巨人たち-20世紀の人・時代・思想』 日本経済新聞社〈日経ビジネス人文庫〉、2001年、271頁)。

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